東洋思想に学ぶコンサマトリーなUXデザインについての一考察

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March 04, 26

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第27回日本感性工学会大会

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大阪公立大学生活科学部居住環境学科デザイン人間工学研究室(土井俊央研究室)

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1.

第27回日本感性工学会大会 HDT部会企画セッション 東洋思想に学ぶ コンサマトリーなUXデザインに ついての一考察 土井 俊央 大阪公立大学生活科学部居住環境学科デザイン人間工学研究室

2.

20世紀のモノづくり 大量生産・大量消費の時代 必要な機能・性能は満たされ 差別化できなくなった • 高機能・高性能に価値があった • 需要の増加 モノを作るだけでは売れない • モノの飽和,需要の減少 ユーザが望む 機能・性能 機能・性能 • 作れば売れる • 機能・性能だけでは価値を訴求できない 技術で実現できる 機能・性能 このギャップを埋めることで 価値を訴求できた 時間(時代) 2

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使う側の視点:より高次な要求 ヒドノミクス 各個人の 価値の実現 これからの 人間工学 UXデザイン 嬉しい体験 ユーザビリティ 機能性 従来からの 人間工学 安全性 Peter A.Hancock ,Aaron A.Pepe, Lauren L Murphy, Hedonomics : The Power of Positive and Pleasurable Ergonomics, Ergonomics in Design, pp11,No l, Vol 13, 2005 3

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モノづくりの潮流:デザインに求められてきたこと 人へのより深い理解・共感をデザインに落とし込むことが求められている 19~20世紀初頭 1980年頃 2000年頃 現在 UXデザイン 体験価値 ユーザが利用する際の品質 ユーザの使い勝手 芸術と機械産業の融合 機能性・合理性 価値や意味の追求 使いやすさの追求 審美性・機能性・生産性の追求 4

5.

高原社会へ(見田,2018;山口,2020) 急進的な経済成長の期間の終わり(特に先進国) • 「さらなる成長(経済的な富の増大)」という未来の目的のために合理化してきた → インストルメンタル • 成長が鈍化し,結果主義(プロセスはともかく頑張って結果を出せばよい)の パラダイムに揺らぎ 高原社会:経済成長・合理化の圧力から解放 • より人間性に根差した精神的な豊かさが求められる • 未来のためではなく,「現在を楽しむ」→ コンサマトリー 5

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UXデザインとコンサマトリーの共通点 コンサマトリーという価値観とUXデザイン • UXデザイン:単に効率・有効さの追求だけでなく,ユーザ個人の価値観から 体験そのものの価値を考える • コンサマトリーの価値観と共通点が見いだせる 今後の高原社会において,コンサマトリーという価値観を念頭に置いた UXデザインは重要になるのではないか • 具体的にどんな観点から考えるべきか? 6

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本発表の目的|東洋思想との関連性を考える 東洋思想:コンサマトリーという価値観との親和性 • 現代のビジネスにおいても注目されている • 結果だけでなくプロセスに意味を見出す • 他者や環境との調和を重んじる • あいまい,余白,矛盾を受け入れる態度 など コンサマトリーなUXデザインを考えるための要素を 東洋思想から着想・整理する • 高原社会においてユーザに提供すべき体験価値を考える方向性となり得る 7

8.

高原社会とは 高度成長を終え,安定平衡期に入りつつある⇒高原状態(見田,2018) • 物質的な充足のための経済成長は完了しつつあり, 経済成長を志向していたこれまでの価値観から転換が求められる(山口, 2020) 文明化 高原状態 人口 原始社会 主観的幸福度 GDP成長率 時間 時間 ※グラフは実際の数値に基づくものではなくイメージです 8

9.

