講 義 Note 第 6 回 試験場で使える 実験の戦略 ダイジェスト版 本編の一部を抜粋し,解説の要所をぼかしています。 頁番号は本編のものです。
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 第1章 本講義の目的 本講義の学習テーマ・目的 本講義では,何を確かめるために具体例を試すのかを考え,得られた結果から解法を 探したり検算したりする方法を学びます。 難しい問題に出会ったとき,数を小さくして計算したり,条件に合う図を描いたりすると,考 える手掛かりが得られることがあります。本講義ではこのように具体例を試すことを「実験」 と呼びます。 ただし例をいくつか試せば自動的に解法が見つかるわけではありません。操作の意味を理解し たいのか,答えを予想したいのか,それとも求めた式を検算したいのか。まず何が分からない のか(どこで行き詰まっているのか)を明らかにすると,実験することの解像度が上がり,効 果的かつ効率的な実験ができ,問題を解く力も伸ばせます。 本講義では,普段何気なく行っている実験を分析し,何を計算し,何を図に表し,結果をどう 解答に活かすかを考えます。演習を通して実験の精度を高め,試験場での得点力を伸ばすこと を目指します。 本講義で身に付けること 1. 調べたいことに応じて調べる例やその方法を選びます。小さい数で試す,条件を変えて 比べるなど,その実験で何が分かるかを考えます。 2. 判断に必要なことを記録します。得られた数値に加え,必要なら途中の操作,場合分け, 対応関係も書き残します。 3. 実験の結果を解答に活かします。予想を修正する,証明の方針を立てる,解答の誤りを 探すなど,結果に応じて次にすることを決めます。 概論から実践・比較への構成 構成 章 扱う内容 概論 第2章 円の領域数と最大値の期待値を例に,実験の目的を五つに整理しま す。 入試問題での実践 第 3〜9 章 七つのテーマで実験の目的と方法を選び,必要な証明や検算につな げます。 実験の比較 第 10 章 同じ目的に対する方法の違い,同じ方法の使い分け,結果に応じた 実験の選び直しを考えます。 各テーマの「指針」では何を実験するかを考え, 「解答」では実験での考察を一般の場合に昇華 させた答案を確認します。「解説」ではその実験をおこなった理由と,結果から何を判断した かを振り返ります。復習では「何を確かめるために,何を記録したか」を自分の言葉で説明し てください。 いくつかの例で実験の結果が予想と一致しても,一般の場合の証明にはなりません。実験で分 かったことと解答で証明すべきことを区別しながら進めましょう。 — 1 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 第2章 具体例から考える実験の目的 「小さい数で試す」と言われても,何を試し,結果をどう用いればよいか分からないことがあ ります。本章では円の領域数と札の番号の最大値といった簡単な設例をもとに,実験を問題の 理解や解法の発見,検算にどう用いるかを考えます。何を調べるかを選び,結果をもとに解答 を仕上げるまでの手順を確かめましょう。 実例 1 弦で分けた円の領域数 円 C の円周上に異なる n 個の点をとり,2 点を結ぶ弦をすべて引きます。円の内部にできる 領域の個数 rn を求めましょう。ただし n は正の整数で,3 本以上の弦が円の内部の 1 点で交 わることはないものとします。 点の増加と領域の増加数の関係 点が少ない場合なら図から直接数えられます。まず点の個数を 1 個から 5 個まで増やし,領域 数の変わり方を調べましょう。5 点の図には領域ごとに番号を付けて数え漏れを防ぎます。 n=1 n=2 n=5 1 2 3 1個 2個 n=3 n=4 4 5 6 7 8 12 9 10 13 11 14 15 16 16 個 4個 8個 点の個数 n 1 2 3 4 5 6 領域の個数 rn 1 2 4 8 16 32? 5 点までは点が 1 個増えるごとに領域数が 2 倍になっています。この結果から rn = 2n−1 では ないかと予想し,次は 6 点で確かめます。表の 32 はこの予想から得られる値であり,実際に 数えた結果ではありません。 実験の役割:答えや規則の予想 点が少ない場合を調べて領域数の規則を予想しました。図で確認したのは 5 点までです。 6 点以上でも倍増が続くかどうかはまだ分かりません。 — 2 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 実験に用いる図と問題の条件 実例 1 の続き 6 点目の位置と交点の重なり 5 点の図には正五角形を用いました。