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September 08, 25
スライド概要
スクラムフェス三河2025の登壇資料
https://confengine.com/conferences/scrum-fest-mikawa-2025/proposal/23014
自動車部品メーカーでSWEやりつつSMやってます。EMになりたくて見習い修行中。元々は半導体センサ屋さん。
自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と 実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の 勘所 2025/09/06 廣野雄亮 株式会社デンソー クラウドサービス開発部
自己紹介 自己紹介 名前:廣野雄亮 所属:株式会社デンソー クラウドサービス開発部 経歴 学生時代 アメリカに留学(学部4年+修士3.5年=計7.5年) デンソー センサエンジニア (7年) 車載センサの設計 車載センサを活用した新事業開発 ソフトウェアエンジニア (3.5年) 外観検査用AIモデル構築Webアプリ開発 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 1
所属部署の紹介:クラウドサービス開発部 シリコンバレーのスタートアップを参考にして作られたデンソーの中の内製開発部隊 クラウドサービス開発部とは "出島"組織の特徴 2017年 デジタルイノベーション室として設立 本社(愛知県刈谷市)から離れた新横浜に拠点 →今は新橋・刈谷の2拠点 スタートアップと同じ文化・ツール・体制 開発スタイル 全面的にアジャイル開発を採用 スクラムを開発の基本の型として実践 内製チーム開発・クラウドネイティブ・DevOps メンバーの声 「デンソーであってデンソーでない組織」 「今までの開発手法にはもうもどれません」 「みんなで作ることがこんなに楽しいとは!」 デンソーなのにスタートアップみたいな組織 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 2
今日のお話 クラウドサービス開発部で実践しているスクラムを社内に広めようとする中での気づ きや学び アジャイル開発やスクラムの源流の一部は日本の自動車業界ですが、その源流がいま どんな形で息づいているのか 相性がいいはずのアジャイル開発やスクラムがなぜうまくいかないのか 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 3
自動車部品メーカーの仕事の進め方 デンソーでの典型的な業務フロー R&D RFQ 設計・試作・評価 3~5年 量産準備 量産 顧客から仕様書を受領し、納期通りに求められる仕様と品質を満たす製品を開発す る 3~5年スパンの開発プロセス 社内プロセスもこの開発に合わせて最適化されすぎている状態で、何をするにしてもと にかく時間がかかる 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 4
品質管理の時代変化 欧米型のTQCが持ち込まれた結果、認証主義へ プロジェクトベースなプロセス重視の開発が発展 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 出典:品質管理の歴史学 5
デンソーでも仕事が爆速で進むときもある 品質問題対応だけはめちゃくちゃ仕事が早い 品質問題対応は早く解決しないとエンドユーザーや顧客に迷惑がかかる。できるだ け早く解決するのは、ある意味で当たり前ではある 品質問題対応はどのようにして仕事のスピードをあげているのか? 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 6
品質問題対応では何をしているのか? 1. 役員・部長を含んだ品質問題対応チームが結成される 2. 進捗管理のためのExcelが作られ全員に共有される 3. チーム全員同じ時間に揃う会議が毎日設定される 役員・部長のスケジュールが取れないのでだいたい早朝の朝会 次回の朝会までにやることがリスト化される 4. 各担当者が朝会で決まったタスクに取り組む。 5. 次の日の朝会で進捗を共有。 原因を特定できたかや対策が機能するかを議論 6. ここまでで分かったことをベースに明日までにやることを決める 7. 見通しが立つと役員の朝会参加の頻度が減り、 担当者だけの朝会が増える 8. 対策できるまで3~7を繰り返す 9. 品質問題対応が完了したら、振り返りを実施 どこかで見覚えありますよね? 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 7
品質問題対応とスクラムの共通点 1. 役員・部長を含んだ品質問題対応チームが結成される 2. 進捗管理のためのExcelが作られ全員に共有される 3. チーム全員同じ時間に揃う会議が毎日設定される 役員・部長のスケジュールが取れないのでだいたい早朝の朝会 次回の朝会までにやることがリスト化される 4. 各担当者が朝会で決まったタスクに取り組む。 5. 次の日の朝会で進捗を共有。 原因を特定できたかや対策が機能するかを議論 6. ここまでで分かったことをベースに明日までにやることを決める 7. 見通しが立つと役員の朝会参加の頻度が減り、 担当者だけの朝会が増える 8. 対策できるまで3~7を繰り返す 9. 品質問題対応が完了したら、振り返りを実施 スクラムチーム プロダクトバックログ スプリント (1日) スプリントバックログ インクリメント/スプリントレビュー スプリントプランニング デイリースクラム スプリント (1週間) レトロスペクティブ デンソーでの品質問題対応はスクラムと驚くほど似ている 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 8
アジャイル開発・スクラムの源流 スクラムの源流である大部屋活動は、今も息づいている! 出典:Kanban and Scrum 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 9
スクラムの導入 品質問題対応とスクラムの共通点を活用 スクラムは全く新しい概念・開発手法ではなく、馴染のある品質問題対応で経験済み 源流が同じなので、相性は抜群のはず! しかし、現実は全然うまくいかない 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 10
アンチパターン1:ミニウォーターフォール スクラムの進め方 理想 小さくとも機能として完成しているも のをレビュー 現実 機能が大きく完成していない状態で進 捗報告のみ 出典:Making sense of MVP (Minimum Viable Product) - and why I prefer Earliest Testable/Usable/Lovable 結果的にスクラムではなくミニウォーターフォールを回しているだけになる 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 11
