ChatGPT 機会 課題 影響

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June 15, 23

スライド概要

ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)が世界を席巻している。教育や仕事など、さまざまな社会生活に影響を与えるとされ、これまでの仕事の仕方や企業・組織の形態も変える。結果、雇用の変化、働き方の変化、意識の変化にまで波及すると評価されている。
背景に、ChatGPTなどの生成AIが、ついにAI技術の商業化の壁を突破したとの認識がある。そうであれば、蒸気機関、電気、コンピュータ、スマホ並みの時代を切り拓く技術到来になるのではないか?そこで本稿は、このような問題意識を踏まえて、関連論文を探索し、見つかった論文を元に、「Chat GPTの機会、課題、影響」をまとめてみる。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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Chat GPT 機会・課題・影響 • B-frontier 研究所 高橋 浩 1

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自己紹介 - B-frontier研究所代表 高橋浩 • 略歴: • 元富士通 • 元宮城大学教授 • 元北陸先端科学技術大学院大学 非常勤講師 • 資格:博士(学術)(経営工学) • 趣味/関心: • 温泉巡り • 英語論文の翻訳 • それらに考察を加えて情報公開 • 主旨:“ビジネス(B)の未開拓地を研究する” 著書: 「デジタル融合市場」 ダイヤモンド社(2000),等 • SNS: hiroshi.takahashi.9693(facebook) @httakaha(Twitter)

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目的 • Chat GPTは強烈なインパクトを与え、世界を席巻している。 • 但し、発表されて間が無いので、現実の場面に適用して分析し た実証研究は少ない。 • また現在は、多くのメディア情報が錯綜している面もある。 • ここは冷静になってこれからの可能性を思い描く時である。 • このような視点から、以下の2論文の内容を紹介する。 Part1:43編の寄稿を一挙掲載した研究論文の紹介 Part2:世界初?の実証研究と思われる研究論文の紹介 • そうすることで、Chat GPTの機会と課題および影響について把 握することを目的とする。 3

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目次 Part1:Chat GPT 機会・課題・影響 寄稿の紹介 ① Chat GPTの与える最大の混乱:知識労働の生産性へのインパクト ② 人間拡張のためのChat GPT ③ 組織的および社会的影響 ④ 組織のデジタル変革の課題はますます困難になっている ⑤ Chat GPT のサービスマーケティングと管理への影響 ⑥ Chat GPT の世界におけるマーケティング: 未来的な考察 ⑦ IT業界におけるChatGPTの課題,機会,影響 ⑧ Chat GPT3: 技術開発、影響、課題 これからの生成AI時代への取組み Part2:ChatGPT & AIは産業をどのように破壊するか 4

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Part1 Chat GPT 機会・課題・影響 5

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はじめに • Chat GPTやGPT-4は、現在の知識作業と関連付けられるタス クの多くを引き受ける力を示している。 • この延長で、機械の助けを借りてより多くの人間のタスクが完 了できるようになると(産業革命の歴史などからも推測できる ように)新しいビジネスモデルが発生しまったく新しいシステ ムが登場する。 • 即ち、Chat GPTの可能性を真に解き放つには、世界は新しい さまざまな種類のシステムを必要としている。 • これに伴い問題となるのは、AIがより多くのタスクを引き受け るのに十分かどうかだけでなく、私達がどのように適応できる かにある。 • このような視点と関係する寄稿を主にピックアップする。 6

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① Chat GPTの与える最大の混乱:知識労働 の生産性へのインパクト (寄稿4) • Chat GPTは知識労働に関する最初のドラフト(初稿)を作成 する能力に長けている。 • 背景: • 知識労働者の費やす時間の41%は個人的満足感がほとんど得られない 「他の人」が適当に処理できる可能性のある裁量的活動に費やされて いる。 • 「他の人」は通常は別の人間と考えられるが、これをChat GPTが担 える可能性がある。 • 最も一般的なイメージは、文書化される必要のある知識労働者 の仕事の初稿をChat GPTに提供してもらうことである。 7

