ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』第9講:存在の連鎖の時間化

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May 10, 24

スライド概要

存在の連鎖/連続性の原理は、ライプニッツやスピノザのような、完全決定論の宇宙像に到ってしまった。そして世の中が最初から完璧で改善余地がなく、悪に見えるものさえ実は悪ではなく、向上を目指してもダメ、という変な楽天主義に到ってしまった。
 でも実際に世の中は変化するし、悪をこらしめ善をめざさないというのは宗教実践的にもあまりに変で常識はずれ。
 このため、充満の原理を時間化しよう、という動きが出た。充満は一気に最初から実現しなくてもよく、長い時間の中でそれが起こればいいんだ、そしてその中で連続体の中で無限の位階を少しずつ万物がのぼる、という図式がだんだん生まれた。
 ライプニッツもそれを支持し、カントもそれに基づく宇宙創世論を唱えた。ロビネーはそこから、かなり勇み足の進化主義を出したが、充満の原理を徹底的につきつめるには重要な役割を果たした。そこから出てきた生気論やプロトタイプ論は、その後のロマン主義やベルクソンを先取りする面もあった。

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各ページのテキスト
1.

『存在の大いなる連鎖』 第9講: 存在の連鎖の時間化 アーサー・O・ラヴジョイ をもとに 山形浩生が作成 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 1

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第9講 Executive Summary (1) • 充満の原理と充分理由の原理は、時間概念を持たなかった。 • 「神様は完璧だし、出し惜しみして未完のいい加減な世界は作らないはず」 → 「いまあるこの世が最善」「悪も全体の善のためには仕方ない」 「完璧なこの世は改善の余地がないから、頑張っても無駄!」 • 充満の原理/存在の連鎖も、よく考えるといろいろ変だ。 • 位階が決まっているならこの世は変わりようがない! • 人間ががんばって上の階層にいけば、いまの人間のポジションが空いて連鎖が切れる! • 天地創造以来、この世は一切変わらず充満してるはず! ……でも実際、この世は変化してるよね。個体レベルはおろか、種も絶滅するよね? (ついでに、連続した位階があるなら、どの2点の間にも無限の位階があって埋まらないよ?) (ヴォルテールやサミュエル・ジョンソンはこれを指摘して充満の原理を否定) この矛盾を解決するため、18世紀には充満の原理の時間化/進化主義導 入が進んだ。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 2

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第9講 Executive Summary (2) • 神様は、その時には最高のものを作ったけれど、そこから万物はど んどん高みを目指す! • 存在の連鎖は、充満して完全に連続だから、どんなに改善しても無限のス テップがあり得る! • 個人も生物種も、岩も星もすべて進歩するんだ! • つまり連鎖は元から完全ではなく、時間の中で完全を目指す! • (これはかつての神の完全性や「出し惜しみしない」論を完全に否定するもの。でもみん なそこは目をつぶった) • 万物は天地創造のときに作られた胚=魂を持つ。それがホムンクルスみたい にずっと入れ子で眠っていて、時が満ちたら目覚めるのだ! • ライプニッツは、自分のモナドがこの胚だと考えた模様。 • 彼は相容れないはずの宇宙完全決定論と進化主義を併存させてる。変なヤツ。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 3

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第9講 Executive Summary (3) • また位階があるなら序列のため共通のパラ メーターが必要 • すると万物には共通の因子がある。万物は 共通プロトタイプの変形にすぎない! • その変形にあらゆる可能性があるのだ、だ から人間に到るまで、人間のできそこない もあちこちで生まれたはずだ! • ダイコンが人間みたいな形になるのも、そ の変形の結果だ! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 4

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前提:無時間的な存在の連鎖はつらい! • 充満の原理/連続性の原理/存在の連鎖&位階は—— • 神は永遠に完璧、出し惜しみせず、あらゆる可能性を常に実現…… • すべての位階は常に充満で完全に連続している。切れ目やすき間はない! • 宇宙は最初から最善! 考えられるものはすべて無限に実現している! そう でないと神は出し惜しみしたことになる! • これを真面目に考えるとかなり変な結果になる • 宇宙は最善 → 悪に見えるものも実は必要で悪ではない! 改善の余地はない! 善行なんて無駄 • 最初から完璧→ あらゆるものは不変! 生物種も個体も! 変化したら、元の居場所が空いてすき間ができる! すべては決定済! でもすべては変化するし、改善や善行無駄って…… クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 5

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「存在の連鎖」批判 ヴォルテール&ジョンソン • ヴォルテール (1694-1778) • 充満……してないよね。思いつくもので実在しない生 物なんていくらもいるよね? • 完全じゃないよな。変化もあるよな。個体は死ぬし、 生物種だって絶滅するよね? → プラトンさん、この理屈って変じゃねーの? • サミュエル・ジョンソン (1709-1784): • 存在の位階が連続してるんなら、どの2地点の間にも無 限の位階があるから、充満するわけないじゃん。こん なの信じてるヤツはバカね。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 6

