イラスト客観視のための部分遮蔽手法の検討

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February 15, 19

スライド概要

2019年1月25日のDCC研究会@石垣島にて発表させていただいたスライドです。

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

イラスト客観視のための 部分遮蔽手法の検討 明治大学 総合数理学部 4年 髙橋 拓 中村 聡史

2.

背景 誰もが気軽にイラストを制作・発信できるように!

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背景 誰もが気軽にイラストを制作・発信できるように!

4.

背景 とはいえ、イラストの上達は依然難しい 特に初心者の内は、 作画ミスが生じ、違和感のある絵になってしまう

5.

よくある作画ミスの例 顔が左右非対称 頭身(バランス)が おかしい 首の付き方が変 腕の曲がり方が不自然 など…

6.

客観視の重要性 ミスに気付くにはイラストの客観視が重要だが… あ、腕が変だ。直そう!

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客観視の重要性 ミスに気付くにはイラストの客観視が重要だが… あ、腕が変だ。直そう! 客観視そのものが困難!

8.

客観視は難しい 作画中、同じイラストを見続けていると どこに違和感があるのか分からなくなってくる

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客観視は難しい 作画中、同じイラストを見続けていると どこに違和感があるのか分からなくなってくる 普段なら気付けるような作画ミスであっても、 作画中や作画直後には全く気付けない

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客観視は難しい 作画中、同じイラストを見続けていると どこに違和感があるのか分からなくなってくる 普段なら気付けるような作画ミスであっても、 作画中や作画直後には全く気付けない 自分のイラスト 後日見返すと下手すぎ問題

11.

客観視は難しい https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1383467508

12.

客観視に関する事前調査 ・美術系の大学生4名を対象に調査 ・実際に絵を描いてもらい、作画直後と 数日後での感覚の比較を行った

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客観視に関する事前調査 ・美術系の大学生4名を対象に調査 ・実際に絵を描いてもらい、作画直後と 数日後での感覚の比較を行った ・この現象は全員に生じていた ・普段も悩まされている、との回答

14.

客観視に関する事前調査 ・美術系の大学生4名を対象に調査 ・実際に絵を描いてもらい、作画直後と 数日後での感覚の比較を行った 初心者・上級者に関わらず 誰にでも起こる現象 ・この現象は全員に生じていた ・普段も悩まされている、との回答

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この感覚は何故生じる? ・似た現象にゲシュタルト崩壊や順応が挙げられる → 同一の視覚刺激を見続けることで、 パターン全体の認知が歪んでしまう現象 [Faust, 1947][Leopold, 2001] ・制作中に同じイラストを見続けることによって、 認知の「慣れ」が生じている? 慣れが客観視を阻害しているのでは?

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慣れを低減するには? 時間を置いて「慣れ」を排除 ・時間がかかってしまう(数秒や数分では難しい) イラストを左右反転して確認 ・左右反転することで感覚が変化し、すぐにミスに気付ける と言われている手法 ・広く使われているが、関連した研究は見つからなかった ・事前調査においてその有用性を調査した結果、 「左右のバランスの狂い」に特化している可能性が得られた バランスではないより詳細なミスに気付くことは困難

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研究の大目的 時間を置いて「慣れ」を排除 ・時間がかかってしまう(数秒や数分では難しい) イラストを左右反転して確認 大目的 ・左右反転することで感覚が変化し、すぐにミスに気付ける と言われている手法 より多くのミスに気付くことのできる、 ・広く使われているが、関連した研究は見つからなかった 作画直後に使える客観視手法の実現 ・事前調査においてその有用性を調査した結果、 「左右のバランスの狂い」に特化している可能性が得られた バランスではないより詳細なミスに気付くことは困難

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調査で得られた体験談 よし、ミスは無いな!

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調査で得られた体験談 投稿! ……ん?

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部分的な遮蔽で客観視が可能? イラストの一部分を隠されたことで、作画中は 気付けなかった提示範囲内のミスに気付けた

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部分的な遮蔽で客観視が可能? イラストの一部分を隠されたことで、作画中は 気付けなかった提示範囲内のミスに気付けた 全体のつながりを切られることで、 慣れの低減が可能に?

