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February 19, 24
スライド概要
地理院地図ファンクラブ2024年2月定例会(2024年2月17日)発表資料
#GIS #地図学 ウィングフィールドは、パーソナル ブランドとして GIS、IT をはじめとした技術情報や趣味に関する情報発信をしています。 WINGFIELD since1995 https://www.wingfield.gr.jp/
羽田 康祐
自己紹介 羽田 康祐 • • • • @kohsuke_hada www.wingfield.gr.jp Geospatial Communicator 日本地図学会 常任委員 趣味はアウトドア全般 好きな地図投影法は 「パース・クインカンシャル図法」 © Kohsuke Hada
最近メルカトル図法を扱う メディアが増えてきました © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada ゴール平射図法
とか © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada ミラー図
とか © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada 正方形図法(正距円筒図法 )
とか? © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada 心射円筒図法
???? © Kohsuke Hada
お気づきですよね? © Kohsuke Hada
ゴール平射図法 正方形図法 (正距円筒図法 ) これらはすべてメルカトル図法 ではありません ミラー図法 © Kohsuke Hada 心射円筒図法
これが メルカトル図法 © Kohsuke Hada
メルカトル図法 デザイナーはグリーンランドを省略しがち © Kohsuke Hada
このように 間違った図法でメルカトル図法を 解説しているメディアが多い © Kohsuke Hada
地図の縦横比を誤って使用した例 メルカトル図法(左)は面積が誇張されているため、公立学校の 世界地図にペータース図法(右)を使うべきと訴えるシーンがある 「メルカトル図法」 と説明している地図 © Kohsuke Hada 「ペータース図法」 と説明している地図 ドラマ:ザ・ホワイトハウス 2ndシーズン第16話より
正しい地図の縦横比 メルカトル図法 ドラマでは南緯60度以内を 切り取っている © Kohsuke Hada ゴール・ペータース図法 ドラマでは南緯60度以内を 切り取っている
グラフィック素材によっては “アート”と思わなければ 笑えない地図もある © Kohsuke Hada
Adobe Stockで「世界地図」と検索 © Kohsuke Hada
© Kohsuke Hada
赤線はメルカトル図法 © Kohsuke Hada
赤線はミラー図法 © Kohsuke Hada
Adobe Stockで「世界地図」と検索 ミラー図法 メルカトル図法 『グリーンランドはどこへ消えた?』 © Kohsuke Hada 謎図法 ミラー図法 謎図法 謎図法
図法同定の ヒント グリーンランドを囲む矩形の縦横比 タイミル半島の形 ロシアの国の形 (面積の大きな国) カナダの国境 (数理的国境) 北米大陸を囲む矩形の縦横比 (他大陸も同様) エジプトの国境 (数理的国境) 緯線・経線が あると理想 正確には GISソフト で位置合わ せして確認 © Kohsuke Hada ミラー図法
© Kohsuke Hada https://twitter.com/kohsuke_hada/status/1561388344126631937
メルカトル図法 • 現在のベルギー出身のゲラル ドゥス・メルカトルが1569年に 出版した世界地図に用いた • 地図上のどこでも航程線 (rhumbline;等角航路*)が 直線で描ける唯一の地図投影法 • 航海用「海図」の地図投影法と して現在も使用されている • 「航空図」には正距方位図法が使 われているという説明は間違い • https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mercator_1569.png https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gerardus_Mercator.jpg 20世紀終盤に学術分野で地図学用語が審議され、「等角図法」「等角航路」は廃止するように定められたが、高校地理の教科 書では「等角図法」は「正角図法」に置き換えられた一方、「航程線」は現在でも「等角航路」として説明されている。 © Kohsuke Hada
メルカトル図法の特徴 正角図法 • 地図上のどこでも角度が正しい • (狭い範囲で)形が正しい 同じ角度 元の円 円筒図法 • 経線が平行 (地図上で真北の方向が一定) • 方位が正しい訳ではない 円筒図法=正角図法ではない © Kohsuke Hada 違う角度
その他の正角図法 • パース・クインカンシャル図法 • 特異点を除いて円の形状を維持 している →正角図法 • 赤い円 • 地球上で正確に半径1,000kmの 円を描いたもの © Kohsuke Hada