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② 人間拡張のためのChat GPT (寄稿7) • 人間は自動化の目的でChat GPTを使い始めたとしても、こ れはすぐに、(1)人間のタスクの拡張、(2)人間が機械と緊密 に連携して比較的単純なタスクを実行するハイブリッド チーム創設に発展する。 • 次に何が起こるかが問題! 新しい技術の方向性の例 • 生成AIが多様なユーザーグループにアクセスを提供し、そ の後、ユーザーの積極的な参加を確保して、最終的に力強 い成功に繋がる可能性がある。 8

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• 技術進歩の方向性に基づく近未来のイメージ例 1. 企業は独自のカスタムバージョンのChat GPTを作成でき るようになる。 2. おそらくChat GPT技術を使用して自社ブランドの独自の チャットボットを起動できる。 3. 同時にLow/NoコードのChat GPTプラットフォームの能力 を活用する。 4. そうすることで、短期および長期の社会的影響のさまざま な側面に対応できるようになる。 • このような変化を理解し受け入れられる企業や組織が競争上の 優位を築く可能性がある。 9

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③ 組織的および社会的影響(寄稿9) • Chat GPTは個々のタスクにおいては人間の専門家レベルを超 えることはないかもしれないが、圧倒的な、一見インテリジェ ントに見える幅広い機能を備えている。 • この能力は新しいバージョン(GPT-4など)が作成されるに 連れて、次のような点も明らかにする。 • 開発には巨額の投資とコンピューティングリソースが必要なた め、特定の大企業または政府の支配力が強くなる。 • プログラムはネットワーク効果を通じて多数のユーザーを集め るので機能対応のコストは低下する。 • その延長でユーザーは機能の更なる進化とトレーニングに期せ ずして参加する(させられる)ことになる。 10

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• 多くの社会や地域では、このようなプログラムに依存し、 重要なタスクを委任するようになる。 • 特に発展途上国ではハイテクの特定テーマに関する専門家が不足 しているので、全体の理解はChat GPTに依存する傾向が増すと推 定される。 • このような状況では、よりテクノロジー使用における格差が所得 や福祉の格差につながり易い懸念がある。 • 小学生から上級政策アナリストまで、誰もがこのようなAI に支援され、依存して、自分の思考、直感、知識が乏しい 全ての問題についての理解を深める可能性がある。 • この延長で、責任の問題も浮上する。責任と説明責任に加 え、法的責任や財政的責任の配分の問題も発生してくる。 11

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④ 組織のデジタル変革の課題はますます困 難になっている(寄稿 11) • Chat GPTは人々の創造性と生産性を高めるのに役立つが、そ れは、組織が心理的リスクを管理する方法で信頼の問題とAIの コモディティ化に対処できる場合に限られる。 • AIは既に次のような要因で組織に頭痛をもたらしている。 • Chat GPT など新機能 の急速な導入で、組織に対する競争圧力が高 まっている。 • AI は以前の技術と異なり、新たなリスク(風評被害、コンプライアン ス、または財務上の)が存在し、その多くは倫理的懸念に基づいてい る。 • それにも関わらず、問題を先送りできない緊急性が存在する。 • AI を大規模に実装し変革するのは複雑であり、困難が伴う。 12

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• そして、次の原則にも問題がある可能性がある。 • プライバシーとデータガバナンス • 透明性 - ガバナンス、コンプライアンス、法的問題、ほか • 説明責任 - どうすれば詐欺や犯罪行為を回避できるか • 加えて、Chat GPTは知識のあるデータサイエンティスト等 を越えて AI の使用者を拡大させ、また、Low/Noコード技 術はExcel や Access と同様の方法で、プロの開発者ではな い人達に対してもAIの直接利用を拡大させる。 • これは、組織における AI リスク管理の問題を前例のない規 模で拡大させることを意味する。 • 結果、このような方向性は組織がすでに苦労している多く の AI の課題をさらに増幅させる。 13

