JABCT48_認知的変数への介入_イントロ+話題提供

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July 12, 23

スライド概要

日本認知・行動療法学会第48回大会In宮崎での発表資料です。

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各ページのテキスト
1.

日本認知・行動療法第48回大会 自主企画シンポジウム5 2022/10/01(Sat) 13:30~15:00 認知的変数への介入のアップデート 企画・司会・話題提供: 重松 潤 (富山大学) 話題提供: 長谷川 晃 (国際医療福祉大学) 話題提供: 大島 郁葉 (千葉大学) 話題提供: 横山 仁史 (広島大学) 企画・指定討論: 田中 恒彦 (新潟大学)

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企画趣旨と目的 ✓ Depression: Clinical, experimental, and theoretical aspects.(Beck,1967) ✓ Cognitive behavior modification.(Meichenbaum,1977) ✓ うつ病の認知療法.(Beck et al.,1979) ◼ 認知的変数への介入について盛んに取り上げられるようになって 半世紀以上が経過 ◼ これまで,認知的変数に介入する意義は 経験的にも実証的にも示されてきた(e.g.,Strunk et al.,2014) ◼ それでは現在, 認知的変数への介入はどこまでアップデートされているのか?

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企画趣旨と目的 本シンポジウムによって, 認知的変数に着目した介入に関する研究や 実践の今後の方向性を多様な観点から示したい。

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話題提供者 (敬称略) 重松 潤 長谷川 晃 富山大学 国際医療福祉大学 「腑に落ちる」理解を 促すセラピストの態度 反すうへの介入 大島 郁葉 横山 仁史 千葉大学 広島大学 ASD者への認知的介入 自然言語処理や脳科学を 用いたフォーミュレーション モデルの提案

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指定討論者 (敬称略) 田中 恒彦 新潟大学 「近年の研究に導かれた介入法の進化はあるのか?」 という視点から指定討論を行う。

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日本認知・行動療法第48回大会 自主企画シンポジウム5 「認知的変数への介入のアップデート」 話題提供 腑に落ちる理解を促すセラピストの要因 -認知変容という現象の記述の試み- 本発表に開示すべきCOIはありません 富山大学学術研究部人文科学系 重松 潤

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昨今の認知的なアプローチの課題 • 認知療法に基づいた(派生した)治療法の研究は膨大にある • 特に認知変容と症状の改善の関係はよく知られている (e.g., lorenzo-luaces, German, & derubeis, 2015 ;Garratt, Ingram, Rand, & Sawalani, 2007) • 一方で,その効果を達成するプロセス(メカニズム)は, 依然としてよく理解されていない(Strunk, Adler, & Hollon, 2017)

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昨今の認知的なアプローチの課題 例えば… • 認知行動的スキルの習得度や使用の高さと症状の改善が関連 (Barber & derubeis, 2001; Strunk et al., 2014) • 同時的な関連しか示していない。 • 症状の変化が認知的変化を引き起こした可能性を含む代替的な説明 も可能 • 認知的変化とその後の症状改善との関係を検討した研究での結果は バラバラ(derubeis et al.,1990;Jacobson et al., 1996; Jarrett et al., 2007) • 長年仮説とされてきたCTにおける認知的変化の役割に 疑問を呈している研究も(Kazdin, 2007; Longmore & Worrell, 2007) ✓認知的変数へ介入をしているのか?

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認知変容がもたらす臨床的事象の例 Sudden gain セッションとセッションの間に起こる突然の実質的な症状の改善 • Sudden gainに先立つセッションにおいて 対照セッションよりも大きな認知変容が 観察される (e,g.,Tang et al., 2005) • 認知の変容が症状の改善につながっている という仮説の根拠の一つといえる (Schmidt et al.,.2019) Stiles et al.,(2003). 「認知変容」という現象は現実に引き起こされてきた

