何故米国巨大IT企業はかくも巨大化したのか

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May 11, 18

スライド概要

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)等があまりにも巨大化し風当たりが強まっている。その結果、各国各地域の規制とか、 また、彼等の成功にあやかった企業変革を狙う動きも高まっている。しかし、これほど巨大化したメカニズムをよく理解しておかないと、各国・各企業・ユーザーの今後のスタンスも定まらない。
従来、GAFA等勃興のメカニズム解明は種々試みらて来たし、雑多に乱立している。しかし、理論と経営(ガバナンス)の適切な統合によって納得感があり、今後の経営や政策に示唆を与える程の分析には辿り着いていない気もする。そんな中、最近のG.Parker et al.の論文(MISQ 2017)は、このような側面に一歩切り込んだ視点があると感じられたので紹介する。このような情報から各自の今後の行動に示唆を得られれば、と。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

何故米国巨大IT企業はかくも 巨大化したのか? B-frontier研究所 高橋 浩

2.

背景 • GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマ ゾン・ドット・コム)等があまりにも巨大化している。 • そこで、これほど大きくなったメカニズムをよく理 解しておかないと、各国・各企業・ユーザーの今 後のスタンスも定まらない。 • 従来、GAFA勃興メカニズムの解明は種々存在し ていたが、やや現実とのギャップがあったかも • 理論と経営(ガバナンス)の統合で経営や政策 に含意を示す程の分析には未到達だったか • そこで、GAFA等が実行している多様なガバナン スの理論への取り込みまで挑戦した分析の紹介 を通してこれからのことを考えてみる。

3.

目次 • はじめに • 階層モジュラーアーキテクチャ • プラットフォームエコシステム 開発者競合モデルの分析結果 • 考察とまとめ

4.

はじめに 企業価値増大が著しい米IT企業 世界企業時価総額ランキング 4

5.

米国巨大IT企業の特性 • 主要な産業プラットフォームを握っている。 Apple Microsoft Facebook Amazon Google Parker, G., and Van Alstyne, M. W. 2015. “Innovation, Openness, and Platform Control,” SSRN Working Paper .

6.

今、最も旬な企業はアップル iPod iPhone 2007- iPad 2010- 200130兆円 時価総額 6

7.

iPhoneの画期的な特徴 ①コンテンツとデバイスの分離、②機能要素の配置換え、③コン ポーネント間インタフェースの見直し、などで、 従来の産業境界を越えた製品と多様なサービスを一体的に提供 コンテンツ ① 音楽 ② 小説 ③ 写真 ④ アプリ ⑤ 会話 アナログ ステレオ 本 デジタル化 カメラ アナログ・ コンピュータ デジタル iPod 電子書籍 デジカメ iPhone 〇 〇 一体化 〇 スマホ 〇 アナログ電話 デジタル電話 〇 7

8.

②小説の事例 本のような確立された製品のデジタル化でも、産 電子書籍 業構造の激しい変化を引き起こし、新たな脅威と 機会を生み出す。 デジタル機能の例:Kindleでは読者がどの位長く ページを見ているか、また他人が特定の文に下線 を引いたかを見つけることができる。 AmazonのKindle AppleのiPad Kindle登場(2007.11)から18ヶ月後のiPadの登場 で、電子書籍は垂直統合モデルからデジカメ、スマホなどと 同じく、デバイス、ネットワーク、サービス、コンテンツの層 に完全に分解した。 コンテンツ層 Amazon KindleとApple iPadは競合 サービス層 AmazonがiPadにリーダーアプリケーションを提供し連携 ネットワーク層 デバイス層 Amazon KindleとApple iPadは競合 8

9.

プラットフォームエコシステムの勃興 • Apple、Google、Amazonなどが世界で最も価 値ある企業になった。 • Apple Appsの担い手などに見られるように、 彼等の共通点は、それぞれに開発者エコシ ステムを保有していることである。 ① 彼等の企業価値上昇に開発者が重要な役割を 果たしている。 ② また、AmazonがiPadにリーダーアプリ提供のよ うな連携も起きる。 • 開発者の役割に焦点を当てる。 9

10.

