EBM診療ガイドライン作成編1:エビデンスがない場合の推奨

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April 26, 23

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1.

「エビデンスがない」場合の推奨作成に ついて

2.

診療ガイドラインの推奨とは? 臨床家や患者が特定の状況下で、 適切な診断や治療を決定する際に役立つことを目的として、 体系的に作成された声明である ↓ 信頼できる推奨の条件:利用可能な最良のシステマティックレビュー に基づくこと ↓ しかし、それらの「エビデンスがない」場合もある ↓ その場合の、推奨決定のための一案を解説する Mustafa RA, Garcia CAC, Bhatt M, Riva JJ, Vesely S, Wiercioch W, Nieuwlaat R, Patel P, Hanson S, Newall F, Wiernikowski J, Monagle P, Schünemann HJ. GRADE notes: How to use GRADE when there is "no" evidence? A case study of the expert evidence approach. J Clin Epidemiol. 2021 Mar 3;137:231-235. https://www.jclinepi.com/article/S0895-4356(21)00069-X/fulltext

3.

戦略概要 • 戦略1:エビデンスとなる研究 を複数行なって、システマ ティックレビューを行う • 戦略2:推奨しない • 戦略3:エビデンスを特定せず に専門家の意見に基づいて推 奨する

4.

戦略概要 • 戦略1:エビデンスとなる研究 を複数行なって、システマ ティックレビューを行う • 戦略2:推奨しない • 戦略3:エビデンスを特定せず に専門家の意見に基づいて推 奨する ⇒最も良い方法・時間的制約 ⇒利用者が困る・患者に害が ⇒エビデンスに偏りが生じる

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戦略概要 • 戦略1:エビデンスとなる研究 を複数行なって、システマ ティックレビューを行う • 戦略2:推奨しない • 戦略3:エビデンスを特定せず に専門家の意見に基づいて推 奨する ⇒最も良い方法・時間的制約 ⇒利用者が困る ⇒エビデンスに偏りが生じる 望ましい方法とは言えないが、少しでも偏りを減らすため、 パネルメンバーに未発表の見解やケースシリーズについて尋ねる専門家 エビデンス調査を実施する←以下は、この事例を説明

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注意事項 • 戦略1:エビデンスとなる研究 を複数行なって、システマ ティックレビューを行う • 戦略2:推奨しない • 戦略3:エビデンスを特定せず に専門家の意見に基づいて推 奨する 修正デルファイ法を用いて、専門家の 意見のみに基づいてコンセンサスベー スの手法を用いて作成されたコンセン サスガイドラインを採用する委員会も 存在する。 しかし、今回の方法との重要な違いは、 エビデンスをどのように使用し、どの ように提供するかである。 ちょっと混乱するかもしれないが、エビデンスが存在して、GRADEアプローチに普通に 従って作成する場合でも、ある程度コンセンサスも必要としているので、その意味で言え ば、コンセンサスガイドラインとも言えるが、そのコンセプトが異なることに注意された い。

7.

実例より:概要 前提:当初、エビデンスがあまりにも不確かな場合には推奨を出さないことにしていた。 しかし、推奨なしは、臨床家にとって有用ではなく、患者に害を及ぼす可能性があると 考えた。また、パネルは、より確実性の高い発表済みのエビデンスが近い将来に得られ ないと認識していた。そのため、今回の調査を行うこととした。 パネルメンバー:異なる専門分野と国から集まった14名の委員 50%以上が、対象となる推奨事項に関して金銭的な利益相反がないことが条件 行なったこと: パネルメンバーがこれまでに行なった症例数と、その治療と結果についての情報を委員 会の開催前に匿名でオンライン回収。(個人的な偏見を軽減するために、推奨事項を発 行する前にパネルメンバーの累積的な経験を収集する事が必要) エビデンスとリンクしていないパネルの意見ではなく、症例とアウトカムに関するデー タを収集することを重視。 パネルメンバーには、患者のカルテを確認することを求めず、記憶を頼りにアンケート に回答(本来ならばカルテ確認が望ましい)。 調査結果は、エビデンスが全くない場合は単独で、エビデンスの確実性が非常に低い場 合(特に、対象となる集団や介入に対してエビデンスが極めて間接的である場合)は公 表されているデータと関連づけて提示。

