規則・省令を踏まえた改正プロ責法条文攻略

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March 23, 22

スライド概要

【2022.4.1live解説】https://youtu.be/7nezajJXJKI

2022年秋施行予定の改正プロバイダ責任制限法について、具体的な内容を定める省令案3月16日がに公開されました。
省令委任事項が多く、法律だけでは詳細が不明であった点についてあたらめて省令案とともに解説しています。

なお、省令案については2022年4月15日までパブリックコメントの受付がなされています。

改正法や規則、省令案の条文については神田知宏弁護士のウェブサイトにて見やすくまとめられていますのでそちらをご覧ください。
・新法  https://kandato.jp/newproseki/
・規則  https://kandato.jp/data/kisoku/
・新省令 https://kandato.jp/data/skisoku/

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各ページのテキスト
2.

改正の流れ ◼2021.4.28 改正プロバイダ責任制限法公布(公布後1年半以内に施行) ※本資料では「新法」と表記します ◼2022.3.15 発信者情報開示命令事件手続規則公布 ※本資料では単に「規則」と表記します ◼2022.3.16 改正法対応総務省令案パブリックコメント開始(4/15まで) ※本資料では「新省令」と表記します ◼2022.10? 改正プロバイダ責任制限法施行 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 2

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これまでの流れが追えている人向け 規則と省令案のポイント 【規則】新たな裁判においても、管轄が定まらない場合の管轄地は東京千代田区に →大阪管轄は海外法人には使えないことが確定 【省令案】侵害関連通信はアカウントクリエイト、ログイン、ログアウト、アカウント削除の4つが入ったが、 侵害通信「直近」に限られた。さらにログイン通信は直前に限られた。 →投稿後のログインからの発信者情報開示は不能 CPから任意開示がなされたとしてもAPが開示義務を負わないことが確定 【省令案】TwitterやFacebookなど主要なログイン型CPは新法5条1項3号ロ 【省令案】施行前後の適用関係は不明。附則で言及なし。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 3

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改正のポイント 1 ログイン型に関する規定の整備 • ログイン型に関する開示要件を真正面から条文化 2 新たな裁判手続の創設 • 新たな発信者情報開示裁判制度を創設 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 4

5.

規則・省令の位置づけ ◼新たな裁判手続きについては管轄や申立書の記載事項を定めた規則が最高裁により制定 ◼ログイン型に関してどのような情報が開示対象になるかなど実質的な事項に関する省令委任事項について は、総務省が新省令案を公表(パブコメ中) ◼新省令は、現行の総務省令を廃止し現行総務省令で規定している部分(発信者情報の内容)にうち ても微修正しつつ一本化 ◼規則・新省令(省令は案の段階だが)の公表により改正プロバイダ責任制限法の全体像が明らかにな った COPYRIGHT 中澤佑一 2022 5

6.

規則の構造(全8条) 1条:管轄裁判所が定まらない場合 2条:提供命令後のAPに対する発信者情報開示命令申立書の記載事項 3条:発信者情報開示命令の申立書の写しの提出 4条:提供命令・消去禁止命令申立書の方式・記載事項 5条:直送 6条:発信者情報開示命令事件における申立変更 7条:非訟事件手続規則の適用除外 8条:取り下げの取り扱い 附則:新法施行日に施行 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 6

7.

新省令の構造(全7条) 1条:用語は法の例による 2条:発信者情報 3条:特定発信者情報 4条:特定発信者情報を開示する場合の要件の補足(新法5条1項3号ロ) 5条:侵害関連通信 6条:提供命令発令後の提供の方法 7条:他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報 附則:新法施行日に施行し、旧省令は新省令施行とともに廃止 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 7

8.

ログイン型投稿に関する規定の整備 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 8

9.

