生成AIがデジタルプラットフォームにもたらす影響の分析

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December 07, 25

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生成AIのニュースが相変わらず多い。最近では、(Open AI、対Google「非常事態」宣言)、などもあった(日経 12.2)。しかし、この先の本格的な生成AI由来の新市場創成の修羅場はキーアプリケーション登場などアプリケーション層の動向にあるのではないかとも言われている。そういう意味で、生成AIベースのプラットフォーム上で補完品として開発されるアプリケーションに関わる研究は重要と考える。このような問題認識から最近の関連研究をフォローしてみた。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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生成AIがデジタルプラットフォーム にもたらす影響の分析 B-frontier 研究所 高橋 浩

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目的 • 生成AIの個人による活用は多くの組織で浸透し出している。し かし、経済効果が顕著に現れているとは言えない。 • 一方、AI関連投資は拡大の一途であり、企業、国あるいは世界 規模でAI活用による経済効果が期待されている。 • この目標に向けては生成AIをデジタルプラットフォームに有機 的に融合させる方向性が考えられる。 • 即ち、プラットフォームの境界リソースに生成AIを本格導入し、 様々な補完者が開発した成果が多数のユーザーによって広範に 利用されるイメージである。 • 但し、これは個人の活用とは異なり、プラットフォーム所有者、 補完者、ユーザー間に新たな複雑な問題を発生させる。 • 本稿は、これが今後の生成AI活用と拡大に避けて通れない重要 テーマと認識し、関連論文を探索して取組むことを目的とする。 2

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目次 1. はじめに 2. 生成AIのデジタルプラットフォーム への影響 3. 生成AIの境界リソース導入の影響分 析(事例紹介) 4. 今後の生成AI活用への示唆 3

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1.はじめに 既存プラットフォームの構造 • デジタルプラットフォームは次のように考えられてきた。 1)• デジタルプラットフォーム: • 標準化されたインターフェースとガバナンスメカニズムを通じて、複数のス テークホルダーグループが相互作用することで価値創造を促進する技術基盤 2)• 代表的事例: • X(旧Twitter)のようなソーシャルメディアプラットフォーム • AppleのApp Storeのようなモバイルアプリケーションプラットフォーム • Amazonのようなeコマースプラットフォーム • Upworkのようなフリーランスプラットフォーム • Airbnbのようなシェアリングエコノミープラットフォーム • Wikipediaのような情報共有プラットフォーム、など 4

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既存プラットフォームの構造(続) 3)• 価値創造の手段: • 本来であれば接続が困難または不可能な参加者グループを結びつける ことで価値を創造するデジタル仲介者として機能する。 • このビジネスモデルは、多くの産業において経済活動を組織する主要 形態として台頭している(世界の主要企業12社のうち7社がこのモデル に準拠している)。 4)• これまでの研究の視点: • デジタルプラットフォームは主に次の3つの視点で議論されてきた。 ➢エンジニアリングの視点 ➢経済の視点 ➢組織の視点 5

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エンジニアリングの視点 • モジュール型アーキテクチャのコアを中心に構成された周辺コン ポーネントからなる技術的成果物: • 階層型モジュールアーキテクチャによる安定したコアが相互運用可能なモ ジュールと補完機能を提供する。 • この基盤上でアプリやアドオンなどの補完機能がAPIやソフトウェア開発 キット(SDK)といった標準インターフェースを介してコアに接続される。 • モジュール型アーキテクチャは、プラットフォームの進化、複雑性の管理、 開発の柔軟性を維持するために不可欠である。 研究 • モジュール型アーキテクチャがAPIなどの境界リソースを通じてこのプロセ スをどのように促進するかを、技術的依存関係、インターフェース設計パ ターン、アーキテクチャの進化などから分析してきた。 6

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経済の視点 • 異なるユーザーグループ間の相互作用を促進する二面市場または多 面市場: • これによって従来の市場を破壊する新たなビジネスモデルや戦略、価値創造 メカニズムが実行可能になる。 • プラットフォームビジネスは、インフラコストの増加を伴わずにユーザー数 の増加を拡大できるという点で従来のビジネスと大きく異なる。 • 多くの場合、技術的なプラットフォームの詳細よりも市場のダイナミクスや ビジネスモデルの変革に重点を置く。 研究 • この基盤におけるネットワーク効果、価格戦略、市場ダイナミクスを体系的 に調査し、さまざまな価格設定構造やガバナンスメカニズムがプラット フォームにどのように影響するかを分析してきた。 7

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組織の視点 • 技術的メカニズムと社会的取り決めを通してイノベーションの実践 が生まれるメタ組織: • この視点における重要な概念は、「広範で多様な参加者からの制約のない貢 献を通じて、予期せぬイノベーションを生み出す能力」である。 • これは、経済的側面と工学的側面を統合し、更に、組織が境界リソースを通 じて創造性と統制のバランスを取るためにガバナンス構造をどのように構築 するかと言う社会的側面も取り入れる。 研究 • プラットフォームが多様なイノベーションを可能にしながら、プラット フォームの安定性と一貫性を維持するために、組織境界、ガバナンスメカニ ズム、プラットフォームスコープ、組織構造などについて分析してきた。 8