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即自的な認知変容と持続的な認知変容 Schmidt et al(2019) 持続的な認知変容 -0.36* 0.29* 予測変数 認知的手法への セラピストの アドヒアランス 即自的な認知変容 間接効果:-0.10* 直接効果:-0.15* うつ症状 *P<.05 加えて… • 即自的な認知変容の方が症状改善との関係が強い • 持続的な認知変容と治療後期の症状改善との関係が強い 認知変容(認知的スキルの獲得)は段階によってさまざま それぞれのタイミングの役割がある

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「認知変容」の認知 心理士21名に面接調査 No (重松・尾形,2019) 項目 % ⑴ 「認知変容」という現象の説明 1) 考え方や体験の仕方が適切(現実的)になること 45% 2) 考え方や行動の選択肢を増やすこと 27% 3) 情報の解釈が偏っていない状態にすること 18% 4) ポジティブに考えることを目指さない 27% 5) 認知の機能や関係性の変容 27% 6) 認知のコントロール感をもつこと 9% 7) 思考内容の変容 9% ⑵ 「認知変容」の弊害 8) クライエントの信念や価値観,既存の認知を捨てる印象が伝わる • 認知変容 既存の情報処理のパターンに 対し,新たな情報が追加され, 情報処理のパターンが変化す ること(重松他,2019) • 結果として,考え方や行動の 選択肢が増える • 現実の捉え方に対して多角的 な視点がもてることが 「適切(現実的)になる」の 示す本質 9% 閉鎖的になったシステムに対して, 新しい情報や異なった視点に繋がるシステムを開く (Beck et al.,1979)

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認知変容の至近要因 例:自己効力感 昨日の行動 (学習歴) 特性 よし, 今これができる! 標的行動 理解 時間経過 杉浦(2019)を参考に作成 • 自己効力感という視点をもつことで,どのような認知変容が必要か, どのような振る舞いがセラピストに必要か考える視点が与えられた • 「理解」を軸に同様の試みができないだろうか

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頭ではやめるべきだとわかっていても, 心では続けるべきではないかと感じるんです… (Wills, 2009 大野監訳 2016) • 「頭」での理解と「心」から理解の葛藤 認知的な処理システムが異なる (Epstein,1998: Teasdale,1996) • 既存の学習歴や情報と現在の情報のネットワークを形成 = 思路の整理 「経験」と「今」をつなげることで 「将来」入ってくる情報に対する構えができる 「腑に落ちる理解」

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-腑に落ちる理解- 腑に落ちる理解 Total Conviction • 行動・感情の変容が期待される情報が個体に入力されたときに, 個体の体験に基づいて行動・感情の変容を促す認知的操作 :experience-based cognitive manipulation (Shigematsu et al., 2022) • 「わかるけど,なんだかなあ」 • 「なるほど!!」 ← ← × 〇 • 顕在的な行動のみならず私的出来事(認知事象)への影響も。 • 「理屈はわかるんだけど,なんだか納得できない」という状態 ⇒問題に対する持続した反復性思考が生起していると考えられる。 • Total Convictionは,疑問をもたないor解消されている状態の理解

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恐怖の治療における急激な変化 二瓶・北條・重松・澤(2021) 徐々に小さく 特定の試行で急激に変化 =「腑に落ちる理解」の可能性 𝐶𝑅𝑡 =試行tにおける条件反応の強さ 𝐴 =漸近値 α=形状パラメータ(反応の急激さ) β=尺度パラメータ(潜時:その変化が 生じるまでの試行数) 図1 従来のモデル 図2ワイブル関数モデル αとβ双方で個体間にかなりのばらつきがある =学習歴や認知的な”随伴性への気づき”といった要因が各パラメータと関連する可能性

