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September 03, 25
スライド概要
多くの人が日常的に化粧を行っているが,その具体的な工程および手順は暗黙知に留まり,記録,
共有されることが少ない.化粧工程を形式知として共有する手段として化粧動画が広く視聴されているが,
膨大な数の中から自身の化粧工程や顔,肌の特徴に合う動画を探すことは難しい.我々はこれまでに化粧
工程をフローチャート化することで構造的な可視化を可能にするシステムMake-up FLOW 2.0 を実現し
てきた.本稿では,このシステムを用いて,YouTube の化粧動画と連動した化粧工程データセットの構築
とその特徴分析を行うことで,個人の肌の特徴による工程の違いを明らかにすることを目的とする.そこ
で,美容系YouTuber 103 名の化粧動画から化粧フローチャートを222 件作成し,データセットを構築す
るとともに公開した.また,データセットを分析した結果,一般的な化粧手順や肌タイプごとのベースメ
イクにおける工程および手順の特徴が明らかになった.
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
美容系YouTuberの化粧工程データセットの構築と その特徴分析 菅生遥叶 田中佑芽 髙野沙也香 中村聡史 (明治大学) 1
背景 • 化粧には,人の印象を形成する“顔”の魅力を高める効果がある [Hassin+ 2000][Aguinaldo+ 2021] • 化粧の学習法は確立されておらず,SNSが化粧の知識を得る場 YouTubeを利用している人が最も多い [株式会社ネオマーケティング 2025] • 多くの動画から化粧工程,顔や肌の特徴に合う動画を探すことは難しい *1 Hassin, R. and Trope, Y.: Facing faces: Studies on the cognitive aspects of physiognomy., Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 78, No. 5, pp.837–852 (2000). *2 Aguinaldo, E. R. and Peissig, J. J.: Who’s Behind the Makeup? The Effects of Varying Levels of Cosmetics Application on Perceptions of Facial Attractiveness, Competence, and Sociosexuality, Frontiers in Psychology, Vol. 12 (2021). *3 株式会社ネオマーケティング: メイクに関する意識調査,https://corp.neo-m.jp/report/investigation/fashion_026/. アクセス日: 2025 年 7 月 11 日. 2
背景 原因 • 化粧工程を構造化し,可視化する手法がない • 化粧工程間の類似を判定する基準がない 化粧工程の構造化 → 共有,比較,類似度の計算可能 化粧工程を工学的に扱うことが必要 3
背景 提案手法 • 化粧工程の構造化手法Make-up FLOW [HCI200] • 化粧フローチャートの共有・取り入れ手法Make-up FLOW 2.0 [HCI212] 応用 • 化粧工程の類似度算出手法の提案 [HCI204] • 化粧動画推薦への応用可能性の検討 [HCI206] *4 髙野沙也香,中村聡史: Make-up FLOW:化粧工程の構造化手法の提案,情報処理学会論文誌, Vol. 65, No. 5, pp. 988–998 (2024) *5 髙野沙也香,中村聡史: Make-up FLOW 2.0:美容系YouTuber の化粧フローチャートの共有・取り入れ手法,HCI,Vol. 2025-HCI-212, No. 44, pp. 1–8(2025) *6 髙野沙也香,中村聡史: 化粧フローチャートに基づく大学生・大学院生の化粧類似度測定,HCI,Vol. 2023-HCI-204, No. 8, pp. 1–8 (2023) 4
