中学基礎計算の途中計算を促進する記号ハイライト手法の提案

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January 10, 22

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中学基礎計算の途中計算を促進する記号ハイライト手法の提案の発表スライド

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

中学基礎計算の途中計算を促進する 記号ハイライト手法の提案 明治⼤学 植⽊⾥帆 中村聡史

2.

背景(基礎計算) 中学校数学において の習得は重要 →正負の数や⽂字式の計算 • 基礎計算は中学校・⾼校数学の基盤となる • 基礎計算での計算ミスを早い段階で修正しないと 今後の学習に影響を及ぼす

3.

背景(途中式) 計算ミスを防ぐには途中計算を丁寧に書く必要 がある

4.

背景(途中式の重要性) • 符号や通分時のケアレスミスは⾒直しによって 軽減できる • 脳にかける負担を減らし計算ステップを視覚的 に捉えて考えられる • 同じような問題に出会った時に気をつけること ができるようになる [⽥中ら 2013]

5.

背景(途中式を書かない) • 途中式を丁寧に書かない • メモ程度の計算しか残さない • 計算を消しゴムで消す

6.

背景(途中式を書かない) 途中式を書かない理由 • 途中式の書き⽅がわからない • 問題⽤紙に⼗分に途中式がかける余⽩がない • プリントは汚してはいけないという意識がある • 途中式を丁寧に書くと時間がかかり⾯倒である • 暗算でできた⽅がかっこいいと思っている

7.

背景(途中式を書かない) 途中式を書かない理由 • 途中式の書き⽅がわからない • 問題⽤紙に⼗分に途中式がかける余⽩がない • プリントは汚してはいけないという意識がある • 途中式を丁寧に書くと時間がかかり⾯倒である • 暗算でできた⽅がかっこいいと思っている

8.

背景(途中式を書かない) 途中式を書かない理由 • 途中式の書き⽅がわからない • 問題⽤紙に⼗分に途中式がかける余⽩がない • プリントは汚してはいけないという意識がある • 途中式を丁寧に書くと時間がかかり⾯倒である • 暗算でできた⽅がかっこいいと思っている 途中式の重要性を生徒たちが十分に理解していない

9.

背景(途中式を書かない) 途中式を書かない理由 • 途中式の書き⽅がわからない •生徒たち一人一人に途中式の重要性を理解し、 問題⽤紙に⼗分に途中式がかける余⽩がない 納得してもらうには限界がある • プリントは汚してはいけないという意識がある • 途中式を丁寧に書くと時間がかかり⾯倒である • 暗算でできた⽅が良いと思っている

10.

目的 感覚的に途中式の重要性を理解してもらう

11.

中学生が間違えやすい計算 • 符号間違い • 計算順序の誤り • 数字と⽂字のまとまりに対する意識の不⾜ など

12.

シンタックスハイライト • テキストの可読性を向上させるもの • プログラムのコードに⾊がつく

13.

シンタックスハイライト • テキストの可読性を向上させるもの • プログラムのコードに⾊がつく 数式にもハイライトすることで可読性が向上し ミスが減るのではないか

14.

提案手法 • 数学記号に⾊ • 同類項に⾊ • 括弧に⾊ • 括弧の中⾝に マーカー など

15.

プロトタイプシステム • どういったハイライト⼿法が効果的か • 「=」「+」「−」「×」「÷」のような数学 記号にのみ⾊づけ

16.

プロトタイプシステム • 「=」 途中式の「=」を縦に揃えて書くようになる • 「+」「−」 符号に意識が向く • 「×」「÷」 計算順序に気をつけるようになる

17.

プロトタイプシステム • ユーザがストロークを書くたびに、 そのストローク情報をMyScriptのAPI側に送信し、 認識結果を取得する • この認識結果とストローク情報から、 どのストロークが数学記号であるかを判別し、 数学記号に⾊をつける 「5」 MyScript

18.

プロトタイプシステム

19.

実験

20.

実験 • 仮説 「数学記号に⾊をつけると⾃らの数式が⾒やす くなることや気をつけるべき箇所の意識がしや すくなることで、途中式を書くようになる」 • プロトタイプシステムが途中式の書き込みに どのような影響を及ぼすのか調査

21.

実験概要 • 実験の参加者 中学1年⽣4名(男⼦2名、⼥⼦2名) • Apple Pencilの利⽤ができるiPadを⽤いた

22.

実験手順 • 数学記号に⾊がつかないようにしたシステムで 5問解答 →どの程度途中式を書くのか把握するため • プロトタイプシステムの説明、練習 • プロトタイプシステムを⽤いて10問の計算に解答

23.

