選択肢の逐次的表示が選択に与える影響

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September 15, 23

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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1.

選択肢の逐次的表示が 選択に与える影響 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 3年 徳原眞彩 木下裕一朗 髙久拓海 小松原達也 中村聡史

2.

背景 ダークパターン → Webやスマートフォンアプリなどでユーザの 意図しない行動を引き起こすデザイン https://darkpatterns.jp 1

3.

背景 https://www.jalan.net/yad319788/plan 2

4.

背景 https://store.shopping.yahoo.co.jp/ktgigaweb/698-22sksu32107.html 3

5.

背景 https://store.shopping.yahoo.co.jp/shiro hato/b06ksu33140.html 4

6.

背景 問題となるデザインの多くは指摘することが可能 → 指摘が難しいインタフェースも存在 指摘が容易でないと… • ユーザに気づかれぬまま誘導を起こせる • デザイン作成者が気づかぬ誘導が起こる可能性 5

7.

先行研究 ・約11,000のショッピングサイトから53,000の商品ページを分析 したところ、1,818個のダークパターンを発見 [Mathurら , 2019] ・人気のある200個のモバイルアプリを分析し、ほとんどのアプリに ダークパターンを発見し、1つあたり平均3.9個発見 [Hidakaら , 2023] Mathur, G. Acar, M. J. Friedman, E. Lucherini, J. Mayer, M. Chetty, and A. Narayanan, “Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites,” Proceedings of the ACM on Human Computer Interaction, vol.3, no.CSCW, pp.1-32, 2019 S. Hidaka, S. Kobuki, M. Watanabe, K. Seaborn “Linguistic Dead-Ends and Alphabet Soup: Finding DarkPatterns in Japanese Apps,” CHI '23: Proceedings of the 2023 CHI Conference on Human 6 Factors in Computing Systems, no.3, pp.1-13, 2023

8.

先行研究 ・文字フォントが選択行動に影響を与え、選択率に偏りを生じさせる ことを発見 [川島ら , 2019] ・選択画面前に表示されたプログレスバーが選択行動に影響を与える 事を発見 [Yokoyamaら , 2021] 川島拓也,築舘多藍,細谷美月,山浦祐明,中村 聡史.”商品選択においてフォントがユーザの選 択 行動に及ぼす影響の調査,“電子情報通信学会 ヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS), HCS-23, vol.119, no.38, pp.113-118, 2019. K. Yokoyama, S. Nakamura, and S. Yamanaka, “Do Animation Direction and Position of Progress Bar Affect Selections?,” 18th IFIP TC 13 International Conference on Human-Computer 7 Interaction - INTERACT 2021, vol.12936, pp.395-399, 2021.

9.

先行研究 ・ 選挙での投票リストの候補者の順番が投票に影響を与える可能性を 発見 [Erkelら , 2016] ・ 「どちらかといえば賛成」のような非対称選択肢を追加することで 回答誘導の可能性を発見 [増田ら , 2017] P. F. A. Erkel, P. Thijssen, “The first one wins: Distilling the primacy effect,” Electoral Studies, vol.44, pp.245-254, 2016. 増田真也, 川畑秀明, 坂上貴之. “非対称な選択肢への回答, ” 日本行動計量学会 大会抄録集, no.45, pp. 8 318-321.

10.

先行研究 ・6択の選択肢の中から1つだけ先行表示を行うと、その先行表示を 行った選択肢の選択率が高くなる [木下ら , 2023] 木下裕一朗, 関口祐豊, 植木里帆, 横山幸大, 中村聡史. “選択肢の時間差表示が選択行動に及ぼす影 響, ” 信学技報 ヒューマンコミュニケー ション基礎研究会(HCS), HCS2023-39,vol.123, no.24, 9 pp.194-199, 2023.

11.

背景 ・サイトやアプリケーションの作成者が注意を払い 作成しなければならない ・通信遅延や動作遅延による意図しない選択誘導が 起こる可能性もある 10

12.

逐次表示 11

13.

目的 選択肢の逐次表示とその時の遅延が選択行動に及ぼす影響を 明らかにする 12

14.

仮説 6択の選択肢を逐次表示した時、 (1) 初めの方に表示された選択肢は選ばれやすく (2) その逐次表示に遅延を加えた場合はその遅延を 起こした選択肢の1つ前の選択肢に引っ掛かりが 起こり、その選択肢は選ばれやすくなる 13

15.

