西洋美術史ゼミ第七回:イタリア初期ルネサンス美術

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March 24, 22

スライド概要

隔週程度で行っている、世界史と西洋美術史の勉強会のスライドです。私は理系の学生なので厳密な考証は行っていませんが、可能な限り正確に書くことを心掛けたつもりです。今回はルネサンス初期の美術について扱っています。以下のURLからスライドと補足資料をダウンロードできます。
https://github.com/amazuun/Art_of_Europe

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理系の大学生です。近代以降の美術史や思想史、現代美術について興味があります。厳密な考証は行っていませんが、可能な限り正確に書くことを心掛けています。後の物の方が出来が良いので、最新のものを最初に読むことをお勧めします。githubからはスライドと補足資料をダウンロードできます。参考文献は補足資料に記載しています。

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関連スライド

各ページのテキスト
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西洋美術史ゼミ 第7回 イタリア初期ルネサンス 発表者 あまずん 1

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発表者について あまずん Twitter : @quii_w (メイン) @amazuunsc(サブ) 理系の大学生(数学専攻)をやっています。 近代以降の美術史や思想史、現代美術について 興味があります。 2

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ゼミについて • 週1回程度で美術出版社「増補新装 カラー版 西洋美術史」を一章ずつ 読み進め、内容をまとめ発表します。 • また、高校世界史に沿う形で当時の 出来事についても説明します。 • そのため、世界史と美術史を同時に 学ぶことができるため、歴史が好き な方も美術が好きな方も学びを深め ることができます。 3

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前回の内容 • 封建社会が成立し、十字軍が起こった。その後貨幣経済が発展 し、イギリスとフランス間で百年戦争が起こり、その合間にペ ストが流行した。 • ロマネスク芸術は封建制を背景に修道院を中心に繰り広げられ た。建築は石壁と暗い内部空間が特徴で、建築装飾として彫刻 が用いられた。また聖遺物容器として工芸が発展した。 • ゴシック美術は対照的に人間的で写実的なもので、建築は大き くなり、彫刻は建築から独立した。また、写本や工芸は専業化 された。 4

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本日の内容 世界史について • 大航海時代 • ルネサンス 美術について • イタリア初期ルネサンス美術 5

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全体の概略 • ヨーロッパでは封建社会が安定した後、大航海時代が始まり、 その後ルネサンスが始まりました。 • ルネサンスとは「再生」「復活」を意味し、ギリシア・ローマ の人間中心の考え方(ヒューマニズム)が復興されました。 • 中世の「暗黒時代」を脱したヨーロッパ美術は華やかで美しい ものとなっていきます。 6

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本日の内容 • 世界史:大航海時代 • 世界史:ルネサンス • 美術:イタリア初期ルネサンス美術 7

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世界史:大航海時代(1) • ヨーロッパでは15世紀後半から、近現代 の世界に繋がる新しい動きが目立つよう になってきた。この時代を近世(初期近 代)呼ぶ。 • この時期の変化はヨーロッパ内部にとど まらず、人々はアジアやアメリカ大陸へ の航海にも乗り出した。世界の一体化が 始まった15~17世紀のことを大航海時代 と呼ぶ。 8

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世界史:大航海時代(2) ① 香辛料などの東方物産への需要 ② 新規の貿易ルートへの需要 ③ スペイン・ポルトガルの探検援助 ④ 遠洋航海を支える技術の発達 以上の背景があり、各国の海外進出が進んだ。 9

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世界史:大航海時代(3) • スペインとポルトガルの沿革について 軽く触れる。 • イベリア半島にはイスラーム王朝の都 があったが、これに対して北部のカト リック教徒は国土回復運動(レコンキ スタ)を行いイベリア半島を奪還した。 • 回復された領土にはカスティリャ王国 とアラゴン王国が建てられたが、両国 は統合されてスペイン王国となった。 また、カスティリャ王国から独立しポ ルトガルが生まれた。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY のライセンスを許諾されています 10

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世界史:大航海時代(4):ポルトガル • ポルトガルでは、商人が金や奴隷を求 めて西アフリカに進出した。 • ジョアン二世の時代にバルトロメウ= ディアスが喜望峰に到達し、ヴァスコ =ダ=ガマによってインド航路が開か れた。 ヴァスコ=ダ=ガマ 11

