技術変化が加速する業界に対する企業ガバナンスへの示唆

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April 21, 15

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
1.

技術変化が加速する業界に対する 企業ガバナンスへの示唆 DRAM出荷シェアの推移 高橋 浩

2.

半導体産業没落の教訓から IoT時代の新たな取組みへの • 80年代の成功体験が柵となって、新たな環境 への適応に踏み出せないでいる、とよく言わ れる。 • しかし、その後の失敗体験も随分多い。そし て、失敗体験の原因が必ずしも充分に共有さ れていないと思われる。 • 失敗原因を正しく突き止め、それを教訓として、 これからの新たな環境への適応に備える必 要がある。 2

3.

目次 DRAM産業に対する学問的業績を入り口として・・ • • • • • はじめに 垂直統合と知識統合 各国(米日韓台)DRAM産業の盛衰 日本のDRAM産業競争力低下要因を探る 日本産業の課題と今後の取組み 3

4.

はじめに 4

5.

話の展開図 基本理論 2理論の合体 半導体産業への適応 これからの可能性 半導体:リソグラフィー産業 取引コスト経済 学(Williamson 1975, 1985) “Markets or Hierarchies” 知識ベース・ビュー(e.g., Nelson and Winter 1982, Kogut and Zander 1992, Teece et al. 1997) “Knowledge of the firm” 取引コスト経済学 の比較論理を知識 ベース・ビューへ拡 張した理論 (Nickerson and Zenger 2004) “A knowledge-based theory of the firm” イノベーション·エコシス テムにおける価値創造: 技術的相互依存の構造 が新技術世代で企業パ フォーマンスに如何なる 影響を与えるか(Adner and Kapoor 2010) 半導体:DRAM産業 企業が作るもの vs 企業 が知るもの:技術変化 に直面した際,企業の製 品と知識境界は どのよ うに競争優位に影響を 与えるか(Kapoor and Adner 2012) これか らの技 術変化 が加速 する産 業への 適応可 能性 5

6.

2理論の合体による…. 取引コスト経済学と知識ベース・ビュー統合理論の概要 知識ベース要因 と 市場 vs 階層要因 分解可能 低 低 低 市場 ほぼ分解可能 中 中 中 階 層 分解不可能 高 Simon’s (1962)の 複雑システム問題 解決アプローチに 準拠した分類 authority -based hierarchy 高 Nickerson and Zenger,“A knowledge-based theory of the firm—The problem-solving perspective”, 2004 高 consensusbased hierarchy 6

7.

垂直統合と知識統合 7

8.

企業が作るもの vs 企業が知るもの - 技術変化に直面した際、企業の製品と知識境界は どのように競争優位に影響を与えるか - R. Kapoor R. Adner キーワード:企業境界、垂直統合、知識統合、タイムツーマーケット、アーキテクチャ・イノベーション 8

9.

知識境界と競争優位の関係性 • 多くの業界では、企業の競争優位は技術変 化を管理する能力に依存するとされてきた。 • しかし、上流コンポーネントに対する組織化 の仕方の違いに影響される場合がある。 –( 種明かし:アウトソーシング時の知識統合) • 2者間ギャップの背景には取引コスト経済学 と知識ベース・ビューの起源の相違がある。 ① 取引コスト経済学:特定トランザクションが、市場または 階層を介してどのように効率的に管理されるか ② 知識ベース・ビュー:産業や技術が進化する際、知識が 企業の異質性や競争優位にどう影響するか 9

10.

分析対象:1974-2005年のDRAM業界 • この期間、異世代DRAM製品が12回遷移 • 12世代DRAM製品で競合した36企業を分析 10

11.

検討の前提条件 • 垂直統合は、企業に、イノベーション·プロセス に跨る知識蓄積の機会を提供するが、大規 模な設備投資と技術能力の広範なセットを要 求する。 • アウトソーシング*は、企業に、コア機能に集 中したり、より広範なサプライヤー基盤を活用 したり、設備投資を削減することを可能にす るが、学習と適応性を妨げる危険性がある。 *:知識統合を伴いうる一形態 • 急速な技術変化を特徴とする産業では、2者 間のトレードオフは、生産と投資のより高い不 確実性の下で行われねばならない。 11

12.