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⑤ Chat GPT のサービスマーケティングと 管理への影響(寄稿 12) • これからのスマートサービス技術は、IA(インテリジェントオート メーション ) と組み合わされることで、急速に強力になり、安価に なり、実装と使用が容易になる。 • これらは、顧客サービス、サービス品質、生産性を同時に前例のな いペースで改善できる可能性を秘めている。 • 例えば、 • (住所変更などの) 特定のサービスや、デジタルバンキングサービスなどの合 理化、簡素化、拡張、など • (案内カウンター、電話、電子メール、などの)情報処理型サービスの自動 化、など • そして、現場の従業員が関与しないE2E(エンドツーエンド) で自 動化されるサービスが増えてくると、 • その結果、コストが非常に低くなり、広告で賄えるか、少額の料金 で提供できるようになる。 14

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• Chat GPTは「一般知性」、即ち、人間の最前線の理解と柔 軟性のレベルに近づき、顧客サービスの E2E 自動化への大 きなステップになる。 • 結果、顧客にとって、デジタルサービスプロバイダーが サービスを提供しているのか、人間の従業員がサービスを 提供しているのか区別がつかなくなり、あまり気にしなく なる可能性がある。 • しかし、同時に、このような方向性は深刻な倫理的、公平 性、およびプライバシーのリスクを伴う。 • 技術の進歩に並走して、技術のリスクを理解し、管理し、 軽減する研究と実践が必要である。 15

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⑥ Chat GPT の世界におけるマーケティン グ: 未来的な考察(寄稿 13) • Chat GPTは業界関係者に当惑するほどの印象を与えている。 • Open AIはまたリアルなアートや画像を作成できるDALL.E2で も名を轟かせている。 • 次頁表にChat GPTがマーケティング分野にどのようなメリッ トをもたらし得るかの例を示す。 16

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マーケティング戦略 示唆的な解決策 考慮事項・補足事項 マーケティング キャン ペーンの構築 ChatGPT は、成功するキャンペーンを開発するための 提案を提供できる可能性がある。 例: 「Instagram での効果的なマーケティング キャン ペーンを提案してください」 コンテンツマーケティ ング ChatGPT は、キャンペーン、製品、販売ページ、電子 ただし、クリエイティブな結果を得るには、クエリの精度 メール、ブログ投稿に関連する特定のクエリに対して、 をより正確にする必要がある。 適切かつ正確なコンテンツを提供するのに役立つ。 コンテンツデザイン ChatGPT は、設計やその他の改善のためのアイデアを 提供できる。 DALL.E2 を使用すると、クエリの指示に従って製品を創 造的に設計することができる。 チャットボットベース のサービス ChatGPT は、効率的なクエリ処理のためにチャット ボットで使用できる次世代言語生成 AI である。 チャットボットは GPT-3 と DALL.E2 を統合して、会話内 で適切なアバターを生成できる必要がある。 AI ベースの経験が学術文献ではよく知られているが、 ChatGPT は顧客にさらに充実した経験を提供できる。 新たに登場したChatGPT の役割によって、現在の AI 経験 と比較して、提供できる経験がどれほど優れているかで勝 負が決まる。 ChatGPT は、スポンサー付きキャンペーンを支援する キーワード提案を提供できる。 加えて、通常のキー ワードとは別に、マーケティング担当者はキャンペー ンの代替キーワードをテストできる。 コンテンツとキーワードの検索は、パーソナライズされた キャンペーンの要件に基づいて絞り込む必要がある。 マーケティングリサー チ ChatGPT は、マーケティング担当者がコンテンツパ フォーマンス (A/B テスト)、市場統計、および人口統 計上のターゲット情報をテストするのを支援できる。 マーケティングリサーチ観点からはリーセンシー効果(適 切な時間間隔で広告を繰り返し打つ効果)が機能する。 ChatGPTがはA/B テストを実行できれば一般的テストガ イドライン、ベンチマークコンテンツ、統計を提供できる。 ブランド比較 ChatGPT は、マーケティング担当者が競合他社に対す るブランドの立場を理解し、既存ブランドを強化する のにも役立つ。 ChatGPT は、他ブランドに関するデータ収集に役立つ可 能性がある (例: 「iPhone と Samsung の比較」、「ペプ シマーケティングの 7 P の分析」)。 収集されたデータは、 新製品開発 などのさまざまな目的で使用できる。 17 顧客体験 キーワードの提案 ChatGPT には、「・・・向けに Instagram で効果的マー ケティング キャンペーンを提案してください」などと正 確なクエリを必要とする生成ツールである。

