第3回 車と充電器が「握手」するまで

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August 31, 26

スライド概要

電気自動車の急速充電で使われている「電力線通信」を、予備知識ゼロから学べる資料です。全5回シリーズの第3回。

充電器が並んだ駐車場で、自分の1台をどうやって選ぶのか(SLAC)。そして、電気が流れ出すまでの手順を扱います。

全15ページ。全ページに発表者ノート(読み上げ原稿)を入れてあるので、この分野が専門でない方でも進行できます。授業・社内勉強会・セミナーで、そのままお使いください。

■ シリーズ全5回のまとめと、編集できる .pptx 原本
https://ev-plc-materials.pages.dev/

■ ライセンス
CC BY 4.0(クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際)
改変も再配布も、営利・非営利も自由です。出典だけ書いてください。

出典表記: 『EVの充電通信 学習資料』/ Mr.hoge / CC BY 4.0

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各ページのテキスト
1.

E Vの通信 やさしい 入門 3 全5回 第3回 車と充電器が「握手」するまで SLAC と、つながったあとの手順 所要 30分 / 予備知識は要りません。専門用語はその場で説明します。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 1 / 15

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この講座の全体図 3 全5回で、EVの充電通信をひととおり分かるようにします。今日は「第3回」です 1 2 3 4 5 EVの充電で、車と充電器は何を話しているのか なぜ「線に信号を重ねる」ことになったのか 1本の線に、2つの信号が乗るしくみ 周波数のはなしと HomePlug Green PHY 車と充電器が「握手」するまで SLAC と、つながったあとの手順 済 済 今回 通信チップと、そのまわりの回路 PLC-IC の中身と、部品ひとつずつの役割 ソフトの作り・現場の落とし穴・これから 実装、トラブル、そして次の規格 第3回 車と充電器が「握手」するまで 2 / 15

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今日のゴール 3 前回のおさらいから始めます 前回のおさらい ✓ 2つの信号が混ざらないのは、速さがまるで違うか 今日ここまで分かれば OK 1 ら 隣の充電器と間違えない理由が分かる 「信号がいちばん強く届く相手が本命」という、物理を使った解き方を理解する ✓ 通信は「5% の合図」から始まる 2 ✓ つながるまでの手順を追える SLAC という名前の、6ステップの手続きを大まかに説明できる 使っている方式は Green PHY。速さより確実さを 選んでいる 3 つながった後は普通のネットだと知る Wi-Fi でホームページを見るのと、ほぼ同じしくみが動いていると分かる 第3回 車と充電器が「握手」するまで 3 / 15

4.

3 困ったこと:どれが「自分の相手」か分からない 充電器がずらりと並んでいる場所を思い浮かべてください 電気の信号は、少し漏れる 1号機 2号機 3号機 ケーブルは電波を完全に閉じ込められません。隣の充電器 の信号も、弱いながら届いてしまいます。 名前を聞いても解決しない 「3号機です」と名乗ってもらっても、自分が挿している のが何号機か、車の側は知りようがありません。 自分の車 実線=ケーブルで実際につながっている 点線=漏れて届いてしまう信号 人には見えているのに 車には、3台ぜんぶの声が聞こえている。 しかも、どれもきちんと会話できてしまう。ここで相手を間違えると、隣の車の充電を勝 手に始めてしまいます。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 人間なら、自分がどの充電器にケーブルを挿したか見れば 分かります。でも機械にはその「目」がありません。 4 / 15

