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October 10, 26
スライド概要
DFT講習会第1回の資料です。
DFT講習会 第1回 密度汎関数理論の基礎 ― 量子多体問題から Hartree–Fock, Hohenberg–Kohn,Thomas–Fermi, Orbital-Free DFT まで ― dc1394 2026年10月10日
本日の流れと到達目標 1 第一原理計算の課題 量子多体問題という壁 2 基礎方程式と Hartree–Fock 法 3N 次元の波動関数とその一体近似 3 Hohenberg–Kohn の定理 密度で全てが決まる(Kato の定理による 直観) 4 局所密度近似と Thomas–Fermi 理論 一様電子ガスから最初の密度汎関数へ 5 TFDW から Orbital-Free DFT へ 到達目標(60 分) • 多体波動関数ではなく電子 密度で議論できる理由( HK 定理・Kato の定理) を説明できる • LDA の運動エネルギーと 交換エネルギーを一様電子 ガスから導ける • TF/TFDW/Orbital-Free DFT の位置づけと限界を 述べられる • Hartree–Fock 法と Kohn–Sham 法の関係を 理解する準備ができる そして Kohn–Sham 法への橋渡し 2
1 第一原理計算の課題 なぜ密度なのか ― 量子多体問題という壁 3
第一原理計算とは Part 1 • 第一原理計算(first-principles calculation):実験データや経験パ ラメータに頼らず,量子力学の基礎 方程式(Schrödinger 方程式,必要 なら相対論的補正)から物性や化学 反応を予測する計算.化学分野では ab initio(非経験的)計算とも呼ばれ る. • 研究対象の例:ウイルスのタンパク 質と薬剤の相互作用,光合成・窒素 RBD の電荷分布(赤:負,青: 固定のメカニズム,超伝導体,太陽 正)[1] 電池・燃料電池・二次電池の材料 … • 右図:SARS-CoV-2 の S タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD, 144 残基・2100 原子)に対する DFT 計算 [1]. • 原理的には,物質の構造・反応・物性が計算機上で「完全に」わか るはず → しかし現状はそうなっていない.なぜか? [1] P. Adhikari, N. Li, M. Shin, N. F. Steinmetz, R. Twarock, R. Podgornik, W.-Y. Ching, Phys. Chem. Chem. Phys. 22, 18272 (2020). 4
第一原理計算の課題:量子多体問題 Part 1 • Born–Oppenheimer 近似(後述)の下で最も厳密に近い方法が Full CI(完全配置間相互作用).基底関数 K 個,電子 Nα + Nβ 個 のとき,必要な Slater 行列式の数は • 組合せ論的(指数的)に増大する.あまり正確ではないが,おお ざっぱに,「原子数の階乗で増大する」と言われることもある. • 一方,1 g の水でさえ約 10²³ 個の原子を含む: • マクロな系については,世界中のスーパーコンピュータを全て使っ ても現実的な時間で厳密解は得られない. • 起源は Schrödinger 方程式が多体問題であること.古典力学の三 体問題でさえ一般解はなく,量子力学では粒子が波でもあるため, 量子多体問題はいっそう困難. 5
Part 1 Dirac の言葉(1929) 「物理の大部分と化学の全体を 数学的に取り扱うために必要な 基本法則は完全にわかっている .困難なのは,これらの法則を 厳密に適用すると,複雑すぎて 解くことのできない方程式に行 き着いてしまうことだけである .」 ── したがって,近似的な実用計 算法の開発が望まれる(同論文の続 き).この論文で Dirac は交換相互 作用の統計的取り扱い(後の Dirac 交換)にも触れている. Paul A. M. Dirac (1902–1984) P. A. M. Dirac, "Quantum Mechanics of Many-Electron Systems," Proc. R. Soc. London A 123, 714 (1929). 6
DFT でも壁はある:計算量 Part 1 • 本講習会の主題である密度汎関数理論(DFT)でも, 標準的な Kohn–Sham 法の計算量は O(N³)(N:原 子数〜基底関数の数).10²³ 原子のマクロな系は依 然として不可能. • 計算量が原子数に比例する オーダー N(線形スケー リング)DFT:CONQUEST(Bowler, Miyazaki ら) は 100 万原子を超える系を約 20 万コアで計算し, 京・富岳で稼働 [2,3].OpenMX の O(N) DC-LNO法 [4] など日本発の手法も多い. • ただし O(N) 法には密度行列の局所性などの近似が入 る.「日常的に扱える」規模は数百原子. • 本講習会の目標:まず DFT が「なぜ密度だけでよい のか」を理解する. [2] D. R. Bowler, T. Miyazaki, J. Phys.: Condens. Matter 22, 074207 (2010). [3] A. Nakata et al., J. Chem. Phys. 152, 164112 (2020). [4] T. Ozaki, M. Fukuda, G. Jiang, Phys. Rev. B 98, 245137 (2018). 7
2 基礎方程式と Hartree–Fock 法 波動関数の理論 ― 3N 次元との闘い 8
Schrödinger 方程式と Dirac 方程式 Part 2 • 量子力学の(非相対論的)基礎方程式. 1926 年,E. Schrödinger.1 粒子・定 常状態では • 原子番号の大きい元素では(特殊)相対 論効果が無視できない → Dirac 方程式 (1928 年,P. A. M. Dirac.スピン 1/2 の粒子に対する相対論的方程式) Erwin Schrödinger (1887–1961) • 4 成分の方程式.第一原理計算ではスカラー相対論近似や ZORA・Douglas–Kroll–Hess などの 2 成分近似で扱うこと が多い(本講習会では扱わない). • 以後は非相対論的な Schrödinger 方程式を出発点とする. 9