背景 提案手法 • 化粧工程の構造化手法Make-up FLOW [HCI200] • 化粧フローチャートの共有・取り入れ手法Make-up FLOW 2.0 [HCI212] 化粧工学への発展可能性はどの程度か? 応用 • 化粧工程の類似度算出手法の提案 [HCI204] • 化粧動画推薦への応用可能性の検討 [HCI206] *4 髙野沙也香,中村聡史: Make-up FLOW:化粧工程の構造化手法の提案,情報処理学会論文誌, Vol. 65, No. 5, pp. 988–998 (2024) *5 髙野沙也香,中村聡史: Make-up FLOW 2.0:美容系YouTuber の化粧フローチャートの共有・取り入れ手法,HCI,Vol. 2025-HCI-212, No. 44, pp. 1–8(2025) *6 髙野沙也香,中村聡史: 化粧フローチャートに基づく大学生・大学院生の化粧類似度測定,HCI,Vol. 2023-HCI-204, No. 8, pp. 1–8 (2023) 5
目的 他者が分析・拡張可能な化粧工程データセットを構築する 化粧工程データセットの特性を明らかにする 6
目的 他者が分析・拡張可能な化粧工程データセットを構築する 化粧工程データセットの特性を明らかにする 7
化粧工程データセットの構築 • 美容系YouTuberの化粧動画をMake-up FLOW 2.0でフローチャート化 美容関連の動画を定期的に投稿しているYouTuber • チャンネル登録者数,動画の再生回数,投稿時期の制限なし 8
化粧工程データセットの構築 9
化粧工程データセットの構築
JSONデータ例
{
# 動画のリンク
”url” : "https://www.youtube.com/watch?v=HfhMH4y1QWc",
# ノード群
”nodes”: [
# 開始ノード
{“id”:”input0”, “position”: {“x”: 250 , “y”: 5} ,
“width”: 150, “height”: 40 , “type”: “input” ,
“data”: {“label”: “Make-up Start” } , },
・・・(コードの一部を省略)・・・
# 化粧ノード
{"id":"make4",
"position": {"x ": 240 , "y ": 319} , " width ": 150 , " height ": 53 ,
" type ": " make ", " data ": { " label ": " フェイスパウダー(プ レ ス ト)" ,
" image ": [{" src ":"/ icon / base . png ", " description ":" 全顔"}] ,
" item ": {" group ": " フェイスパウダー" , " label ": " プレスト"} ,
" itemData ": { "brand": "NARS" , " product ": "ライトリフレクティング
セッティ ングパウダー" , " type ": "" }, " movieTime ": 149 },
・・・(コードの一部を省略)・・・
# 終了ノード
{ " id ": " output22 ", " position ": {" x ": 270 , "y ": 1815} ,
" width ": 150 , " height ": 40 , " type ": " output ",
" data ": {" label ": " Make - up Finish ” } , }
# エッジ群
" edges ": [
# 開始ノードと1つ目の化粧ノード
{ " id ": " e_input0_make1 ",
" source ": " input0 ", " target ": " make1 ",
" type ": " straight ", " updatable ": " target ",
" markerEnd ":{" type ":" arrowclosed "} },
・・・(コードの一部を省略)・・・
# 4つ目と5つ目の化粧ノード
{ " id ": " e_make4_make5 ",
" source ": " make4 ", " target ": " make5 " ,
" type ": " straight ", " updatable ": " target ",
" markerEnd ": {" type ": " arrowclosed "} },
・・・(コードの一部を省略)・・・
# 最後の化粧ノードと終了ノード
{ " id ": " e_make21_output22 ",
" source ": " make21 ", " target ": " output22 " ,
" type ": " straight ", " updatable ": " target ",
" markerEnd ": {" type ": " arrowclosed "} } ]
],
10
