システム思考に基づく体験価値起点のUXデザインプロセスの考察

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March 08, 23

スライド概要

第18回日本感性工学会春季大会
HDT部会オーナーズセッション:システム再考
講演番号:1F03-03
原稿(pdf):https://researchmap.jp/d_the_rhythm/presentations/41656890/attachment_file.pdf
(このリンク先の原稿(pdfファイル)の利用に関する注意 本著作物の著作権は日本感性工学会に帰属します。本著作物は著作権者である日本感性工学会の許可のもとに掲載するものです。ご利用に当たっては「著作権法」ならびに関連法規に従うことをお願いいたします。)

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大阪公立大学生活科学部居住環境学科デザイン人間工学研究室(土井俊央研究室)

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各ページのテキスト
1.

2023/3/6 第18回日本感性工学会春季大会 HDT部会 テーマ:システム再考 システム思考に基づく体験価値起点の UXデザインプロセスの考察 土井 俊央 大阪公立大学大学院生活科学研究科居住環境学講座 1

2.

UXデザインと主なアプローチ Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University UXデザイン • ユーザがどんな体験に価値を見出すかを起点に考えるアプローチ • より良いUXを提供するための方法として,ISO9241-210の人間中心設計プロセスやデザイン 思考などがあるとされている 人間中心設計プロセス(ISO9241-210)やデザイン思考に共通する考え方 • 「現場観察や調査からユーザをはじめとするステークホルダーの課題を把握し,それに基づき アイデアを発想する.そこからプロトタイプの作成と評価を繰り返して最終的なソリューショ ンへまとめる」アプローチ 2 /42

3.

UXデザインにおける課題 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 複雑で大型(構成要素の多い)のシステムなどを対象にできるのか? • 例えば,ISO9241-210のプロセスは,対話システムのユーザビリティに焦点を当てていた ISO13407の時代から大きく変わっているわけではない • システムやサービスのデザインに対してより適したアプローチを検討する余地があるのでは? 体験価値を設計要件に落とし込むまでの具体的な思考プロセスは 十分に明確化されているわけではない 3 /42

4.

システム思考とUXデザイン Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システム思考によるデザインアプローチ • 対象とする物事を一つのシステムとして捉え,その全体を系統的に見て分析・統合を図る • 化学プラントや発電所などといった複雑・大型のシステムの設計に用いられる UXデザインプロセスへ当てはめて考える利点 • 現状の状態や要求事項を明確化し,それに基づいて解決策を考えるという基本的な流れは ISO9241-210のHCDプロセスやデザイン思考などと共通点が見られる • 様々な制約条件を考慮して破綻なく設計に落とし込むための考え方やフレームワークがあり, 解決策を具体化するプロセスがより明確である システム思考を取り入れることで, 複雑で大型なサービスやシステムにも対応しやすくなる 4 /42

5.

本発表のねらい Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システム思考のアプローチは,ユーザに提供したい体験価値を起点に考える UXデザインのプロセスを明確化するのに役立つのでは? UXデザインのプロセスをシステム思考に基づいて考察・説明することで, 体験価値を起点として具体的な設計要件に落とし込むプロセスの明確化を図る 5 /42

6.

なぜ価値を起点に考えるか Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University モノ・コト側の品質から体験や意味といった人側の観点が重要になってきた Pleasurable experience (Promotion of pleasure) Usability (Priority of preference) Functionality (Promulgation of process) Hedonomics (Hancock et al., 2005) Safety (Prevention of pain) Ergonomics いかにユーザの生活に本質的な価値を提供するか が重視されている = モノ・コトを通して得られる体験や意味 Individuation (Personal perfection) Hedonomics • 生産者:脱コモディティ化,消費者:より充足した生活 • Pleasurable experience:モノ,コトと関わる経験を通して喜びや充足感を得る • Individuation:個人の価値観に寄り添って共感を生む意味を与える 6 /42

7.