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• 一方で、Chat GPTは現在のマーケティングに比べて人的労力 を少なくて済ませられる可能性はあるが、 • マーケティング担当者の戦略的方向性に疑問を投げかけ、矛盾 する可能性もある。 • 前頁表にも見られるように、ChatGPT によって提供される回 答は、ユーザーが作成したクエリの影響を極めて深く受ける。 • 従って、具体的でないクエリは誤った結果をもたらし、ブラン ド価値の低下につながる可能性がある。 • マーケティング担当者にとっては、顧客の質問に正確に答えら れるエコシステムの構築には困難が伴うことが予想される。 18

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⑦ IT業界におけるChatGPTの課題,機会,影響 (寄稿 39) • IT業界でChat GPTを活用することで想定される主な課題を下表に示す。 サイバー攻撃の標的になりやすく、機密情報の盗難や セキュリティ 悪用に対して脆弱である。 アルゴリズム トレーニングデータに依存しており、バイアスや差別 の精度 が生じる可能性がある。 進捗が速く、かなりの人がまだ動作方法をよく理解し リテラシー ていないため、広範な普及が限られる可能性がある。 財政的負担 専門のハードウェア、ソフトウェア、訓練を受けた人 材が必要である。これは特に小規模組織や予算小の組 織の課題になる。 19

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IT企業のChat GPT活用における機会と影響 • IT業界でのChat GPT活用のチャンスは大きい。 • 反復的なタスクを迅速にChat GPTで自動化することで顧客体 験を向上させられる。 • その一方、IT業界の多くの仕事が置換えられることになる。 • このような状況では、企業や組織は、革新的な方法でChat GPTを自社製品に組込み、組織に最先端のメリットを提供でき るかどうかが生き残りに関わる。 • そして、このことは従業員の仕事が失われることをも意味する。 • このような矛盾した状況がIT業界では他業界に先行して出やす くなる。(このような傾向は他業界にも順次浸透して行く) 20

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⑧ Chat GPT3: 技術開発, 影響, 課題 (寄稿 42) • Chat GPT3登場までの主な出来事と開発の軌跡を下図に示す。 開発の軌跡 2014年,チュー リングテスト に初めて合格 1950 年、科 学者アラン チューリン グが思考機 械のアイデ アを正式に 発表した。 アイデアとコン セプトの段階 1974 年、コ ンピューティ ング能力によ りほとんどの 実用化が制限 され、公的資 金の減少につ ながった (最 初の AI の冬) 実験の段階 1990年、 DARPAプロ ジェクトが失 敗し、第2回 AIの冬が到来 した。 2006 年、機 械学習のパラ ダイムが ディープラー ニングに置き 換えられた。 成長と加速の 段階 2016 年,Alpha Go が世界チェ ス選手権で優 勝 民間投資と公 的資金が刺激 され、新たな 応用シナリオ が考案、開発 された。 2022 年、 ChatGPT が正 式に開始され た。 複数の商業化 の機会が予想 される。 2022年に商業 化の閾値を達 成 アプリケー ション 開発の段階 商業化の前段階 21

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• Chat GPT3の特徴を下表に示す。 モデルのボ リューム パラメータ アーキテク チャ トレーニングで使用される膨大な生データをインター ネットから入手 膨大なパラメータ数(Chat GPTでは1750億個のパラ メータ) コンテンツ固有であり、特定コンテキストをネット ワークの特定部分に割り当て可能なアーキテクチャ 質問に対して、明確で解釈可能かつ構造化された形式 トレーニング で応答できるように、人間の評価者によってトレーニ 体制 ング 22