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2.生成AIのデジタルプラットフォームへの影響 生成AIの影響 生成AIのプラットフォームへの影響について、まずは生成AIの特性からを考える • 生成AIの課題 • 生成AI利用時の原則 • 生成AIの内部動作の理解は生 成AIの方式故に限定される。 • 生成結果はバージョン、文脈 などによって変わる可能性が ある(生成的可変性)。 • 生成出力の性質や品質が変わるこ とがある。 • 実行制御はユーザーから生成AIへ と移管されている。 • そこで、ある程度コントロールす るためには制御レベルへの配慮が 必要になる。 • 生成的であると同時に変動的 であることを前提に影響を考 える必要がある。 • 生成的可変性に逆らわず、それら と共存するスキルや意図に合致す るコンテンツ生成法などを学ぶ必 要がある。

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生成AIのプラットフォームへの影響概念図 • 前頁のような特異な特性を持つ生成AIがプラットフォームに加わる ことによる影響を考察するため、下記の概念図を考える。 • この中で4つの影響に着目する。 プラットフォーム所有者 生成AI 4つの影響 ① インテリジェントオートメーション ② 民主化 ③ ハイパーパーソナライゼーション ④ 協調的イノベーション エンドユーザー 補完者 ネットワーク効果 10

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4つの影響メカニズム • 4つの影響に着目する理由と特徴を示す。 ①インテリジェントオートメーション • 人間の知性を必要としていた認知タスクや創造的タスクを自動化 し、ユーザーと補完者間の関係性を根本的に変えられるから ②民主化 • 直観的インタフェースを通じて従来の参入障壁を劇的に低下させる ことができるから ③ハイパーパーソナライゼーション • パーソナライズの度合いに応じて個別化された価値を創造し提供で きるから ④協調的イノベーション • ①~③を統合し、従来のプラットフォーム境界を超越した新たな方 法で創造性とパーソナライズされた価値を提供できるから 11

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①インテリジェントオートメーション • 生成AIの主として以下の能力によって促進される。 • 複雑な自然言語処理適応と新たなコンテンツの生成 • 具体的事例からの学習 • 多様なタスクへの適応 • インタラクションを通じた継続的改善 UpWork • 過去の成功例を学習することでフリーランサーとク ライアントの要件をより適切にマッチングする。 • 継続的学習とユーザーからのフィードバックに基づ いて応答を自動化し、大規模運用においても一貫し た品質を維持する。 • この目的のためMindful AI Umaが提供されている。 12

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②民主化 • 生成AIの主として以下の能力によって促進される。 • 自然言語によるインタラクション • 最小限のトレーニング(ゼロショット/フューショット学習など) • マルチモーダル生成 • スケーラブルなコンテンツ処理 Power Pages Microsoft Power Platform • 非技術系ユーザーがガイド付 き自然言語インタフェースを 通じてビジネスアプリケー ションを簡単に作成できる。 Power Automate Power BI Power Platform Power Studio Power Apps 13

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③ハイパーパーソナライゼーション • ①インテリジェントオートメーションと②民主化の組合せによって 促進される。 • ①:プラットフォームの境界リソースを動的なインターフェースに 変換できるから • ②:可能になった幅広い参加で多様なユーザーベースを生み出し、 よりきめ細やかなパーソナライゼーションを実現できるから Spotify AI DJ • ユーザーの視聴履歴、好み、フィードバックを統 合して個人の音楽嗜好をより深く理解してサービ ス提供する。 • リアルタイム生成機能によって理解したコンテキ ストに基づいて新しいコンテンツを生成する。 14

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④協調的イノベーション • 人間とAIの協調によるイノベーションという新たな次元を導入する。 • これまでの①~③を統合し、永続的な対話に参加して以下が促進さ れる。 • 生成AIの、1) 継続的な進化、2) 協調的な創造性、3) 拡張されたセ レンディピティなどによって実現される。 Adobe Firefly • ユーザーとデザインコンセプトを繰り返し検討する。 • 更に、拡張されたセレンディピティで人間とAIの インタラクションを通じて予期せぬソリューション を発見する。 • 例えば、AI音楽プラットフォームのユーザーが反復 的な実験を通じて斬新な作曲技法を発見する。 • その他の例を右図に示す。 15