現行法の問題点 ◼権利侵害を発生させる通信が開示対象 ログインのための通信は文言上開示対 象にならない ◼ログイン通信を媒介した経由プロバイダが開示関係役務提供者に該当しない ◼裁判ではどうしているか? ◼「発信者情報」を拡大解釈してログインIPの開示を認めるなどの対応 ◼ログイン通信を媒介していれば権利侵害通信も媒介したであろうという事実認定 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 9

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2021年改正の内容 権利侵害を発生させるそのものではない通信についても開示対象とで きるように発信者情報を拡大 権利侵害以外の通信を媒介したプロバイダも発信者情報開示義務を 負うように あくまで権利侵害通信が原則という部分は崩さず、権利侵害以外の 通信に関する開示請求について要件を過重 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 10

11.

ログイン型に対応するための新用語 特定発信者情報 特定発信者情報以外の発信者情報 侵害関連通信 関連電気通信役務提供者 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 11

12.

特定発信者情報と それ以外の発信者情報 発信者情報 提案!わかりやすさのために 「一般発信者情報」とでも呼ばないか 特定発信者情報以外の 発信者情報 従前の発信者情報のこと 侵害通信に関する情報 特定発信者情報 ログイン型関連:新設 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 12

13.

特定発信者情報とは? 定義 発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるも のをいう(新法5条1項) ◼建付け 発信者情報:新省令2条 侵害関連通信:新省令5条 発信者情報のうち特定発信者情報になるもの:新省令3条 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 13

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侵害関連通信とは? 定義(新法5条3項) 侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了す るために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務 の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。) その他の符号の電気通信による送信であって、 当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 14

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侵害関連通信(新省令5条) 法第五条第三項の総務省令で定める識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号その他の符号の電気通信に よる送信であって、それぞれ同項に規定する侵害情報の送信の直近に行われたものとする。 一 侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務の利用に先立って当該特定電気通信役務の利用に係る契約(特定 電気通信を行うことの許諾をその内容に含むものに限る。)を申込むために、当該契約の相手方である特定電気通信役務提供者によっ てあらかじめ定められた当該契約の申込みのための手順に従って行った、又は当該発信者が当該契約をしようとする者であることの確 認を受けるために当該特定電気通信役務提供者によってあらかじめ定められた当該確認のための手順に従って行った識別符号その他の 符号の電気通信による送信(当該侵害情報の送信より前に行ったものに限る。) 二 侵害情報の発信者が前号の契約に係る特定電気通信役務を利用し得る状態にするために当該侵害情報の送信より前に当該契約の相 手方である特定電気通信役務提供者によってあらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態にするための手順に従って 行った、又は当該発信者が当該契約をした者であることの確認を受けるために当該侵害情報の送信より前に当該特定電気通信役務提供 者によってあらかじめ定められた当該確認のための手順に従って行った識別符号その他の符号の電気通信による送信 三 侵害情報の発信者が前号の特定電気通信役務を利用し得る状態を終了するために当該侵害情報の送信より後に当該特定電気通信役 務を提供する特定電気通信役務提供者によってあらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態を終了するための手順に 従って行った識別符号その他の符号の電気通信による送信 四 第一号の契約をした侵害情報の発信者が当該契約を終了させるために当該契約の相手方である特定電気通信役務提供者によってあ らかじめ定められた当該契約を終了させるための手順に従って行った識別符号その他の符号の電気通信による送信(当該侵害情報の送 信より後に行ったものに限る。) COPYRIGHT 中澤佑一 2022 15

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侵害関連通信は4つ ◼4つの通信類型が侵害関連通信に それぞれの類型について侵害関連通信の直近が侵害関連通信に該当する ① アカウント作成通信 ② ログイン・SMS認証通信(侵害情報の送信前に限る) ③ ログアウト通信 ④ アカウント削除通信 ◼1投稿について最大4通信が侵害関連通信となり4通信分の情報開示が可能 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 16