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「腑に落ちる理解」を捉える視点 重松・尾形・伊藤(2020) No 項目 1) 話し方の変化 (volume, tempo, and intonation) 2) クライエント自身による自動思考やスキーマについての客観的理解の報告 3) 表情の変化 4) 驚きの表出 5) 具体的な言語報告 「セラピストの心理教育や,新しい情報に対 して,こういうことなんですね,とか,そう いえば,みたいにこっちの発言に話を付け足 して話してくる 」 6) 情報に対して「改めて」理解したという報告 7) 感情の表出 8) クライエント自身の性格や行動に対する理解の報告 9) セラピストの言葉に対する情報の付加 10) “セラピストからの情報への同意 11) 反証の報告の増加 12) 良い結果の随伴の知覚 「なぜそういう問題となる認知に至っている のか,どこから湧いてきてるのか,を理解す る」 「 もっていた認知から出てきていた落ち込み や悲しさとか,そういうのが変わってきてい ると自覚している 」 13) 柔軟な認知の報告 14) 問題の理由に対する理解の報告 15) 認知に随伴する感情体験の変化の報告 16) クライエントとセラピストがともにすっきり感を感じる 「お互い,スッキリして。セラピスト側も分 かってもらえた」

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「腑に落ちる理解」を促す要因 No 項目 % 1) ソクラテス式質問 45% 2) クライエントの言葉やエピソードを使用する 27% 3) クライエントの認知に対する周囲の後押し 18% 4) クライエントの体験に即した新たな情報の付加 36% 5) クライエント自身による選択と評価 55% 6) 行動の生起を先行させる 18% 7) クライエントの認知の形成過程を理解する 18% 8) 感情を引き出す 18% 9) メタ認知のトレーニング 18% 10) メタファー 18% 11) ラポールの形成 18% 12) 協働作業を行う 9% 13) ターゲット行動を具体的にする 9% 14) HWの記述を促す 9% 15) 問題行動以外の変化を伝える 9% 重松(2017)

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ソクラテス式質問(Socratic questioning) クライエントが自分で結論を出すように促すための質問 言葉による探求 患者とセラピスト双方の質問・要約・考察など 気づく 考察 洞察 結論 a. 思考の相対化を促進 b. 「問いかけ」のプロセスを内在化 c. 主観的に妥当な結論に達する →腑に落ちる 協力的経験主義を支える方略 思考をドライブ Clark & Egan(2015)に基づき作成 ソクラテス式質問がうつ症状の改善をもたらす(Braun et al., 2015) 認知へのアプローチを特徴づける「能動的」な方略

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ソクラテス式質問評価スケール Braun et al.,(2015) . Behaviour research and therapy, 70, 32–37. 現在日本語版を開発中 • 認知行動的方略を使用するために、 クライアントにどのくらいの頻度で質問をしましたか? • 代替的な視点の開発に焦点を当てた認知的方略を用いて、 クライアントにどのくらいの頻度で質問をしましたか? • クライアントと一緒に代替案を産出したとき、 その作業はキーとなる認知(強い感情反応の中心となる認知)に 焦点を当てていましたか? • 特定の自動思考に対処する際、どれくらいの質問をしましたか? • 熟考を必要とするような自由形式の質問をしましたか (かつ,別の回答を考えることに関連していますか)?

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Special Issue Section: Socratic Dialogue

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ソクラテス式質問のメカニズムは実証されていない • なぜ効果を発揮するのか未だ明らかでない(Clark et al., 2018) • 作用機序が明確でないため,面接場面でクライエントに合わせて 適切に応用できていないケースがある(e.g., Kazantzis et al., 2018) 仮 説 ソクラテス式質問 セラピスト 腑に落ちる理解 認知行動的変化 うつの低下 クライエント 時間経過 • ソクラテス式質問×腑に落ちる理解を促す要因 = 認知変容を促す?

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結び • 認知変容にも様々な側面があるが, セラピーの段階によってその役割は異なる様子 • 認知的変数への介入をアップデートするには 「記述からはじめよう」 • 丁寧に現象を記述するところから始めないと, 全部メタファーにとどまる。もちろん,機能するメタファーならよい。 • 認知的変数は,現象を記述する視点を提供してくれることでは。 • 「腑に落ちる理解」は認知変容を記述する一つの視点 • 腑に落ちる理解を促す複数の要因を操作することが, 認知変容プロセスを促進させる可能性がある

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ご清聴ありがとうございました 本発表にあたってご協力・ご助言を賜りました Justin D. Braun先生(オハイオ州立大学・Anxiety & Behavioral Health Services)および二瓶正登先生(信州大学)に心より御礼申し上げます。

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(補足)

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(補足)