周辺視野への視覚刺激の提示が読み込み中のページ離脱率に及ぼす影響

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September 12, 23

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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1.

周辺視野への視覚刺激の提示が 読み込み中のページ離脱率に及ぼす影響 小川剣二郎 明治大学B3 三山貴也 青木柊八 中村瞭汰 中村聡史(明治大学) 山中祥太(ヤフー株式会社) 1

2.

背景 Webページを表示する際、読み込みによって待機時間が発生 モチベーションの低下 ストレス ページからの離脱 プログレスバーのような視覚的フィードバックが有効 プログレスバーによる時間提示は、テキストによる時間提示や 時間提示無しの場合に比べ、体感時間を短縮する [Gronierら 2008] G. Gronier, and S. Gomri, “Etude des métaphors temporelles sur la perception du temps d'attente,” Proceedings of the 20th International Conference of the Association Francophone d'Interaction Homme-Machine, pp.205-208, Metz, France, Sept.2008. 2

3.

関連研究 プログレスバーに関して ⚫ アニメーションの加速度を変更することによって、速度を速く 知覚する [Kurokiら 2015] ⚫ 形状は体感時間には影響せず、後半に加速、あるいは減速する と体感時間が短縮される [Kimら 2017] ⚫ 中心視野にプログレスバーが提示されている場合、周辺視野へ 視覚刺激を提示することで体感時間が増減する [松井ら 2019] Y. Kuroki, and M. Ishihara, “Manipulating Animation Speed of Progress Bars to Shorten Time Perception,” HCI International 2015 - Posters’ Extended Abstracts, pp.670-673, Los Angeles, USA, Aug.2015. W. Kim, and S. Xiong, “The Effect of Video Loading Symbol on Waiting Time Perception,” Design, User Experience, and Usability: Understanding Users and Contexts, pp.105-114, Vancouver, Canada, July 2017. 松井啓司, 中村聡史, 鈴木智絵, 山中祥太, “周辺視野への視覚刺激提示によるプログレスバーの主観的な待機時間短縮手法,” 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), vol.2019-HCI-181, no.25, pp.1-6, Jan.2019. 3

4.

関連研究 プログレスバーの周辺への視覚刺激の提示 体感時間を短縮するのに効果的な視覚刺激の調査 [小川ら 2023] 横向き 縦向き 楕円回転 小川剣次郎, 青木柊八, 中村瞭汰, 中村聡史, 山中祥太, “PCとスマートフォンにおけるプログレスバーと周辺視野への視覚刺激の提示による体感時間短縮効果の調査,” 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), vol.2023-HCI-202, no.55, pp.1-7, Mar.2023. 4

5.

関連研究 プログレスバーの周辺への視覚刺激の提示 体感時間を短縮するのに効果的な視覚刺激の調査 [小川ら 2023] 横向き 縦向き 楕円回転 PC上では横向きの視覚刺激が効果的 5

6.

関連研究 プログレスバーに関して ⚫ プログレスバーの体感時間を回答する実験において、 数え方によって体感時間が変動する [青木ら 2021] ⚫ 開始と同時に0秒から数える人 ⚫ 開始と同時に1秒から数える人 ⚫ 開始後に少しの間をあけて0秒から数え始める人 ⚫ 開始後に少しの間をあけて1秒から数え始める人 青木柊八, 中村瞭汰, 中村聡史, 山中祥太, “プログレスバーの周辺の視覚刺激と数え方による体感時間の変化の調査,” 情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータ インタラクション(HCI), vol.2021-HCI-195, no.31, pp.1-8, Dec.2021. 6

7.

関連研究 プログレスバーの周辺への視覚刺激の提示 体感時間を短縮するのに効果的な視覚刺激の調査 [小川ら 2023] 待機時間中のユーザの行動を 加味した調査を行いたい 横向き 縦向き 楕円回転 PC上では横向きの視覚刺激が効果的 7

8.