化粧工程データセットの構築 • 美容系YouTuber 103名の化粧動画計222件をフローチャート化 • データセットを一般に公開 URL : https://makeup-flow.com/dataset データセットの統計量 最小工程数 5 最大工程数 57 平均工程数 21.6 標準偏差 7.47 11
化粧工程データセットの構築 特徴分析 例)年齢,年代,国別 定量的な分析が可能 機械学習 例)動画からの自動推定,推薦システム 教育コンテンツ 例)化粧マニュアル 12
目的 他者が分析・拡張可能な化粧工程データセットを構築する 化粧工程データセットの特性を明らかにする • 化粧手順の傾向 • 肌タイプごとのベースメイクの特徴 13
化粧手順の傾向分析 • データセット内の全ての化粧フローチャートが対象 • 開始から終了までのアイテムの2-gram頻度を求める 結果 化粧下地 → ファンデーション → コンシーラー → フェイスパウダー →アイブロウ → アイシャドウ → アイライナー → マスカラ → チーク → リップ 14
化粧手順の傾向分析 目元に施す工程の遷移先 ベースメイク工程の遷移先 工程 遷移先 回数 割合(%) 工程 遷移先 回数 割合(%) アイシャドウ アイライナー 119 26.4 化粧下地 ファンデーション 92 61.3 アイライナー アイシャドウ 81 29.9 ファンデーション コンシーラー 84 43.5 マスカラ アイライナー 51 23.7 コンシーラー フェイスパウダー 90 40.7 考察 ◆工程ごとの割合の最高値 目元に施す工程 : 20%台 ベースメイク → 目元における手順は個人差が大きい : 40〜60%台 → ベースメイクの手順は個人差が少ない 15
肌タイプごとのベースメイクの特徴分析 • 肌の水分量・皮脂量に合わせた化粧を施すことで,その仕上がりが良くなる • 特に肌の質感を仕上げるベースメイクにおいてテクスチャや手順が重要 参考:Maison KOSE(https://maison.kose.co.jp/article/drphil/g/g-phil-beauty-column-20191008/) 16
肌タイプごとのベースメイクの特徴分析 化粧下地 +スキンケア • 肌をトーンアップする • クリーム +日焼け止め ファンデーション CCクリーム UV化粧下地 BBクリーム • 肌の色ムラを均一にする • リキッド,スティック,クリーム,パウダー,クッション コンシーラー • シミ,ニキビをピンポイントでカバーする • リキッド,スティック,クリーム,パレット,ペンシル 部分特化 毛穴コンシーラー フェイスパウダー • 肌のテカリを抑え,ファンデーションを密着させる • プレスト,ルース 17
肌タイプごとのベースメイクの特徴分析 肌タイプごとの動画数,投稿者数,化粧フローチャートの統計量 乾燥肌 普通肌 混合肌 脂性肌 対象外 動画数 98 20 33 20 51 投稿者数 42 4 15 9 33 最小工程数 9 7 14 11 5 最大工程数 57 26 48 33 35 平均工程数 23.0 19.5 23.7 17.7 19.9 標準偏差 7.99 4.44 7.09 5.79 7.02 対象外:肌タイプが不明,他者に化粧を施してもらっている,ベースメイクがない,PRの動画 18
肌タイプごとのベースメイクの特徴分析 分析内容 工程 : 部位+アイテム+テクスチャ 手順 : 部位+アイテム+テクスチャ の2-gram頻度 分析方法 肌タイプごとの文書を用いてTF-IDF 19
乾燥肌のベースメイクの特徴 化粧下地とファンデーションが特徴的な工程・手順 フローチャート例 → それぞれが持つ保湿効果を強めるため BBクリーム 工程TF-IDFランキング アイテム(テクスチャ) 化粧下地(白) ファンデーション(クッション) 手順TF-IDFランキング 工程 TF-IDF値 0.388 0.381 開始 全顔(フェイスパウダー) 化粧下地(白) 化粧下地(白) 遷移先 TF-IDF値 全顔(化粧下地) 0.457 終了 0.413 フェイスパウダー(ルース) 0.373 全顔(化粧下地) 全顔(ファンデーション) 0.337 コンシーラー(パレット) 0.373 全顔(ファンデーション) 全顔(フェイスパウダー) 0.239 コンシーラー(リキッド) 0.359 開始 全顔(日焼け止め) 0.217 フェイスパウダー(プレスト) 0.351 全顔(化粧下地) 全顔(化粧下地) 0.186 ファンデーション(リキッド) 0.300 全顔(ファンデーション) 全顔(ファンデーション) リップクリーム (スティック) 0.148 化粧下地(白) プライマー (クリーム) リップ (プランパー) コンシーラー (リキッド) コンシーラー (リキッド) プライマー (クリーム) ファンデーション (クッション) ツール (スポンジ) ファンデーション (クッション) フェイスパウダー (ルース) コンシーラー (パレット) コンシーラー (リキッド) フェイスパウダー (プレスト) 20
