抗がん薬の血管外漏出

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February 15, 26

スライド概要

2025/11作成
抗がん薬の血管外漏出について主にガイドラインの記載に従ってまとめました。
院内研修会などのへの使用を想定しています。

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スライド作成が好きで、医療現場で使える研修資料やまとめ資料を作っています。 内容は作成時点の情報です。最終判断は添付文書・ガイドライン・施設ルールを優先してください。 スライドのダウンロード・共有は自由です。再配布の際は出典として「やくすら」を添えてください。

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各ページのテキスト
1.

抗がん薬の血管外漏出 ― 予防・早期発見・対応の基本 ―

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本研修の目的 ✓ 組織障害性分類を把握する ✓ リスク因子・予防について学ぶ ✓ ガイドラインに沿った治療方針の理解

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目次 1. 血管外漏出とは 2. 抗がん薬の組織障害性分類 3. リスク因子・予防 4. 治療方針 5. まとめ

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1.血管外漏出とは 定義・症状の経過とガイドラインについて

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血管外漏出(extravasation:EV) 静脈内に投与されるべき薬剤が血管周囲の皮下組織などに漏れ出ること ✓ 壊死起因性抗がん薬の EV 頻度は 0.1〜6.5%と報告されている ✓ 症状:発赤、腫脹、疼痛、灼熱感、びらん、水疱形成、潰瘍化、壊死 漏出直後 ✓ 発赤 ✓ 腫脹 ✓ 疼痛 数時間~数日後 ✓ 水疱形成 ✓ 潰瘍化 ✓ 壊死 重症化 ✓ 瘢痕形成 ✓ ケロイド化 ✓ 外科的処置(手術)

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ガイドラインの改訂 日本がん看護学会(JSCN)、日本臨床腫瘍学会(JSMO)、 日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)の3学会によるガイドラインの改訂 初版 外来がん化学療法看護ガイドライン2009年版 第2版 外来がん化学療法看護ガイドライン2014年版 第3版 がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン2023年版

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2.抗がん薬の組織障害性分類

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組織障害性分類 壊死起因性、炎症性、非壊死起因性に分類 危険度 DNA結合型 ✓ アントラサイクリン系 ✓ 広範、時間の経過で増悪 非結合型 ✓ ビンカアルカロイド系薬剤 ✓ 限局、時間の経過で改善 大 壊死起因性 抗がん薬 炎症性 非壊死起因性 小

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壊死起因性抗がん薬(ベシカント薬:vesicants) 水疱や潰瘍、糜爛(びらん)、組織傷害、組織壊死 などの重度な副作用が生じる可能性がある。 アントラサイクリン系 ※ ビンカアルカロイド タキサン系 ※ ✓ ダウノルビシン ✓ ドキソルビシン ✓ エビルビシン ✓ イダルビシン ✓ ミトキサントロン ✓ アムルビシン ✓ ビンブラスチン ✓ ビンクリスチン ✓ ビンデシン ✓ ビノレルビン ✓ パクリタキセル ✓ ドセタキセル アルキル化薬 アルカロイド ✓ ラニムスチン ✓ マイトマイシン C ✓ ブスルファン 抗がん抗生物質 プラチナ系 ✓ オキサリプラチン ✓ トラべクテジン ✓ アクチノマイシン D ※ リコール現象が報告されている (血管外漏出を経験した後に、同薬剤を投与された際、再び同一部位に炎症が起こる現象)

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炎症性抗がん薬(イリタント薬:irritants) 漏出部位で炎症、潰瘍形成には至らない アントラサイクリン系 トポイソメラーゼ阻害薬 ✓ ドキソルビシン (リボソーム製剤) ✓ イリノテカン ✓ ノギテカン アルキル化薬 ✓ シクロホスファミド※1 ✓ イホスファミド ✓ フルオロウラシル※2 抗がん抗生物質 プラチナ系 ✓ ブレオマイシン ✓ ゲムツズマブ オゾガマイシン ✓ カルボプラチン 代謝拮抗薬 ※1 シクロホスファミドはアントラサイクリン投与後に漏出した場合、壊死起因性になり得る ※2 フルオロウラシルは長時間・大量に漏出した場合、壊死起因性になり得る