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3.生成AIの境界リソースへの影響分析(事例紹介) 前述の“4つの影響”を前提として、それらに関連する次のテーマについて最近の研究を紹介する。 論文1 変化する力学:境界リソースとしての生成AIはデジタルプラット フォームガバナンスをどのように再構築するか? 要点:生成AIの導入による境界リソースの役割の動的変化に着目する。 論文2 生成AIプラットフォームエコシステムにおける補完者による価値共創 要点:補完者による価値創造を制御度合いで区分した2タイプを元に分析する。 背景:生成AIを境界リソースにする場合、従来からのAPIインタフェースに加えて、 ChatGPTのGPTs(GPT Store)のようなインタフェースが加わったことが関係している。 16

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論文1 境界リソースとしての生成AIの研究 • 生成AIをプラットフォームの境界リソースとして統合する動きが 進んでいる。 • 生成AIは独特の特性を持つので、プラットフォーム所有者はガバ ナンスメカニズムの生成AIへの適応を求められる。 • 論文はプラットフォーム所有者が生成AIの境界リソースへの適応 をどのように展開したかを実例に基づいて分析している。 • 分析対象はデジタル学習プラットフォームDuggaである。 デジタル学習プラットフォームDugga (2018年設立のスウェーデンのEdTech企業) the all-in-one assesment platform for teacher heroes! 17

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生成AIの境界リソースへの適応の課題 • 境界リソースとしての生成AI: • 一貫性と標準化に欠ける。 • 検証の問題を悪化させる。 • 補完者に新たなスキルを要求する。 • 課題: • プラットフォーム所有者はどのように制御と一貫性を確保するか? • プラットフォーム所有者はどのように正確で信頼できるコンテンツ を提供するか? • プラットフォーム所有者は補完者がプラットフォームの存続性と評 判を損なわないようにするためにどのように補完者をトレーニング するか? 18

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プラットフォームガバナンスと境界リソース • プラットフォームガバナンス:プラットフォーム所有者が 補完者の行動と貢献を管理し、ユーザーが利用できるコン テンツがプラットフォームの利益と期待に沿うようにする 取り組み • 境界リソース:プラットフォーム所有者と補完者間の独立 したインターフェースとして機能するソフトウェアツール や規制 • 分散型チューニング:プラットフォーム所有者と補完者が 境界リソースと相互作用する際に、抵抗と適応の反復サイ クルにどのように関与するかに焦点を当てること • 境界リソースは、両当事者がそれぞれの目標を主張する継続的な 分散型チューニングの中心的な存在になる。 19

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研究対象と研究方法 • 研究設定:Duggaはユーザー拡大で発生した課題に継続的に対応してきた。 • フェーズ1(教師向けデジタル評価ツール):教師専用のデジタル評価ツール としてスタートした。 • フェーズ2(教育コンテンツ交換のための教師中心型プラットフォーム):他 教師とコンテンツを共有できる教師中心のプラットフォームへ発展した。 • フェーズ3(生成AI中心のプラットフォームへ):サービス改善のため境界リ ソースとして生成AIを本格導入した。 (2023年5月に生成AI利用を宣言) • データ収集と分析: • Dugga本社での27回の半構造化インタビューと4回のフィールド訪問を通 してデータを収集した。(2023年4月~2023年10月頃) • 1回目:比較的探索的なフィールド訪問 • 2回目:従業員への半構造化インタビュー • 3回目:従業員、CEO、CTOへの追加インタビュー • 4回目:生成AIを使用して教材を作成した経験のある教師を対象に半構 造化インタビュー 20

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第1段 データ分析 • 焦点: • 生成AIが境界リソースとしてプラットフォーム所有者と補完者の相 互作用をどのように形成しプラットフォームガバナンスの新たなア プローチにつながるか? • 方法: • 分析ツールとしてビジュアルマッピングを使用した。 • 分散チューニングのフレームワークに基づいて、さまざまな利害関 係者間の抵抗と適応の反復サイクルと、時間の経過とともに生成AI を境界リソースとして形作る上での役割の変化を調査した。 第2段 • コード分析: • 研究資料のコード化を行った。 • 例えば「Duggaによる学生の好みに合わせたコンテンツの即時的か つ自発的な適応機能の促進」といったコードに全体を分類した。 21

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調査結果に基づく生成AI統合方針の変更過程 • 調査の結果、Duggaは生成AIの統合に関して、異なるガバナンスメカニズムを通じ て実行される2つの異なる論理を採用していたことが分かった。 修正後 当初 生成AI 覇権論理 生成AI アセンブリ論理 補完者のコンテンツ作成を 容易にする目的のために生 成AI を境界リソースとし て推進する。 生成AIに対して補完者の優 位性とコンテンツ作成における 補完者の中心的役割を強調 する。 教師の 離反 制定され ることで 同時に存在 連動するガバナンスメカニ ズム 連動するガバナンスメカニ ズム ガバナンスメカニズムの分 離 プラットフォーム所有者は 補完者がコンテンツ作成に おける 生成AI の有用性の 認識を高めるように努めた。 プラットフォーム所有者は 補完者がコンテンツ作成に おける 生成AI の有用性の 認識を高めるように努めた。 プラットフォーム所有者は、 補完者が生成AIで作成した コンテンツに対する制御を 実施することを受入れた。 22

