ChatGPTは人間を代替するか?

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August 14, 23

スライド概要

ChatGPTが話題になり、ChatGPTの理解が進むに連れて、ChatGPTは人間代替(自動化)の影響が主なのか?それとも、人間強化(AI支援で)の影響が主なのか?そして、この境界はどのようにして決まるのか?などの問いへの回答が期待されてきている。生成AIは現在発展途上で即断は適当ではないが、そろそろこれらの問いに一定の考え方を持つ必要が生じている。ChatGPT活用に気を取られていると、思わぬしっぺ返しを食う懸念もある。このような問題認識から、人間と機械の境界モデル、変化発生時のシナリオ、人間の創造性との関係などについてまとめた。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
1.

ChatGPTは人間を代替するか? B-frontier 研究所 高橋 浩

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自己紹介 - B-frontier研究所代表 高橋浩 • 略歴: • 元富士通 • 元宮城大学教授 • 元北陸先端科学技術大学院大学 非常勤講師 • 資格:博士(学術)(経営工学) • 趣味/関心: • 温泉巡り • 英語論文の翻訳 • それらに考察を加えて情報公開 • 主旨:“ビジネス(B)の未開拓地を研究する” 著書: 「デジタル融合市場」 ダイヤモンド社(2000),等 • SNS: hiroshi.takahashi.9693(facebook) @httakaha(Twitter)

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目的 • ChatGPTは人間を代替するのが主な影響なのか? • それとも人間を支援し強化してくれるのが主な影響なの か? • ChatGPT時代に遭遇した現在、これは根本的問いである。 ➢この問いに一定の考え方を持たないでChatGPT活用に 気を取られていると、思わぬしっぺ返しを食う可能性が ある。 • 以上の問題認識から、上述の問いへの回答フレームワー クを持つことが今後のChatGPT活用では重要と考える。 • そこで、本課題に示唆を与える考察/素材を提供するこ とを本稿の目的とする。 3

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目次 1. 新しく登場する環境 2. 人間と機械の境界モデル 3. 事例に基づく考察 4. 代替・支援の境界と選択のフレームワーク 5. これからの方向性 4

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1. 新しく登場する環境 はじめに • ChatGPTの普及で自動化が大量の失業や生活水準の低下を引き 起こすのではないかとの疑念が生じている。 • 但し、ChatGPTはユーザーの作業習慣を変え始めたばかりであ り、今後も生成AIの進歩は続く。 • 従って、ChatGPTや生成AIの影響は長期と短期双方の面から影 響と課題・機会を考えるべきである。 • そして、既存システムや大規模システムとの統合による影響範 囲の拡大も考慮しておくべきである。 5

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検討の出発点 • まずは、日常のビジネスの性質や日常の知識作業から考えて ゆく必要がある。 • 主な質問例: • ChatGPTのどの機能が最も有益だろうか? • 組織内でChatGPTの使用を促進すべきユースケースやタスクは何 か? • また、避けるべきものは何か? • ChatGPTによる混乱でビジネスのどの部分が脆弱になるか? • その混乱はどのようにすれば利点に変えられるか? • など 6

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ChatGPTの現在のステータスと今後 検討を次の3点から考える ①• 検討にはChatGPTの現在可能なこととまだ可能でないことを明 確に認識して対処することが必要になる。 • 概要を次頁表に示す。 ②• また、ユースケースも現在急速に蓄積されている。 • 新たなユースケースを知り、それに刺激されれば、検討の前提 条件も変化し、新たな利用が促進される。 • ユースケースのイメージ例を次々頁に示す。 ③• 更に、既存システムとの統合も始まっている。 • 新たな利用環境を知り、それに刺激されれば、新たな利用も促 進される。 • ビジネス環境変化のイメージ例を後続頁に示す。 7

