ChatGPT等によるイノベーション

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September 24, 23

スライド概要

ChatGPT活用により日常業務の効率化が達成できたとの話はしばしば聞くようになった。しかし、企業の新製品開発や新サービス開発などイノベーション分野に適応して成功したとの話はあまり聞かない。企業イノベーションに繋げるのには課題があるものと考えられる。但し、ChatGPTは既に汎用機能的性格を持ち、生成AIの今後の進化の速さも考慮すると、この延長線上でイノベーション分野への適応も進むと想定しておく必要がある。そこで、この視点で情報をまとめてみた。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
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ChatGPT等によるイノベーション B-frontier 研究所 高橋 浩

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自己紹介 - B-frontier研究所代表 高橋浩 • 略歴: • 元富士通 • 元宮城大学教授 • 元北陸先端科学技術大学院大学 非常勤講師 • 資格:博士(学術)(経営工学) • 趣味/関心: • 温泉巡り • 英語論文の翻訳 • それらに考察を加えて情報公開 • 主旨:“ビジネス(B)の未開拓地を研究する” 著書: 「デジタル融合市場」 ダイヤモンド社(2000),等 • SNS: hiroshi.takahashi.9693(facebook) @httakaha(Twitter)

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目的 • ChatGPT利用により日常業務効率化は活発になって来た。 • しかし、これらを起点に企業イノベーションにまで繋げ て行こうとすると、事は単純ではない。 • 生成AIを既存システムに統合あるいは基盤として取込むな どで、企業システムを抜本的に見直す必要がある。 ➢その際、①生成AI活用と経営戦略の視点、②企業のイノ ベーション(戦略レベル)への取組みの検討が必要になる。 • このような分野の研究はこれからだが、ChatGPTを起点 としたイノベーションを本格化するには必須になる。 • そこで参考になる考察や研究を探索し、ChatGPT等によ るイノベーションを可視化することを本稿の目的とする。 3

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目次 前半 生成AI活用と経営戦略の視点 1. 生成AIスタートアップ企業の状況 2. 経営戦略視点での生成AIの分析 後半 企業のイノベーション(戦略レベル)への取組み 3. AIとイノベーション管理の枠組み 4. 生成AIによるイノベーションへの取組み手法 5. ChatGPT等によるイノベーションの今後 4

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前半 生成AI活用と経営戦略の視点 1. 生成AIスタートアップ企業の状況 はじめに • ChatGPT等の生成AIは日常業務効率化により各所で生 産性向上に寄与し出している。 • 但し、この延長線上で新製品開発などのイノベーション にも繋げて行きたいが、イノベーションによる革新の道 筋は明確には見えていない。 • 現状は、この方向に検討スコープを拡大させることで、 改めて人間と機械の棲み分けや連携の方法を検討すべき 時期にきている。 • このような認識で検討に取組む。 5

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生成AI活用の実態 • 世界中でChatGPT(LLMモデル)活用の多様な取組みが進められてい る。 • そしてOpenAI、Google等大手企業の情報が話題になりやすい。 • しかし、各企業の取組み方針こそが本質的には重要である。 • そこで、この側面をクローズアップさせるため、生成AIスタート アップの波が新たな革新の先駆けになっているので、その取組みを 紹介することで、各企業が取組み得る新たな状況を探る。 • 下記分野についてスタートアップ企業の取組み状況を示す。 • • • • 全般(汎用生成AI技術) 検索 ライティング支援 言語翻訳 • チャットボットツールとイ ンフラストラクチャー • 会話型音声アシストとコー ルセンター • ヘルスケア 6

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全般(汎用生成AI技術) OpenAIのChatGPT, GoogleのBard, メタの生成AIなどに加えてス タートアップ企業からも独自の生成AIモデルが続々と登場している。 狙い/ビジネスモデル、等 その他 (新テキスト生成よりも)既存テキスト分析 に注力し、生成AIモデルをシステムに組込む ことに特化している。 2019年設立, 所在地:ト ロント, CEO:トランスフォー マーモデル発明者の一人 オープンソース生成AI技術のコミュニティ として人気で、顧客のモデル構築、展開 を支援するプラットフォーム提供に注力 2016年設立, 所在地: ニューヨーク A.3 独自モデルの提供に加えてモデル上に独 自アプリを構築して提供 2017年設立, 所在地:イ スラエル A.4 自然な会話言語を使用して人間と機械の 相互作用を再定義する方針(研究段階) 2022年設立, 所在地:パ ロアルト, DeepMind共同 創業者なども参加 A.1 A.2 企業が生成AIを抜本的に活用する際の方向性を示唆している。 7