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調査結果の概要 • 生成AI覇権論理の実行:プラットフォーム所有者側の論理 • 2つの相互連携ガバナンスメカニズムを通じて(1)正当性の醸成、 ① (2)パーソナライゼーションの推進を実施した。 ①• 正当性の醸成: • 学校や自治体による生成AI導入を目的としたコンテンツの公開 • 教育教材の大手出版社と連携して生成AI統合に向けた働きかけの実施 • 高等教育機関向け教育教材の専門企業(Gleerups社)と提携、など • パーソナライゼーションの推進: ② • 補完者にとって関係者のニーズや多様な状況適応に如何に有用か説得 • 生徒一人ひとりの興味、ニーズ、好みの学習方法に合わせて教材が即 座に作成可、カスタマイズされた指導を行えるという考え方を推進 • 生成AI統合における抵抗の出現:補完者側の反論 • 教師たちは生成AIが作成するコンテンツの信頼性を批判した。 • 教育教材作成における自身の専門知識の重要性低下を問題視した。 • 過度の依存で教師という職業全体の重要性が失われると主張した。 23

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調査結果の概要(続) • 生成AIアセンブリ論理の実行:双方共存に向けた取組み • 教師が生成されたコンテンツをより適切に制御できるようにした。 • 2つのメカニズム(1)ガードレールの促進、(2)社会的カプセル 化の回避を通じて共存を図る取組みが行なわれた。 ③• ガードレールの促進: • プラットフォーム所有者が生成AIコンテンツに対する制御を主張する補完 者に対して、コンテンツを積極的に検証できるようにする。 • 生成AI機能のオン/オフ機能を導入し、教師が教育資料やデジタル評価における AIの関与を選択的に制御できるようにする。 ④• 社会的カプセル化の回避: • 生成AIコンテンツの開発および制御を支援する教師(補完者)が互いに積極 的にアイデアや教材を交換し交流を維持できるようにする。 • 生成AI利用量に制限を設ける。利用制限により教師間の相互協力が教師コミュニ ティの重要な要素として維持される効果がある。 • 自分自身の課題や同僚のコンテンツをどのように生成AIで活用するかなどを話し 合うイベントを開催する。 24

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生成AI統合論理の変化と境界リソースの再構成 Duggaは生成AI統合論理を時間とともに変化させて来ただけでなく、生成AIツールを境界 リソースとして再構成した。 生成AIを境界リソースとし て統合するデジタルプラッ トフォーム所有者 収容する 生成AI プラットフォーム所有者は 生成AIを境界リソースとし て統合する論理を再構成 生成AI 抵抗 • 生成AI覇権論理 プラットフォー ム補完者 プラットフォー ム所有者 連動するガバナンスメカニ ズム 連動するガバナンスメカニ ズム ①正当性の醸成 ②パーソナライゼーション の推進 ①正当性の醸成 ②パーソナライゼーション の推進 ガバナンスメカニズムの分 離 ③ガードレールの促進 ④社会的な封じ込めの回避 25

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境界リソースの役割の変化(中間まとめ) 論文1 • 論文1は教師が顧客であり補完者でもあったので、“補完者と生 成AI間に発生する緊張”を何とか収束できたことを示している。 • しかし、この場合でも、当初、教師の抵抗は大きく、落ち着き処 に至るまでには紆余曲折があった。 • 最終的にはプラットフォーム所有者も巻き込んだ次のような変更 が行われた。 • プラットフォーム境界の変更 • プラットフォーム境界線の変更・・出版社なども巻き込んだ情報のオープン化 • プラットフォーム境界の見直し・・一部、従来のプラットフォーマーの機能を補完者 (教師)に開放 • このような過程を経て、既存の補完者、新規補完者、新たな顧客、 プラットフォーム所有者間の役割の再定義が行われた。 今後への示唆 • 小規模で調整の矛盾が小さかったDuggaの例から推測すると、よ り規模が大きく、既得権者の利権が大きい場合には、より大きな トラブル発生と変革の必要性が推測される。 26

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論文2 補完者による価値共創の研究 • 補完者は、プラットフォーム周辺で補完品を開発・運用すること でプラットフォーム所有者と共同で価値を創造する。 • 事例は下記など OpenAIのAPIを利用したAIデザインツール Magic Studio ChatGPT内で直接フライトやホテルを検索できる KAYAK (GPTs使用) 「次頁」 • 但し生成AI導入は「オープンエンド性」と「不可解性」を持ち込む。 • このため、補完者の参加は、従来のプラットフォームエコシステムと は大きく異なるものになる。 27

