西洋美術史ゼミ第20回:現代における美術

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September 10, 22

スライド概要

隔週程度で行っている世界史と西洋美術史の勉強会のスライドです。今回は90年代以降の美術について扱っています。厳密な考証は行っていませんが、可能な限り正確に書くことを心掛けています。以下のURLからスライドと補足資料をダウンロードできます。参考文献もこちらに記載しています。
https://github.com/amazuun/Art_of_Europe

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理系の大学生です。近代以降の美術史や思想史、現代美術について興味があります。厳密な考証は行っていませんが、可能な限り正確に書くことを心掛けています。後の物の方が出来が良いので、最新のものを最初に読むことをお勧めします。githubからはスライドと補足資料をダウンロードできます。参考文献は補足資料に記載しています。

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各ページのテキスト
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西洋美術史ゼミ 第20回 現代における美術 発表者 あまずん 1

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発表者について あまずん Twitter : @quii_w (メイン) @amazuunsc(サブ) 理系の大学生(数学科)です。 近代以降の美術史や思想史、現代美術について 興味があります。 2

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ゼミについて • 週1回程度で美術出版社「増補新装 カラー版 西洋美術史」を一章ずつ 読み進め、内容をまとめ発表します。 • また、高校世界史に沿う形で当時の 出来事についても説明します。 • そのため、世界史と美術史を同時に 学ぶことができるため、歴史が好き な方も美術が好きな方も学びを深め ることができます。 3

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前回の内容(1) • 60年代後半にコンセプチュアル・ アートが興り、美術作品の観念性は 極地に達した。極めて精緻なスー パーリアリズムもこの流れを受けた ものである。 • シュポール/シュルファスは絵画を 様式から解放し、アルテ・ポーヴェ ラやもの派は素材を素材のまま提示 した。 • 広大な大地に作品を描くアース・ ワークが作られ、作品は必ずしも美 術館やギャラリーに留まるものでは なくなった。 By Tony Godfrey, Conceptual Art, London: 1998, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=6981637 コスース《1つおよび3つの椅子》

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前回の内容(2) • 禁欲的な潮流への反発から新表現主 義の運動が起こり、具象絵画が再び 注目を集めた。グラフィティが表現 として注目され始めたのもこの頃で ある。 • 80年代からアプロプリエーションの 手法が使われるようになり、イメー ジを「盗用」することによりコンテ クストをかき乱した。 ジェフ・クーンズ《Rabbit》

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本日の内容 世界史について • 現代の世界 美術について • 90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 6

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全体の概略 • 東西冷戦が終わり、東側諸国の民主化やグローバル化が進んだ。 しかし、これは経済格差を生む要因ともなった。 • 今回は90年代~現在(~2012程度)までの美術を扱います。 90年代以降は特定の名称で括れるような潮流が無くなっていき、 表現方法も個々人によって異なるものとなります。 • この時代の美術はまだ「歴史」として確立されたとは言い難く、 その評価や位置づけも定まってはいません。そのため多少込み 入った話題があります。また内容もかなり詰め込んだのでまと もに読むとかなり大変ですが、軽い気持ちで眺めてもらって、 今後の展示などで「なんか名前見たことあるかも」くらいに 思ってもらえればと思います。 7

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本日の内容 • 世界史:現代の社会 • 美術史:90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 美術史:21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 8

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現代の社会:CONTENTS ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 東欧の民主化 ソ連の解体 通商の自由化 アジア社会主義の変容 南北・南南問題 20世紀の科学と文化 ベルリンの壁

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東欧の民主化 • 米ソ間の緊張緩和を推進したソ連の ゴルバチョフは、冷戦終結直前の 1988年に東欧社会主義圏への内政干 渉を否定した。 • ポーランドでのワレサを指導者とし た改革を発端として東欧の自由化が 進んだ。89年にベルリンの壁が解放 され統一ドイツが実現されるなどし て、結果的に91年に東欧社会主義圏 が消滅した。 英語版ウィキペディアのLear 21さん, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3692038 による 壁の崩壊に歓喜するベルリン市民

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ソ連の解体 • ゴルバチョフによるソ連の改革をペ レストロイカと呼ぶが、彼が大統領 に選出された90年からソ連の市場経 済への移行が始まった。 • 東欧における急速な民主化も影響し、 91年8月に連邦を結び付けていたソ連 共産党が解散し、同年12月にロシア 連邦、ウクライナ、ベラルーシなど 11の共和国が独立国家共同体(CIS) を結成し、ソ連邦は解体した。 独立国家共同体の旗

