ラヴジョイ『存在の大いなる連鎖』第11講 (最終回)「存在の連鎖」史の結末とその教訓

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February 09, 24

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「存在の連鎖」説=流出説って、細かく詰めたらボロボロで崩壊。シェリングの議論で神さまの2つの捉え方が相容れないことが明確になった。まあバカな説なんだが、でも/それ故にその経験がすぐに忘れられ、ホワイトヘッドなんかがこの説もどきを蒸し返すので頭痛いよ、それを避けるためにも哲学/観念史ちょっとは勉強しようね

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各ページのテキスト
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『存在の大いなる連鎖』 第11講 (最終回): 「存在の連鎖」史の結末とその教訓 アーサー・O・ラヴジョイ をもとに 山形浩生が作成 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 1

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(2-10章までのおさらい) • 西洋哲学はずっと、プラトンに始まる二つの考え方に囚われつづけ てきた。 • 異世界性:なにかこの世とは隔絶した永遠の完全な世界があるんだぜ! 神さ まってのもそういう存在で、薄汚いこの世俗の世界なんか超越したイデアの イデア、絶対の最高の善で叡智で、永遠だから時間も超越してるんだぜ! • この世性:この世ってのはその完全な神さまが作ったんだから、あらゆる面 で神さまの思いが満ち満ちているし、神さまは無限に偉いんだからその中に は実際にあるものにとどまらず、可能なものがすべてあるんだぜ • これをマジで考えると、収拾がつかなくなる。 • じゃあ……なんでこの世はこんなポンコツなの? なんで悪なんてものがあ るの? なんで神さまは永遠なのにこの世には時間があるの?等々。 • 西洋哲学や神学は、それを必死でこじつける屁理屈を考案してきた。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 2

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この二つの考え方から2種 類の神さま観ができた。 • 完璧で自足して永遠ですべてを含み他のものなどあり得ない/ 要らない神さま → じゃあこの卑しき人間のいる時間のある世俗世界って 何? そんな立派なものから、こんな卑しい存在が出てく るって変だろ? • 神さまは最高! その下がないと最高っていえないよね? 無限 の叡智だからあふれちゃうよね? 叡智があふれて下に流れてい くと、下々のこの世界ができるんだよ! 存在はすべてつながっ ていて、存在の大いなる連鎖があるんだ! → じゃあ神さまはすべてじゃないし、下々の世俗世界に位 置づけてもらわないと最高になれないってこと? クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 3

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ついに二つの考えが相容れないことが明 らかになった! • 「神さまは完璧で不変ですごい! だから創造したこの世も完璧にいつか はなる! でもすぐじゃなくて、だんだん改善を経て完璧に向かうんだ よ!」という過激進化主義による折衷の試みが出た • この発想に、ヤコービは「神さまなめんな。それに劣ったものがだんだん 優れたものになるわけないだろ!」と反論。 • シェリングは、初期はあいまいだったがヤコービの批判を受けて俄然戦闘 的になり、そんな絶対的存在である神さまなんかあり得ん、と断言 • ここで2000年にわたる神さまの二つの捉え方が相容れないことが、やっ と/ついに明言されてしまった。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 4

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時間概念からも変だというのがわかる。 • この卑しい世界は神さまの永遠世界の投影なんです! →なんで変化しないものを投影して変化する影ができんの? • 神さまは永遠の時間をかけてこの卑しい世俗世界を改良しよう と頑張ってるんです! →永遠かけて未だに未完成のこのざまって、神さま無能じゃね?永遠の 時間があったなら、なんで世界はこんなスカスカで不連続なの?ぜんぜ ん「存在の連鎖」してないじゃん! (だから別に、シェリングが正しかったって話でもないから、念のため) クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 5

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世界なんてそんな、完全理性だの叡智だ の純粋論理世界じゃないのよ。 • よって……この「存在の連鎖」観念は結局破綻を運命づけられた、単 なるナンセンスではあった。 • ラブジョイ先生の、己の研究対象に対する冷ややかな視点を見よ! • 「具体的な存在物の世界というのは、本質の領域のありのままの転写などでは ないのです。そして、純粋論理を世俗的な形に翻訳したものでもないのです— —それどころかそんな用語自体が、純粋論理の否定なのです」 • 「存在物の世界は、それがたまたま持っている特性や、内容の広がりや、多様 性を持っているのです。それがどんなものになるか、可能な世界のどれだけが そこに含まれるべきか、などということを、はるか永遠の昔から事前に定めて きたような理性的/合理的な根拠など、ありはしません」 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 6

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が……それが復活してくるからたちが悪い • 「存在の連鎖」説が理屈の上ではまったく破綻しているのは明 らか。明らかすぎて、それが示されたら、もうこの発想自体が すぐ忘れ去られた。 • が……忘却されたために、平気で蒸し返すバカが出てくる。 • ベルグソン『創造的進化』なんて、さっき出た過激進化主義の焼き直 し! • ホワイトヘッドも流出論の焼き直しを平気でやってる。 • そういう哲学屋の「しつこい渇望」の表現を考えるにあたり、 こんな観念史の研究も意味あるかもね。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 7

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まちがっていても効用はあったかも。 • 世界に、理性と一貫性が貫徹しているという発想は、自然科学 の探究を大きく力づけた。絶対に答があるという確信をもたら した。 • その他、各種の抽象的な思考の発達にも貢献した。 • だからその意味でも、こういう (明らかにナンセンスな) 観念の 歴史をほじくりかえすのも、意味はあるかもしれないね。 おしまい。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja 8