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本研究の目的 イラストを部分的に遮蔽することで 即座に慣れを低減し 作画ミスに気付けるような手法の提案 ・有用性を明らかにしたのち、自動で遮蔽し、 提示するシステムの実装を目指す ・今回の研究においては、手法の対象のイラストを 「人物キャラクターの全身のイラスト」とする

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本研究の目的 イラストを部分的に遮蔽することで 即座に慣れを低減し 作画ミスに気付けるような手法の提案 ・有用性を明らかにしたのち、自動で遮蔽し、 提示するシステムの実装を目指す ・今回の研究においては、手法の対象のイラストを 「人物キャラクターの全身のイラスト」とする 一方で、トリミングするだけでは、 全体のバランスの狂いには気が付けない

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本研究の目的 イラストを部分的に遮蔽することで 即座に慣れを低減し 作画ミスに気付けるような手法の提案 視覚認知の特性に着目した ・有用性を明らかにしたのち、自動で遮蔽し、 提示するシステムの実装を目指す ・今回の研究においては、手法の対象のイラストを 「人物キャラクターの全身のイラスト」とする 一方で、トリミングするだけでは、 全体のバランスの狂いには気が付けない

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視覚の補完 ・アモーダル補完 [Michotte, 1991] ・遮蔽された箇所を整合性 のとれた形で補完する (四角の向こうの正円) ・これを遮蔽手法に応用

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部分遮蔽手法 一通り形になったのでミスを見つけたいが、 この絵がいいのか悪いのか分からない…

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部分遮蔽手法 一部分を遮蔽されることで、イラストの 視覚情報を削減し…

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部分遮蔽手法 提示された箇所のミスに 気付けるように!

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部分遮蔽手法 このとき同時に、遮蔽物の向こう側を よく想像(補完)した後に…

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部分遮蔽手法 遮蔽されていた範囲を再度確認することで、 本来描きたかったバランスとの相違に気付けるように!

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部分遮蔽手法 遮蔽されていた範囲を再度確認することで、 本来描きたかったバランスとの相違に気付けるように!

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部分遮蔽手法 遮蔽されていた範囲を再度確認することで、 本来描きたかったバランスとの相違に気付けるように!

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部分遮蔽手法のまとめ 提示範囲 ・細かなミスに気付ける? 遮蔽範囲 ・視覚の補完によって バランスの狂いに気付ける? 部分遮蔽→もう一度全体を観察で 即座の客観視が可能?

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遮蔽パターンの作成 イラスト内の視覚情報が 丁度半分になるように遮蔽

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実験 「イラストの部分遮蔽手法が客観視に対して有用」 といった仮説の検証

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実験 「イラストの部分遮蔽手法が客観視に対して有用」 といった仮説の検証 作画タスク 気付きに関するアンケート (修正したい箇所の記入)

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実験 「イラストの部分遮蔽手法が客観視に対して有用」 といった仮説の検証 ・作画直後(慣れアリ) ・部分遮蔽手法 ・2日後(慣れナシ) ・感覚変化 ・視線計測 気付きに関するアンケート

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実験協力者の選定 ・実験協力者は情報系の大学生5名 ・このときイラスト制作経験が全くないと、 客観視できる形まで人物を描き切ることが難しい ・一定以上のデジタルイラスト制作経験が ある初心者・中級者を対象とした (目安として、実験から3カ月以内にデジタルで 人物を描いたことのあるイラスト経験者)

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実験 「イラストの部分遮蔽手法が客観視に対して有用」 といった仮説の検証 作画タスク 気付きに関するアンケート (修正したい箇所の記入)

40.

作画タスク ・制限時間80分で線画まで制作 ・制作環境はこちらで用意 ・時間内に描き終わらなかった場合でも、 線画終了まで作画を続ける ・作画ミス誘発のため、苦手な構図・ポーズを指定 ・緊張が実験結果に影響を及ぼさないように、 他者の目が無く、リラックスできる環境で制作

41.

実験 「イラストの部分遮蔽手法が客観視に対して有用」 といった仮説の検証 作画タスク 気付きに関するアンケート (修正したい箇所の記入)

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気付きに関するアンケート 作画直後に単純に眺める ・1分の視線計測→修正したい箇所の記入(無制限) 部分遮蔽手法の適用 ・それぞれの遮蔽パターンで1分間眺め同時に視線計測→ 遮蔽を取って1分間の視線計測→ 修正したい箇所の記入(無制限) これを×4パターン 2日後に単純に眺める ・1分の視線計測→修正したい箇所の記入(無制限)

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実験結果 A B C D E 作画直後 2 5 7 5 4 部分遮蔽 2 4 11 4 5 時間経過 2 3 4 0 2 合計 6 12 22 9 11 作画直後は慣れの状況下でも気付けるミス →作画を継続していれば修正可能だった 部分遮蔽・時間経過で新たに得られた気付きに 着目し分析していく

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実験結果 A B C D E 部分遮蔽 2 4 11 4 5 時間経過 2 3 4 0 2

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実験結果 A B C D E 部分遮蔽 2 4 11 4 5 時間経過 2 3 4 0 2 部分遮蔽による感覚変化(一部) ・「隠れていた箇所のバランスの悪さが目に付くように なった」 ・「変な所が際立って見えた。特に足の歪みに気が付いた」 ・「隠された方のミスに気が付けた気がする」

