日本の研究力低迷問題の原因と解決方法_スライド資料_平易版

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July 12, 22

スライド概要

書籍「日本の研究力低迷問題の原因と解決方法」のスライド資料です。書籍内容をおおよそカバーしますが、詳細は書籍をご覧ください。https://www.amazon.co.jp/dp/B0B1YV43VQ

研究現場で見られるさまざまな問題が引き起こされるメカニズムを説明し、それに基づいてさまざまな施策を提案しています。大学がお互いの連携を欠く、競合・競争する小型の研究室の集合体になってしまっていることが大きな問題の一つです。かねてから財務省に指摘されている人材登用上の問題がなぜ起こるかを説明し、解決方法を提案しています。

何が問題なのかはっきりさせ、広く認識されるようになれば解決に向かうはずです。拡散力のある人は、ぜひ拡散にご協力ください。

読者アンケートを実施しています。行政への説得力に直結しますので、ぜひご回答ください。
https://docs.google.com/forms/d/1a5CfUPAObobFUAeOrC4XuO8RDP1CvFWf0vwkZ1FdDLw

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日本の研究力はV字回復が可能です。 そのためには、研究現場が現在どのようになってしまっているかを総合的、俯瞰的に明らかにし、行政によって適切な(場当たり的でない)政策課題設定がなされる必要があります。これには、研究力の向上阻害要因が発生するメカニズムの解明が必要です。 端的に言えば、大学の組織としての機能の減弱・喪失が大問題です。組織成員が協力しあって生産性を高め合う状態にはなく、連携を欠く、競合・競争する小型の研究室の集合体になってしまっています。 大学の問題は、財務省が指摘するような小さな問題ではなく、もっと総合的で複雑なものです。研究現場の問題が適切に認識されさえすれば、政策課題設定が適切になって研究力は急激に回復するはずです。 東北大学准教授  

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

本資料は、書籍を平易に解説したものです。詳しくは、 本書をご覧ください。 著者 ⼤坪嘉⾏ https://www.amazon.co.jp/dp/B0B1YV43VQ 解説資料・平易版 解説資料・⾏政資料⾵版もあります

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2つの⼤問題 • 組織機能の低下 • ⼤学が、お互いに連携を⽋くお互いに競合・競争している⼩型研究室の集合体に なってしまっている。 • 「成員がお互いに協⼒し合うことで⽣産性が⾼まる」という組織に本来期待される 効果が出ていない。 • 成果の質の評価の不実施 • 成果の質の評価を実施していない。 この2点が特に重要です。

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メイン コンセプト • 問題の原因の探究が必要。 「解決策の提案につながる原因」 を取り扱います。 • 原因は、解決できる種類のものでなくてはならない。 • 解決策の提案につながらない原因を探しても意味がない。 例: • • • • • • • 意地悪な国⺠性 .... 国⺠性をどうやって変えたらいいのかわからない ⼤学教授が利⼰的 ... 利⼰性をどうやって抑制したらいいのかわからない ⾏政が愚か ... ⾏政に携わる⼈をどう賢くしたらいいのかわからない ⼤学の慣習 ... ⼤学の慣習をどう変えたらいいのかわからない 研究者の姿勢 ... 研究者の姿勢をどう変えたらいいのかわからない ⼤学の独⽴⾏政法⼈化 ... 過去は変えられない 予算不⾜ ... 財務省の財布の紐は堅い(変えられる??)。 解決策の提案につながらない原因をいくら挙げたところで、愚痴を⾔っているのに過ぎない。 本書で取り上げた原因は、いずれも解決策の提案につながるもの

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問題説明

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本書で取り上げた問題 読者アンケート24⼈の回答結果 • 1. 研究組織内利害⾮共有問題 • 2. 擬似成果主義による研究費配分の問題 • 3. 予算獲得の⽬的化問題 • 4. 成果の量・質問題 • 5. 技術軽視の⾵潮問題 • 6. 若⼿研究者の研究環境問題 • 7. その他の問題 読者アンケート結果(17⼈) 全く問題ではない • • • • • 技術職員の待遇問題 制約過多問題 学振PDの研究室移動義務問題 使⽤期限のある⺠間助成問題 学部1、2年⽣が研究室配属されない問題 わからない つまり、研究⼒低下原因が はっきりしているものばかり です。 重⼤な問題である 問題ではない いろいろ問題があります... これらは研究現場に28年ほど いた筆者が、このやり⽅(制 度・政策など)は研究⼒を低 下させているよなあ、と感じ たことを整理したものです。 問題である 注: 1番上のグラフは、「組織内利害⾮共有問題について伺います。この問題は、⽇本の研究⼒を低 迷させている要因になっていると思いますか?」との問いに対してのもので解答項⽬は「強くそう 思う」、「そう思う」、「わからない」、「そう思わない」、「全くそう思わない」でした。 問題を良く分析し、解決策を 考えるべきです。 「現場がわからない」「現場 の意⾒が聞きたい」という⼈ におすすめくださいね!

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本書で取り上げた問題 • 1. 研究組織内利害⾮共有問題 • 2. 研究費配分の擬似成果主義問題 • 3. 予算獲得の⽬的化問題 • 4. 成果の量・質問題 • 5. 技術軽視の⾵潮問題 • 6. 若⼿研究者の研究環境問題 • 7. その他の問題 • • • • • 技術職員の待遇問題 制約過多問題 学振PDの研究室移動義務問題 使⽤期限のある⺠間助成問題 学部1、2年⽣が研究室配属されない問題 筆者が⼀番重要だと思うのは この問題です。 ⻑くて聞きなれない名前が付 いているのは、「ああ、あの 問題ね」、というようにわか りやすいようにラベルをつけ るためです。 インターネットでの検索もし やすいはずです。 「組織機能の低下・喪失」と も⾔えるのですが、安直に 「組織機能の強化」が政策と して打ち出されないように、 この⾔葉を選んでいます。

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1. 組織内利害⾮共有問題 研究組織内の研究室間(研究⼈材間)の利害⾮共有程度が低すぎるために、 研究⼒低下につながる様々な問題が起きている ⼤学の研究室は、タコツボに 喩えられることもありますね。 研究室が違えば国が違う、と も⾔われます。 現在の研究教育組織のあり⽅: ・お互いに関連が薄い研究室が多数寄せ集まっている。 ・相互連携がない(弱い)。閉鎖的。 ・研究室間は、協⼒関係ではなく競合関係。 ・研究単位が⼩さい(研究室所属⼈数、所属教員数が少ない。教授1-助教1など)。 教授 そもそも組織には、組織構成員がお互いに協⼒し合うことで⽣産性が⾼まる効果が期待さ れるが、この効果が出ていない。組織と呼ぶより、「競合⼩型研究室集合体」と呼んだ⽅ がふさわしい状態。 准教授/助教 学⽣などその他研究⼈材 「組織内の利害共有レベルが低すぎる」ことが根底にあり、他の問題との兼ね合 いから、「組織内利害⾮共有問題」と呼ぶことを提唱。

8.

組織内利害⾮共有状態にあるとなぜ⾔えるのか? 利害を共有していないことがよくわかる例: すでに当たり前になりすぎて いて、不都合な状態になって いることに気がつかない⼈も いるかもしれません。 ・⼤学の機器重複死蔵 同じ機器が同じ組織に不必要に複数ある。 積極的に機器を近隣研究室に貸したりしない。 ・助教⼈事のあり⽅ 助教⼈事に、近隣の研究室は関与しない (教授の引退にあわせて助教も任期終了)。 組織内利害⾮共有状態は既に当たり前となっている。

9.

研究単位の⼩型化と連携喪失(組織機能低下)が進⾏中 相互連携のない弱い研究組織 相互連携のある強い研究組織 今 20年前 昔 未来 共通機器室 共通機器室 共通機器室 拮抗要因 促進要因 1. 任期制 1. 組織の歴史 2. 選択と集中 2. ⼈つながり(同期、先輩、後輩) 3. 職位規定の変更 3. 研究者の美⾵(助け合いの精神) 4. 厳格な予算運⽤ 4. 教育業務 20年ぐらいをかけて進⾏してき ています。 進⾏の程度は、研究組織によっ て様々です。 促進要因と拮抗要因のバランス の問題です。 5. 業績主義、競争主義 6. IFや獲得資⾦に基づく⼈事 (採⽤後の組織内連携を軽視) 制度的促進要因がたくさんある⼀⽅で、制度的拮抗要因はほとんどない

10.

組織機能低下の制度的要因 1. 任期制: ⾃分の業績にならないことを忌避(討論会やセミナーへの参加、業績リストへの寄与が⾒込めない研究⼈ 材(他研究室の学⽣など)への技術の伝授など)。 2. 選択と集中政策: ⼤型の研究資⾦を獲得した研究室は、共通機器室にある機器を⾃前で調達するなどして、組織の 連携から外れる。⼤型研究資⾦での助教採⽤は、組織の中で活躍するかどうかという視点ではなされない(研究室 単位の⼈事)。 3. 職位規定の変更: 助⼿や助教授の職務規定には教授を助けることという⽂⾔があったが、2007年の法改正によっ てこの⽂⾔がなくなった。教授を中⼼とする⼤きい利害共有集団を作るのが困難になり、研究室が⼩型化。 4. 厳格な予算運⽤: 使途の⾃由度の⾼い運営費交付⾦が、使途の⾃由度の低い競争的研究資⾦に置き換えられた。例 えば、研究室内で異なる研究テーマを実施している複数研究者の間に予算の壁がつくられることになる(予算融通 できない)。研究室の⼩型化を促進。 5. 業績主義、競争主義: 研究業績を給与に反映させるといった⽅策をとると、他の研究室の優れた成果は、⾃分に とっては不都合となりうる。研究室間が競合関係になり、組織機能が低下。 6. IFや獲得資⾦に基づく⼈事: 組織内連携を軽視。 • このような、⼈と⼈を分断し、組織機能を低下させる制度・政策が多数あ る。これらは最近の要因だが、ずっと前からある要因がある(次スライド)

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機器を購⼊できる予算を研究者に配分する制度 • 昔からある⽇本独特の制度 • 組織機能に重⼤な悪影響。研究室の閉鎖性の原点とも⾔える。 1. 予算さえあれば、必要な機器を全部購⼊して⾃分の研究室に閉じこもることができ、組織内の他の研究室と連携す る必要がない。個々の研究室に⾼すぎる独⽴性を与える。 2. 研究組織内の研究多様性が⾼くなりすぎた(共通機器室や技術を中核として、⼀定のベースを共有するような組織が ⾃発的に形成されなかった[拠点形成不全])。 1. 機器重複 ... 各研究室がそれぞれで、同じ機器を保有している(予算の無駄)。お互いに同じ機器を 持っていることも知らず、ノウハウの授受もない。 2. 研究者多忙 ... 研究者が何もかも⾃分でやらなくてはいけない。 3. ⼈事流動性低下 ... 教授の購⼊した機器を使⽤している助教や准教授は、転出すると実験ができな くなる。転出後に揃え直すのには⼤型の資⾦(数千万円程度)が必要であり、実質的に転出が困難。 4. 技術軽視の⾵潮を増⻑ ... 共通機器室や技術を中核として研究組織ができていたら、技術重視だっ たはず。 5. オペレーター不在 ... 予算が継続的に措置されるわけではないので、専属のオペレーターを配置で きない。研究機器の性能を⼗分には引き出せない。 そもそも研究室の独⽴性が強 すぎるということです。それ ぞれの研究室が研究所のよう な様相をしています。 この制度の悪影響については、 私の知る限り、あまり認識さ れていないようですが甚⼤で す。 研究室が⼤型だった時は、こ れでも良かったのだと思いま す。

