インパルス応答データに基づく可制御性グラミアン推定―データ情報性によるアプローチ―

>100 Views

November 08, 25

スライド概要

20251101
第68回自動制御連合講演会

profile-image

Assistant Professor, Graduate School of Informatics, Kyoto University

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

(ダウンロード不可)

関連スライド

各ページのテキスト
1.

インパルス応答データに基づく可制御性グラミアン推定 ―データ情報性によるアプローチ― 坂野幾海(京都大学) 2025/11/01 第68回自動制御連合講演会 11E-4

2.

研究背景 超早期精密医療の実現に向けて • 数理的観点から疾病の超早期検出を 目指す研究が行われてきた • 例:DNB理論 [Chen, 2012] - 生体の遺伝子制御ネットワークの異常検知 各ノード: 遺伝子/関連物質 疾病検出の次のステージ:超精密治療 • 遺伝子制御ネットワークの制御問題とみなせる 制御入力 • その準備として,●印のノード群の制御に 必要なエネルギ量を見積りたい - どの遺伝子に介入すべきか?を探すカギ • 動的システムの出力可制御性グラミアンを 計測データから推定する問題 1

3.

先行研究 先行研究:可制御性グラミアンの推定 • 線形システムに対する方法 - [Shaker, 2017], [発表者, 2021], [発表者, 2023] • 可制御性グラミアンを非線形システムに拡張し,それを推定する - [Hahn, 2002], [Kashima, 2015] 1) 全状態の観測データを用いて, 2) システム全体の可制御性を推定する 先行研究の課題点 • 遺伝子制御ネットワークの場合: 1) 大量のノードを,すべて直接観測できるとは限らない 2) 部分ネットワークの可制御性を調べれば十分な場合も想定される 2

4.

研究の概要 研究目的 部分ネットワークの 可制御性を表す 部分観測の時系列データから,出力可制御性 グラミアンを推定する方法を導出する アプローチ • 遺伝子制御ネットワークは非線形なので,直接考えるのは難しい • 第一歩目として,システムの線形性を仮定して近似的に取り組む 研究成果 • 推定に必要かつ十分な,データの条件を特徴づけた • 出力可制御性グラミアンの具体的な推定手法を与えた 3

5.

問題設定(1/2) 対象システム 𝑥ሶ 𝑡 = 𝐴𝑥 𝑡 + 𝐵0 𝑢0 𝑡 ቊ 𝑦 𝑡 = 𝐶𝑥 𝑡 1 - (𝐴, 𝐶)の値は未知だが,試験入力行列𝐵0 は既知 - このシステムのインパルス応答𝑌 𝑡 が利用可能とする 𝑌(𝑡) ≔ 𝐶𝑒 𝐴𝑡 𝐵0 0≤𝑡≤𝜏 可制御性の定量化 • 1 で𝐵0 を評価入力行列𝑩に変えたシステムの可制御性を求めたい 𝑥ሶ 𝑡 = 𝐴𝑥 𝑡 + 𝑩𝑢 𝑡 ቊ 𝑦 𝑡 = 𝐶𝑥 𝑡 ∞ • 出力可制御性グラミアン: ⊤ 𝐺 ≔ 𝐶 න 𝑒 𝐴𝑡 𝑩𝑩⊤ 𝑒 𝐴 𝑡 𝑑𝑡 𝐶 ⊤ 0 4

6.

問題設定(2/2) 出力可制御性グラミアンの推定問題 • Given 𝑥ሶ 𝑡 = 𝐴𝑥 𝑡 + 𝐵0 𝑢0 𝑡 ቊ 𝑦 𝑡 = 𝐶𝑥 𝑡 のインパルス応答 • 試験入力行列𝑩𝟎 • 評価入力行列𝑩 システム(𝐴, 𝑩, 𝐶)の出力可制御性グラミアン Find ∞ ⊤ 𝐺 ≔ 𝐶 න 𝑒 𝐴𝑡 𝑩𝑩⊤ 𝑒 𝐴 𝑡 𝑑𝑡 𝐶 ⊤ 0 5

7.

推定問題が可解となる条件は何か? • そもそも,与えられたデータは, 推定問題が可解となるような十分な情報量を持っているか? - 例:もし試験入力行列𝑩𝟎 がゼロ行列のとき, (推定方法によらず)本質的に可解でない • データ情報性[Waarde, 2020] を考えることで,以下の結果が得られる 定理:データ情報性による可解性解析 推定問題が可解となる ⇔ ∃𝑲 𝐵 = 𝐵0 𝑲 𝐵: 評価入力行列 が成り立つ 𝐵0 : 試験入力行列 • つまり,●印の部分NWの可制御性を調べるには, ●印のノードすべてが直接加振されている必要あり 6

8.