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① 現在のChatGPTの能力と限界 ChatGPT がすでに可能なこと • 自然言語で提供されるプロンプトによって質問に答え、 • 出力を生成する。 • 幅広いトピックに関してインスピレーション、創造性、 概要を提供する検索エンジンとして機能する。 • • コンテンツ制作ツールとして使用して、通常は法的合意、 ビジネス上の提案、会議メモ、企業プレゼンテーション などの文書の初期草案の新しいテキストを生成する。 • ユーザーと繰り返し作業して、テキスト素材のスタイル、 • コンテンツ、形式を調整し、テキスト素材の要約、再定 式化、さらには翻訳を行うことにより、コンテンツ再編 成ツールとして機能する。 • • ソフトウェアコードを作成、レビュー、修正できる。 • 新しいことをより簡単かつ迅速に学習できるようにし、 人々が新しい分野の基礎を学ぶツールとして機能する。 • • メールへの返信やリマインダーの生成などの日常的タス クを処理できる。 • • ソーシャル メディア投稿、ブログ投稿、Web サイトな ど、さまざまなコミュニケーションの目的に合わせて下 書きコンテンツを作成できる。 • 反復的なタスクを引き継ぐことができるので、コストが 削減され、結果的に人員を減らせ、中級従業員の独立性 を高められる可能性がある。 ChatGPTにはまだできないこと Google 検索を置き換えられない。ChatGPT は、確実な 真実を一貫して提供するのではなく、おおよその洞察を 提供する予測マシンとして考える必要がある。 複雑な質問に答えたり、トピックについて独自の洞察を 提供したりはできるが、新しいデータによるプロンプト があった場合、この機能は部分的にしか適切な回答を提 供できない。 複数回尋ねられる質問に対して、一貫して正確または偏 りのない回答をしたり、あるいは出力が毎回変わるが一 貫した回答をしたりする。 構文エラーや言語エラーが 100% ないテキストを生成は 出来るが、テキストや出力の内容は多くの場合チェック と修正が必要である。 厳格なプライバシー、コンプライアンス、あるいは倫理 要件を満たすまでには到っていない。 現在のバージョンは 2021 年までのデータに基づいてト レーニングされているため、リアルタイム情報にアクセ スできない。ただし、この欠点は、ChatGPT の新しい 機能と Web アクセス用プラグイン、およびユーザーが 自分の情報を入力する機能によって部分的には克服でき る(かなり反応が遅いとの評価もある)。 8

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② ユースケース例 • ChatGPTが知識作業の「パートナーコーチ」や「チームメン バー」として機能し、人間の能力を強化するためのガイドライ ンやヒントを示し出している。 • 例: • 法律分野の情報提供者は、ChatGPTが専門的文案を作成したり、情報 を要約したり、言い換えたりするのに有用と考えている。 • ソフトウェア業界のマネジャーは、ChatGPTが(完全ではないが)ソ フトウェアのコーディングやテキスト生成に関するほぼ全てのことを 充分に実行できると考えている。 9

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③ 生成AIはビジネスをどのように変えるか? • 既存システムとの統合で生成AIは、・・ • 全てのソフトウェアとのやり取りの性質を変えるだろう。 • より多くソフトウェア・ブランド間の競争が促進され、 • その結果、顧客情報の使用と各ソフトウェア・ブランドが提供する経 験との間に循環が形成される。 • パーソナライズは一層進み、ソフトウェアにより多くの機能を盛り込 むことから、顧客が望む流れに合わせる方向にあらゆる側面が調整さ れる。 • そして、顧客を追いかけているうちに、ソフトウェア・ブランドは従 来の境界を越えた領域にまで辿り着く可能性がある。 10

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③ 生成AIはビジネスをどのように変えるか?(続) 新しいインタフェース • 現在の生成AIはシンプルな質問(プロンプト)の入力を前提 としているが、 • より多くのシステムが強化され、それらと生成AIとの統合が 進むと、現ソフトウェアのドロップダウンメニュー(および それに類するもの)の使用に関わる制限・束縛に別れを告げ ることになるだろう。 • 代わりに、したいことを直接伝えられるようになる。 • 従来のソフトウェア・インタフェースの境界がなくなれば、 利用者はソフトウェアの背後にある制約を気にせずに必要な ことを実行するだけである。 • 結果、今日のアプリケーションと考えられているものとの対 話は大幅に簡素化されるだろう。 11