メルカトル図法にまつわる誤解 【誤解1】地図帳の世界地図はメルカトル図法 • ミラー図法とメルカトル図法の違いがよくわかっていない • 帝国書院・二宮書店:ミラー図法、東京書籍:正距円筒図法 【誤解2】太平洋を横断する船は等角航路をたどる • 海図は「メルカトル図法」が使われているが、世界地図を広げて航海しているわけではない • 目的地までの等角航路を直線で進んでいるわけではなく、大圏航路に近い航路をとる • (船長にもよるらしい) 【誤解3】航空機は正距方位図法の地図を使う • “中心からの距離と方位が正しい” 地図でどうやって地図の中心以外で距離と方位を測ることができるのか • 現在の航空図には「ランベルト正角円錐図法」が使われている © Kohsuke Hada 佐藤崇徳(2023)「万能な地図はない-地図投影法の適切な使い分け-」地図情報 第42巻4 参考
実際の海図と航空図 • 航空図 • 海図 日本水路協会Webサイト 引用 © Kohsuke Hada https://www.jha.or.jp/jp/shop/products/aeronautical/index.html https://www.jha.or.jp/jp/shop/products/nautical/index.html
メルカトル図法にまつわる誤解 【誤解4】メルカトル図法は地球の中心から光を当てた影である 心射円筒図法 心射円筒図法 • この説明が成り立つのは心射円筒図法 北緯85度 北緯79度 北緯72度 約72度 心射円筒図法 北緯72度 円筒を平面に展開した形は 「心射円筒図法」と同等 © Kohsuke Hada メルカトル図法 丸いミカン 南緯79度 南緯85度 図:羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 引用
ところで © Kohsuke Hada
仕事で航海してますか? © Kohsuke Hada
航海はしないですよね 人生では後悔しているかもしれません © Kohsuke Hada
メルカトル図法の短所 面積が正しくない • 特に高緯度ほど顕著に面積が誇張される • 地球儀と比較して縮尺が正しくない * • 世界地図のような小縮尺の分布図には適さない * 縮尺を計算する基準となる緯度(基準縮尺)を変更すれば、その緯度における縮尺は正しいといえるが、 一般的に基準縮尺は赤道が設定されているため、高緯度ほど縮尺の誤差は大きくなる。 方位が正しくない • 「方位」と「角度」は似て非なるもの • 方位が一定なのは南北方向のみ • 緯線は方位を測る基準の線ではない(小円) © Kohsuke Hada
なぜメルカトル図法で 視覚化してはダメなのか? © Kohsuke Hada
分布の様子を誤解させてしまうから 点の分布では、密度が小さく なると、実際より少ない印象 を与える 地球儀 © Kohsuke Hada 塗り分け図(コロプレス図)では、 面積が大きいほど数量が多い印象を 与える メルカトル図法
メルカトル図法で 描かれた、国別新 型コロナ感染者数 © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 引用
世界地図の分布図に適した 地図投影法 © Kohsuke Hada
世界が丸いことをイメージしやす い世界地図 ナチュラルアース図法 正角でも正積でもないがそれぞれの歪みが少ない 2008年作成 © Kohsuke Hada
世界が丸いことをイメージしやす い世界地図 イコールアース図法 正積図法 2018年作成 © Kohsuke Hada
イコールアース 図法で描いたコ ロナ感染者数の コロプレス図 絶対値の塗り分けに は別の誤解を与える 問題がある © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 参考
イコールアース 図法で描いたコ ロナ感染者数の 段階記号図 記号の大きさで区分 © Kohsuke Hada
他にも地図投影法は たくさんあります 地図投影法 https://www.wingfield.gr.jp/demos/map-projections/ © Kohsuke Hada
世界の中心に、哀をさけぶ 「助けて下さい!」 © Kohsuke Hada
ロシアが分断 緯度経度座標をそのまま表示 正方形図法 © Kohsuke Hada
ベーリング海峡で分断 ベーリング海峡で分断 正方形図法 東経11度を中心に表示 © Kohsuke Hada
大西洋で分断 日本で馴染む世界地図の中心 正方形図法 東経150度を中心に表示 © Kohsuke Hada
ソフトウェアの進歩で簡単に 分布図が作れるようになった © Kohsuke Hada
イコールアース 図法(太平洋中 心)で描かれた、 国別新型コロナ 感染者数 * * 絶対値の塗り分けに は別の誤解を与える 問題があります。 © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 参考
イコールアース 図法で描いたコ ロナ感染者数の 段階記号図 (太平洋中心) 記号の大きさで区分 © Kohsuke Hada
円筒図法は地図の中心を変えても 地物の形は変わらないが 他の図法だと形が変わる © Kohsuke Hada
メルカトル図法は全部ダメなの? © Kohsuke Hada