構成 from 階層モジュラーアーキテクチャ to 開発者は企業をどのようにして反転させるか MIS Quarterly, Volume 41, Issue 1, March 2017, Pages 255-266 10

11.

階層モジュラーアーキテクチャ デジタル化の主な特徴 デジタル化は2つの重要 な分離を明確にする: (1)再プログラム可能性 3つのユニークな特徴 のために【デバイスと 1. 再プログラム可能性 サービス間の分離】 2. データの均質化 (2)データの均質化のた 3. デジタル技術の自 めに【ネットワークとコン 己参照性 テンツ間の分離】 Yoo Y, Henfridsson O, Lyytinen K (2010) The new organizing logic of digital innovation: An agenda for information systems research. Inform. Systems Res. 21(4):724–735.

12.

デジタル化が4層からなる 階層モジュラーアーキテクチャを出現させる  ネットワークとコ ンテンツの分離  デバイスとサー ビスの分離 12

13.

階層化モジュラーアーキテクチャは、モジュラーアーキテク チャと階層化アーキテクチャのハイブリッド デジタル技術の3つのユニークな特徴 • • • • • 固定した製品境界 一設計階層に基づく部 品 製品特有の部品 部品は製品特有の知 識を共有した企業に よって設計・製造 例:一眼レフ・カメラ • 流動化した製品境界 • 複数の設計階層に準拠した 異種の層 • 製品に不特定な部品 • 層は標準や異種の企業に よって共有されたプロトコー ルを通じて結合 • 例:Googleマップ 階層化モジュラーアーキテクチャによるイノベーション 13 は、レイヤー間の緩やかな結合によって醸成される。

14.

 デジタル化による階層モジュラーアーキテク チャは、イノベーションプロセスと成果の本質 を根本的に変える。 ① デジタルテクノロジープラットフォーム ② 分散型イノベーション ③ コンビナトリアルイノベーション の3面について論述する。 Y. Yoo et al., “Organizing for Innovation in the Digitized World ”, Organization Science, Vol. 23, No. 5, 2012, pp. 1398-1408 .

15.

特徴 ① デジタルテク ノロジープラット フォーム 内容  企業はプラットフォームを 作成することでイノベート  プラットフォームは、異種 アクターを含むエコシステ ムを形成 ② 分散型イノ  イノベーションプロセスを ベーション 「民主化」  イノベーション活動の場 所はますます組織の周 辺へ ③ コンビナトリア  ほぼ無限の再結合は、イ ルイノベーション ノベーションの新たな源  既存モジュールとも組み 合わせて、新しい製品や サービスを創出 戦略 要点は、如何に活 力あるプラット フォームを設計、 構築、維持するか 要点は、如何に組 織外の開発者を 活用するか 「全体的」設計図 を完全に把握でき なくても、頻繁に 設計し提供

16.

① デジタルテクノロジープラットフォーム:その含意  組織は、プラットフォーム上での微妙なバランスを管 理するように設計される必要がある。 【バランスを管理すべき課題】 組織がプラットフォームをあまりにも制御する と、サードパーティ開発者を駆逐する危険性 がある。 他方、組織が何も制御しないと、プラット フォームは断片化し、開発者と顧客の両方に とって役に立たなくなる可能性がある。

17.

② 分散型イノベーション:その含意 イノベーションは、他の人(開発者)がイノ ベーションすることをますます必要とする。  オープンデータ、API、SDKなどの新しい技術 的リソースで他人(開発者)を有効にできる。  • 高度に専門化されたニッチプレイヤー(開発 者)と、グローバルな支配力を達成する「スー パースター」の共存が、異種の知識体系を統 合する能力の結果として出現する。

18.

 伝統的な拡散モデルに替わって、SNSコンテ キストでのアイデア伝染の広がりが、さまざま な分野で関心を高めている。 • アイデアは普及するだけでなく、普及につれ て突然変異し、進化する。 ー 従来の伝染モデルは、イノベーションが広 がると仮定しているが、変化しないとも仮 定している。【従来のイノベーション理論の限界】

19.