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2.人間と機械の境界モデル 人間と機械との境界モデルを考える • 現在、ChatGPTは、これを唯一の情報源とするには懸念があ り、アイディア出しのパートナー的段階にあるが、 • 各種の要件を満たすエンタープライズモデルや大規模システム との統合が進むと、かなりの部分で現在の生成AIの問題が解決 される可能性が有る。 • このようなトレンドを踏まえ、中長期的視点から人間と機械の 境界とChatGPT(とその統合システム)が人間の知的労働を 支援するモデルを次頁図のように考える。 12

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ChatGPTと知的労働間のアルゴリズム支援境界 第1象限 第2象限 非常に有能で役に立つ 人間が弱者に ChatGPT の機 能と役割 あまり有能でない し役にも立たない 人間強化の 可能性 アルゴリズム支援 人間に熟達の 可能性 時間の経過と共 に進化する人間 と機械の境界の 移動方向 人間に創意工夫 の可能性 第3象限 第4象限 反復的/日常的 創造的/コンテキスト的 知識労働の性質 13

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第1象限 人間が弱者に 人間がAIに代替されて自動化へ • 単純かつ日常的なタスクで、ChatGPT がすでに価値を示し ている領域: • メモ、記事、その他さまざまな種類のテキストの要約、リマイン ダーの作成、電子メールと電子メールへの回答の下書きなど • ChatGPT が (速度と、場合によっては正確さの点でも) 人間より 優れたパフォーマンスを発揮できる他のかなり日常的なタスクの 例には、 • ソフトウェア コードのデバッグ、言語的エラーの指摘、クラウドワーク におけるテキスト注釈(タグ付け)タスク、など • このようなタスクでは、アルゴリズム支援がより大きな役 割を担うようになり、完全自動化に到達する可能性がある。 14

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第2象限 人間強化の可能性 人間がアルゴリズム支援を受けて強化 • ユーザーが個々の反復作業にChatGPTを利用するか、 ユーザー生成コンテンツを完成させるためにChatGPTを 利用することで人間の強化が期待される領域: • マーケティングなどのクリエイティブでコンテンツを重視する 専門業務 • 堅実なビジネスプランの作成やコンサルティング業務、など • このようなタスクでは、アルゴリズム支援は業務の支援に 留まり、人間は支援を受けることで、本質的業務により注 力が可能になるが、その一方、生成AIの進歩によって人間 が駆逐されるリスクも伴う。 15

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第3象限 人間に創意工夫の可能性 人間的特性を生かして創意工夫を継続 • 非常に複雑、創造的、あるいは状況に応じたものなので、 ChatGPT が有意義な貢献をすることが難しいと想定され る領域: • 1)人々の指導や管理、2)重要な社会的状況での行動、3)既成概 念にとらわれない思考や行動、4)創造的な芸術的表現、など • 法律分野でも、1)人間弁護士の人間味、2)特定の交渉スキル、 3)起草スキル、など • そもそも、1)存在すること自体が価値、2)対人信頼、3)感情的 知性、4)人間の主体性や社会システムと深く関わる機能を必要 とする業務、など • 但し、このような領域では、アルゴリズム支援が明確な 役割を短期的には担えないが、長期的には人間の独創的 な仕事の領域が徐々に縮小し出す可能性はある。 16

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第4象限 人間に熟達の可能性 人間の練度や訓練が価値を保持 • 生成 AI がまだ十分に有用でない人間の手作業や運動を伴う領 域: • デジタル領域の外で発生する作業、または手動処理が必要な作業 (例: 医療における患者ケア、簿記における物理的な領収書の処理な ど) • 様々な種類のコミュニケーションのニュアンスを理解する必要のあ るSlack や Teams メッセージへのリアルタイム返信など • 現在の生成AIは、動画作成やロボット制御など、運動を伴う 領域に向けた展望がまだ拓けていないが、長期的には新たな ブレークスルーがあるかもしれない。 17