インストルメンタルとコンサマトリー インストルメンタル:手段主義的な合理化 • 将来の利得のために今を我慢して頑張る ⇒ 頑張った分だけ成長していた社会では相性が良かった コンサマトリー:未来の功利的な目的のためではなく,現在の活動そのものを楽しむ • わかりやすい功利的指標でない価値観が必要 ⇒ 人間性に根差した衝動(山口),幸福感受性(見田) インストルメンタル コンサマトリー 手段はコスト 手段自体が利得 中長期的 瞬間的 手段と目的が別 手段と目的が融合 合理的 直感的 利得が外在的 利得が内在的 9

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東洋思想から考えるコンサマトリーなUX 今後の社会の方向性として,UXデザインを考えるにも コンサマトリーという価値観に着目する必要性があるのではないか コンサマトリーなUX:“行為の中に充足がある・見出せる体験” 東洋思想:コンサマトリーと親和性がある ⇒参考にしてUXの構成要素を考える • プロセスを楽しむ • 感性・直感 • 分けない(無分別) 10

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東洋思想|プロセスを楽しむ 最終的な成果だけでなく,そこに至るプロセスを大事にする発想 茶の湯 日本庭園 11

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東洋思想|プロセスを楽しむ 之を知るものは,之を好む者に如かず. 之を好む者は,之を楽しむ者に如かず. • 論語 ⇒ 行為自体に価値を見出すことの重要さ プロセスや途中の行為を単に目的達成の手段と捉えず, それ自体に価値を見出している = コンサマトリーとの共通点 ⇔ インストルメンタル:プロセスを犠牲にしても結果が出ればよい コンサマトリーなUXの視点 =プロセスを楽しむ・今この瞬間に意味を見出す視点 12

13.

東洋思想|感性・直感 論理や分析では捉えきれないもの • 禅:不立文字(禅における文字や言葉に頼らず直感的に悟 りを得ることを目指すこと) 日本文化:言葉・データに現れないことを感じ取る 能力を大事にする • 以心伝心,気配を読む,目利き • 曖昧さや多義性を排除せず, それを豊かさとして受け入れる 13

14.

東洋思想|感性・直感 高原社会で充足を見出すには,そのための感受性が必要 ⇒ 感性・直感 • 合理主義:目に見える結果や数字を重視する • 高原社会:意味,美,感情といった非合理な領域を大事にする 人間性に根差した社会 ⇒ 幸福感受性が大事 コンサマトリーなUXの視点= その場,現在での気づきや共感から充足を見出す視点 14

15.

東洋思想|分けない(無分別) 不二性,自分(主)と自分に対するもの(客)を分けない • 矛盾やあいまいさをそのまま受け入れる包括的な思考 ⇔ 西洋思想:科学的二分性に基づいた分析思考 例 • 万物には陰陽両方の相反する側面がある • 自然と自分を区別するのではなく, 自分を自然に溶け込ませることを良しとする 15

16.

東洋思想|分けない(無分別) 祭り,茶の湯 → 提供者と受益者の関係を二分していない • 「分けない」思想 コンサマトリーなUXの視点= ユーザを単なるサービス受益者として捉えるのでは なく,共にその場・その瞬間の体験を作り上げる 16

17.

事例を考える:レトロな製品の利用体験における魅力 事例を通して考える:著者らの先行研究 • Doi, T., Murata, M., Nagata, A. (2025) Attractiveness Factors of the Use of Retro Products to Young People: A Mixed-Method Approach with User Experience Analysis, International Journal of Industrial Ergonomics, 105, 103695. 近年のレトロブームに着目した,レトロな製品利用における魅力要因 • これまでのレトロ製品:過去に利用経験のあるユーザに対してノスタルジアを喚起 し,再購買を狙う • 過去に利用経験のない若者がレトロ製品を好んでいる インストルメンタルとは違う価値観があるのでは? 17

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研究のアプローチ 混合研究アプローチ:2段階の調査 • 調査1:レトロ製品の魅力要因の仮説抽出 • 3製品いずれかを利用してもらった後にUXカーブを実施 • UXカーブから抽出したデータからKJ法を行い, 魅力要因の仮説を得た • 調査2:アンケート調査&因子分析による仮説検証 • 調査1から抽出された仮説をもとにアンケートを作成 • 各対象製品の利用経験がある若者を対象に合計600名に ウェブアンケートを実施 • 探索的因子分析⇒確証的因子分析により5因子を提案 18

19.