Part 2 Hartree 原子単位系 • 式を簡潔にするため,第一原理計算では Hartree 原子単 位系を用いる(Rydberg 単位系を使うコードもある:エ ネルギー単位が 1/2 hartree = 13.606 eV). 量 長さ 質量 電荷 単位 Bohr 半径 a₀ 電子質量 mₑ 電気素量 e エネルギー Hartree Eh 値 5.29177 × 10⁻¹¹ m = 0.529 Å 9.109 × 10⁻³¹ kg 1.602 × 10⁻¹⁹ C 4.35974 × 10⁻¹⁸ J = 27.2114 eV = 627.5 kcal/mol ℏ/Eh 2.419 × 10⁻¹⁷ s 時間 • この単位系では ℏ と Coulomb 則の比例定数 1/(4πε₀) が ともに 1 になる.単位記号はまとめて a.u.(atomic unit )と書くことが多い. • 以後,特に断らない限り Hartree 原子単位系を用いる. 10
水素原子に対する Schrödinger 方程式 Part 2 • 最も簡単な水素原子(核は固定).Hartree 原子単位系で定 常状態の方程式を書くと ■ 電子の運動エネルギー演算子 テンシャル ■ 核–電子の Coulomb ポ • 見かけは単純で解析的に解ける(実際に解くのは大変:極座 標での変数分離,Laguerre 陪多項式,球面調和関数 …). • 基底状態(n = 1)のエネルギーは −1/2 hartree = −13.6 eV.波動関数と密度は • 指数関数なので,核の位置(r = 0)で密度は「折れ」(カス プ)をもつ.この密度 ρ(r) = e⁻²r/π は本講習会で繰り返し登 場する(Kato の定理,Thomas–Fermi モデルの検証). 11
Born–Oppenheimer 近似 Part 2 • 電子と原子核の質量差が大きい(陽子の質量は電子の 1836 倍)ので,電子から 見ると核は「静止」しているとみなせる: • 電子と核の運動を分離し,核の位置 RA を固定した電子系の Hamiltonian を解 く: ■ 第 1 項:電子の運動エネルギー v(r)) ■ 第 2 項:核–電子 Coulomb(外部ポテンシャル ■ 第 3 項:電子–電子 Coulomb • 得られた全エネルギー E(RA)(+核間反発)が核に対するポテンシャルエネルギ ー面(PES)になる. • 核の運動は PES 上で扱う:核を古典的な Newton 方程式で動かすのが第一原理 分子動力学(AIMD).核も量子的に扱う方法(経路積分 MD など)もある(本 講習会では扱わない). • 以後「Schrödinger 方程式」といえば,この電子系の方程式を指す. 12
ヘリウム原子と N 電子系:3N 次元の壁 Part 2 • Born–Oppenheimer 近似の下でヘリウム原子(Z = 2,電子 2 個) の方程式を書くと ■ 運動エネルギー の項が問題 ■ 核–電子 Coulomb ■ 電子–電子 Coulomb ← こ • 3 次元 × 2 = 6 次元(+スピン)の偏微分方程式.1/r₁₂ があるため 変数分離できない.ヘリウムなら高精度の数値解法(Hylleraas 型展 開など)で解ける. • 一般の N 電子系では 3N 次元(+スピン)の偏微分方程式: • 各次元をわずか 10 点で離散化するだけでも,波動関数の値の個数は • 波動関数を直接求めるのは明らかに無謀 → 何かよい方法はないだ ろうか? 13
Hartree–Fock 法(1):Slater 行列式 Part 2 • 多体問題を一体問題に帰着させる(一電子近似)最も基本的な方法. Hartree(1928)の積波動関数を,Fock と Slater(1930)が反対称化し た. • 波動関数をスピン軌道 χᵢ(x) = φᵢ(r)σ(s) の Slater 行列式 1 個で近似する : • 行列式なので Pauli 原理を自動的に満たす:2 電子の交換で符号が反転し ,同じスピン軌道を 2 度使うと 0 になる(電子の反対称性). • 変分原理:Slater 行列式の範囲でエネルギー期待値を最小化する(真の基 底状態エネルギーの上限を与える) • 3N 次元の関数を,N 個の 3 次元関数(軌道)で表す → 決める量が劇的 に減る. 14
Part 2 Hartree–Fock 法(2):エネルギーと Fock 方程式 • Slater 行列式でのエネルギー期待値(規格直交したスピン軌道): ■ Jᵢⱼ:Coulomb 積分(古典的な電荷雲どうしの反発) スピンの電子間だけ非零) ■ Kᵢⱼ:交換積分(反対称性の帰結.同じ • 規格直交条件の下で Lagrange 未定乗数法により変分すると,一体の固 有値方程式(Hartree-Fock 方程式)が得られる: • 交換演算子 K̂ は非局所(積分演算子):χ(x) の値だけでなく関数全体 に依存する. • Jᵢᵢ − Kᵢᵢ = 0 なので,電子の自己相互作用は厳密に打ち消される(近似 DFT ではこれが破れる). 15
Part 2 Hartree–Fock 法(3):Roothaan–Hall 方程式とコスト • 軌道を有限個の基底関数(Gauss 型関数,平面波,数値原子軌道など)で展 開すると,微分方程式が一般化固有値問題になる: • F̂ は軌道自身に依存する → 自己無撞着場(SCF)の反復で解く. • 計算コスト:2 電子積分 (μν|λσ) が形式的に O(K⁴)(スクリーニングで O(K²) 程度まで下がる),対角化が O(K³). • Koopmans の定理:占有軌道エネルギーの符号を変えたものがイオン化エ ネルギーの近似(軌道緩和を無視) • 注意:全エネルギーは軌道エネルギーの単純な和ではない(電子間相互作用 の二重計上を引く) • 同じ注意は Kohn–Sham 法でも必要になる. ※ 閉殻系で α・β スピンに同じ空間軌道を使うのが RHF,スピンごとに別の軌道を許すのが UHF.本講習会では立ち入ら ない. 16