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• AIは何回かの“AIの冬”を経験したが、遂に、Chat GPTによっ て商業化の段階に突入した。 • Chat GPT利用によってより良い成果(情報の質など)を得る ための戦略的主体は受益者であるユーザー自身にある。 • GPT3などのモデルでは、与えられるデータが増えるごとに有 効性が高まることが確認された。 • このことは、今後ともAI機能は向上し続けることを保証してい る。 • 但し、歪んだ情報源の回避などの根本的問題は未解決のままに 残ると推定される。 23

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これからの生成AI時代への取組み 寄稿を振り返って・・ • 組織(企業)にとっての変化 • Chat GPTは多くの分野で生産性にプラスの効果をもたらす。 • その範囲はカスタマーサービスなどの反復的、日常的作業だけでなく、 頭脳労働を含むホワイトカラーの仕事のかなりの部分を代替する可能 性がある。 • また、ソフトウェアコードの作成など、エンジニアの仕事と考えられ てきた仕事も代替される可能性がある。 • 結果、雇用の見直しや組織変革をせざるを得なくなる。 24

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• 組織(企業)にとっての対応の可能性 • 但し、Chat GPT活用における誤用や乱用の危険性は残る。 • そこで、安全に使う方法や安全な範囲のノウハウ蓄積、活用ルールの 策定と実施は重要性を増す。 • そして、活用できる範囲は徹底的に活用し、例えば、監査/助言サー ビスの精度の向上(銀行、保険など)などを推進する必要がある。 • 多くの場合、このような利点を実現するには組織の変更が必要になる (従業員の抵抗に対する闘争も含め)。 • 加えて、発生しうる盗作や不正行為に対する体制の整備もいる。 • 将来に備えては、人材の育成とか意思決定、計画などの分野にも Chat GPTをどのように活用できるかの準備も必要になる。 25

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• 個人(従業員)にとっての変化 • • • • 情報や知識に迅速にアクセスし易くなる。 論文やレポートの初稿を作成しやすくなる。 しかし、その一方、職を失う危険性が増す。 それは、必ずしも単純労働、反復労働だけでなく、かなりの知識労働 も含まれる。 • 個人(従業員)にとっての対応の可能性 • そこで、Chat GPTを熟知し、それを補完的道具として使いこなしな がら、既存の業務を一段高いレベルに持ち上げる工夫が必要になる。 • また、Chat GPTの弱点を監視あるいは評価するような新たな仕事も 有望になる。 • 技術は絶えず進歩し、特定ルールに基づく活用状況も変化するので、 新たな活用法やルールのメンテナンスなども有用な作業になる。 26

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Chat GPT活用時の主な制限 • 機能はブラックボックスで、生成されたテキストは背後の理由 を理解することが難しい。 • また、質問は特定の方法で指定されない限り、適切な回答は得 られない。 • また、事前にトレーニングが必要なことから、ツールの必然性 としてリアルタイムデータは自動的には組み込まれない。 • そして、Chat GPTの出力はそもそも独創性が欠如し曖昧なこ ともある。 • このような制限は場合によっては、適切な戦略や組織化に対し て混乱と不確実性をもたらす懸念がある。 27

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まとめ • Chat GPTは、データ、トレーニングモデル、人間の活動など幾つかの可動 部分に依存している。 • トレーニング段階で介在する人間トレーナーは中立的で客観的立場を取る必 要があるが、トレーナーの好みなど特定のバイアスが生じ得ることはOpen AIも認めている。 • 更に、いくら技術が進んでも「真実の情報源がない」状態は解決されない。 このような状況で、Chat GPTの最終回答を受け入れるかどうかは困難な問 題であり続ける。 • 結局、他の技術と同様に、Chat GPTを適切に使用するための負担はある程 度ユーザーの側にあるとの結論に至る。 • それでも、説得力のあるテキストをただちに提供してくれるChat GPTの魅 力は非常に大きい。 • Chat GPTの仕組みとリスクを充分に理解しつつ、自らの作業を補完する有 力ツールとして活用して行くことが重要になる。 • そして、このような変化が生じた世界での自分の立ち位置に思いを巡らすこ とも重要になる。 28

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Part2 ChatGPT & AI は産業をどのように破壊するか 29