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解き方:いちばん大きく聞こえる相手が本命 3 名前ではなく「声の大きさ」で相手を決める、という発想です たとえると 隣の部屋から聞こえてくる声と、目の前にいる人の声。内容は同じでも、目の前の人のほうが大きく聞こえます。 電気の信号も同じで、実際にケーブルでつながっている相手からの信号がいちばん強く届きます。 1 まず「声の大きさ」を測る 2 いちばん強かった相手を選ぶ 3 ふたりだけの合言葉を交わす 車が測定用の信号を送り、それぞれの充電 報告を見比べて、いちばん強く届いていた 選んだ相手と合言葉(暗号のカギ)を交換 器が「これくらいの強さで届きました」と 充電器を「本命」と決める。それが物理的 し、その2台だけの閉じた通信路を作る。他 報告する。 につながっている相手。 の充電器は入れない。 この一連の手続きに付いている名前が SLAC(スラック)です。今日いちばんの用語です。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 5 / 15

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SLAC の手順(前半) 3 ケーブルを挿してから、測定用の信号を送るまで 1 充電器が「5% の合図」を出す 「測定用の音」とは 前回やった、点滅の割合を 5% にするあれです。「うちは細かい相談ができますよ」という宣 言。車はこれを見つけて、通信を始める準備をします。 中身に意味はありません。 「もしもし、聞こえますか」と同じで、どれ くらいの強さで届くかを測るためだけの信号 です。 車が「どなたかいますか」と呼びかける 2 重ねた信号のほうで、周囲に向かって呼びかけます。相手を特定していないので、届いた範囲 英語の資料では sound(サウンド)と書かれ ています。 の充電器がすべて反応します。ここでは何台返事が来ても構いません。 ここまでは全員に聞こえている 車が「測定用の音」を10回送る 3 1〜3 の段階では、まだ相手を絞っていません。 近くの充電器はぜんぶ、この車の呼びかけを聞 いています。 声の大きさを測ってもらうための、決まった形の信号を送ります。1回だと誤差が出るので、 規格で10回と決まっています。受け取った充電器は、それぞれ強さを測ります。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 絞り込みは、次のページの後半で行われます。 6 / 15

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SLAC の手順(後半) 3 測った結果を持ち寄って、相手を1台に決めます 4 各充電器が「これくらいの強さでした」と報告 ここまでで、所要時間は 10回ぶんの平均を計算して、車に返します。数字は「どれくらい弱まったか」という形で表さ れます(次のページで説明)。 1秒 以下 車が、いちばん強かった1台を選ぶ 5 報告を見比べて「あなたが本命です」と宣言します。ケーブルで直接つながっている相手が選 6つの手順は、ぜんぶ合わせても1秒かかりま せん。人がケーブルを挿して手を離すまでの あいだに、静かに終わっています。 ばれるはずです。 たとえると 合言葉を受け取り、2台だけの通信路ができる 6 全体としては、暗い部屋で握手する相手を、 声の大きさだけで探し当てるようなもの。見 選ばれた充電器が、暗号のカギとネットワークの名前を車に渡します。ここから先のやり取り は、この2台だけのものになります。 第3回 車と充電器が「握手」するまで つけたら、名前を教え合って会話を始めます 。 7 / 15

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3 「どれくらい弱まったか」で測る 強さそのものではなく、弱まりぐあいを数字にします。これを減衰(げんすい)といいます たとえると 単位は dB(デシベル) 声を出しながら壁の向こうに行くと、だんだん小さく聞こえます。 「もとの大きさから、どれだけ小さくなったか」を数字にしたものが 音の大きさでも使われる単位です。ここでは「どれくらい弱まったか」を表 しています。数字が大きいほど弱まっている、と覚えてください。 減衰です。数字が小さいほど、近い(=よく届いている)ことになり ます。 この数字は、あとで役に立つ 実はこの数字、部品の不具合を見つけるのにも使えます。いつもと違う値が 報告される数字のイメージ 2号機 1号機 小さい数字 大きい数字 3号機 出ていたら、コネクタの接触や、はんだ付けを疑う手がかりになります。 ケーブルで直接つながっている 弱すぎても、強すぎても困る 漏れて届いただけ 漏れて届いただけ 大きい数字 → 数字がいちばん小さい 2号機 が選ばれる 第3回 車と充電器が「握手」するまで 弱すぎるとつながりません。逆に強すぎると、隣の充電器にもはっきり届い てしまい、選び間違える危険が出ます。ちょうどよい強さに調整する部品が 必要になります。 8 / 15