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いろいろ逃げ口上も考えられたが…… • 位階が完全に連続していないように見えるのは、 それが地球上にいないだけ! • 人間とサルの間のものが木星やプロキシマ星 系にいるかも! • 位階は昔は完璧だったけど、天変地異で破壊され たんだよ! • 彗星が地球に衝突して、生物が絶滅しちゃっ たから連続性が破壊されただけなんだ 苦しすぎ。やっぱ変化が起こるのを認めないと…… クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 7

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進化主義の導入:万物は位階を上る • 位階は完全で連続してるけど、常時一気にそれが実現しなくてもいいよ ね! 時間の中でそれが徐々に実現すればいいんじゃね! • 「胚」=魂は天地創造時に全部できていて (つまりすべての可能性はそこ で完全に実現され永遠)、それが時間とともに発達することにすれば? (ホ ムンクルス説を入れ子にしたもの) • 万物は存在の位階を上ることにしよう! 可能性が一気に実現する必要は ない! • すべては改善するんだ!でも一歩ずつ! 「自然は跳躍しない」 • 位階は連続しているんだから、上昇のステップは無限にあるので、上昇は永遠に続 くことになるよ! やった! これで存在の連鎖/位階と変化が両立するぜ! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 8

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ライプニッツ:モナドと「胚」 • ライプニッツは当時の古生物学や胎生学の知識から、いろ んな動物がいたが変化して絶滅し、存在の連鎖がいまは完 璧ではなく、時間を追って実現すると考えていた • 『プロトガイア』にそれは書かれている。 • 共通の祖先からいろいろな動物が別れて発生した、という 考えも抱いていた。人間も劣った存在からだんだん人間化 していった! • 「モナド」が一定数この世にあって、それがいろんな変形 を経て多様化した、という考え方をしていた。それが宇宙 の進歩で、神に向かう無限の進歩プロセスなのだ! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 9

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ライプニッツの二つのヴィジョン • ビジョン1:ライプニッツの十分理由の原理 • すべてには理由があり、完全に決まって不変の決定論的なビジョン • 「モナド」論も、ホントは変化しないモナドが一定の数だけあるとい う話 • 時間変化は、絶対なくはないがおまけでしかない。 • ビジョン2:普遍的進歩のドクトリン • すべては神を目指して永遠に進歩するんだ! • モナドもいろいろ変形することにしちゃおう! • 時間変化こそは重要だ! • この二つは相容れないはずなんだけど、ライプニッツはそれに気がつかな かったみたい。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 10

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カントの宇宙創成論 • カントも進化的な宇宙創成論を持っていた。 • 『天界の一般的自然史と理論』(1755) • 密度の違う原初物質のかけらがたくさんあって、 だんだんそれが凝集して星になった。 • そのまわりを惑星がだんだんめぐって太陽系など ができた • いずれそれが完成したら崩壊に向かうぜ! • 広い宇宙の中で、完成途上と崩壊途上が常に同数 なので、宇宙全体は一定だ! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 11

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ロビネー:お調子者だが鋭い部分も • ディドロなども似たような進化思想を述べているが、最もこの発想 が顕著なのはジャン=バプティスト・ロビネー (1735-1820)。 • 存在の連鎖/連続性の原理とその時間化の含意を徹底して追求 • 存在の位階があるなら、上下関係を決める基準があるはずだ • 生物/無生物とか、理性あり/なしという二元論は、間に何もあり得ない。す るとそこに断絶が生じて充満できない! • 本質は不変、だから存在の位階を上がれるなら、上がるための高い本質が卑 しい存在にもあったはず • つまり万物には共通の特性/本質がある! あらゆるものは、一つのプロトタ イプの無限変形なんだ! • 天地創造でそのもとになる「胚」が万物について存在し、その発動に時間差 があることで発展が生じる! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 12

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ロビネーの変な進化思想 • 人間になるまでにいろいろ失敗作もあったはず。 • 変な人間型のダイコンが出るのも、ダイコンに含 まれた人間の元型が発現したにちがいない! • 海にも半魚人とか人魚がいるって言うじゃない か! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 13

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ロビネーはベルクソンの先人 • ロビネーは変な方向に走った部分もあるが、ベルクソンみたい な生気論/エラン・ヴィタールみたいな話も先取りしている。 • 変なプロトタイプが奔放に変形することで充満する、という話 は、創造的進化そのもの。 • これは、静的な宇宙からもっと多様で変化するロマン主義の先 駆でもある。 • シャルル・ボネも、進化主義じみたことを言っているがもっと粗雑。 • 一回宇宙が終わって繰り返すときに、存在が位階を一歩上る、というもの クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 14

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• なぜこれが18世紀に起きたの? (訳していて の感想) • 充満の原理がつらいのは昔からで、時間を導入した くなるのはわかる。 • が、それって今に始まったつらさではない。そのく らいみんな思いつくだろうに。 • なぜ18世紀に? それまでの学者のツメが甘かっただ け?科学の進歩で社会がそれをうけいれる環境がで きたから? →そこらへんの背景説明は、本書は全般に弱いと思う • ロビネーのおバカな議論を指摘しつつ、その鋭 い部分は拾ってあげるのはえらい (が、最後に は蹴飛ばす残酷さ) • 汎心論や生気論の根底はこの「断絶が恐い」と ころにある、と指摘してベルクソンあたりへの 牽制を入れているのは楽しい。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 15