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補⾜: 研究単位の⼩型化 運営費交付⾦(使途制限 なし)で研究 教授 運営費交付⾦削減 教授 准教授 助教 教授 准教授の転出 准教授 助教 なんで⼀緒にやっているの かわからなくなってきた ⼀緒にやれない。 運営費交付⾦ (使途制限なし) がなくなりプロ ジェクト型研究 資⾦(強い使途 制限あり)で研 究 予算の壁 教授 教授 教授 助教 欲しいのはポスド クみたいな助教。 独⽴した准教授は いらない。 予算がちがうので 別々でお願いしま す。 教授 助教 助教 補充されない ⼤型予算取りまし た。お世話になり ました。 採⽤意欲が⾼まらない プロジェクトB 教授 准教授というのは PI。外から採⽤し ても、私の研究を ⼿伝ってくれるわ けではない。 予算の切れ⽬が縁の 切れ⽬ 助教 助教 ⼀緒にやれる プロジェクトA 准教授 職位規程変更 准教授は補充されない (1-0-1体制) ⼩型化を進める要因はたくさんあるが、⼤型化を進める要因はない ゆっくりだが、この20年で⼩型化が進⾏した 予算の壁

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組織機能が低下すると何が良くないのか?組織 内利害⾮共有はどのような悪影響を与えるか? • 以下のスライドで様々な観点で⽐較する • • • • • • • • • • • • • ⼈事 任期制 拠点形成 多⽅⾯に悪影響が出ています。 技術の扱われ⽅(重視/軽視) 筆者の主張は、これらの問題を個別に解消すべきとい 研究者多忙 うことではなく、⼤元の問題である「組織内利害⾮共 有問題」を解決すべきと⾔うことです。 研究意欲 よく間違えられるので.......念のため。 元気がない⼈への対応 教授退任時の助教の処遇 研究不正、アカハラパワハラ 研究⼒ ⼈間関係 育成される⼈材(ジェネラリスト VS スペシャリスト) 研究費が取れなかった場合

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⼈事 • お互いに競合している研究室が集まった研究組織(競合⼩型研究室集合体)で⼈事をすると、「敵は弱い⽅が良い」 の法則が働き、優秀な⼈を退ける⼒が⽣まれる。 • 「内外を問わず優秀な⼈を採⽤したい!」という動機が強まらない。 競合⼩型研究室集合体 敵は弱い ⽅がいい PI候補者 左側で現状の悪影響を説明して います。右側は理想状態です。 強いやつは 困る 俺たち競合し ているからね ⾯接はオン サイトでい いよね 提出書類は紙媒 体でいいよね 利害共有組織 PI候補者 味⽅は強い⽅が いい 優秀な⼈に来て ほしい 公募期間は⻑めに 書類は電⼦媒体で 公募期間は短 くていいよね 内部昇格 (低⼈事流動性) ⾯接はオンラインで 内外を問わずに採⽤ (⾼⼈事流動性)

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任期制 • ⼈材の流動性を向上させるために導⼊された制度 • 現在のやり⽅ではちゃんとやっていても不安が⼤きい。 • 論⽂数や獲得資⾦といった限定された「外部向け指標」が重んじられてしまう。 競合⼩型研究室集合体 任期制です。 いずれ転出 します。 論⽂は出してます が、ちゃんと評価 されるか不安です。 成果になること以外はし たくありません。技術供 与は共著にしてくれるな らしましょう。 あなたがちゃんとやってい ることはよく知ってますよ。 ちゃんとやっているこ とは(集団内の)多くの ⼈が多⾯的に⾒て理解 してくれている。 特定の能⼒があれば、 評価されるし、次につ ながる。 結局コネですよね。 コネなの?次は⾃分で⾒つけて ねとボスに⾔われたけど、どう いうこと? 利害共有組織 現在の任期制は良くありません ⼀体何が、どのように、誰に評価される のかわからない。論⽂数と獲得資⾦か? ⽣活態度とかは評価されないよな。 ちゃんとやっていても不安の強い任期制 損とか得とか、⼀体何 の話? ちゃんとやっていれば安⼼ いざとなればポストを探し ている友⼈に繋ぎますよ 技術習得が重要 集団の役に⽴つ⼈材で あることが⼤事。

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拠点形成 • 相互連携に乏しい組織では、採⽤後の組織内連携を考慮した⼈事がなされず、IFや獲得競争資⾦額に偏重した候補 者選びがなされる。これにより、ますます相互の関連が薄くなり、利害共有がしにくくなる。 競合⼩型研究室集合体 PI候補者 どうせ連 携しない 利害共有組織 研究組織の研究多様性が⾼く なり過ぎてお互いに連携しに くくなっています。 PI候補者 採⽤後の連携が重要 IFが⾼い⼈、研究資⾦獲得額が多い⼈を 採⽤して本部に報告しなくちゃ。採⽤後 の連携はあまり考慮しません。 拠点が形成されない ⼀緒に研究できる⼈ を採⽤しよう 拠点が形成される 我々と⼀番、たく さん相互作⽤でき る候補者は誰?

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技術の扱われ⽅(重視/軽視) • 採⽤後の組織内の連携が重視されるなら、過去の業績よりも、将来何ができるか(技術・能⼒)が重要。既に組織内にある⼀般的な技術を持っている ⼈(ジェネラリスト)ではなく、独⾃性の強い技術を持った⼈(スペシャリスト)が好まれる。 • 現在、「(AIなどの)新しい技術分野への進出が遅い」のは、新しい技術の習得がポスト獲得に結びつかないから。次に来る技術はなんだろうか?と 若⼿が常にアンテナを張った状態にする必要がある。 競合⼩型研究室集合体 利害共有集団が⼤きくなり、 協働が期待されるなら、技術 重視になります。 PI候補者 利害共有組織 PI候補者 ⼀緒に働くことで、我々の⽣ 産性を⾼めてくれる⼈ (技術を持っている⼈)が欲しい。 候補者がどんな技術 を持っているかはあ んまり興味がないな あ。 どうせ連携しま せんからね そうか、技術がある とポストが得られる んだな.....(若⼿) 実績が研究 するわけ じゃない 技術軽視 技術重視

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研究者多忙 • 学⽣教育、安全管理、予算管理、試薬管理、ロッカー割り当て、⼊館カードキー管理、粗⼤ゴミすて、ゴミの分別指導、フロン ガス管理、などなどあらゆる業務を⼩さい単位で各個に処理している。会議も全PI出席。こりゃ忙しい..... 競合⼩型研究室集合体 全部やるのか.... 利害共有組織 様々な雑⽤を、少⼈数でする ことになったら、忙しくなる のは当たり前です。 ロッカー係 代表して会議に ⾏ってきます。 安全管理やり ます 全部やるのか.... 全部やるのか.... 全部やるのか.... 全部やるのか.... 試薬管理やり ます 壊れた蛍光灯 変えます 分業が不可能 (忙しい) 学位審査の審査 員の割り当てや ります 分業が可能 (ゆとりがある)

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研究意欲 競合⼩型研究室集合体 今のように研究単位が⼩さく ⼈間関係が希薄で、お互いに 競合・競争する組織環境では 「いいね」がもらえず研究意 欲が減退します。 利害共有組織 おもしろい! 成果出ました! 成果出ました! へー いいね! Good Job! 3年に1報ぐ らい、当た り前だろ。 ラッキーだった だけだろ.. 何が⾯⽩いのか... 頑張ったね! よく思いついたね! ふーん ***** NCSじゃないね ⼤した成果じゃな い⽅がいい ***** ** 元気が出ない.... 知り合いが興味を 持つかも! 元気が出る! SNSで拡散しとき ました!

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元気がない⼈への対応 競合⼩型研究室集合体 元気がなくなり ました...しょん ぼり いろいろな理由でアクティビ ティが低下してしまうことが あります。利害費共有組織で は放置されがちです。 私は別に困ら ない シーン 利害共有組織 元気がなくなり ました なにか⼿伝い ますか? 元気出せ! あれ、いつから いる⼈だっけ? なんて名前の⼈? 相談に乗りま しょう ⾃助だろ。 私は困らない 元気出せ! 頑張ってくれ ないと困るよ 何がうまくいかな いんだい? ⾃⼰責任だ そもそも誰? 周囲は冷淡。そもそも話題にならない。 君が頑張ってくれないと、 我々が困るんだよ サポートが得られやすい。

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教授退任時の助教の処遇 競合⼩型研究室集合体 教授が個⼈の考えで助教を採⽤ (組織として助教を採⽤したのではない) 定年を迎えまし た 残られて も困るし ね。 若⼿研究者の不安定雇⽤に繋 がっている問題です。 組織で引き受け なきゃいけない 理由はないね いなくなっても 私は困りません。 構成員多数が、共働を⾒越して助教を採⽤ 定年を迎え ました 私はどうなり ますか? ⼀緒にやめます 研究テーマ が違いすぎ て、⼀緒に やれません。 そもそも誰? 採⽤したのは教授。 我々が採⽤したわ けではない。 教授退任時に助教も辞めるのが合理的 利害共有組織 引き続き、よ ろしくお願い します。我々 ⼀同との協⼒ 関係を⾒越し て採⽤したの ですから。 あなたの採⽤ を私は推した んですよ まだ成果はあまり出て いないようですが、期 待してますよ。 助教が辞める道理はない

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研究不正、アカハラパワハラ 教授になると、いさめる⼈が周囲にいなくなる。事案があっても、対 策は進まない。問題を起こしたところを切り捨てれば済んでしまう。 へっへっへ。 周りにはわか らないよな.... 競合⼩型研究室集合体 誰にも相談で きない.... 教授会に話が上 がってきて初め て知りました 教授になっても、いさめる⼈がいる(⾔わずともハラスメン トの抑⽌⼒になる)。形だけでない対策がとられることに。 ハラスメントは閉ざされた環 境で起こります。 隣の様⼦はよ くわからない よそでハラスメ ント事例があっ てもうちは別に 困らない。 利害共有組織 そんなことを⾔って はいけませんよ。 わしのいうことを聞 けないなら⾸だ! なんなら、私の隣に 座りますか? 放置していると我々の アクティビティが落ち てしまうからね。 こんなことがあっ て、ここは⼤丈夫 ですか? ⼊ってくる学⽣さんが いなくなってしまう。 ⾒学者 そもそも誰? ラボが違えば国が違うと⾔ われている通りです。あっ ちであんなことがあっても うちとは関係ありませんよ。 みなさん、助かりま した。 こういうことがまた起こらないように、 真⾯⽬に対策を考えましょう... 起こりやすい 起こりにくい

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研究⼒ 研究室が⼩さいと、研究技術や ノウハウが蓄積しなくなります。 PIがずっと実験できていればい いのですが...... 競合⼩型研究室集合体 基礎的な技術か ら教えても、す ぐにいなくなっ ちゃう この機械の使 い⽅、誰もわか らないのか.... 新しい発⾒だと 思って5年もやって きたのに、論⽂ あった... テーマは⼀本に絞 ります(学際性の低 下) 利害共有組織 ⼈数が多いので、誰かし ら詳しい⼈がいるぞ。 学会で新しい技術の話 を聞いてきました! この機械の使い⽅わか る⼈いないかなあ? こんな技術が10 年前に出ていた のか。使ってい ればよかった。 隣のラボの学⽣さん が、基礎的な実験技 術で苦労しているみ たいだが、教えるメ リットがないな。 こんな技術が10 年前に出ていた のか。使ってい ればよかった。 ネットで調べて やるか.... 先輩に聞いてやってね。 わかりますよ。教えま しょう。 そのアイデアはもう論⽂ になっているよ。 討論会で、ブレストしま しょう。⼈数が多いのでひ らめきも多いぞ! (⾃然と学際的) こんなアイデアはどう? (偶然の思いつきを共有できる) M1の先輩か、頼りないな。 技術が蓄積しない。建設的相互作⽤がすくない。 低い 技術が蓄積する。建設的相互作⽤が⼤きい。 ⾼い