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GPTsの例 • KAYAKの例を右に示す。 • ユーザーがKAYAK GPTを選択 すると、ChatGPTはKAYAKの 旅行専門知識と予約サービスに アクセスできるようになる。 • この統合により、ユーザーは ChatGPTインターフェースで自 然言語を使って旅行を計画した り予約を行うことができる。 • KAYAK GPTはChatGPTを汎用 機能から専門的旅行計画ツール にと変貌させる。 28

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生成AIプラットフォームエコシステムの特性 生成AIの導入で次の2つの属性が持ち込まれる。 • オープンエンド性: • 生成AIのインターフェースは、制限のない入力を受け入れられる。 • 一方、補完者はプラットフォーム中核にある再利用可能な機能を 補完品開発では利用できない。 • また、エンドユーザーも生成AIに直接アクセスできる。 • 不可解性: • 生成AIは非決定論的アルゴリズムで動作する。 • これは、生成AIが返す出力が、補完者にとって予測不可能であるこ とを意味する。 • 結果、補完者が理解不能なコアに基づいてどのように価値共創する かは不明確である部分がある。 29

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組み込み型補完機能(EC)とスタンドアロン型補完機能(SC) • このような環境で検討を行うため、便法として、エンドユーザーに対する制 御の度合いの両極端に位置する下記2種類に焦点を当てる。 • 組み込み型補完機能(EC):補完者がエンドユーザーインターフェース に対する制御をプラットフォーム所有者に完全に委ねる • 例: • OpenAIのChatGPT GPTプラットフォームエコシステムにおける補完品 ChatGPT内で直接フライトやホテルを検索できる KAYAK GPT、など • スタンドアロン型補完機能(SC):補完者が補完機能のエンドユーザー インターフェースを完全に制御する • 例: • OpenAIのAPIプラットフォームエコシステムにおける補完品 OpenAIのAPIを利用したAIデザインツール Magic Studio、など 30

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組み込み型補完品(EC)とスタンドアロン型補完品(SC)を図示 組み込み型補完品(EC) スタンドアロン型補完品(SC) 図式 凡例: 補完者が完全 補完者が完全 なコントロー なコントロー ル権を持つ ル権を持つ プラット プラット フォーム所有 フォーム所有 者が完全なコ 者が完全なコ ントロール権 ントロール権 を持つ を持つ 定義と典型的 な特徴 エンドユーザーインターフェースを補完する 組み込み型補完品 エンドユーザーインターフェースを補完する スタンドアロン型補完品 プラットフォームインターフェース プラットフォームインターフェース プラットフォームコア プラットフォームコア • プラットフォーム所有者はエンドユー • 補完者はエンドユーザーインターフェー ザーインターフェースを完全に制御で スを完全に制御できる。 きる。 • 補完者はエンドユーザーとのインタラ • 補完者はエンドユーザーとのインタラ クションを完全に把握し、直接的な影響 クションを可視化したり、直接影響を を与えることができる。 与えることはできない。 31

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研究対象と研究方法 • 研究設定:補完者は組み込み型補完機能(EC)あるいはスタンドアロン 型補完機能(SC)を用いて、生成AIプラットフォームエコシステムにお いてどのように価値を創造するか? • 研究対象: • OpenAIプラットフォームエコシステムの補完者を対象とする。 • 対象者からのデータ収集: • OpenAIプラットフォームエコシステムで補完品を提供する企業から データを収集する。 • 補完事業者(サンプル数)は総数44社(個) • データ収集は半構造化インタビューによって行なわれた。 • 実施時期: • インタビューは2023年8月から2024年12月に実施された。 32

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調査結果:概要 • 特に下記4事例を中心に定性分析を行った結果、4種の価値共創 メカニズム(下表)を特定した。 ・・・・・調査結果1 • 分析事例: • CodeCorporate:スタンドアロン型の補完機能のみを提供 • VisualizationStartup:組み込み型の補完機能のみを提供 • DiscoveryCorporate:両方の補完機能を提供 • FlashcardStartup:両方の補完機能を提供、など • 価値共創メカニズム: ・・・・・調査結果2 価値共創メカニズム 定義 システム指示の利用(システム プロプト) システム指示を利用することで、カスタマイズされた、より一 貫性のあるAIモデル出力を生成できる。 コンテキストデータの提供 コンテキストデータを提供することで、ユニークでより正確な AIモデル出力を生成できる。 ユーザー入力のキュレーション ユーザー入力をキュレーションすることで、望ましい、より一 貫性のあるAIモデル出力を生成できる。 AIモデル出力の修正 AIモデルの出力を修正することで、最終的なAIモデルの出力を 独自のものに変換し、より一貫性を持たせることができる。 33