知識統合の可能性 • トレードオフを巧みに管理できる代替案は、 生産機能をアウトソースしても、上流コンポー ネントの知識を開発する「知識の統合」を追 求することである。 • 2理論合体の視点から、企業理論に問題解 決アプローチを導入したNickerson and Zenger (2004)の業績上で議論 – 市場 vs 階層の相対的有効性は、企業が解決し ようとしている問題の性質に依存する。 – 問題を分解可能、ほぼ分解可能、分解不可能の 3分類で類型化する。 ① 市場は、分解可能な問題の解決策発見に有効 ② 階層は、分解不可能な問題の解決策発見に有効 12

13.

仮説の設定 • 仮説1(H1): 垂直統合型企業は非統合型企業よ りも早期に新世代製品を市場に投入できる利点 がある。 特に「知識統合」と関係の深い仮説 • 仮説2(H2): 非統合型企業の外部コンポーネント 知識は新世代製品の市場投入時間性能を向上 させる。 • 仮説3(H3): 新世代製品が、コンポーネント変化 起因よりもアーキテクチャ変化起因の場合は、 垂直統合型企業は非統合型企業よりもより大き い市場投入時間の利点を持つ。 13

14.

DRAM産業におけるコンポーネント技術 ① 照準装置(リソグラ フィー装置) ② マスク ③ レジスト マスクは「 構造化されていない技 術的対話」が行われる橋 • 3コンポーネント間 で「 構造化されてい ない技術的対話」 が発生する。 14

15.

12世代製品の遷移に見られる2つの変化要因 近接印刷手法から投影印刷手法へ 1 2 3 4 15 コ ン ポ ー ネ ン ト 起 因 8 回 ア ー キ テ ク チ ャ 起 因 4 回

16.

データ分析で使用される代表変数 • 「市場投入時期」変数:業界初出荷の市場投入時 期を1。各企業の投入時期は、初出荷と業界初出 荷間の違いを四半期(3ヶ月)数で加算 – 最初の新世代商品化企業は1 – 3四半期遅れて当該世代製品出荷企業は4 • 「アークテクチャ・イノベーション」変数: 新世代DRAMがアーキテクチャ変更起因・・1 コンポーネント変更起因・・0 • 「外部委託」変数: 外部委託マスクは・・1 マスク技術を垂直統合しているなら・・0 • その他の変数: DRAM加工サイズ、 マスク知識、 レジスト知識、企業規模(非DRAM市場での企業 売上高割合)など 16

17.

仮説検証モデルの概要 モデル1:仮説1を検証するため、制御変数(企 業規模など)、マスク知識、マスク製造の外部委 託を含む。 モデル2:仮説2の検証のため、モデル1を複製す るが、マスク製造を外部委託する企業のみから のデータを使用する。 モデル3:全サンプルに対して仮説2検証のため、 レジスト知識の影響も含む。 モデル4:アーキテクチャ・イノベーションの直接 的効果を追加する。 モデル5:仮説3の検証のため、アーキテクチャ・ イノベーションとマスク製造の外部委託間の相互 作用を含む完全仕様モデルである。 17

18.

主な結果 • マスク製造をアウトソースする企業の市場投 入時間は、製品世代がコンポーネント変化起 因時は、統合型企業と比べて1.36倍長い。 • この比率は、製品世代がアーキテクチャ変化 起因時は1.89倍に拡大する。 • 平均的に、垂直統合型企業はコンポーネント 変化起因の商品化では2.37四半期アウトソー ス企業をリードする。 • この比率は、アーキテクチャー起因の商品化 では5.85四半期リードする 18

19.

仮説検証結果 • 3仮説は検証された。 • 垂直統合型企業は非 統合型企業よりも市 場参入の利点を持つ。 • 一方、アウトソースさ れるコンポーネントの 知識を開発すること で、多くの企業が知 識統合を追求してい た。 19

20.

副産物として発見された特筆すべき結果 • 企業の外部コンポーネント知識が、(レジストはア ウトソースするが、マスクは自分で生産する)部分 統合企業の性能に影響を与えないが、マスク、レ ジスト両方をアウトソースする企業の市場投入性 能を向上させているように見える。 • 何故、両部分とも統合しない企業が、部分的に 統合する企業より、外部コンポーネントの知識か らより多くの利点を得ることができるのだろう か? 『クリティカルな技術をアウトソースする企業は、 技術を所有している企業よりも、供給業者の能 力を開発するより多くのインセンティブを持って いるかもしれない』 20

21.