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“人間と機械との境界モデル”とその後 • ChatGPTが有用かどうかと知識労働の性質で4象限に分けた。 • 現状では第1象限が自動化、第2象限がAIによる人間強化で、 第3象限、第4象限へはChatGPTの影響がまだ及んでいない と推定される。 • しかし、ChatGPT/生成AIの進歩は著しく、状況は急激に変 化する可能性がある。 • そこで、ChatGPTのより詳細な特性を明らかにし、これを元 にもう一段踏み込んだ認識が必要になる。 • このような主旨で次頁以降に次の2面を示す。 ➢最近の研究からより具体的にChatGPT性能を明確化 -第3節 ➢IT時代の自動化の経緯も踏まえ選択の枠組みを構築 -第4節 18

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3.事例に基づく考察 ChatGPT機能を検証した事例と主な結果 • 最近の実証研究例: 研究1 研究2 研究3 • MITのS. Noy(2023)等によるChatGPTの生産性向上測定実験 • Stanford大のE. Brynjolfsson(2023)等による顧客問合せシステムへ のChatGPTアドオンによる生産性向上調査 • Zurich大のF. Gilardi(2023)等によるテキスト注釈タスクの ChatGPTとAmazon Mechanical Turkワーカーとの性能比較調査 • 主な結果: – ChatGPTの方が、人間よりタスク処理時間が短い。 – ChatGPTは、未経験者の方により有利な向上効果をもたらす。 – ChatGPTの方が、人間より処理内容が正確である。 19

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研究1 生成AIによる生産性向上測定の実験プラン • 実験実施者:MITの経済学系の大学院生(複数名) • 実施プラットフォーム:社会科学研究中心の調査プラットフォーム Prolificを利用 • 本プラットフォームで対応者を募り数万人から回答。その中から関心のある 職種で経験豊富な専門家444人を選定 • 選定職種はマネジャー、人事専門家、助成金作成者、マーケティング担当者、 コンサルタント、データアナリストの6種 • 実施方法: • 実施者に2つのタスクを依頼(それぞれ20~30分相当のタスク) • 2番目のタスク実施前にランダムに対象者をA,B2グループに分割 • Aグループ:ChatGPTへのサインアップを指示(2番目タスク実施前に使 用法確認の時間を与える)⇒ChatGPTが有用と判断した人にはタスク実 施へのChatGPT使用を許可する。 20

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結果 – 約40%時間短縮 Aグループ 30分 17分 Bグループ 29分 27分 • Aグループ(ChatGPT使用)参 加者では生産性の不平等が劇 的に縮小 1番目タスクの評価(横軸)が2番目タスク の評価(縦軸)でどう変わったかのマッピング • 成績が低レベルの人は評価を挙げる が元々高レベルの人は(時間短縮以 外は)あまり変化しない。 1番目タスク 2番目タスク 成績(生産性)の不平等の減少 2番目タスクの成績評価 • Aグループ(ChatGPT使用)で は2番目タスクの実施時間が 1番目 2番目 大幅に短縮 タスク タスク 所要時間(分) 実施時間の短縮 1番目タスクの成績評価 21

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研究2 顧客問合せシステムにChatGPTをアドオン • 実施形態: • 2020年11月~2021年2月にOpen AI社のGPTファミリーを導入している、 • 米国大手ソフトウェア会社(複数社)に勤務する顧客サービス部門の5179名を 対象に分析(顧客とのチャット300万件を分析) • 生産性の尺度は時間当たりの問合せ解決数(RPH:Resolutions Per Hour) • 実施方法: • 対象者を2グループ(ChatGPTの支援を受けたグループと支援を受けなかったグ ループ)に分類して比較 • 支援を受ける問合せ担当者は顧客からのメッセージをChatGPTが読み込んで ChatGPTから提示されるメッセージを参考に顧客対応を行う。 22

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結果 • AI使用グループの問合 せ解決数は大幅に改善 – AI未使用者:1.7 – AI使用者:2.5 – (約50%効率UP) • 新人労働者は最初から AI支援を受けると習熟 期間が短縮化される。 • 半分以下に 23

