ChatGPT を活用した新たな革新の展望

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August 31, 23

スライド概要

Chat GPTは従来の「知識作業」を幅広く引き受ける力を示しており、将来は、各種タスクが人間から機械に移行する可能性がある。しかし、機械の助けを借りて多くのタスクが完了できるようになると、過去の歴史(蒸気機関、電気、コンピュータ、インターネット、など)ではまったく新しいシステムが登場する。生成AIも例外でないとすれば、Chat GPTの可能性を真に解き放つには新しいシステムの登場が必要になる。この生成AIによるイノベーションの事例として、既存顧客問合せシステムにChatGPTをアドオンしたシステムの実証研究が公開されている。そこで、それを参考にしながら新たなイノベーション登場の仕組みを考察する。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
1.

ChatGPT を 活 用 し た 新 た な 革 新 の 展 望 高橋 浩 ( B-frontier 研 究 所 ) 1.はじめに 今、世界を席巻している ChatGPT、GPT-4 などの大 規 模 言 語 モ デ ル ( LLM) は 着実に従来の「知識作業」を 引き受ける力を示している。 結果、将来は、ほぼ確実に各 種タスクの多くが人間から 機械に移行することになる と思われる。 このような、新たに登場す る機械(技術)の助けを借り て多くのタスクが遂行でき るようになると、過去の歴史(蒸気機関、電気、コン ピュータ、スマホ、など)ではまったく新しいシステ ムが登場する[1]。 ChatGPT も 例 外 で は な い と 思 わ れ る の で 、 ChatGPT の可能性を真に解き放つには新しい種類の システムが必要になる。この新システムを考える上で、 日本のタクシー業界と Uber を考えてみる。日本のタ クシー業界は確かに Uber と類似のアプリを一部導入 してい るが シス テム は全 く 異なる (図 1 )。 米国 では Uber をキッカケに運転の担い手が根本的に変わった。 図1.新システムを考える上での事例比較 場に参加させるための「経済システムの再設計」にな った。そして、Airbnb はじめシェアリングエコノミー を目指す取組みが各界に広範な影響を与えた。古いシ ステムは破壊され新しいシステムが生まれた。 同様のことが、今後、ChatGPT の活用を巡っても発 生することは確実のように思われる。そして、この変 化は単に ChatGPT の既存システムへのアドオンから だけでは起きない。しかし、最初は既存システムへの アドオンから始まる。 動的価格制度の導入でタクシー利用客の需要が多い時 間帯には運転手が多数参加するシステムが実現した。 Uber の登場はスマホ活用がキーではあるが、これだ けだと日本のタクシー業界も大差ない。異なるのは新 システム成立の可否で、この実現までには Uber の苦 労は並大抵ではなかった。既存の市場関係者(タクシ ー事業者)には理解されないし【認知的正当性の欠如】、 従来モデル用に設計された規制にも準拠しないので、 規制機関からも理解を得られない【社会政治的正当性 の欠如】。まずは市場関係者への認知獲得を先行させて 規制当局の許可を得ずに市場に参入した結果、社会政 治的正当性を悪化させることになった。 しかし、一旦 Uber が成立した後の波紋は広範に渡る。 新しいビジネスモデル(シェアリングエコノミー)が 登場した。Uber は、労働人口(車の運転者)を配車市 図 2. AI 使用/AI 未使用の生産性への影響

2.

