アジャイルマニフェストの これまでと、これから

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September 30, 23

スライド概要

XP祭り2023で、アジャイルマニフェストのこれまでと、これからを調査・研究・発表しました。

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全体性探究家、忘れられたXPer、アジャイル実践者、 『「アジャイル式」健康カイゼンガイド』著者 https://amzn.to/3zNK4cJ

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

アジャイルマニフェストの これまでと、これから 〜「生き生きした世界」を生み出すために必要なこと〜 XP祭り2023 fホール 16:00〜 懸田 剛

2.

チームや個人の変容… 懸田 剛

3.

懸田剛 XPの旅 〜そして全体性へ〜 XP祭り2022 https://www.docswell.com/s/tkskkd/5MN4XZ-journey-of-xp-xpjug2022 3 XP祭り 2022 2022/10/01

4.

22年前…

5.

そろそろ 見直してもいいんじゃないの? という自由研究

6.

アジャイルマニフェストが 生まれた経緯

7.

ジム・ハイスミス、マニフェスト17の一人

8.

Wild West to Agile • 著者、ジム・ハイスミ スの個人史と、ソフト ウェア開発の進化と革 命、革新的な先駆者、 技術革新とマネジメン トのトレンドを、撚り 合わせて紡がれた作品

9.

Agile Manifesto前夜の話… • 前段はケント・ベックが主催した2000年春のXP支持者と部外者 (Jim)の集まり • 「軽量(light)プロセス」の提案者が集まった • 2000年9月から、アンクルボブの音頭で人を集め始める • 「他に呼んだほうがいい人いない?」と招待 • 女性は誘っても来なかった… • きっと飲んで騒いでスキーするだけだと思ってたんじゃないかな? 『Wild West to Agile』

10.

Wild West “西部開拓時代”

11.

ソフトウェア開発時代の変遷(Jim視点) 1966-1979 開拓時代 1980-1989 構造化時代 (記念碑的方法論) ・構造図 データフロー図、ワーニア・ ・言語コンパイラ、言語利用に関する オア図、プログラム構造図 書籍 ・エンティティ関係図 ・フローチャート、HIPOダイアグラム ・ウォーターフォール、スパイラル、 ・モジュールプログラミング 進化型 ・プロジェクト管理のためのガントチ ・STRADIS、DSDM、Yourdon ャート、プログラム評価レビュー技法 ・CASEツール: エクセラレータ、デ (PERT) ザインマシ ・METHOD/1 ・『プログラミングの心理学』ワイン バーグ ・『人月の神話』ブルックス 1990-2000 アジャイルのルーツ (RAD&反復プロセス) ・ラピッドアプリケーション開発 (RAD) ・ラディカル・アプリケーション開発 →適応型ソフトウェア開発へ ・スクラム、エクストリーム・プログ ・PMI-PMBoK、クリティカルチェー ラミング、DSDM、フィーチャー駆動 ン (FDD) ・『銀の弾丸はない』ブルックス ・RUP、CMM、UML ・『ピープルウェア』デマルコ/リスタ ー 2001〜 アジャイルの時代 ・アジャイル宣言 ・スクラム、XP、クリスタル、 ・リーン、カンバン、DevOps ・アジャイルプロジェクトマネジメン ト ・SWEBOK ・ローコード、Cloudベース (・リーンスタートアップ、デザイン思 考、組織アジャイル、プロダクト開 発、生成AI…) 『Wild West to Agile』

12.

ソフトウェア開発時代の変遷(Jim視点) 1966-1979 1980-1989 開拓時代 構造化時代 (記念碑的方法論) ・正解はわからない ・アドホック ・工学を目指す ・コンピュータ>>>人 ・エンジニアリングとマ ネジメントの融合 ・コマンドコントロール ・規模が拡大する ・緩やかな変化 ・人は機械扱い 冒険 最適化 1990-2000 アジャイルのルーツ (RAD&反復プロセス) ・ネットで変化が加速 ・重厚化の弊害と反発 ・軽量手法の幕開け ・「人」へのフォーカス 冒険 -2001 アジャイルの時代 ・変化はますます加速 ・ビジネスに広がる ・規模が拡大する ・キャズムを越える ・ITとビジネスが一体化 冒険?最適化?

13.

アジャイルマニフェストを 深掘りする

15.

プロセスやツールよりも、 個人と対話 →「よいソフトウェアを作る方法」

16.

(個)人 相互作用

17.

「個人と対話」よりも 「(個)人」と「相互作用」のほうが ニュアンスに近い?

18.

「個人」と「相互作用」によって (プロセスやツールに従うよりも) よりよいソフトウェアを 作ることができる

19.

