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March 15, 22
スライド概要
日本語の助詞「で」を認知言語学から紐解いて学びます。
1. 認知言語学的分析① -空間的背景
2. 認知言語学的分析② -役割的背景
I work for EdTech as a software engineer and English composition service as a corrector. I use Japanese and English for communication, and implement web applications in Ruby(Ruby on Rails), Python, JaveScript, HTML / CSS etc. I am happy to share all slides in common presented in the past lightning talk sessions in my company.
日本語を知ろう - 格助詞「で」Composed by Hayato Ishida 最終更新日: 2023 年 10 月 02 日 1
自己紹介 • アカウント名 • @hayat01sh1da • 専攻 • 英語学(マスメディア英語) • 保有資格 • • • • • TOEIC® L&R 915 点 応用情報技術者 基本情報技術者 セキュリティマネジメント IT パスポート 2
職歴 1. SES(システムエンジニア) • • • • 2. システム開発会社 • • • • 3. 自社製品、受託開発のサーバーサイド(Ruby on Rails) 自社製品、受託開発のフロントエンド(HTML5 / CSS3, JavaScript) QA(iOS / Android のネイティヴアプリ) 自社運営技術ブログ執筆 カスタマーサポート向けチャットボット SaaS の自社開発 • • 4. Windows Server 運用・保守 社内アカウント管理 社内セキュリティ業務 通訳(テレビ会議、ベンダー対応、海外スタッフアテンド) 現行チャットボットプラットフォーム運用・保守 新チャットボットプラットフォームの性能検証 EdTech サービス開発 • • • • Web, iOS / Android のネイティヴアプリの API 開発(サーバーサイド) 学校向けデジタル教材開発・改修・問合せ対応 年次高校マスタ情報メンテナンス 進路希望調査機能開発 3
語学・国際交流 • 大学時代 • • • • 英語学ゼミ(マスメディア英語) 国際交流サークル掛け持ち(2 年次) 内閣府系国際交流プログラム 参加(2013 年 - 2016 年) 日本語学の授業の単位取得 • 海外生活 • ワーキングホリデー@オーストラリア(2014 年 04 月 - 2015 年 03 月) • • • 語学学校 ハミルトン島 勤務 St Ives 高校で日本語教師アシスタント • その他活動歴 • • • • • • • 英語で日記を毎日書く(2014 年 04 月 - 現在) Sunrise Toastmasters Club 在籍(2017 年 02 月 - 2018 年 03 月) Vital Japan 勉強会参加(2018 年 01 月- 2019 年 07 月、2022 年 10 月 - 現在) IDIY 英文添削講師 勤務(2021 年 09 月 - 現在) ELSA Speak を使ったスピーキングトレーニング(2022 年 11 月 - 現在) The Japan Times の記事読み・要約・意見記述を毎発行日実施(2023 年 01 月 - 現在) オーストラリアの友人とビデオチャット(不定期) 4
コンテンツ 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 話したいこと プロローグ -「みんなで」の「で」認知言語学的分析① -空間的背景認知言語学的分析② -役割的背景「みんなで」の「で」の正体 まとめ エピローグ 参考文献 5
1. 話したいこと 6
1. 話したいこと 日本語の助詞を本気で文法的に分析したら、 英文法とは比べものにならないくらい難しかった話。 7
2. プロローグ -「みんなで」の「で」- 8
2. プロローグ -「みんなで」の「で」2015 年 02 月の 1 ヶ月間、オーストラリアの NSW 州 St.Ives 高校にて、 日本語教師アシスタントをしていた。 ある日、1 人の生徒が休み時間にこんな質問をしてきた。 9