普通肌のベースメイクの特徴 一般的な手順に準じている → 理想的な肌タイプであり,肌悩みが少ないため 工程TF-IDFランキング 手順TF-IDFランキング アイテム(テクスチャ) TF-IDF値 工程 遷移先 フェイスパウダー(ルース) 0.518 全顔(フェイスパウダー) 終了 0.649 コンシーラー(パレット) 0.400 開始 全顔(日焼け止め) 0.244 ファンデーション(クッション) 0.359 開始 全顔(UV化粧下地) 0.244 コンシーラー(リキッド) 0.359 くま(コンシーラー) 全顔(フェイスパウダー) 0.244 ファンデーション(リキッド) 0.279 全顔(ファンデーション) くま(コンシーラー) 0.244 フェイスパウダー(プレスト) 0.279 全顔(化粧下地) 全顔(ファンデーション) 0.203 化粧下地(白) 0.199 全顔(ファンデーション) 全顔(フェイスパウダー) 0.203 TF-IDF値 21
混合肌のベースメイクの特徴 コンシーラーの種類・施す部位が豊富 フローチャート例 → 乾燥部位と脂性部位によって使い分けているため 工程TF-IDFランキング 化粧下地(白) 手順TF-IDFランキング アイテム(テクスチャ) TF-IDF値 工程 遷移先 フェイスパウダー(ルース) 0.518 全顔(フェイスパウダー) 終了 0.486 コンシーラー(パレット) 0.400 開始 全顔(化粧下地) 0.461 ファンデーション(クッション) 0.359 全顔(化粧下地) 全顔(ファンデーション) 0.484 フェイスパウダー(プレスト) 0.359 くま(コンシーラー) 全顔(フェイスパウダー) 0.230 コンシーラー(リキッド) 0.279 全顔(ファンデーション) くま(コンシーラー) 0.205 化粧下地(白) 0.279 全顔(ファンデーション) 全顔(フェイスパウダー) 0.205 ファンデーション(リキッド) 0.199 開始 全顔(UV化粧下地) 0.179 メイクキープミスト(指定なし) 0.168 開始 全顔(日焼け止め) 0.128 UV化粧下地(白) 0.160 全顔(フェイスパウダー) 涙袋(コンシーラー) 0.128 コンシーラー(ペンシル) 0.120 涙袋(コンシーラー) 終了 0.125 TF-IDF値 ファンデーション (リキッド) コンシーラー (パレット) コンシーラー (リキッド) フェイスパウダー (ルース) 22
脂性肌のベースメイクの特徴 フェイスパウダーが特徴的な工程・手順 フローチャート例 → 皮脂の分泌を防止する効果を強めるため UV化粧下地(白) 工程TF-IDFランキング アイテム(テクスチャ) 手順TF-IDFランキング 工程 TF-IDF値 遷移先 TF-IDF値 フェイスパウダー(プレスト) 0.461 開始 全顔(化粧下地) 0.491 フェイスパウダー(ルース) 0.419 全顔(フェイスパウダー) 終了 0.451 コンシーラー(パレット) 0.336 全顔(化粧下地) 全顔(ファンデーション) 0.369 ファンデーション(クッション) 0.336 全顔(ファンデーション) 全顔(フェイスパウダー) 0.328 ファンデーション(リキッド) 0.336 全顔(フェイスパウダー) 全顔(フェイスパウダー) 0.186 化粧下地(白) 0.252 鼻(コンシーラー) 全顔(ファンデーション) 0.124 コンシーラー(リキッド) 0.252 全顔(メイクキープミスト) 終了 0.123 化粧下地 (パープル) ファンデーション (クッション) BBクリーム フェイスパウダー (ルース) フェイスパウダー (ルース) 23
展望 • 化粧動画から化粧フローチャートの自動推定 • データセットの拡張 • ユーザの顔,肌の特徴に合った化粧工程を探す機能の追加 24
まとめ 背景:化粧工学の可能性について検証できていなかった 目的:他者が分析・拡張可能な化粧工程データセットを構築し, 特性を明らかにする データセット構築:美容系YouTuber103名の化粧動画222件をフローチャート化し,公開 分析:ベースメイクは個人差が少なく,目元の手順は個人差が大きい 肌タイプごとに異なるベースメイクの特徴が得られた 展望:化粧フローチャートの自動推定,データセットの拡張,システムの機能の追加 25