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機器共⽤ 研究機器が組織内でうまく 共有・共⽤できていないこ との背景を考えるべきです。 利害共有組織 競合⼩型研究室集合体 なぜうちでとった予算で 買った機械を貸さなくて はならないのか? 使⽤料をくれるって ⾔ったって、うちは 研究費、余ってるか らな。 みんなの機械をみんな で使います。 テクニシャンが管理してくれています。 お⾦持ちラボ 壊されたらどうするんだ。 最近来た若⼿?⼗分優遇 されているんだろう? 機械、貸してもいいけど、 共著にしてくれるの?さ すがに図々しいか。じゃ あいいや。 貸すとか貸さないとか、 なんの話かわかりませ ん。 機器はあるけど古いよ。 供出すると更新費出して もらえるらしいから取り 敢えず出しとくか。 ⾮連携、相互不⼲渉の組織(現在) 協⼒し合うのが当たり前の環境。 うまくいかない 共⽤している

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⼈間関係 ⼈間関係が希薄になると、価 値観が乏しくなります。貧し い価値観が、部分的に蔓延す ることも起こり得ます。 競合⼩型研究室集合体 今⽇は誰とも 喋らなかったな 利害共有組織 隣の部屋の先⽣って名 前なんだっけ? 俺たちはサイエンスをや ろうじゃないか。君、サ イエンスって何だね? いいから徹底的にやれよ ⾯⽩い研究をやれ! ⽣き残らねば 業績にならない ことはしない⽅ がいい 論⽂数が重要だ。 質は評価されて いないから考え なくていい。 友達とトイレでし か会わないなあ 必要なのはアウフヘーベ ンだよ。わかるかい? 君の研究は何が⼤事な んだ?オリジナリティ はどこにある? ⼈⽣をかけて研究をやれ 業績にならないことはしないなんて⾔っ ていると君の⽣産性が下がるよ。今の成 果主義は評価の枠組みが未成熟なだけで ⻑期的には君の⽣産性が問われるし、第 ⼀、⽣産性が⾼ければ、社会をあなたを ⼤事にするだろうけど、形ばかりの業績 を追っていて⽣産性が下がってしまった ら..... 論⽂書くための研究?学会発表するため の研究?「ための研究」をするな! 乏しい価値観、貧弱な繋がり 捏造は研究者の⾃◯だ これぞ同じ釜の飯を⾷った仲。 多様な価値観、豊富な繋がり

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育成される⼈材(ジェネラリスト VS スペシャリスト) 競合⼩型研究室集合体 ⽇本はジェネラリスト育成 体質だと⾔われています。 利害が共有された⼤きい研 究室であれば、⼈事採⽤時 に特定の能⼒が着⽬される ことになり、スペシャリス 育成体質への転換が図られ ます。 何もかもできるようになった⼈(ジェネラリスト)しかPIとして 活躍できない(アイデア想起、実験系デザイン、申請書作成、実 施、論⽂書き、学⽣指導、論⽂指導、英語指導、研究室運営な ど) ジェネラリスト(器⽤貧乏)育成体質 利害共有組織 集団が⼤きいと、集団に⾜りない能⼒、技術を持った⼈が採⽤され るようになり、ジェネラリストからスペシャリストへの転換が図ら れる。国際的な競争⼒が強いのは、スペシャリスト。特定の技能、 専⾨性を深く⾝につけていることが求められる。 スペシャリスト育成体質

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研究費が取れなかった場合 競合⼩型研究室集合体 努⼒が⾜りない 科研費全滅 利害共有組織 ⼤学はいわば知識・技術を ⽣む機械です。研究費が取 れずに稼働していない研究 室があると、その分⽣産性 が下がります。 私の研究を⼿伝ってく れてもいいですよ。 テーマも近いことです から。 科研費全滅 (無関⼼) 来年頑張れ... (ひとごと) 組織の予算があるから、 それでやればいいよ。 テーマが違いすぎ て、⼀緒にやれま せん。 なんとかしてやりたいけ ど、うちで取っている予 算は制度上融通できない なあ。 よそで研究で きなくなって いてもうちは 別に困らない 助けないと、我々の成 果が少なくなってしま うからね。 みなさん、助かりました。 そもそも誰? 存在を否定されている気分。研究費が取れないことは、研究ができない こと以上に精神的ダメージがある。 組織から助けが得られない 組織から助けが得られる

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1. 研究組織内利害⾮共有問題のまとめ • 本来組織には、構成員が協⼒し合うことで⽣産性が⾼まる効果が期待される(組織の基本機能)。ところ が、さまざまな政策的制度的要因によって、研究⼈材が組織内で競合・競争し合う関係になっており、 この効果が出ていない。すなわち研究教育組織が機能不全に陥っている。 • ⽇本独特の「機器を購⼊できる予算を研究者に配分する制度」によって組織機能が出にくい背景があっ たところに、任期制、業績主義、職位規定の変更といった⼈と⼈のつながりを弱める効果を発揮する 様々な制度政策を実施したために、組織機能が急激に低下したことが、⽇本の研究⼒低迷の主原因であ る。 様々な問題 ⼈事流動性の低下 予算の⾮効率使⽤ 拠点形成不全 技術軽視 研究室⼩型化 研究者多忙 研究意欲低下 若者の研究離れ 研究不正、アカハラパワハラ増加 研究技術⼒低下 ⼈間関係の希薄化 討論会不開催 ジェネラリスト育成体質 解決策はありますから安⼼ してください。 解決策は後でまとめて議論 します。 「組織内の利害共有が少な い」問題は、制度政策で何 とでもなります。 研究者の意識は変えられま せんが、研究者の⾒出す 「最適解」のあり⽅を変え ることはできます。

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本書で取り上げた問題 • 1. 研究組織内利害⾮共有問題 • 2. 擬似成果主義による研究費配分の問題 • 3. 予算獲得の⽬的化問題 • 4. 成果の量・質問題 • 5. 技術軽視の⾵潮問題 • 6. 若⼿研究者の研究環境問題 • 7. その他の問題 • • • • • 技術職員の待遇問題 制約過多問題 学振PDの研究室移動義務問題 使⽤期限のある⺠間助成問題 学部1、2年⽣が研究室配属されない問題 研究費配分の仕⽅は「成果主義」のや り⽅だと思われているようですが、今 のやり⽅は成果主義のようでいて、成 果主義ではないという話です。 主義というのは、「主たる義」つまり 何を最も⼤事にするか、ということで す。 成果を最も⼤事にして、研究費配分を 決めるのが成果主義による研究費配分 です。 最も⼤事なものが別にあるのなら、そ ちらを表す⾔葉に「主義」をつけるべ きです。 現在のやり⽅は、「期待される成果主 義」(期待成果主義)とでもいうやり⽅で す。 「計画を審査することが良い成果に最もつながるであろ うと考えて行っているのであるから、これは成果主義で ある」というのは詭弁。成果主義の「成果」は「結果」 としての成果のことであって、期待される成果のことで はないことは世のコンセンサスだろう。

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2. 研究費配分の擬似成果主義問題 • 科研費などの研究費配分は、成果主義だと思われている。ところが実際は成果主義で はなく、期待成果主義と⾔えるやり⽅である。このやり⽅のせいで、研究者の努⼒は、 「成果を出す」ところよりも「成果が期待される計画書を書く」ところに向かってし まっている。 期待成果主義 研究費を得るの に必要なもの 向上するもの 組織で実施され るセミナー 期待感が⾼い計画書 研究計画書 作成技術 計画書の書き⽅セミナー 成果主義 質の⾼い研究成果 研究技術 研究技術向上セミナー 技術⽴国と⾔うなら成果主 義を採⽤すべきです。

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現在の科研費の仕組みは成果主義ではない • 過去の業績は「研究計画書の計画を実施するのに⼗分な能⼒があるかど うかをはかるため」に⽤いられることになっている。 この申請書ではこんな ことをやるのか。意義 はありそうだな。 この計画を実施するの に⼗分な能⼒はあるだ ろうか? 過去の実績をみれば、これぐ らいの計画であれば、⼗分で きそうだな..... 現在のやり⽅ 成果主義 研究費申請者の成果を⾒てみる か.....どれどれ。 そうか、こんなことをしてきた のか(内容に踏み込んで理解)。 これだけ成果があるなら、 ちゃんと研究していると信じら れるな。⾼評価をつけよう。 こんな研究分野に取り組むの か。頑張ってほしいね。 (計画書は数⾏) 審査員は「研究計画の難易度」と「実績から窺わ れる研究能⼒」を勘案して、成果が⼗分に⾒込め 審査員は過去の成果を評価 るかを判定している。これは成果主義ではない。 「成果」は相対的能⼒判定のための⼆次的なもの に成り下がっている。 成果のない若⼿はどうすればいいのか、というのは別の話

32.

研究計画を審査する⽅式の問題点 • ピペド問題と研究者離れ(あらかじめ⽴ててしまった計画の作業者が必要となる)。 このやり⽅は問題だらけです。 • 研究⾃由度、柔軟性の低下 • 新しいテーマに取り組みにくい • 新分野への取り組みがなされない(例: AI) • 研究不正 • 研究計画調書不正 • 審査員によるアイデア窃取とアイデア流出 • ⾮意図的にも起こる • スパイ天国⽇本 • 研究の予期不能性が考慮されていない • 何が⾒つかるかわからないような研究が重要 • 研究の命はアイデア 特に、研究計画が決まってしまっているプロジェク ト型研究では、若⼿に作業を強いるという構図があ ります。「⾃分が思いついたことを」「⾃分で計画 を⽴てて実施して」「⾃分で結果を評価する」のが 研究者の醍醐味ですが、これではこの醍醐味が得ら れません。 計画を審査するやり⽅を原則廃⽌すべきです。 若者が求めているのは、承認欲求、⾃⼰実現欲求で す。作業的⾊彩が強いほど、これらは満たされませ ん。 「給料がもらえれば良い」とは若者は考えていませ ん。この辺りに、シニアと若⼿の間に⼤きなギャッ プがありそうです。 • 申請書という形で不特定多数の審査員に開⽰したいものではない(研究の本質に反している) • 新しいアイデアほど、審査員に受け⼊れられない (⼈間は、すでに知っているものはよくわかるが、知らないものはいくら⾔われてもピンとこない) • 技術軽視の⾵潮を増⻑ • 研究技術よりライティング技術が重要になってしまう いつこんなやり⽅を始めてしまったのか??(2000年代前半?)