Part 2 Hartree–Fock 法(4):限界と post-HF,DFT との関係 • HF に欠けているもの=電子相関.相関エネルギーの定義(Löwdin 1959): • 全エネルギーの 1% 程度だが,化学結合のエネルギーや反応障壁 と同程度の大きさ → 化学には不可欠. • post-HF 法:Møller–Plesset 摂動論(MP2, MP4),配置間相互 作用(CI:Full CI は基底内で厳密解),結合クラスター法(CC: CCSD(T) は「黄金標準」).コストは O(N⁵)〜O(N⁷).系統的に 精度を上げられるのが利点で,化学分野で広く使われる. • DFTへの影響:HF 交換を一部混ぜた混成汎関数(B3LYP,PBE0 ,HSE).また Kohn–Sham 方程式は Fock 方程式と同じ「一体 の固有値方程式」の形をもつ(非局所な K̂ の代わりに局所ポテン シャル). • もう一つの道:波動関数を経由せず,3 次元の電子密度 ρ(r) を基 本変数にする → 密度汎関数理論(DFT).以降で詳しく述べる. P.-O. Löwdin, Adv. Chem. Phys. 2, 207 (1959). 混成汎関数:A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993) ほか. 17
3 Hohenberg–Kohn の定理 密度で全てが決まる ― Kato の定理による直観 18
電子密度という 3 次元の量 Part 3 • |Ψ|² は 3N 次元空間での確率密度(Born の確率解釈).電子密 度 ρ(r) は,そのうち N − 1 個の電子座標(とスピン)を積分し ,電子数 N を掛けたもの: • ρ(r) は N によらず 3 次元の関数.「点 r に電子が見いだされる 密度」で,X 線回折などで観測できる物理量. • (注)ρ(r) は「波動関数の絶対値の 2 乗」そのものではない. |Ψ|² は 3N 次元の量で,ρ はそれを 3 次元に縮約したもの. • 問い:ρ(r) から系のエネルギーや他の物理量も決まるのではない か? • もしそうなら,3N 次元の Ψ ではなく 3 次元の ρ を求めればよい → 1964 年,Hohenberg と Kohn がこれを定理として示した( 密度汎関数理論,DFT). • 歴史的には Thomas と Fermi(1927)が密度だけで原子を記述 する模型を先に提案していた(Part 4). 19
Part 3 Hohenberg–Kohn の第 1 定理 定理(HK-1):基底状態が縮退していない N 電子系において,基底状態の電子密度 ρ₀(r) は外部ポテンシャル v(r) を定数を除 いて一意に決定する. • 前提:基底状態 Ψ₀ が非縮退であること,ρ₀ が何らかの v(r) の基底状態密度であること( v-表示可能性). • 意味:v が決まれば Hamiltonian が決まり, その基底状態 Ψ₀ が決まり,基底状態の全て の物理量が決まる: Walter Kohn (1923– 2016) • 「v ↦ ρ₀ の対応が全単射(1 対 1)である」という主張.証明は短 い背理法(本講習会では省略). • 実際の意味は,次の Kato の定理を使うと直観的にわかる. P. Hohenberg, W. Kohn, Phys. Rev. 136, B864 (1964). W. Kohn はこの業績で 1998 年ノーベル化学賞. 20
Part 3 Kato の定理(カスプ条件) • 点電荷の核をもつ Coulomb 系の厳密な固有関数について(Kato 1957):核 A のまわりで球平均した密度 ρ̄(r) は核の位置で • 水素原子の基底状態で確認: • 厳密な密度は核の位置で「折れ」(カスプ)を もち,その傾きは核電荷 Z で決まる(右図). • 意味:核の近くで Ψ ≈ Ψ(0)(1 − Zr) なので ∇²Ψ ≈ −2ZΨ(0)/r.この 1/r 発散が −(Z/r)Ψ を打ち消し,局所エネルギー ĤΨ/Ψ が有限に保 たれる.カスプ条件はこの相殺条件そのもの. 水素様原子(Z = 1, 2, 3)の密度:核で のカスプの傾きは −2Z • 基底状態に限らず,全ての束縛固有状態(励起状態)で成り立つ.核で密度が 0 に なる場合(H の 2p など)は高次のカスプ条件を使う(Pack–Brown 1966). T. Kato, Commun. Pure Appl. Math. 10, 151 (1957). 密度に対する形:E. Steiner, J. Chem. Phys. 39, 2365 (1963). 一般化(l ≠ 0):R. T. Pack, W. B. Brown, J. Chem. Phys. 45, 556 (1966). 21
Part 3 カスプ条件から HK-1 を直観する(E. B. Wilson の議論) • 厳密な基底状態密度 ρ(r) が与えられたとする.Coulomb 系(点電荷の核+電子)な ら: 1 カスプの位置 核の位置 {RA} がわかる 2 傾き(Kato の条件) 3 密度の積分 ∫ρ dr 核電荷 {ZA} がわかる 電子数 N がわかる • 運動エネルギー演算子 T̂ と電子間相互作用 V̂ₑₑ は系によらない普遍的な演算子. したがって Hamiltonian が完全に決まる: • 「密度だけで全てが決まる」ことが,Coulomb 系では手に取るようにわかる. • 注意:この議論は Coulomb 型の外場(点電荷の核,非相対論)に限られ,任意の v(r) に対する HK 定理の一般性はもたない.また厳密な(固有状態の)密度が必要で ,カスプのない近似密度には使えない. • 励起状態:Kato の定理は励起状態でも成り立つので,Coulomb 系では励起状態の密 度からも Ĥ が決まる(さらに励起の次数まで決まる:Ayers–Levy–Nagy 2012). 一方,一般の v(r) では励起状態密度に HK 型の一意性は成り立たない(Gaudoin– Burke 2004). • HK 定理の「証明」の代わりではなく,「なぜ密度で十分なのか」の直観として有用 E. . Bright Wilson の議論(P.-O. Löwdin による紹介).解説:Á. Nagy, Phys. Rep. 298, 1 (1998);R. G. Parr, W. Yang, Density-Functional Theory of Atoms and Molecules (Oxford, 1989). 励起状態:P. W. Ayers, M. Levy, Á. Nagy, Phys. Rev. A 85, 042518 (2012);R. Gaudoin, K. Burke, Phys. Rev. Lett. 93, 173001 (2004). 22