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検索 検索は長い間Googleに独占されてきたが、生成AIを活用して Google検索の経験を改善する新たなモデルが登場している。 狙い/ビジネスモデル、等 その他 コンテンツの要約に注力 ユーザーデータのプライバシーへの取組 みを重要視 2021年設立, 所在地:パ ロアルト,有名なNLP研究者 R.Socherによって設立 B.2 企業向け検索プラットフォームの構築 (キーワードベースのマッチングでなく) 真の意味解釈に基づく検索 所在地:クパチーノ, NVIDIAと提携 B.3 プライベートな非構造化データから洞察 を抽出。ビデオデータに着目 2020年設立, 所在地: ニューヨーク ビデオ検索に特化した検索機能を提供 2021年設立, 所在地:サン フランシスコ,創設者は韓国系 B.1 B.4 検索への取組みや検索機能の組込みの多様な切り口を示唆している。 8

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ライティング支援 ChatGPTが先駆けとなった、まるで魔法のような流暢な文章作 成能力の提供は、他にも種々工夫をこらして提案されている。 狙い/ビジネスモデル、等 その他 ユーザーが書く際にリアルタイムでスペ ル、文法、などを改善する自動推奨を提 示 2009年設立, 所在地:サ ンフランシスコ C.2 求人情報や採用関係に注力して文章作成 能力を錬磨 2014年設立, 所在地:シ アトル C.3 ビジネスコンプライアンスやリスク管理 に注力して文章作成能力を錬磨 2019年設立, 所在地: オースティン C.4 カスタマイズされたマーケティング・コ ピー生成に注力して錬磨 2020年設立, 所在地:メ ンフィス(テネシー州) C.1 今後、用途対応に文章作成能力を錬磨し提供されることが示唆される。 9

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言語翻訳 最も普及しているのはGoogle翻訳だが、急速に変化する言語翻訳 の世界ではスタートアップ企業にも大きなチャンスが到来している。 狙い/ビジネスモデル、等 D.1 D.2 D.3 その他 ビデオ翻訳(ある言語会話を含むビデオ を別言語会話へと変換し迅速に再生)を 提供 2020年設立, 所在地:ト ロント 堅牢性を備えた自動言語翻訳を提供する ために最新生成AIと「ループ内人間」を 組合わせたハイブリッドモデルを提供 2015年設立, 所在地:エ メリービル(カリフォルニア州) 英語圏以外の何百万もの低リソース言語 翻訳のために生成AIモデルを容易に構築 できるプラットフォームを提供 2019年設立, 所在地:ロ ンドン 言語翻訳にも目的毎の細分化と最適化機能の登場が示唆される。 10

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チャットボットツールとインフラストラクチャ 様々な業界の企業にチャットボットを作成/提供および運用する技術と インフラストラクチャ提供のスタートアップ企業が登場している。 狙い/ビジネスモデル、等 その他 E.1 Web,SNSなどのチャネル全体で顧客サポー トと販売をすることで顧客の待ち時間を極め てドラスティックに短縮化 2016年設立, 所在地: ト ロント E.2 オープンソースで競合機能を提供し、同 様のことに対し会話型AIインタフェース の透明性と制御性の向上を提供 2016年設立, 所在地:サ ンフランシスコ E.3 銀行向けに特別に構築された会話型プ ラットフォーム 2017年設立, 所在地:サ ンフランシスコ E.4 電子商取引分野に注力 2016年設立, 所在地:ロ スアンジェルス 各企業のビジネス環境に合わせたカスタマイズ機能提供が示唆される。 11