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擬似成果主義による研究費配分の問題のまとめ • 研究費配分の仕組みが成果主義ではなく、個々の研究者の努⼒が、成果が期待される研究計画書を書く ことに強く向けられてしまい、研究技術が重視されない状況を作り出している。また、研究計画書を しっかり書かせるやり⽅は、ピペド問題を産み、若者の研究離れ、研究者として成⻑しにくい環境を⽣ み出すなど、⽇本の研究⼒低下を助⻑している。 成果を、質に踏み込んで評価し、研究費に反映す れば、成果の質が上がります。 期待される成果を評価し、研究費に反映すれば、 絵に描いた餅が美しくなります。 単純な理屈ですね。 現在、研究成果の質評価を⾏なっていません。質 評価を⾏えば質が向上しますからやるべきです。 top 10%論⽂数による評価は、質の代替指標に過ぎ ません(質の向上ではなくて、⼈気のある研究分野 の研究が増えてしまいます)。 筆者は、(1)研究成果評価機構の設⽴、(2)組織の階 層的再編成、(3)階層的漸減質評価法の実施を提案 しますが、他の問題解決と併せて、あとで議論し ます。

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3. 予算獲得の⽬的化問題 • 予算獲得が⽬的化している • 運営費交付⾦の削減 .... 研究費を獲得できることがポスト獲得に重要 • 獲得研究額が多いほどポスト獲得に有利と信じられている。 • 予算の⾮効率的使⽤....必要以上に獲得した予算は、研究機器の購⼊に充てられ、狭い利害共有範囲に置かれることに。 • ⻑期的には、研究現場が⾼コスト体質に。 研究費とらないとポス トにつけないぞ。たく さんとった⽅が有利だ。 ⽣き残りたいんだろ! 予算は研究のために必要ですが、ポス ト獲得のために必要という悪い側⾯が 出てきてしまっています。 予算獲得の⽬的化は、⼈事流動性 向上策の副作⽤です*。 *運営費交付⾦を削減して、⼤学を資⾦難にすると、研究費を獲得できる⼈を採⽤す るインセンティブが強まります。⾔い換えると研究費を取れない⼈の内部昇格を抑 制できます。 内部昇格による⼈材登⽤は、財務省が最も問題視している問題です。「国際的な⼈ 的ネットワークや国際共著論⽂の不⾜、内部からの⼈材登⽤の慣⾏を含む⼈材流動 性の低さなど、研究室や学部・学科内における閉鎖的な研究環境が、⽇本の研究活 動の構造的課題として従来から指摘されている。」 この問題についてのアンケート結果 (17⼈が回答) ⾏政としては、この戦略を推進してきましたので、「研究費獲得の⽬的化」は頭の 痛い問題だと思います。 このやり⽅では、研究費が取れない優秀な⼈、アイデアが独創的で認められにくい 研究者、そもそも多額の資⾦を必要としない研究者は、ポストを獲得できなくなっ てしまいます。

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「予算獲得の⽬的化の解消」を政策課題として 掲げるべき! • 研究者の予算獲得の動機がどこから出てきているかを考え、多⾯的な解決策の実施が 必要。 具体案としては 1. 研究資⾦に⾒合った成果が求められていることを研究者のコンセンサスとするための啓発活動 2. 各研究組織の⼈事応募書類に、「獲得競争資⾦額は、成果を割り引くのに使⽤する」こと、「余剰資⾦返還額を考 慮する」ことを明記 3. 研究成果評価機構による成果評価時に、獲得資⾦に⾒合った成果であるかを評価するための項⽬を設定 4. 獲得競争資⾦額が少ない研究者がポストを得た場合は、業績に応じて⼀定額を採⽤組織に配分する制度の創設 5. 組織から機器購⼊予算申請をする制度の創設。 機器購⼊予算を組織から申請する制度にし、その分 ほかの予算規模を減らせば、問題は低減します。 税⾦が原資です。研究費は⼤切 に使いたいものです。

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予算獲得の⽬的化問題のまとめ • 獲得研究額が多いほどポスト獲得に有利と信じられており、研究予算の無駄遣いにつながり、⽇本の研 究⼒低下に寄与している。研究資⾦に⾒合った成果が求められていることを⾏政から広く発信しつつ、 教育研究機関に「各種⼈事応募書類に獲得資⾦額は成果を割り引くことに使⽤する」ように通達し、研 究成果評価機構による成果評価の時に、獲得資⾦に⾒合った成果であるかを評価するようにすれば、こ の問題は解決し、より多くの研究者に必要な研究費を届けることができるようになる。 研究組織から機器を購⼊する制度にすれ ば、より効果的です。 ここでも「研究成果評価機構(仮)」が出 てきます。

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4. 成果の量・質問題 • 成果の質に踏み込まずに、「量」で評価することが、現場の疲弊を招いている。 • こま切れ論⽂ • サラミ論⽂ • 同じネタでの学会発表 • 記述を求める成果の件数に上限を設けるなどして、「件数が多ければ良い」という誤解が⽣じないよう にする必要がある。 • ⼤学評価も同様。⼤学あたりの最⼤件数を指定して(例えば⼤学あたり30成果単位)提出させて、成果を 質に踏み込んで「研究成果評価機構(仮)」にてしっかり評価すれば良い。成果を取りまとめて、評価と 合わせて、毎年度出版するなどすべき。階層的漸減質評価法(HQA法)として後述。 数の評価なら、組織内で協⼒し合う必要はなく、技術を向上させる必要もない。質の評価なら、組織内の協⼒が必要 になり、技術の向上が重要になる。⼤学評価での研究の質の評価は、技術重視の⾵潮の醸成、組織内の利害共有促進 にも寄与する。 質を評価すれば、技術や組織内の連携が重要になります。 ⼤学の評価を、限定された数の研究成果で⾏うと、技術重視になり、 組織内の利害共有が増え、研究者の意欲増進につながります。

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5. 技術軽視の⾵潮問題 • 「技術が重視されるようになる効果」をもった制度・政策が必要。 技術が軽視されるようになる効果 成果の量を評価 期待成果主義による資⾦配分 ⼩さい利害共有集団 積み上げ式の予算制度 技術が重視されるようになる効果 成果の質を評価 成果主義による資⾦配分 ⼤きい利害共有集団 成果報酬式の予算制度 技術⽴国といいながら、技術が軽視されている状況にある。新しい技術開発を問う項⽬が科研費応募書式ない ことを始め、「技術が重視されるようになる効果」を持つ制度・政策が不⾜している。「技術重視の⾵潮の醸成」を 政策課題として掲げ、成果の質を評価する研究成果評価機構(仮)の設⽴、成果主義による資⾦配分、成果報酬式の予 算制度の実現、また、階層的再編成を含む研究組織の利害共有促進の実施をすれば、技術重視の⾵潮を醸成すること ができる。

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6. 若⼿研究者の研究環境問題 • 「若⼿を早期に独⽴させると良い」という考えには⼀理あるが、独⽴しても、かつてはあった多くの良 い環境要因は失われている。 • 良い環境要因の例: • • • • • 多くの先輩や教員に囲まれている 研究費を⾃分を取らなくて良い 報告書を書かなくて良い 若⼿の早期独⽴を促す制度には「講座制のあしき教授からの若⼿の解放」というコン セプトを感じますが、若⼿を独⽴させたら研究⼒アップ、というのは間違いです。 授業をしなくて良い 任期を気にしなくて良い 利害⾮共有組織(競合⼩型研究室集合体)では、多忙化や意欲の減退が起こり、競合研 究室に囲まれることになります。利害を共有した⽐較的⼤きい研究者集団の⼈の和の なかで、多様な価値観に接しながら、研究ができるようにしていくべきです。 5から10⼈程度のPIが所属する集団であれば、特定の教授の⽀配下に置かれることを まぬがれます。機器が組織管理であれば、問題がある教授から離れることも容易です。

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7. その他の問題 • • • • • • • 技術職員の待遇問題 制約過多問題 学振PDの研究室移動義務問題 査読有無による⽇本語総説価値低下の問題 使⽤期限のある⺠間助成問題 学部1、2年⽣が研究室配属されない問題 インセンティブの与え⽅の問題

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技術職員の待遇問題 • 本来研究技術職員が最もリスペクトを得ていなくてはならない • 技術は研究遂⾏上最も重要。 組織から機器を購⼊する制度案では、オペレーションがどのように担保されるかを申請時に記⼊します。この時に、技術職員 の名前が必要になります。 オペレーションの担保は、機器購⼊組織の義務との位置付けにすれば、技術職員の⾝分補償になります。同時に、組織保有の たくさんの機器のオペレーションを⾝につける動機にもなります。オペレーション実績によって、技術職員の資格等級と連動 させるのも、技術職員の意欲向上に役⽴つでしょう。 技術職員は「研究成果評価機構 (仮)」にも籍を起き、⼀定期間ごとに研修を受けて、新しい技術を⾝につけます。技術の陳腐 化は早いため、技術の新陳代謝を上げるために研修制度は必須です。 「研究成果評価機構」での研修では、研究成果の再現性を得る実験などを⾏います。「研究成果評価機構」で再現性を得る実 験を⾏うことは、国内の研究不正を防⽌する効果を持ちます。 また、技術職員に⼀定の予算権限を与え、教授会への出席ができるようにすることなど、優秀な⼈が技術職員を⽬指す環境を 作っていくべきです。 技術がある⼈がやれば、1⽇で終わることでも、ない⼈がやると1年かかります。

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制約過多問題 • 研究現場にはさまざまな制約がある。 • 研究者の⾃由な発想に任せ、制約を緩和することが、研究⼒向上に必要。 研究現場にはさまざまな制約が溢れています。 「⼗分な成果が着実に⾒込まれる研究でなくてはならない」 「学際的な研究でなくてはならない」 「海外研究者が含まれる研究でなくてはならない」 「学内の共同研究でなくてはならない」 「企業との共同研究が⾒込まれなくてはならない」 「この機械は(他省庁の)他のプロジェクトの研究に使⽤してはならない」 「研究費を研究計画書に記述した⽬的外に使⽤してはならない」 これら制約は、いずれも研究⼒向上にとって有害です。どんな制約が溢れているか、 調査し、緩和を検討すべきです。

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学振PDの研究室移動義務問題 • 学術振興会のPDをもらうには、学位取得後、研究室移動が義務付けられ る問題。 この義務は2000年度には始まっていました。 優秀な⼈ほど、学位取得後すぐに研究室を出て⾏ってしまうことにな ります。あと数ヶ⽉あれば論⽂にできるような状態で研究室を出て ⾏ってしまうことが多々あると思われます。 出て⾏かれる側からすれば、時間をかけて育ててきたのに、⼤きな損 失です(育成インセンティブを⼀定程度損ないます)。 また、これでは⼈材の顔繋ぎ、技術の引き継ぎができません。 学位取得後、研究室を出た⽅が本⼈のためになるかどうかなどは、本 来⾏政が考えるべきことではありません。 この義務は撤廃が望ましいですが、せめて学位取得後、研究室を移動 するまでの間に、半年から1年程度の猶予を設けるべきです。この制度 にも、「講座制の悪しき教授からの若⼿の解放」というコンセプトを 感じます。

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査読有無による⽇本語総説価値低下の問題 • 査読の有無を書かせることによって、⽇本語の総説の価値が下落してし まった。 報告書などで査読の有無をあちこちで書かせるよ うになっています。⽇本語の総説は「査読なし」 です。 査読がないものは、他にブログなどが挙げられま す。誤った成果主義の考えの下では、「⽇本語の 総説は書いてもあまり評価されないから、積極的 には書かない」ということになってしまいます。 英語で書くと、⽇本の⼩学⽣、中学⽣、⾼校⽣な どが読めないという問題があります。

