遂行の意思に関する選択肢を用いたタスク消化促進手法

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February 12, 20

スライド概要

日常生活を送るうえでやるべきことは多数あり,人はこれをタスクとして設定し,消化しながら生活している.しかし,状況などによってすぐにタスクが消化できないことが続き,タスクを蓄積してしまう人は少なくない.これを防ぐため,タスクを手帳やリマインダー,ToDoリスト,最近ではスマートフォンアプリケーションを用いてタスク管理を行っている人も多いが,それでもタスクを消化できないことは少なくない.これは,従来のタスク管理手法では人がタスクを遂行するに至るまでのモチベーションへと結びついていないことが要因であり,ユーザ自身でタスク遂行に対するモチベーションが向上させるような手法やきっかけが重要であることが考えられる.
ここで,過去の研究において,自身が行動を決定することによる内発的な動機付けによって行動へのモチベーションが向上し,行動の集中力やパフォーマンス,学習効果などを高めることに繋がることが明らかになっている.この自己決定による内発的動機付けをタスク管理に用いることで,ユーザのタスクに対するモチベーションを向上させ,タスクの遂行を促進することでタスクの未消化を防ぐことができるのではないかと考えられる.
そこで,「タスクに取り組む」という遂行の意思を選択することによって,タスクに対するモチベーションを向上させ,タスク遂行を推進する手法を提案する.具体的には,タスクに対する通知に付随する「する」「しない」の2つの選択肢の中から「する」を選ぶ.この行為が「タスクを『する』」という自己決定による内発的動機付けとなり,タスク遂行のモチベーションが向上し,タスクの未消化を防ぐことができるのではないかと考えられる.本稿では,提案手法について,毎日継続してできるタスクを用いた,通知方法の違いによる比較実験を行うことにより,提案手法がタスク遂行に与える影響や有用性,提案手法と相性がいいタスクなどについて明らかにした.また,提案手法に基づくプロトタイプシステムを実装し,ユーザからのフィードバックを得ることによって,タスク管理システムにおける提案手法の有用性を明らかにした.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

遂行の意思に関する 選択肢を用いた タスク消化促進手法 2722172039 神山拓史 (中村研究室)

2.

提案手法 選択肢から遂行の意思を選ぶことで タスク遂行のモチベーションを高め, タスクの消化を促進する!

3.

背景 -タスクの未消化- ひとはタスクを設定して消化しながら生活する ★ ★ タスクの種類は様々存在 ✦ 英単語を暗記 ✦ 論文の査読 ✦ 取引先にメールを送信 タスクを消化しきれないために蓄積されてしまう ✦ 時間や場所の制約 ✦ タスクの負荷や優先度 ✦ 自身のやる気や疲労度

4.

背景 -タスクの管理- タスク管理の需要 ★ ★ タスク管理ツールの使用率 [Microsoft, 2008] ✦ アメリカ:76% ✦ 日本:54% スマホ用タスク管理アプリ “Wunderlist” ✦ 2016年には1900万DLを記録 ✦ 2017年にMicrosoftが買収 ✦ スマホを用いたタスク管理の需要は高まっている 2019年に“Microsoft To Do”がリリース ๏ DL数は急上昇中

5.

背景 -関連研究- タスク管理ツールの問題点 ★ タスクが記憶と結びつかない ✦ ★ タスクを関連深いものと結び付けて管理 [Belloti, 2004] タスク遂行のモチベーションが上がらない ✦ ゲーミフィケーションを用いた手法 [Kuramoto, 2005] ✦ マイクロブログを用いたタスク意欲向上 [谷岡, 2015] それでもタスク消化につながらない場合も ★ 他者を巻き込む必要がある ★ 目標を人に話すと達成した気になる [Gollwitzer, 2009]

6.

背景 -内発的動機付け- 内発的動機付けと自律性 [Ryan, 2000] ★ 内発的動機付けによってモチベーションが向上すると 集中力やパフォーマンスを高めることに繋がる ✦ 外発的動機付け:外的要因 ๏ 賞罰 ๏ 強制 など ✦ 内発的動機付け:内的要因 ๏ 有能性 ๏ 関係性 ๏ 自律性

7.