より生産性を高めるためには 何をすればよいのだろう?

20.

包括的なドキュメントより、 動作するソフトウェア →「進捗のモノサシ」

21.

アジャイルはドキュメントを作らないは誤解 • 進捗の尺度としては役に立たない(変わるから) • 同じチーム内での情報伝達の手段としては時と場合に よる(話ができるから)

22.

自分たちの真の進捗を知るには、 何を尺度とすればよいだろう?

23.

契約交渉よりも、顧客との協調 →「顧客との関係性」

24.

関係者とどのような関係を 築けばよいのだろう?

25.

計画に従うより、 変化への対応 →「変化への対応の仕方」

26.

私たちは変化や不確実性に対して どのように振る舞えば よいだろう?

27.

マニフェストの本質は 生まれた経緯にあるのでは?仮説

28.

マニフェストはマニフェストから生まれた • “アジャイルマニフェストのミーティングは、その信念 を反映したものであった。それは、望ましい結果が明 記された正式なアジェンダからではなく、イノベーシ ョンと驚きを促進する協調的で自己組織的な環境から 生まれたからである。” 『Wild West to Agile』

29.

意見の違いよりも、一致を見つける(寛大な傾聴) • “スノーバードでの会議中、出席者はそれぞれのアプロ ーチについて哲学や詳細を共有した。私たちは違いを 発見したが、驚くべき共通点も発見した。このコラボ レーションが、世界に深遠かつ永続的な影響を与える 結果を生むことは間違いなかった。” 『Wild West to Agile』

30.

なぜスティーブ・メラーがいたのか? • “ある時私たちは、ボブ・マーティンがスティーブ・メ ラーを招待したのはなぜだろう、彼は軽いメソドロジ ストには見えないからだろうと思いながら話してい た。(中略)スティーブが「やあ、僕はスティーブ・メ ラー、スパイなんだ」と自己紹介すると、みんな目が 大きくなった。なんてこと、言ってくれたんだ。” 『Wild West to Agile』

31.

スティーブ・メラー

32.

“私たちは彼の現在のテクニックに同意しているわ けではないが、彼の意図は私たちの意図と同じだ。 以前は大きな意見の相違があったのに、 突然、大賛成になったんだ。 このようなマジックは、 私が「寛大な傾聴」と呼んでいるもので、 ほとんどの会議では見られないものだ。” 『Wild West to Agile』

33.

違いではなく、共通点を見つける 手段より、意図・ニーズをみつめる

34.

「する」ことではなく「意思決定基準」を提供した • なぜモニュメンタルな方法論は衰退し、アジャイルな方法論が台頭 したのか?(中略)それらは、私たちに何かを「する」ことを課し ていた(中略)しかし、意思決定の根拠となる価値声明は不足して いた。個人がこれらのアプローチをどのように適応させるかを決定 するのは困難であった。 • アジャイルマニフェストの価値観-プロセスやツールよりも個人と相 互作用-は、アジャイリストが信じていること、つまりマインドセッ トが意思決定の基準を提供することを表現している。 • (『Wild West to Agile』より)

35.

何を行うかは マインドセットを元に その場の人が意思決定を行う

36.

考えることを放棄しない!

37.

含んで超える • 成人発達理論では、「含んで超える」という重要な考 え方があります。それは、私たちは過去の発達段階の 肯定的な側面を含みながらも、過去の発達段階の限界 を乗り越える形で新しい発達段階に到達するという考 え方です。 • (『成人発達理論から考える成長疲労社会の処方箋』より)

38.

含んで超える=選択肢が増える プロセスやツール 包括的なドキュメント 契約交渉 計画に従う 個人と相互作用 動くソフトウェア 顧客との協調 変更に対応する

39.

マニフェストの本質は? • マニフェストから生まれた、マニフェスト • 違いよりも、共通点を見出す • 手段よりも、意図・ニーズを見出す • 意思決定基準を提供し、現場で意思決定できる • 含んで超える、選択肢を広げる

40.

これまでの改定案を眺めてみる

41.

Kent Beck(2010) • 個人と相互作用よりも、チームビジョンと規律 • 個人の最適化を超えたチームビジョンと規律が、チームを生産的にする • 動くソフトウェアよりも、検証された学習 • ソフトウェアの前に、誰がお金を払ってくれる顧客を見つける仮説検証が必要 • 顧客との協調よりも、顧客の発見 • 新規事業では顧客と協調はできないので、発見が優先される。 • 変化に対応するよりも、変化を起こす • 受け入れるは受動的、新規事業は能動的に変化を起こす必要がある https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/SL-07-2015-0058/full/html

42.