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使⽤期限のある⺠間助成問題 • 政府予算には使⽤期限があり、特に予算のつなぎ⽬で研究がしにくい。 • これはこれで仕⽅ないかもしれないが、なぜか⺠間の研究助成も多くの場 合に使⽤期限を設けている。 使⽤期限が無くなれば、研究現場は助かり ます。助成団体のみなさん、予算使⽤期限 を設けないようにお願いいたします。

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学部1、2年⽣が研究室配属されない問題 • 「⾼校では研究ができていたのに、⼤学に⼊ったら、⼤学1年⽣、2年⽣で は研究室に配属されず、研究環境がない」という問題。 • 意欲ある学⽣に、研究環境を。 この問題は、意欲ある学⽣さんに指摘 されて取り上げたものです。 ⼤学側としてはとても⼿が回らない、 という意⾒もありましたが、優秀な側 への対策こそすべき、ということで取 り上げました。

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インセンティブの与え⽅の問題 • 成果が出ない⼤学の予算を減らす?? 増やすべきでは?? 研究環境整備は、条件なしでしっかり やるべきことです。

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解決⽅法の提案

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書籍では、以下の3つを政策課題とし掲げることを提案。 • 研究組織内の利害⾮共有問題の解決 • 擬似成果主義による研究費配分問題の解決 • 技術重視の⾵潮問題の解決 本資料では、さらに具体的かつ詳細に踏み込んで提案する。

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解決⽅法の提案 提案1: 階層的に利害を共有した組織への再編成 提案2: 機器共⽤に向く研究棟への建て替え 提案3: HQA法による研究成果の質評価の実施 提案4:「研究成果評価機構(仮)」設⽴ 提案5: 組織から機器購⼊予算を申請する制度の創設 提案6: 研究教育組織の閉鎖性の解消

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提案1: 階層的に利害を共有した組織への再編成 研究単位が⼩さくなると、研究者は忙しくなり、技術 ⼒が低下するなど悪影響がたくさん出ます。研究単位 (利害共有単位)を⼤きくする必要があります。 じゃあ10000⼈ぐらいにすればいいのかというとそれ は違います。⼈数が多すぎると、お互いに知らない⼈ ばかりになってしまいます。 集団としてうまく機能する最適な⼈数としてダンバー 数と呼ばれる⼈数があり、最⼤150⼈と⾔われていま す。 100⼈から150⼈程度の単位を、利害共有単位として、 階層的な組織編成をすべき、というのが筆者の主張で す。 利害共有に乏しく、相互連携が 失われた現在の⽇本の研究室は こんなイメージです。 現状: お互いに競合・競争する ⼩型研究室集合体 組織成員がお互いに協⼒し合っ て、⽣産性を⾼める必要があり ます。 : 研究室 このためには、さまざまな階層 がお互いに利害を共有するよう に、⼯夫をすることが必要です。 構造改⾰ 階層性は、階層的漸減質評価法 の実施において重要な役割をし ます(後述)。 ⼈事流動性の向上、機器共⽤の促進、拠点形成、技術重視の ⾵潮醸成が起こります。さらには研究室の⼤型化に伴って、 研究者多忙の改善、意欲向上、研究不正ハラスメントの減少、 研究技術向上、⽣産的討論会の開催などが⾒込めます。 理想: 階層的利害共有研究教育組織 : ユニット。100から150⼈程度を想定

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提案2: 機器共⽤に向く研究棟への建て替え まずは、研究棟を全国的に建て 替える必要があります。 中央に共通実験室や交流スペース。周囲に研究室。 諸外国の研究棟を参考にする。 建て替え 吹き抜け 共通実験室 交流スペース ⽣活動線が交わらないように建 物がデザインされている例。 相互不⼲渉、競合⼩型研究室集合 体では、このような建築デザイン が好まれる。 共通実験室 相互協⼒を重視する組織であれ ば、このような建築デザイン

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提案3: HQA法による研究成果の質評価の実施 重要ポイント: • 研究成果の質の評価をしない限り、成果の質は上がりません。 • top10%論⽂数は、成果の質を反映しません。top 10 %論⽂は、研究の質 が⾼いことではなく⼈気分野の研究かどうかを表しています。成果の質の 向上のさせ⽅を考える気運になりません。 • 提案する⽅法(HQA法)は、成果の質を評価しつつ、組織⼒を向上させる画 期的な⽅法です。 Hierarchically-quantity-decreasing quality assessment

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研究成果の質評価の実施 (HQA法: 階層的漸減質評価法) まず組織の⼀番⼩さい単位、ここではユ ニットとしていますが、その内部で審査 を⾏なって、質が⾼いと思われた2成果 を提出します。 研究成果の質の向上を図るには、成 果の質の評価が不可⽋です。 研究成果の質の評価を実施していな いのは、「⼤変すぎるから」です。 3つのユニットからそれぞれ2成果、つま り6成果を審査して、専攻を代表する3成 果を選びます。 でも⼯夫すれば⼤丈夫です。 質の審査が⼗分にできるところまで、 数を絞るところがポイントです。 このようにして、3つの専攻からそれぞ れ3成果、つまり9成果を審査して、部局 を代表する4成果を選びます。 組織階層内で数を減らしながら審査 すればいいんです。 具体的な数字については、検討が 必要です。また、⼩規模の複数⼤ 学を束てねてさらに数を減らすこ とも考えられます。 さらに各部局からの成果を集めて、審査 をして、⼤学を代表する5成果を選びま す。 ここに⽰したのは、審査で数を減ら していく様⼦の例です。 ⼤学の成果は、「研究成果評価機構 (仮)」へと送付します。 5 ⼤学レベル 12 部局レベル 専攻レベル ユニットレベル ほーら。もともとたくさんあった 成果の数が、組織階層の中で審査 されながら、どんどん少なくなり ました。 2 4 4 4 9 9 9 3 3 3 3 3 3 3 3 3 6 6 6 6 6 6 6 6 6 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

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HQA法: 研究成果評価機構(仮)の役割 研究成果評価機構(仮)では、全国からの 成果を取りまとめて、評価をし、ベスト 10、ベスト100などを選出して表彰しま す。ここは少し⼤変ですが、IT技術を駆 使すれば⼤丈夫です。 審査は、特に学識が深い研究者が実施すべきです。実名及び匿名で何をどう評価 したのかを明らかにしていただきます。 研究成果評価機構(仮)はジャーナルを刊 ⾏し全成果を掲載します。 こんな研究してるんだ。 すごいなあ。 ジャーナルは⼀般公開します。 これに採録されれば、研究者にとって栄 誉です。 ここで研究したい! 税⾦によってどんな研究成果が出たのか、 国⺠に知らせる役割を持ちます。 研究成果 全集 202X 未来の研究者 (毎年、⽇本中の⼤学の成果を読むことができる)

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HQA法: 組織内利害共有を促進 配分イメージ 受賞対象になった研究成果を実施した研究ユ ニットに、配分上乗せ額を、全部⽀給するや り⽅をしてはいけません。 「受賞者の周囲も嬉しい」 ことが重要です。 利害共有が⼗分にされているか、成員が協⼒しあっ て⽣産性を⾼めているかを監視、指導するのがは⼤ 学運営者の役割です。 ⼀案としては(右図上)、審査のプロセスを反 映させる形で、⽀給します。つまり、 受 賞 全員嬉しい 利害共有 利害共有 利害共有 受賞研究グループに、組織内の階層が近いほ ど⽀給額が⼤きくなるようにします。 「福利厚⽣施設の充実」でも可(組織構成員が、嬉しいことが重要)。 受賞グループの近縁のグループほど、たくさ ん運営費交付⾦が配分されることになります。 組織階層に従って、より強く利害を共有する ことになります。 別の案としては(右図下)、福利厚⽣施設を充 実させます。 他の研究者 (嬉しい) ⾃分の周囲の研究を助けて、質を向上させる ことが組織成員全員のメリットになります。 受賞ユニットの 研究者(嬉しい) 全員嬉しい

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HQA法: 組織内表彰 また、⼤学を出なかった成果につ いても、⼤学は取りまとめて刊⾏ し、顕彰します。審査で上の⽅に ⾏くほど栄誉です。 20 2X 研究年 A 成果⼤学 ")); 上位に進出しました! 「ユニット単位」を軸に顕彰すれ ば、ユニット内部の結束が強まり ます。「個⼈」を軸に顕彰をする と、ユニット内部の結束が弱まり ます。 ユニット内で利害共有が⼗分にさ れているか、成員が協⼒しあって ⽣産性を⾼めているかを監視、指 導するのがは⼤学運営者の役割で す。 ⼿を叩いている⼈たちは、成果の内容を理解して⼿を叩いています。

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HQA法: 審査が真剣になされる 審査では、全国でのtop10研究、top100研究 に選ばれること、あるいは、組織のなるべく 上の⽅まで、成果が選抜されることを⽬指し ます。 どうして私の成果は審査を通過し なかったのでしょう? 内容をちゃんと理解している 審査員は、組織内の同じ階層の⼈員で⾏いま す。審査員は、選んだ成果が、上の階層を通 過するように審査でなるべく良い成果を選ぼ うとします。上の階層を通過すれば、⾃分に もメリットがあります。 審査の外注もあり得るかもしれませんが、 「ちゃんと審査した感」を出すための外注審 査ではないことに着⽬してください。良い成 果をうまく選べないと、上の階層での審査を 通過できないので、真剣に審査する必要があ ります。 評価対象の 成果を出し た⼈ それはXXで〇〇だったからで す。もうすこし△△で□□な データがあったら良かったと 思うんですが。 本当は全部審査を通過させたいの ですが、審査⽅法が決まってまし て、4つから2つを選ぶ必要があり ました。 よかったらXXのデータを取れ る先⽣を紹介しましょうか? 審査員 より上位階層に進めるように、協⼒する関係にある。 審査者に、良い申請書を選び出 すインセンティブが働くことに 注意してください。 科研費審査などでは、審査員には「良い申請 書を選び出すインセンティブ」が働いていま せん(善意や責任感に頼った状況であり、制 度的インセンティブがありません)。 審査員は、審査される⼈の⾝近な⼈が務める ことになります。 顔が⾒える審査ですね。 ちゃんとフェアな審査を⾏わないと、組織内 の評判を落とすことになります。また、審査 についての説明責任を果たす必要があります。 なるほど。フィードバックをあり がとうございます。 かくかくしかじかの理由により4つ の候補から2つを選出しました。ご 質問ありましたらどうぞ..... 数を絞ると⾔うこと以外に審査ルールはありませ ん。組織ごとに好きなやり⽅を採⽤します。ただ し、⼤学を出てからの審査で優れた順位に⼊るに は、質の⾼い成果を選び出す必要があります。 数を絞るプロセスが適切になされているかどうか を指導監督するのが、組織運営者の役割です。 審査員が⼤量の数値データを⾒て、⼀⽅的に裁くような審査は冷酷です が、この審査は、温かみがあります。 審査する側と、される側が、協⼒関係に置かれるのがHQA法の特徴です。

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HQA法: 良い研究とは何か?が話し合われることになる どんな成果が良い成果なんですか? 審査を巡ってさまざまな対話がなされ、 どのような成果が良い成果なのかが議 論されることになります。 どこかの⼤学に「質の⾼い研究とはど のようなものか?」と聞いてみた時に、 答えられるでしょうか? 研究者が個⼈的な意⾒を持っていると ころはあるでしょうが、⼤学組織とし ての⾒解を持っているところはないの ではないかと思います。 現在の⼤学には、「どのような成果が 良い成果なのかを議論しなくてはなら なくなるような仕組み」がありません が、この評価⽅法を⽤いればこのよう な議論が活発になって、良い研究が追 求されるようになります。 良い研究成果が満たすべき要件として は................また成果の重要性がなかなか 社会的に明らかにならないこともあるこ とを踏まえ.....、また既に既報の研究成果 の後追いとなる研究成果について は、..........、また技術の⾰新を伴うよう な........と当研究科としては考えています。 良い研究とは何かが組織 を主語として語られるよ うになる。 避けるべき基礎研究について説明して いただけますか? 避けるべき基礎研究とは..... 現在これは全くできていない。 (重要性の低い研究が多いと財務省より指摘されている)。

60.