“低緯度ほど” “狭い範囲ほど” 問題ない • 地図の北端と南端の緯度差が少ないこと*1 • 標準緯線 *2 を地図の中心の緯度に設定すれば 縮尺の値やスケールバーの長さも正しく示せる 緯度 90 北端 標準緯線 南端 地図の範囲 (図幅) *1 北半球と身は観半球をまたがない場合に限る、 ただし赤道付近の低緯度はその限りではない。 *2 基準となる縮尺を決めるための緯度 © Kohsuke Hada 拡大率 ∞ 緯度 拡大率 60 緯度 拡大率 2 25 1.1034 89 57.2987 55 1.7434 20 1.0642 85 11.4737 50 1.5557 15 1.0353 80 5.7588 45 1.4142 10 1.0154 75 3.8637 40 1.3054 5 1.0038 70 2.9238 35 1.2208 0 65 2.3662 30 1.1547 1 拡大率=1÷cos(緯度) *2 *2 地球を完全な球と仮定した場合 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 引用
現在の地理院地図(標準地図) © Kohsuke Hada
地理院地図(2016年7月頃) © Kohsuke Hada ©国土地理院
地理院地図(2016年7月頃) • 初期の小縮尺タイルは注記がカーブしていた • 地理院地図の前身 * は(確か)ランベルト正角円錐図法だったため *1 2003年~電子国土ポータル、2008年6月~2014年3月末「ウォッちず」 © Kohsuke Hada ©国土地理院
ランベルト正角円錐図法 • 角度が正しい • 面積の歪みが抑えられている 図法のパラメーター 中央子午線 :東経140度 第1標準緯線 :北緯10度 第2標準緯線 :北緯40度 © Kohsuke Hada
ランベルト正角円錐図法 図法のパラメーター 中央子午線 :東経140度 第1標準緯線 :北緯10度 第2標準緯線 :北緯40度 GISソフトウェア上で地図を回転 © Kohsuke Hada
大縮尺で標準緯度を適切に設定すれば メルカトル図法でも問題ない 【(疑似)メルカトル図法】 Web マップでよく利用 【正方形図法】 緯度1度と経度1度を等距離で直交 札幌市(北緯43度付近)の例 © Kohsuke Hada 羽田康祐 (2021)『地図リテラシー入門-地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 引用
Webメルカトル(座標系) ArcGIS の定義情報 • 測地系:WGS84 / 投影法:Mercator Auxiliary Sphere • =真球で投影されたメルカトル図法 • 「Webメルカトル」の初出はEsri(羽田調べ) • QGISでは “WGS 84 / Pseudo-Mercator (疑似メルカトル) ” 実はWebメルカトルは 正角ではない 実際の地球は扁平しているので、扁 平した地球とみなして地図投影され るべきだが、正しいものとみなして 利用されているし、専門家でもなけ れば困ると認識することもない。 © Kohsuke Hada https://www.wingfield.gr.jp/archives/12431 引用
まとめ メルカトル図法と称して別の図法を紹介している場合が多い 目的と縮尺・範囲に応じて適切な地図投影法を選択 目的によってさまざま 世界 小縮尺 大陸 ランベルト正角円錐図法 アルベルス正積円錐図法 など 国 地方 メルカトル図法(標準緯度調整) 横メルカトル図法 など 都道府県 街区 大縮尺 日本人にとって世界地図は太平洋中心の方が馴染みやすい 地理情報システム(GIS)ソフトウェアの普及で地図がつくりやすくなったが、地図の知識は必要 © Kohsuke Hada
主題図と地図投影法を 知るための入門書 • 2021年 ベレ出版 • 主題図 • 地図投影法 • 地理情報システム(GIS) © Kohsuke Hada
主題図と地図投影法を 知るための入門書 • 『Mapping for a Sustainable World -持続可能な社会のための地図作成-』 https://digitallibrary.un.org/record/3898826 • 国際連合と国際地図学協会の共著 • 日本地図学会 専門部会にて翻訳作業中 • 2024年に雑誌付録として配布予定 © Kohsuke Hada
参考資料 ご清聴ありがとうございました • 世界地図は世界を大きく見せる メルカトル図法に関する誤解の全て 地理の雑学ゆっくり解説 https://www.youtube.com/watch?v=DoXWJS9u-Uo • 正角図法を正角に理解する https://www.wingfield.gr.jp/archives/10049 • 「Web メルカトル(ウェブメルカトル)」の由来と真相 https://www.wingfield.gr.jp/archives/4294 • Webメルカトルは正角図法ではなかった https://www.wingfield.gr.jp/archives/12431 • 野村正七(1974)『指導のための地図の理解』中共出版 https://amzn.to/3RztIvI • 政春尋志(2011)『地図投影法-地理空間情報の技法』朝倉書店 https://amzn.to/47bPg7l • 羽田康祐(2021)『地図リテラシー入門―地図の正しい読み方・描き方がわかる』ベレ出版 https://www.wingfield.gr.jp/archives/12018 • 佐藤崇徳(2023)「万能な地図はない-地図投影法の適切な使い分け-」地図情報 第42巻4号 © Kohsuke Hada