その頂点を順に P1 , . . . , P5 とします。6 点目も見やす い位置に置こうと考え,まず短い弧 P5 P1 の中点に P6 をとります。この図は問題文の条件を 満たすでしょうか。 条件:3 本以上の弦の位置関係 P5 側へ移動 弧の中点に追加 P1 P1 P6 P6 P2 P5 P3 P4 P2 P5 P3 P4 交点付近の拡大 交点付近の拡大 3 本の弦が 1 点で交差 三つの交点と小さな三角形 左図では弦 P1 P4 と P2 P5 の交点を弦 P3 P6 も通ります。これでは 3 本以上の弦が円の内部の 1 点で交わることはないという条件に反します。 右図のように P6 を P5 側へ動かすと三つの交点が分かれ,小さな三角形が現れます。弦の本 数は同じでも領域の分かれ方が変わるのです。領域数を比べるには点の個数に加えて交点の条 件もそろえる必要があります。次頁では右図を用いて 6 点の領域を数えます。 実験の役割:状況や操作の理解 点を動かして交点の重なりを解消すると,領域の分かれ方も変わりました。問題文の条件 を図で確かめたことで,領域数を調べる際にどのような図を描けばよいかが分かりました。 — 3 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 6 点での数え上げと予想の検討 実例 1 の続き 新しい弦による領域の増加 予想した通りなら r6 = 32 です。実際の個数と比べるために 6 点の領域を数えます。細かい 領域を初めから数え直すと見落としやすいため,5 点でできた 16 個の領域に新しい弦を加え たときの増加分を調べましょう。 1 本の弦の追加による領域の増加数 P1 青:5 点までの弦 P6 赤紫:6 点目からの弦 P2 P5 白丸:新しい交点 追加する弦は 5 本。 円の内部に新しくできる 交点は 10 個。 P3 P4 加えた弦と既存の弦との交点が円の内部に k 個あれば,その弦は k + 1 本の線分に分かれま す。それぞれの線分が一つの領域を二つに分けるため,領域は k + 1 個増えます。 新しい 5 本の弦は P6 を共通の端点とし,円の内部では互いに交わりません。各弦について元 の弦との交点を数えると次の表の通りです。 追加する弦 P6 P1 P6 P2 P6 P3 P6 P4 P6 P5 合計 円の内部の新しい交点 0 3 4 3 0 10 増える領域 1 4 5 4 1 15 領域は 15 個増えるので r6 = 16 + 15 = 31 です。32 個にはならず,点を 1 個増やすと領域数 が 2 倍になるという予想は成り立ちません。 一般の場合に用いる数え方 弦の本数と交点の個数から,増えた領域の個数を求められました。次は一般の n についても, 同じ方法で領域数を求めてみましょう。 実験の役割:予想の検討 6 点での領域数は予想と一致せず,倍増の予想は誤りだと分かりました。いくつかの例で 一致していても,予想が一般に成り立つとは限りません。 — 4 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 実験の五つの目的 円の領域数を調べたときは答えの予想から始めて条件を確認し,予想を検討して一般の場合の 証明へ進みました。最大値の期待値では求めた式を小さい n や極端な場合で検算しました。こ れらを実験の目的によって分類すると次の五つに分かれます。 実験前の疑問 実験の目的 条件や操作は A 実例での調べ方 状況や操作の理解 何を意味するか 答えや規則は 6 点目の位置(3 頁)。点を動かし,交点 の重なりと領域の分かれ方を比べます。 B 答えや規則の予想 どのようになるか 円の領域数(2 頁)。5 点までの個数を数 えて規則を予想します。 予想は正しいか C 予想の検討 6 点での数え上げ(4 頁)。予想した 32 個 と実際の 31 個を比べます。 どう解けばよいか・ D 解法・証明の 弦と交点の個数(5 頁)。一般の場合にも 方針の発見 同じ方法で数えられるかを考えます。 検算 最大値の期待値の検算(6 頁)。3 枚から 2 枚選ぶ場合や,すべて選ぶ場合で,直接 何を証明すればよいか 解答に誤りはないか E 求めた期待値と式の値を比べます。 目的に応じた試し方と記録 五つの目的は問題文を理解する段階から解答を仕上げる段階までの各段階における疑問に対応 しています。小さい数で計算する,図を描く,操作を再現するといった方法は目的に合わせて 選びます。 円の例で規則を予想する際は点の個数と領域数を表にしました。