Part 3 HK-1 の形式論:Ψ = Ψ[ρ] という「特殊な汎関数」 • HK-1 より,基底状態の多体波動関数自体が基底状態密度で一意に決まる .すなわち Ψ₀ は ρ₀ の汎関数であり,あらゆる物理量が ρ₀ の汎関数にな る: 通常の汎関数:関数を実数に写 す Ψ[ρ]:関数を「3N 変数の関数 」に写す 例:全電子数 N[ρ] = ∫ρ dr,エネル ギー E[ρ] 値が数ではなく N 電子 Hilbert 空間 の元(ベクトル) • (i) 値が関数(ベクトル)である写像:「汎関数」と呼ぶが,普通の汎関 数のように 1 つの数を返すのではなく,ρ から Ψ 全体(3N 変数の関数) が定まる. • (ii) 陽な公式がない:「ρ を基底状態密度にもつ v(r) を探し,その Ĥ の 基底状態をとる」という手続きで暗黙的にしか定義されない.定義域は v表示可能な密度に限られる(次の 2 枚). • それでも「系の全ての基底状態物理量は ρ₀ の汎関数である」という主張 は厳密に成立する.この Ψ[ρ] を使って,次に普遍汎関数を定義する. 23
Part 3 N-表示可能性:どんな密度が「電子密度」になりうるか • 定義:密度 ρ(r) が N-表示可能(N-representable)とは,ある反対称な N 電子波動関数 Ψ から得られること: • 条件(Gilbert 1975;Harriman 1981;Lieb 1983):次の 3 条件を満たす ρ は必ず N-表示可能.しかも Slater 行列式 1 個で表せる. • Harriman の構成:振幅が同じで位相だけが異なる N 個の直交軌道を,密度から陽に作れる: • 位相 f(x) が x 方向の累積密度なので,直交性の積分は exp[i(l−k)f] を f について 0 から 2π まで積分したものに帰着し,異なる整数 k, l に対して 0 になる.TW[ρ] < ∞ なら運動 エネルギーも有限. • 結論:密度の N-表示可能性は「ほとんど自動的」.正値・規格化・有限の TW という弱い 条件だけでよく,HK-2 で試行密度を動かす範囲として十分広い. T. L. Gilbert, Phys. Rev. B 12, 2111 (1975); J. E. Harriman, Phys. Rev. A 24, 680 (1981); E. H. Lieb, Int. J. Quantum Chem. 24, 243 (1983). 24
Part 3 v-表示可能性と Levy–Lieb の制限付き探索 • 定義:ρ が(純粋状態)v-表示可能(v-representable)とは,ある外部ポテンシャル v(r) の 非縮退な基底状態の密度であること: • HK-1 の写像 ρ₀ ↦ v も,FHK[ρ] = ⟨Ψ[ρ]|T̂ + V̂ₑₑ|Ψ[ρ]⟩ も,v-表示可能な密度の上でしか定義され ない.HK-2 の変分で試行密度をどこまで動かせるかは,この問題に依存する. • 問題点:どの密度が v-表示可能かを判定する一般的条件は知られていない.しかも「まともな」 密度でも v-表示可能でないものがある:縮退した基底状態の密度の凸結合(Levy 1982;Lieb 1983),特異な v を要求する密度(Englisch–Englisch 1983). • 1 電子系なら ρ から v を逆算できるが,逆算した v が正当なポテンシャルになるとは限らない: Levy–Lieb の制限付き探索(Levy 1979;Lieb 1983):ρ を与える Ψ の中で最小をと る • FLL は全ての N-表示可能な密度で定義され,v-表示可能な密度では FHK と一致.非縮退の仮定 も不要.基底状態密度の変分原理はこれで完全に正当化される(Ψ を「密度ごと」に分けて最 小化するだけ).陽な形が不明なのは同じ. M. Levy, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76, 6062 (1979); M. Levy, Phys. Rev. A 26, 1200 (1982); E. H. Lieb, Int. J. Quantum Chem. 24, 243 (1983); H. Englisch, R. Englisch, Physica A 121, 253 (1983). 25
Hohenberg–Kohn の第 2 定理と普遍汎関 数 Part 3 • Ψ[ρ] を使うと,外部ポテンシャルによらない普遍汎関数 FHK を定義でき る.全エネルギー汎関数は FHK と外場の項の和: • FHK はどんな系(原子・分子・固体)でも同じ形(普遍的).v(r) に依存 するのは ∫vρ の項だけ.旧来「Ev[ρ] が普遍的」と書かれることがある が,普遍的なのは FHK の方. 定理(HK-2,変分原理):与えられた v(r) に対して • 証明は 1 行:Ψ[ρ] を試行関数とする Rayleigh–Ritz の変分原理そのもの • 要するに:色々な ρ を Ev[ρ] に代入して,最小のエネルギーを与える ρ が「正解」の基底状態密度. • 試行密度 ρ の範囲は,厳密には v-表示可能な密度.前スライドの FLL を 使えば,全ての N-表示可能な密度に拡張できる. 26