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通商の自由化 • 90年代の社会主義圏の崩壊後、経済 のグローバル化が顕著にみられ、貿 易量の増加や多国籍企業の活発化が 起こった。 • しかし、技術の発展などから既存の 枠組みでは処理できない問題が起こ り、これを解決するためにWTO (世界貿易機関)が設立された。 • また、グローバリズムの発展ととも に各地で地域主義的な動きも見られ、 EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由 貿易協定)、ASEAN(東南アジア諸 国連合)などが発足した。 EUの旗

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アジア社会主義の変容(の前に)(1) • 時代が前後するが、60年代のベトナ ム戦争と中国の文化大革命について まず扱う。 • 60年代初頭、南北に分断されていた ベトナムでは、南ベトナムの政権が 独裁色を強める中で南ベトナム解放 民族戦線が結成され、北ベトナムと 連携してゲリラ戦を展開した。 • 北ベトナムの共産党政権が南に及ぶ ことを警戒したアメリカは南ベトナ ムを支援し、ベトナム戦争が始まっ た。 爆弾を投下するアメリカ空軍のボーイング B-52戦略爆撃機

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アジア社会主義の変容(の前に)(2) • 米軍は最新兵器を駆使して大規模な地上 戦、空爆を繰り返したが、ソ連・中国の 支援を受けた北ベトナムと南ベトナム解 放民族戦線はもちこたえ、戦局は泥沼化 した。 • 合衆国の軍事介入は合衆国内の世論を二 分させ、国際的にも多くの批判を受けた。 これに加え財政赤字などからアメリカは 撤退せざるを得なくなり、アメリカは歴 史上初の敗戦を喫した。 • その後75年に北ベトナムが南北を統一し、 ベトナム社会主義共和国が成立した。 Roy Kerwood - Originally uploaded to English Wikipedia by Roy Kerwood, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=44122819 による 反戦パフォーマンス《ベッド・イン》を行うジョンレ ノンとオノ・ヨーコ

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アジア社会主義の変容(の前に)(3) • 49年に毛沢東を主席とする中華人民 共和国が成立し、ソ連と共に社会主 義圏に属していた。 • 中国は50年年代前半に戦前の農工業 生産額を超えたが、やがて強引な工 業化や農業集団化や共産党支配への 批判が現れた。毛沢東は批判勢力に 反撃し、急激な社会主義建設を目指 す「大躍進」運動を進めた。 • しかし、労働者や農民の疲弊に自然 災害が重なり、多数の餓死者を出し 失敗に終わった。 張振仕 - Intermediate source: https://www.flickr.com/photos/richardfisher/3451116326/, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7614080 による 毛沢東

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アジア社会主義の変容(の前に)(4) • 59年に毛沢東に代わって劉少奇が国家主 席となり、経済政策を見直した。 • 一方、権力を失っていた毛沢東は、当時 権力の中枢にいた劉少奇や鄧小平などを 非難し、プロレタリア文化大革命という 新たな革命運動を呼びかけ指導力の回復 を図った。 • この革命は階級闘争を主張したものであ り、紅衛兵など若い世代が中心の団体が 動員され、全国で政治家や官僚をはじめ 多くの知識人が批判、追放された。 • 結果として毛沢東の権力回復は成功した が、中国国内は大混乱に陥った。 天安門広場で毛主席語録を掲げる紅衛兵

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アジア社会主義の変容(1):中国 • 中国では文化大革命終了後、失脚から復 帰した鄧小平を中心に新指導部が成立し た。 • 鄧小平らは開放経済などの経済改革(社 会主義市場経済化)を行ったが、急速な 改革への不満が学生や青年労働者、学者 の間で広がった。そして、1989年に100 万人規模の民衆が天安門広場に集まり民 主化を要求したが、政府はこれを武力で 弾圧した。これを(第二次)天安門事件 と呼ぶ。 • この事件で中国は国際世論の批判や経済 制裁を受けることとなるが、政策には変 化が無かった。 By Jiří Tondl (Blow up) - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=6812523 6 天安門事件でデモを行う学生