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はじめに • Chat GPTは従来の「知識作業」と関連付けられていたタスク を引き受ける力を示している。 • 結果、将来は、各種タスクの多くが人間から機械に移行する可 能性がある。 • しかし、それだけではない。 • 機械の助けを借りて多くのタスクが完了できるようになると、 (過去の歴史では)まったく新しいシステムが登場する。 蒸気機関、電気、コンピュータ、スマホ、など • AIも例外でないとすれば、Chat GPTの可能性を真に解き放つ には新しい種類のシステムが必要になる。 30

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新システムを考える上での例 • 日本のタクシー業界は一部Uberと類似のアプリを導入しては いるがシステムは全く異なる。 全く新しいシステムが登場 既存システムにアプリをアドオン 各社毎に類似アプリが搭載はされたが 世界一高いと悪評 運転者数 37万1,245人はそのまま (平均年齢60歳) ニーズは激減し存続が危ぶまれている 新システムは世界各地に拡散 UberやLyftは全く異なる新しい配車サービス プロのタクシー運転手は20万人(米国5年前) 現在Uberの運転手は約350万人(米国のみ) (変動価格制のため、移動のニーズが増大する 時に多くの運転手を集めることが可能) 31

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新システム成立までの苦悩 - Uberの場合:正当性の欠如 - • 既存市場に参入した際、正当性の課題に直面した。 • 既存の市場関係者(タクシー事業者)に理解されない。 認知的正当性の欠如 • 従来モデル用に設計されていた規制に準拠していないし、規 制機関からの理解も得られない。 社会政治的正当性の欠如 • 市場関係者への認知獲得を先行させて規制当局の許可を得ず に参入した。 • 結果、社会政治的正当性を悪化させることになった。 32

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Uber成立の波紋は広範 • 新しいビジネスモデル(シェアリングエコノミー)が登場し た。 • これは、労働人口(車の運転者)を配車市場に参加させるた めの経済システムの再設計に近い。 • 新しいシステムソリューションが登場した。 • 信頼できる運転案内と何処でも利用可能なモバイル機器があれば、 誰でも配車サービスが提供可能になった。 • そして、古いシステムが破壊され新しいシステムが生まれた。 • 同様のことが、今後、ChatGPT & AIの活用を巡っても発生 することは確実! 33

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既存システムにChatGPTをアドオン - 顧客問合せシステム • システム概要: – 2020年11月~2021年2月にOpen AI社のGPTシリーズを導入 – 米国大手ソフトウェア会社(複数社)に勤務する顧客サービス部門の5179名 を対象に分析 • 顧客とのチャット300万件を分析 – 生産性の尺度はRPH(Resolutions Per Hour):時間当たりの問合せ解決数 – 対象者を2グループ:1)GPTシリーズの支援を受けたグループ, 2)支援を受 けなかったグループに分類 • 支援を受ける問合せ担当者は顧客からのメッセージを読み込んで GPTシリーズから提示されるメッセージを参考に顧客対応を行う。 34

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分析結果1 • AI使用の可否でRPHが 大きく変動 AI使用/未使用によるRPH(生 産性)の相違 – AI未使用者:1.7 – AI使用者:2.5 – (約50%効率UP) • RPHは会話終了までの 時間/正常に解決された 割合等を加味して決定 :全くAIを使わない :AI使用(AI使用前の状態) :AI使用(AI使用後の状態) 35

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分析結果2 • 新人労働者は最初からAI支 援を受けると習熟期間が短 縮化される。 在職期間によるRPH(生産性)の変動 • 半分以下に • 全てRPH2.0で出発 • 最初からAI使用 :最初からAI使用 • わずか2ケ月で2.5 • 5ヶ月後には3.0以上 • 5ヶ月後にAI使用開始 :5~6ヶ月目からAI使用 • 5ヶ月目以降に上昇 • 10ヶ月目に3.2 • 全くAI支援を受けない :全くAIを使わない • 10ヶ月目でやっと2.6 :全くAIを使わない :5~6ヶ月目からAI使用 :最初からAI使用 36