③写真の事例:デジカメの歴史 • デジタルカメラの起源はNASAと米国諜報機 関・・・宇宙衛星画像を地球に戻す方法から • 1969年、Bell 研の研究者が電荷結合素子 (CCD)を発明・・・ CCDはカメラの光検出器に • 1972年、TIが電子カメラの特許取得 • 1975年、Kodakが最初のデジタルカメラ作成 • 1990年、 Kodakは1.3メガピクセルのプロ向 けデジタルカメラを発表 • 1994年、Appleは最初の消費者向けデジタ ルカメラQuick Take 100を発表 • 2003年、デジタルカメラはフィルムカメラ逆転 19 2010. Y. Yoo et al., “Unbounded Innovation with Digitalization: A Case of Digital Camera”, Academy of Management Annual Meeting

20.

デジタルカメラの進化と他テクノロジーとの統合 1975 1990 2000 1995 Kodak世界発 のデジカメ発表 デジタルカ メラの進化 2010 2005 Yahoo、 Flickr買収 Kodakフォト CD概念発表 日立、SONY、 MPEG、JPEG Kodakイン 準拠カメラ発表 ターネットを介 して写真共有 Kodakコンパク カシオLCD パネル導入 価格競争、スマートフォ ンとの競争になり破綻 トフラッシュメモ リーカード発表 リコー、世界初 のGPS対応デ ジカメ発表 他テクノロジー との統合 Kodak倒産 シャープ、最初 のカメラ付き携 帯電話発表 Altek、GPS チップ内蔵デ ジカメ発表 ノキア、世界最大の カメラメーカーに Android準 拠端末登場 iPhone登場 垂直統合時代 モジュラーアーキテクチャ時代 階層化モジュラーアーキテ 20 クチャ時代

21.

プラットフォームエコシステム ①デジタルテクノロジープラットフォームを④アプリ分野を対象にクローズアップ デジタルプラットフォームの特徴 物理的システムと異なり、デジタルプラットホー ムは、 1. サブシステム間の境界がよりゆるやかで、 2. 情報は非競合であるために各要素の再結 合がより安価に実現でき、 3. その結果、知識のスピルオーバーが容易化 され、再利用可能コードの拡大が促進させる。 G. Parker et al., “Platform Ecosystems: How Developers Invert the Firm”, MIS Quarterly, Volume 41, Issue 1, March 2017. 21

22.

④アプリの事例:開発者の位置づけ 価値創造が企業の内部から外部に移動している。 • デジタル商品は企業にスピルオーバーを最適化する 機会を与えており、 • 開発者の役割がデジタルエコシステムの中心になって、 • アプリ開発者のコ​​ミュニティが、企業価値を上昇させ反 転させる可能性を持ち出しているから。 コンテンツ 作成者 特性 ① 音楽 作曲家・演奏家 独自性・芸術性 ② 小説 作家 独自性・独創性 ③ 写真 消費者 ユニーク性・訴求性 ④ アプリ ソフト開発者 独自性・独創性 +ソフト開発の生産性 22

23.

開発者がデジタルプラットフォームで 重要である理由 • デジタル技術の機能・特性は、 – コードの可用性、 – コード開発のためのツールへの投資がゼロに近い低 コスト、 – 失敗コストを削減しつつアプリケーション成功からの 利益獲得を狙える、など • プラットフォーム企業が提供する訓練、プロジェ クト選択、調整プロセスに開発者は無制限に参 加可能なため、 • 結果的に、開発者はプラットフォーム拡張能力の 鍵となるから。 23

24.

階層モジュラーアーキテクチャとの関係 • イノベーションは、プラットフォームのリソース を使用してエコシステムのパートナーが生産 する製品やサービスを含むあらゆるデジタル アプリケーションそのもの • このようなプラットフォームは階層化モジュ ラーアーキテクチャ – これに、エコシステムを最適に制御するガバナンス ルールの追加を追加 • イノベーションの程度は、開発者がプラット フォーム上でデジタルアプリケーションを作成 する割合そのもの

25.

