サーベイ(情報処理学会20250313)

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November 10, 25

スライド概要

Slideshareで公開したゼミ資料(2025年10月現在16.9万アクセス)「研究分野をサーベイする」の更新版。情報処理学会全国大会(2025年3月13日)での基調講演のスライド。

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各ページのテキスト
1.

Itoh Laboratory, Ochanomizu University 研究分野をサーベイする 伊藤貴之 お茶の水女子大学 情報処理学会第87回全国大会 「論文必勝法」 基調講演 2025年3月13日

2.

本講演は以下の資料の修正版です Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 「研究分野をサーベイする」 https://www.slideshare.net/slideshow/ itolab-how-to-survey-2017/76678583 2017年公開 2025年2月現在15.7万アクセス • 他にもいろんなゼミ資料を公開しています – 研究発表を準備する – はじめての論文執筆 – 修士論文の作り方 – 査読の仕組みと論文投稿上の対策 – … 1

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Itoh Laboratory, Ochanomizu University 本講演の主たる対象は 研究室配属2年目程度の学生(B4,M1くらい) 学生指導をはじめて日が浅い若手教員 などを想定しています ベテランな方々には釈迦に説法な内容かもしれませんが ご容赦ください 2

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サーベイとは何か Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 語意 – もともとは「調査」 – 研究業界では「既存の関連論文を網羅的に調査・勉強すること 」 • なぜサーベイするのか…例えば: – 自分の興味ある研究分野を一から勉強する – 研究テーマのヒントを探す – 自分が実現したい研究に必要な前提知識・要素技術を探す – 新規性や優位性が本当にあるのかを事前に検証する – 新規性や優位性を発表時に示すための証拠を揃える 3

5.

サーベイ不足がもたらす罰ゲーム Itoh Laboratory, Ochanomizu University • あとになって同じような研究(あるいは自分より優れた研究) があるのを見つけて研究自体を練り直すハメになる • 学会発表時に「○○という研究があるけど知らないの?」と 問い詰められる • …(他にも色々ありそう) 4

6.

いつやるの?いまでしょ…とは限らない Itoh Laboratory, Ochanomizu University • [方法例1] 分野全体をサーベイしてから研究テーマを考える – まず分野全体を網羅的に理解し、いま着手すべきテーマを絞る – その分野の知識全体を道具として活用する – その分野で研究者になりたい人は分野の全体像を知る必要がある • [方法例2] 研究テーマ案をたててからサーベイする – 「研究のアイディアやニーズが最初にありき」という場合に – その研究に新規性や優位性があるかを短時間で見極める – 学会投稿前の再サーベイにも有効な手段 5

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いろんなフェーズでのサーベイ 着手 立案 実装・実験 研究分野 全体の俯瞰 立案内容の 新規性の確認 実装・実験に使う 既存手法の選定 Itoh Laboratory, Ochanomizu University 執筆・発表 執筆・発表での 既存手法との比較 6

8.

文献を集めるための出発点 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 昔からの方法 – 国際会議や論文誌の目次から論文を探す – サーベイ論文を最初に読む – 論文の参考文献から別の論文を探す • インターネット時代の方法 – 気になる著者のウェブサイトから論文を探す – 学術用のオンラインサービスを使う (例) Google Scholar (scholar.google.com) • 協調的な方法 – 同じ分野の学生と共有する (例) Slack などの協調環境にサーベイ結果を書く – 勉強会・輪読会を企画する 7

9.

検索エンジン…Google Scholarの場合 Itoh Laboratory, Ochanomizu University 検索ワードに合致する論文のリストが表示される…だけで満足してはいけない この論文を引用している 新しい論文のリスト この論文を紹介している数々のサイト (どこかに論文PDFが載っているかもしれない) 8

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もっと新しいツール:AIの発展とともに Itoh Laboratory, Ochanomizu University これらについては後述… 9

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広く調べる・深く調べる Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 広く調べる – 自分の研究と同じ論文がないことを示す唯一の方法は 「1本でも多くの論文をサーベイする」ことである – 少しでも関係ありそうな論文は全部ざっと目を通す (×熟読 ◯速読) – 「網羅的に論文を探したが全て自分の研究と異なる」という証拠を作る (論文に掲載する参考文献の【数】が説得力になりえる) • 深く調べる – 自分の研究に最も近いいくつかの論文を厳選する →自分の研究の優位性をどこに確保できるか徹底的に探す 10

12.

「ざっと」「たくさん」読む Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 一般的な方法 – アブストラクト・1章・最終章などを最初に読む • 伊藤研の分野でありがちなこと – 1ページ目にいきなり図1があって重要な結果が示されている – 長大な図題を読むだけで論文の要約になっている • 英語の速読を早く覚えてほしい – 初学者が英語論文講読に苦労するのは英語能力のせいではない (多くの場合、単に知らない単語が多いだけである) – 自分の研究に関係ある論文はたいてい似た単語ばかり使っている →たくさん読んで単語に慣れればきっと速読できるようになる 11

13.

自分の研究に似ている論文が見つかったら Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 落ち込む必要はない – むしろ自分の方向性は間違ってなかったと解釈すべき • よく読むべし – 自分のアイディアのどこに優位性があるか見極めよう – 場合によっては研究の作戦変更を考えよう • アラ探しに終始してはいけない – 既存研究のやり残しを埋めるだけの研究に終わるより、 もっと新しい方向性を打ち出せる研究をしよう 12

14.