HQA法のメリット: 研究意欲の向上 上位階層の審査に残るほど、研究者にとって栄誉に なります。 内容が理解された上で、⾼評価されることは、研究 者の研究意欲を⾼める数少ない⽅法の1つです。審査 を通過した場合は、ちゃんと質が評価された上で認 められたという満⾜感を得ることができ、研究意欲 が向上します。 XXの〇〇を明らかにしたんですっ てね。ちゃんと論⽂読みましたよ。 すごいですね。 インパクトファクター20のジャー ナルに成果が載ったんですってね。 すごいですね! IFが何だってんだ。何もわかって ないくせに、何褒めてんだか。 イライラ 意欲は向上しない。 # お。理解されてる。嬉しい。また 頑張ろう。 ⼤学中に知れ渡ってしまったな.. 意欲が向上する。

61.

HQA法のメリット: 技術重視、⼈事流動性の向上、多様な⼈材の活⽤ この⽅法には、多様な⼈材の活⽤を促進する効果があります。 組織内に優秀な⼈がいると、⾃分にも 運営費が多く回ってきます。このよう な制度のもとで⼈事を実施すると、優 秀な⼈が選ばれます(⼈事流動性の向上 は⾏政が⻑年取り組んでいる課題です)。 ⼈事採⽤しますが、どん な⼈がいいですかね? また、組織内でお互いに助け合うのが 前提になりますので、技術を持った⼈ の採⽤が盛んになります(技術重視にな ります)。 技術⾯が重視されるように なって、⼈事採⽤時には実績 よりも能⼒・技術が遥かに重 視されるようになります。 優秀な⼈は我々の⽴場がなくなる から困るね。 うちのA君がいいんじゃないかな あ(同じ派閥だし)。 研究⼈材がお互いに協⼒しあ うのが前提となり、お互いに 補い合う環境になりますので、 多様な⼈材が活躍できるよう になります。 実績と獲得資⾦を⾒て判断しろっ て⾔われているけど、外部から優 秀な⼈が来ても私にはメリットが ないんだよね(組織内は、競合関係 だからね)。業績はまだあまりない けどA君にするか(将来が期待され るってことでいいよね)。 ジェネラリストからスペシャ リストへの転換が起こる、と も⾔えます。 現在 派閥重視・内部昇格⼈事 ⼀通りのことが全部できる⼈材だけが活躍可能 優秀な⼈が欲しいね。成果評価で 上の⽅までいけるような成果を出 せる⼈が欲しい(そしたら我々にも 恩恵が)。 尖った能⼒がある⼈がいいね。新 しい技術持っている⼈。AIの画像 処理とかどうだろうか?(わたしの 研究で使ってみたい) HQA法実施時 能⼒・技術重視・内外を問わず優秀な⼈を採⽤ 多様な⼈材が活躍可能

62.

HQA法のメリット: 研究の学際化と⽬利き⼈材の養成 審査を通じて、組織内の⼈員はお互いにお互いの研究をよく知り合うようにな ります。特に組織の上位階層では、学際的な研究が始まるきっかけになること が期待されます。農学部の課題を⼯学部が拾い上げて、あるいは⼯学部の課題 を⽣命科学が拾い上げて昇華させる場ができることになります。 * ⼤学から提出した評価の質が低いと、中央での審査で良い評価が得ら れません。⼤学は、良い成果を真剣に選ぶ必要があります。 また、広い研究領域に詳しく、質の⾼い良い研究成果を選び出すことができる ⼈材(⽬利き⼈材)が組織に必要になります*。このような⼈材が育成されること になり、組織に必要な研究能⼒を持った⼈材のリクルーターとしても活躍する ようになることが期待されます。 農学部 ⼯学部 理学部 成果の質評価のお⼿伝いをします。 幅広い視野で審査をするので、必 然的に視野が広くなります。 成果を⾼める動機を 持ちつつ*異なる学問 分野の成果の質を評 価 農学部ではこんな課題があります。 ⼯学部的にそれは容易 です。⼀緒にやりませ んか。 オープンで審査会をやれば、組織内でどんな研究をしてい る⼈がいるのか、お互いに知り合うことになる。 審査をするうちに、⼤学の中のい ろいろな研究者がどんな研究をし ているのか、だいたい頭に⼊りま す。 そのうち、あ、この2⼈を結びつけ るとこんな研究が可能なのでは、 というひらめきがやってきます。 つまり、 学内の学際研究の活発化にも寄与 します。 ⽬利き⼈材 新しい技術をもった⼈員の組織へのリクルート、産学 連携などにも活躍します。⾃然と、これらに必要な能 ⼒が養われます。 現在は、組織の中で研究成果の質の評価を全く しておらず、このような⼈材はいません。

63.

HQA法のメリット: 好奇⼼に基づく研究の促進 個⼈単位で成果を提出するのではない ので、好奇⼼に基づく研究、萌芽的な 研究を、組織内で遂⾏する余地が向上 します。 また、成果提出は常にプラス評価を得 ます。マイナス評価ではありません (意欲の維持に必要です)。 ・⼤学発の質の⾼い成果を数を絞って評価するようにすれば、研究⼈材は質の⾼い研究に傾注することができる。 ・100⼈程度の集団から年に2単位ほどの成果を出せば良いのであれば、あせらずに研究をすすめることができ、好奇⼼に基づく研 究が活発になる。 我が国が必要としているのは、質の⾼い研究成果が⼤学から出てくることであって、個々の研究者から多 数の研究成果が出てくることではない!

64.

HQA法のメリット: ⼤学の⾃主性の向上 ⼤学の独⽴⾏政法⼈化によって、⼤学 の⾃主性が強まるはずでしたが、却っ て⾏政による⼲渉が増えてしまったと 指摘されています。 ⼤学の成果の質を、⼤学⾃⾝で評価す ることによって、⼤学の⾃主性が向上 します。 ⼤学が、⾃らの研究成果のどれが優れ ているかを、⾃らが判断することが、 ⾃主性の芽です。

65.

現在 個⼈に成果を出させて数で評価するのではなく、⼤学 から成果を出させて質で評価するよう、⼤きく改⾰す べきです。 改⾰後 ⼤学に成果を出させて質で評価 個⼈に成果を出させて数で評価 ⼤学に研究成果を求めるのは、より良い社会を築くた めであって、研究者個々⼈に成果を求める必然性はあ りません。 改⾰ ⼤学 選りすぐりの成果 個々の研究者の成果 ⼤学 ⽟⽯混交 論⽂数あるいは top10%論⽂数で評価 組織階層性の中で成果の質を審査・評価 研究成果 数が増加 質が向上 好奇⼼に基づく研究 不活発 活発 組織内連携 不活発 活発 研究意欲 減退 亢進 技術 軽視 重視 若⼿ 疎外 包摂 ⼈材流動性 低い ⾼い 環境 閉鎖的 開放的 ⽬利き⼈材 不要(育たない) 必要(育つ) ⼤学の⾃主性 発揮する余地がない 向上する HQA法

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現在のやり⽅ ⼤学A ⼤学B ⼤学C 論⽂数で評価し ようとしたら、 重要性の低い論 ⽂が増えてし まった。 ⼤学D 個々の研究者の成果 数だけ⾒ておしまい。 成果の質の評価 が重要ですな。 ⼤学E 「成果の質が評 価される」とい うことが研究者 に理解されてい て、質の向上が インセンティブ になっているこ とが重要です。 top 10%論⽂数で 評価したら、⼈ 気分野の研究が 増えてしまうだ けね。 4年で論⽂を8報 書かないとテ ニュア審査され ないという話が ありましたが、 裏には⼤学の論 ⽂数を増やした いという⼤学の 思惑が感じられ ます。 数を絞ればいい というのはわ かったけど、公 平に評価できる のかしら? 「私の研究を理解するのに、 時代が追いついこない」と いうぼやきは出るでしょう が、公平な評価ができない からしない、では研究の質 を向上させるインセンティ ブが発⽣しません。 質の評価をずっと、サボっ てきましたら、いきなりう まくできないのは当然です。

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提案するやり⽅(HQA法) 質が⾼いものを顕彰 それぞれの⼤学で 質の⾼いものを選 ぶわけですね。 ⼤学が成果の質を ⾼めようという気 運を持つことにな ります。 質の評価 ⼤学A ⼤学B ⼤学C ⼤学D ⼤学E 現在は、⼤学運営 本部は論⽂数ある いはtop 10%論⽂ 数が増えれば良い と考えていますが、 これならもっと研 究成果を上げよう と思うようになり ますね。 良い成果の選び⽅ は、次第に改善さ れていくはずです。 • 組織階層内で質の⾼い研究を選び出す これなら、成果 の質を上げよう と思って⼤学が 頑張りますね。 現在は、個々の 研究者の頑張り に任せてばっか りですね。 ⾼校野球で⾔え ば、地⽅⼤会で の選抜を勝ち抜 いたチームが甲 ⼦園で戦うよう なものかしら。

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提案4「研究成果評価機構(仮)」設⽴ 研究の質を向上させるには、研究成果の質 の評価が絶対に必要であることは何度も述 べました。 成果評価の実施主体として、「研究成果評 価機構」を設⽴すべきです。 3つ⽬は組織からの実験機器の購⼊申請を する制度の申請受付と、申請書の審査です。 この機構には、さまざまな機能を持たせる ことを提案します。 研究者に機器を購⼊できる予算を配分する ことが、研究室、研究者を過度に独⽴させ、 組織機能を低下させていることは既に説明 しました。 1つ⽬は、各研究成果の評価です。 4つ⽬は、技能研修の実施です。技術職員 登録・差配も⾏います。 2つ⽬は、HQA法による研究教育機関の評 価です。 研究技術職員の技能向上維持および地位・ 待遇の向上には、所属機関以外にも籍を置 き、定期的に技術研修を受ける場が必要で す。 5つ⽬は、研究不正の抑⽌⼒となる機能で す。 度重なる研究不正事件によって⽇本の研究 成果への信頼が低下しています。 研究不正を抑⽌するには、研究成果につい て⼀定の割合で再現性を得る仕組みが必要 です。 順に説明します。 機構には、お互い に関連する機能を 持たせるのですね。

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研究成果評価機構の役割 : (1)各研究成果の評価 1つ⽬は、各研究者の成果の評価です。 成果の質を評価することによって、成果の 質を追求する機運が向上します。 研究者が論⽂を出すたびに、責任著者が論 ⽂をデータベースに登録します。 この時に、研究成果の概要、意義を記述し ます。 研究成果評価機構では、その論⽂の質の評 価を、匿名および⾮匿名の審査者に依頼し ます。 審査者は、ウエブシステムを利⽤して、評 価をします。 審査者による審査が⼀⽅的にならないよう に、成果登録者には、評価に対するコメン トを残すことができるようにします。 また、審査者以外が、審査コメントへのコ メントを残せるようにします。 現在の、研究計画審査のようなもの を、研究成果に対して実施するイ メージですね。 研究計画はあまり勉強になりません が、成果の⽅は審査する側の勉強に もなりますね。