関連研究 Webの待機時間に関して ⚫ コンシェルジュのキャラクタと文章をスマートフォンの画面に表示 することによって、通信の遅延によるQoEの低下を緩和できる [白井ら 2017] ⚫ 旅行サイトにおいてページが3秒以内に表示されない場合、57%の ユーザがそのページの閲覧を諦めて離脱する [SmartBear 2012] 白井丈晴, 藤田真浩, 荒井大輔, 大岸智彦, 西垣正勝, “スマートフォンの通信遅延におけるユーザのアウェアネスとQoEの関係に関する基礎検討,” 情報処理学会論文誌, vol.58, no.12, pp.1901-1911, Dec.2017. K. Peiguss, “The Cost of Poor Web Performance[INFOGRAPHIC],” SmartBear, https://smartbear.com/blog/the-cost-of-poor-web-performanceinfographic/, Nov.2012. 8

9.

目的 待機時間中のユーザの行動として ページからの離脱が想定される Webページの読み込み中に プログレスバーと視覚刺激を提示することが ページ離脱率に及ぼす影響を調査 9

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実験 実験概要 ⚫ 複数のページが検索結果のように一覧提示されている状況で、 必要な情報をページ遷移して探す場面を想定 ⚫ 各ページの読み込みにランダムな遅延を入れ、その読み込み 時間におけるページ離脱率を調査 ⚫ クラウドソーシングを利用して大規模に実験 10

11.

実験 Web実験環境統制システムの実装 実験参加者のPC上でWebシステムを用いた実験を行う場合の問題点 ⚫ 実験環境による画面サイズの違い ⚫ 動画の視聴やWeb閲覧など、ながら作業での実験参加 ⚫ ブラウザにおいて使用してほしくない機能やボタン これらが実験に影響を及ぼす可能性がある 11

12.

実験 Web実験環境統制システムの実装 フルスクリーン上にブラウザを模したインタフェースを提示し、 そのインタフェース上でブラウジングを行う ⚫ インタフェースのピクセル数を統一し、サイズを統制 ⚫ フルスクリーン表示によって他の作業をできないように ⚫ ページ遷移をインタフェース内のリンクとボタンに限定 Web上での実験の問題点に対して可能な限り対策を行う 12

13.

実験 Web実験環境統制システムの実装 フルスクリーン上にブラウザを模したインタフェースを提示し、 そのインタフェース上でブラウジングを行う 解像度 1920×1080 解像度 3840×1600 13

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実験 実験手順 実験の流れ(1アクセス) 検索結果画面 読み込み中の画面 ページ内容 14

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実験 実験手順 実験の流れ(1アクセス) 検索結果画面 読み込み中の画面 ページ内容 ページ離脱 15

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実験 実験手順 参加者は5分間の制限時間で全10ページを閲覧しながら 5問の問題に解答することが求められる 16

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実験 実験条件 ページ読み込み中の画面表示方法 スロバーのみ プログレスバーのみ プログレスバーと 周辺視野への視覚刺激 (スロバー条件) (プログレスバー条件) (プログレスバー+視覚刺激条件) 17

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実験 実験条件 ⚫ ページ読み込み時間の条件は、1~10秒を1秒ずつ区切った秒数 ⚫ 読み込み時間はページにアクセスするごとにランダムに決定 ⚫ 1人の実験参加者について、読み込み中の画面表示方法は 1種類に限定 18

19.