背景 -内発的動機付け- 内発的動機付けと自律性 [Ryan, 2000] ★ 内発的動機付けによってモチベーションが向上すると 集中力やパフォーマンスを高めることに繋がる ✦ 外発的動機付け:外的要因 ๏ 賞罰 ๏ 強制 など ✦ 内発的動機付け:内的要因 自分でタスクの遂行を選択することで ๏ 有能性 内発的動機付けを促して ๏ 関係性 タスク消化のモチベーションを高めることが重要 ๏ 自律性: 自己決定による要因

8.

目的 タスク遂行を推進させて,タスク消化を促進! 選択肢から遂行の意思を選んでタスク消化を促進 ★ 「タスクを『する』」を押す ➡︎ 自律性のある行動 ✦ 内発的動機付けに直結 ๏ タスク遂行に対するパフォーマンスを向上させ タスク消化を促進!

9.

予備実験 従来の通知手法と提案手法の比較実験 ★ 意思のボタン選択によるタスク遂行の影響を調査 ★ 示唆された提案手法の可能性 ✦ 積極性の向上 ✦ 計画性の向上

10.

本実験 -仮説- 選択肢の中からタスクを「する」を選ぶと タスクを取り組むようになる 「する」を選ぶことに着目した比較実験 ★ 提案手法の有用性を検証 ✦ タスクの遂行率 ✦ 相性の良いタスク ✦ 相性の良い人

11.

本実験 -実験概要- ボタンの押下に着目した比較実験 ★ 2手法をランダムで通知して,ボタン押下の影響を調査 ✦ 大学生18名に8タスクを2週間取り組んでもらう ๏ 8:00〜24:00までの2時間ごとにどこかで1回通知がくる ✦ 実験システムはiOSアプリとして実装 比較手法 提案手法

12.

本実験 -実験内容- 本実験のタスクに関して ★ 5分程度で,すぐ取り組めて,簡単な継続できるタスク 1. mikan(英単語アプリ)で10単語分をテスト 2. StudyNow(英語ニュースアプリ)で1記事閲読 3. Brain Wars(対戦系脳トレアプリ)で1マッチ 4. Flow Free(脳トレアプリ)で2問解答 5. 謎解き母ちゃん(謎解きアプリ)で1問解答 6. 基本情報技術者過去問道場というサイトで3題解答 7. GIGAZINE(Web記事)を1記事閲読 8. カーフ・レイズ(ふくらはぎの筋トレ)を10回遂行

13.

本実験 -実験内容- タスクに関するアンケート ★ タスクに関する通知の選択肢を押下して30分後に通知 ✦ どの程度すぐタスクを取り組んだかを調査 ๏ すぐ取り組んだ ‣ 選択肢を押してすぐ遂行 ๏ 少し経ってから取り組んだ ‣ アンケート通知までに遂行 ๏ あとでやる ‣ 今日このあと遂行するつもり ๏ 今日はやらない

14.

本実験 -遂行率- 遂行率について ✦ 遂行率 = “すぐ取り組んだ” + “少し経ってから 取り組んだ” + “あとでやる”

15.

本実験 -遂行率- 遂行率について ★ 両手法に差はない ✦ 遂行率 = “すぐ取り組んだ” + “少し経ってから 取り組んだ” + “あとでやる”

16.

本実験 -30分以内遂行率- 30分以内遂行率について ✦ 30分以内遂行率 = “すぐ取り組んだ” + “少し経ってから 取り組んだ”

17.

本実験 -30分以内遂行率- 30分以内遂行率について ★ 提案手法の方が高い (p < .01) ✦ 30分以内遂行率 = “すぐ取り組んだ” + “少し経ってから 取り組んだ” 提案手法によって30分以内に取り組むようになる!

18.

本実験 -30分以内遂行率- 30分以内遂行率について ★ 提案手法の方が高い ✦ 選択行為によって 内発的動機付けに直結 ๏ モチベーションが向上し タスクの遂行まで到達 ✦ 30分以内にタスク遂行 ๏ タスクが後回しにされず タスクの未消化を防止

19.

本実験 -30分以内遂行率の経過日数の遷移- 提案手法によってタスク遂行の モチベーションが14日間維持できる

20.

本実験 -30分以内遂行率の経過日数の遷移- タスク遂行のモチベーションが14日間維持できた ★ 日数が経過してもパフォーマンスが低下せず ✦ 意思の選択による内発的動機付けによるもの ๏ 毎日継続するタスクにおいて提案手法は有用

21.