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研究成果評価機構の役割 :(2)HQA法の実施 2つ⽬は、HQA法による機関評価です。 機関内の利害共有と相互連携の促進による 組織機能向上が起こります。 各⼤学に、それぞれ幾つずつ成果を提出さ せるか決定します。 質を考慮した審査が⼗分に実施できる数と なるように配慮します。 ⼤学から提出された成果を評価し、質の⾼ いものを選び出します。 ⼤学から提出された成果に、審査員のコメ ントを付したものを、ジャーナルとして刊 ⾏します。 特に質が⾼いと判定されたものを顕彰しま す。 質が⾼い研究成果を出した⼤学に、運 営費交付⾦を上乗せする形ですね。 当該成果を出した研究グループだけに、 報奨⾦的に研究資⾦を与えると、その 研究グループが研究組織からの独⽴傾 向を強め、組織⼒が低下してしまいま す。 この点はくれぐれも注意が必要です。

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研究成果評価機構の役割 :(3)機器購⼊申請書審査 3つ⽬は、機器購⼊予算申請書の審査の実 施です。 審査では、組織のこれまでの研究成果も審 査します。 この申請書どうです か? ちゃんと成果を出しているかどうかを評価 します。 各研究組織より、機器購⼊予算申請書を受 け付け、審査を実施します。 これにより、組織構成員が協⼒しあって成 果を出す機運が⽣まれます( 利害共有が起 こります)。 申請書では、機器ごとにオペレーション計 画の提出を求めます。オペレーション計画 では、オペレーション責任者名を求めます。 現在、⾃分で研究費を取得して⾃分で機器 を購⼊して、⾃分で機器操作をして研究を する仕組みです。 機器の寿命を踏まえて審査を実施します。 組織で研究機器を購⼊して、オペレーター が機器操作をして研究をする仕組みへの転 換が必要です。 また、申請書では、技術職員が所属機関で 適切な地位を与えられているかを問います。 例えば教授会への出席権限の有無、技術職 員への裁量経費付与があるかどうかといっ た点を問います。 ほとんど同じ⽤途の機 器がすでにあるようで すね... 機構で定期研修中の技術者 申請書に記載されている機器につ いて、技術職員がいるので申請書 内容を適切に評価できる。 技術⽴国にふさわしい⾼い技術を持った技術職員の確保

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研究成果評価機構の役割: (4)技能研修の実施 4つ⽬は、技能研修の実施です。技術は陳 腐化するのが早いです。 定期研修に来ました。 技術職員が、新しい技術を⾝につけられる ように定期的に研修を受ける仕組みが必要 です。 今後有⽤と思われる新 しい研究⼿法が出まし た。研修協⼒依頼を出 してあります。 研修の⼀環として、⽇本発の論⽂の再現性 取得実験を⾏います。特に重要と思われる 新しい技術に着⽬します。 出向 必要に応じて、当該研究を発表したグルー プの協⼒を得ます。 技術職員は、研究成果評価機構に登録され ることになり、どのような技能をどの程度 持っているか、⼀元的に把握されることに なります。 万⼀所属機関で、トラブルに巻き込まれる などした場合は、研究成果評価機構を通じ て別の機関を探すことができます。 よろしくお願いします! ちゃんと⾝につけて 帰ってね! 新技術が⽇本中に伝播 技術⽴国にふさわしい⾼い技術を持った技術職員の確保

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研究成果評価機構の役割 :(5)研究不正の防⽌ あれ、なんかおかしい な。ひょっとしてやっ ちゃってない? 5つ⽬は研究不正の防⽌です。 研究不正が深刻になっています。なんとか しなくてはなりません。 不正研究者 研究成果評価機構では、技術職員の研修を ⾏います。 機構で定期研修 技術職員は、全国の⼤学などに在籍しつつ、 定期的に研究成果評価機構で研修を受けま す。研修の⼀環として実験結果の再現性取 得を⾏います。 再現性取得の対象に なったらどうしよう。 ドキドキ やっちゃってるかも... 再現性取得の対象にし ましょうか.... ⽇本の研究成果に対する信頼性の向上 不正はもうやめよう... 不正の抑⽌⼒が働く

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「研究成果評価機構(仮)」設⽴の提案 研究成果の質の向上 成果の質評価の実施 HQA法による研究機関の成果評価 研究成果評価 機構 産学連携促進 ⽬利き⼈材の育成 ⼈事流動性の向上 組織内の利害共有促進 成果ジャーナル刊⾏ 機器購⼊予算申請書評価 技術職員研修 研究者の意欲向上 納税者への説明責任 予算の有効活⽤ 技術職員の地位向上 研究不正の抑⽌⼒ 「研究成果の質評価の実施」と「研究教育機関の組織機能回復」など の中核機能を果たす。⽇本の研究⼒回復の要となる機構。 出典: 「⽇本の研究⼒低迷問題の原因と解決⽅法」

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提案5: 組織から機器購⼊予算を申請する制度の創設 組織から機器購⼊予算を申請する制度を創 設すべきです。* お互いに競合・競争する研究グループの集 合体では機器共⽤がうまくできません。 *研究機器購⼊予算を研究者に配分する制度は、研究に柔軟性を与える反⾯、研究室に組 織内において過度の独⽴性を与える作⽤を持っている。近年、研究⼈材間を分断する効果 を持った様々な制度政策を実施したことにより、研究室の⼩型化が進み、組織機能不全の 悪影響が顕在化している。研究組織が競合⼩型研究室集合体と化してしまった現在、当該 制度は限界に来ており、組織から機器を購⼊する制度の創設が必要である。 アメ(お⾦)で共⽤インセンティブを与えよ うとしても、お⾦のある研究室には通⽤し ません。 この制度を創設すると、 (1) 組織機能が向上します。組織成員が機 器購⼊という点で利害を共有することにな り、共働によって成果の質を向上させるイ ンセンティブが⽣まれます。 これに伴って優秀な⼈材を採⽤するインセ ンティブが⽣まれ、⼈事流動性が向上しま す。 (2) 組織から申請すると、組織に既にある 機器は申請されないことになり、予算が有 効に使われます。 (3) 機器のオペレーションが担保されるこ とになります。 (4) 技術職員の地位が向上します。 (5)保有機器を中核として、⾃発的な研究 拠点形成が誘導されます。 (6) 転出⼊が容易になって⼈事流動性が向 上します。オペレーションが担保された研 究機器が、研究組織に多数配置されること になれば、転出しやすくなります。

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組織購⼊の効果:(1)組織機能が向上 協⼒し合う必要 性? 機器を購⼊して⾃ 分のところに並べ てます。隣の研究 室に同じ機器があ るかどうかなんて、 しりませんよ。 感じたことがない ですね.... 別々にやればいい のでは。 組織機能・⼈事流動性が低い 現在 新しい機器を購⼊ できるかどうかは 組織からの成果が 問われるとのこと です。 協⼒し合いましょ う。成果出せる⼈ を外からつれてく るのもいいですね。 ⼒を合わせて、新 型機器をゲットし ましょう。 組織機能・⼈事流動性が向上 実施時

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組織購⼊の効果:(2)予算有効活⽤ あれ、うちにある やつと同じやつを 買おうとしている な。 予算がついたので 欲しかった機械を 買います。 まあいいや。お互 い好きにやりま しょう。 機器重複が起きる 現在 あ、リストに載っ ているこれ、うち にありますよ。 うち(我々)から申 請する機器のリス トを作ってます。 もったいないので リストから外して ください。 これでどうでしょ う? 機器重複が起こりにくい 実施時

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組織購⼊の効果:(3)機器のオペレーションが担保 買った機械、しば らく使ってなかっ たら使い⽅がわか らなくなってし まった。オペレー ターもいないし。 オペレーターを雇 ⽤するような予算 は、つかないしな あ。 どの機器もすぐ使 えますね。 消耗品はいっぱい あるのに消費期限 切れだ。 オペレーターがい るので助かります。 消耗品の無駄も発 ⽣しませんね。 ⼗分にオペレーションできない機器が⽣じる 現在 オペレーターがいない機器がない 実施時

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組織購⼊の効果:(4)技術職員の地位が向上 みなさんが、どんな器 械をお持ちなのか、私 にはわかりません。 この機器のオペ レーション担当は だれかしら? 申請書に書いてあ るわね。 機器申請の時に、ご承認い ただいてますね。 私がオペレーション担 当です。 地位は向上しない 地位が向上する 現在 実施時

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組織購⼊の効果:(5)⾃発的な研究拠点形成が誘導 私は、私の研究室 で研究を。 私がオペレーション担当です。 IFと競争資⾦獲得 学で⼈事をします。 機器や技術をシェ アできるかどうか は考えませんね。 私は、私の研究室 で研究を。 基本的には、ここ にある機器と技術 で研究できる⼈を 採⽤しますよ。 共通機器 オペレーターの協⼒のもと、 みんなで機器を使います。 拠点が形成されない 現在 研究機器と技術を中核として 拠点が形成される 実施時

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組織購⼊の効果:(6)⼈事流動性が向上 オペレーションは任せ てください。 そろそろ転出した らどうかしら? どこに転出しても、⼗分研究できるだけの 機器はないですよね。 これでは転出できません。 器械、持っていっていいですか? それはちょっと困 るわ。 研究⽤機器がない! 共通機器室はないし、 ⼀通り揃えるまで研 究できない。 共通機器 転出先には、共通 機器が整備されて いてオペレーター がいるみたい。こ れなら⾝⼀つで ⾏って⼤丈夫。 横暴なボスから離 れたいが、転出す ると機器がない。 共通機器室にオペ レーターがいて、 ⼀通り研究できる。 転出した若⼿ 組織内が利害⾮共有で競合競争してい るので、助けが得られない。 横暴なボス 転出した若⼿ 横暴なボスから若⼿を解放するのには、 共通機器室の整備が重要 若⼿が転出できない 現在 転出しやすい 実施時

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⾃発的な研究拠点形成 共通機器、技術を中核とした拠点 形成が進む 波及効果 組織から機器 購⼊予算を申 請する制度 協⼒し合うと 次の機器購⼊ のチャンスが 増す 研究者多忙問題の緩和、研究意欲亢進、 研究 不正・ハラスメントの防⽌、技術軽視の⾵潮を 緩和、ジェネラリスト育成体質から、スペシャ リスト育成体質への転換、理想的研究環境の構 築と若⼿の研究への回帰など。 組織内の利害共有促進 内外を問わない優秀な⼈材の採⽤動機が増す 転出しやすい ⼈材流動性の向上 機器のオペレーションが担保 予算の有効活⽤ 技術職員の地位安定・向上 技能向上 転⼊しやすい 研 究 ⼒ 向 上