2. プロローグ -「みんなで」の「で」I’d like to ask you about a Japanese particle. If I say, “I’ll pick you up at the airport with everyone tomorrow.” in Japanese, it would be “明日空港にみんなであなた を迎えに行きます。”, but I don’t understand why I have to use ‘で’, instead of ‘は’ or ‘が’ though ‘みんな’ seems the subject in this sentence. Would you explain why? 日本語の助詞について質問があります。“I’ll pick you up at the airport with everyone tomorrow.” を日本語で言うと「明日空港にみんなであなたを迎えに行きます。」となります。しかし、 「みんな」はこの文では主語に見えるのに、なぜ「は」や「が」ではなく、「で」を使う のかが理解できません。説明して頂けますか。 10
2. プロローグ -「みんなで」の「で」質問の要点 • 「明日空港にみんなであなたを迎えに行く」の「みんな」は「迎えに行 く」の動作主なので、この文の主語のはずである。 • にも関わらず、なぜ係助詞「は」や格助詞「が」ではなく、格助詞「で」 を使うのか? 11
2. プロローグ -「みんなで」の「で」この質問を受けた私は「確かに…」と思いつつ、 詳細は分からなかったのでこのように誤魔化した。 I’m sorry but I’m not sure of the details. I’m afraid it’s because of its collocation. ごめんなさい、詳しいことは分かりません。恐らくコロケーションの問題だと思 います。 12
2. プロローグ -「みんなで」の「で」あまりにも歯痒かったので、帰宅後すぐに懸命に辞書を引いた。 当時参照した広辞苑第五版では、格助詞の「で」の用法は以下のように掲載され ていた。 1. 動作の行われる所・時・場合 2. 手段・方法・道具・材料 3. 理由・原因 4. 事を起した所 5. 身分・資格 6. 事情・状態 7. 期限・範囲 8. 配分の基準 13
2. プロローグ -「みんなで」の「で」- 求めてる答えがない! 14
2. プロローグ -「みんなで」の「で」結局、この疑問は宿題として日本に持ち帰った。 大学の最終年次に復学し、後期に日本語学の授業を取り、『格助詞「で」 の意味構造』というテーマの期末レポートを書いて提出し、S 評価を頂いた ことで個人的なリベンジを果たした。 今回は、その内容をなるべく嚙み砕いて共有したい。 15
3. 認知言語学的分析① -空間的背景- 16
3. 認知言語学的分析① -空間的背景3-1. 場所 → 場所の抽象化 → 場 ❑ 場所 2004 年のオリンピックはアテネで開かれた。 • 「アテネ」という目に見える具体的な場所を表している。 ❑場 彼は自然に恵まれた環境で育った。 • 「環境」という目に見えない概念的な場を表している。 17
3. 認知言語学的分析① -空間的背景3-2. 場所 → 範囲の焦点化・動作の主観化 → 範囲 彼はこのクラスで 1 番背が高い。 • クラスという具体的な場所が、「このクラスにおいては」という主観的な範囲を 限定する用法に移行 • 最終的に「クラス」という学生を検索する範囲へと領域が拡張 18
3. 認知言語学的分析① -空間的背景3-3. 場所 → 場所の背景化 → 動作主 その事件は警察で調べている。 • 「警察 = 警察官の集団」という場所が背景と化し、最終的にその場所に密に関わ る動作主に意識が転換された用法である。 • 主語(その事件) ≠ 動作主(警察)の関係が成立。 19
3. 認知言語学的分析① -空間的背景3-4. 場所 → メタファー変換 → 時間範囲の焦点化 → 期間・時限定 ❑ 食事の後で勉強する。 • 「食事の後」という時間が空間的な場所から時間的場所へと領域が拡張した用法 である。 • この用法は、動作が行われる舞台としての空間・時間的場所として意味を備えた まとまりのある場を表すため、限定的な意味合いを持つ。 ❑ 食事の後に勉強する。 • 格助詞「に」も同じく時を表すが、「食事の後」という時間・時点への言及に留 まる。 • 一方、「で」は「食事をする舞台としての空間・時間的な場所」として、より意 味を持った限定的な場を表している。 20
4. 認知言語学的分析② -空間的背景- 21
