診療ガイドライン:患者パネルからの意見を取り入れる

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April 26, 23

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1.

診療ガイドライン:患者パネルからの意見 を取り入れる Clinical Practice Guidelines: Incorporating Input From a Patient Panel https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1 002/acr.23275

2.

実際に米国リウマチ学会で、患者パネルを導入したら・・・ 患者からの情報が推奨事項の強さと方向性に反映されるという 明確な利点があった。 エビデンスの質が低い場合や、益と害の間に重要なトレードオ フがある場合、患者の価値観や好みは重要な役割を果たすこと ができた。 患者の推奨は、感染リスクを最小限に抑えることが、病気の再 発リスクを最小限に抑えることよりも、優先されるという強い 一致した意見によって導かれた。 患者の価値観と好みを正式に決定することで、患者と投票パネ ルの双方にとって最終的に一致する、患者中心の推奨が導き出 された。

3.

患者パネルが有効な場合 確実性の高いエビデンス:患者のみで構成されたパネルも、 医師で構成されたパネルと同様の結論に達する可能性があ ることが、これまでの研究で示されている。 確実性の高いエビデンス・利益と害のトレードオフが拮抗 している:これらの状況での推奨は、価値観や好みに敏感 であると特徴づけられるかもしれない。このような状況で は、患者の視点が勧告の方向性や強さに特に強い影響を与 える可能性がある。

4.

事例:選択的人工股関節置換術(THA・TKA)などを受けるリウ マチ性疾患患者の抗リウマチ薬の周術期管理のガイドライン リウマチ性疾患患者は変形性関節症患者に比べ、術後に感染症 を含む有害事象のリスクが高い(感染症のオッズ比/リスク比 は1.8~4.8)く、周術期の薬剤管理決定が有害事象発生の頻度 に寄与する可能性を示唆した。 本ガイドラインの目的は、周術期の感染症や疾患の再燃を含む 有害事象を最小限に抑えることにある。 本ガイドラインで扱われたテーマは以下の通りである: 1) 選択的置換術の前に抗リウマチ薬を控えるべきか? 2) 抗リウマチ薬を中止する場合、いつ中止すべきか? 3) 中止する場合、術後いつから再開すべきか? 4) グルココルチコイドを投与されている患者には、手術時にど の程度の量を投与すべきか?

5.

実際に行なわれた会議の構成委員 ⚫ 整形外科医 6 名 ⚫ リウマチ医 5 名 ⚫ 感染症専門家 ⚫ 全身性エリテマトーデス(SLE)専門家 ⚫ 関節リウマチ(RA)と若年性特発性関節炎(JIA)の患 者代表 2 名 ⚫ リウマチの手法専門家 2 名 ⚫ GRADE 手法の専門家

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ここからは、今回の研究でのパネルの募集 どうも、最終的なパネル会議の前日に、患者のみ11名のパネル会 議を行う事で、患者の希望を聞き出し、それを、最終的なパネル 会議に反映させるという形式が、より患者の意見を取り入れたガ イドラインになるかというモデルケース • 関節リウマチ患者でTHAまたはTKAを受けた人々が、関節リウマチ財団 とグローバルヘルシーリビング財団を通じて特定され、募集された。 • 参加者は、ヒト被験者保護トレーニングの協同研究イニシアチブ、コク ランコラボレーションの「エビデンスに基づく医療の理解」と「臨床実 践ガイドラインにおける役割」の2つのモジュールを完了し、会議の前 に8時間の研究とガイドラインの方法論のウェビナーを受講した。 • 2016年7月10日、ACR / AAHKS投票パネル会議の前日に、患者パネル の面会が開催された。 • この最初の患者パネルの会議では、参加者にガイドラインプロジェクト の背景資料とスコープが提供された。 • 患者パネルの会議は、ACRの共同研究者、以前に患者パネルを率いた経 験のあるACRスタッフ、ACR共同文献レビューパネルリーダーによって 進行し、ACRスタッフの支援を受けた。

