ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』第8講:存在の連鎖と18 世紀生物学の一部側面

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March 01, 24

スライド概要

18世紀生物学は充満と連続の原理が推進力だった。万物は連続しているという思想は、当時流行り始めていたリンネの分類などに対し生物種とかいろんな分類はインチキ!だという見方を生み出した。いろんな「種」とかははっきり差があるように見えるが、細かく見ると怪しいし、いろんな新発見も出ているからぼくたちの知識不足の証拠でしかないと考えられた。
 そして動物と人間も連続だとされた。オランウータンを見よ、ホッテントットを見よ!オランウータンなんてほとんど人間だろ? ホッテントットなんて人間とは言えないサルもどきだよな! だから実は連続してるんだよ!そしてもっと探せばさらにミッシングリンクが見つかるはずだ! と博物学が進歩した。
一方、顕微鏡も大きな影響を与えた。何もないように見えても、顕微鏡で見るとすべては生命に満たされている:充満してるだろ!神さまが善性で世界を充満させた証拠! 倍率上げればもっと小さいのが出てくる。それに限界があるとか言ってる原子論者なんて、見下げ果てたバカね、との見方が広まった。

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各ページのテキスト
1.

『存在の大いなる連鎖』 第8講:存在の連鎖と18世紀 生物学の一部側面 アーサー・O・ラヴジョイ をもとに 山形浩生が作成 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 1

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18世紀生物学は充満と連続の原理が推進力! • 万物は連続している:だから生物種とかいろんな分類はインチキ! • いろんな「種」とかははっきり差があるように見えるが、ぼくたちの知識不足の証 拠でしかない • 動物と人間も連続:オランウータンを見よ、ホッテントットを見よ! • オランウータンなんてほとんど人間だろ? ホッテントットなんて人間とは言えない サルもどきだよな! だから実は連続してるんだよ! • もっと探せばミッシングリンクが見つかるはずだ! と博物学が進歩した。 • 顕微鏡で見るとすべては生命に満たされている:充満してるだろ! • 神さまが善性で世界を充満させた証拠! 倍率上げればもっと小さいのが出てくる。 • それに限界があるとか言ってる原子論者なんて、見下げ果てたバカね クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 2

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(第8講の話はホントこれだけ) • いろいろ新発見が出たぞ、ミッシングリンクだ〜。小さい世界 もいろいろあって生命満ち満ちてるぞ、充満だ〜 • が、興味あればもう少し詳しくしたので続きをどうぞ。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 3

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連続性の原理から、生物の分類への不信 • 生物種なんてインチキじゃね? • だって万物は連続してるはずだろ? 生物種とか、人間が便宜的に分け ただけで、がっちり決まったものじゃないよな。 • もっともらしいけれど、間を見ればどっちつかずのものが出てくるよ な。サンゴ虫のポリプとか。 • それにまだ発見されてないものもあるよな。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 4

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ビュフォン、ロックな ども「種」を疑問視 • 結構えらい人も、「生物種なんて インチキ」論の信者だった。 • ジョン・ロック (そしてライプ ニッツ) は中でもきわめて影響力 強し。 • 『博物誌』で有名なビュフォンも そう言っていたが、後に雑種は子 どもを作れないことから、「やっ ぱ生物種は文句なしの分類だよ」 と転向。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 5

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オランウータンとホッテントットは ミッシングリンク! • 人と獣の間にはサルがいる。 • サルと人の間にはオランウータンやホッテ ントットがいる • オランウータンなんてほとんど人間な んだぜ! つーかひょっとして別の種 ですらない、同じ種かもよ! • 人間の中でも、とても人間には思えな い連中もいるよな! • 探せば他にも、存在の連鎖で欠けているよ うに見えるものが見つかるよな! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 6

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余談:世間もそういうの が大好き • サーカスの王者P・T・バーナムも、 いろんな「ミッシングリンク」を 定番の演し物にしていた • (訳者注:現代でも、オリバー君 とか、そういうのをおもしろが る雰囲気はあるよね) クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 7

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顕微鏡:世界は生命で充満している! • レーウェンフックの顕微鏡発明で、18世紀には細 かい方でも充満/連続の原理が優勢になった。 • 顕微鏡で見ると、世界のあらゆるところは生命で 満ちているではないか。神さまが世界を充満させ たというのは本当なんだ! すばらしい! • (でもよく考えるとキモチワルイよね、と正直に言って しまう人もいるのはかわいい) • もっと細かく見ればもっと細かい世界が出てくる はずだ! • 細かさに限界があるとかいう原子論者はバカ! クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 8

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大から小まで無限の位階が連鎖してる! • 科学は存在の無限の位階というプラトン主義的な発想の裏付けと された。 • 大きいほうは天文学で示されていた。 • 小さいほうの世界がどこまでも細かく広がる、というのは顕微鏡が示した。 • 生物学/博物学は、各種の区分 (ヒトと獣、動物と植物、植物と鉱物)の間 に未発見の中間段階 (ミッシングリンク) があるのを示した。 • (パスカルは嫌なヤツだったので、「ほれみろ人間なんて微小なつまんない 存在だと主張するのにこれを使った。スウィフトも嫌味のネタにした) • カントも『純粋理性批判』でこの見方を支持した。ただ、「無限 に細かい差なんて観察しようがないから、実証的な話ではなく、 あくまで理性の統治原理ね」と釘を刺している クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 9

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• まったく目新しい話が出てくるわけではな い。 (訳していて の感想) • こうした生物学的な発見が、充満や連続の 原理を裏付けるものとしてもてはやされ、 そしてその原理を証明してやろうというの がこうした研究の原動力になった、という のはおもしろい。 • 顕微鏡が出回ると「Microscopes made Easy」(やさしい顕微鏡) なんて本が出回っ ている。顕微鏡好きなアマチュア科学者/ホ ビイストコミュニティが形成されていたの はまちがいない。個人的にはそっちのほう がおもしろい。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 10