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特定発信者情報(新省令3条) ◼特定発信者情報は、発信者情報を定める新省令2条に規定する情報のうち9号~14号に定めるものとなった。 ⑨ 専ら侵害関連通信に係るアイ・ピー・アドレス及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号 ⑩ 専ら侵害関連通信に係る移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号 ⑪ 専ら侵害関連通信に係るSIM識別番号 ⑫ 専ら侵害関連通信に係るSMS電話番号(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号に規定する電子メールのうち、特定電子メールの送信の適正化等に 関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令第二号に規定する通信方式を用いるものの利用者を識別するための番号その他の符号として用いられたものをいう。次号において同じ。) ⑬ 第九号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第十号の移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係 る移動端末設備、第十一号のSIM識別番号に係る移動端末設備又は前号のSMS電話番号に係る移動端末設備から開示関係役務提 供者の用いる電気通信設備に侵害関連通信が行われた年月日及び時刻 ⑭ 発信者その他侵害情報の送信に係る者についての利用管理符号(開示関係役務提供者と当該開示関係役務提供者と電気通信設備の 接続、共用又は卸電気通信役務(電気通信事業法第二十九条第一項第十号に規定する卸電気通信役務をいう。)の提供に関する協定又 は契約を締結している他の開示関係役務提供者との間で、インターネット接続サービスの利用者又は当該利用者が使用する電気通信回線を識 別するために用いられる文字、番号、記号その他の符号をいう(前各号に定めるものを除く。)。 ※ISP間での識別符号、回線番号やICCID、顧客管理番号等 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 17

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現行法からの変更点など ◼ログイン情報は投稿直前の1ログイン分に限られる 投稿後ログインからの情報開示や複数のログインから特定しやすいものを選択することはで きなくなる 直前ログインがソーシャルログインだった場合や特定不能APの場合は現行法より後 退? ◼アカウント消去からの投稿者特定 ◼アカウント作成通信は使いどころあるか?(ログ保存期間的な意味で) ◼実際に開示される情報はIPアドレスやポート番号など基本は同じだが、新省令14号に てICCIDの開示も可能に。MVNOなどでは特定しやすくなる可能性。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 18

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地味に一般発信者情報も改正 (新省令2条①~⑧) ①発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称 ②発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所 ③発信者その他侵害情報の送信に係る者の電話番号 ④発信者その他侵害情報の送信に係る者のSMTP電子メールアドレス ⑤侵害情報の送信に係るアイ・ピー・アドレス&ポート番号 ⑥侵害情報の送信に係る利用者識別符号 ⑦侵害情報の送信に係るSIM識別符号 ⑧侵害情報が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ) COPYRIGHT 中澤佑一 2022 19

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発信者情報開示請求権が3つに分裂 1 新法5条1項1号2号開示請求権(第1類型) ◦ 法制定以来想定されていた典型的場面。 実質変更なし ◦ CPに対するポストIP開示、ポストIPからのAPに対する住所氏名開示 2 新法5条1項1号2号3号開示請求権(第2類型) ◦ CPに対するログイン型発信者情報開示請求 3 新法5条2項開示請求権(第3類型) ◦ APに対するログイン型発信者情報開示請求 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 完全な新要件が規定 要件は変更なし 請求先の整備 20

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第2類型要件 総論 CPにログイン情報の開示請求をするには? 権利侵害の明白性、正当理由など現行の発信者情報開示請求の 要件(第1類型の要件 新5条1項1号および2号)に加えて、新 5条1項3号が定めるイ~ハの3つのいずれかに該当することが必要 原則は侵害通信に係る発信者情報開示(第1類型)だが、特別 な要件(3号)をさらに具備すると きは例外的に侵害関連通信に係 る特定発信者情報まで開示を認める COPYRIGHT 中澤佑一 2022 21

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第2類型の要件 その1 新法5条1項3号イ 条文 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信 者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。 日本語訳 記事が掲載されているCPが、その記事投稿のための通信記録(および その記録から調査できる住所氏名等)を保有していないとき。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 22

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第2類型の要件 その1 新法5条1項3号イ 適用対象例 記事投稿に関するポストIPやメールアドレス等を保有していないCP 適用例はない? 理論的には存在しうるが、現状で対象になるCPはないと思われる COPYRIGHT 中澤佑一 2022 23