価値中心のデザイン Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 昔:対話システムのユーザビリティ⇒ 今:体験価値 を中心に考えるデザイン では検討事項が増える • 時間軸の拡張:購入前から利用後まですべて • 快楽的な側面:効率・有効さなどの実用的側面だけでなく,ユーザの感情など快楽的な側面も 含む • 多様な価値観を持つステークホルダー 検討すべき事柄の増加 ⇒ 複雑化 • システム思考が活用できる可能性 7 /42

8.

デザイン対象の大型化・複雑化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システム,サービス,ビジネスモデルなどデザイン領域が拡大 • 製品単体とユーザのやり取りの検討だけでは対処できない • ネットワーク化,サービス化が進むことにより,関連するステークホルダーの増加,タッチポ イントの増加などにつながって,システムの大型化・複雑化 8 /42

9.

システム思考の必要性 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 検討事項の多い大型・複雑なシステムのデザイン⇒システム思考の観点がないと全 体を捉えられないのではないか? • 検討漏れや矛盾をなくす • システム思考:複雑で難解な事象をできるだけシンプルに捉えて計画・設計や問題解決を図る 思考法 チームでデザインに取り組む場合,チーム内外での認識の共有や明確なデザイン プロセスが必要 • 大型・複雑なシステムをすべて一人でデザインするのは難しい • システム思考に基づいた明確なデザインプロセスがあれば認識が共有・合意形成しやすい • プロセスや要素間の関係性が明示されるので,評価・検証がしやすく,修正の際も検討点がわ かりやすく手戻りも少なくなる 9 /42

10.

システム思考とは

11.

システムとシステム思考 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システム • 多数の構成要素が有機的な秩序を保ち,同一の目的に向かって行動するもの(JIS Z 8121) システム思考 • 物事を単なる構成要素の集まりと捉えるのではなく,ある共通目的のために構成要素が 組織化されていると考えて,全体的に捉えるものの見方 • 対象とする課題や物事を全体として系統的に見て,分析・統合する考え方 11 /42

12.

システムの階層性 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University あるシステムには上位のシステムと下位のシステムがある • 全体-部分の関係 • 目的-手段の関係 全体 部分 全体 部分 12 /42

13.

システム思考によるデザイン Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システムの目的を実現する手段を階層的に考えていく 外部設計 内部設計 • デザイン対象のシステムを外部環境(外部システム)の 中に実在可能なものとして位置付ける • システムの目的・範囲・制約条件などの明確化,外部と の関係の整理 • 外部設計に基づいて内部システムを具体的に設計する • システム内部の具体的な要素やそれらの関係性の構築 13 /42

14.

システム思考によるデザイン Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University ダブルダイヤモンドとの関係 外部設計 内部設計 問題を見つける 発散 解決策を見つける 収束 発見 定義 (discover) (define) 発散 収束 展開 実現 (develop) (deliver) 14 /42

15.

秩序と制約 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システム思考によってデザイン対象を捉える際の一つの考え方 • • • • 制約:上位のシステムが秩序を維持するために下位のシステムに要求するもの 秩序:上位システムにおける要素間の関係や組み合わせ 制約は秩序を成り立たせるために必要な条件 秩序を明らかにし,それに基づいて制約を設定することが設計といえるのではないか システム1 制約 秩序 制約 制約* 制約 システム3 システム2 システム1 制約* 秩序 制約 制約 サブシステム3 サブシステム2 サブシステム1 15 /42

16.

デザインにおける制約と秩序 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 外部設計における制約と秩序 • 外部秩序 ⇒ デザイン対象の存在意義・位置づけを規定するもの(デザイン対象は ある環境や文脈の中で何らかの課題を解決したり,価値を提供するために存在する) • 外部制約 ⇒ これを実現するために満たすべきコンセプト,ステークホルダーの要求事項, 社会的要求など 内部設計における制約と秩序 • 内部秩序 ⇒ 外部制約のもとでデザイン対象自体を形作るためには秩序が必要 • 内部制約 ⇒ これを成立させるための制約であり,システムを構成する要素や その関係性を規定し,システムの具体的内容を策定するための設計要件 16 /42

17.