実験手順 • 実験の参加者 中学1年⽣4名(男⼦2名、⼥⼦2名) • 数学記号に⾊がつかないようにしたシステムで 色がつかないシステム→「ベースラインシステム」 5問解答 プロトタイプシステム→「提案システム」 →どの程度途中式を書くのか把握するため • プロトタイプシステムの説明、練習 • プロトタイプシステムを⽤いて10問の計算に解答

24.

実験準備 iPadのメモアプリに • ベースラインシステム • 提案システム • アンケート のリンクを⽤意

25.

実験準備 提案システムの仕様書を 紙で配布

26.

計算問題 • 中学1年⽣の初頭で学習する正負の数と⽂字式 の計算から出題 • 「𝑥」→「𝑎」や「𝑏」に 提案システム ベースラインシステム 1問⽬ (-6)-(+9) 2問⽬ (2a+6)-(3a-2) 3問⽬ 5a×(-2) 4問⽬ (12a-6)÷(-2) 5問⽬ 15-(-21)÷(-3/4) 類似問題を 2問ずつ 1問⽬ (-5)-(-1) 2問⽬ (-4)+(-10) 3問⽬ (a+5)-(-2a-5) 4問⽬ (3b+7)-(-4b-6) 5問⽬ (-8b)×(-7) 6問⽬ 6a×(-2b) 7問⽬ (24a-9)÷(-3) 8問⽬ (25k-15)÷5 9問⽬ 1-(-6)÷(-3/4) 10問⽬ 3-(-8)÷(-2/5)

27.

実験結果

28.

実験結果 • 数学記号の認識精度が不⼗分であった • 実験環境でのネットワークの不調など →数学記号以外に⾊がついてしまった • 提案システムに制約があった • 途中式をできるだけ書かず⼀気に答えを書こう とする実験協⼒者がいた 実験参加者3名はシステムの利⽤により差はなく、 効果がなかった

29.

実験結果 • 提案システムの認識精度が不⼗分であった • 実験環境でのネットワークの不調など →数学記号以外に⾊がついてしまった • 提案システムに制約があった 特徴があった生徒Aについて • 途中式をできるだけ書かず⼀気に答えを書こう 見ていく とする実験協⼒者がいた 実験参加者3名はシステムの利⽤により差はなく、 効果がなかった

30.

実験結果(生徒A) • ベースラインシステムでは 符号ミスが⾒られた

31.

実験結果(生徒A) • 提案システムでは 符号ミスが改善

32.

考察(生徒A) • 数学記号への⾊の付与がうまく⾏われていた • 数学記号に⾊が付与されることで符号へ意識が 向き、気をつけるようになる可能性 • 提案システムの問題では後半の括弧のあと すぐに負の数があるため符号を変えた可能性

33.

計算問題に関する 結果考察

34.

実験結果(四則計算) 誤答が多かった問題の計算画⾯

35.

実験結果(四則計算) • 四則計算の順番を理解し計算できるか • ほとんどの間違いは割り算から計算すべきとこ ろを引き算から計算している計算順序の間違い であった • この問題の解き直しができない

36.

考察(四則計算) • 本システムがサポートできないレベルで 難易度が⾼かったことが推察される • 実験協⼒者の学⼒レベルにおいて、 複雑な四則計算は難易度設定として 適切ではなかった

37.

考察(分数の表記) 問題の3分の4という分数表記が「4/3」 ⼀般的に中学校の計算問題では⽤いない表記法 だったことが混乱を招いた可能性 5問⽬ 9問⽬ 1-(-6)÷(-3/4) 10問⽬ 3-(-8)÷(-2/5) 15-(-21)÷(-3/4) ベースラインシステム5問⽬ 提案システム9問⽬、10問⽬

38.

考察(途中式のいらない問題) ③5a×(-2) • このような掛け算を⼀回すれば答えが導けるよ うな問題 • 数学記号に⾊がついても⾒返す機会がない 提案システムではあまり意味がないようであった

39.

追実験

40.

追実験 システムの改善点を洗い出すため、 • より途中式を書く必要性がある • 計算ミスを誘発しそう 上記のような計算に問題を⾒直し追実験を⾏った • 中学1年⽣男⼦3名 • 前の実験に参加していた⽣徒A に追実験の依頼をした

41.