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提案6: 研究教育組織の閉鎖性の解消 重要な論点ですので、これまでの内容と重 複しますが、説明します。 なぜ重要かといえば、財務省資料「歴史の 転換点における財政運営(p86)」に、「国 際的な⼈的ネットワークや国際共著論⽂の 不⾜、内部からの⼈材登⽤の慣⾏を含む⼈ 材流動性の低さなど、研究室や学部・学科 内における閉鎖的な研究環境が、⽇本の研 究活動の構造的課題として従来から指摘さ れている」とあるからです。 さまざまな制度は、この宿題に答えを出す ものである必要があると筆者は考えていま す。 以下のスライドでは、⼤学などで、助教⼈ 事、教授⼈事にわけて、内部昇格が起こる 理由を説明します。 内部からの⼈材登⽤、要するに⼤学内の持 ち上がり⼈事をやめさせて、優秀な⼈がポ ストにつけるようにしなさい、ということ ですね。 その後で、解決⽅法を⽰します。 国外にいる優秀な研究者の招致が活発にな れば、国際的な⼈的ネットワークの不⾜、 国際共著論⽂の不⾜は、解決しそうですか ら、これは、優秀な⼈がポストにつけるよ うにせよ、という宿題と⾔って良いと思い ます。 これを実施すると、「味⽅は強い⽅が良 い」の法則が働き、採⽤後の組織内部での 連携が重視されて採⽤活動がなされること になり、過去の実績よりも能⼒・技術が優 先評価項⽬になります。 優秀な⼈、技術を持った⼈の採⽤モチベー ションが⾼まり、閉鎖性が解消します。

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内部昇格の仕組み(助教・准教授) 2⼈の助教候補者がいます。どちらが選ば れると思いますか? 選ぶ⼈の⽬線から考えてみましょう。 今のようなお互いに競合している⼩型研究 室の集合体では、よその研究室の助教⼈事 に⼝を挟む余地がありません。必然的に、 研究室のボスが、実質的⼈事権を持ってい ます。 助教を採⽤します。 どちらにしようかな。 (助教公募という ことは、独⾃に 研究を遂⾏でき るポジションだ よな) オリジナルの研 究領域を開拓し ていきたいで す! 1⼈で論⽂書けますので ⾒ていただかなくても⼤ 丈夫です。 外部の候補者(優秀) 外部の候補者を助教にしても、ボスの研究 を推進してくれるわけではありません。 ⼤きな外部資⾦を獲得したら研究室を乗っ 取られるかもしれませんし、⾼IFな実績が あるとマウントを取られるかもしれません。 ⼀⽅、卒業⽣、ポスドクであれば、事情は 全く異なります。 ギフトオーサーシップは 良くないと⾔われていま すよね。研究費申請も、 先⽣が⼊る余地はどれだ けあるかはわかりません。 引き続き先⽣の テーマをやりた いです。 論⽂書くときは、先⽣が ラスト・コレスポですね。 研究費申請の時は必ず先 ⽣を⼊れますよ。 論⽂作成は1⼈ではおぼ つかないのでご指導ご助 ⾔をお願いいたします。 これが内部昇格(助教)の仕組みです。 卒業⽣・ポスドク (平凡)

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内部昇格の仕組み(教授) 助教の時とは、少し様⼦が異なります。 教授を採⽤します。 どちらにしましょう か? 選ぶ⼈の⽬線から考えてみましょう。 今のようなお互いに競合している⼩型研究 室の集合体では、被採⽤者は、採⽤後に競 合・競争相⼿になります。 今回はAさんというこ とで 次回はBさんという ことで Cさんは⾊々噂があ るようですよ... このような状況では優秀な⼈を忌避する⼒ が働きます。 派閥内には「同じ釜の飯」ほどの強い結び つきはありません。 組織内は機器や技術で連携していないのが 通常なので、採⽤後の連携を期待して新教 授を選ぶわけではありません。 組織内がもっと利害を共有していて、成果 の質を協働によって⾼めようとしていたら、 優秀で、連携が可能な技術を持った⼈が採 ⽤されるはずですが、そのようになってい ません。 派閥B 派閥A 外部の候補者Cさん(優秀) これが内部昇格の仕組みです。 内部の候補者Bさん (平凡) 内部の候補者Aさん (平凡) それなりの業績を上げれば上に上がれる (新取性は⽣まれない)。

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⼈事流動性を向上させる⽅法 我々は、機器購⼊予算を申請する単 位です。 ちゃんと解決できます。 研究単位を⼤型化し、階層的利害共有組織 に再編成します。また、機器共⽤に適した 建屋への建て替えを推進します。 我々は、協⼒しあって成果の質 を⾼めあう関係にあります。 ⼈事では、能⼒が⾼い⼈を採⽤ したいです。実績よりも能⼒が ⼤事です。 100から150⼈程度、PIを5⼈から10⼈程度 を含む利害共有集団を作ります。 また、研究成果の質の評価に基づく研究組 織の評価をHQA法で実施します。 組織からの機器購⼊予算を申請する予算制 度を創設します。 今は、AIによる画像処理ができ る⼈が欲しいです。 Aさんも、何かとがった技術を ⾝につけた⽅がいいですよ。 どれも施策による実現が可能です。 利害共有集団 で、できますよ〜 これら施策によって、採⽤するのは「味 ⽅」になり、「味⽅は強い⽅が良い」の法 則が働くようになります。 また、成果の質が向上することを期待して ⾼い技能、まだ⼀般化していない技能など を持つ⼈員が採⽤されるようになります。 利害をしっかり共有した集団を作ること、 成果の質の評価をすること、など研究技 術・能⼒が重要となるような施策を実施す る必要があります。 外部の候補者 (尖った技術あり) ちょっと留学してこようかな... 新しい技術に対してアンテナを張った 状態になります(新取性が⽣まれます)。 内部の候補者Aさん (平凡)

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さまざまな波及効果が⽣まれる ⼈事流動性を向上させるために、現在どのような⽅法が採⽤ されているでしょうか? 現在の⽅法は、 「運営費交付⾦を減らして、競争的資⾦に付け替える」とい うやり⽅です。 説明が必要ですかね.... 財務省からの⼈材登⽤についての宿題を解きつつ、⽇本の研 究⼒を総合的に向上させるには、総合的な視野、俯瞰的な問 題構造の理解が必要です。 ⽂科省の⼈は、財務省の⼈に、研究現場の問題はもっとたく さんあって、それらの解決を総合的に⾏いたい!と訴えるべ きではないでしょうか? アカデミアは、本書で⽰したような研究現場の問題を、声を ⼤きくして⾏政に届けるべきです。 運営費交付⾦を減らすと、⼤学は苦しくなりますよね。 そうすると、競争的研究資⾦を持っている⼈が欲しいという 気持ちが⾼まります。任期制や、雇⽤のルールなどでポスト は空きがちです。 「競争的資⾦をたくさん持っている⼈が優秀」であるとする なら、優秀な⼈が採⽤されることになります。 これはあまりうまくいかなかったようです。そこで始めたの が、ガバナンス改⾰です。 ⼤学の⼈事権を、部局の教授会から取り上げて⼤学本部承認 にしようという改⾰です。競争的資⾦を持っている⼈をちゃ んと選択したかどうか、⼤学本部で確認してから承認しよう ということです。 筆者の⽅策案で⼈事流動性を向上させると、右に⽰したよう な多くの波及効果が出ます。 現在のやり⽅では優秀な⼈(競争的資⾦を獲得できる⼈を)の 採⽤を促進できるかもしれませんが、これらの波及効果は出 ません。 波及効果: 1. 研究者多忙問題の緩和、 2. 研究意欲亢進、 3. 拠点形成誘導、 4. 技術職員の地位向上、 5. 研究不正・ハラスメントの防⽌、 6. オペレーションが担保された機器が組織で利⽤可能に、 7. 技術軽視の⾵潮を緩和、 8. ジェネラリスト育成体質から、スペシャリスト育成体質 への転換、 9. 理想的研究環境の構築と若⼿の研究への回帰

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まとめ 現状 研 究 成 果 不 の 実 質 施の 評 価 の 施策 効果 顕彰/成果 ジャーナル 刊⾏ 研究成果の質の向上 研究成果評価機構 の設⽴ 技術職員研修 登録 技術職員の地位向上 技術重視の⾵潮の醸成 予算の有効活⽤ 成果の質 評価 研究機関の成果 評価 (HQA法) ⽬利き⼈材の育成 成果主義に よる研究費 配分制度 産学連携の促進 研究者多忙の改善 組織から機器購 ⼊予算申請する 制度の創設 機器の共⽤化 若⼿の研究環境改善 組織内利害共有 促進策の実施 組 織 機 能 低 下 研究室⼤型化 機器共⽤に向 く研究棟への 建て替え 階層的組織 再編成と研 究単位の⼤ 型化 ⼈事流動性の向上 研究制約の 緩和 スペシャリスト養成 研究者の意欲向上 予算獲得の ⽬的化の抑 制 好奇⼼に基づく研究の推進 研究不正の減少 研 究 ⼒ 向 上

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終わりに(1): 研究者が研究者として欲している研究環境 研究者が、研究者として欲しい 環境はこの3つでしょう。 研究者が研究者としてしている 競争は、「世界のどこかにいる かもしれない、⾃分と同じ着想 を得た研究者」です。 論⽂の数や引⽤数の競争は、研 究者としての競争ではなく、俗 欲の競争と⾔えるでしょう(研究 者は俗欲の競争を嫌います)。 • 研究着想(ひらめき)を得やすい環境 • 着想を実現しやすい環境 • 成果の発表がしやすい環境 利害が共有された⽐較的⼤きい集団を作ること ⾮公開の討論会を⼤勢とできるようにすること ⼯作室を整備すること スポーツ⼤会などの組織内の交流会を開催すること 雑⽤がすくないこと(雑⽤の点数化と点数の削減を⾏う事務組織の設⽴を提案)

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終わりに(2): 問題が発⽣する環境要因の理解が重要 若者が海外に出ようとしない。 海外に出た研究者が国内に職を⾒つけられず帰国 できなくなるから。 ⼤学が相互の連携を⽋くお互いに競 合・競争する⼩型研究室の集合体と なっている → 組織機能の喪失。 さまざまな問題を遡っていくと、 この環境要因にたどり着く。 若者が海外に出ようとし ないのはなぜでしょう? 内部昇格⼈事がなされ るのは? AIなど新しい分野への進 出が起こらないのは? 機器共⽤促進の取り組 みが必要なのは? 研究拠点が⾃発的にで きてこなかったのは? ボスがやめたら助教も ⾸というやり⽅が出て くるのはなぜでしょ う? 研究者が忙しいのは? ①業績がある⼈を採⽤する意欲が⾼くないから。 ②技術・能⼒を持った⼈を採⽤する意欲が⾼くな いから。 これらは全て、⼤学が相互の連 携を⽋くお互いに競合・競争す る⼩型研究室の集合体となって いることと関係があります。 学位の信頼性が今ひと つなのは? アカハラパワハラ、研 究不正が増えてきたの は? 若者の研究離れは? ⼤元の原因をなんとかすべき、 ということですね。

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本資料作成を終えて ⼤学の問題は多岐にわたるのに、財務省の問題認識・指摘は限定的(⼈材登⽤を課題に上げるなど)。 財務省の限定的な問題認識・指摘に、⽂科省が振り回されているように⾒える。 研究現場のさまざまな問題、特に、 (1)組織内の利害⾮共有によって組織機能が低下している問題、 (2)成果の質の評価を実施していない問題、 を声を⼤きくして訴えれば、現在よりも⼤きくて難しい問題を財務省が宿題として出すことになり、⽂科省がうまく 解決できるようになると思われる。 総合的、包括的な問題認識、課題設定が必要 本書でしたように研究現場の問題を真剣に議論する必要

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読者アンケートを実施しております。 • https://docs.google.com/forms/d/1a5CfUPAObobFUAeOrC4XuO8RDP 1CvFWf0vwkZ1FdDLw • 問題が正しく認識されるようになれば、適切な施策が実施されるようにな るはずです。本資料の拡散をお願いいたします。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0B1YV43VQ