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American Society of Hematology pediatrics guideline expert panel survey results (n=13)* PI C O Question Total Responses by panel member # 1 1 1 1 1 1 6 6 6 How many years have you been practicing in your field? 1. How many pediatric patients with symptomatic DVT or PE have you managed? 2. Out of these patients with symptomatic DVT or PE how many have you treated without anticoagulants? 3. Out of all the pediatric patients with DVT or PE who did NOT get an ANTICOAGULANT, how many had a recurrent DVT/PE? 4. Out of all the pediatric patients with DVT or PE who did NOT get ANTICOAGULATION, how many died due to the DVT/PE? 5. Out of all the pediatric patients with DVT or PE who did get ANTICOAGULATION, how many died (all causes)? 6. Out of the patients with symptomatic DVT or PE, how many have you treated with MECHANICAL THROMBECTOMY (with or without concomitant anticoagulation)? 7. Out of all the pediatric patients with DVT or PE who were treated with MECHANICAL THROMBECTOMY as above, how many had a recurrent DVT/PE? 8. Out of all the pediatric patients with DVT or PE who were treated with MECHANICAL THROMBECTOMY as above, how many had a MAJOR BLEEDING? 2 3 4 5 6 17 18 20 11 20 1500 180 100 100 1000 200 170 95 10 50 0 4 1 0 4 170 10 9 100 0 7 NR 8 9 10 11 20 11 30 10 25 1000 1000 300 914 1100 500 20 100 0 270 30 825 100 NA 0 30 NA 3 0 14 NR 0 5 NA 0 30 8 25 4 30 50 10 147 25 4 2 10 30 1 1 1 55 10 NA 2 1 5 10 0 1 0 17 5 NA 1 0 2 10 0 0 0 9 12 NR 800 Averag e (SD) 13 NR 800 182 18 (6) 9294 715 (440) NR NR 1820 165 (235) NR NR NR 101 13 (18) NR NR NR 48 6 (10) 20 NR NR 500 45 (58) 5 NR 229 19 (30) 46 5 (6) 29 3 (4) NR NR 0 NR 20 NR 2

9.

American Society of Hematology pediatrics guideline expert panel survey results (n=13)* PICO# Question この分野での活動歴は何年ですか? 1 1 1.症状のあるDVTやPEの小児患者をどれくらい管理したことがありますか? 2.症状のあるDVTやPEの患者さんのうち、抗凝固剤を使わずに治療した人は何人い ますか? 1 3.抗凝固剤を投与されなかったDVTまたはPEの小児患者のうち、何人がDVT/PEを再 発しましたか? 1 4.抗凝固療法を受けなかったDVTまたはPEの小児患者のうち、DVT/PEが原因で死亡 したのは何人ですか? 1 5. DVTまたはPEの小児患者で、抗凝固療法を受けた人のうち、何人が死亡しました か(全死因)? 6 6.症候性DVTまたはPEの患者のうち、何人に機械的再建術(抗凝固療法の併用また は非併用)を行いましたか? 6 7.上記のように機械的再建術を受けたDVTまたはPEの小児患者のうち、DVT/PEが再 発したのは何人ですか? 6 8. DVTやPEの小児患者さんで、上記のような機械的再建術を受けた方のうち、大出 血をした方は何人いますか?

10.

CQ1:◯◯病の患者に対するA薬VS非A薬の使用(n=13)* CQ Question この分野での活動歴は何年ですか? 1 1 1.症状のある◯◯病の患者をどれくらい治療したことがありますか? 2.症状のある◯◯病の患者のうち、A薬を使わずに治療した人は何人いますか? 1 3.A薬を投与されなかった◯◯病の患者のうち、何人が◯◯病を再発しましたか? 1 4. A薬を受けなかった◯◯病の患者のうち、◯◯病が原因で死亡したのは何人です か? 1 5. ◯◯病の患者で、A薬を受けた人のうち、何人が死亡しましたか(全死因)?

11.