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プロジェクトのスコープ • 患者には、プロジェクトの根拠とスコープ、およびプロジェクトの前提条件が提示された。 • 周術期の抗リウマチ薬管理のガイダンスを提供すること、臨床医と患者にガイダンスを提供すること、 THAとTKAのアウトカムを最適化すること、有害事象を最小限に抑えることが目標であることが伝えら れた。 • 術前の日常的な医学的評価や静脈血栓塞栓症や心筋梗塞などの懸念される有害事象は本ガイドラインの 範囲ではなく、他のガイドラインでカバーされている。 • 薬剤と疾患は当初別々に検討する予定であったが、利用可能な文献の制限から、SLEに関する質問を除 き、まとめて検討することにした。 • 本ガイドラインでは、疾患特異的抗リウマチ療法に起因すると考えられる周術期イベントのみを取り上 げた。 • 股関節脱臼や90日入院再入院を含むアウトカムを文献で求めたが、文献はまばらであり、これらの合併 症を薬剤管理の決定と直接関連付けることはできなかった。そのため、対象としたアウトカムは、感染 症(手術部位または遠隔部位を含む非重症および重症感染症)、リウマチ性疾患の再燃に限定した。 • 有益性と有害性のバランスに重きを置くため、患者の価値観や好みを聴取した。 特に、免疫抑制剤である疾患修飾性抗リウマチ薬や生物学的製剤の治療継続と関連する可能性のある、 頻度の少ない感染症の重要性と、THAやTKA後に頻繁に起こり、薬剤を控えることと関連する可能性の ある疾患の再燃の重要性について質問された。 • 患者パネルには、質問に関連する個人的な経験を考慮し、それに応じて結果の重要性を判断するよう促 した。(Yuasa感想:えっ、そうなの、個人的な経験なのか~、11名だからか?)

8.

あつまった患者パネルの内訳 患者パネルは、RAまたはJIAの成人11名。 全員がTHAまたはTKAを受けたことがある(1人当たりの人工関節置換数は1~8個)。 人工関節の感染症を経験したと報告した患者は1名のみであった。 参加者の平均年齢は47歳(範囲23~71歳)、平均罹病期間は26年(範囲8~42年)、10名 が女性で、1名が少数民族の人種/民族であった。 患者パネルは、各 PICO クエスチョンについて議論する際に、ガイドラインの文献審査パネ ルが統合したエビデンスを検討した(翌日の ACR/AAHKS 投票パネルが検討したのと同じ情 報)(以下のスライドで提示)。 患者は、ガイドラインのプロジェクトに情報を与えたPICOクエスチョンを取り上げ、データ を検討し、議論し、PICOクエスチョンから策定された勧告案について正式に匿名で投票した。 使用された方法は、患者パネルと投票パネルで同じであった(以下スライドで)。コンセン サスが得られない場合は、さらに明確な議論を行い、80%以上のコンセンサスが得られるま で投票を繰り返しました。この会議は投票パネルの会議の前日に開催されたため、患者パネ ルはACR/AAHKSの投票パネルの決定を知ることができなかった。

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実際の資料のPICOの部分 Populations Adult patients with rheumatoid arthritis, juvenile idiopathic arthritis, spondyloarthritis, psoriatic arthritis, ankylosing spondylitis, or systemic lupus erythematosus undergoing elective total hip and total knee replacement Interventions 1. Stop or continue medications? 2. If withheld, when should they be stopped? 3. When to restart medications that were stopped? 4. How to dose glucocorticoids at the time of surgery? Comparator 1. Stop or continue medications? 2. Withhold for shorter vs. longer periods before the surgery? 3. Restart medications early vs. late? 4. Give usual vs. high dose (“stress dose”) glucocorticoids? Outcomes Disease flare, inection, serious (deep) surgical site infections, superficial surgical site infections, minor non–surgical site infections (e.g., urinary tract infection), serious non–surgical site infections (e.g., pneumonia, bacteremia/sepsis), death, cytopenias in systemic lupus erythematosus, acute kidney injury (cyclosporine), need for revision surgery, readmission within 90 days, long-term arthroplasty outcome

10.

実際の投票用紙1:Clinical Practice Guidelines: Incorporating Input From a Patient Panel Arthritis Care & Research, Volume: 69, Issue: 8, Pages: 1125-1130, First published: 16 June 2017, DOI: (10.1002/acr.23275)

11.

実際の投票用紙2:Clinical Practice Guidelines: Incorporating Input From a Patient Panel Arthritis Care & Research, Volume: 69, Issue: 8, Pages: 1125-1130, First published: 16 June 2017, DOI: (10.1002/acr.23275)

