大停滞か新しい機械の時代か

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April 04, 15

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
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“大停滞”か“新しい機械の時代”か 高橋 浩 http://www.economist.com/news/leaders/21594298-effect-todays-technology-tomorrows-jobs-will-be-immense and-no-country-ready

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2010年出版 2011年出版 2

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2013年 タイラー・コーエン 2014年 エリック・ブリニョルフソン アンドリュー・マカフィー 3

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『大停滞』:もうイノベーションは終わったのか 科学技術の進歩、あるいはイノベーションは、 我々を驚くほど豊かにした。しかし、そろそろ こういうイノベーションはもうお終いじゃない か。自動車、飛行機、洗濯機、テレビ、コン ピューターなどといったものは何十年も前か タイラー・コーエン らあり、こういったものは過去にすでに発明さ ジョージ・メイソン 大学教授 れつくされてしまっている。実際にこの20年ぐ らいの間に本質的な技術革新は何もない。イ ンターネットを除いては。我々は容易に収穫 できる果実はすでに食べつくしてしまったの で、これからは経済は非常にゆっくりとしか成 長しないだろう。 http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51880976.html 4

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インターネットは何を変えたか? • インターネットは売上げを生み出す場合もあるが、 私達の生活と思考に及ぼす影響の大きさに比 べれば売上げを生み出す側面は影が薄い。 • インターネットは我々の内面生活を豊かにした。 • しかし、生み出す価値の多くは個人が私的に経 験するもので、GDPには反映されない。 • 大きなイノベーションが起きているのは収入を生 みづらい分野なのだ! • 幸せや人間的成長を得ることには楽観的になれ るが、収入を得たり債務を返済することには悲 観的になる。 「大停滞」:3章より 5

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類似見解:イノベーションの死、成長の終焉 電気、内燃機関、家庭に 引かれた上水道と下水 道、通信(無線と電話)、 化学薬品、石油など(発 明は1870-1900年) 蒸気機関、綿紡績、 鉄道など(発明は 1750-1830年) ロバート・ゴードン ノースウェスタン 大学教授 コンピュー ター、半導体、 インターネッ トなど TED ロバート・ゴード 基幹技術の発明と社会的普及が経済成長をもたらす。 ン: イノベーションの死、 普及が完了し、新たな基幹技術が発明されなければ、経済成長は終わる。 成長の終わり 6 http://www.theatlantic.com/business/archive/2012/12/the-most-depressing-economic-idea-of-2012-the-near-end-of-growth/266715/

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そして中間層がいなくなった • アメリカの不況が長期化する原因は 2008年の金融危機の「余震」 • 金融危機の一つの原因は所得格差! • 資本主義がグローバル化し、ITが発達 すると、先進国には二種類の仕事しか 残らなくなる。 ロバート・ライシュ カリフォルニア 大学教授 2011年出版 – 高度な技能によって高い所得を得る仕事 – 低賃金のサービス業 • アメリカでは富の23%が上位1%の大 富豪に集中するようになった。 7

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TED:作家クリスティア・フリーランドによる・・ 新しいグローバル超富裕層の台頭 • 超富裕層=「スーパーリッチ」 の台頭がもたらす3つの問題 1.「縁故資本主義*」 2.「教育の格差」 3.「中産階級の空洞化」 ビル・ゲイツと ウォーレン・バフェットの所有 する資産合計はアメリカの下層40%、1億2千 万人の総資産と同じ *富裕層同士の身内優先資本主義 8

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米国の生産性と雇用の分離 リーマン・ショック以前の2000年位から分離は発生していた。 9

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『大停滞』からの問題意識 • イノベーションは続いているが、IT(イン ターネット)は雇用を生まず、(多くのサー ビスが無料で)GDPを拡大していない。 • グローバル化は先進国内で富の二極化を 促進している。 • 中間層の低落は消費余力を減少させ、加 えて先進国では少子高齢化が進み需要不 足が深刻化している。 10

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イノベーションのペース がスローダウンしたから 停滞しているのでは? イノベーションの出現率 が上昇して技術が進歩 しない限り経済不振か ら抜け出せない。 イノベーションのペース が速すぎる。その結果、 人間が取り残されてい るのでは? 企業も政府も政策も 人々の考え方や価値観 も見直す必要がある。 11