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研究3 テキスト注釈タスクのChatGPTとMTurkによる クラウドワーカーとの性能比較 • 実施形態: • 2022年に別研究で実施された訓練を受けたアノテータによる手動注釈付 与時の2,382 件のデータセットを使用して、ChatGPT と Mturk(Amazon Machanicalturk)の2つで全く同じテキスト注釈タスクを実施 • Mturkによる作業者は、Amazon によって「MTurk Master」に認定され、承 vs 認率が 90% 以上で、米国に居住する、現在利用可能な最良のクラウド ワーカーを選択 • 実施方法: • タスクは5種を選択して実施 • 比較は精度とコーダ間合意という 2 つの異なる指標で実施 • • 精度:訓練を受けたアノテータを基準とした正しい注釈の割合 コーダ間合意:2 人の異なるアノテーター (訓練を受けたアノテータ、Mturkで募集したクラウド ワーカー、または ChatGPT) によって同じラベルが割り当てられた割合 24

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結果 • 精度では5件中4件で ChatGPTがMTurk によるクラウドワー カー(人間)の水準 を上回った。 • コーダ間合意では全 ての項目でChatGPT がMTurkより高い評 価を受けた。 注釈の種別 精度 コーダ間合意 vs 25

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ChatGPT機能/性能の検証結果のまとめ • 人間よりタスク処理時間が短い: • 6選定職種の444人に、各職務に相応しい単発処理を行う実証実験に参 加してもらった結果、平均してChatGPT利用の方が約40%処理時間が 短かった。 研究1 • 米国大手ソフトウェア会社の顧客サービス部門勤務5179名に既存シス テムにChatGPTアドオン可否で問合せ処理件数を比較してもらった結 研究2 果、アドオンの方が50%処理件数が向上していた。 • 未経験者の方により向上効果が大きい。 • 能力のより低い担当者においては作業時間の短縮化と出力品質の向上 の両方が達成されたが、能力のより高い担当者においては品質は既存 研究1 水準を維持する程度に留まった。 • 新人労働者が最初からChatGPTの支援を受けると習熟期間が短縮化さ れ、最大で習熟期間が半減した。 研究2 • 人間よりも処理内容が正確である • 最も有能なMTurkクラウドワーカーと競った結果、ChatGPTの処理の 研究3 方が処理内容が正確であった。 26

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4.代替・支援の境界と選択のフレームワーク 第1象限 以上の基礎情報を元に選択のフレームワークを考える ChatGPTはどのように人間を代替するか? • 過去の自動化の例:交換局オペレーター 1. 市内自動交換機導入で直接ダイヤル可能に 2. 市外局番が導入され長距離通話が直接接続可能に 3. 国番号導入の国際電話が導入され直接接続可能に • 結果、交換局オペレータは完全に廃止された。 • ジョブはタスク1, 2, 3,..n で構成されている。 • 交換局オペレーターはタスクが1, 2, 3 に限定さ れ、この全てのタスクが電子化されたことで自 動化(人間代替)が完成した。 27

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第1象限 ChatGPTはどのように人間を代替するか?(続) • 生成AI版: • 各タスクが複雑であってもそれがパターン化されており、 データの蓄積とその学習によって、生成AIで代替できるタ スクのみで構成されているジョブは最終的には自動化(人 間代替)される。 • 例:コールセンター • 現状は既存システムへのChatGPTアドオン段階 だが、今後カバーできる範囲が拡大し、質問の ほぼ全メニューがカバーされた段階で自動化へ • 特に、物理的な家電製品などのコールセンターでは コール件数が多く、且つ質問が定型化して全質問が カバーされるのが早いと想定される。 28

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第2象限 ChatGPTによって人間はどのように強化可能か? • 過去の人間強化の例:会計士 • PCが広く普及し、各種ソフトウェア 使用やクラウド利用で会計処理が自動 化できるようになったにも関わらず、 • 2000 年から 2022 年の間に米国の会 計士の数は最大 35% 増加した。 • また、実質賃金も上昇した。 米国の会計士の数(2000 年-2022 年) 米国の会計士の正規化された実質賃金 • 会計士のタスクの一部は自動化されたも のの、新たな需要が喚起されたか自動化 できないタスクが残存していた。 • 結果、人間は代替されるどころか、IT活 用で強化されて、人数も増加し、賃金も 上昇した。 29