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会話型音声アシストとコールセンター Google Duplexがこの分野の先駆けだが、これをなぞったス タートアップ企業からも種々の製品が提供されている。 狙い/ビジネスモデル、等 その他 F.1 コールセンターの幅広いユースケースを処 2017年設立, 所在地: サンフランシスコ 理できる音声主体の生成AIを実装 F.2 類似機能を主として金融サービスと電子商 2019年設立, 所在地: 取引顧客に対応して機能を提供 パロアルト F.3 リアルな人間の声生成に特化した機能を提 2019年設立, 所在地: 供(人間のあらゆるニュアンス等への配慮) サンタクララ F.4 人間のコールセンターエージェント向けに 2008年設立, 所在地: 会話コーチングや分析環境を提供 パロアルト F.5 類似機能を会話後ではなく、リアルタイム 2017年設立, 所在地: にエージェントにパーソナライズして提供 パロアルト 各企業のビジネス環境に合わせたカスタマイズ機能提供が示唆される。 12

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ヘルスケア チャットボットから検索に到る殆ど全ての生成AI機能が業界全体 に幅広く適用されるべく各種活動が最も盛んに取組まれている。 狙い/ビジネスモデル、等 その他 G.1 医療システムへの患者の「デジタルフロン 2016年設立, 所在地: サンフランシスコ トドア」のチャットボット機能を提供 G.2 上記と類似だが、特にメンタルヘルスに特 2017年設立, 所在地: 化したチャットボット機能を提供 サンフランシスコ G.3 医療分野では膨大な非構造化データをナビ 2017年設立, 所在地: ゲートする機能へのニーズが高い。その内 ニューヨーク 医療記録レビューの自動化機能を提供 G.4 上述のニーズに対応し易いAPI提供形態に よる機能を提供 G.4 生成AIを使用して生物学の秘密解読に挑戦。2021年設立, 所在地: 現在は次世代RNA治療薬の開発に注力 パロアルト 2019年設立, 所在地: ニューヨーク ヘルスケアの多様な利用シーンに対応するほぼ全ての生成AI機能活用 が取組まれている。他業界においても類似の取組みが示唆される。 13

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各企業のChatGPTへの取組み状況は? • ChatGPT、Bard等大手企業の動向に眼を奪われがちだが、 • 生成AI技術は汎用技術であり、生成AI技術ベースでの多様なソ フト開発はスタートアップ企業でも進行している。 • 利用側の各企業も逸早くこれらの技術を活用し、ビジネス基盤 を確実にすべくしのぎを削り始めている。 • そして、機能提供側と機能利用側の相互作用がソフト開発やソ リューション開発を従来とは異なる次元に持ち上げる。 • このような視点から、先行して活動状況が顕在化してきたス タートアップ企業の取組みを紹介した。 • このようなスタートアップ企業の動向が今後の各企業の本格的 取組み促進を示唆している。 14

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前半 生成AI活用と経営戦略の視点 2.経営戦略視点での生成AIの分析 • ChatGPTは戦略、機能、管理の3レベルで業務に影響 を与え得る。 • 戦略レベル:意思決定や組織の知識管理にChatGPTは影 響を与えられる。 • 機能レベル:顧客サービスに関する顧客とのやり取りや 人事管理を自動化し従業員研修などに絡む各種プロセス の合理化などにChatGPTは影響を与え得る。 • 管理レベル:スケジュール設定、ビジネス文書作成、記 録管理など様々な日常の反復処理を自動化できる。 • 組織におけるChatGPT活用の可能性を次頁図に示す。 15

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組織におけるChatGPTの応用の可能性 戦略レベル 戦略レベル 意思決定: マネージャーは、特定の状況での戦略的意思決定に関わる 推奨事項を知るためにChatGPT を使用できる。 知識管理: 組織は ChatGPT を利用して、組織データを保存、変換、配 布することができる。 機能レベル 機能レベル 顧客 サービス: ChatGPT を使用することで、よくある質問へ の回答や情報の提供などで、顧客 サービスを強化でき、更に は自動化もできる。 人事管理: ChatGPT を使用すると、キャリアの履歴書、候補 者へのフィードバック提供、新入社員の研修、従業員のリク エストへの対応など、様々な人事プロセスを合理化あるいは 自動化できる。 管理レベル 管理レベル 反復タスクの自動化: ChatGPT を使用すると、 予定スケジュール設定、旅行手配予約、カレン ダー管理など様々な管理タスクを支援し、自動 化できる部分もある。レポート、メモ、電子 メールなど標準的ビジネス文書生成に使用でき、 更にデータ入力や記録保持なども支援すること ができる。 16