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世界史:大航海時代(5):スペイン • スペインでは、レコンキスタが完了する と女王イザベルがコロンブスにアジア到 達をめざす航海を援助した。1492年、コ ロンブスは現在のバハマ諸島に到達し、 アメリカ大陸沿岸などを探検した。また、 1519年に出帆したマゼランは世界周航に 成功した。 • スペインでは植民地支配が行われ、コル テスがアステカ王国を、ピサロがインカ 帝国を征服した。征服者は先住民を酷使 し、銀の採掘や奴隷の輸入を行った。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY-SA-NC のライセン スを許諾されています 12

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世界史:大航海時代(6) • 大航海時代の影響により、価格革命と商業革命が起こった。 • アメリカ大陸から銀が大量に輸入され、この時代の人口増加と 相まってヨーロッパで激しい物価上昇が起こった。これは税金 を定額で決めていた封建貴族に打撃を与え、封建社会の崩壊を 促した。これを価格革命という。 • 経済の中心が地中海から大西洋岸に移り、イタリア諸都市が衰 退し西ヨーロッパの都市が反映した。ここでは毛織物工業を核 として商工業が発展し、資本主義経済の形成を準備した。これ を商業革命という。 13

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本日の内容 • 世界史:大航海時代 • 世界史:ルネサンス • 美術:イタリア初期ルネサンス美術 14

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世界史:ルネサンス(1) ① 東方貿易による繁栄 ② ビザンツ帝国の衰亡→東方の学者の流出 ③ イスラーム文化の流入 ④ ローマの古典遺産 以上の背景により、イタリアではギリシア・ ローマの人間中心の考え方を復興する文化運 動であるルネサンスが起こった。その根本精 神はヒューマニズム(人間主義)であり、現 実主義・個人主義・合理主義の傾向も見られ た。(⇔キリスト教の封建社会) By Leonardo da Vinci - Cropped and relevelled from File:Mona Lisa, by Leonardo da Vinci, from C2RMF.jpg. Originally C2RMF: Galerie de tableaux en très haute définition: image page, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php? curid=15442524 15

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世界史:ルネサンス(2) • 中心都市はフィレンツェで、大富豪メ ディチ家は芸術家を厚く保護した。 • 技術面では火砲、羅針盤、活版印刷術が 発達した。 • 科学面ではコペルニクス、ガリレオ=ガ リレイ、ケプラーが活躍した。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY のライセンスを許 諾されています ガリレオ=ガリレイ 16

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世界史:ルネサンス(3):イタリア • 文芸・政治学では叙事詩「神曲」を書いたダンテや、「君主 論」を著したマキャベリが居た。 • 美術では以下の著名な美術家が活躍した。 1. ジョット(ルネサンス美術の先駆者) 2. ボッティチェリ(「ヴィーナスの誕生」) 3. ラファエロ(「アテネの学堂」) 4. ミケランジェロ(「ダヴィデ像」) 5. レオナルド=ダ=ヴィンチ(「モナリザ」,「最後の晩餐」) 17

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世界史:ルネサンス(4):北方 • アルプス以北(イタリアの足の付け根)でもルネサンスの運動は広 がった。 • 名のある人物に以下の者がいる。 1. ファン=エイク兄弟(宗教画) 2. ブリューゲル(絵画、「農民の踊り」) 3. エラスムス(古典研究、「愚神礼賛」) 4. デューラー(絵画、「四人の使徒」、ドイツの象徴的な画家) 5. モンテーニュ(哲学、「随想録(エセー)」) 6. シェイクスピア(文学、「ロミオとジュリエット」など) 18

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本日の内容 • 世界史:大航海時代 • 世界史:ルネサンス • 美術:イタリア初期ルネサンス美術 19

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美術史:イタリア初期ルネサンス美術 • ルネサンスにおいてはギリシア・ロー マ文化の復興が起こり、人間性の回復 が行われ、多くの芸術家が生まれた。 • ルネサンスは14世紀のプロト・ルネ サンス、15世紀の初期ルネサンス、 1490~1520年の盛期ルネサンスに区 分されるが、今回は初期ルネサンスま でを学ぶ。 ボッティチェリ《ヴィーナスの誕生》 20