開発者にイノベーションの動機を 与えるには・・・重要な2側面 各種プラットフォームリソースのオープン化 – APIs、 – SDKs、 – コードライブラリ、 – テンプレートなどの提供 技術境界資源 より好ましい標準ライセンス契約(SLA)の提 供 – 新しいアプリに各種独占権など(知財、収益) 社会的境界資源 25

26.

Apple iOS vs Google Android (1) よりオープンなシステムの方が低価格

27.

Apple iOS vs Google Android (2) よりオープンなシステムの方がより速く成長

28.

オープン性のトレードオフへの対応 • コードがオープンなら、それは公開され簡単 にコピーされる。 • 誰も公開コードに課金することはできない。 • オープン性は、 コードのスピルオーバーを増加させ、イノベーション を促進するが、 課金する能力を低下させるコストも伴う。 • 【対応案】相反する利益のバランスを確保す るため、プラットフォームは、開発者がコードに 課金できる除外期間または非競争期間(t) を 設定することができる。

29.

【対応案】に関連する情報 • SAP:一定期間終了まで各々のイノベーションをコ ピーしないよう開発者に警告する18〜24ヶ月の 「空白」明示ロードマップを発行している。 – 期間終了後は、どの開発者のイノベーションもSAPコ アに吸収される可能性がある。 • Apple:開発者のイノベーションを適切なものにし、 それらをエコシステムで再利用する権利を留保 している。 • Cisco: 複数の開発者製品に登場している機能を コアネットワークOSにバンドルし、 APIでエコシス テムパートナーがアクセスできるようにしている。 29

30.

オープン性に関わる戦略的課題 (1)開発者のイノベーションを促進するため にプラットフォームをどの程度オープンにすべ きだろうか? (2)プラットフォームがイノベーションの成果 を吸収する前に、開発者にプラットフォーム 上での恩恵を享受させる権利をどの程度の 期間(t)取るのが適当だろうか? 30

31.

開発者競合モデルの分析結果 開発者競合を伴うモデル • 企業レベル、技術レベル、ユーザーレベルの オープン性の決定が市場全体のポテンシャ ルにどのように影響するかに焦点を当てたプ ラットフォームのオープン性の研究

32.

モデルの概要 エコシステムの構成者 プラットフォーマー Nd:開発者 Nu:ユーザー 開発者のイノベーションがオープンになる時点で価格はゼロにまで下がる。 ユーザーはアプリが将来無料になることを知っている。 戦略的ユーザーはp = vのイノベーションを消費するか、利率δ = e-rtで割引かれる 時刻tまで待つかの選択を最適化する。 待つオプションは、待つ人は将来の割引価値δvと比較して、即時消費の増分値v に対してのみ支払う。 一方、無関心な消費者は、p = v-δv= v(1-δ)以下の価格を受け入れる。 σ(%):オープン API,SDK、ライブラリ、参照図など V:開発者の開発したアプリケーション 搭載前のプラットフォームの価値

33.

• 分析フレームワークに開発者数(Nd)オー プン度(σ)、排他的期間(t)を組み込んだ 結果を次の4側面で論述する。 ① ② ③ ④ 競争と開発者リスク下での最適化 プラットフォーム競争 ネゴされたプラットフォーム・アクセス ネットワーク効果

34.

     個々の開発者が技術的失敗リスクに直面している 状態ではスピルオーバー効果は減少する可能性が ある。 成功率を上昇させると早期立上げが促進される。 あるいは、追加の開発者を参加させることでも技術 的失敗リスクを補える。 オープン性(σ)と適切性の間には最初に増加し、閾 値レベル後に減少する凹状の関係がある。 オープン性調整に摩擦がある際は、最初に最適で 無いσ (多め)を設定し、時間の経過とともに選択を 改善する可能性もある。

35.

参考情報 Laursen, K., and Salter, A. J. 2014. “The paradox of openness: Appropriability, external search and collaboration,” Research Policy (43:5), pp. 867–878.

36.

 他の条件を一定とすれば、プラットフォーム間競 争が激しくなればなるほど、プラットフォーマーの 直接的プラットフォーム利益は減少する。 ◦ 逆に、プラットフォームがライバルのプラットフォームからの圧 力に直面していない限り、プラットフォーマーはシステムをク ローズすることから来るより高い賃料を好む。  プラットフォーマーは、開発者のイノベーションか らの間接的利益を(長期的に)増加させるためプ ラットフォームをオープンにする動機がある。 36

37.