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第2類型の要件 その2 新法5条1項3号ロ 条文 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害 に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者 情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであ ると認めるとき。 ⑴ 当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所 ⑵ 当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定す るために用いることができる発信者情報 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 24

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ロによる開示要件(新省令4条) ◼「法第五条第一項第三号ロの総務省令で定める特定発信者情報以外の発 信者情報は、第二条第三号、第四号又は第八号に掲げる情報とする。」 ◼具体的には 3号:発信者その他侵害情報の送信に係る者の電話番号 4号:発信者その他侵害情報の送信に係る者のSMTP電子メールアドレス 8号:侵害情報が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ) COPYRIGHT 中澤佑一 2022 25

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新法5条1項3号ロの要件 新省令を踏まえると 請求先(≒CP)が保有する一般発信者情報が、電話番号、メール アドレス、タイムスタンプしかなく、その他の一般発信者情報がないとき。 適用対象 ログイン記録や登録メアドはあるがポストIPがない典型的なログイン型サ イト。Twitter、Instagram、Facebookなどはこの条文となる。 新法5条1項3号がログイン型の主戦場になる COPYRIGHT 中澤佑一 2022 26

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第2類型の要件 その2 新法5条1項3号ロ 開示される対象は特定発信者情報(新省令2条9号~14号) 東京高判平成30年6月13 日(判時2418号3頁) →投稿後のログインにかかる通信に関して開示を肯定。 新法ではこの理論は使えなくなる COPYRIGHT 中澤佑一 2022 27

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第2類型の要件 その3 新法5条1項3号ハ 条文 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情 報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵 害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。 日本語訳 普通の発信者情報の開示を受けたけど発信者の特定ができない場合 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 28

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第2類型の要件 その3 新法5条1項3号ハ 適用場面・論点(そもそも使う場面あるのかな?) ✓ブログサイトなどで古い記事での権利侵害。当該記事に関するポスト IP(普通の発信者情報)の開示を受けたがAPのログがない場合に ブログアカウントへの最新ログイン通信の情報(特定発信者情報)の 開示を狙う場合に使えるか? ✓ブログ登録時のメールアドレスを保有しているから当たらない? ✓「発信者を特定することができない」の判断基準は?過去形問題 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 29

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第3類型 (対ログインAP) 新法5条2項関係 開示関係役務提供者の拡大(新法2条6号) 特定電気通信役務提供者にくわえ、関連電気通信役務提供者も含まれるように 侵害関連通信を媒介したAPも関連電気通信役務提供者として、開示請求の相手(開示関係役務 提供者)として明記された。 侵害関連通信(アカウント作成時の通信、侵害情報の直前ログイン通信、侵害情報の直後ログイン通 信、アカウント削除通信)を媒介したAPは、実際に侵害通信を媒介していなくとも開示義務を負う COPYRIGHT 中澤佑一 2022 30

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電話会社に対する開示請求 第3類型でできるようになったのか? ◼SMS認証を行うためのログイン通信は侵害関連通信になり、その媒介 者は関連電気通信役務提供者になった(新省令5条2号) ◼しかし、登録情報としての電話番号が開示された場合は侵害関連通 信を媒介したAPは不明? ◼新省令を見てもこの点は疑義が残るが実際は弁護士会照会で行われ るため顕在化しない論点? COPYRIGHT 中澤佑一 2022 31

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遡及適用の問題 ◼令和3年省令改正による電話番号追加においては、改正省令施行前の投稿について改正省令の適用 があるかが大いに問題となった。高裁の判断も分かれており、最高裁も係属中。 A) 遡及適用になり許されないとする説 多くのプロバイダが主張する (東京高裁令和3年9月24日) B) 請求を行ったことで開示義務が発生するのだから請求時基準説 総務省公式見解(パブコメ参照) (東京高裁令和3年5月25日) ◼新省令の附則ではこの点は何ら触れられておらず、特定発信者情報の開示請求、特にアカウント作成通 信やアカウント削除通信については大いに問題となりうる。 →パブリックコメントで疑問点として指摘し施行までに明確化したいところ COPYRIGHT 中澤佑一 2022 32