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戦略レベル 意思決定 知識管理 • 知識の収集、編集、分析、普及 • 意思決定における人間のアプ のプロセスで新たな役割をこな ローチには多くの制約がある。 すことで、経営判断、調査研究 • それらの制約の一部をChatGPT に新たな可能性を見出すことが 活用で最小限に抑えられる可能 できる。 性がある。 • ChatGPTは多様なデータでト • 最適化、手順の合理化の両面で、 顧客サービス対応や各種の問題を、 技術で解決すべきか、人間で解決 すべきかの判断に利用できる。 • 機能事例:ChatGPT, Bard等に加 え、各種検索機能(B.1~B.4)など レーニングされているため、一 貫性のある適切な応答を生成す る能力が高い。 • 機能事例:ChatGPT, Bard等に加 え、スタートアップ生成AI基 盤(A.1~A.4)、検索機能 (B.1~B.4)など 17

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機能レベル 顧客サービス 人事管理 • 問合せに迅速かつパーソナライズ • HR Tech普及で人事に関わる された応答を提供することで顧客 意思決定が進歩してきてはい との関係を強化し、顧客体験を向 るが、ChatGPT利用で時間を かけた学習や改善も容易にな 上させることができる。 • ChatGPTは顧客サービスにおける対 り、自動化を含めて次レベル に引き上げることができる。 話を自動化し、リアルタイムに質問 に回答や応答時間の短縮化ができる。 • 機能事例:ChatGPT, Bard等に加え、 チャットボットツールとイ ンフラストラクチャ(E.1~E.4)、 会話型音声アシストとコー ルセンター(F.1~F.5)、など • 人間関係を促進するために ChatGPTを活用するには信頼 を育むことが重要になる。 • 機能事例:ChatGPT, Bard等に 加え、生成AI基盤(A.1~A.4)、 ライティング支援 (C.1~C.4)、など 18

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管理レベル 反復タスクの自動化 • 従来、組織内の多様で、複雑で、柔軟性から生じるソリュー ションを効率的かつ効果的に実行することは困難であった。 • しかし、ChatGPTは日常業務のパターンを学習することで、活 動実行時の時間とコストを改善することができる。 • 自動化と拡張(AIによる人間強化)の選択は注意深く行う必要がある。 • 機能事例:ChatGPT, Bard等に加え、生成AI基盤(A.1~A.4)、検 索(B.1~B.4)、ライティング支援(C.1~C.4)、言語翻訳 (D.1~D.3)、など 19

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3レベル一括適応(ヘルスケア) • ヘルスケア業界では戦略レベルから管理レベルまでの幅広い分 野に生成AIを活用する取組みが開始されている。 • 特定業界全体への生成AI活用の取組みでは最も進んでいる。 戦略レベル 新治療薬開発など意思 決定と知識管理に活用 患者との対話の自動化 機能レベル メンタルヘルス向け チャットボット 医療記録のレビュー自動化 管理レベル 非構造化データの整理 20

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経営戦略視点とChatGPTとの関係は? • 経営戦略の3レベル全てで生成AIは活用されている。 • 中でも、ヘルスケア分野では3レベル全体での取組みが開始さ れている。 • その他の分野では、まだ特定レベルあるいは特定機能の生成AI 活用に留まっているように見える。 • 大きな原因の一つは、企業全体あるいは業界全体の取組みに必 要な組織面の変革が充分整っていない事が想定される。 • 即ち、本格的適用には組織面の変革と、組織面-機能面間の新 たな連携や相互作用が必要になる。 • このような準備が徐々に進展するに連れて、他業界でもより総 合的な取組みが軌道に乗って来るものと思われる。 21

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後半 企業のイノベーション(戦略レベル)への取組み 3. AIとイノベーション管理の枠組み イノベーションへのChatGPTの適応 • 特定条件下ではChatGPTが人間の専門家よりもより良い結果を提供 できることが明らかになった。 • そこで、企業は自社の長期的存続や競争優位に影響するイノベー ション追求にもChatGPTを利用する検討が必要になっている。 • ChatGPTを活用したいと考える背景は下記などである。 • 競争がグローバルに激化し技術が競合化 • 入手可能な情報が増加 • 競争力の基盤が「組織の情報処理と問題解決能力に依存」へ • 一方、イノベーション・コストは劇的に増加している(特に半導体 業界、製薬業界など)。 • これらへの対応にChatGPTによるイノベーションは有効であり得る。 22