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実験結果 A B C D E 部分遮蔽 2 4 11 4 5 時間経過 2 3 4 0 2 提案手法によって、実際に 部分遮蔽による感覚変化(一部) イラストの客観視ができている! ・「隠れていた箇所のバランスの悪さが目に付くように なった」 ・「変な所が際立って見えた。特に足の歪みに気が付いた」 ・「隠された方のミスに気が付けた気がする」

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実験結果 A B C D E 部分遮蔽 2 4 11 4 5 時間経過 2 3 4 0 2

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実験結果 A B C D E 部分遮蔽 2 4 11 4 5 時間経過 2 3 4 0 2 時間経過による感覚変化(一部) ・「実験終了後は自分の絵を見過ぎてゲシュタルト崩壊して いたが、1日置くことで客観的に見ることができた」 ・「前以上におかしい点が気になった」 ・「前見た時より下手な気がした。バランスが崩れている 感じがした」

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実験結果のまとめ ・部分遮蔽手法によって、作画直後に眺めるだけでは 気付けなかったミスにも気付けるようになった ・一方で、時間経過でないと気付けないミスも複数 見られた(慣れの完全な低減が難しかった) 部分遮蔽手法はイラスト客観視に ある程度有用である

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考察 部分遮蔽手法は以下のミスに有効だったのか? 提示範囲内の 細かなミス 遮蔽範囲の バランスの狂い

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考察(遮蔽範囲のバランス) イラスト全体のバランスに関する気付きは全体で3個

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考察(遮蔽範囲のバランス) イラスト全体のバランスに関する気付きは全体で3個

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考察(遮蔽範囲のバランス) イラスト全体のバランスに関する気付きは全体で3個 Bさん「頭身が足りないかも」

54.

考察(提示範囲の詳細なミス) 手法適用時に提示範囲内にあった詳細な作画ミスの 気付きは、全体で7 個

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考察(提示範囲の詳細なミス) 手法適用時に提示範囲内にあった詳細な作画ミスの 気付きは、全体で7 個

56.

考察(提示範囲の詳細なミス) 手法適用時に提示範囲内にあった詳細な作画ミスの 気付きは、全体で7 個 Dさん「首が長い」

57.

考察 部分遮蔽手法は以下のミスに有効だった 提示範囲内の 細かなミス 遮蔽範囲の バランスの狂い

58.

考察 部分遮蔽手法は以下のミスに有効だった 提示範囲内の その他にも本手法が有効な 細かなミス ミスの種類があった 遮蔽範囲の バランスの狂い

59.

考察(遮蔽範囲の詳細なミス) 最も多い気付きは「遮蔽範囲」内にあった 「詳細なミス」であり、全体で10個

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考察(遮蔽範囲の詳細なミス) 最も多い気付きは「遮蔽範囲」内にあった 「詳細なミス」であり、全体で10個

61.

考察(遮蔽範囲の詳細なミス) 最も多い気付きは「遮蔽範囲」内にあった 「詳細なミス」であり、全体で10個

62.

考察(遮蔽範囲の詳細なミス) 最も多い気付きは「遮蔽範囲」内にあった 「詳細なミス」であり、全体で10個 ・剣先のよごれを取りたい ・顔のよごれを取りたい ・右の鎧の外側の線を細くしたい ・髪を描きたしたい

63.

考察(遮蔽範囲の詳細なミス) 最も多い気付きは「遮蔽範囲」内にあった 「詳細なミス」であり、全体で10個 ・剣先のよごれを取りたい ・顔のよごれを取りたい ・右の鎧の外側の線を細くしたい ・髪を描きたしたい

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考察(遮蔽範囲の詳細なミス) 最も多い気付きは「遮蔽範囲」内にあった 「詳細なミス」であり、全体で10個 遮蔽し、再確認することで 多くのミスに気付けるように! ・剣先のよごれを取りたい ・顔のよごれを取りたい ・右の鎧の外側の線を細くしたい ・髪を描きたしたい

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まとめ ・部分遮蔽手法によって客観視が可能だった ・しかし、慣れの低減といった観点においては 時間経過程の効力は無かった ・様々なミスに気付くことが可能だった ・遮蔽範囲内の詳細なミスに特に有効だった

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今後の展望 ・より客観視に有効な遮蔽方法や遮蔽範囲の調査 ・本手法が人物イラスト以外にも適用可能かの調査 ・手法によって得られた気付きをその場で修正して もらったときの満足度の調査 ・有効な遮蔽パターンを自動で作成するシステムの 実装、および本システムを搭載したペイントツール やその拡張機能の開発を検討