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その他の細かな法改正 発信者への意見照会において理由も照会するように法定(新法6条1項) ※ただし現在でも実務上はプロバイダは理由を聞いている 意見照会で開示拒否した発信者について発信者情報開示命令(新設の新しい裁判)を受けたときは、 その旨を通知する義務 ➢懸念 通常の訴訟・仮処分では通知義務なく、新しい裁判でのみ通知義務 現状で意見照会も通知もしていない海外CPが新しい裁判手続きに協力する際の障害にならないか COPYRIGHT 中澤佑一 2022 33

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新たな裁判手続の創設 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 34

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新制度導入の背景・狙い 現行制度では • 複数回の裁判を経なければならない • 複数回の手続きを経ている間に通信記録が消失 • 明らかな誹謗中傷など争訟性の低い事案でも裁判が必要で時間がかかる • 民事保全、民事訴訟のため国際送達などの問題を避けられない 簡易迅速、手続柔軟な一回的解決の新たな裁判制度を導入することで被害者救済の拡大 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 35

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現行制度 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 36

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新たに規定される3つの命令 発信者情報開示命令(新法8条) 発信者情報の開示を開示関係役務提供者に対して命じるもの 発令の要件、開示を命ずることができる発信者情報開示の範囲は同じ 提供命令(新法15条) CPに対してAPはどこかを提供させる命令(超ざっくり説明 詳細は後述) 消去禁止命令(新法18条) 開示請求の対象となっている発信者情報の消去を禁ずる命令 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 37

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新しい裁判 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 38

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発信者情報開示命令について 要件・効果は新法5条1項・2項で規定。新たな裁判特有の要件効果はなし。 以下の項目について新たな裁判プロパーの定めを置く(新法9~14条) • 国際裁判管轄 • 国内土地管轄 • 申立書の写しの送付 • 記録閲覧 • 取下げ • 異議の訴え COPYRIGHT 中澤佑一 2022 39

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国際裁判管轄 対Google、Twitter等への申し立てができる場合 民事訴訟法と同じ結論(現行制度で日本の裁判所に申し立て可能な相手ならOK) Google、Twitter、Facebookなどメジャーどころは 新9条1項3号の「日本において事業を行う者」として我が国の裁判管轄を主張することになる COPYRIGHT 中澤佑一 2022 40

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国内土地管轄 管轄は相手方の普通裁判籍等が原則。民事保全の場合と同様。 追加的管轄として東京地方裁判所と大阪地方裁判所にも管轄を認める 意匠権等に関する訴えの管轄(民訴法6条の2)と同じ定め 特許、プログラムの著作権等の特別な類型については、例外的に東京地裁or大阪地裁のみ 当事者間の合意管轄も可能 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 41

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大阪管轄の実質はどうなった? ◼大阪地裁での申し立ては、大阪高裁、広島高裁、福岡高裁、高松高裁管轄の 地裁に管轄があることが前提 ◼国内に事業所の無い企業(Twitterなど)については結局民訴と同じく東京都千 代田区になった(規則1条) ◼大阪地裁で追行できるCPは西日本企業のみ ◼原則書面審理で行うという話もありもやは管轄にこだわる理由はなくなるかもしれな い COPYRIGHT 中澤佑一 2022 42

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申立書の写しの送付(新法11条) 直送ではなく裁判所が相手方に写しを送付する 送達でなない、海外を相手取る場合には柔軟かつ迅速な対応が可能に (EMSを想定) 注意:民訴条約・送達条約未加盟国の場合 申立書以外の証拠種類は当事者が直送 送付前の不適法却下について非訟事件手続法の規定が準用されている COPYRIGHT 中澤佑一 2022 43

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異議の訴え(新法14条) 発信者情報開示を命ずる決定に対しては異議の訴えの提 起が可能 異議期間は1カ月間 異議が通らなかったとき、異議が出なかったときは債務名義に なる COPYRIGHT 中澤佑一 2022 44