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第2象限 ChatGPTによって人間はどのように強化可能か?(続) • 生成AI版: • ジョブを構成するタスクのうち、一部が確実に(非常に個別的、 データが集まり難いなどで)生成AI活用が困難な場合、次のよ うな移行プロセスが考えられる。 1. 生成AI活用により効率化が進み、なお且つ生成AI活用不可部 分の価値が増大して、生成AI支援による人間価値強化へ 2. 生成AI活用による効率化と未経験者への傾斜的優遇により、 当該ジョブへの参入障壁が低下し、結果的に競争が激化して、 賃金も低下し、ジョブの魅力低減へ 3. 競争は激化するが、一方で、それに歯止めをかける属性(例 えば会計士で謂えば公認会計士のような資格やブランド)が よりクローズアップされ、競争激化と地位盤石が共存へ 30

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第2象限 第3象限 できるだけAI支援を人間強化に誘導するには • 特定ジョブを構成するタスクが定型的であり、データ収集が可能で あれば創造的/コンテクスト的タスクであっても長期的にはChatGPT に食われるリスクがある。 • この状況を克服し、人間が職業(ジョブ)を維持しつつ賃金上昇も 目指せるのが望ましいとすれば、新たな需要創成は必須である。 • 既存ジョブを大胆に見直して新しいタスクを創成し、顧客ニーズに 合致する状況を如何に作り出せるかがポイントになる。 • これには、従来見落とされがちであったサービスにおけるロング テール項目を発見し、そこから新たな顧客ニーズを掘り起こす努 力とセンスが欠かせない。 • その取組みは「人間的特性を生かして創意工夫を継続」に大きく関 わり、人間は第2象限と第3象限を横断して、従来なかった価値創造 と顧客ニーズ掘り起こしを実施する必要がある。 31

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人間代替と人間強化の境界と選択のフレームワーク 1. ChatGPTで効率化できるタスクのみで構成されるジョブ(職 業)は早晩自動化される。 2. ジョブを構成するタスクの一部しかChatGPTで効率化でき ず、確実にそれ以外のタスクが残存する場合でも、この機会 に顧客にフィットする新たな需要(新しいタスク)を創造(掘 り起こし)できなければ、競争の激化、賃金低落、更には雇 用喪失の懸念がある。 3. 特にChatGPTの、素人/スキルの低い人に有利な影響は特定 業界毎にこれまでにない雇用と賃金に関するトラブルを引き 起こす懸念がある。 4. このような流れに巻き込まれず、確実に自ジョブ(職業)をA I支援による人間強化のパラダイムに持ち込むためには、 ChatGPTで対応できない/苦手な領域へのシフトあるいは適 応範囲の拡大を図る必要がある。 第3象限 第4象限 32

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5.これからの方向性 検討を3つの視点で考える 1)知識労働での ChatGPT 活用を再考する • ChatGPT活用による効率性と創造性の機会を高めるためには、 知識労働者と企業の双方に、これらの機会を活用するため何 ができるかを反芻することが求められる。 • 組織変革事項を下記4つにまとめ、ChatGPTを知識労働で使 用および拡張する際の実践的質問例を次頁表に示す。 ➢スキルと能力 ➢チーム構造とワークフローの調整 ➢文化と考え方 ➢ビジネスモデルの革新 33

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知識労働で ChatGPT 使用や拡張時の質問例 34

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2) “ChatGPTが新人/低スキル労働者に恩恵”を考える • 過去の類似例との比較:Uber • Uberは新技術(GPS)登場によって、素人ドライバー参入によ る新たな交通市場登場の道を拓いた。 • これとの対比で、新技術(生成AI)登場によって、新人/低スキ ル労働者参入による新たな知識労働市場の変化を考える(例: 会計士) • Uberと(一般知識労働市場の例としての)会計士との比 較を次頁表に示す。 • Uberでは既存運転手、Uber運転手の双方でデモが発生 した。今回も既存知識労働者、新規参入知識労働者の双 方からデモ(あるいは類似の行動)が発生するかもしれ ない。 35