実験 趣味や嗜好を問う質問文とダミー質問を提示し、 提示した選択肢の中から1つ選んでもらう実験 趣味や嗜好を問う質問 …「親近感が沸く顔文字はどれですか?」 「気に入った四字熟語はどれですか?」 14

16.

実験 実験イメージ n秒後 イチゴ n秒後 リンゴ ミカン n秒後 メロン バナナ n秒後 スイカ n秒後 15

17.

実験 ・6つの選択肢を「コ」の字を描くように順番に表示 ・各選択肢は一定時間間隔毎に表示 ・今回の実験では、nを0.1に固定 ・全ての質問、ダミー質問において 逐次表示を行う n秒後 イチゴ n秒後 リンゴ ミカン n秒後 メロン バナナ n秒後 スイカ n秒後 16

18.

実験 17

19.

実験 実験イメージ n秒後 イチゴ リンゴ n秒後 ミカン n秒後 メロン バナナ n秒後 スイカ m+n秒後 18

20.

実験 ・6つの選択肢を「コ」の字を描くように順番に表示 ・各選択肢は一定時間間隔毎に表示 ・遅延が起こる質問では1つの選択肢のみ 他の間隔時間よりも長く設定 n秒後 イチゴ リンゴ n秒後 ミカン n秒後 メロン バナナ n秒後 スイカ m+n秒後 19

21.

実験 ・趣味や嗜好を問う質問を15問 →うち、遅延が起こる質問は5問 ダミー質問を5問 の計20問を回答する実験 ・今回の実験ではnを0.1、mを0.1~0.3の中から ランダムに設定 20

22.

実験(0.1秒遅延、右上引っ掛かり) 21

23.

実験(0.2秒遅延、右上引っ掛かり) 22

24.

実験(0.3秒遅延、右上引っ掛かり) 23

25.

実験 実験イメージ n秒後 n秒後 1 2 3 n秒後 5 遅延 4 引っ掛かり m+n秒後 24

26.

実験 遅延を起こす位置は下記4つ ・右上が遅延し、 中央上が引っ掛かる ・右下が遅延し、 右上が引っ掛かる ・中央下が遅延し、右下が引っ掛かる ・左下が遅延し、 中央下が引っ掛かる n秒後 イチゴ リンゴ n秒後 ミカン n秒後 メロン バナナ n秒後 スイカ m+n秒後 25

27.

実験(0.3秒遅延、中央上引っ掛かり) 26

28.

実験(0.3秒遅延、右上引っ掛かり) 27

29.

実験(0.3秒遅延、右下引っ掛かり) 28

30.

実験(0.3秒遅延、中央下引っ掛かり) 29

31.

実験 ・Yahoo! クラウドソーシング上で実施 ・2000名に実験を依頼 (男性1000名、女性1000名) ・回答選択肢のフォントや文字サイズは統一 30

32.

実験結果 下記の回答者を分析から除外 ・ダミー質問で1問以上誤答した回答者 ・途中で回答を止めて20問回答してない回答者 ・クラウドソーシングの指示に従っていない回答者 → 結果1,642名の回答者が分析対象 31

33.

実験結果 選択肢の回答率の偏りの大きかった問題を除外 → 誘導が選択肢の内容により行われている可能性 結果 10 問が分析対象 図1 : 遅延なし時の各質問の選択肢の選択率 32

34.

遅延なし時の各位置の選択率(N = 10,916) 仮説通りであれば左上の選択率が高く、左下にかけて選択率が 低下していく → そのような結果にはならなかった 16.88 20.78 15.33 15.11 16.70 15.21 33

35.

遅延なし時の各位置の選択率(N = 10,916) 左上が若干高いが、右上、右下、左下はほぼ同等の結果に 16.88 20.78 15.33 15.11 16.70 15.21 34

36.

引っ掛かり位置の選択率(N = 5,504) 仮説通りであればどの位置の選択肢も期待値を上回る → そのような結果にはならなかった 遅延無し 18.89 17.05 16.07 15.26 遅延無し 35

37.

引っ掛かり位置の選択率(N = 5,504) ほとんどは期待値程度であり、下の段の選択肢は期待値を 下回る結果となった 遅延無し 18.89 17.05 16.07 15.26 遅延無し 36

38.

引っ掛かり前後位置の選択率(%)(N = 5,504) 1つ前選択肢 の選択率 引っ掛かり 選択肢選択率 1つ後選択肢 の選択率 0.1秒 16.72 17.66 15.51 0.2秒 18.78 16.00 14.59 0.3秒 15.72 16.68 15.93 平均 17.07 16.78 15.34 遅延時間 1 2 3 6 5 遅延 4 引っ掛かり 37

39.