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ChatGPT と組織の問題解決との関係 • 従来は、既存AIの中核であったif-then-elseアルゴリズムで構 築された情報処理システムによって組織の問題解決が支援され ていた。 • しかし、機械学習の出現により、組織内で情報処理が行われる 方法が急速に変化し、組織の情報処理は(データ収集、分析、 知識化、意思決定、など)全ての段階でAIによってサポートさ れるようになった。 • ChatGPT登場によって更に抜本的にAI活用の高度化と容易化が 実現される方向にある。 23

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デジタル化された組織の情報処理 • デジタル化された組織は高度に統合された知識のバックボーン を持つ。 • これは膨大な数のプロセスがアルゴリズムによって自動化され ていることを意味する。 • そして、人間の介在なしに電子的に保存される情報や知識の量 は増大し続けている。 • 結果、イノベーション管理と意思決定に責任を負う経営者やマ ネジャーは、人間の限界だけでなく、関連する情報の流れの外 で活動することに制約を受け、効率が低下する危険性がある。 • こうした現実に対応するため、各種 AI活用と情報/プロセスの 機械学習等をイノベーション管理に統合する必要がある。 24

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イノベーションプロセスにおける情報処理 • イノベーションプロセスは3段階あると考えられる: 第1段階:革新的なアイデア、機会、ソリューションの認識、発見、開発 第2段階:様々なアイデア、機会、解決策の生成または活用 第3段階:1つまたは複数の最も有望なアイデア、機会、解決策の評価と選択 • この内、第1段階、第2段階が特に高レベルの創造性と既成概念に捕 らわれない考え方が必要なので、この領域に焦点を絞る。 • 人間の認知的限界(生物学的限界)に絡んだ課題がある。 • 課題1:新しい機会や考えられる解決策に対する情報処理の制約 • 課題2:人間の認知的限界に由来する非効率/ローカルな検索の制約 • ⇒既存の知識領域を超えて本質的により探索的な新たな分野に視点を拡張す る必要がある。 • この枠組みに基づき「イノベーションの制約とイノベーションプロ セスへのAI適応」の図式を次頁図に示す。 25

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イノベーションプロセスへのAI適応の図式 イノベーションプロセスへのAI適応 イノ ベー ション の障壁 に対す る対応 情報処理の 制約克服*1 (課題1) 非効率検索 orローカル 検索克服*2 (課題2) アイデアの開発 (第1段階) AI システムをアイデア 開発に使用して、より 多くの情報を識別し評 価する。 【第1象限】 AI システムをより創造 的/探索的なアイデアを 特定し、評価すること に使用する。 【第3象限】 アイデアの生成 (第2段階) AI システムを新しいアイデ ア生成のために使用して、 より多くの問題、機会、脅 威を認識する。 【第2象限】 AI システムをより創造的/ 探索的に問題, 機会, 脅威を 認識し、新しいアイデアを 生成するために使用【第4象限】 *1: ソリューション空間をより効果的、効率的に利用するための活動の促進 *2: より遠方の創造的ソリューションを探索・発見するための活動の促進 26

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イノベーションプロセスへのAI適応の4象限 【第1象限】 • ChatGPTは人間が可能な量よりも遥かに大量の情報で学習し、アイ デア、機会、解決策のアプローチに人間をサポートできる。 • 材料発見における活用(バッテリーコンポーネントや太陽電池の最適化) • 発見プロセスの高速化(新しい触媒の発見や新薬の研究開発、タンパク質工 学プロセスの高速化) • 疾患の治療法の特定(マラリア感染を阻止する治療の開発、など) 【第2象限】 • ChatGPTは人間が単独で操作している場合には見落とす可能性 のあるアイデア、機会を生成することができる。 • 売上げを大幅に伸ばすのに有用な店舗レイアウトの発見 • ChatGPTは既存知識領域でも大量の情報を処理することで、必要とす るイノベーションのアイデアや機会を認識あるいは生成できる。 27

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イノベーションプロセスへのAI適応の4象限(続) 【第3象限】 • ChatGPTは効率的で幅広い検索で、人間では発見できないアイ ディア、機会を発見することができる。 • 例えばファッションアパレルの新しいスタイル、形、形状の発見 【第4象限】 • ChatGPTおよび今後の生成AIで、アルゴリズムが監視無しで目 標を認識し達成できるようになれば、創造性と革新のための新 しい道が拓ける。 • 任意の新しい問題に迅速に適応できるようなアルゴリズムの考案、な ど 28