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調査結果1:分析事例 • 分析対象事例の一部を示す(色付け事例は特に中心的に定性分析したもの)。 ケースの概要 CodeCorporate: ツール開発者が開発ソフトウェアにコメントを付けたりコードを生成したりするためのツール SC AudioCorporate: オーディオデバイス向けのコンテンツ生成アプリ SC MarketingCorporate: マーケティングおよびPRコンテキストを生成・最適化するためのツール SC EducationCorporate:教育アプリのアシスタントツール SC AnalystStartup:: データを分析および視覚化するためのツール SC VisualizationStartup: 視覚化を作成およびレンダリングするためのツール EC OCRStartup: 光学文字認識 (OCR)用 ツール EC FintechCorporate: オープンソースプロジェクトについて質問するためのツール EC TranscriptStartup: YouTube動画からトランスクリプトを生成するためのツール EC SalesCorporate: セールスインテリジェンスツール EC TravelCorporate: 旅行サービス(例:航空券、ホテル、レンタカー)を検索して比較するためのツール SC,EC KnowledgeNonprofit: 知識の統合を取得する組み込み型補完機能と事実を確認するスタンドアロン型補完機能 SC,EC DiscoveryCorporate: 製品を発見・比較する組み込み型補完と求人発見を生成するスタンドアロン型補完機能 SC,EC FlashcardStartup: デジタルフラッシュカードを生成して学習するためのツール SC,EC DatabaseStartup: データベースからデータを取得して分析するためのツール SC,EC ProductStartup: 録音された通話のトランスクリプトを取得するためのECと製品データを合成するためのSC SC,EC 34

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調査結果2:4つの価値共創メカニズムの図式 補完品エンドユーザーイン ターフェース 組み込み型補完品 (EC) 補完品エンドユーザーイン ターフェース スタンドアロン型補完品 (SC) ユーザー入力を キュレートする AIモデルの出力 を修正する システム指示を活用する コンテキストデータを提供する 4つの価値共創メカニズム • システム指示の利用 • コンテキストデータの提供 • ユーザー入力のキュレー ション • AIモデル出力の修正 生成AIモデルインタフェース 生成AIモデル プラットフォームコア プラットフォームエコシステム 凡例: 補完者は完全な制御権 を持つ プラットフォーム所有者 が完全な制御権を持つ 価値共創の仕組み 35

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調査結果2:① システム指示の活用 ① システム指示の活用: • オープンエンド性の課題への対処 • EC/SC両補完者はシステム指示を利用して、生成AIモデルの広範な生成能力 を狭めることができる。 • EC/SC両補完者は、AIモデルの使用目的、補完機能の領域、生成したいAI出 力の特性などに合わせて調整することで、再利用可能な機能の不足を補う。 • 不透明性という課題への対処 • EC/SC両補完者はシステム指示を利用して推論を最適化し、コンテンツ、 フォーマット、構文の面でより一貫性のあるものにすることができる。 • 例えば、模範的な出力例を提供することでコンテンツを明確にできる (フューショット学習)。 • 補完者は、過去のエンドユーザーの行動に関する知識を利用してシステム指 示を改善できる。 36

37.

調査結果2:② コンテキストデータの提供 ② コンテキストデータの提供: • オープンエンド性の課題への対処 • EC/SC両補完者は独自のコンテキストデータを用いてAIモデルの推論を特化 させられる。 • そうすることで、AIモデルがトレーニング中に学習した内容だけでは生成で きない出力を生成できる。 • 不透明性という課題への対処 • EC/SC両補完者は、コンテキストデータを提供することでAIモデルの推論を 最も関連性の高いコンテキストデータのみに基づいて行うことができる。 • 例:コンテキストデータをユーザーインタラクションのコンテキストに関連す るものに限定 • これにより、AIモデルの出力の予測可能性が向上し、特定のユーザーインタ ラクションのコンテキストにおいてより正確な出力が生成される。 • ベクトルデータベースなどの非構造化知識ベースから関連するコンテキスト データを取得するために検索拡張生成(RAG)などを利用する。 37

38.

調査結果2:③ ユーザー入力のキュレーション ③ ユーザー入力のキュレーション: • オープンエンド性の課題への対処 • SC補完者は、ユーザー入力をキュレーションし、エンドユーザーの入力オ プションを事前定義された側面のみに限定しうる。 • SC補完者は、補完機能のエンドユーザーインターフェースにおいて、ド ロップダウンメニュー、トグルボタン、制約付きクエリフィールドなどの制 限を使用することができる。 • これにより、エンドユーザーがAIモデルに望ましくない出力を生成させるよ うな入力を防ぐことができる。 • 不透明性という課題への対処 • SC補完者は、コンテンツ、形式、構文の面でAIモデル出力の一貫性を最適 化するようにユーザー入力を構造化する。 • そうすることで、AIモデル出力の予測可能性が向上し、望ましい出力がより 安定して生成されるようになる。 38

39.