一般の場合の証明を考える際 は,どのように数えたかも必要でした。6 点を調べたときに弦ごとの増加分を書き残したこと で,弦と交点を数えれば,一般の場合の領域数も求められると分かりました。 一問の中での目的の変化 円の例では個数の予想(B)から始め,条件の確認(A) ,予想の検討(C)へと進みました。6 点を数えたときの方法から証明の方針も見つかりました(D) 。最大値の期待値では一般の式を 求めた後に,答えを直接求められる場合で式を検算しました(E) 。 A から E へ順に進めばよいわけではありません。実験の後に生じた疑問に応じて次の目的を 選びます。また 6 点の領域を数えた実験のように,一度の実験が C と D の両方に当たること もあります。 — 7 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 第3章 実験の目的 札の操作の理解と整列する条件の検討 A 状況や操作の理解 C 予想の検討 D 解法・証明の方針の発見 概論では実験の目的を五つに分けました。ここからは入試問題を解きながら,必要に応じ て実験の目的を変えていきます。最初に扱う札の問題では操作を理解するために 3 枚で 試します。次に整列するための条件を調べ,最後に枚数を減らした問題との対応を考え ます。 テーマ 1:札の並べかえと漸化式 問 題 n を 2 以上の整数とする。1 から n までの数字が書かれた札が各 1 枚ずつ合計 n 枚 あり,横一列におかれている。1 以上 (n − 1) 以下の整数 i に対して,次の操作 (Ti ) を 考える。 (Ti ) 左から i 番目の札の数字が,左から (i + 1) 番目の札の数字よりも大きければ, これら 2 枚の札の位置を入れかえる。そうでなければ,札の位置をかえない。 最初の状態において札の数字は左から A1 , A2 , · · · , An であったとする。この状態か ら (n − 1) 回の操作 (T1 ), (T2 ), · · · , (Tn−1 ) を順に行った後,続けて (n − 1) 回の操作 (Tn−1 ), · · · , (T2 ), (T1 ) を順に行ったところ,札の数字は左から 1, 2, · · · , n と小さい順 に並んだ。以下の問いに答えよ。 (1) A1 と A2 のうち少なくとも一方は 2 以下であることを示せ。 (2) 最初の状態としてありうる札の数字の並び方 A1 , A2 , · · · , An の総数を cn とする。 n が 4 以上の整数であるとき,cn を cn−1 と cn−2 を用いて表せ。 (2025 東京大 理系 第 5 問) 指針 ▼ 操作の理解 ▼ 整列する条件の検討 3 枚での札の動き 条件を満たす 5 枚の並び ▼ 枚数を減らした問題との対応 最初から最後まで操作ごとの並びを記録します。右図では最 初の (T1 ) で 2 が先頭へ移り,最後の (T1 ) まで動きません。 先頭の札を入れかえる可能性があるのは (T1 ) だけです。こ の事実を用いて (1) を示します。 先頭は 固定 3 2 1 2 3 1 2 1 3 1 2 3 最初の (T1 ) (T2 ), (T2 ) 最後の (T1 ) 札が 3 枚の場合 — 10 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 答案記載上の注意点 ▼ ポイント 1:必要条件と十分条件の区別 ▼ ポイント 2:並びの対応と個数 解説 解答の漸化式は整列する n 枚の並びを n − 1 枚や n − 2 枚の並びと対応させて導きました。こ こではその対応に気付くまでの過程を振り返ります。 1. 操作ごとの記録と整列する並びの個数 n = 3 のときは (T1 ), (T2 ), (T2 ), (T1 ) の順に操作します。右図の 3, 2, 1 は最初の (T1 ) で 2, 3, 1 となり,続く (T2 ) で 2, 1, 3 となります。2 回目 の (T2 ) では札を入れかえず,最後の (T1 ) で整列します。(*3-1) 2 枚ならどちらの並びも整列します。3 枚の並びをすべて試しても, 3! = 6 通りすべてが整列します。4 枚で同様に調べると,4! = 24 通りの 3 2 1 2 3 1 (T1 ) (T2 ) 2 1 3 (T2 ) 2 1 3 うち 20 通りが整列します。 (T1 ) 1 2 3 これで c2 = 2, c3 = 6, c4 = 20 と分かりました。しかしこの三つの値から漸化式を決めること はできません。(2) では cn を cn−1 , cn−2 で表すように求められています。