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結果:患者の価値観、好み、推奨事項 患者パネルは、薬を中止した場合のフレア(flare・再燃みたいな感じ・リウマチがひどくなる?)の可能性が高い にもかかわらず、薬を継続した場合の感染症の可能性を一様に大きく評価した。 具体的には、その差は少なくとも10-20:1であったが、患者パネルではその差を正確に定量化することはできな かった。 患者パネルのファシリテーターは、この好みをより深く理解するために、患者に長い時間質問をした。患者たちは、 フレアは自分たちでコントロールできる「既知のリスク・known risk」であり、特に通常治療が可能であると感じ ていた。 フレアの予測可能性とは対照的に、患者は、「平均的な・average」感染症はなく、フレアよりもはるかに悪い結 果(例:人工関節の永久欠損、四肢切断、長期入院、依存と障害、死亡)をもたらす危険性のある非常に悪い感染 症しかないと認識していた。 患者たちは、周術期を耐えることを「仕事・job」としてとらえ、その仕事とは、運動能力の向上や痛みの軽減と いった最終的な良い結果に焦点を当てることであり、「フレイルに対処することは、単にハードワークの一部であ る」と考えていた。 ある患者は、“手術に入るときも、出てきたときも、しばらくはフレイルになるといつも思っていますが、感染が 怖いです。”と言っていた。また、“いつもフレアになることを想定している ”という意見もあった。彼らは、フレ アの負担よりも感染の負担の方がはるかに大きいと考えており、フレアに対処するための生活がすでに出来上がっ ていた。フレアは困難なものと認識されていたが、患者は感染症が回復を遅らせたり、他の健康問題を引き起こす 可能性があることを認識しており、それは彼らが求めるポジティブな結果の達成を遅らせることになるので受け入 れがたいと感じていた。 ある患者は、「感染症で死ぬことはあっても、フレアで死ぬことはない」と述べ、「感染症は通常、数ヶ月にわ たって(彼女の)生活を混乱させる...抗菌剤や感染症に関連する他のもののために、患者の生活を混乱させる」と 述べている。さらに、彼らは自宅でフレアを管理できると感じていたが、感染症の結果(関連するフレアの頻繁な 発生を含む)には、長期入院やリハビリテーションセンターでの滞在が必要になる可能性が高いと感じていた。

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研究の限界 患者パネルは、男性、少数派の人種・民族、低所得・社会経済的地位の患者を十分に代表す るよう努力したにもかかわらず、このパネルが米国のすべての患者を代表するものではない 可能性がある。 特に、患者パネルにSLE患者がいなかったため、パネリストはSLE患者への推奨を行うことに 躊躇していた。 患者の人工関節置換術の経験は1~8回であり、そのことが患者の価値観や嗜好、リスクとベ ネフィットの認識に影響を与えたと思われる。 従来のパネルでは、エビデンスの確実性が低い場合患者が投票しないことがあったが、今回 のプロジェクトでは、確実性の高いエビデンスがないにもかかわらず、患者は、フレイルの リスクよりも感染症のリスクを最小限に抑えることを強く希望したため、すべての推奨事項 に投票した。 このグループにはSLE患者がいなかったため、患者パネルはSLE患者の価値観や好みについて 仮定することに不快感を示したが、重度のSLEとそうでないSLEを対比して理解した上で投票 した。これは、専門家/医師パネルが経験を考慮するのと同様に、患者が自分の経験を診療 ガイドラインを形成するエビデンスベースに貢献することに抵抗がなかったことを示唆して いる。

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議論 本研究では、患者の価値観や好みを正式に決定することの重要性を示し、最終的に両グループにとって一致する患者中心の推奨 を導き出し、その実行を促進することができた。しかし、患者パネルの意見がなければ、投票パネルが同じ勧告を行ったかどう かはわからないことに留意する必要がある。 患者の価値観や嗜好をどのようにガイドラインに取り入れるのがベストかについては、ガイドライン作成者の間でコンセンサス が得られていない。ACRは以前、1~2名の患者をガイドラインの投票パネルのメンバーとして参加させたことがあるが、これ らの患者は、その場で発言する権限を与えられているとは必ずしも感じておらず、また彼らの視点や経験が独自に評価されてい るとも感じていないというフィードバックを受けている。さらに、これらの1人または2人の価値観は、より広いコミュニティ を代表するものではない可能性がある。 そこで、ACRは、ガイドラインのプロジェクトに別の患者パネルを含めるというアイデアとロジスティックスを試験的に導入し たが、これまでは、エビデンスの質が高い場合にのみ、患者に推奨事項に関する意見を求めてきた。 今回のACR/AAHKSガイドラインでは、さらに一歩踏み込んで、すべてのエビデンスが間接的であったり、中・低品質であった りしても、事前に作成されたすべての推奨事項を検討し投票するよう患者に要望した。 つまり、このプロジェクトでは、ACR/AAHKSの投票パネルが決定する前に患者の希望を聞き出し、最終的な勧告を決定する際 に投票パネルに提示して検討させた。患者の希望を臨床診療ガイドラインに反映させる最適な方法はまだ確立されていないが、 このガイドラインは、比較的弱いエビデンスベースの存在下で、患者の意見が医師の投票パネルによる決定の強さと方向性を形 成する上で明らかに有益であることを実証した。このプロジェクトの結果は、別途招集された患者パネルから得られた情報を臨 床実践ガイドラインに正式に取り入れることを支持するものである。