選択肢の時間差表示が選択行動に及ぼす影響

1.3K Views

May 16, 23

スライド概要

ユーザを騙して意図していないことを実行させるダークパターンが問題になっている.我々は,選択インタフェースとして一見公平でありながらも,実際には選択を誘導しているダークパターンが存在すると考え,研究に取り組んできている.本稿では,選択肢の遅延表示は選択を誘導しないが,先行表示は選択を誘導するという仮説のもと,選択肢を遅延表示した場合と,先行表示した場合の選択誘導の効果を評価する実験をクラウドソーシング上で実施した.実験の結果,選択肢を遅延表示したときはその選択肢が選ばれやすい傾向はないが,先行表示したときはその選択肢が選ばれやすい傾向があることがわかった.また,先行表示した選択肢が選ばれた場合は選択時間が短かった一方で,選ばれなかった場合は選択時間が長かったことが明らかになった.

profile-image

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

シェア

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

選択肢の時間差表示が 選択行動に及ぼす影響 木下裕一朗 関口祐豊 植木里帆 横山幸大 中村聡史 明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 1

2.

遅延表示は誘導せず,先行表示は誘導する 2

3.

遅延表示(0.1秒) 3

4.

遅延表示(0.3秒) 4

5.

遅延表示(1秒) 5

6.

先行表示(0.1秒) 6

7.

先行表示(0.3秒) 7

8.

先行表示(1秒) 8

9.

広がるダークパターン Webやモバイルアプリでダークパターンが多く見られる ダークパターン:ユーザを騙して意図していないことを実行させる SALE終了まで 00:25:12 カウントダウンタイマー Accept decline 片方のボタンを目立たせる 9

10.

ダークパターンに関する研究 アメリカの上位200のEコマースサイトでは, 衝動買いを促進する機能が複数使われている [Moserら 2019] 240の人気モバイルアプリのうち, 約95%がダークパターンを使用 実験参加者589人のうち,約25%の人しか ダークパターンの存在に気づかなかった [Di Geronimoら 2020] C. Moser, S. Y. Schoenebeck, and P. Resnick, “Impulse Buying: Design Practices and Consumer Needs.” Proceedings of the 2019 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems,” no.242, pp.1-15, 2019. L. Di Geronimo, L. Braz, E. Fregnan, F. Palomba, and A. Bacchelli, “UI Dark Patterns and Where to Find Them: A Study on Mobile Applications and User Perception.” Proceedings of the 2020 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems, pp.1-14, 2020. 10

11.

ダークパターンに関する研究 ユーザはあからさまなダークパターンに対して 否定的な感情を抱くが,目立たないダークパターンに対しては 感情的な反発を抱かない [Luguriら 2021] 一見誘導していないように見えるダークパターンは ユーザに受け入れられてしまう J. Luguri, and L. J. Strahilevitz, “Shining a light on Dark Patterns.” Journal of Legal Analysis, vol.13, no.1, pp.43-109, 2021. 11

12.

公平に見えて誘導するインタフェース 文字フォント [川島ら 2019] プログレスバー [Yokoyamaら 2021] 川島拓也, 築舘多藍, 細谷美月, 山浦祐明, 中村聡史, “商品選択においてフォントがフォントがユーザの選択行動に及ぼす影響の調査,” 電子情報通信学 会 ヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS) HCS2019-16, vol.119, no.38, pp.113-118, 2019. K. Yokoyama, S. Nakamura, and S. Yamanaka, “Do Animation Direction and Position of Progress Bar Affect Selections?,” 18th IFIP TC 13 International Conference on Human-Computer Interaction - INTERACT 2021, vol.12936, pp.395-399, 2021. 12

13.

これまで行った研究 システムや通信の問題で画像が遅れて表示される 選択肢の遅延表示が選択を誘導する? 13

14.