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現在のAIシステムの制約 • また、人間の能力の別の側面によりAIシステム利用に制約が及 ぶ可能性がある。 ①• 既存の知識ベースに基づいて各分野の専門家(人間)と連携してト レーニングされている。 • 既存の知識ベースのより広範な探索だけでは新領域に到達しない。 ②• 学習プロセスが特定の目的関数によって最適化されている。 • 目的関数は一般に非常にまばらで、理想的な目的関数を設定する能力 が人間側に欠けている。 • 結果、ChatGPT等の自律的に可能性のあるソリューション空間 を探索する能力は限定される。 • このような特性を背景に、AIシステムが人間の意思決定を置換 可能かどうかの程度を評価する枠組みを次頁図に示す。 29

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人間の能力によるAIの情報処理能力のレベル 【レベル1】: 開発する 【レベル2】: 拡大させる 【レベル3】: 探索する 検索アプロー チ 問題空間とソリューション空 間の両方をうまく活用する。 問題空間またはソリュー ション空間を探索および 再定義する。 問題空間とソリューション 空間の両方を完全に探索し 再定義する。 特徴 -認知情報処理の制約を克服 するために使用される -より多くのデータを扱える - さまざまなデータソースを 処理できる 以下のどちらか: - 新しいアイデアやチャン スを発見できる または: - より革新的なアイデアや ソリューションを開発す る人間をサポートする - イノベーションプロセス の新たな道を模索する -革新的で創造的な新しい アイデアを生み出し、創造 する - 問題を定義する新しい方 法を模索する - 問題に対処する新しい方 法を模索する 成熟度レベル 実現可能なアプリケーション 初期の実装 サンドボックス的実験 自律性のレベ ル 人間が設計したAIシステム 機械の自律性を高める AI システム 30

31.

AIの情報処理能力のレベル 【レベル1】 • 人間が単独で達成できるよりはるかに大量の情報、知識を処理可能 (ChatGPT 〇) • 人間を完全に置き換える訳ではなく主に人間をサポート 【レベル2】 • AIシステムが新しいアイデアや機会を生成することによって、イノベー ションプロセスを拡大するかローカル検索を克服して、より遠い解決策を 発見(ChatGPT △) • イノベーションマネジャーをサポート 【レベル3】 • より高度で困難なタスクを実行できるためイノベーションマネジャーをサ ポートするだけでなくある程度代替(ChatGPT ×) • AIの探索能力は特に革新的創造やアイデア生成に重要だが、このレベルの AIシステムは開発途上 31

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AIによるイノベーション(戦略レベル)のポイントは? • AIを最大限活用するには新たな環境に対する新しい方法が必要であ る。 • 即ち、新しい補完資産(知識やリソース)を獲得し、新しいビジネス 論理構築や新ビジネスモデルを作成する。そして、新たなイノベー ションを現製品ポートフォリオに融合させる必要がある。 • AIは市場分析やリソース/システムのスケジューリングにも有用で はあるが、全体統合は非常に複雑なプロセスになる。 • ChatGPTと言えども、多くの点で専門的現場に適応できるほど成熟 してはいない。 • AIを企業に適切に実装するにはAI技術の進歩と共に人間側の新たな 変革、人間とAIの連携の習熟が必要になる。これには時間がかかる。 • 早くから先述のような取組みを開始し、充分な洗練期間を取るのが 重要であることが示唆される。 32

33.

後半 企業のイノベーション(戦略レベル)への取組み 4.生成AIによるイノベーションへの取組み手法 AIのイノベーションプロセスへの取組み状況 • ChatGPTは新製品開発の生産性を劇的に向上させる可能性は秘めて いるが、定常業務効率化よりははるかに困難な取組みになる。 • 但し、イノベーションプロセスを自動化あるいは効率化させている 例は既に登場している。(例は下記) • Hebbia (B.3)プライベートな非構造化データから洞察抽出 • Copy AI (C.4)カスタマイズされたコピーの生成 • Incentive (G.4)次世代RNA治療薬の開発 • 結果、人間の役割は変化しうるが、課題も生じる。 • AI生成アイデアへの対処法は? • 人間の専門家の役割は? • デザイナーはAIに与えられたタスクを設計するのか? • 人間とAIの共同作業について検討する必要がある。 33