システム思考によるデザインのポイント Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システム思考に基づくデザインプロセス • 様々な方法が提案されているが,統一的な定義・認識があるわけではない • 基本的な考え方やプロセスには共通点があり,体験価値起点でのデザインを説明するうえで 重要と思われる点を整理した 本稿で示すシステム思考によるデザイン(問題解決)のポイント 1. 階層的アプローチ 2. 目的の明確化 3. モデル化 17 /42

18.

1. 階層的アプローチ Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システムの階層構造に従って,全体→部分,基本→詳細という風に段階的に 問題解決を図る • 目的を達成するには「何が満たされるべきか」「どんな働きがされるべきか」などと階層的に 考え,中間階層を経て,具体的な手段を決める 1st tier: システムの目的 (最上位の価値) 2nd tier: ユーザに提供したい 価値 3rd tier: 価値を提供するための 理想的なユーザ体験 (To-beシナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 18 /42

19.

1. 階層的アプローチ Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 中間階層を設けるメリット • 目的ー手段の分解のプロセスが明確になる ⇒ 変更・修正を行う際に一番上の階層まで 立ち返って考えなくても適当な中間階層を再検討すればよい(手戻りが少ない) • 問題があった場合,その所在や原因を考えやすい ⇒ 反復設計が基本のHCDと相性が良い 1st tier: システムの目的 (最上位の価値) 2nd tier: ユーザに提供したい 価値 3rd tier: 価値を提供するための 理想的なユーザ体験 (To-beシナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 19 /42

20.

2. 目的の明確化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University システムのデザインでは最初に設定する目的がその後の手段の策定に 大きな意味を持つ • システムは,目的ー手段の階層構造を持つので,この階層の1層目となるシステムの目的を 明確に定めることが重要 • 目的⇒外部制約の一つ • システムは,上位システムの目的を達するために存在しているとも言えるので, 上位システムの目的に資するかという観点を持つ必要がある 20 /42

21.

2. 目的の明確化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 目的の種類 • 階層の1層目におくシステムの目的は,以下の標的と到達点が適していると思われる 1. 理念:デザインの際に念頭におくフィロソフィー ⇒取り組むべき問題を決める指針の一つに はなるが,漠然とした概念なので,下位の手段を具体化しづらい 2. 標的:どこに・誰に・何のためにアプローチするのか? 3. 到達点:どういう状態を目指すか? 4. 目標:様々なシステムで共通に求められる一般的な要求事項の到達目標であり, デザイン案を評価・選択する基準となる(安全性,ユーザビリティ,など) 5. 前提条件:システムが生み出す特定の具体的な手段などを規定するものであり 制約条件になる 21 /42

22.

3. モデル化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University モデル化:複雑なシステムの課題を解決するために抽象化して考える方法 • モデル化することで,取り組むべき課題に焦点を絞って考えることができる As-isモデル 抽象化・ 一般化した 状態・問題 モデル化 現状の具体的な 状態や問題 現実世界 問題定義 問題解決 To-beモデル 一般化した 解決策 具体化 理想状態を実現 するための具体 的な解決策 選定された 解決策 評価 22 /42

23.

価値起点のデザインプロセス

24.

デザインプロセスの枠組み UXデザインでよく行われる 行為・プロセスを外部設計・ 内部設計に当てはめて説明 外部設計 • 秩序と制約を考え,それを満たす 解をデザイン案とする 外部設計段階 • ユーザに提供する価値を明確化 内部設計段階 • 目的-手段の関係で階層化し, 具体的な設計要件に落とし込む 内部設計 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 外部秩序の探索 問題の発見・分析,現状のモデル化 外部制約の設定 問題の定義 外部制約の精緻化 アイディエーション 内部秩序の規定 理想状態のモデル化 内部制約の検討 ユーザ要求事項と設計要件の抽出 デザイン案の具体化 システムの評価 24 /42

25.

デザインプロセスの枠組み 外部秩序の探索 外部制約の設定 外部制約として上位コンセプトを 決め,階層的に詳細化していく コンセプト設定 外部制約の精緻化 内部秩序の規定 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 1st tier: システムの目的 (最上位の価値) 2nd tier: ユーザに提供したい 価値 3rd tier: 価値を提供するための 理想的なユーザ体験 (To-beシナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 コンセプト詳細化 内部制約の検討 デザイン案の具体化 システムの評価 外部制約 内部制約 25 /42

26.