追実験計算問題 システム ベースラインシステム 1問⽬ (-6)-(-11)+3 1問⽬ (-8)-(-12)+5 2問⽬ (-4)-(+21)-(-7) 2問⽬ (-5)-(+12)-(-4) 3問⽬ (5a+4)-(3a-9) 3問⽬ (2a+5)-(3a-7) 4問⽬ (2b+2)-4(3-5b) 4問⽬ (4b+2)-2(6-2b) 5問⽬ -3(3a-7-8a+1) 5問⽬ -3(2a-5-3a+4) 6問⽬ 2a×7-5a×(-2) 6問⽬ 4a×2-8a×(-3) 7問⽬ (19a-3)×(-5)+3a 7問⽬ (24a-8)×(-4)+3a 8問⽬ 3(7k-4)-5k 8問⽬ 3(8k-6)-2k 9問⽬ 23-5a-15+4a-3-8a 9問⽬ 15-9a-19+3a-2-7a 10問⽬ 4-(-7b)×(-8) 10問⽬ 3-(-9b)×(-3)

42.

追実験結果・考察

43.

追実験結果(中学生3名) 問題を⾒直したが、前実験同様に、 中学⽣男⼦3名は提案システムの利⽤の有無に よって効果は⾒受けられなかった →数学記号の認識精度向上が課題

44.

追実験結果(生徒A) ⽣徒Aは提案システムでも前実験のベースライン システムと同じ符号ミスが⾒られた 数学記号に⾊が付与されることで符号へ意識が 向き、気をつけるようになるというわけではな かった

45.

計算ミスの分類 さまざまな計算ミスが⾒られた システム改良のために計算ミスを分類わけする

46.

計算ミスの分類 括弧をはずす際に、 • 括弧の前にマイナスがあるのに符号を変え忘れる • 「−」×「−」を負の数にする ような計算ミス

47.

計算ミスの分類 • 最初の計算問題にハイライトをする • 問題⽂を写してシステムにハイライトしてもらっ てから問題を解き始めさせる

48.

計算ミスの分類 近い⽅しか計算しないで分配し忘れる計算ミス

49.

計算ミスの分類 括弧で括られた数式のまとまりを意識させる必 要がある →括弧の中⾝の数式にマーカーのようにハイラ イトする

50.

計算ミスの分類 四則計算の順序を取り違え、 前から順に計算してしまう計算ミス

51.

計算ミスの分類 計算順序に意識を向かせる →「×」と「÷」を「+」と「−」より⽬⽴つ ようにする

52.

計算ミスの分類 • 括弧の中に同類項があるのに計算せずに 分配しているミス • ⽂字式と数字を⾜している計算ミス

53.

計算ミスの分類 ⽂字式の認識がしっかりできていないことが 考えられる →同じ⽂字式の項を同じ⾊にする

54.

結果考察 (大学生・大学院生) ⼤学⽣・⼤学院⽣8名(男性5名、⼥性3名)

55.

結果考察(大学生・大学院生) • 全体的に中学⽣よりも途中式を丁寧に書いていた • 計算ミスはほとんど⾒られなかった

56.

結果考察(大学生・大学院生) ⼀部問題でベースラインシステムと⽐較して 提案システムで途中式の量が増減していた ケースがあった

57.

結果考察(大学生・大学院生) 「数学記号に⾊がついて いるため認識しやすかっ たから」 途中式が減少していた例

58.

結果考察(大学生・大学院生) 「⾊ありは識別までに 時間かかるから頭の中 で計算して書いた。 ⾊なしはそういったこ とがなく、あまり考え ずに解くため、メモ程 度で書いたから途中式 が多い」 途中式が減少していた例

59.

結果考察(大学生・大学院生) 認識によるハイライトは効果的であるものの、 十分な速度で行わなければならない

60.

課題・展望

61.

課題・展望 アンケート結果や実験の様⼦から • システムの⾊が付くまでの遅延 • 誤認識によって思い通りに⾊が付かないこと によりフラストレーションがあった 認識速度と認識精度の⾒直しが課題

62.

課題・展望 • 今回実験に協⼒してもらった中学1年⽣は基礎 計算を学習してからだいぶ時間が経っていたた め、⼗分なレベルに達していた可能性がある →基礎計算を学習し始めた⽣徒を対象に実験を ⾏うことを検討 • 計算問題の分野を⽅程式などに拡張する、 ⾊の付与の仕⽅を変えることも検討

63.

まとめ 背景 基礎計算で途中式書かない ⽣徒がいる 提案⼿法 数式の⼀部にハイライト する 実験 中学⽣・⼤学⽣・⼤学院⽣ に提案システム使っても らった 結果 効果は⾒られなかった 様々な計算ミスが⾒られた 考察 システムの制約 計算ミスを防ぐハイライト ⽅法の洗い出し 課題・展望 認識精度の向上 ⼿法の再検討