支援の仕方を 3 種類(最初から AI 使用、5~6 ケ月目か 2. 既存システムに ChatGPT をアドオン 顧客問合せシステムでは既存システムに ChatGPT ら AI 使用、AI を使用せず)設け、在職期間の長さで 仕事の効率がどのように変わるかを分析した(図3)。 をアドオンしたシステムの実証研究結果が既に公開さ 最初から AI 使用の場合は、わずか 2 ケ月で 2.5、5 れている[2]。その概要を述べる。2020 年 11 月~2021 ヶ月後には 3.0 以上に達した。5 ヶ月後に AI 使用開始 年 2 月に Open AI 社の GPT シリーズを導入した米国 の場合は 5 ヶ月目以降に RPH が上昇し始め、10 ヶ月 大手ソフトウェア会社(複数社)に勤務する顧客サー 目には 3.2 に達した。しかし、全く AI 支援を受けなか ビス部門所属の 5179 名を対象に顧客とのチャット 300 った場合は 10 ヶ月目でもやっと 2.6 という結果だった。 万件が分析された。評価の尺度は RPH(Resolutions AI 支援は習熟期間をほぼ半分に短縮化させた。 Per Hour:時間当たりの問合せ解決数)で、対象者は 3) AI 支援が離職率低下に与える影響 2グループ:1)GPT シリーズの支援を受けたグループ, 2)支援を受けなかったグループに分けて評価された。 調査対象のカスタマーサポート業界はストレスが大 きく、毎年 60%が退職する特異な職場と言われる。 支援を受けた担当者は顧客からのメッセージを自動 そのため、新人採用と教育の負担は大きく、離職率 的に読み込んで GPT シリーズから提示されたメッセ 改善は重要な目標となる。この点に着目した図4の調 ージを参考にして顧客対応を行った。典型的な既存シ 査は、AI 支援による離職率改善の在職期間別(図 4 上部) ステムへのアドオン形式である。 およびスキル別(図 4 下部)の結果を示している。 本稿主旨に関係の深い結果を 3 点抽出する。 1) AI 使用/未使用による RPH(生産性)の相違 AI 使用/未使用による相違を図 2 に示す。AI 使用可 AI 支援によって平均すると 8.6%退職率が低下した。 また、経験 6 ケ月以下の担当者の低下率が最も大きい という結果が得られた。 否による RPH の変動幅は大きく、AI 未使用者: 1.7、AI 使用者:2.5 と、AI 支援を受けた担当者 の RPH は 支 援 を 受 け な か っ た 担 当 者 に 比 べ 約 50%効率 UP した。RPH の測定は実際には複雑で、 会話終了までの時間に、正常に解決された割合等 を加味した評価式で決定されている。 2) 在職期間による RPH(生産性)の変動 新人労働者が全員 RPH2.0 から出発して、AI 図4.AI 支援の可否と離職率低下の関係 以上をまとめる。 ・AI 支援は RPH を確実に向上させている。 図 3. AI 支援期間による生産性への影響 ・AI 習熟スピード(経験曲線)は最初から AI を利用

3.

する方が遥かに効率的で、新人に 最初から AI 利用を義務づけると 育成期間が短縮化され、短期間で 経験者が育つ。 ・AI 支援は担当者の顧客対応レベル も改善させ、ストレスも軽減させ る。結果、大量離職の課題を緩和 させ定着率も増す。 ・これ等の結果はいずれも初心者(未 経験者、新規参入者)に対してよ り効果が大きい。 3.GPT シリーズの特徴と想定さ れる新システム勃興へのステッ 図 5. 新システム勃興までのステップ(著者作成) ChatGPT が適応可能な顧客問合せシステムを尋ねて プ GPT シリーズ開発の過程でデータを増やせば増やす みたが膨大なリストが提示された。このような状況と ほど AI 機能が向上することが確認された。これが規模 Uber の事例(1 節)、顧客問合せシステムの実証研究結 拡張を刺激し、短期間でパラメータ数増加の試みが行 果(2 節)から、今後想定される新システム勃興までのス われた。これは生成 AI 機能が今後もレベルアップする テップを考察した。結果を図 5 に示す。 ことを示唆する。また、ChatGPT を誕生させるにあた 今後の動向については、ChatGPT、Bard 等の動向 っ て は GPT-3 に 対 し て 処 置 さ れ た 人 間 自 身 に よ る に眼を奪われがちだが、生成 AI 技術は汎用技術なので、 RLHF(reinforcement human 生成 AI 技術ベースでの多様なスタートアップ企業の feedback)と呼ばれる微調整が有効であった。こうして 取組みも重要になる。本質的にはこれらの状況を踏ま 実現された InstructGPT に、一般に提供するための安 え如何に各企業が生成 AI に取組むかが重要だが、現状 全面を強化したのが ChatGPT である。 はまだその状況の情報入手が難しいので、この側面を learning from その後、3 月に登場した GPT-4 は更に、テキストと クローズアップさせるため、変化の先駆けである生成 画像の両方を取扱えるとともにパラメータ数も一段と AI スタートアップ企業の取組みにも焦点を当てる。生 レベルアップされた。概要を表1にまとめる[3]。 成 AI 技術を業界全体に幅広く展開している顕著な例 現在、ChatGPT を導入しているものは、発表から間 としてはヘルスケア業界が挙げられる。そこで本業界 がないので、既存システムへのアドオン形式が大半で へのスタートアップ企業の取組み状況を図 6 に示す。 あるかと思う。しかし、技術進歩が速いのと、世界中 企業/業界への ChatGPT 適応では戦略レベル、機能 で新たな活用が取組まれているので、次のステップへ レベル、管理レベルの 3 レベルが想定される。ヘルス の移行も早いと思われる。著者は ChatGPT に ケア業界では 3 レベル全てで取組みが開始されている。 表1.GPT シリーズの機能拡充の経緯 背景には、ニーズの強さ(患者とのチャットボットの 必要性(例、メンタルヘルスなど))や本格導入 に伴う関係者の失業不安認識の欠如(医者は失業 しない。また他職員も効率化されればその分やる ことが山ほどある)、データ活用の余地の大きさ などが想定される。他の業界も次のステップに向 けて順次追随/進展してくるものと思われる。 4.ChatGPT を活用した新たな革新の展望 以上の検討を元に今後の展望を述べる[4]。 組織(企業)にとっての変化: ChatGPT は多くの分野で生産性にプラスの効 果をもたらす。その範囲はカスタマーサービス

4.