調査結果2:④ AIモデル出力の修正 ④ AIモデル出力の修正: • オープンエンド性の課題への対処 • SC補完者は、AIモデルの最終出力を、トレーニング中に学習した 内容に基づいては生成できない出力に変換または強化できる。 • TravelCorporate:AIモデルの出力に、旅行先に関連する旅行サービスの 価格情報や、現在ユーザーに推奨すべきではない旅行先のリストなどを織 り交ぜることで、充実したものにしている。 • 不透明性という課題への対処 • SC補完者は、複数の並列リクエストから1つの出力を選択したり してAIモデルの出力を修正できる。 • これにより、選択されたAIモデルの出力の予測可能性が向上し、 望ましい出力がより安定して生成される。 • ProductStartup:補完者は信頼度スコアリングを使用して生成AIモデルの 出力を評価し、同じ入力を持つ複数並列リクエストの中から最もスコアの 高い出力を選択している。 39

40.

価値共創の概要 • 価値共創を2つの論理でまとめる。 • 活用論理: • プラットフォームコアを補完者にとって使いやすいものにするこ とで、価値共創の可能性を最大化する。 • 特定の相互作用パターンを利用して相乗効果を発揮したり、追加 のメカニズムを解き放つ。 • 生成AIモデルは基本的にドメイン固有の機能を持たない「白紙状態」で提供 されるため、再利用可能な機能の不足を補うためシステム指示の利用などが 不可欠になる。 • 差別化論理: • プラットフォームコアの能力を独自のものにすることを中心に展 開する。 • 補完者は、プラットフォームコアの価値共創ポテンシャルを差別 化し、独自のものにすることによって価値共創する。 • 例えばEC補完者、相互作用パターンを利用してAIモデル出力修正メカニズ ムを解き放つ。 40

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価値共創の2つの論理 • 価値共創メカニズムの2つの論理、「活用論理」と「差別化論理」を用いて、補完者は 課題を軽減しながら価値を共創する。 41

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補完者による価値共創(中間まとめ) 論文2 • 事例2は補完品をユーザーに対する制御の度合いで組込み型(EC)、ス タンドアロン型(SC)に分割し、生成AI由来の課題を緩和する施策を分 析することで4つの価値創造メカニズムを明らかにした。 • 生成AI由来のGPTsも登場しているので妥当な取組みである。 今後への示唆 • これは、今後生成AIプラットフォームエコシステム内で補完品を作成 する事業者やユーザーにとって一定の指針には成り得る。 • しかし、モデル(調査結果)の切れ味はあまりシャープではない。 • その背後に、結局は、生成AIの独特の特性が関係している。 • また、補完者の役割は所詮独自の共創価値を作り出すことに過ぎず、 補完品が無くてもユーザーは直接生成AIを利用できる。 • 今後、生成AI直接利用と有効に競争しうる、あるいは抜本的に上回る 補完品が多数登場すると思うが、本格的キーアプリケーション登場ま でにはもう一段の工夫が必要そうである。 42

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4.今後の生成AI活用への示唆 今後の生成AI活用の活性化に向けて • 前述の内容を踏まえ、今後に向けて次の4点を考える。 A) 生成AIの登場で、従来とは異なる補完品として登場したChatGPTの GPTsのようなECの影響 B) 生成AIをプラットフォームの境界リソースとして採用したことに伴 い登場した2つのタイプの補完品(ECとSC)の影響 C) 生成AIの特性(「オープンエンド性」と「不可解性」)が本質的に 生成AIプラットフォームエコシステムに与える影響 D) 今後の生成AIプラットフォームエコシステムへの示唆 43

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A) 生成AIの登場で新たな補完品として登場したGPTsの影響 • GPTs登場の経緯: • Open AIは生成AIのカスタムバージョンを素早く作成できるGPTs をChatGPT発表1年後の2023年11月6日に開始した。 • この機能は提供後わずか2カ月で300万件の利用が発生した。 • 2カ月後の2024年1月10日に、OpenAIはこの機能をGPT Storeと命 名し、一般の利用を開始するとともに、収益の一部を作成者に還元 するとアナウンスした。 • GPTs に関する広範なデータを提供するオープンソース プロジェ クトBeeTrove データセット が存在する。 • このBeeTrove データセットには、約 349,000 の GPTsが記載されていた。 (2024年段階で) • このデータを元に次の2つの動向を示す。 1. GPTsの成長の過程 2. GPT開発者数の変化 ・・・・・分析結果1 ・・・・・分析結果2 44

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分析結果1:GPTsの成長 2カ月半 分析結果2:GPT開発者総数の変化 2カ月半 45