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3 つながった後は、家の Wi-Fi と同じ世界 ここから先に、EV 特有の難しい作法はほとんどありません 1 2 3 4 5 住所を決める 呼びかけて見つける 電話をつなぐ 暗号をかける 言葉づかいを合わせ る お互いに、その場かぎりの 「充電器さん、どこですか 住所が分かったので、しっ 第三者に読まれないように 「どの規格のバージョンで 住所(IP アドレス)を自 」と呼びかけ、相手が「こ かりした通信路を開きます 、通信全体に鍵をかけます 話しますか」を最初に決め 動で作ります。ルータも設 こです」と住所を返します 。落ちないように順番も保 。ネットショッピングと同 ます。ここが合わないと会 定も要りません。 。 証されます。 じしくみです。 話が成立しません。 この5つは、パソコンを Wi-Fi につないでホームページを見るときにも、まったく同じことが起きています。EV のために新しく作られたものではな く、インターネットのしくみをそのまま持ってきているだけです。 ※ 専門用語では、順に IPv6 リンクローカルアドレス/SDP/TCP/TLS/SupportedAppProtocol と呼ばれます。名前は覚えなくて構いません。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 9 / 15

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そして、充電が始まるまで 3 会話が通じるようになってから、実際に電気が流れ出すまでの流れです 1 あいさつ 「これから充電の相談を始めます」 4 条件のすり合わせ 2 メニューの確認 「どんなサービスがありますか」「認証は要 りますか」 5 安全確認 3 本人確認・支払い 「どなたですか」「どこに請求しますか」 6 電圧合わせ 「最大何ボルト出せますか」「うちの電池は 電気が漏れていないかを、実際に電圧をかけ 充電器の出力を、車の電池の電圧にそっと合 この範囲です」 て検査する わせる 7 充電開始 8 調整のくり返し 「流してください」──ここでようやく電気 「今は 120 アンペアください」を、1秒に数 が流れ出す 回くり返す 9 終了処理 電流を止め、安全を確認し、通信を閉じる 色を付けた5〜7が、次のページの話です。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 10 / 15

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3 「挿してもすぐ流れない」のは、なぜか 待たされている時間の正体は、通信の遅さではありません ① 安全確認(数秒) ② 電圧合わせ(数秒) 電気が漏れていないかを確かめる工程です 充電器の出力電圧を、車の電池の電圧にぴ 。実際に高い電圧をかけて、想定どおりの ったり合わせる工程です。 値になるかを測ります。 電圧が違うまま一気につなぐと、大きな電 物理的な検査なので、どうしても数秒かか 流が流れて危険なので、そっと近づけてい ります。 きます。 ③ ここでやっと流れ始める 上の2つが終わって、はじめて「流してくだ さい」の指示が出ます。 つまり待ち時間の大半は、通信ではなく安 全のための手続きです。 たとえると 飛行機が滑走路に出てから離陸するまで、けっこう待たされますよね。あれと同じで、点検の手順を飛ばすわけにいかないからです。 通信を速くしても、この待ち時間は縮まりません。ここは覚えておくと、原因の切り分けに役立ちます。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 11 / 15