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『機械との競争』の基本認識 • イノベーションが進み生産 性が向上したのに・・・ • なぜ賃金は低く・・・ • 雇用は少なくなったのか。 • 雇用が中国に移ったのでは なく、ロボットに移ったので はないか? エリック・ブリニョルフソン MIT教授 TED:成長のための鍵 は何?機械との競争 アンドリュー・マカフィー MIT教授 TED:アンドロイドに仕 事を奪われるのか? TED:未来の仕事は、ど うなって行くだろうか? 12

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『機械との競争』の基本認識(続) • 「デジタル技術の加速」は生産性向上をもた らしたが、ついていけない人々を振り落とし た。 • 技術は常に雇用を破壊し、そして常に雇用を 創出する。 問題はバランス。 • この10年は、技術による雇用破壊が雇用創 出よりも速く進んでしまった。 • 今や生産性の向上そのものが全員の利益を 保証するものではなくなった。 • 新たな事態に対する新たな考え方が必要だ。 13

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デジタル技術の特徴 (1)Digital (2)Exponential 情報が劣化せずサービ ス価格が低下しやすい ひとたび 発明され ると、ほと んどコス トなしでコ ピー可 指数関数的発展 (3)Combinatorial イノベーションが組合せ 的で伝搬領域が広い デジタル 技術は以 前の技術 よりも、よ り多くの人 に影響 エリック・ブリニョルフソンTEDより 14

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(1) Digital:ソフトの威力 個人向け経理ソフト 米インテュイット社のスコット・ クック(Scott D. Cook)会長 組織外の無 数の人々の 貢献を活用 申告書作成 の事務員は 17%失業 http://digitalcast.jp/v/17035/ 15

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その一方、大不況の終結以来、設備およびソフトウェア への投資は26%の大幅増加を記録している。しかし、 賃金はおおむね横ばいになっている。 16

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(2) Exponential:チェス盤の法則 • チェスのマス目に1マス目は1粒、2マス目は2 粒、3マス目は4粒と、前のマス目の倍の数の 米粒を置いていくと、最終的に米粒の数は2 の64乗マイナス1粒になる。 法則:指数関数的な増え方は人を欺く • アメリカが設備投資の対象に情報技術を加え たのが1958年。そこからムーアの法則で18ヶ 月ごとに集積回路の密度が倍増。するとチェ ス盤の半分にくるのが2006年。『IT元年から 数えると40億倍になっている』 • 2012年には640億倍になっている! 17

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指数関数的進化はこれから • チェス盤の残り半分に進むのはこれから! • 最近の先行事例はこれから次々に登場す るデジタル・イノベーションの最初の事例 – グーグルの自動運転車 – IBM“ワトソン”のクイズ番組「ジュパティ」での勝 利 – 高品質のリアルタイム機械翻訳 • こうした進化の結果は殆ど全ての職業や産 業に影響を与える。 18

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(3)Combinatorial: コンピュータは何故労働者に先んじたのか 新しい分業 • コンピュータと人間の能力を比較 検討 • パターン認識や複雑な会話では人 間に優位性ありと診た(2004年段 階で)。 フランク・レビイ、 リチャード・マーネン 19 2004

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しかし、最近急激にコンピュータが進化 • グーグルの自動運転車 ⇒最近のデジタル技術によるパターン認識能 力の長足の進歩 • リアルタイム・サービス対応も可能なライオン ブリッジの機械翻訳ソフトGeoFluent ⇒複雑なコミュニケーション対応も顕著な進歩 • IBMのスーパーコンピュータ“ワトソン” ⇒パターン認識能力とコミュニケーション能力 の融合 • 高齢化する労働者のそばで働くこともできる ロボット:バクスター 20

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『機械との競争』からの問題意識 • イノベーションは進んでいるが、人間側のス キルや組織制度が追い付いていない。 • 今後もムーアの法則による性能向上は継続 する。 • コンピュータは過去の汎用機械と比較しても 応用範囲が拡大している。 • 従来人間にしかできないとされてきた知的仕 事もこなし始めた。 • 今後、テクノロジー・パワーは倍々ゲームで 強化され用途は飛躍的に拡大する。 21