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新たな裁判の審理方式 条文上定めなし=書面審理が可能 ただし、陳述聴取が必要的 「開示命令の申立てについての決定をする場合……当事者の陳述を聴かなければならない」(新法11 条3項) 申立書送付と陳述聴取が省略できない =仮処分における無審尋発令ができない? =5ch.netなど民訴条約・送達条約未加盟国の場合は使いづらい COPYRIGHT 中澤佑一 2022 45

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複数請求の可否 非訟事件手続法43条3項 「申立人は、二以上の事項について裁判を求める場合において、これらの事項についての非訟事件の手続 が同種であり、これらの事項が同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、一の申立てにより求めるこ とができる。」 例として、複数Twitterアカウントを同時に開示請求するケース 事実上はともかく「同一の……法律上の原因」に基づくと言えるケースは少ないのでは? 例として、掲示板において、複数投稿を対象にするケース 同一人物が投稿していると客観的に言える事情がなければ、同一の事実上の原因とも言えないのでは? COPYRIGHT 中澤佑一 2022 46

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閲覧制限の可否 当事者または利害関係を疎明した第三者は記録閲覧可能(新法12条1項) 仮処分も利害関係の疎明があれば記録閲覧可能(民保法5条) しかし、民事訴訟法が準用される結果、閲覧制限が可能 新法、非訟事件手続法いずれにも、閲覧制限の規定なし 氏名はともかく、住所の閲覧制限をしたいという要望への対応は? COPYRIGHT 中澤佑一 2022 47

48.

提供命令(新法15条) 要件(かなり緩い要件となっている) ① 侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認め るとき、 ※前提として発信者自身の住所氏名等を保有していないプロバイダに対してということ ② 保有している発信者情報により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者の 氏名又は名称及び住所(他の開示関係役務提供者)の特定をすることができる 場合 ※発信者情報開示命令を申し立てられている情報であることが必要 IPアドレスなど 他の開示関係役務提供者の氏名又は名称及び住所を提供するか、不可能なときは 不可能な旨を告知せよと命じられる COPYRIGHT 中澤佑一 2022 48

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他の開示関係役務提供者の特定のために 用いる発信者情報とは?(新省令7条) ◼他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報(新省令7 条) それぞれ侵害通信or侵害関連通信に関する IPアドレスおよびポート番号 利用者識別符号 SIM識別符号 電話番号 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 49

50.

提供命令における論点① 提供命令における証明の程度 民事保全法24条の「必要な処分」の趣旨を援用して「疎明」で足りると思われる 開示命令の認容の蓋然性の疎明まで必要か? 条文上、「特定することができなくなることを防止するため」という必要性のみが要件。 必要性のみだとすれば、ほぼ無条件で常に発令されることになるはず? 発令のタイミングは? 必要性の判断のみで発令できるとすれば、CPの反論を待たず、すぐに発令される余地あり COPYRIGHT 中澤佑一 2022 50

51.

提供命令における論点② 不変期間の計算はいつからか?(=発令のタイミングはいつか?) 提供命令には即時抗告が可能(新法15条5項)。 即時抗告は、2週間の不変期間内にする必要があるが(非訟事件手続法67条1項)、手続保 障の関係上、申立書の送付のみならず、証拠書類の直送確認ができてからではないか? →結果として、提供命令の発令は遅延。 これを消極(発令可能)と解釈すると、CPは大事をとって常に即時抗告をするおそれ? 即時抗告における審理対象は何か? 提供命令が必要性の疎明のみで発令可能とすれば、即時抗告において争う内容も必要性のみな のか。それとも、権利侵害の明白性の一定の疎明までも含むのか。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 51

52.