引っ掛かり前後位置の選択率(%)(N = 5,504) ・選択肢の1つ前の選択肢の選択率が若干高い結果となった → 特に遅延が0.2秒条件において18.78%と高い ・また、1つ後の選択肢は 期待値より低く、若干 選ばれにくい結果となった 1つ前選択肢 の選択率 引っ掛かり 選択肢選択率 1つ後選択肢 の選択率 0.1秒 16.72 17.66 15.51 0.2秒 18.78 16.00 14.59 0.3秒 15.72 16.68 15.93 平均 17.07 16.78 15.34 遅延時間 38

40.

回答者分類 質問に対して、回答時間が短い人々はより直感的に選んでいるため、 逐次表示や遅延の影響を受けやすいと考え回答者を以下の三つに分類 ・回答時間が3秒未満 ・回答時間が3秒以上6秒未満 ・回答時間が6秒以上 39

41.

遅延時間が0.2秒の時の平均選択時間ごとの 選択率(%)(N = 1,862) 平均選択時間 1つ前選択肢の 選択率 引っ掛かり 選択肢選択率 1つ後選択肢の 選択率 3秒未満 22.09 14.01 13.99 3秒以上6秒未満 18.08 16.28 14.39 6秒以上 18.09 17.04 15.43 40

42.

遅延時間が0.2秒の時の平均選択時間ごとの 選択率(%)(N = 1,862) ・より直感的に選択肢を選ぶ回答者が1つ前の選択肢を 選ぶ傾向が明らかになった ・一方、引っ掛かり選択肢自体とその後の選択肢は 低かった 平均選択時間 1つ前選択肢の 選択率 引っ掛かり 選択肢選択率 1つ後選択肢の 選択率 3秒未満 22.09 14.01 13.99 3秒以上6秒未満 18.08 16.28 14.39 6秒以上 18.09 17.04 15.43 41

43.

引っ掛かり選択肢前後の平均選択率(%)(N = 4,577) ・引っ掛かり選択肢より 前の選択肢の方が 選ばれやすい結果 ・こちらも0.2秒の時に 大きく期待値を上回る 結果となった 遅延時間 引っ掛かり 選択肢より前 の平均選択率 引っ掛かり 選択肢より後 の平均選択率 0.1秒 17.71 15.44 0.2秒 18.79 15.43 0.3秒 17.05 15.73 平均 17.86 15.53 42

44.

考察 6択の選択肢を逐次表示した時、 (1) 初めの方に表示された選択肢は選ばれやすく (2) その逐次表示に遅延を加えた場合はその遅延を 起こした選択肢の1つ前の選択肢に引っ掛かりが 起こり、その選択肢は選ばれやすくなる 43

45.

考察 逐次表示の際は初めに表示された選択肢が 選ばれやすいという仮説 (1) 通りにはならなかった → 初頭効果が適用されなかった ・逐次表示を行うと選択肢が出るまで最短でも0.5秒 かかるため、その間に目移りする ・毎回表示順が固定であるため、6択という少ない択 だと大きく印象を受けることはなかったと考察 44

46.

考察 逐次表示の際の遅延によって生じる引っ掛かり選択肢が選ばれやすい という仮説 (2) にも沿わなかった ・遅延時間が短いため、引っ掛かりを知覚 することができなかった可能性もある ・文字の認知に時間がかかり、目線が 追い付いていなかった可能性もあると考察 45

47.

考察 引っ掛かり選択肢自体に誘導効果は見られなかったが、その前の選択 肢には誘導効果が見られる条件があった また、引っ掛かり選択肢を境に選択率が低下していた 引っ掛かり選択肢を境にして、前部分と後部分 に無意識に分割している可能性がある すると、前部分に初頭効果が適用されて 引っ掛かりより前の選択肢が選ばれやすくなる 46

48.

今後 ・逐次表示の時間間隔を変更 ・引っ掛かりを生じさせる遅延時間を変更 ・選択肢に文字ではなく画像を使用 ・アイトラッカーを使用し、視線を計測 47

49.

まとめ 背景 : 選択を誘導するダークパターンが存在する 目的 : 選択肢の逐次表示とその時の遅延が選択行動に与える影響を明らかにする 実験 : 6択の選択肢から1つを選んでもらう実験を実施 結果 : 左上選択肢や引っ掛かり選択肢の選択率は期待値程度 引っ掛かり選択肢の前の選択率が高い傾向 考察 : 選択肢の表示中に選択を変えた可能性や 引っ掛かりを知覚できていない可能性がある 48