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AIで強化された2重ダイヤモンド構造 2重ダイヤモンド 構造 • 新たな可能性を探求するための構造を導入する。 • デザイン思考で普及した構造(発見的思考と収束的思考)を改訂する。 問題の表現 AIで強化された 2重ダイヤモンド構造 ソリューション空間 問題空間 問題の選択 コンセプトの生成 コンセプトの選択 と開発 AIで強化された2重ダイヤモンドの拡大範囲 34

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AIを使用した問題空間の探索 • ChatGPTはイノベーションプロセスに対して次のような能力を 提供できる。 • 元のテキストの最も重要な側面と意味を伝えながら、テキ ストを効果的に要約できる。 • 専門分野の外である可能性のあるより多くのデータに対し てより迅速にアクセスし、その結果、近視眼的問題点を克 服できる。 • 感情分析のアクセシビリティやスケラビリティ等を大幅に 向上させられる。 35

36.

AIを使用したソリューション空間の探索 • ChatGPT はイノベーションプロセスに対して次のような能力 を提供できる。 • モデルを正確に調整することで、より創造的(急進的)あるい はより決定論的(漸進的)応答を生み出すことができる。 • 学習プロセスの中でイノベーション管理にさまざまな視点 があることを暗黙的に学習できる可能性があり、イノベー ションプロセスに関与するさまざまな利害関係者の視点を 取りまとめることができる。 • 非常に広範に探索するための基礎を提供することで、発散 的な思考の収束をサポートできる。 36

37.

ハイブリッドイノベーションチームの出現 • ChatGPT等によって内部知識と外部知識の境界が曖昧になり、 より大きな知識プールを利用できるようになる。 • この点ではオープンイノベーションパラダイムを更に反復した ものとも見做すことができる。 • ChatGPT等は知識のブローカーとして機能し、さまざまな関係 者間の知識の共有を促進し新しい知識の創造を促進する。 • そして、少数ショット学習機能(チームメンバーが特定のタス クに対して限定された量の模範的応答を提供するだけで良い) によりイノベーションチームとAI間のやりとりが容易になる。 • 結果、イノベーションチームはAIを新たな同僚であるかのよう に既存プロセスに統合できる可能性がある。 37

38.

ハイブリッド知性の定義 • ハイブリッド知性の定義: 『人間とAIの組み合わせで知識ベースのイノベーショ ンを具体的にサポートし、「それによって、それぞれ が個別に達成できるものよりも優れた結果を達成し」 「そして、お互いから学ぶことで継続的に改善でき る」能力』 • ハイブリッド 知性は、人間、AI両方の長所を組み合わせるこ とを目的とする。 • 次頁に概念図を示す。 38

39.

ハイブリッド知性の概念 • ハイブリッド 知性は、人間の知性と機械の知性を最高の状態 で組み合わせることを目指す。 人間の知性 人々と経験 柔軟的 創造的 強調的 直感的 自己組織的 ハイブリッド 知性 速い 効率的 安い スケーラブル 一貫性がある データとアルゴリズム 機械の知性 39

40.

分業とタスク割当ての見直し • ハイブリッド知性の実装は経済(管理)の現象である。 • 組織および個人の作業システムにおける分業とタスク割当ての見直し が必要になる。 • 機械はアルゴリズム管理の実装で仕事のパートナーだけでなく、 管理者の役割さえ引き受けられるようになる。 • 機械が人間をサポートし、またはサポートを解除するには、機 械はほぼ独立して機能し、サポートが必要で望ましい場合を認 識できる必要がある。 • このような理解の元に、人間知性と機械知性の組合せを次頁表 に示す。 40

41.