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非壊死起因性抗がん薬(非ベシカント薬:non-vesicants) 炎症や潰瘍形成は引き起こさない 皮下注射や筋肉注射が可能 代謝拮抗薬 ビンカアルカロイド mTOR 阻害剤 ✓ シタラビン ✓ フルダラビン ✓ メトトレキサート ✓ ペメトレキセド ✓ ネララビン ✓ クラドリビン ✓ クロファラビン ✓ エリブリン ✓ テムシロリムス L-アスパラギン分解酵素 VEGF 阻害剤 ✓ L-アスパラギナーゼ 抗がん抗生物質 ✓ アフリベルセプト 微小管阻害薬結合モノクローナル抗体 ✓ イノツズマブ オゾガマイシン ブレンツキシマブ ベドチン トラスツズマブ エムタンシン アルキル化薬 プロテアソーム阻害薬 その他 ✓ チオテパ ✓ ボルテゾミブ ✓ カルフィルゾミブ ✓ インターフェロン ✓ ペントスタチン ✓ 各種モノクロナール抗体

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3.リスク因子・予防

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リスク因子 患者側・医療側のリスク要因を把握することが重要 患者側 医療側 ✓ 細く脆弱な血管 ✓ 経験の浅いスタッフによる穿刺 ✓ 化学療法の繰り返しに伴う血管硬化 ✓ 投与量が多い、または速度が速い ✓ 高度な肥満 (血管の確認が困難) ✓ 強い圧力をかけた状態での投与、長時 間の投与(輸液ポンプ使用 等) ✓ 末梢神経障害 (初期症状を訴えにくい) ✓ 血管痛を伴う薬剤 (血管痛と漏出の判別がしづらい) ✓ 体動が激しい、点滴を気にせず動くな ど、投与中の安静が難しい

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予防、患者指導のポイント 早期発見には予防と患者指導が重要 予防 患者指導 投与前 投与時 投与後 ✓ 穿刺部位は手背や肘関節周囲では なく、前腕が望ましい ✓ 逆血確認 ✓ 生理食塩液などでルート内を洗浄 して抜針 ✓ 太く弾力のある血管を選択 ✓ 穿刺部位は透明なドレッシング材 を用いて固定 ※血管確保が困難な場合は中心静脈カ テーテルも検討 ✓ 自覚症状の有無 ✓ 抗がん剤投与中は安静にする ✓ 点滴部位の発赤、違和感、疼痛、 腫脹、灼熱感、しびれ、滴下不良 などに気付いたらすぐに医療ス タッフに伝える ✓ トイレや更衣を済ませておく ✓ 袖口の狭い衣服の着用を控える ✓ 抜針後は数分間の圧迫止血を行う ✓ 客観的な徴候の確認 ✓ 投与中に異常がない場合でも、帰 宅後1週間は、投与部位の違和感、 疼痛、腫脹、灼熱感などを継続し て観察する

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ガイドラインでの推奨 穿刺部位 穿刺処置を受けた部位より中枢側に末梢静脈カテーテルを留置することを弱く推奨する ✓ 薬物療法前の採血、穿刺エラーによる再穿刺時を想定 ✓ 損傷を与えた部位でのEVを回避 自然滴下・輸液ポンプ EV予防と速度管理のバランスを考慮し、自然滴下を行うこと・行わないことを弱く推奨する ✓ EVリスクの高い薬剤:自然滴下 ✓ 厳密な速度管理が必要な薬剤:輸液ポンプ

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4.治療方針

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類似反応 症状や逆血の有無で鑑別 病態 症状 逆血 滴下不良 漏出 血管外漏出 血管痛(静脈炎) フレア反応 壊死性または炎症性 血管壁への刺激 血管周囲の過敏反応 ✓ 局所の疼痛 ✓ 発赤 ✓ 腫脹、硬結 ✓ 局所の疼痛 ✓ 体幹側にかけての疼痛 ✓ 血管に沿った発赤 ✓ 局所の疼痛なし ✓ そう痒 ✓ 血管に沿った紅斑 ✓ 30分以内に消失