実験 仮説 ⚫ 残りの読み込み時間が可視化されていないため、 スロバー条件ではプログレスバーを利用する条件 に比べ離脱率が高くなる ⚫ プログレスバー+視覚刺激条件では体感時間が短縮 されて離脱率が減少する 19

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結果 実験参加者 Yahoo!クラウドソーシングにおいて、PCを対象として実験を依頼 実験参加者:600人(男性300人、女性300人) 分析対象外となる参加者を除外 ⚫ 不適切なユーザIDを入力:6人 ⚫ 実験中のページアクセス数が5未満:24人 ⚫ 解答するように求められた問題に対して正解がない:141人 20

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結果 実験参加者 分析対象:429人(男性220人、女性209人) 男性 女性 合計 スロバー 66 73 139 プログレスバー 81 68 149 プログレスバー+視覚刺激 73 68 141 全体 220 209 429 21

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結果 ページ離脱率 各条件におけるページ離脱率 スロバー 2.07% プログレスバー プログレスバー +視覚刺激 1.38% 1.39% スロバー条件では、プログレスバー条件や プログレスバー+視覚刺激条件に比べて 離脱率が高くなる傾向 22

23.

結果 ページ離脱率 各条件におけるページ離脱率 プログレスバー 1.38% プログレスバー +視覚刺激 1.39% プログレスバー+視覚刺激条件の離脱率は プログレスバー条件との差がなかった 23

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結果 ページ離脱率 プログレスバー条件では プログレスバー+視覚刺激条件に比べ 離脱率が上昇するのが早い 特定の待ち時間までの累積離脱率 24

25.

結果 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 25

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結果 離脱の発生時間 ページ離脱が発生したタイミング(スロバー) 読み込み時間が7秒のページで 読み込み開始から5秒付近で離脱 26

27.

結果 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 スロバー条件において離脱の発生時間が分散している 27

28.

結果 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 標準偏差 2.37秒 標準偏差 1.27秒 標準偏差 1.68秒 28

29.

結果 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 スロバー条件において 読み込み完了まで残りわずかでの離脱がみられる 29

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結果 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 プログレスバーを利用する条件では、 3~4秒までに発生した離脱が多い 30

31.

結果 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 プログレスバー+視覚刺激条件では、 プログレスバー条件に比べ離脱の発生が少し遅くなる傾向 31

32.

考察 ページ離脱率 離脱の発生時間 (スロバー) 各条件におけるページ離脱率 スロバー 2.07% プログレスバー プログレスバー +視覚刺激 1.38% 1.39% スロバーでは残りの読み込み時間が可視化 されていないため離脱が発生 32

33.

考察 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング スロバー プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 プログレスバーが表示された場合、ユーザは読み込みが 長いことを察知するとすぐに離脱する可能性 33

34.

考察 離脱の発生時間 各条件においてページ離脱が発生したタイミング プログレスバー プログレスバー+視覚刺激 わずかな体感時間の短縮によって、 ユーザが待機できる時間が少し長くなっている 34

35.

考察 ページ離脱率 [松井ら 2019]によると、待機時間が 2~4秒では体感時間の短縮効果が あるが、5~8秒では延長効果がある 特定の待ち時間までの累積離脱率 35

36.

考察 実験設計 実験において発生した離脱が非常に少なかった原因 ⚫ ページの情報に独立性が高く、代替のページが存在しない ⚫ ページの読み込み時間が完全にランダムであった ページ離脱が多く発生するような実験設計を行う 36

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考察 実験システム Web実験環境統制システムについて ⚫ 過去の研究においても、画面サイズなどの問題が影響している可能性 ⚫ 画面の解像度やDPIが異なるため実際の画面サイズを統一できない システムを改良し、様々な環境に対応して適切な条件下で実験 37

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まとめ 背景:Webページの読み込み中にページ離脱の発生が想定される 目的:プログレスバーと周辺視野への視覚刺激が読み込み中のページ離脱率 に与える影響を調査 実験:Web実験環境統制システムを実装し、読み込み中の画面表示を スロバーのみ、プログレスバーのみ、プログレスバー+視覚刺激 の3種類として離脱率を比較 結果:スロバーではプログレスバーより離脱率が高く、視覚刺激を用いると 離脱までの時間が少し長くなる傾向 考察:スロバーでは読み込みが可視化されていないため離脱率が高く、 視覚刺激を用いるとわずかな体感時間の短縮によって待機できる 時間が少し長くなる 38