研究の成果|レトロな魅力の要因 第1因子 ワクワク感 第2因子 手間による魅力 第3因子 本能的な魅力 第4因子 不便さによる魅力 第5因子 新奇性 • 利用前のワクワク • 習得する楽しさ • 操作した実感 • 不便さの魅力 • 独特さ • 期待感 • 愛着 • 感覚の良さ • 時間の魅力 • 非典型的 • 利用中のワクワク • 仕上がりへの行動の • 製品の見た目 • 労力の魅力 • 非日常感 • 成果物の見た目 • 意外性による驚き • 特別感 • 成果物の質感 • 機能制限の魅力 • 使うための原動力 • 好奇心 • 仕上がりの予測でき なさ 反映 • 達成感(反映) • 向上心 • 手間の魅力 • 達成感(手間) • 選択する手間の楽し さ • 不安定さ・不均一さ • 意外と機能性が良い • 安心感 ⇒ コンサマトリーという価値観との共通点 19

20.

レトロな魅力の要因と東洋思想からの視点(1) “プロセスを楽しむ” 手間や不便さが魅力につながっている • 写真を撮る,コーヒーを飲む,ガラスペンで手紙を書く,という結果に至るまでに 手順や手間が多くあるが,それ自体に楽しみや魅力を感じていた 魅力にかかわる要素 • 手間:結果や手段の区別なく,一連の所作やプロセスに価値を見出している • 不便さ:結果主義ではなく,非効率で時間や労力がかかっても現在の行為そのもの をポジティブに捉えている • ワクワク感:利用前や利用中に次に何が起こるか,成果物がどう仕上がるか予測し づらい点に気持ちが高ぶっている 20

21.

レトロな魅力の要因と東洋思想からの視点(2) “感性・直感” 非言語的な身体感覚に関連している本能的な魅力 • 例)ガラスペンを使い終わって,ペン先を洗うときに,いろいろな色のインクの流 れる様子や水に漂う様子に美しさを感じ魅力を感じているということがあった 結果主義では非効率で煩わしい時間においても, 感性を働かせ魅力を自ら見つけ出している • 操作した実感 • 感覚の良さ など 21

22.

レトロな魅力の要因と東洋思想からの視点(3) “分けない(無分別)” 不便さも含めて包括的に捉えて魅力を見出す • 不便さや使いにくさを感じつつも,それが魅力につながるという一見すると矛盾す るような観点 • 例)使い捨てカメラ:フィルムの枚数制限があり,かつそれを使い切ってから現像 しないといけない ⇒ 厳選しつつも,一定枚数をきちんととるために新たな行動が誘 発され,そこに魅力を感じる 利用中・それ以外を区別しない • 使い捨てカメラ:フィルムを使い切って,現像して初めて撮った写真が確認できる • 例)その場で確認できないから,使っていない間も現像を楽しみにする ⇒ 製品のメ インの機能を使っているとき・そうでないときの体験が明確に区別されず,あいま いであるからこその魅力? 22

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作る側の視点でのコンサマトリー 成果(利益など)のために作る → インストルメンタル 自分自身の衝動や楽しみに根差して作る → コンサマトリー 23

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まとめ コンサマトリーという価値観と共通点が見いだせる体験:レトロブーム • 東洋思想の観点から解釈できる可能性 高原社会におけるコンサマトリーという価値観にあったUXデザインを考 える観点として,東洋思想に着想を得て3つの視点を考察 • プロセスを楽しむ • 感性・直感 • 分けない 24