“特筆すべき結果”を推測させる インタビュー記事 • 内部に独自のマスク部門を持たない企業は、 新技術開発期間に、マスク供給業者、レジス ト供給業者、ツール供給業者間のバランスを とる行動を実行する。 • 一方、内部マスク部門を持つ企業は、マスク 開発により多くウェイトを置き、異なる要素間 のバランス確保にあまり注意を払わない傾向 がある。 21

22.

各国(米日韓台)DRAM産業の盛衰 22

23.

Samsung, Hynix, Micron (Elpida), Nanya Technology, 富士通セミコンダクター,ラピスセミコンダクタ, ISSI, Alliance Memory, Winbond,ルネサス エレクト ロニクス, Etron Technology, Microsemi, ESMT, AMIC Technology, Maxwell Technologies, ProMOS Technologies, Jeju Semiconductor, Zentel, Fidelix 23 Wikipedia [DRAM]

24.

最近のクリックランキング 2015年3月(Best 10) 順位 1 2 3 4 5 6 6 8 9 10 企業名 クリック割合 12.6% Winbond(台湾) 12.4% ISSI(米国) 11.7% ラピスセミコンダクタ(日本) 9.4% SAMSUNG(韓国) 7.1% Microsemi(米国) 6.5% SK Hynix(韓国) 6.5% Micron(米国) 5.5% Nanya Technology(台湾) 3.8% Alliance Memory(米国) 3.6% ESMT(台湾) Samsung, Hynix, Micron (Elpida), Nanya Technology, 富士通セミコンダクター, ラピスセミコンダクタ, ISSI, Alliance Memory, Winbond, ルネサス エレクトロニクス, Etron Technology, Microsemi, ESMT, AMIC Technology, Maxwell Technologies, ProMOS Technologies, Jeju Semiconductor, Zentel, Fidelix 24

25.

リソグラフィー 装置企業の技 術変化に着目 したアーキテク チャ変化情報 Ron Adnerand Rahul Kapoor, “VALUE CREATION ININNOVATIONECOSYSTEMS:HOW THE STRUCTURE OF TECHNOLOGICALINTERDEPENDENCE AFFECTS 25 FIRM PERFORMANCEINNEW TECHNOLOGY GENERATIONS”, Strategic Management Journal.,31: 306–333 (2010)

26.

企業形態 照準設備 マスク レジスト 企業名 垂直統合企業 ○ ○ △ 日本系、韓国系 米国系 部分統合企業1 ○ ○ × 部分統合企業2 非統合企業 ○ × × × × × 備考 日本系 米国系、台湾系 ファブレス/ ファウンドリー 形態 米国系、台湾系、 韓国系 現在のDRAM企業: Samsung, Hynix, Micron (Elpida), Nanya Technology, 富士通セミコンダクター, ラピスセミコンダクタ, ISSI, Alliance Memory, Winbond, ルネサス エレクトロニクス, Etron Technology, Microsemi, ESMT, AMIC Technology, Maxwell Technologies, ProMOS Technologies, Jeju Semiconductor, Zentel, Fidelix ・・・19社 沖電気⇒ラピスセミコンダクタ(ROHM傘下) 三菱、日立+NECエレクトロニクス⇒ルネサスエレクトロニクス NEC,日立のDRAM部門統合⇒エルピーダ⇒Micron 東芝は汎用DRAM事業から撤退~米関連工場などをMicronに売却 米国: Micron, ISSI, Alliance Memory, Microsemi, Maxwell Technologies (5) 韓国: Samsung, Hynix, Jeju Semiconductor, Fidelix (4) 台湾: Nanya Technology, Winbond, Etron Technology, ESMT, AMIC Technology, ProMOS Technologies, Zentel (7) 日本:富士通セミコンダクター, ラピスセミコン ダクタ,ルネサス エレクトロニクス (3) 26

27.

日本DRAM産業衰退の推定 • 日本系は①アーキテクチャ起因の変化、②コン ポーネント起因の変化、の波状変化が度重なる うちにトレードオフへの適確な対応が困難になっ た。 • 同様の事態を米国系・台湾系は、ファブレス/ファ ウンドリー・モデル+外部コンポーネント知識へ の投資+複数要素のバランス経営で対応力を 向上させていった。 • キャッチアップ形の韓国系もその流れに追随し た。 • 一方、日本系のみは垂直統合型の欠点を克服 するタイミングを逸し、知識統合のチャンスを生 かす戦略に転ずることができなかった。 27

28.