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『大停滞』 と『機械との競争』の比較 • • • • イノベーションは進んでいるが・・・ 雇用は増加せず・・・ 失業率は上昇し、賃金は減少している。 所得格差は拡大し、中間層が崩壊している。 経済学者間に現在の経済困難性との関連で、イノベーションについて2つの見方 • 抜本的な次世代イノベー ション促進を準備する必要 がある。 • 科学技術に携わる学者/研 究者を優遇。 • コンピュータは過去の汎用機械と 比較しても極めて応用範囲の広い イノベーション。 • 新たな活用に邁進するのが重要 • そのための新しい教育実践が必要 22

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これだけ大きな認識の相違が発生し ているのは何故だろうか? ITの現実を変えて行く力とそれが生み出すビ ジョンが、新しい経済学の概念形成にとって も重要なのかも? • 大きな認識の相違発生はこの辺りから か?(概念形成までには時間がかかる) • 「新しい機械の時代」とはどのような時代 なのか? 23

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『新しい機械の時代』へ 人々は『大再構築』の産みの苦しみに投げ込まれた • 今日の経済を動かす重要な原動力の一つは デジタル技術 • これは仕事のあり方を変えるとともに、生産 性と成長を牽引する。 • デジタル技術の進歩は経済全体のパイを大 きくする。 • そして、従来人間にしかできなかったことがコ ンピュータでこなせるようになった。 24

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「創造が常に破壊をしのぐ」という 経済法則はない • 経済システムでは価値創造が雇用創出に直結 する前提になっているが、そんな保障はない。 • リーマン・ショックはこの前提が危ういことを露呈 させた。 • 既存組織は古い技術に合わせて作られており、 こうした経済とのミスマッチは深刻化する。 • 多くの人は自らが貢献する方法を見つけられず、 その結果、雇用が減ったと考えられる。 • 働き手は自らを変える必要があり、社会も変わ らねばならない! 25

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モラベックのパラドックス • 『高度な推論よりも感覚運動スキル の方が多くの計算資源を要する。』 ハンス・モラベック カーネギーメロン 大学教授 – コンピュータに知能テストを受けさせたりチェッ カーをプレイさせたりするよりも、1歳児レベルの 知覚と運動のスキルを与える方が遥かに難しい。 • 体の動きと知覚を上手く組み合わせる必要の ある肉体労働ははるかに自動化が難しい。 – 庭師、美容師、介護ヘルパーが簡単にコンピュー タに置き換えられることはない。 Wikipediaで「モラベックのパラドックス」 26

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これからの取り組みについて 米国の全ての仕事の47%は2034年までには自動化されるであろう ㇾ ㇾ ㇾ ㇾ ガソリンスタンドの給油員 スーパーのレジ担当者 マイケル・オズボーン オクスフォード大学教授 「雇用の将来:仕事はいかにコンピュー ターの影響を受けるか?」 Carl B. Frey, Michael A. Osborne, Oxford 大学、2013年9月 http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/download s/academic/The_Future_of_Employment.pdf 27

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コンピューター化の波にさらされる リスクが高い職業は沢山ある 702位 701位 700位 699位 698位 697位 696位 695位 694位 693位 ワースト10 • 電話勧誘者 土地の権利書審査員 裁縫師 数理技術者 保険業者 時計修理工 荷役労働者 税務申告援助者 写真処理技術者 会員番号登録実務者 ベスト10 1位 レクリエーション療法士 2位 修理工監督者 3位 緊急事態管理者 4位 メンタルヘルスと薬物 常用者への救済者 5位 聴覚医療従事者 6位 作業療法士 7位 義肢装具士 8位 健康管理指導員 9位 口腔外科医 10位 消防管理者 職業を702に分類 28

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機械と人間の未来(1) http://blogs.itmedia.co.jp/business20/20 14/06/post-f631.html 29

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社会変動の津波の例 http://www.hangthebankers.com/47-of-all-jobs-will-be-automated-by-2034-and-no-government-is-prepared/ 30

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“教育がポイント”! • リーダーシップ、チーム作り、創造性など • これらは機械による自動化が最もむずかしく、 ダイナミックな経済で最も重要なスキル • 大学を出たら毎日上司にやることを指示され るような仕事に就こうなどとは考えないこと – こういう職場ではいつの間にか機械との競争に 巻き込まれる。 – 上司のこと細かい指示に忠実に従うことにかけて は機械の方がはるかに得意だということを忘れて はいけない。 31

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新たな仕事ができるよう再教育する必 要がある。 • 技術の進化によってロースキルの仕事は失 われる。 • 創造性や高いスキルが求められる新たな仕 事ができるように再教育する必要がある。 • 教育を改善するには、教育を再発明し新たな モデルを作り出す必要がある。 • コンピューターが雇用を減らしているからこそ、 次の起業家が新産業を興すことができるよう に後押しする必要がある。 32

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現代は交差する要因が 多面的で複雑化が進行! 企業経営者と個人(一般労働者) グローバリゼーションとローカリゼー ション 持続的成長と破壊的イノベーション 繁栄と貧困 ≒ 格差の拡大 それに人間と機械も加わる。 –そして、二律背反を一層深刻化させる。

34.