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アジア社会主義の変容(2) • 南北統一後のベトナムは、南部の社 会主義化をめぐる混乱などで経済活 動が低迷し、南部から船で脱出する 人々が難民となったために国際的批 判を浴びた。しかし、86年の「ドイ モイ」(刷新)政策のもとに緩やか な市場開放に向かい経済状況は好転 している。 • カンボジアなども含めたアジアの社 会主義国の多くは開放体制に移行し たが、北朝鮮では独自の閉鎖的社会 主義体制を維持している。 By Tokeisan at Vietnamese Wikipedia, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=44998436 ドイモイにより急速に近代化した ホーチミン

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南北・南南問題 • 現代における国家間の経済格差問題 として、南北問題と南南問題がある。 • その名の通り、世界地図の北側に先 進工業国が、南側に発展途上国が多 いことを南北問題と呼び、この国家 間の格差を解決することが人類全体 の課題である。 • 南南問題はより局所的に、南側の 国々で工業力の発展や資源の保有な どにより豊かになった国家とそうで ない国家間での格差を表す。 グローバル・ノースとグローバル・サウス

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20世紀の科学(1) • 科学技術は20世紀に飛躍的な進歩を 遂げ、先進国の人々が豊かな生活を 享受できるようになる。グローバル 化が進んだ反面、途上国との格差が 広がった。 • 物理学では相対性理論や量子力学な どにより、時間と空間の認識が変化 した。さらに、工学ではライト兄弟 が飛行機を発明し、やがてジェット 機やロケット、人工衛星などにも発 展する。 アインシュタイン

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20世紀の科学(2) • そして、インターネットをはじめと する情報通信技術が飛躍的に発達し た。これをIT革命と呼ぶ。 • また、生物学・医学の分野ではDNA の発見が大きな進展をもたらし、遺 伝子操作などによる動植物の品種改 良などが可能になった。 • また、ペニシリンをはじめとする抗 生物質が普及し、伝染病の治療に効 果を発揮した。 • しかし、科学技術の進展は環境破壊 を伴って行われたものであり、環境 保護の運動も盛んになっている。 DNAの二重らせん構造

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20世紀の文化(1) • 近代ヨーロッパの思想は合理的精神 をもった個人の自立が前提となって いたものだったが、20世紀になると 巨大組織の登場や戦争の多発などに より、個人の孤立や非合理的感情の 高まりが強く意識されるようになっ た。 • そのため、いわゆる現代思想はヨー ロッパ近代への批判や懐疑を特徴と するものが多い。 ウィトゲンシュタイン

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20世紀の文化(2) • 以下に思想潮流と思想家を挙げる。 1. 実存主義:主体性の回復(ニーチェ、ハ イデガー、ヤスパースなど) 2. プラグマティズム:行為の結果を重視 (デューイ、パースなど) 3. 構造主義:人間を規制する見えない構造 (レヴィ=ストロースなど。ポスト構造 主義はデリダやフーコー) 4. 分析哲学:哲学の明晰化(ウィトゲン シュタイン、ラッセル、クワインなど) 5. 現象学:実在とは何か(フッサール、メ ルロ=ポンティ) 6. 正義論:正義とは何か(ロールズ) 7. 心理学:無意識の発見(フロイト、ユン グ) ニーチェ

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20世紀の文化(3) • また、20世紀は「大衆の時代」でも あった。 • 1920年代に自動車やラジオ、映画が 普及すると大衆文化が成立した。こ うして「文化」が知識人や教養を持 つもののみに限られず、不特定多数 の大衆が影響を持つようになり、 ポップ・カルチャーが生まれた。 Coolcaesar - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52572750 による ディズニー本社

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本日の内容 • 世界史:現代の社会 • 90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 25

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マルチカルチュラリズム(1) • 東西冷戦の二極構造が崩壊し、従来の 西洋中心主義的な価値観が見直された。 • この視点は美術においてはモダニズム 芸術観の克服という形で顕在化し、ア ジア・アフリカの第三世界出身の作家 が脚光を浴びた。これが美術における マルチカルチュラリズム(多文化主 義)である。 引用元:https://www.cinra.net/article/review-20150707caiguoqiang 蔡國強《夜桜》