Majkic 2023 • 「より組織視点、製品開発視点が組み込まれた改定案」 • プロセスやツールよりも、顧客中心主義 • 包括的な文書よりも、実用的なソフトウェアと実用的な洞察 • 契約交渉よりも、ステークホルダーの協力 • 固定された計画に従うのではなく、変化や不確実性を受け入れる • 階層的なチームよりも、多様性、公平性、包括性 • 短期的デリバリーよりも、持続可能性 https://www.whatisscrum.org/the-agile-manifesto-2023-update/

43.

Agile2 (2020) • アジャイルムーブメントで言及 されていない、軽んじられてい る部分を見直しアジャイルを再 構成するために提唱された。 (リーダーシップ、構造、多様 性、エンジニアリング、など) • アジャイルマニフェストを模し た価値と原則で構成 https://agile2.net/

44.

Agile2の価値 • 私たちは、これらすべてを大切にし、それぞれの状況に応じてバランスを とり、あるいは組み合わせるよう努めます • 思慮深さと処方箋 • 成果と成果物 • 個人とチーム • ビジネス理解と技術理解 • 個人のエンパワーメントと優れたリーダーシップ • 適応性と計画性

45.

変更点を整理すると… • 受託開発から、プロダクト開発よりへ • ひとつのチーム作業から、大規模チーム・組織的へ • 持続可能性、多様性などの新しい価値観への対応へ

46.

アジャイルマニフェストを 更新するとしたら?

47.

異なるコンテキストでも共通の土台となるものは? • 受託開発、製品開発、組織DX、スタートアップなどコ ンテキストが皆異なる • 違うコンテキストでも共通するものは何か? • 異なるコンテキストの共通点に意味がある? • コンテキスト毎に変えたほうが良いのか?それとも?

48.

マニフェスト更新の上で重要なことは何か? • マニフェストの中身よりも、生み出すプロセス • それぞれの違いよりも、共通点を見出す • やり方よりも、意図・ニーズ・願い • 過去を否定するのでなく、これまでを含め越えていく

49.

時代を作ってる人たちが集まり 新しいマニフェストが 創発されることが重要 (果たしてされるのかな?)

50.

現場でやってみるといいかもしれないこと • 「含んで超える」なら今の時代は何を大事にしたい? • アジャイルマニフェストの問いに対して考えてみる • マニフェストの左と右、どの程度大事にしている? • ドメインごとに分けるなら?まとめるなら?

51.

生き生きマニフェスト(仮)

52.

「生き生きとした世界」とは? • 人々が「生き生き」している • 自分らしくいられる状態 • 「人間理解のパラダイム」をベース • 個人ごとの違いやパーソナリティ、心の特性の理解 • すべての存在に価値があり、大切に扱われる • 存在の尊厳(Dignity) • 全体性

53.

生き生きマニフェスト(案) • 個人と相互作用より、多様性と人への共感 • 動くソフトウェアより、満たされた・満たしたいニーズ • 顧客との協調より、関係者の巻き込みと共創 • 変化に対応するより、願っている未来の創造

54.

個人と相互作用より、多様性と人への共感 • これからますます「共感」が鍵になる(予言) • 共感型のリーダーシップ • 個の多様性の理解(それぞれの個性、どう活かすか?) • 顧客・利用者・関係者への共感 • 自分自身への共感 • なにより、自分自身に共感できてない • 自分に共感するところから始める

55.

「共感できない」は共感ではない 「共感できない」のは 自分に共感できていないから

56.

動くソフトウェアより、満たされた・満たしたいニーズ • 潜在的ニーズを掴めているかどうかが大事 • どんなニーズが隠れているのか? • 明らかになっているか? • 検証できているか? • ニーズを満たせているかを大事に • 満たせるか?満たそうとしているか? • 無自覚なニーズを一緒に探索する

57.

顧客との協調より、関係者の巻き込みと共創 • 共創の時代 • まずは巻き込みから(招き入れる) • 関係者の「当事者意識」を醸成する • 「全員で創っている」感 • 顧客も創るプロセスから参加する

58.

変化に対応するより、願う未来の創造 • 変化は自ら生み出すもの • 変化ではなく「願う未来」を自分で作る • 2種類の「変化を作る」を見極める • 「恐れの回避」無自覚な回避行動 創造 • 「願いの実現」創造行為 • 「恐れ」を自覚し勇気を持って「願い」に向かう

59.

含んで超えろ! プロセスやツール、 ドキュメント、契約、計画 個人と相互作用 動くソフトウェア 顧客との協調 変更に対応する 多様性と人への共感 満たした・満たすべきニーズ 関係者の巻き込みと共創 願う未来の創造

60.

あらためて 今の時代のマニフェストを 考えてみよう〜