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美術史:プロト・ルネサンス(1) • 13世紀後半~14世紀、ゴシック美術の影 響を受けたイタリアでは、本格的なルネ サンスに先駆け、自然主義的あるいは古 典主義的な美術活動がなされた。これを プロト・ルネサンスと呼ぶ。 • 絵画においてはチマブーエやその弟子の ジョットが挙げられるが、特にジョット は後世の画家ヴァザーリにより、ルネサ ンスの始まりとして位置づけられている。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY-NC-ND のライセンス を許諾されています ジョット《ユダの接吻》 21

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美術史:プロト・ルネサンス(2) • ジョットの絵画では、それまでの平面 的な絵画とは対照的に、人物像が陰影 によって立体感を与えられ、古典的な 造形性、三次元性が表現された。 • ジョットに追随する画家は多く誕生し たが、14世紀中頃のペストの影響を受 けたなどによりその自然主義的試みは 頓挫し、15世紀初頭のマザッチョによ る本格的なルネサンスの到来を待つこ ととなる。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY-NC-ND のライセンスを 許諾されています ジョット《哀悼》「受難伝」より 22

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美術史:プロト・ルネサンス(3) • チマブーエとジョットの比較 ジョット《荘厳の聖母》 ジョット・ディ・ボンドーネ - downloaded file from Wikimedia Commons, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2136643による チマブーエ《玉座の聖母》 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY-NC-ND のライセンスを許諾されています 23

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美術史:初期ルネサンス建築(1) • ルネサンス建築はブルネッレスキに よって生み出された。 • 彼の最初の大仕事はフィレンツェ大聖 堂(サンタ・マリア・デル・フィオー レ大聖堂)のクーポラ(円蓋)であり、 二重殻構造という独創的な手法により 古代以来の巨大なクーポラを実現した。 ブルネッレスキ《フィレンツェ大聖堂》 24

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美術史:初期ルネサンス建築(2) • ブルネッレスキが目指したのは人間が快 適と感ずることのできる適度な規模と、 秩序や調和のある空間であった。つまり、 建築の中心には人間が居るべきだと考え たのだ。 • 彼はそれを実現するために、調和のとれ た形である円や正方形の組み合わせや、 知覚しやすい単純な整数比による秩序あ る空間構成が用いられた。これは単なる 古典復興ではなく、ブルネッレスキの豊 ブルネッレスキ《サン・ロレンツォ聖堂内部》 かな想像力の産物であった。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY のライセンスを許諾されています 25

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美術史:初期ルネサンス建築(3) • ブルネッレスキの建築理念を継承し、古代建 築へのアプローチを行ったのがアルベルティ である。 • 彼は諸学問に通じた教養人であり、『絵画 論』『彫像論』『建築論』を著して同世代及 び後世の美術家に大きな影響を与えた。 • 彼の代表作はマントヴァのサンタンドレア聖 堂が挙げられる。これは凱旋門を想起させる デザインで、重厚な量塊性を有す建築物であ る。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY のライセンス を許諾されています 《サンタンドレア聖堂》 26

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美術史:初期ルネサンス彫刻(1) • ルネサンス彫刻の開幕を告げる象徴的な出 来事がある。 • それは1401年に行われたサン・ジョヴァ ンニ洗礼堂のブロンズ扉の制作者を決定す るためのコンクールである。 • このコンクールは最終的にギベルティとブ ルネッレスキの一騎打ちとなり、伝統的な ギベルティ作品が勝利したものの、迫真的 な新様式という意味ではブルネッレスキ作 品も意義深い。 ブルネッレスキ《イサクの犠牲》 By Sailko - Own work, CC BY 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=6 669520 27

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美術史:初期ルネサンス彫刻(2) • このコンクールで頭角を現したドナテッロは ブルネッレスキとともにローマで古代彫刻の 自然主義と理想主義を学び、丸彫り彫刻を本 格的に復活させることとなる。 • 彼は『預言者ハバクク』において優美なゴ シック美術の伝統を打破するたくましい写実 性を導入し、人々に衝撃を与えた。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BYSA のライセンスを許諾されています ドナテッロ《預言者ハバクク》 28