アンチパターン2:分業 モブプログラミング 理想 チームで1つのタスクに取り組み、 フロー効率を上げる 現実 タスクを個人に割り振り分業し、 リソース効率を上げる チームとしてもウォーターフォール的な進め方になってしまう 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 12
アウトプット・アウトカム・インパクト 通常のプロダクト開発 アウトプットをアウトカムに変換するための工夫が必要 自動車部品メーカーの典型的な仕事 仕様書通りのアウトプットを納期通りに納品すればアウトカムになるし、一度受注して しまえばインパクトもある アウトプット ≒ アウトカム 自動車部品メーカーという特性上、アウトプット重視の文化がある 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 13
品質問題対応とスクラムの比較 項目 何を開発する? 何を大事にする? ゴール・目標 時間制約 効率 チーム 品質問題対応 スクラム プロジェクト プロダクト リスクの最小化 価値の最大化 明確でわかりやすい 仮説的で進化する 納期がある プロダクトの寿命 (短くできたほうがいい) (長くできたほうがいい) 結果的に下記のような特性を持つことが多い リソース効率 フロー効率 (リソースを最大限活用する) (最も重要な仕事を最速で届ける) 得意分野を分業 重要な仕事に全員で取り組む プロジェクトとプロダクトの違いがスクラム導入の障壁 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 14
プロダクト指向の導入 アジャイルコーチとしての活動 品質問題対応を例にしたスクラム説明 プロジェクト指向からプロダクト指向への転換の重要性も説く 理解度の状況 現場のスクラムチーム 理解度が高い:「やっぱそうですよね!」「こーいうことがやりたかったんっすよ!」 マネージャー: 理解度を高めることができる:「なるほどね」「マネージャーも結構大事なんだな」 部室長 理解がないわけではない:「言わんとしていることは分かる」「そこまで言うならやってみたら」 開発当初は割とうまくいくケースが多いが なぜ段々とプロジェクトベースの進め方になってしまうのか? 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 15
スクラムでの成果を決める3つの要素 出典:スクラムチームは改善する問題を正しく選んでいますか? 開発力が足りていないことが非常に多い 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 16
負のループ 1. 初期:プロダクト指向なスクラムを実践 2. 開発力不足→アウトプット不足 3. ステークホルダーの善意と誤解 ステークホルダーは一流のプロジェクトマネージャー アウトプットが出ないのは、"効率"の悪い仕事の仕方をしているからだと考える 4. プロジェクトベースの指示 「スコープを絞ってそれがいつまでにできるかコミットして!」「もっと"効率的"にやろう!」 5. スキル学習への投資不足 足元のアウトプットを優先し、新しいスキルを学習するための投資をせずに、木こりのジレンマに陥る 生成AIを使ってなんとかアウトプットを出すが、AIの出力の妥当性を判断できないし、スキルも伸びない 6. 開発力不足とプロジェクトベースの進め方が定着 開発をなんとかしたいという善意から発生 負のループがスクラム自体の有効性への疑問を生む 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 17
開発力向上の取り組み DENSO cloud & agile dojo 最初の1ヶ月間 Step1:技術導入 ツール・用語・コーディングに慣れる 次の1ヶ月間 PBL (Project-Based Learning) スクラムで実際にプロダクトを開発 Step2:開発基本 基本的なWeb開発の手法を習得する 開発力を強化する取り組みとして2ヶ月ブートキャンププログラムを提供中 元は所属部署のオンボーディングプログラムを他部署にも開放 ある程度のアウトプットがでるようにし、ステークホルダーマネジメントを可能にする 開発力を底上げし、プロダクト指向な開発を可能にすることを目指す 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 18
まとめ 1. 今に息づくスクラムの源流 品質問題対応はスクラムの源流そのもの 2. アンチパターンにハマってしまう根本原因 プロジェクト指向 プロダクト指向への転換が必要 3. 善意による負のループから脱却 開発力の強化が大事 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 19
最後に 🏢 現在のデンソー 新規ビジネス・社内プロダクト開発 部署に偏りはあるが、スクラムが浸透 100年に一度の大変革期 車載事業 ほぼ100%ウォーターフォール 🚗 自動車業界 CASE (Connected, Autonomous, Shared, Electric) SDV (Software-Defined Vehicle) 変化の激しい世の中で車載事業もこのままでいいのか? 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 20
チェンジエージェント それに劣らず重要なのは、このやり方が大組織にも変化をもたらす「チェ ンジエージェント」(変化の仕掛け人)になるうる可能性を秘めている点 だ。新しい取り組みがもたらす熱量と意欲が大組織の隅々まで行き渡り、 長時間かけて染み付いていた組織の硬直性を溶かし始めることもある。 竹内弘高・野中郁次郎(2023)『新たなる新製品開発の方法』DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文、ダイヤモンド社 原著: H. Takeuchi, I. Nonaka (1986) "The New New Product Development Game", Harvard Business Review 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 21
We are hiring! 一緒にチェンジエージェントになってくれる仲間を募集中! 自動車部品メーカーに息づく"スクラムの源流"と実際のスクラムとの違いからみるスクラム導入の勘所/ Sep. 6, 2025/ Cloud Service R&D Div./ Yusuke Hirono © DENSO CORPORATION All Rights Reserved 22