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3 時間には、細かい決まりがある 「何秒以内に返事をすること」が規格で決められています 代表的な決まり なぜ決めてあるのか ・充電器は、5% の合図を出したあと 20〜50 秒 のあいだ、車からの 決めておかないと、片方がいつまでも待ち続けてしまいます。何秒で見切り 呼びかけを待つ をつけるかを世界共通にしておくことで、どのメーカーの車とどのメーカー の充電器でもかみ合います。 ・会話が始まったあとは、ひとつの手順に対して 60 秒 以内に返事をす る ・返事がなければ、やり直すか、そこで打ち切る 勝手に短くしてはいけない 「うちの車は速いから」と独自に短くすると、自社の試験機では動くのに、 よその充電器では動かない、という一番やっかいな不具合になります。 覚えておきたいこと この手の時間の決まりは、規格書の版によって値が変わることがあります。実 際の開発では、必ず最新の規格書で確認する、というのが鉄則です。 ここでは「細かく決められている」という事実だけ押さえてください。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 逆に、遅すぎても切られる たとえば車の中の処理が重くて返事が60秒を超えると、会話ごと打ち切られ ます。重い処理は後回しにして、返事だけ先にする作りが必要です。 12 / 15

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3 今日の言葉、ひとことで この回で出てきた言葉を、ひとことで言うと SLAC(スラック) 減衰(げんすい) 合言葉(暗号のカギ) 並んでいる充電器の中から「自分が挿してい 信号がどれくらい弱まったかを表す数字。単 選ばれた1台と車だけが持つ鍵。これを交換す る1台」を決める手続き。信号の強さを測って 位は dB(デシベル)。数字が小さいほど、よ ることで、他の充電器が入ってこられない通 選ぶ。今日いちばんの用語。 く届いている。 信路ができる。 安全確認・電圧合わせ タイムアウト 言葉づかいの合意 電気を流す前に必ず行う2つの工程。物理的な 「何秒以内に返事をすること」という決まり どの規格のバージョンで話すかを最初に決め 検査なので数秒かかる。待ち時間の主な正体 。守らないと会話が打ち切られる。勝手に短 ること。ここが合わないと、そもそも会話に 。 くしてはいけない。 ならない。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 13 / 15

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今日のまとめ 3 持ち帰ってほしいのは、この3つだけです 1 2 相手は「声の大きさ」で決める 次回 ─ 第4回 並んでいる充電器の中から、信号がいちばん強く届く1台を選ぶ。この手続きが SLAC 。1秒もかからず終わる。 通信チップと、そのまわりの回路 つながった後は、普通のインターネット 住所を決め、相手を見つけ、通信路を開き、暗号をかける。Wi-Fi でホームページを見 るのと同じしくみ。 ここまでは「何が起きているか」の話でした。次 回は「それを実際にやっている部品」を見ます。 手のひらに載る小さなチップ1個と、そのまわりの 数個の部品。それぞれが何のためにあるのかを、 ひとつずつ確認していきます。 3 待ち時間の正体は、安全確認 電気を流す前の漏電検査と電圧合わせに数秒かかる。通信を速くしても、この時間は縮 まらない。 第3回 車と充電器が「握手」するまで 質問はいつでも、その場で聞いてください。 14 / 15

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この資料について 3 自由に使ってください。授業・社内勉強会・セミナーでの利用を歓迎します CC BY 4.0 規格の内容は変わります 数値や手順は規格の改訂で変わることがあります。実際の開発では、必ず最新の 規格書で確認してください。 クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ✓ そのまま使えます 学校の授業、社内の勉強会、セミナー。営利・非営利を問いません ✓ ✓ 特定の組織の見解ではありません この資料は学習用にまとめたものです。いかなる企業・団体の公式見解も代表し ません。 変えても構いません 一部だけ抜き出す、順番を変える、直す、翻訳する。すべて自由です 製品名・会社名について 配り直せます 各社の商標です。説明のために挙げているだけで、推奨や提携を示すものではあ りません。 そのまま、あるいは変えたものを、誰にでも再配布できます ひとつだけお願い ─ 出典を書いてください 『EVの通信 やさしい入門(全5回)』 / Mr.hoge / CC BY 4.0 https://ev-plc-materials.pages.dev 誤りを見つけたら 教えていただけると助かります。直した版を公開します。 2026年8月版 v1.0 / 第3回 車と充電器が「握手」するまで 第3回 車と充電器が「握手」するまで 15 / 15