拘束条件付きの最小化と Euler 方程式 Part 3 • 全電子数一定 ∫ρ dr = N の拘束の下で Ev[ρ] を最小 化する → Lagrange の未定乗数法: • μ は Lagrange 乗数.物理的には化学ポテンシャル( 電子数に対するエネルギーの微分)で,固体では Fermi 準位に対応する: • この「密度に対する Euler 方程式」を直接解くのが Orbital-Free DFT(Part 4・5)の基本方程式.軌道 も行列式も出てこない. • 密度は 3N 次元ではなく 3 次元 → 原理的には劇的な 簡略化.…ただし,FHK の形が分からない. 27
普遍汎関数 FHK を求めることの難しさ Part 3 • FHK を求める手段は,多体波動関数 Ψ[ρ] を経由する定義以外に 与えられていない.陽な形は現在も不明. • 厳密な FHK は「素直な」関数形ではない:整数でない電子数に拡 張すると E(N) は整数の間で区分的に線形で,∂E/∂N は整数点で 不連続に飛ぶ(導関数不連続性,Perdew–Parr–Levy–Balduz 1982).滑らかな近似式では再現しにくい. • 従って実用上は近似汎関数を使う.2 つの道: (a) Orbital-Free DFT (b) Kohn–Sham 法 運動エネルギーも密度の汎 関数で近似する.Thomas– Fermi(1927)に始まり, 現代の非局所・機械学習汎 関数へ.3 次元の Euler 方 程式を解くだけ. → Part 4・5(本日) 運動エネルギーの大部分を 軌道で厳密に扱い,残り( 交換相関)だけを密度の汎 関数で近似する. →第2回 J. P. Perdew, R. G. Parr, M. Levy, J. L. Balduz, Jr., Phys. Rev. Lett. 49, 1691 (1982). 28
4 局所密度近似と Thomas–Fermi 理論 一様電子ガスから最初の密度汎関数へ 29
局所密度近似(LDA)の考え方 Part 4 • FHK は分からない → 厳密に扱える「一様電子ガス(homogeneous electron gas ,HEG)」を参照系にする. • 各点 r で,密度 ρ(r) をもつ一様電子ガスと同じエネルギー密度をもつと仮定する : • 「汎関数」(ρ の全体の形に依存)を,各点の値 ρ(r) だけで決まる普通の「関数 」ε(ρ) の積分で近似する,ということ. • 運動エネルギーと交換エネルギーは HEG で解析的に求まる(次の 2 枚で導出) .相関エネルギーは解析的には求まらず,量子モンテカルロ計算をフィットして 使う(Part 5): 用語の整理 • LDA を運動エネルギーにも適用 → Thomas–Fermi(–Dirac) モデル( Orbital-Free).本日はこちら. • LDA を交換相関だけに適用し,運動エネルギーは軌道で(ほぼ)厳密に扱 う → Kohn–Sham LDA(第 2 回). 30
Part 4 LDA 運動エネルギーの導出:一様電子ガスと Fermi 球 • 一辺 L の箱(体積 V = L³)に N 個の自由電子,周 期境界条件.固有関数は平面波: • 基底状態:k 空間で半径 kF の球(Fermi 球)の内 側を,各 k に電子 2 個(↑↓)ずつ詰める: k 空間の Fermi 球(断面) • 運動エネルギーの総和(和 → 積分): • これを各点 r に適用したのが Thomas–Fermi 運動エネルギー汎関数( Thomas 1927,Fermi 1927).εF = kF²/2 は Fermi エネルギー. L. H. Thomas, Proc. Cambridge Philos. Soc. 23, 542 (1927); E. Fermi, Rend. Accad. Naz. Lincei 6, 602 (1927). 31
Part 4 LDA 交換エネルギーの導出(Dirac 1930) • Hartree–Fock の交換エネルギーは 1 次密度行列で 書ける(閉殻系,スピン和済み): • 一様電子ガスでは Fermi 球内の平面波の和が解析的 に求まる: HEG の交換ホール gx(s) と ρ₁(s)/ρ • 代入して s で積分(無次元変数 x = kF s): • 交換エネルギーは負.起源は反対称性(Pauli 原理):同じスピンの電子は互いに近 づけない(交換ホール,右図)ので Coulomb 反発が減る.独立した「力」ではなく ,反対称性+Coulomb 相互作用の帰結. P. A. M. Dirac, Proc. Cambridge Philos. Soc. 26, 376 (1930). 32
Part 4 Thomas–Fermi–Dirac のエネルギー汎関数 • LDA の下で,外部ポテンシャル v(r) 中の多電子系のエネルギー汎関数を書くと ■ 運動エネルギー(TF) 換(Dirac) ■ 電子–核 Coulomb ■ 電子–電子 Coulomb(Hartree) ■交 ↑ 15・16 枚目の J と K に対応 • これを Thomas–Fermi–Dirac(TFD)のエネルギー汎関数という.交換項を落 としたものが Thomas–Fermi(TF)汎関数: • 全て ρ(r) だけで書けている(軌道が出てこない)→ 最初の「Orbital-Free」 密度汎関数. • HK 定理(1964)より約 40 年前に提案された.当時は「統計的模型」と呼ばれ た. • 定数(Hartree 単位):CF = (3/10)(3π²)2/3 = 2.871,Cx = (3/4)(3/π)1/3 = 0.7386. • Hartree 項 J[ρ] は電子の自己相互作用を含む(1 電子系でも 0 にならない). HF ではこれを交換項が厳密に打ち消していた. 33
Thomas–Fermi 方程式を導く(1) Part 4 • 原子(核電荷 Z)を考える:v(r) = −Z/r.ETF[ρ] を ρ で汎関数 微分し,全電子数一定の拘束の下での Euler 方程式を書く: • φ(r) は核と電子雲がつくる古典的な静電ポテンシャル(核の引力 を正にとる). • 中性原子では μTF = 0 とおく:TF 理論では中性原子の密度は無 限遠まで広がり,そこで φ → 0,ρ → 0 となるため. • 一方,φ は古典電磁気学の Poisson 方程式を満たす(核の点電荷 を含む): • 密度と静電ポテンシャルを結ぶ 2 本の式が得られた.次にこれを 連立する. 34