人間と機械の知能の組み合わせ 意思決定の準備 意思決定 意思決定シナリオと評価 (a) 意思決定は人間側のみで行う。 • 倫理基準に関しても人間が解釈し判断(「常識」ベース);人間の目的特定、創造性、 柔軟性、感情的知性に基づく。 • おそらく技術的には不十分で、遅い。 意思決定における人間の偏見によって特徴付け られる。 人間 人間の知性 (b) 情報は機械知能によって準備されるが、実際の意思決定は人間によって行われる 機械 ハイブリッ ド知性 人間 (「拡張知能」)。 • パターン認識やAI、MLの速度など機械知能を使用する際の制御要素として人間の判断 が加わる。 • 解釈、規範違反、配布効果、不透明性などによって損なわれる機械予測/処方箋の受け 入れなどを許容する場合がある。 (c) 人間は機械に情報を提供するが、自律的な意思決定は機械の知能によって行われる。 人間 機械 人間-機械コラボレー ション • 人間による開始(プロセスの制御)が行われる。 人間は事前に選択されたデータまた は事前にラベル付けされたデータなどを提供する。 • ソリューションには人間の偏見が含まれる可能性があり、 十分なデータに基づいてい ないことがある。 (d) 機械と人間の知能が統合され意思決定プロセスとタスクの実行中に連携する。 • 機械によるパターン認識とシミュレーション、および人間からの機械へのフィード バックに基づく、人間と機械の間の反復学習が行われる。 • 機械の意思決定パターンが長期的には人間の意思決定戦略を形作る。 (e) 決定は自律マシンに完全に委任される。 機械の知性 機械 • 速度、拡張性、大量のデータの処理の特徴を持つ。 客観性 (つまり、人間の偏見から 事前に解放される)を持つ。 • 技術的に常に実現可能であるとは限らない。誤った、特に歪んだデータまたは不完全 なデータによる偏った決定が発生する場合がある。 41

42.

ハイブリッド知性についての解説 • 意思決定を機械に割当てると(c)、潜在的利点(意思決定が効率化、 有効性が向上)は期待できるが、新たなコストと課題を伴う可能性 があり、利点が何時コスト/課題を上回るかの判断が必要になる。 • このコストにはアルゴリズム開発と実装だけでなく、組織設計と新 たな状況に人間を適応させるコストも含まれる。 • そして、明確に定義された特定の意思決定では機械が良い結果を提 供するが、このような場合でも何故この結果に辿り着いたかの論理 はブラックボックスの性質が残る。 • また、あまり明確な定義ができない状況では、機械が適切なソ リューションを提供できるかどうかは分からない。 • 結果、機械を使用するとしても、最適なソリューションを導き出す には人間の意思決定者の協力がいる(b),(d)。 • 従って、機械によって提供される処方箋の品質を人間がどのように チェックできるかという重大な問題が残る。 42

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ChatGPT等によるイノベーションの可視化は? • 2重ダイヤモンド構造ベースの取組みはデザイン思考の延長線 上にあり、AI活用場面の方法論としては親和性がある。 • また、ChatGPT機能を活用した「問題空間の拡大」と「ソ リューション空間の収束」はイメージを描きやすい。 • 新たなハイブリッド知性の概念も一般に考えられているAIと人 間の共創の原理に近い。 • しかし、これらの概念や提案はいずれも実践に基づく評価をま だ確立しておらず、重要な課題も残る。 • これらの概念や手法を参考にしながら、各企業の実態に合わせ た取組みを早期に開始することが示唆される。 • 汎用的方法論の具体化は更に研究が必要な段階にある。 43

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後半 企業のイノベーション(戦略レベル)への取組み 5. ChatGPT等によるイノベーションの今後 今後に向けて • 生成AIツールを使用してどのように価値創造するかの方法を組 織が充分に理解し実践できなければ、AIから価値を引き出すこ とはできない。 • 組織は自分に必要な補完資産を開発する方法がどのように変化 しているかを正確に理解する必要がある。 • 補完資産には次のようなものがある。 • 人材、コンピューティングパワー、業界に関する知識、データ、など • 生成AIが適応される業界にはランク付けも存在する。 • これらを踏まえて適切な補完資源を強化する投資が必要になる。 44

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今後に向けて(続) • 2022年のChatGPTリリースは如何にAI技術の進歩が急激で爆 発的であるかを示した。 • ChatGPTの幅広い適応性、特に従来のAIが主として分析的で あったのに対し生成的であることは新たな可能性を秘める。 • 既にChatGPTは汎用技術としての性格を一部保持している。 • 過去の歴史では新たな汎用技術の登場は根本的変革を誘導させ た。 • 生成AI技術の動向と活用状況は、このような視野の下で組織変 革と活用促進に取組むべきことを強く示唆している。 45

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文献 https://www.forbes.com/sites/robtoews/2022/03/27/a-wave-of-billiondollarlanguage-ai-startups-is-coming/?sh=2c27c33a2b14