 1. 2. 3. プラットフォーマーは、ネゴされたアクセスのみ許可す ると、無許可アクセスも許可した場合に比べ3つの利 点を得る。 オープンイノベーションの補助金σ V を節約でき、プ ラットフォームからの直接販売利益を増加させられる。 ネゴした開発者は、オープン部分だけでなくプラット フォーム全体機能を利用してアプリ開発ができ、アウ トプットをy ( σ V ) からy ( V ) に増加させられる。 アプリケーション価格は単調に増加する。 ∵ユーザはオープンになるのを待ってアプリ購入ができなくなる から

38.

  しかし、それでも「無許可アクセス許容」からの利益が 垂直統合からの利益を上回る場合がある。 プラットフォームの利益π p をβ(スピルオーバー効果 の尺度)の増加関数と見做して表現する。 命題:垂直統合は、スピルオーバがない場合( β= 1) にはオープンプラットフォームより優れている。しかし、 他の全てのパラメータが一定で、ほどほどのスピル オーバーが存在すれば、オープンプラットフォームシ ステムは、β≧β(平均)の場合で且つその場合に限り、 垂直統合より優れている。 証明: 比例的にβを増加させると、スピルオーバー効果βを増加させる ことがオープンシステムπp(β)の利益を改善し、最終的には垂直統合 システムの利益πviを上回る。

39.

 プラットフォーマーが知らず、それ故に把握できない 開発者が居るから。 ◦ プラットフォーマーに自分やそのアプリが識別されると、自分の 斬新なアイデアが奪われるリスクがあると考える開発者がいる。 ∵プラットフォーマーは不可欠な資産を所有するので交渉力が 強く、アイデアを盗む力があるかもしれないから  クローズなシステムに比べて、オープンなシステムは 第三者の参加を促す。 ◦ オープン性は交渉のコストを削減し、自由再分配を促進し、 低価格をコミットし、水平統合を支援する。 ◦ また、一方のコミュニティ(開発者)にどのようにオープンな補 助金を与えるかが、別のコミュニティ(エンドユーザー)の価値 と参加を高める(両面市場理論)。

40.

    ネットワーク効果がない場合、プラットフォーマーは全 ての生産手段を所有する必要がある。 プラットフォームを外部の開発者にまで開放すると、 (i)ネットワーク効果が高まる、(ii)開発者のアウト プットが上がる、(iii)コンテンツがより再利用し易くなる、 などが生じる。 分散型イノベーションは交渉コスト無しで達成され、開 発者に自前アイデアを所有者に開示無しで市場に参 入するオプションを提供する。 リードタイムを保証したオープンイノベーションは、イノ ベーターを保護する情報非対称性を維持しつつ、強力 な独占プラットフォームを価値盗難からも防ぐ組合せを 実現する。

41.

結論 1. デジタル商品は企業にスピルオーバーを最適化す る機会を与え、開発者数が一旦閾値を超えると、 任意の開発者にオープン環境を提供するのが 有利になる。 2. 開発者間の競争は最初は開発者数増加を引き 起こし、スピルオーバーを促進するが、価格競 争に落ち込むため、逆U字形の関係になる。 3. より多くの開発者で高リスクのイノベーションを 追求する方がより多くの利益を上げられるが 、 開発者が多いほど、最適IPポリシーの元で提供 される専有期間(t)は短くなる。

42.

経営と政策への含意 • オープン性は、全ての生産を内製化する際に は発生しないR&Dスピルオーバーを促進する ので、開発者数が多くなる場合には無許可イ ノベーションが垂直統合を圧倒する。 ⇒その結果、プラットフォーム戦略が垂直統合戦略 よりも長期的成功確率が高くなり、企業を逆 転させる。 • 企業は、成長が予想できる場合には、①最初 は最適水準以上のオープン性を設定したり、 ②弱体な開発者のため、ネットワーク成長を 一定サイズに限定したり、など、時間経過と 共にプラットフォーム管理を制御できる。

43.