Thomas–Fermi 方程式を導く(2) Part 4 • 球対称性を仮定し,Z を吸収する無次元化 を行う: • 2 式を連立すると,Z によらない普遍的な 非線形常微分方程式(Thomas–Fermi 方 程式)が得られる: TF 方程式の普遍解 χ(x) • 解析解はなく数値的に解く.境界条件が両端にあるので,初期傾き χ′(0) を探索する shooting 法などを使う(χ′(0) = −1.588071). • 解 χ(x) は全ての中性原子に共通(右図).密度の振る舞い: 35
TF モデルの問題(1):エネルギー • TF 方程式の解から,中性原子の 全エネルギーは • TF のエネルギーは常に低すぎ, 軽い原子ほど誤差が大きい(水素 で 54%). • 一方,Z → ∞ では TF は漸近的に 厳密になる(Lieb–Simon 1973) .TF は「大きな Z の理論」. • 内殻電子の補正(Scott 1952)と 量子補正(Schwinger 1981)を加 えた大 Z 展開: 原子 Z H He Ne Ar Kr Rn 1 2 10 18 36 86 Part 4 ETF 参照値 誤差 [hartree] −0.769 −0.500 −54% −3.87 −2.904 −33% −165.6 −128.5 −29% −652.7 −526.8 −24% −3289 −2752 −20% −25095 −21867 −15% • この 3 項だけで Ne〜Rn の HF エネルギーを 0.5% 以内で再現し,水 素でも誤差 8% 程度(Schwinger:「不合理なほど正確」). E. H. Lieb, B. Simon, Phys. Rev. Lett. 31, 681 (1973); J. Scott, Philos. Mag. 43, 859 (1952); J. Schwinger, Phys. Rev. A 22, 1827 (1980); 24, 2353 (1981). 参照値:H・He は厳密(非相対論),Ne〜Rn は Hartree–Fock 極 36
Part 4 TF モデルの問題(2):密度 • 水素原子(Z = 1)で TF 密度と厳密密度 ρ = e⁻²ʳ/π を比較する(図は著者の 計算). 密度(線形目盛) 密度(対数目盛) 動径分布 4πr²ρ(r) • 原点で密度が発散(ρ ∝ r⁻³ᐟ²):厳密な密度は有限で,カスプをもつだ け. • 遠方で指数関数的に減衰しない:TF 密度は r⁻⁶ で減衰する(対数目盛の 図で直線にならない). • 殻構造が現れない:動径分布に K 殻・L 殻 … のピークが出ない → 周期 律を説明できない. • いずれも運動エネルギーを局所的(一様電子ガス)に近似したことの帰 結. 37
Part 4 TF モデルの問題(3):3 次元の電荷分布と TFD モデル • 水素原子の電荷分布の 3 次 元プロット(著者作成). TF の電子雲は広がり過ぎて いる. TF モデルの電荷分布 厳密な電荷分布(1s) • Thomas–Fermi–Dirac モデル(交換項を追加)でも改善しない.交換エネルギ ーは負なので • 与えられた密度に対してエネルギーはさらに低くなり,過大評価が悪化する. • TFD 原子には有限の半径があり,そこで密度が有限値から不連続に 0 へ落ちる という非物理的な特徴もある. • Teller の定理(1962):TF・TFD モデルでは分子は結合しない(原子に分か れた方がエネルギーが低い).化学を全く記述できない. E. Teller, Rev. Mod. Phys. 34, 627 (1962). 38
5 Weizsäcker 補正から OF-DFT へ 現代の Orbital-Free DFT,そして Kohn–Sham 法へ の橋渡し 39
Weizsäcker 補正:TFDW モデル Part 5 • TF 運動エネルギーは一様な密度でのみ正確.密度勾配の効果を取り入れる補 正項(von Weizsäcker 1935.原子核の質量公式の研究から生まれた): • TW の性質:1 軌道系(H 原子,He 基底状態)では厳密な運動エネルギー. 一般には非相互作用運動エネルギー Ts の下限であり,Ts = TW + Tθ(Tθ ≥ 0:Pauli 項)と分解できる. • λ の値:ゆっくり変化する密度に対する勾配展開(Kirzhnits 1957)の 2 次 の項は λ = 1/9.原子の HF エネルギーとの一致は λ = 1/5 が最良( Tomishima–Yonei 1966;Chan–Cohen–Handy 2001): • λ は「勾配展開の係数」と「原子に合わせた経験値」で異なる.これは TTF + λTW という形の限界を示している. C. F. von Weizsäcker, Z. Phys. 96, 431 (1935); D. A. Kirzhnits, Sov. Phys. JETP 5, 64 (1957); Y. Tomishima, K. Yonei, J. Phys. Soc. Jpn. 21, 142 (1966); G. K.-L. Chan, A. J. Cohen, N. C. Handy, J. Chem. Phys. 114, 631 (2001). 40
Part 5 TFDW モデルの性質 • Euler 方程式は √ρ に対する Schrödinger 型の方程式になる(1 本だけ): • 改善点:原点で密度が有限,遠方で指数 減衰,分子の結合が可能(Teller の定理 を回避),負イオンが存在. • 残る問題:殻構造は出ない.λ を調整し ても定量精度は限定的. • 右図:水素原子(Z = N = 1)で TF・ TFW・TFDW と厳密密度を比較(本資料 で自己無撞着に計算). モデル E [hartree] 厳密 −0.500 TF -0.769 TFW (λ = 1) -0.163 TFDW (λ = 1/5) -0.572 水素原子の動径分布:TFW は原点付近と 遠方の振る舞いを改善する • 注意:1 電子系では自己相互作用(Hartree 項と交換項の不釣り合い)が残るため,これらの模型 にとって水素は厳しい試験.TFW(λ = 1)の密度が広がり過ぎるのはそのため. 41