新しいインフラ構築に向けて • 「コンピューター(ロボット)と雇用」の問題だけ が特に重要な訳ではない。 • 実際には「働き方」に影響を与えるシステム (制度設計なども)、サービス、コンセプトなど、 多様な側面がある。 • 起業家側になれるか、労働力しか持っていな い者の側に留まるかの立場の相違も重要に なる。 • いずれも、教育との関係が大きい。 34

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マイクロマルチナショナルの主張も ( 10人程度の従業員で全世界を相手に製品を売る企業) • どんどんコストが安くなる機械を使いこなせ る人間や企業が増え続けることが重要! Googleチー フ・エコノミスト ハル・ヴァリアン – 超小型多国籍企業(マイクロマルチナショナル ) が増えるとその合計は今まで成功したベンチャー 1社をはるかに超える雇用と富をもたらす。 • デジタルで新たに作った製品は、次の起業家 が使えるパーツになる。 • この組み合わせ爆発こそが指数関数的に進 化するテクノロジーを凌駕することが出来る唯 一の鍵である。 「機械との競争」 p.116(ハル・バリアンによる) 35

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インダストリー4.0で労働者は機械となるのか? • 従来独立していたCRM、PDM、SCM、CADなどを統 合した”スマート・ファクトリー” • 注文を受けると自動的にサプライヤーに発注 – 納品材料にはデータが付与され、「お客X向け製品Yに 組み込まれるため工程Zに向かう」 – IoT(Internet of Things) 、M2M(Machine to Machine)も 手段として包含 • しかも、”過去”のデータに基づくのでは無く、工場 の”今”を分析するビッグデータも手段として包含 • “機械 vs 労働者”というより、”労働者そのものが 機械化し”、労働者を機械として統合システムに呑 み込む構図か? 36

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スマート・ファクトリーの夜明け Siemens’ state-of-the-art Electronic Works facility in Amberg, Germany, integrates its manufacturing, production37 and automation systems to process 1.6 billion components from 250 suppliers with 99% reliability.

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これからの時代認識の不確実性 ? “ローカル”から”グローバル”へ 1750付近 第1次産業革命 水と蒸気の力を 体系的に用いた 機械的生産 1900付近 パワー革命(2次) 集中化された発 電による電力イン フラで分業による 大量生産 “ローカル”から”グローバル”へ 今日 1970付近 デジタル革命(3次) デジタルコンピュー ティングとシステム知 性を強化した通信技 術基盤 情報革命(4次) 誰もが、また全てが 接続された“巨大な 脳”としてのネット ワーク情報基盤 Sabina Jeschke, “Everything 4.0? –Drivers and Challenges of Cyber Physical Systems”より 38 http://www.ima-zlw-ifu.rwth-aachen.de/fileadmin/user_upload/INSTITUTSCLUSTER/Publikation_Medien/Vortraege/download//Forschungsdialog4Dez2013.pdf

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まとめ • “新しい機械の時代”は招来しそうだ! • だからと言って、GDPが上昇するかどうかは 分からず、“大停滞”は続くかもしれない。 • “大停滞”が続く場合でも、仕事内容は“新し い機械の時代”の影響によって大きく変わり そうだ! • だから、このような変化への準備を緊急に実 施しなければならないという事実は変わらな いだろう。 39

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まとめ(続) • 明るい未来は描きにくい。ピケティの予想はダ メ押しで厳しい未来を感じさせる。 • 多くの人はまともな雇用を確保し健全な働く動 機を維持するだけでもかなりの努力を強いら れそう。 • 社会を挙げた支援が必要だが、特に教育の担 う役割は大きく、教育の再発明が必要 • “マクロマイクロナショナル”に代表される起業 家精神の発揚も待ったなし。 • ドイツのインダストリー4.0的取組みも重要 • 抜本的構想に基づく新たな取組みが必須 40