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美術史:初期ルネサンス絵画(1) • 絵画に新たなルネサンス様式をもたらしたのは 一人の天才、マザッチョであった。 • 建築や彫刻とは異なり、絵画には手本となる古 代作品が皆無であった。そのため彼は同時代の 彫刻家のブルネッレスキやドナテッロの作品に 学び、後の世代に多大な影響を与えることとな る作品を生み出していった。 マザッチョ《楽園追放》 29

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美術史:初期ルネサンス絵画(2) • マザッチョの課題は2次元の平面に3次元の現 実世界を再現することであった。 • これを実現するために、彼はブルネッレスキ の発明した線遠近法(いわゆるパース・透視 図法)を用いて、論理的な3次元空間のイ リュージョンを生み出した。また、明暗をつ け、彫塑性や量塊性を与えた。 • 彼の代表作として『楽園追放』や『聖三位一 体』がある。 この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BYNC-ND のライセンスを許諾されています マザッチョ《聖三位一体》 30

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美術史:初期ルネサンス絵画(3) • マザッチョは20代で早世したが、彼 の新様式は次第に広まっていく。そ の様式を本格的に受け継いだのはフ ラ=フィリッポ=リッピとフラ=ア ンジェリコであった。 • リッピは『タルクィニアの聖母』に 見られるように世俗的で親密さを抱 くような新たなタイプの聖母子像を 描き、アンジェリコは『受胎告知』 で有名で、マザッチョの空間表現や 繊細な光の描写が取り入れられてい る。 フラ=アンジェリコ《受胎告知》 31

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美術史:ルネサンスの大工房 • ルネサンスの美術品は概して工房システムの中で制作された。 • 工房では職人兼実業家である親方が作品を工房の製品として制 作しており、徒弟は様式の均一化のためにその模倣が求められ た。 • このような徒弟制によって、高度な技術と一貫した様式が潤滑 に伝授されることとなる。 32

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美術史:ボッティチェリと神話画(1) • 15世紀後半には、従来のキリスト教主題に加えて、ギリシア・ ローマ神話の異教主題に画家が取り組むことになる。 • 中世でもギリシア・ローマ神話はキリスト教的な装いをして受 け継がれては来たもの、彼らが本来の姿で蘇るのはルネサンス 期となった。 • そして、そのような画家たちの中で中心的な存在がボッティ チェリであった。 33

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美術史:ボッティチェリと神話画(2) ボッティチェリ《プリマヴェーラ(春)》 34

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美術史:ボッティチェリと神話画(3) • 神話画が描かれるようになった背景とし て、事実上のフィレンツェの支配者と なっていたメディチ家がある。 • メディチ家の別荘では神秘的異教主義の 風潮に支配された学者たちのサークルが あったが、神話画を理解しうる特別な需 要層が神々の復活の土壌となった。 • ボッティチェリは早くからメディチ家の 庇護を受け、『春』『ヴィーナスの誕 生』といった作品を制作した。 ボッティチェリ《ヴィーナスの誕生》 35

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美術史:ボッティチェリと神話画(4) • 異教的幻想を独自の想像力を用いて 書いたもう一人の画家として、ピエ ロ・ディ・コジモが挙げられる。 • 奇矯な想像力による彼の作品は、の ちのマニエリスム(反古典主義的な ルネサンス末期の文化)を想起させ るものであった。 36

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美術史:ボッティチェリと神話画(5) ピエロ・ディ・コジモ《蜂蜜の発見》 37

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本日のまとめ • 大航海時代が起こり近世が始まった。スペインとポルトガルが 海外進出するなか、イタリアではルネサンスが起こっていた。 • イタリアでは、古代ギリシア・ローマの古典復興運動であるル ネサンスが起こった。ジョットから始まり、建築、彫刻、絵画 で古典主義・自然主義的な風潮が高まった。 38

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次回の内容 • 次回はイタリア盛期ルネサンス美術と マニエリスム、北方ルネサンス美術に ついて学びます。傑出した芸術家が前 代未聞の密度で登場し、一時は西洋美 術の一種の完成形とさえみなされたこ の時代に活躍した芸術家はどのような 人物だったのでしょうか。 • 関連ワード 1. ミケランジェロ 2. ブリューゲル この写真 の作成者 不明な作成者 は CC BY-NC-ND の ライセンスを許諾されています 39