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マルチカルチュラリズム(2) • マルチカルチュラリズムの現れとし て象徴的なのは89年に開催された 「大地の魔術師たち」展である。 • この展示は西洋と非西洋の作家を全 く平等に「現代美術」として並置し ようとするものであった。出典作す べてに作家名を表記したり、人数も 半々にすることなどの試みを行うこ とで、ヨーロッパ中心主義を問い直 し、マルチカルチュラリズムの議論 を深めた。 引用元:https://www.afterall.org/project/magiciens-de-laterre-1989/explore-magiciens-de-la-terre-1989/ 「大地の魔術師たち」展

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ポスト・コロニアリズム • マルチカルチュラリズムのような価 値の多様化の受容はポスト・コロニ アリズム(ポスト植民地主義)とも 共鳴するものだった。 • ポスト・コロニアリズムは西洋を中 心とするかつての帝国主義、植民地 主義への反省的な態度を意味する。 • 植民地主義により生来の居住地を離 れた人々やその子孫はディアスポラ と呼ばれるが、彼らの作品はアイデ ンティティや自らの存在の不安定さ という問題と密接に関わっているこ とも多い。 BradPatrick at en.wikipedia, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2127972 による アニッシュ・カプーア《Sky mirror》 (インド出身だがイギリスへ移住した。)

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本日の内容 • 世界史:現代の社会 • 90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 29

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コンセプチュアリズムの展開(1) • マルチカルチュラリズムの浸透によ り多様な価値観を受容しようとする 態度が生まれ、文化的「他者」への 関心が高まった。 • これにより、文化人類学や民俗学の 知見を援用した手法を用いた作品が 作られた(「民族史家としてのアー ティスト」)ほか、ジェンダークィ アへのなど、「他者」への視点が提 供された。 Felix Gonzalez-Torres Foundation「Candy Works」. https://www.felixgonzaleztorresfoundation.org/works/c/candy-works(参照: 2022年9月8日) フェリックス・ゴンザレス=トレス "Untitled" (Lover Boys)

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コンセプチュアリズムの展開(2) • また、このような「他者」への関心 の高まりと並行して、美術と日常が より素朴に接近するようになる。 • 普遍的理念やイデオロギーの消滅は、 美術が個々の作家の表現行為に還元 される多元的状況を生み出し、現在 の美術界にも受け継がれている。 By bloggers.it April 6, 2006, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=4651381 ダミアン・ハースト 《生者の心における死の物理的不可能性》

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コンセプチュアリズムの展開 • 以下の項目に分けて扱う。 ① セクシュアリティとアート ② YBAs ③ 現実への回帰

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セクシュアリティとアート(1) • 多様な価値観を受容しようとする態 度は社会文化的位相にも及び、フェ ミニズム、ジェンダー、エイズ、ホ モセクシュアル、マイノリティなど、 「他者」への視点が提供された。 • ジュディ・シカゴや前述したオノ・ ヨーコを先駆とするフェミニスト・ アートは現代美術の重要な一部とな り、男性作家に関してもフェリック ス・ゴンザレス=トレスなどがエイ ズなどの身体に関した作品を制作し た。 ::::=UT=:::: https://web.archive.org/web/20161101101213/http://www.panoramio.com /photo/124281575, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=60095310による ルイーズ・ブルジョワ《Maman》 (六本木ヒルズ)

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セクシュアリティとアート(2) By Photographed by Arthistorygrrl, CC BY 3.0, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=33826981 ジュディ・シカゴ《ザ・ディナー・パーティー》 By Ncysea - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113201222 草間彌生《The Spirits of the Pumpkins Descended into the Heavens》

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セクシュアリティとアート(3) ゲリラ・ガールズ 《DO WOMEN STILL HAVE TO BE NAKED TO GET INTO THE MET. MUSEUM?》 引用元:https://www.guerrillagirls.com/naked-through-the-ages

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セクシュアリティとアート(4) By Amazon.com, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=3113385 フェリックス・ゴンザレス=トレス《無題》 By Amazon.com, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=3113385 ナン・ゴールディン《性的依存のバラード》

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YBAs(1) • 90年代に最も話題となったのはYBAs (ヤング・ブリティッシュ・アー ティスト)と呼ばれたイギリスの若 手芸術家たちである。 • 彼らは(画廊でも美術館でもない) 倉庫跡などのオルタナティブ・ス ペースを中心に活動し、、不用品や 動物などの素材を使いショッキング な作品を多く展示した。 • ダミアン・ハーストが最も有名だが、 ほかにトレイシー・エミンやクリ ス・オフィリなどがいる。 By bloggers.it April 6, 2006, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=4651381 ダミアン・ハースト 《生者の心における死の物理的不可能性》