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B) 2つのタイプの補完品(ECとSC)の登場に伴う影響 • ECとSCの共存あるいは棲み分け: • 旅行サービスの例で考える。 • KAYAK: • 旅行比較サイトの世界大手KAYAKは、ChatGPTを活用した「AIモード」 を導入した。 • ブラウザ、あるいはアプリの「AIモード」をクリックし、旅行に関する 質問を話しかけると、数百社の旅行会社の最新情報と料金を比較し、リ アルタイムで結果を表示する。 • この状況は単に各種EC型補完品を単独で見ていただけでは不充分である ことを示している。 • 結局、EC, SCと個別に認識するよりも、魅力的アプリを構築する ためにはECもSCも複合的に利用し、既存アプリに比べてより快適 なソリューションを選択肢として提供することがポイントである。 46

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C) 生成AIが本質的に生成AIプラットフォームエコシステムに 与える影響 • プラットフォーム所有者、補完者、ユーザーの関係性を見る場合、適 応分野とそれと整合した適切な制御の度合いが大きな影響を与える。 • 制御の度合いの極端な例であるEC,SCは、実際には適応分野に合わせ て選択され、複雑な制御度合いの調整が想定される。 • その場合でも、Duggaの例に見られたように、制御の度合いはダイナ ミックに変動することもある。 • このような状況は適用分野、利用シーン、適応の成熟度合い毎に個別 化が予想される。 • 詳細な仕組みは個別性があるが、動的にエコシステム状況と制御の度 合いが変化する場合が多くなる気配がある。 • 生成AIは益々広範に浸透して行くので、組織的社会的側面も取り入れるため • これはエコシステムに従来のケースとは異なる特徴をもたらしてくる 可能性がある。 47

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D) 今後の生成AIプラットフォームエコシステムへの示唆 • “生成AIのプラットフォームへの影響”で想定した4つの影響で全体を振 り返る。 【今後の生成AI活用への示唆・中間まとめ】 • インテリジェントオートメーション: • 確かに人間の知性を必要としていたタスクの一部は自動化した。しかし反面、実 行制御を生成AIに移管したことによる問題は各所に潜伏した。 • 民主化: • 参入障壁は劇的に下がった。だが、それが生成内容の一貫性の無さ、質の低下に つながる。結果、逆説的だが補完者の価値創造のネタにこれらの改善が挙げられ るようにもなっている(SC補完者による④ AIモデル出力の修正、など)。 • ハイパーパーソナライゼーション: • 文脈に応じた個別化は、実際には、プラットフォーム所有者、補完者、ユーザー 間の動的な役割再定義を必要としていた(Duggaの例)。 • 協調的イノベーション: • 結局、従来のプラットフォームを超越した新たな価値創造にはAdobe Fireflyで見 られたような【人間とAIの協調によるイノベーションという新たな次元】が必要 である。 • このような状況が整い決定的キーアプリケーションの登場までには時間が掛かる。 48

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最終まとめ • 米巨大テック企業はクラウドベンダー(プラットフォーム所有者)でもあり、 生成AI基盤も保有しているので、生成AI由来の新市場創成の修羅場はアプリ ケーション層になるのではないかと推測されている。 • それ故、生成AIをプラットフォームの新たな境界リソースとして位置づけ、 ここでの多様な補完品開発の仕組みを解明するのは重要なテーマである。 • 現在のAppleのAppStoreの活況を見るまでもなく、新たな生成AIベースのア プリケーション本格立ち上げによる価値創造は巨大かもしれない。 • しかし、EC型補完品(ChatGPTのGPTsなど)を見ると、確かに数は増えて いるが、プラットフォーム所有者および補完品開発者のマネタイズ(金銭的価 値増殖)は成功していない。 • それだけでなく、補完品開発においても従来と異なる特性があり、補完品開 発者とともに、ユーザーにとっても活用の課題は多い(制御の調整、など)。 • 今回の分析結果は不充分ではあるが、生成AIの本格活用時代を展望すれば重 要な分野である。今後の一層の研究、あるいは違った切り口が期待される。 49

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編集後記 • 本稿は経営情報システム誌(Journal of Management Information Systems 2025)で“デジタルプラットフォームにおける生成AIとその変革 的価値”という特集が組まれており、全体俯瞰の基調論文(M. Wessel)の 評判が高かったので取り上げてみた。 • 前半が基調論文、後半が掲載5論文から選択した2論文の紹介である。 M. Wessel • 但し、内容は所謂ネットワーク効果を誘発し価値増殖を実現するプラッ トフォーム論ではない。 • 生成AIベースのプラットフォームはそれ自体ではマネタイズが脆弱で金 銭的インセンティブで補完品が活況を呈するような状態にはない。 • 一方で、GPTsのような新たな仕組みの登場はある。 • そこで、論文はプラットフォーム所有者、補完者、ユーザー間の新たな 課題/振舞いを特定したり、その課題の緩和に焦点が当てられていた。 • 現状では妥当な取組みと言えるが、研究成果のインパクトは弱い。 • これらから抜本的に生産性向上を実現する生成AI由来のキーアプリケー ションの登場やパラダイムシフトには時間が掛かるとの印象を持った。 50

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文献