提供命令後のCP-APのやり取り (新省令6条) ◼提供命令に基づく発信者情報の提供については、書面または電磁的方法による(新15条1項) ◼電磁的方法の詳細について新省令6条で規定 一 電子メールを送信する方法 二 磁気ディスク、シー・ディー・ロムその他の記録媒体を交付する方法 三 法第十五条第一項柱書の開示関係役務提供者が自ら設置した電子計算機に備えられたファイル に記録された同項に定める事項を電気通信回線を通じて申立人のみの閲覧に供し、及び当該事項を当 該ファイルに記録する旨若しくは記録した旨を当該申立人に通知し、又は当該申立人が当該事項を閲覧 していたことを確認する方法であって、当該申立人がファイルへの記録を出力することによる書面を作成する ことができるもの ※オンラインストレージやファイル共有サーバー COPYRIGHT 中澤佑一 2022 52

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消去禁止命令 要件 発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するた め必要があると認めるとき 効果 当該発信者情報開示命令事件が終了するまでの間、保有する発信者情報(のうち発信者情報開示 命令申立対象となっているもの)を消去してはならない ✓従来の発信者情報開示命令と違い手続き終了までだがこれで十分  消去禁止命令に対しては即時抗告が可能 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 53

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消去禁止命令における論点 消去禁止命令における証明の程度 民事保全法24条の「必要な処分」の趣旨を援用して「疎明」で足りると思われる 開示命令の認容の蓋然性の疎明まで必要か? 条文上、「特定することができなくなることを防止するため」という必要性のみが要件。 必要性のみだとすれば、ほぼ無条件で常に発令されることになるか? 陳述聴取は必要的? 提供命令と異なり、不保有の場合の報告が規定されていないため、「保有」前提でなければ発令で きないのではないか。結果、陳述聴取を経て、「保有」が確認できてからでなければ発令できないのでは ないか? COPYRIGHT 中澤佑一 2022 54

55.

新しい裁判の活用方法、運用上の疑問点 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 55

56.

ダブルトラックなのか? 中間とりまとめにおいて従来の実体法上の請求権に「代えて」とされていた新たな裁 判手続 研究会構成員からも大批判を受け、最終とりまとめでは「加えて」と修正 しかし、最終とりまとめ段階では、 ①完全並列(当事者が選択できる)なのか、 ②まずは新たな裁判を申立て不服があれば異議を出して訴訟という流れ なのかが判然とせず、構成員間でも認識の差があった模様 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 56

57.

結論:ダブトラックである 国会提出条文案と同時に公開された総務省の法律案 (概要)説明資料では、現行と新たな裁判手続きが 「+」で並列に結合されている 完全並列のダブルトラックに落ち着いた COPYRIGHT 中澤佑一 2022 57

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最初の申し立ての内容は? CPを相手に発信者情報開示命令申立てを行い、どこかのタイミングでAPを確認するための提供命令を申し立てる 必要がある 発信者の住所氏名を把握していないことが経験的に明らかなCPに対しては提供命令の申し立てのみしたい 現行のIP開示請求もAP特定のために行う作業 しかし、提供命令の要件として「発信者情報開示命令事件が係属する裁判所」との文言 形式的に発信者情報開示命令を申立てる必要がありそう CPに対してIPアドレス等を求める発信者情報開示命令と提供命令を同時に申し立てる? CPに対する発信者情報開示命令は提供命令発令後は取下げ? 実務上無駄な作業が発生しないように、今後制定される最高裁規則などを注視 総務省が逐条解説で申立書式を作成することを期待 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 58

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実務的な申立て案 ① 全事件共通:CPを相手に、発信者情報開示命令 + 提供命令の申立て -1 電話番号・メールアドレスを保有していないCPの場合: →提供命令に応じて提供した場合、APに対する発信者情報開示命令の申立て 及び、CPへの申立ての取下げ(ただし、取下には相手方の同意が必要) 提供命令に対して即時抗告された場合は、争う。 -2 電話番号・メールアドレスを保有しているCPの場合: →電話番号・メールアドレスの開示を求めるため、申立維持 提供命令に対して即時抗告された場合は、争う。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 59

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実務的な申立て案 ②-1 【①-1(電話番号、メール不保有)ルート】 APに対する開示命令 + 提供命令 + 消去禁止命令の申立て ②-2 【①-2(電話番号、メール保有)ルート】 APに対する開示命令の申立て+ 提供命令 + 消去禁止命令の申立て + CPに対する開示命令の申立てをした旨の通知 *提供命令の申立ては、APがMNO、ジェイコムなどである場合に備えて。 「当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く」(新15条1項1号イ)ため、発信者情報を保有するAPで あれば、提供命令対象情報がない旨の回答を得られるはず。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 60