出力可制御性グラミアン推定問題の解 (1/2) もしシステムが既知の場合 • 出力可制御性グラミアン𝐺は,つぎの行列方程式を解けば得られる ⊤ ⊤ 𝐴𝑿 + 𝑿𝐴 = −𝐵𝐵 ቊ 𝑮 = 𝐶𝑿𝐶 ⊤ 2 - 𝐴, 𝐶 が未知なので,直接解けない • 実は,インパルス応答𝑌 𝑡 を用いて(2)を等価に書き換え可能 推定問題の解 • 推定問題が可解となる条件 ∃𝑲 𝐵 = 𝐵0 𝑲 を仮定する • つぎの方程式は,後述の仮定のもとで(2)と等価となる ෡ 𝐻+⊤ + 𝐻− 𝑿 ෡ 𝐻−⊤ = − ‫׬‬ℎ 𝑌෨ 𝑡 𝐾𝐾 ⊤ 𝑌෨ 𝑡 ⊤ 𝑑𝑡 𝐻+ 𝑿 0 ቐ ෡ = 𝐸𝐻− 𝑿 ෡ 𝐻−⊤ 𝐸 ⊤ 𝑮 2′ 7

9.

出力可制御性グラミアン推定問題の解 (2/2) ෡ 𝐻+⊤ + 𝐻− 𝑿 ෡ 𝐻−⊤ = − ‫׬‬ℎ 𝑌෨ 𝑡 𝐾𝐾 ⊤ 𝑌෨ 𝑡 ⊤ 𝑑𝑡 𝐻+ 𝑿 0 ቐ ෡ = 𝐸𝐻− 𝑿 ෡ 𝐻−⊤ 𝐸⊤ 𝑮 2′ • 𝑯+ , 𝑯− :離散信号 𝑌 0 , 𝑌 ℎ , 𝑌 2ℎ , … のHankel行列 • 𝑌෨ 𝑡 : インパルス応答𝑌 𝑡 から定まる行列 • 𝐸 ≔ [𝐼𝑝 𝟎𝑝×𝑝 ⋯ 𝟎𝑝×𝒑 ] 定理:出力可制御性グラミアンの推定 ෡ を持つ; (i) ほとんどすべてのℎ > 0で 𝟐′ が一意解𝑮 ෠ (ii) 一意解𝐺はシステム(𝑨, 𝑩, 𝑪)の出力可制御性グラミアン 8

10.

数値例 (1/2) システム • 遺伝子制御ネットワークのモデル [Shen 2022] の線形化システム 𝑥ሶ 𝑡 = 𝐴𝑥 𝑡 + 𝐵0 𝑢 𝑡 ቊ 𝑦 𝑡 = 𝐶𝑥 𝑡 1 - 𝐴 ∈ 𝐑20×20 - 𝐵0 = [𝑒1 𝑒3 𝑒4 𝑒7 𝑒18 ] : 入力ノード : 観測ノード - 𝐶 = 𝑒1 𝑒5 𝑒7 ⊤ • (𝐴, 𝐶)未知だが,𝐵0 は既知; • (1)のインパルス応答𝑌 𝑡 0 ≤ 𝑡 ≤ 20 が利用可能 問題 • 𝐵 = 2𝑒4 𝑒18 のとき,(𝑨, 𝑩, 𝑪)の出力可制御性グラミアンを求めよ 9

11.

数値例 (2/2) 推定問題の可解性の確認 • 𝑲= 0 0 2 0 0 0 0 0 0 1 に対し, 𝐵 = 𝐵0 𝑲 が成り立つ →問題は可解 出力可制御性グラミアンの計算 ෡ 𝐻+⊤ + 𝐻− 𝑿 ෡ 𝐻−⊤ = − ‫׬‬ℎ 𝑌෨ 𝑡 𝐾𝐾 ⊤ 𝑌෨ 𝑡 ⊤ 𝑑𝑡 𝐻+ 𝑿 0 ቐ ෡ = 𝐸𝐻− 𝑿 ෡ 𝐻−⊤ 𝐸 ⊤ 𝑮 ෡= • 2 の一意解として, 𝑮 ′ 5.687 2.054 5.564 2.054 0.821 2.215 5.564 2.215 7.075 →出力可制御性グラミアンが正しく求められた 2′ 2′ が得られる 10

12.

おわりに まとめ • 部分観測システムに対して,(有限長の) インパルス応答から 出力可制御性グラミアンを推定する方法を提案 ① 問題が可解になるための条件を明らかにした ② 具体的な推定方法を導出した 今後の課題 • 非線形システムに対する議論・手法の拡張 • インパルス応答データが観測ノイズを含む場合の推定 11