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分析結果3 AI 支援が離職率低下に与える影響 AI 支援開始後の使用期間別 • 前提条件:カスタマーサポート 業界はストレスが大きく毎年 60%退職する特異な職場 • 新人採用と教育の負担が大き く、離職率改善は重要な目標 • AI支援による離職率改善の在 職期間別(上図)、スキル別(下 図)関係図 – AI支援で平均すると8.6%退職 率が低下 – 経験6ヶ月以下の担当者の低下 率が最も大きい。 離職率 低下 AI支援利用の期間 AI 支援導入時のスキル別 離職率 低下 AI支援利用のスキル 37

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既存システムにChatGPTアドオンの まとめ(顧客問合せシステム) • AI支援はRPHを確実に向上させている。 • AI習熟スピード(経験曲線)は最初からAI利用する方が遥 かに効率的である。 – 新人に最初からAI利用を義務づけると育成期間が短縮化でき、 短期間に経験者が育つ。 • AI支援は担当者の顧客対応レベルも改善し、ストレスも軽 減させる。 – 結果、大量離職の課題を緩和し定着率が増す。 • いずれも初心者(未経験者、新規参入者)により効果が大 きい。 38

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GPTシリーズの特徴 • GPTシリーズでデータを増やせば増やすほどAI機能が向上 することが確認された。 • 従って、生成AI機能は今後もレベルアップすることが保証さ れている。 機能向上のこれまでの経過 バージョン アーキテクチャ パラメータ数 年度 GPT-1 12 レベル、12 ヘッドの Transformer デコーダ 。その後にブック コーパス(4.5 GB のテキスト)を使用してトレーニング 1億1700万個 2018 GPT-2 GPT-1にWeb テキスト(40GB)で正規化を修正 15 億個 2019 GPT-3 GPT-2 だが、570 GB の平文によるより大きなスケーリングを可能にする修正を実施。 更に45TBのデータによるトレーニング 1750億個 2020 InstructGPT GPT-3にヒューマンフィードバックモデル(RLHF:reinforcement learning from human feedback)を使用して指示に従うよう微調整 1750億個 2022 ChatGPT InstructGPTを使用して、教師あり学習と人間による強化学習(RLHF)の両方で微 調整し安全性を強化 1750億個 2022 GPT-4 テキスト予測と RLHF の両方でトレーニングされ、テキストと画像の両方を入力として サードパーティ データを受け入れ 100 兆個? 2023 39

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顧客問合せ分野のChatGPT活用例リスト • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • オンライン小売業者の製品に関する質問やサポート (ChatGPTによる出力) 旅行代理店の予約や旅程に関する問い合わせ 銀行や金融機関の口座残高や取引履歴に関する問い合わせ 電子機器メーカーの製品トラブルのトラブルシューティング インターネットサービスプロバイダーの接続問題のサポート ホテル予約お問い合わせサイトの予約変更やキャンセルに関するもの 飲食店のメニューや営業時間に関する問い合わせ 航空会社のフライトスケジュールや遅延情報に関する問い合わせ スポーツブランドの製品に関するサイズや在庫の問い合わせ イベントチケット販売業者のチケット購入や配送に関する問い合わせ 自動車メーカーの車両仕様やメンテナンスに関する問い合わせ オンライン教育プラットフォームの講座登録や支払いに関する問い合わせ 保険会社の保険プランや請求に関する問い合わせ 医療機関の診療予約や医療相談に関する問い合わせ ソーシャルメディアプラットフォームのアカウント設定やプライバシー設定に関する問い合わせ 食品配達サービスの注文や配達状況に関する問い合わせ テレビ放送局の番組スケジュールや番組内容に関する問い合わせ 電力会社の請求明細や料金プランに関する問い合わせ 料理配達サービスの注文や特別オファーに関する問い合わせ スマートコンタクトホームデバイスの設定や連携に関する問い合わせ、などなど 40

41.