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MNOに対する手続き? ◼開示命令なのか提供命令なのか ◼提供命令申立ての前提として開示命令係属が必要となると何を開示請求? ◼MNOはいつ離脱できるのか?最下流まで言ったところでもう一回戻される? ◼ICCIDが発信者情報(新省令2条14号)に入った。 NNOやMVNOに対する開示請求では有効。 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 61

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分割法 従来のIP仮処分→住所氏名本案といった、二段階請求を新しい裁判の発信者情報開示命令で行うこ とも可能 CPに対して発信者情報開示命令申立て、開示されたIP等でAPを自分で特定 APに対して改めて発信者情報開示命令を申立て MVNOや多重プロバイダであることが発覚すれば提供命令を申立て最終APまでたどる 提供命令はかなり緩い要件で発令されるため、MVNOなどプロバイダが多重に絡まり合う場合には非常に 有効 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 62

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電話番号ルートと相性よし 保全の必要性を問わずに発信者情報開示命令発令+国際送達不要 →海外プラットフォーマーに対する電話番号の開示請求(現行では1年以上かかる)が便利に 発信者情報開示命令の審理は3カ月程度を想定している模様 COPYRIGHT 中澤佑一 2022 63

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ログイン型と新たな裁判 ◼侵害関連通信が直近のものに限定され、ログイン情報は投稿直前ログインのものしか取得できなくなった →従来のような投稿後ログインからのルートは消滅 ◼現行の手続きではログの保存期間の関係で直前ログインからの発信者特定は不能なケースも多かった ◼新たな裁判手続きによりどこまで迅速にAPに対する情報保存まで進められるかがポイントになる ◼新たな裁判の審理が迅速になされなければ、今回の法改正は被害者救済にとっては後退となりかねない COPYRIGHT 中澤佑一 2022 64

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弁護士法人戸田総合法律事務所 事業所案内(2022年3月版)

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IT・インターネット関連のご相談なら 戸田総合法律事務所へ 弁護士法人戸田総合法律事務所は、イン ターネット・ITをはじめとする高度情報化 社会ならではの諸問題に専門的に取り組ん でいます。 所属弁護士は弁護士・法務部員向けにイ ンターネット関連事件の研修講師も務めて おり、専門特化型の法律事務所となってお ります。 上場企業から個人の方まで、インターネ ット・IT関係でお困りの方は当事務所にご 相談下さい。 当事務所について Toda Sogo

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事務所所在地・連絡先 東京オフィス 〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-4-1新国際ビル6階 TEL:050-1751-1328(平日 9:00~17:00) FAX:03-6273-4791 JR「有楽町駅」国際フォーラム口 徒歩2分 JR「東京駅」丸の内南口 徒歩9分 JR京葉線「東京駅」5出口 徒歩3分 有楽町線「有楽町駅」D3出口 直結 三田線・日比谷線・千代田線「日比谷駅」B2出口 徒歩2分 戸田オフィス 〒335-0023 埼玉県戸田市本町2-10-1山昌ビル3階 TEL:050-1751-1328 (平日 9:00~17:00) FAX:048-229-6205 JR埼京線「戸田公園駅」東口 徒歩2分 Toda Sogo

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法人概要 法人名称 弁護士法人戸田総合法律事務所 代表者 中澤 佑一 設立年月日 2011年7月1日 オフィス 戸田オフィス(埼玉県戸田市) 東京オフィス(東京都千代田区丸の内) 役員 中澤 佑一(代表弁護士) 松本 紘明(代表弁護士) 船越 雄一(インターネット部門統括パートナー) 所属弁護士数 7名 所属弁護士会 埼玉弁護士会 第二東京弁護士会 ウェブサイト https://todasogo.jp/ 松本 紘明 東京弁護士会 Toda Sogo

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