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対応フローチャート 血管外漏出の発生 Step 1 抗がん剤の投与を中止、留置針は抜かない、Drコール Step 2 医師の指示により漏出薬剤を2-5ml吸引 Step 3 留置針を除去後、漏出部位の範囲を油性マーカーで囲む Step 4 アントラサイクリン 壊死性・炎症性 非壊死起因性 ✓ ステロイド外用剤 ✓ デクスラゾキサン ✓ ステロイド外用剤 ✓ 経過観察 ✓ ステロイド外用剤 (必要時) 適宜、冷罨法

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冷罨法と温罨法 冷罨法:することを弱く推奨 温罨法:しないことを弱く推奨 ✓ 局所の血管収縮を引き起こし、薬剤を局在化させ、皮膚障害・炎症の悪化を防ぐ 冷罨法 ✓ 間欠的な冷却(1回15-20分、1日4回程度、漏出後24時間)を行う ✓ オキサリプラチンは、冷却により末梢神経障害を誘発するため冷却しない ✓ ビンカアルカロイド系・エトポシドは、潰瘍形成を悪化させるため冷却しない ✓ 局所の血管拡張を引き起こすことで、薬剤の配分と吸収を増加させる 温罨法 ✓ ビンカアルカロイド系抗がん薬で用いられることがあるが、ヒアルロニダーゼ皮下注射 (本邦未承認)との併用での推奨 ✓ 温罨法のみの実施の根拠がなく、ガイドラインでは行わない事を推奨している

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ステロイド外用剤塗布と局所注射 外用剤塗布:行うことを弱く推奨 局所注射:行わないことを弱く推奨 ✓ 抗炎症作用を期待して用いられる 外用剤 ✓ 低侵襲的な処置であり、害が少ない ✓ 使用期間の目安:strongest 2週間、strong以下 4週間 ✓ 局所とはいえ、何度も針を刺す侵襲的行為 局所注射 ✓ ステロイド外用のみの群と比較して皮膚潰瘍に対する手術発生率が高くなる報告 ✓ ステロイド局所投与群は、非局所投与群と比較して血管外漏出時の治療期間延長の報告

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デクスラゾキサン アントラサイクリン系の血管外漏出時の唯一の治療薬 特徴 ✓ デクスラゾキサン投与例において、外科的処置の実施率は2.8%(1例/36例)であり、 有効性が認められた(p<0.0001 vs 35%, 正確二項検定) ✓ 高額な医薬品であり、使用頻度も少ないため、常時院内に在庫することが困難 ✓ 医薬品卸業者との連携が重要 ✓ 血管外漏出後6時間以内に投与 投与 ✓ 血管外漏出した腕とは反対の腕から投与 ✓ 3日間連続で静注する ✓ 腎機能低下患者(Ccr<40ml/min)では通常量の半量

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5.まとめ

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まとめ 予防と早期発見 ✓  組織障害性分類の理解  穿刺部位、血管選択、患者指導 基本的な対応 ✓  冷罨法、ステロイド外用剤が推奨  温罨法、ステロイド局所注射は非推奨 アントラサイクリン系薬剤 ✓  唯一の治療薬であるデクスラゾキサンを使用

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参考文献 1. 日本がん看護学会/日本臨床腫瘍学会/日本臨床腫瘍薬学会 編.がん薬物療法に伴う血管外 漏出に関する合同ガイドライン2023年版.金原出版;2022 2. 龍島靖明.血管外漏出への対処法と予防策.月刊薬事.2025;67(4):744–748. 3. 加藤峰幸.血管外漏出.月刊薬事.2024;66(13):2456–2459 4. 櫻井洋臣.抗がん剤の血管外漏出.副作用マネジメント:血管外漏出(Vol.07).沢井製 薬株式会社公式サイト.https://www.sawai.co.jp/(閲覧日:2025年10月30日) 5. 矢ヶ崎香.血管外漏出.岡元るみ子(編).がん化学療法副作用対策ハンドブック 第4 版.羊土社;2025:p.80–87 6. 松尾宏一(編),緒方憲太郎(編),林稔展(編).がん薬物療法のひきだし 第2版:腫 瘍薬学の基本から応用まで.医学書院;2024.p.412–416.