そのため,整列す る n 枚の並びを,整列する n − 1 枚や n − 2 枚の並びと対応させる方法を探します。その前に (1) の条件でどこまで並びを絞れるか確かめます。 2. 必要条件だけでは整列しない例 (1) の条件が十分条件でもあれば,最初の 2 枚だけを調べて数えられます。3 枚ではどの並び も条件を満たし,すべて整列します。4 枚で条件を満たさないのは先頭の 2 枚が 3 と 4 の場合 で,2! × 2! = 4 通りです。条件を満たす 20 通りは,先ほど調べた整列する 20 通りに一致し ます。 — 12 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止 (*3-1) 既に小さい順に 並んでいる 2 枚は入れ かえません。並びが変 わらなかった場合も, どの操作をしたか記録 しておきます。
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 第8章 実験の目的 配置の数え上げと n = 2 での検算 D 解法・証明の方針の発見 E 検算 前章では最初の接点を動かし,三角形の角度と面積比の変化を調べました。本章ではマス 目への数字の入れ方を数えます。一般の n について答えを求めた後,n = 2 の 4 マスへの 入れ方を直接数え直します。式を導いた議論とは別の方法で答えを確かめることが本章の 課題です。 テーマ 6:マス目への 0 と 1 の配置と検算 問 題 n を 2 以上の整数とする。正方形の形に並んだ 第1 第2 第3 第4 列 列 列 列 n × n のマスに 0 または 1 のいずれかの数字を入 れる。マスは上から第 1 行,第 2 行,. . .,左から 第1行 0 1 0 0 第 1 列,第 2 列,. . .,と数える。数字の入れ方に 第2行 1 0 1 1 ついての次の条件 p を考える。 第3行 0 1 0 0 第4行 1 0 1 1 条件 p:1 から n − 1 までのどの整数 i, j につい ても,第 i 行,第 i + 1 行と第 j 列,第 j + 1 列と が作る 2 × 2 の 4 個のマスには 0 と 1 が 2 つずつ 第2行 第3列 2 × 2 の 4 個のマス (n = 4 の場合の入れ方の例) 入る。 (1) 条件 p を満たすとき,第 n 行と第 n 列の少なくとも一方には 0 と 1 が交互に現れ ることを示せ。 (2) 条件 p を満たすような数字の入れ方の総数 an を求めよ。 (2015 大阪大 前期 理系 第 5 問) 指針 ▼ 0 と 1 が交互に並ばない行か らの出発 ▼ 盤面全体の配置の分類 ▼ 小さな盤面での検算 n = 2 での直接の数え上げ 同じ数字が横に隣り合う 2 マス (1) では第 n 行に 0 と 1 が交互に現れない場合を調べます。例えば右図のよ 上の行へ順に決定 うに 0 が 2 つ隣り合っていれば,その真上の 2 つのマスはともに 1 です。さ 1 1 らにその上は 2 つとも 0 となり,この 2 列では縦に 0 と 1 が交互に並びます。 0 0 1 1 0 0 同じ数字が 2 個 — 32 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止
ダイジェスト版・本文抜粋 講義 Note 第 6 回 4. n = 2 での直接の数え上げと検算 n = 2 の全 6 通り n = 2 では盤面そのものが 1 つの 2 × 2 です。4 マスのうち 1 を入れる 2 マスを選べば,残りは 0 と決まります。したがっ て配置は 4 C2 = 6 通りです。 1 1 1 0 1 0 0 0 1 0 0 1 0 1 0 1 0 0 1 0 0 1 1 1 ただし n = 2 で一致しただけでは,一般の n についての証明にはなりません。分類の漏れや 重複がないことは解答の議論で保証し,検算ではその結果に矛盾がないかを確かめます。本問 では 4 マスの配置を直接数えることで,一般の解答で引いた 2 が何に当たるのかも確かめられ ます。 次のテーマ 7「多項式の係数と 2 の累乗」では,証明すべき結論が初めから与えられています。 n が小さいときに結論が成り立つことを確かめた後,その計算のどの部分を一般の証明に活か せるかを考えます。 続きは本編で 本編には七つの入試問題の指針・解答・解説と, 実験の目的と方法を比べる最終章を収録しています。 講義Noteシリーズはこちら — 35 — © ブリザードマン @HhG2cL9UOLRSz4I 無断転載・共有禁止