似ている論文が見つからなかったら Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 世紀の大発見!?の可能性は低い – まさか世界の誰も考えてないなんて… • 探し方を変えてみよう – 別の雑誌の目次をみる – 検索ワードを変える – 詳しそうな人に相談する • その研究は本当にいまやるべき研究なのか – 誰にも実現できない困難すぎる研究かも? – 誰一人おもしろいと思ってくれない研究かも? 13

15.

サーベイの書式を定める Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 書き慣れた書式により効率よくサーベイを進められる 例: 筑波大学 落合陽一先生の書式 「ざっと」「たくさん」読んだ結果をまとめるのに有効 http://lafrenze.hatenablog.com/entry/2015/08/04/120205 14

16.

サーベイ結果を可視化する(1) Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 数十~数百の関連論文を整理する • 論文群を階層的に分類する → そのまま論文の「関連研究」 の章構成にもなる • 論文群の散布図やマトリクスを作る → 例えば2軸を定義して各論文の 位置づけを図示する [伊藤24] [伊藤24] [田中21] [渡辺19] [鈴木14] [山田20] [石川18] [高野22] [鈴木14] [田中21] [山田20] [渡辺19] [高野22] [石川18] • 自分の研究がどこに位置付けられるかを明確にする 15

17.

サーベイ結果を可視化する(2) Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 最も重要な関連研究との比較を詳細化する – いくつかのチェックポイントを定義して自分の研究と比較する (例えば○×表をつくるとよい) → 比較実験により自分の研究の優位性を示す際の参考になる 基準1 基準2 基準3 基準4 基準5 [高野22] [田中21] [伊藤24] 16

18.

サーベイ内容をゼミで紹介する Itoh Laboratory, Ochanomizu University 伊藤研では「論文を10本紹介して、そのうち1本を 詳しく説明する」という発表をゼミにて課している • 関連論文群の全体像(≒サーベイ可視化結果)を示す – 論文群の分類結果を示す – 各論文がなぜ紹介されているのかを明確にする • 最も重要な特定の論文を深く紹介する – 著者になったつもりでアピールする – 紹介研究に対する発表者の差分や優位性も説明する • 発表者の研究の位置づけと課題を議論する 17

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可視化結果を論文やスライドに使う Itoh Laboratory, Ochanomizu University 関連研究紹介を 分類結果に沿って細分化する 関連研究群を散布図で示す [伊藤24] [伊藤24] [田中21] [渡辺19] [鈴木14] [鈴木14] [田中21] [山田20] [山田20] [渡辺19] [石川18] [高野22] [高野22] [石川18] 関連研究に対する優位性を一覧表に示す 基準1 基準2 基準3 基準4 基準5 [高野22] [田中21] [伊藤24] 18

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新しいツールを使いこなすと Itoh Laboratory, Ochanomizu University • こんな人には特に便利 – 研究に従事して日が浅い人 – 忙しくて時間のない人 – いままでと違う研究分野に飛び込んだ人 • それ以外の人にもこんな利点が – 先行研究をもれなく知れる – 多くの論文の内容を「ざっと」読める • 「論文を読む力」自体は依然として必要 – 重要な論文は結局自分で「じっくり」読む必要がある – AI特有の誤回答を見抜く能力が必要である 19

21.

参考文献に載せる論文の優先度 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 当然ながら自分の研究との関係の深さ – 「論文の主旨や構成」と「参考文献選び」の整合性が大切 • 英語論文を積極的に – 一般的に日本語より英語のほうがいろんな論文がある • 論文選びの無難かつ客観的な基準の例 – 新しい論文 (論文を見つけたら発行年をチェックするクセをつけよう) – 厳格な査読を通った論文 (ジャーナル・有名国際会議などの論文) ※日本の査読なし講演の予稿はこれに該当しない 20

22.

サーベイは一度ではない Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 定期的に繰り返すべし – 新しい関連論文が常に発表されている – 研究の進展とともに関連分野は拡がっている • 学会投稿の前に – 論文の主旨や構成にあわせて文献を追加調査したいときも • 修士論文・博士論文の執筆時に – 学会論文よりも俯瞰的に研究分野を語る必要がある 21

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最後に一言 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 時に学生はサーベイで評価されている – 知識の広さを感じさせる研究発表は信頼される – よく勉強している学生には有益なアドバイスが返ってくる • サーベイしたことに満足してはいけない – たくさん論文を読んだら自動的にいい研究ができるわけではない – 勉強会に出たから勉強になったとは限らない • 研究職を目指さない人にも重要な経験 – 技術動向や市場動向を調べるのと方法論が似ている 22

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研究の経験は研究者だけのものではない Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 研究プロセスと企業プロセスには多くの類似点 研究プロセス 文献調査 技術開拓 実装・実験 口頭発表 企業プロセス ⇔ 市場調査 ⇔ 商品企画 ⇔ 開発・テスト ⇔ 展示・プレゼン 「研究者になる人にもならない人にも役に立つ経験」 を学生生活で身につけよう 23

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もっと役に立つページ Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 文献の調べ方(大学院生の方へ) http://siva.cc.hirosaki-u.ac.jp/usr/koyama/lecture/bunken/search.htm • サーベイの仕方・論文の読み方 https://written.4403.biz/source/how-to-survey.pdf • CV分野におけるサーベイ方法 https://www.slideshare.net/HirokatsuKataoka/ss-43935588 • 文献調査をどのように行うべきか https://www.slideshare.net/YuichiGoto1/ss-62062085 • 論文の探し方・読み方 – 情報工学分野 https://www.dropbox.com/s/z54d7ff4hu8i9rp/%E8%AB%96%E6%96 %87%E3%81%AE%E6%8E%A2%E3%81%97%E6%96%B9%E3% 83%BB%E8%AA%AD%E3%81%BF%E6%96%B9.pdf?dl=0 24