現代の Orbital-Free DFT(OF-DFT) Part 5 • Kohn–Sham のエネルギー汎関数で,非相互作用運動エネルギー Ts だけを密度の汎 関数(KEDF)で近似する: • 解くのは √ρ に対する 1 本の Euler 方程式(vθ:Pauli ポテンシャル).軌道も対角 化も不要: KEDF の系譜 TF(局所)→ TFλW・GGA 型(LKT 2018 など)→ 非局所(Wang–Teter 1992,WGC 1999,Huang–Carter 2010,MGP 2018)→ 機械学習 KEDF(2020 年代) • 特徴:コストは O(N)〜O(N log N)(FFT).100 万原子級の金属のシミュレーショ ン(Hung–Carter 2009),warm dense matter,大規模 MD. • 制約:局所擬ポテンシャルが必要.単純金属(Al,Li,Mg)では KS 並みだが,遷移 金属・共有結合系は難しい. • コード:PROFESS,DFTpy,ATLAS など. W. Mi, K. Luo, S. B. Trickey, M. Pavanello, Chem. Rev. 123, 12039 (2023); W. C. Witt et al., J. Mater. Res. 33, 777 (2018); Q. Xu et al., WIREs Comput. Mol. Sci. 14, e1724 (2024); L. Hung, E. A. Carter, Chem. Phys. Lett. 42
LDA 相関エネルギー(概略) Part 5 • 相関エネルギー:HF(交換のみ)では取り込めない残り.一様電子ガスでも 解析的には求まらない. • Ceperley–Alder(1980)の量子モンテカ ルロ計算による HEG の εc(rs) を, Perdew–Zunger(1981),Vosko– Wilk–Nusair(1980),Perdew–Wang (1992)が解析関数でフィット. • 比較のため交換エネルギーを rs で書くと HEG の交換・相関エネルギー(1 電子 あたり) • 高密度極限(rs → 0):εc ≃ 0.0311 ln rs − 0.048 + …(Gell-Mann– Brueckner). • 相関は交換より小さいが(右図),化学的には決定的. • 詳しくは第 2 回(Kohn–Sham LDA)で. D. M. Ceperley, B. J. Alder, Phys. Rev. Lett. 45, 566 (1980); J. P. Perdew, A. Zunger, Phys. Rev. B 23, 5048 (1981); S. H. Vosko, L. Wilk, M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980); J. P. Perdew, Y. Wang, Phys. Rev. B 45, 43
Part 5 Kohn–Sham 法への橋渡し(第 2 回予告) • OF-DFT の最大の困難=Ts[ρ] の近似.Kohn–Sham(1965)の発想:同じ密 度をもつ「相互作用しない仮想電子系」を考え,その軌道で Ts を厳密に扱う . • 変分 → Kohn–Sham 方程式(Fock 方程式と同形.ただしポテンシャルは局 所): • 分からないのは Exc だけ.全エネルギーの数%だが,LDA でも実用精度が出 る(TF が失敗した殻構造は軌道が担う). • コストは O(N³) に戻るが,精度は劇的に向上.現在の第一原理計算の主流. • 第 2 回:Kohn–Sham 方程式の導出,交換相関汎関数(LDA/GGA/混成) ,擬ポテンシャルと基底関数,SCF 計算の実際. W. Kohn, L. J. Sham, Phys. Rev. 140, A1133 (1965). 44
まとめ • 多電子 Schrödinger 方程式は 3N 次元 → 直接解くのは不可能( Full CI は指数的). • Hartree–Fock 法:Slater 行列式で一体問題化.相関が欠ける. post-HF(MPn,CI,CC)で系統的に改良できるが高コスト. • Hohenberg–Kohn の定理:基底状態密度 ρ₀ が v,Ĥ,Ψ₀ を決め る(Ψ = Ψ[ρ] は「値がベクトル」で「陽な式のない」特殊な汎関数 ).Coulomb 系では Kato のカスプ条件で直観できる.N-表示可能 性は容易,v-表示可能性は難問だが Levy–Lieb の制限付き探索で回 避.普遍汎関数は未知. • 局所密度近似:一様電子ガスから TTF = CF∫ρ5/3,Ex = −Cx∫ρ4/3 を 導ける. • Thomas–Fermi(–Dirac):最初の Orbital-Free DFT.Z → ∞ で 厳密だが,軽元素のエネルギー・密度・殻構造・分子結合で失敗. • TFDW・現代 OF-DFT:勾配補正・非局所 KEDF・機械学習で改善 し,大規模系で威力.Ts の近似が本質的困難. • 次回:Kohn–Sham 法 ― Ts を軌道で厳密に扱い,Exc だけを近似す る. 45
参考文献(1):教科書と主要論文 • R. G. Parr, W. Yang, Density-Functional Theory of Atoms and Molecules (Oxford University Press, 1989).邦訳:パール・ヤング『原子・分子の密度汎関数法』(狩野・関・吉田 訳,シュプリ ンガー・フェアラーク東京,1996). • R. M. Dreizler, E. K. U. Gross, Density Functional Theory (Springer, 1990). • E. H. Lieb, "Thomas–Fermi and related theories of atoms and molecules," Rev. Mod. Phys. 53, 603 (1981). • A. Szabo, N. S. Ostlund, Modern Quantum Chemistry (Dover, 1996).