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取り残されていた労働者に新たな機会を与えると 専門家成立の条件 専門スキルによる職 業障壁が低下あるい は消失する理由 新たに参入が可能に なった(なる)労働者 発生した争議 タクシー市場 会計士市場(一般知識労働市場) 都市部の道路事情に関する専 門知識の必要性 場面に応じた複雑な制度対応と適切なソ フトウェア利用ノウハウの必要性 GPS技術とそれを活用したナ ビゲーションの登場 生成AI技術によりパターン化されたデー タからの学習で一部は自動化へ。残存の 機能もインタフェースが簡略化 自宅に車を所有しているだけ の低スキル労働者も参入可能 自動化された会計処理を補完する残存機 能への参入も容易化し、素人に参入が可 能化 既存運転手からのデモ、Uber 『生成AIは多くの職業で参入障壁を引き 運転手からのデモの双方の争 下げる役割を果たし同様の効果あるいは 議が発生(雇用維持、低賃金) トラブルをもたらす可能性があり得る』 既存運転手がデモ • タクシー業界運転手が不 満を募らせUber運転手 に対する犯罪が相次いだ。 Uber運転手がデモ • Uberの運転手が報酬をめ ぐって創業者と口論してい る映像が公開された。 会計士はじめ既存の知識労働者 • 既存知識労働者は既得権益侵害と賃 金低下圧力に不満の可能性がある。 新規参入の知識労働者 • 新規参入者は競争激化と低賃金に不 満の可能性がある。 36

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3)人間の創造性との関係を考える • 最も重要なのは人間の創造性を巡るこれからの動向である。 • 3つのシナリオが考えられる。 ①• 生成AIは創造的仕事をする人の脅威にはならない。 • 生成AIは人間が行っている作業をサポートし、人間よりも迅速か つ効率的に作業をするだけ • 例:Github Copilotによるコーディング作業の容易化&短縮化 ②• 機械が創造性を独占する。 • 従来のクリエーターはアルゴリズムで生成されるコンテンツの津 波にかき消される。 • コンテンツ制作コストがゼロに近づけば極端なパーソナライズも起きる。 ③ • 「人間が作ったもの」にプレミアムがつく。 • 人々は本物の(あるいは「人間手作りの」)創造性を再び重視し、 それにプレミアムを支払う。 37

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これからの方向性(まとめ) 1. ChatGPTは、まずは時間短縮などの効率化に注目が集ま るが、既存システムとの統合でアプリケーション領域が拡 大し影響範囲が拡大すると、本質的な企業経営や組織構造 見直しあるいは顧客ニーズ発掘などに焦点が移る。 2. その際、“ChatGPTは人間を代替するか?”は重要なテーマ ではあるが、全体問題に吸収される。 3. 本質的には人間の創造性との関係がポイントになる。 4. シナリオ①, ②, ③は必ずしも排他的ではないが、これらの 組合せおよびそれぞれの優位性(比率)がどのように確立 されるかは今後の動向を待つ必要がある。 5. このような全体認識を持って、ChatGPT活用の活動を推 進する必要がある。 38

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文献 第1節,第2節は主に次の論文を参考にして作成した。 • Paavo Ritala et al., “Transforming boundaries: how does ChatGPT change knowledge work?”, Journal of business strategy 05-2023-0094, 2023. • David C. Edelman, Mark Abraham, “Generative AI Will Change Your Business. Here’s How to Adapt.”, Harvard Business Review, April 12, 2023. 第3節は主に次の論文を参考にして作成した。 • Shakked Noy, Whitney Zhang, “Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence”, SSRN 4375283, 2023. • Erik Brynjolfsson, Danielle Li, Lindsey R. Raymond, “GENERATIVE AI AT WORK”, NBER Working Paper, No. 31161, April 2023. • Fabrizio Gilardi et al., “ChatGPT Outperforms Crowd-Workers for Text-Annotation Tasks”, arXiv:2303.15056, 2023. 第4節は主に次の論文を参考にして作成した。 • B.N. Kausik, “Long Tails and the Impact of GPT on Labor”, Scholar Article B N Kausik, 2023. 第5節は主に第1節,第2節で引用した論文と次の論文を参考にして作成した。 • D. de Cremer et al., “How Generative AI Could Disrupt Creative Work”, Harvard Business Review, 13, April 2023.