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YBAs(2) Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=13271224 ハースト《For the Love of God 》 引用元:https://www.sothebys.com/en/buy/auction/2021/british-art-moderncontemporary/biotin-propranolol-analog ハースト《Biotin-Propranolol Analog》

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YBAs(3) Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=11854210 トレイシー・エミン《My Bed》 By Tate website, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=4898461 クリス・オフィリ《No Woman No Cry》

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現実への回帰(1) • 身体や「他者」への関心の高まりと 並行して、美術と日常がより素朴に 接近するようになった。 • 身近な現実への回帰は美術の商業化 への批判である以上に、高度に発達 し肥大化したテクノロジーがもたら す新たな人間疎外に対する反応とも いえる。 • 日常的な事物を用いて行ったガブリ エル・オロスコや美術と生活の融合 を試みたアンドレア・ツィッテルな どにこの傾向が見られる。 引用元:https://www.kurimanzutto.com/artists/gabrielorozco#tab:slideshow;slide:8 ガブリエル・オロスコ《la ds》

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現実への回帰(2) アンドレア・ツィッテル《Time Trial》 引用元:https://www.zittel.org/projects/time-trials/

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本日の内容 • 世界史:現代の社会 • 90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 42

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90年代の映像表現(1) • ナム・ジュン・パイクによって創始 されたビデオ・アートは90年代後半 に入り急速に普及した。 • 機器の低コスト化やデジタル技術の 普及などがその背景にあるが、単に それだけではなく、絵画や彫刻と いった旧来の形式では表現しきれな いものを表現したいという欲求やモ ダニズムの見直しといった考え方の 根本的な変化も一因である。 引用元: http://www.cremaster.net/cremaster4_characters.htm マシュ・バーニー《クレマスター4》

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90年代の映像表現(2) • このような変化により、芸術家はそ れまでの美術に支配的だった抽象性 や観念性、非意味性から、再現性、 物語性、意味性を追求するようにな る。 • こうした動向はピピロッティ・リス トや(前回も少し触れたが)マ シュ・バーニーなどに顕著である。 引用元:https://www.tokyoartbeat.com/articles//matthewbarney_news_20220711 マシュ・バーニー《クレマスター3》 (場面写真)

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90年代の映像表現(3) ピピロッティ・リスト《Ever is Over All》 引用元:https://youtu.be/a56RPZ_cbdc

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メディアアート • コンピューター・グラフィックスや バイオテクノロジーなど、新しい技 術的発明を利用した作品をメディア アートと呼ぶ。 • 傾向は極めて多岐にわたるが、アル ス・エレクトロニカ(オーストリ ア)やSIGGRAPH(アメリカ、アジ ア諸国)、(先日令和4年度の募集を 行わないことが告知されたが……) 文化庁メディア芸術祭(日本)など のイベントが盛んに行われており、 現在注目を集めている分野である。 引用元: https://www.teamlab.art/jp/w/ephemeral_solidified_light/ チームラボ《生命は結晶化した儚い光》

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本日の内容 • 世界史:現代の社会 • 90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 47

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21世紀の美術 • 2000年代の美術はミレニアム(千年 紀)という耳慣れない言葉と共に祝 祭めいたムードで始まった。 • しかし、2001年9月11日のアメリカ同 時多発テロ事件で幸福感はかき消さ れ、人々は厳しい現実を直視させら れることとなる。 • また、グローバル化の流れのなかで アート・マーケットは膨張を続ける が、それに反発するかのようにコン セプチュアルな傾向を強く打ち出す 作家が数多く登場した。 引用元:https://artuk.org/discover/stories/write-onart-blotter-by-peter-doig ピーター・ドイグ《Blotter》

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90年代からの継承と展開(1) • モダニズムの理念や規範の無効化が徐々 に浸透する中、もっとも多彩かつ豊穣な 展開がなされたのは絵画においてだった。 • 90年代後半からはリュック・タイマンス やピーター・ドイグ、エリザベス・ペイ トンなどの具象作家が活躍し、00年代に 入って村上隆や奈良美智、ママ・アン ダーソンなどの絵画が注目された。 • また、絵画以外ではピエール・ユイグや オラファー・エリアソンなどが目覚まし い活躍をした。 引用元: https://www.yoshitomonara.org/ja/catalogue/YNF66 77/ 奈良美智《Peace of Mind》