4. 認知言語学的分析② -空間的背景4-1. 場所 → 背景の役割化 → 道具・手段内在化 → 材料・構成要素 ❑ 道具・手段 日本人は箸で食事をする。 • 力が加わる場所として個別性・具体性が高い。 ❑ 材料・構成要素 この机は木でできている。 • 何かに内包された場所という意味で、個別性が低く属性的である。 22
4. 認知言語学的分析② -空間的背景4-2. 道具 → 背景の能動化 → 原因 → 理由・根拠・目的・構成要素 ❑ 原因 病気で学校を休む。 • 事態との因果関係の客観性が比較的高い。 ❑ 理由 そういう点で面白いと思う。 ❑ 根拠 試験の結果で判断する。 ❑ 目的 出張で大阪へ行ってきた。 • その事象を認知する主体に依存するため、主観的である。 ❑ 構成要素 日本の文化というテーマで論文を書いた。 • 「何かが出来上がる元になるもの」を表すことから原因と道具・材料のニュアンスも含んでいる。 23
4. 認知言語学的分析② -空間的背景4-3. 道具 → 抽象化 → 様態 以下はいずれも道具が属性として内在化・再起した用法。 ❑ 動作主の様態 食事は自分で作っている。 • 「自分自身」という道具(再帰的)を使って食事を作るという動作主の様態を表す。 • 主語(省略された「私」) = 動作主(自分)の関係が成立。 ❑ 被動作主の様態 小さい音で音楽を聴く。 • 音楽が持つ「音」という道具(内在的)の影響を受けているという被動作主の様態を表す。 ❑ 作用・出来事の様態 猛スピードで走っている。 • 「スピード」という道具(内在的)を使って走るとことが成り立っているという作用・出来事の様態を表す。 ❑ 数量限定 この部屋は 30 人でいっぱいになる。 • 部屋を 30 人という道具(外在的)を使って数量を限定する用法。 24
5. 「みんなで」の「で」の正体 25
5. 「みんなで」の「で」の正体 「明日空港にみんなであなたを迎えに行きます。 」 上記文中の格助詞「で」は、以下のいずれかの用法である。 • 空間的背景の動作主: 「その事件は警察で調べている。」 • 役割的背景の動作主の様態: 「食事は自分で作っている。」 上記二つの用法の違いは、主語 = 動作主の関係が成立するか否か。 26
5. 「みんなで」の「で」の正体 省略された主語を補うと、それぞれ以下の通り。 • 「(私は)明日空港にみんなであなたを迎えに行きます。」 → 主語(私) ≠ 動作主(みんな) • 空間的背景の動作主: 「その事件は警察で調べている。」 → 主語(その事件) ≠ 動作主(警察) • 役割的背景の動作主の様態: 「 (私は)食事は自分で作っている。」 → 主語(私) = 動作主(自分) 「明日空港にみんなであなたを迎えに行きます。」の「で」の正体は、空間的背景の動作 主の用法である。 ※ 仮に「私たちは明日空港へあなたをみんなで迎えに行きます」(“We’ll all pick you up at the airport tomorrow.”)という文だとしたら、主語(私たち) = 動作主(みんな)の関係が成立するため 、「で」は役 割的背景の動作主の様態の用法である。 27
6. まとめ 28
6. まとめ 格助詞「で」の用法は、認知言語学の観点で以下の分類が可能である。 1. 空間的背景 • 場所 → 場所の抽象化 → 場 • 場所 → 範囲の焦点化・動作の主観化 → 範囲 • 場所 → 場所の背景化 → 動作主 • 場所 → メタファー変換 → 時間範囲の焦点化 → 期間・時限定 2. 役割的背景 • 場所 → 背景の役割化 → 道具・手段内在化 → 材料・構成要素 • 道具 → 背景の能動化 → 原因 → 理由・根拠・目的・構成要素 • 道具 → 抽象化 → 様態 29
7. エピローグ 30
7. エピローグ 日本語にあって英語にはない最も大きな特徴の一つが助詞である。 英語は前置詞を名詞の前に置くのに対し、日本語は名詞の後に助詞を置く、 いわば後置詞である。 私たちの英語学習において前置詞のニュアンスの違いが難解なのと同様に、 日本語を外国語として学ぶ者にとって助詞もそれに負けず劣らず難解であ る。 日本語をひとたび外国語としての観点で捉えると、いかに難しいかがよく 分かる。 助詞はその中の一つの好例であった。 31
8. 参考文献 32
8. 参考文献 • 森山新、『認知言語学から見た日本語格助詞の意味構造と習得』、東京都、 ひつじ書房、2008 年 • 『広辞苑第五版』、東京都、岩波書店、2006 年 33
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