本実験 -タスク別30分以内遂行率-

22.

本実験 -タスク別30分以内遂行率- 技術記事に関するWebページを閲読するタスクが 提案手法と相性のいいタスク

23.

本実験 -タスク別30分以内遂行率- 技術記事に関するWebページを閲読するタスク ★ スマホの通知に対して選択してからすぐできる ✦ 遂行の意思を選択してモチベーションが 向上したまま取り組むことができた ★ 実験協力者が親近感や興味があったタスク ✦ 実験協力者は全員総合数理学部の学生

24.

本実験 -実験協力者別30分以内遂行率-

25.

本実験 -実験協力者別30分以内遂行率-

26.

本実験 -実験協力者別30分以内遂行率-

27.

本実験 -実験協力者別遂行率- 30分以内遂行率が提案手法の方が上回った: 12名 ★ 提案手法によって「あとでやる」の割合が減少し, 30分以内遂行率の割合が増加 30分以内遂行率が両手法で差がない: 4名 ★ タスク遂行率は手法に関わらずほぼ100% タスク遂行を後回しにしがちな人に効果的!

28.

本実験 -貢献- [神山, 2019] 提案手法によってタスク遂行は... ★ 「する」を選択して30分以内にタスクを遂行 ★ タスクの30分以内の遂行率が2週間維持 ★ 興味があるWebページで遂行するタスクと相性がいい ★ タスクを後回しにしがちな人に効果あり 「する」という選択肢を押下することで タスク遂行に対するモチベーションにつながり 後回しせずにタスクに取り組むようになる!

29.

本実験 -貢献- [神山, 2019] 選択肢の中からタスクを「する」を選ぶと タスクを取り組むようになる 提案手法によってタスク遂行は... 「する」を押下して30分以内にタスクを遂行 「する」という選択肢を押下することで タスクの消化が促進可能! タスク遂行に対するモチベーションにつながり ★ タスクの30分以内の達成率が2週間維持 後回しせずにタスクに取り組むようになる! ★ Webページでおこなうタスクと相性がいい ★ ★ タスクを後回しにしがちな人ほど効果あり

30.

システム -概要提案手法に基づいたアプリケーション開発 ★ 気軽なタスクに対して遂行のモチベーションを向上 ✦ 任意のタスクの名前と通知する時間を登録 ✦ 登録した時間に届く通知に「する」を押下 ๏ タスク遂行のモチベーションが向上

31.

システム -フィードバックユーザからのフィードバック ★ 3名のユーザに5日間システムを使用してもらった ✦ ユーザから使用してもらった感想についてインタビュー ๏ 「する」を選ぶことでタスクを遂行しようと思った ‣ 動作の手間や心理的な負担は感じなかった ๏ 相性のいいタスク ‣ 毎日継続して取り組むタスク ‣ 普段から取り組んでいるタスク ๏ 普段からタスク管理ツールを使っているユーザに効果的 ‣ ツールを使ったタスク管理に慣れる必要性

32.

議論 -総合考察本研究全体を通した提案手法の有用性の考察 ★ 遂行の意思を選ぶことによりタスクの消化が促進可能 ✦ 自律性のある行動から内発的動機付けがされる ✦ この行為によって強制的な心理的負担は与えられない ✦ タスク遂行を後回しにすることがなくなる ✦ タスク遂行のモチベーションが2週間維持される

33.

議論 -リミテーション- タスクの内容や種類について ★ 本研究で効果があったタスクについて ✦ 毎日継続できるようなタスク ๏ 締切りがあるタスクについては未検証 ‣ ✦ 締切りまで毎日継続して行うタスクとして取扱う 日常的に行っているタスク ๏ タスクの達成率はタスクに対する親近感や興味が影響 ‣ ✦ タスクに対する親近感を向上する手法との併用 5分程度の気軽なタスク ๏ 負担が重いタスクでも細分化することが重要

34.

議論 -提案手法の他手法への適用- 他手法への適用例 ★ 画像でのタスク提示 [松田, 2019] ✦ タスクとして想起しやすい 画像の提示が遂行の モチベーションを向上させる ๏ 画像+選択肢で タスクの未消化をさらに防止!

35.

まとめ 遂行の意思に関する選択を用いた タスク消化を促進する手法の提案・検証 結論 ★ タスク遂行のモチベーションが 内発的に向上することで, タスクの消化を促進可能!