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90年代からの継承と展開(2) By Luc Tuymans - Luc Tuymans, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=87854258 リュック・タイマンス《ルムンバ》 引用元:https://artuk.org/discover/stories/write-onart-blotter-by-peter-doig ピーター・ドイグ《Blotter》

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90年代からの継承と展開(3) 引用元: https://www.sothebys.com/en/buy/auction/2021/contempora ry-art-evening-auction/david-bowie?locale=en エリザベス・ペイトン 《David Bowie》 引用元:https://www.303gallery.com/artists/karenkilimnik?view=slider カレン・キリムニック 《he cat sitting in its favorite basket out in the blizzard, the Himalaya》

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90年代からの継承と展開(4) 引用元:https://www.tagboat.com/products/detail.php?product_id=66410 引用元:https://www.yoshitomonara.org/ja/catalogue/YNF4488/ 村上隆 奈良美智 《シャングリラーシャングリラーマルチカラー》 《Damn It All》

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90年代からの継承と展開(5) 引用元:https://www.stephenfriedman.com/artists/26-mamma-andersson/ 引用元:https://www.hauserwirth.com/artists/2803-wilhelm-sasnal/#images ママ・アンダーソン ヴィルヘルム・サスナル 《The Weakening Eye of Day》 《Palm Bay》

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90年代からの継承と展開(6) 引用元:https://www.hauserwirth.com/artists/2839-pierre-huyghe/ ピエール・ドイグ《Variants》 引用元:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/olafur-eliasson/ オラファー・エリアソン 《太陽の中心への探査》

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本日の内容 • 世界史:現代の社会 • 90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 55

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アジアの台頭(1) • 2002年のドクメンタ11では初のアフリ カ出身者であるナイジェリア人のオク ウィ・エンヴィゾーがディレクターを務 めた。彼は「グローバリゼーション」を 主題にし、多様な国から参加者を募り政 治性・社会性の強い作品を多く展示した。 • また、2008年の北京オリンピックを前に 急激な経済成⾧が進んだ中国では、ホァ ン・ヨン・ピン(黄永砯)やアイ・ウェ イ・ウェイ(艾未未)などの作品が注目 され、現在では中国の美術市場規模はア メリカに次ぐ世界2位となっている。 引用元:https://www.aiweiwei.com/rohingya アイ・ウェイ・ウェイ(艾未未) 《ロヒンギャ》

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アジアの台頭(2) By Falkenreich - Own work, CC BY 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1058756 ホァン・ヨン・ピン(黄永砯) 《100 Arms of Guan-yin(観音菩薩の100本の腕)》 引用元:http://www.artnet.com/artists/zhang-xiaogang/ ジャン・シャオガン(張曉剛) 《100 Arms of Guan-yin(観音菩薩の100本の腕)》

58.

アジアの台頭(3) 引用元:http://www.zhanghuan.com/worken/info_71.aspx?itemid=974&parent&lcid=190 ジャン・ホアン(張洹)《池の水位をあげる》 引用元: http://www.sunyuanpengyu.com/works/2001/Civilization%20Pillar1.html スン・ユアン&ペン・ユー(孫原&彭禹) 《Civilization Pillar》

59.

アジアの台頭(4) 引用元:https://faam.city.fukuoka.lg.jp/collections/2640/ ファン・リジュン(方 力鈞) 《シリーズ 2 No.3》 引用元:https://www.saatchigallery.com/artist/yue_minjun ユエ・ミンジュン(岳敏君) 《Backyard Garden》

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アジアの台頭(5) By Julian Stallabrass from London, UK - Do Ho Suh-_5759-sm, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=38449120 By dalbera from Paris, France - Oeuvre de Lee Bul (Kiasma, Kelsinki), CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24673382 ス・ドホ(서도호、Do Ho Suh) イ・ブル(이불、Lee Bul) 《Bridging Home》 《Mon grand récit : Weep into stones》

61.