想定される新システム勃興へのプロセス • 生成AIの機能は今後とも向上して行く。 • ChatGPT & AIの既存システムへのアドオンが増える。 • そして、この状況の分析結果が情報共有化される。 • この結果を踏まえ、順次適切な場面への自動化も含めた ChatGPT & AI導入が進む。 • 結果、自動化が徐々に進展し失業も増す。 • 一方で、生成AI由来のコスト負担も増し、独自の新しい解 が模索される。 • その延長で新ビジネスモデルが構想され挑戦者が登場する。 • 以上の流れを次頁図に示す。 41

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新システム勃興までのステップ 中期 後期 既存システム にChatGPTアドオン +一部自動化 既存システム にChatGPTアドオン +ほぼ自動化 初期 既存システム にChatGPT アドオン • スキル保有者 より初心者に 優しい 1. ChatGPTによってど れだけ生産性が向上 するか? 2. どれだけ顧客満足が 高められるか? • • 失業開始 スキル保有者 から引退かも 1. 過去のチャットデー タ学習でどれだけ サービス品質を維持 できるか? 2. どの程度人件費削減 との折り合いがつけ られるか? • • 生成AI由来のコス ト負担増大 既存システムと共 存の模索も 1. 費用的にも品質的に も完全自動化も目途 が立つか? 2. 最低限のスキル者 (マネジャー含め) 維持はどのような範 囲か? 新システム ChatGPT ベースの 新システム構築 • • 共存模索を諦め全く新 しいシステムを構想 連携組織への影響波及 大 1. 抜本的ビジネスモデルの 構築 2. 実施にはどのような 障害が存在するか? 3. 障害を乗り越えるた めの施策は何か? 42

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ChatGPT & AI は産業をどのように 破壊するか(まとめ) • 先進技術で、初心者に優しく、専門家に厳しいような技術が 嘗てあっただろうか? – 既存の蓄積データで学習すると、未熟練者の方がAIでスキルアッ プできるのりしろが大きいから • 専門的な分野でも定型化しているものはChatGPTに代替さ れる。 • 新規ビジネスモデルに合理性があれば、最終的には如何 に現存社会での正当性が欠如していても実現される可能 性がある。 • ただし、そこに到るまでのプロセスは機械と人間の共存や 役割分担の調整などで波乱万丈の経緯がありうる。 43

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今後に向けて • いずれにしろ、今後のプロセスは長い。 • 検討および準備への示唆としては、・・ • ChatGPT & AIの進歩で経済システムの再設計のような新たな 可能性が切り拓かれる点は大きい。 • Brynjolfsson論文は実証研究の最初のもの?と思われるが、 今後も更なる研究の成果が登場して来ると期待される。 • また、従来、機械化が困難とされて来た知識作業の暗黙知 も今後は対応可能になることも大きい。 • 潜在的な汎用ツールとしてChatGPT を様々な場面に導入し 分析することで新しいビジネスモデルを発見することが重 要になってくるものと思われる。 44

45.

• Part1: 後記 • 「はじめに」[p.6]は、Agrawal論文を参考に作成した。原論文は ChatGPTに「・・もっと面白い方法で書き直して」と依頼して作成さ れたそうである。従って、ChatGPTは4番目の共著者。 • 寄稿を抽出した[p.7~23]は、共著者73名の43篇の寄稿から成るDwivedi 論文から行った。 • 著者等は経済、経営、マーケティング分野の学者で、中では「教育の将 来」に関する寄稿が多かった。本稿では「教育」関係の寄稿を敢えて除 外し、それ以外の寄稿から適当なものを選択した。 • 「これからの生成AI時代への取組み」[p.24~28]は各種寄稿内容を参考 にして著者が独自に記述した。 • Part2: • 「はじめに」[p.30]もPart1の「はじめに」と同じ。 • 日本のタクシー業界とUberの対比[p.31~33]はAgrawal論文の記述を参 考に著者が独自に記述した。 • 主な結果1~3[p.35~37]は代表例であり、Brynjolfsson論文はその他の 膨大な分析結果が記されている。関心のある方は原論文に当たられたい。 • 「想定される新システム勃興までのステップ」[p.40]はBrynjolfsson論 45 文の記述内容を踏まえて著者が独自に記述した。

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文献