遅延表示の選択誘導可能性 選択率は期待値と同程度(16.92%) 選択時間や遅延位置によって誘導する可能性 選択時間が短い人に,左上の選択肢を0.1秒遅らせたとき 選択時間が長い人に,中央の選択肢を0.2秒遅らせたとき 14

15.

先行表示は選ばれやすい? 遅延表示が期待値程度になった理由 先に表示された選択肢に注意が向けられたため 1つの選択肢を少しだけ早く提示すれば選ばれやすい? 15

16.

過去の研究の問題点 選択の大きな偏り,不真面目な実験参加者の除去不足 ➡ 質問・選択肢内容の変更,ダミー質問の追加 先行表示の誘導効果を検証 遅延表示の誘導効果を再検証し,先行表示と比較 16

17.

仮説 遅延表示の場合は選ばれやすくなく, 先行表示の場合は選ばれやすい 17

18.

実験設計 選択誘導を検証する質問(15問) 好きな野菜,気になる名前の山,行ってみたい国など 時間差表示を行うのは5問のみ ダミー質問(15問) 世界で一番高い山,現在の西暦,特定の選択肢を選ぶものなど 18

19.

実験設計 時間差は0.1,0.2,0.3秒からランダムに決定 質問の提示順序や選択肢の表示位置もランダム Yahoo!クラウドソーシングで2,000名に実験協力を依頼 19

20.

不真面目な実験参加者の除去 除外条件 ダミー質問で2問以上が不正解 平均選択時間が1秒以下 or 10秒以上 選択肢を見ていない or 他のことをやっている可能性 同じ場所のみを選択 適当に選んでいる可能性 分析対象 遅延表示:1,487名 先行表示:1,489名 20

21.

時間差表示なし時における選択の偏り 6つの質問において選択が偏った 21

22.

時間差表示なし時における選択の偏り 残りの9つの質問を分析対象とした 22

23.

遅延は誘導しないが,先行は誘導する 期待値は16.67% 仮説通りの結果となった 時間差 0.1秒 遅延 17.33 先行 18.09 0.2秒 16.50 19.78 0.3秒 15.13 18.62 平均 16.31 18.83 23

24.

平均選択時間(秒)についての結果 時間差なし 時間差対象を選択 時間差対象以外を選択 遅延 4.06 4.03 4.10 先行 4.13 3.97 4.36 24

25.

時間差表示なし時の位置ごとの選択率 25

26.

時間差表示あり時の位置ごとの選択率 26

27.

遅延時間ごとの選ばれやすい位置 27

28.

遅延時間ごとの選ばれづらい位置 28

29.

先行時間ごとの選ばれやすい位置 29

30.

先行表示が選ばれやすい理由 遅延表示における選択率:16.31% 先行表示における選択率:18.83% 初頭効果により先行表示した選択肢は選ばれやすい 最初に目についたものが強く印象に残る 30

31.

時間差表示が選択時間に与える影響 遅延対象を選んだ場合と選ばなかった場合で差がない 先行対象を選んだ場合はわずかに選択時間が短い ➡ 遅延表示は誘導せず,先行表示は誘導する 時間差なし 時間差対象を選択 時間差対象以外を選択 遅延 4.06 4.03 4.10 先行 4.13 3.97 4.36 31

32.

選択率が変化する理由(遅延) 視線を向けたタイミングと遅延表示のタイミングが 嚙み合ったときに選ばれやすい 初頭効果の影響で右の選択肢は印象に残りづらい 32

33.

選択率が変化する理由(先行) 先行時間が長いとき初頭効果がより大きく影響 視線の動きが選択に影響 33

34.

展望 アイトラッカーを用いて視線の動きを取得 異なる時間差における誘導効果を検証 34

35.

まとめ 問題:公平に見えて誘導する選択インタフェースが存在 目的:遅延表示と先行表示の誘導効果の検証 結果:遅延表示は誘導せず,先行表示は誘導する 考察:初頭効果や視線の動きが選択に影響 展望:視線の計測,異なる時間差における誘導効果の検証 35