質問 各パネルの回答 C Q 合計 1 1 1 1 1 1 2 3 4 5 6 この分野での活動 歴は何年ですか? 17 18 20 11 1.症状のある◯◯ 病の患者をどれく らい治療したこと がありますか? 1500 180 100 100 1000 2.症状のある◯◯ 病の患者のうち、 A薬を使わずに治 療した人は何人い ますか? 200 170 95 10 20 3.A薬を投与され なかった◯◯病の 患者のうち、何人 が◯◯病を再発し ましたか? 50 0 4 NA 0 4. A薬を受けな かった◯◯病の患 者のうち、◯◯病 が原因で死亡した のは何人ですか? 1 0 4 NR 0 5. ◯◯病の患者 で、A薬を受けた 人のうち、何人が 死亡しましたか (全死因)? 170 10 9 4 25 7 20 NR 8 9 10 11 18 (6) 9294 715 (440) NR 1820 165 (235) NR NR 101 13 (18) NR NR 48 6 (10) 20 NR NR 500 45 (58) 11 30 10 1000 1000 300 914 1100 100 0 270 30 825 30 NA 3 0 14 NR 5 NA 0 30 8 NR 10 147 50 25 NR = no response, NA = not applicable 13 182 20 30 12 平均 (SD) 25 NR 500 800 100 NR NR 800

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検索されたケースレポートやケースシリーズから得られた患者数と、専門家パ ネルが治療したケース数との比較(CQ別) Guideline question Number of pediatric cases Number of pediatric cases from published studies treated by expert panel Q1 Symptomatic venous thromboembolism 1637 9294 Q2 Asymptomatic venous thromboembolism 298 3218 Q9, Q10, Q11, Q12 Central venous line related thrombosis 17 5563 Q16 Superficial vein thrombosis 0 922 Q17 Right atrial thrombosis 99 455 Q21 Portal vein thrombosis 633 1609 Q24, Q25, Q26 Congenital purpura fulminans 73 27

13.

検索されたケースレポートやケースシリーズから得られた患者数と、専門家パ ネルが治療したケース数との比較(CQ別) Q1 Symptomatic venous thromboembolism Number of pediatric cases Number of pediatric cases from published studies treated by expert panel 1637 > Guideline question 9294 検索されたケースシリーズ研究より沢山の症例が、パネリストの調査で集 Q2 Asymptomatic venous 298 3218 まった。 thromboembolism Q9, Q10, Q11, Q12 Central venous line related thrombosis 17 5563 パネル調査の結果は実際には、一般的な状況より過剰になる可能性がある。 Q16 Superficial vein thrombosis 0 922 逆に、この現象は、もともと過小報告だったり、このテーマに関する出版物 Q17 Right atrial thrombosis 99 455 の不足を反映している可能性もある。 Q21 Portal vein thrombosis 633 1609 Q24, Q25, Q26 Congenital purpura fulminans 73 27

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本方法の利点 このアプローチは、部屋の中で最も大きな声が推奨に過度に影響する ことを避けるために有益である。 このプロセスは、パネルが自分たちの実践や観察された結果にどの程 度のばらつきがあるのかを理解する上でも有益であった。 このようなアプローチをとることで、考え方が「明確でないこと」か ら「明確であること」に変わり、データをより構造的に検討する機会 が得られた。 この調査は、システマティックレビューチームが、エビデンスが不足 している分野のみに基づいて作成し、実施したものである。その目的 は、専門家によるエビデンスアプローチを用いて、公表された文献や 査読付き文献の重要性を置き換えるのではなく、公表された文献が不 足していたり、間接的すぎたり、存在しない場合に解決策を見出すこ とであった。

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本方法の限界 どのような調査であっても、記憶や認識に関する問題によって偏りが 生じる可能性があるため、本質的に限界がある。 しかし、この方法は、孤立した個人の経験に基づいて決定するよりも 優れている。 この例では、スケジュールの都合で、パネリストに患者のデータのレ ビューを依頼できなかった。そのため、報告された症例数は、臨床医 の記憶に基づいている。 調査対象をパネリストに限定したため、調査が制限されている。その ため、他のガイドライン委員会では、一般化可能性を高めるためにパ ネル以外の専門家に調査を拡大したり、チャートレビューを行ったり しているが、実現可能性、潜在的なバイアス、利益相反とのバランス を考慮する必要がある。