• プラットフォーム価値が充分高くなれば、所有者 は成長を刺激する必要がなくなる。 • その場合には、制御を再評価し、オープン性を制 限することで収益化を高めることができる(好む)。 – Androidは最初は成長促進のためオープンだったが、 Google Mapなどの重要APIを制御することでプラット フォームをクローズにして行った。 • 所有者は自前製品の利益最適化ではなく、コア 製品を共食いさせてでも、エコシステム価値最適 化を追求すべきである。 • 長期的にはこの方が有利なので、マネージャー の役割もこのような政策と整合するように変化さ せねばならない。 • エコシステム管理とは、コードを再利用できる知的 財産レジームの最適成長政策とも言える。

44.

考察とまとめ 何故米国巨大IT企業はかくも巨大化したのか? • 層を跨いだ異種リソースの境界の無い混在と マッチング能力から来る次世代育成能力が、 従来とは異なるイノベーションを誘発させた。 • 企業の能力が製品プラットフォーム設計時に 異なる階層から異種かつ予期しないコンポー ネントを引き付けられる能力に由来する側面 が登場した。 – 例:電子書籍におけるKindle vs iPadの関係 コンテンツ層 Amazon KindleとApple iPadは競合 サービス層 AmazonがiPadにリーダーアプリケーションを提供し連携 ネットワーク層 デバイス層 Amazon KindleとApple iPadは競合

45.

何故米国巨大IT企業はかくも巨大化したのか?(続) • 各要素の再結合が容易化され、デジタル化 がスピルオーバーを最適化する機会を登場さ せ、その担い手として開発者がデジタルエコ システムの中心に躍り出た。 • そして、開発者のイノベーションを促進するオー プン性とプラットフォーマーのジレンマを解決す るガバナンス手法を会得したグローバルな支 配力を保有する「スーパースター」と高度に専 門化した開発者との共存による劇的な異種 知識統合を出現させた。

46.

最近の事例 スキル数: 全体:30,000本 日本:600本 Alexa for Business ではSalesforce.comなど 業務アプリケーションベ ンダーがスキルを用意 企業ユーザー向けは「Alexa for Business Starter Kit」

47.

自動車もデジタル化に向けて進展中 純粋物理ビ ジネスモデル デジタルコンポー ネントを追加し た物理ビジネス モデル デ ジ タ ル 変 換 物理、デジタル 両コンポーネント の混在 新規、追加デジタ ルビジネスモデル デジタルに改訂され たビジネスモデル デジタルに豊富に したビジネスモデル 確立したビジネ スモデル 物理ビジネスモデル の(一部)削除 時間 Andre Hanelt, et al., “Digital Transformation of Primarily Physical Industries – Exploring the Impact of Digital Trends on Business Models of Automobile Manufacturers”, 12th International Conference on Wirtschaftsinformatik, March 4-6 2015, Osnabrück, Germany

48.

今後に向けた指針 • 企業毎にどのようなスタンスを取るか明確にす るのが出発点(∵SONY,トヨタ、XX(既存企業)、 YY(新規企業)などの相違は極めて大きい) • 基本的には経営力の問題の側面が大きい。 • しかし、雇用システムなど、経営力を束縛してい る側面も多いと推測される。 • 一般論としては、事例としての海外企業やSONY, トヨタ、など・・を深耕し、その上で各企業はそれ らを参考にするとともに、 • どのような分析手法があるかの学習や咀嚼も極 めて重要と考えられる。 – 現状はあまりにも疎かにされているのではないかと 思うので。

49.

おわりに • アプリ開発者をはじめとする多様な分散型イノ ベーションエージェンシーが登場している。 • これから益々彼等に依存したイノベーションが拡 大していくと推測される。 • プラットフォーム理論もこの変化に対応して行くと しても、多様なガバナンスの分析/工夫の必要性 はその枠を超えて行くかもしれない。 • 「プラットフォーム・ガバナンスの優劣を競う時 代の到来」と認識し、新たな取組みが必要か • 再度、ニーズとソリューションのマッチングを如何 に達成して行くかを最初から考察する取り組み見 直しが必要と思われる。