は独創性が欠け曖昧なことも多い、などの制限事項が ある。このような制限によって、適切な戦略や組織化 に混乱や不確実性をもたらすこともある。 最後に、嘗て先進技術で、初心者に優しく、専門家 に厳しい技術があっただろうか?既存の蓄積データで 学習すると、未熟練者の方が AI でスキルアップできる のりしろが大きいからだと推測できるが。 このような特異な性質から、これからの変化は予想 外のものになると推測される。専門分野でも定型化し ているものは ChatGPT によって代替され、新規ビジ 図 6. ヘルスケア業界での生成 AI 取組み状況例 ネスモデルに合理性があれば、最終的には 現代社会で などの反復的日常的作業だけでなく、頭脳労働を含む の正当性が欠如していても実現されるに違いない。し ホワイトカラーの仕事のかなりの部分 に及ぶ。また、 かし、そこに到るまでのプロセスは機械と人間の共存 ソフトウェアコード作成などエンジニアの仕事と考え や役割分担の調整などで波乱万丈の経緯があり得る。 られてきた仕事もカバーされる。結果、雇用見直しや このプロセスを可能な限りスムースに進展させるため 組織変革が必須になる。 には、人間と機械との連携、なかんずく人間側の AI 活 組織(企業)にとっての対応の可能性: 用に向けたイノベーション力・人間力の強化が重要に 但し、ChatGPT 活用における誤用や乱用の危険性は なる。 残る。そこで、安全に使う方法や安全な範囲のノウハ いずれにしろ、今後のプロセスは長い。今後への示 ウ蓄積、活用ルールの策定と実施は重要性を増す。そ 唆としては、ChatGPT の進歩で幅広い「経済システム して、活用できる範囲は徹底的に活用し推進する必要 の再設計」の可能性が開かれた点が大きい。論文[2]が がある。多くの場合、このような利点を実現するには 示唆しているように、更なる事例研究の成果が期待さ 組織の変更が必要になる。加えて、発生しうる不正行 れる。従来、機械化が困難とされて来た「知識作業」 為に対する体制の整備もいる。将来に備えては、人材 の暗黙知に対応できるのも重要である。潜在的な汎用 の育成、意思決定や計画などの分野に ChatGPT をど ツールとして ChatGPT を様々な場面に導入し分析す のように活用するかなども必要になる。 ることで「新たなビジネスモデル発見」が益々重要に 個人(従業員)にとっての変化: なっている。 情報や知識に迅速にアクセスし易くなる。論文やレ 〔参考文献〕 ポートの初稿を作成しやすくなる。しかし、その一方、 [1] Ajay Agrawal et al., “ChatGPT and How AI 職を失う危険性が増す。それは、必ずしも単純労働、 Disrupts Industries”, Harvard Business Review, 反復労働だけでなく、かなりの知識労働も含む。 December 12, 2022. 個人(従業員)にとっての対応の可能性: そこで、ChatGPT を熟知し、それを補完的道具とし て使いこなしながら、既存の業務を一段高いレベルに 持ち上げる工夫が必要になる。また、ChatGPT の弱点 [2] Erik Brynjolfsson, Danielle Li, Lindsey R. Raymond, “GENERATIVE AI AT WORK”, NBER Working Paper, No. 31161, April 2023. [3] Partha Pratim Ray, “ChatGPT: A comprehensive を監視あるいは評価するような新たな仕事も有望に な review る。技術は絶えず進歩し、特定ルールに基づく活用状 challenges, bias, ethics, limitations and future 況も変化するので、新たな活用法やルールのメンテナ scope”, Internet of Things and Cyber-Physical ンスなども有用な作業になる。 Systems Vol.3, 121-154, 2023. 一方で ChatGPT の活用時には・機能がブラックボ on background, applications, key [4] Yogesh K. Dwivedi et al., ““So what if ChatGPT ックスで生成されたテキストの背後の理由が理解でき wrote ない、・質問を特定の方法で指定しないと適切な回答 opportunities, it?” Multidisciplinary が得られない、・事前にトレーニングが必要なのでリ generative アルタイムデータの自動組み込みが行われない、・ト practice and policy”, International Journal of レーニングに使用するデータ起因で何らかのバイアス Information がかかり不正が混じることがある、・ChatGPT の出力 2023. challenges conversational Management perspectives and implications AI for Vol.71, on of research, No.102642,