日本のDRAM産業競争力低下要因を探る 28

30.

国際競争力低下の要因を探る • テクノロジー/マーケットの複雑性拡大は、ビ ジネス戦略や技術戦略上の考察の幅と深さ を急速に拡大させる。 • ビジネス戦略や技術戦略上の最適化の範囲 が、既存の企業活動の境界をも頻繁に飛び 越えるようになる。 • 頻繁に相変化を繰り返すシステム環境の中 で競争力を維持していくには、全体システム の中で的確に一目瞭然化できる立ち位置の 確保が必要になる。 30

31.

2000年前後の半導体HKMGプロセス技術の 変化時期の日本勢の対応状況 • Corei7・Xeon等のマイクロプロセッサーに一気 に導入されたHKMG(High-k/Metal Gate)とい う先端プロセス技術があった。 – 過去40年間に渡って使われてきた中核プロセス 技術を根底から置き換える革新的技術 • HKMG技術は数多くの研究者が関わり、日本 勢の貢献も相当あったが、先陣を切ったのは、 基礎研究重視のIBM、東芝タイプではなく、 オープンイノベーション 標榜のインテルであっ た。 31

32.

• HKMG分野には日本人の研究開発者も数多 く含まれていた。 • 米国勢のプレゼンスはかなり高く、しかも、欧 州勢と同じく満遍なく登場していた。 • 特に、Sematech-IBM関係者や米国の大学・ 研究機関は世界をリードしていた。 • 外国(特に韓国)生まれの人々が多いことも 米国勢の興味深い特徴であった。 • 台湾・Singapore勢には米国の大学・研究機 関で活躍した人々も多かった。 個々人の世界レベルでの貢献とは対照的に、 集団としての日本勢は、世界の中で相当に孤 立度(あるいは辺境性)が高くなっていた。 32

34.

• 孤立性の高い日本勢に比べ、インテルの開放性 と閉鎖性とを併せ持つ研究開発システムは、世 界の研究開発システム内でかなり独特であった。 • インテルの開放的研究開発システムは、米国の みならず欧州や日本・韓国・台湾・Singaporeの ほぼすべてを網羅していた。 • インテルは、この開放的研究開発システムを 使って、先端技術の世界潮流を逐次かつ迅速に 把握できる位置取りをしていた。 • 一方、日本は国内勢に偏った結びつきが顕著で あるにもかかわらず、国内での結びつき自体も、 かなり疎なものとなっていた。 日本はネットワーク内における情報転送速度や 応答速度がかなり遅いと見なすことができる。 34

35.

日本勢の評価と今後の指針・・ • 日本勢のさらなる孤立化とクロック・スピード への遅れが懸念される。 • 【但し、独創的なアイデアは、辺境から生まれ てくることも多いので、必要以上の悲観は不 要かもしれないが・・】 • まずは、“世界で孤立、国内で群雄割拠、社 内でも群雄割拠”と揶揄される現状を認識し、 国内におけるネットワーク性を格段に高める 仕組みの導入が必要である。 35

36.

日本産業の課題と今後の取組み 36

37.

技術変化が加速する業界への示唆 • 垂直統合における設備投資は技術陳腐 化の可能性によってより高いリスクを負 担 • 急速な技術変化で特徴づけられる業界 では、この制約は悪化 • 単に労働分割の伝統的視点だけでなく、 知識分割を通じて企業を組織化する視 点が必要 37

38.

“分業と統合”から“分知と共創”へ • 分業は労働分業(アウトソーシング)や貿易交換 により価値創造の根幹である。 • しかし、知識分業( “分知”:外部コンポーネント 知識への投資も含む)も加わることで、 “共創”も 共なって、より高度な価値創造の可能性が発生 する。 • このような手段も活用することで、大量生産時代 から、他と違った技術/製品へのニーズが増大し 新たな組織への転換が求められる際、新時代へ の変革が容易になる。 • このような「違い」を生み出せる対応力強化が、 これからの知識/情報社会への優先的対応に繋 がる。 38

39.

今後の取組み • デジタル産業革命は新たな段階に突入 している。 • 多くの産業が“消費者ニーズの変化が速 い産業”への変化を余儀なくされている。 • 俊敏にニーズに対応できる組織への組 織変革が必須である。 • 中心にあるのは、新たな組織への組織 変革ビジョンとその変革を主導するリー ダーシップである。 39