アジアの台頭(6) 引用元:https://www.nguyen-hatsushiba.com/ 引用元:https://www.artsy.net/artwork/patricia-piccinini-the-young-family-3 ジュン・グエン=ハツシバ パトリシア・ピッチニーニ《The Young Family》 《MEMORIAL PROJECT MINAMATA: NEITHER EITHER NOR NEITHER – A LOVE STORY》

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本日の内容 • 世界史:現代の社会 • 90年代の美術 • マルチカルチュラリズム • コンセプチュアリズムの展開 • 90年代の映像表現 • 21世紀の美術 • 90年代からの継承と展開 • アジアの台頭 • アートマーケットとコンセプチュアリズム 62

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アートマーケットとコンセプチュアリズム(1) • 2008年のリーマン・ショックによっ て一時的に後退したものの、2000年 代は経済成⾧著しい中国やロシアの 資本、中東のオイルマネーが流入し、 アートマーケットが世界規模で急激 に拡大した時期でもある。 • 2003年に組織されたアートバーゼル のほか、上海、ドバイ、香港などの 新興マーケットで次々にアートフェ アが開かれた。 By Louis-Fabrice Jean - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18021503 アートバーゼル

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アートマーケットとコンセプチュアリズム(2) • こうしたグローバル化、膨張化が加 速的に進行したアートマーケットに 対して、商業主義的傾向に対抗する ように、新しいコンセプチュアリズ ムの傾向を示す作家が数多く登場し てきた。 引用元:https://kyoto-ex.jp/shows/2022_tino_sehgal/ ティノ・セーガル (彼の指示をパフォーマーが実行する作品を制作する。 指示の文面を含めた作品の記録を全く残さないことで 知られる。)

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アートマーケットとコンセプチュアリズム(3) フランシス・アリス 《実践のパラドクス1 (ときには何にもならない こともする)》 フランシス・アリス 《川に着く前に橋を渡るな》 ともに引用元:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/141/

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アートマーケットとコンセプチュアリズム(4) 引用元:http://www.parasophia.jp/artists/susan_philipsz/ By C.Suthorn / cc-by-sa-4.0 / commons.wikimedia.org(Note the three necessary links to author, licence and image file in the attribution.), CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=65646076 スーザン・フィリップス《三つの歌》 ウルス・フィッシャー 《Baked Master's Basket》

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アートマーケットとコンセプチュアリズム(5) 引用元:https://www.operacity.jp/ag/exh252/j/exh.php ライアン・ガンダー《編集は高くつくので》 引用元:https://www.youtube.com/watch?v=3ncrWxnxLjg ジェレミー・デラー《オルグレーヴの戦い》

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本日のまとめ(1) • 東西の緊張が崩壊した後、東側諸国の民 主化が進んだ。また、グローバル化によ り貿易が自由化したが、その反面経済格 差も広がった。 • 東西冷戦の二極構造が崩壊し、従来の西 洋中心主義が見直された。その結果、ア ジア・アフリカなど第三世界を受容しよ うとするマルチカルチュラリズムが生ま れた。 • マルチカルチュラリズムの浸透により、 文化的「他者」への関心が高まり、セク シュアリティを問題とした作品が生まれ た。また、90年代の美術においてYBAs は象徴的である。 Felix Gonzalez-Torres Foundation「Candy Works」. https://www.felixgonzaleztorresfoundation.org/works/c/candy-works(参照: 2022年9月8日) フェリックス・ゴンザレス=トレス "Untitled" (Lover Boys)

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本日のまとめ(2) • 90年代の映像作品は、それまでの観 念性や抽象性から離れて物語性を求 めるようになった。 • 21世紀の美術は絵画が豊饒な展開を 見せ、ピーター・ドイグや村上隆な どが評価された。 • 急激に経済成⾧した中国は一大マー ケットとなり、様々な表現が生まれ た。 • アートマーケットが膨張し続けるの に反発するようにコンセプチュアル な作品が多く生まれた。 引用元:https://artuk.org/discover/stories/writeon-art-blotter-by-peter-doig ピーター・ドイグ《Blotter》

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おわりに • 今回で西洋美術史ゼミは終了です! ⾧い間聴講していただきありがとう ございました!皆さんのおかげで美 術史と世界史について体系立った理 解をすることができました。 • 以前も少し言及しましたが、今後に ついては勉強したいものができた場 合に不定期で同様の形式の発表など を行おうと思います。まだ未定です が、その場合は参加していただける と嬉しいです。 ロバート・インディアナ《LOVE》