— Hartree–Fock 法の標 準的教科書. • P. Hohenberg, W. Kohn, Phys. Rev. 136, B864 (1964);W. Kohn, L. J. Sham, Phys. Rev. 140, A1133 (1965). • L. H. Thomas, Proc. Cambridge Philos. Soc. 23, 542 (1927);E. Fermi, Rend. Accad. Naz. Lincei 6, 602 (1927);P. A. M. Dirac, Proc. Cambridge Philos. Soc. 26, 376 (1930);C. F. von Weizsäcker, Z. Phys. 96, 431 (1935). • T. Kato, Commun. Pure Appl. Math. 10, 151 (1957);E. Steiner, J. Chem. Phys. 39, 2365 (1963);R. T. Pack, W. B. Brown, J. Chem. Phys. 45, 556 (1966);Á. Nagy, Phys. Rep. 298, 1 (1998);P. W. Ayers, M. Levy, Á. Nagy, Phys. Rev. A 85, 042518 (2012);R. Gaudoin, K. Burke, Phys. Rev. Lett. 93, 173001 (2004). • N-/v-表示可能性と制限付き探索:T. L. Gilbert, Phys. Rev. B 12, 2111 (1975);J. E. Harriman, Phys. Rev. A 24, 680 (1981);M. Levy, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76, 6062 (1979);Phys. Rev. A 26, 1200 (1982);E. H. Lieb, Int. J. Quantum Chem. 24, 243 (1983);H. Englisch, R. Englisch, Physica A 121, 253 (1983). • P. A. M. Dirac, Proc. R. Soc. London A 123, 714 (1929). • E. Teller, Rev. Mod. Phys. 34, 627 (1962);E. H. Lieb, B. Simon, Phys. Rev. Lett. 31, 681 (1973);J. Scott, Philos. Mag. 43, 859 (1952);J. Schwinger, Phys. Rev. A 22, 1827 (1980); 24, 2353 (1981). 46
参考文献(2):近似汎関数と大規模計算 • D. A. Kirzhnits, Sov. Phys. JETP 5, 64 (1957);Y. Tomishima, K. Yonei, J. Phys. Soc. Jpn. 21, 142 (1966);G. K.-L. Chan, A. J. Cohen, N. C. Handy, J. Chem. Phys. 114, 631 (2001). • J. P. Perdew, R. G. Parr, M. Levy, J. L. Balduz, Jr., Phys. Rev. Lett. 49, 1691 (1982). • D. M. Ceperley, B. J. Alder, Phys. Rev. Lett. 45, 566 (1980);J. P. Perdew, A. Zunger, Phys. Rev. B 23, 5048 (1981);S. H. Vosko, L. Wilk, M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980);J. P. Perdew, Y. Wang, Phys. Rev. B 45, 13244 (1992). • P.-O. Löwdin, Adv. Chem. Phys. 2, 207 (1959);A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993). • OF-DFT:W. Mi, K. Luo, S. B. Trickey, M. Pavanello, Chem. Rev. 123, 12039 (2023);W. C. Witt, B. G. del Rio, J. M. Dieterich, E. A. Carter, J. Mater. Res. 33, 777 (2018);Q. Xu, C. Ma, W. Mi, Y. Wang, Y. Ma, WIREs Comput. Mol. Sci. 14, e1724 (2024);L. Hung, E. A. Carter, Chem. Phys. Lett. 475, 163 (2009). • KEDF:L.-W. Wang, M. P. Teter, Phys. Rev. B 45, 13196 (1992);Y. A. Wang, N. Govind, E. A. Carter, Phys. Rev. B 60, 16350 (1999);C. Huang, E. A. Carter, Phys. Rev. B 81, 045206 (2010);K. Luo, V. V. Karasiev, S. B. Trickey, Phys. Rev. B 98, 041111 (2018). • O(N) DFT:D. R. Bowler, T. Miyazaki, J. Phys.: Condens. Matter 22, 074207 (2010);A. Nakata et al., J. Chem. Phys. 152, 164112 (2020);T. Ozaki, M. Fukuda, G. Jiang, Phys. Rev. B 98, 245137 (2018). • P. Adhikari et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 22, 18272 (2020). 47