(1) 外部秩序の探索・分析 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 外部秩序:システムの外にある秩序でありシステムの意味づけのために必要 • これが把握できていないとシステムの目的や制約を正しく設定できない • 代表的な外部秩序 1. デザイン組織やデザイナのフィロソフィ 2. 既存システムの構造や問題 3. システムを取り巻くステークホルダーの特性・体験やそれらの関係性 4. ステークホルダーの体験価値の評価構造(価値マップ) 5. 社会的・ビジネス的な背景 これらの前提のもとにシステムの位置づけが明確にできる (意味付けができる) 26 /42

27.

(1) 外部秩序の探索・分析 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 外部秩序の明確化 = 調査・分析を通して現状(As-Is)をモデル化 • 現状の具体的な状態や問題を抽象化する 外部秩序となる各種リサーチ手法による分析 • • • • • • ステークホルダー・バリュー・ネットワーク 因果ループ図 As-isモデル ペルソナ 抽象化・ ジャーニーマップ 一般化した 状態・問題 価値マップ SWOT分析 モデル化 現状の具体的な 状態や問題 現実世界 問題定義 問題解決 To-beモデル 一般化した 解決策 具体化 理想状態を実現 するための具体 的な解決策 選定された 解決策 評価 27 /42

28.

(2) 外部制約の設定 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 外部秩序に基づいてシステムの目的と目標(外部制約)を明確にする 目的:システムによって達成されるべき機能(働き) • 誰が,どんな状況で,どう使って(どう関わって),どんな価値を生むのか? 目標:システムが満たすべきより一般的な目的(評価基準) • 快適性・安全性・コストなど多くのシステムに共通する一般的な要求事項 • アイデア選定や評価の基準となり得る(5~10程度) 28 /42

29.

(2) 外部制約の設定 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 定義すべき目的:アイデア発想のための問題定義 ちょうどよい幅で定義する:手段を含まず価値にフォーカスする • 目的が特定的すぎる(問題の幅が狭い)⇒アイデアの出る幅が狭くなる (例:手段を限定しすぎている) • 目的が一般的すぎる(問題の幅が広い)⇒アイデアの方向性を絞る制約としての役割を 果たせない(例:漠然としすぎている) 29 /42

30.

(2) 外部制約の設定 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 階層化 • 最上位の価値だけでは漠然としており,アイデア発想が難しい ⇒ 最上位価値の手段として2層目を検討 • いきなり具体的な手段を示すのではなく,どんな働きによって達成されるかという観点から 価値を具体化する 1st tier: システムの目的 (最上位の価値) 2nd tier: ユーザに提供したい 価値 3rd tier: 価値を提供するための 理想的なユーザ体験 (To-beシナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 30 /42

31.

(3) 外部制約の精緻化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 内部設計を進めるには,ある程度具体的なアイデアが必要 • 外部制約である構造化コンセプトの1~2層目をもとに発想する • 外部制約は外部秩序を成り立たせるためにあるので,外部秩序と紐づけた発想が必要 • 外部秩序:想定されるユーザ像,利用状況,提供しうる価値,社会的・ビジネス的背景 1st tier: システムの目的 (最上位の価値) 2nd tier: ユーザに提供したい 価値 3rd tier: 価値を提供するための 理想的なユーザ体験 (To-beシナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 31 /42

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(3) 外部制約の精緻化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University アイディア選定の観点 • 製品の3属性:有用性,利便性,魅力性(Null, 1998) • システムの目標 構造化コンセプトの精緻化 • 選定されたアイデアに応じて,構造化コンセプト(1~2層目)や システムの目標の精緻化を適宜行う 32 /42

33.

(4) 内部秩序の規程 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 外部制約に基づいて目的を達成する手段を検討 ⇒ 階層的アプローチに基づいて価値・機能を分解していく • 全体-部分の関係でモノ・コトを細分化 • 時系列によって時間経過による状態の変化を細分化 システムの設計図:共時的設計図と経時的設計図(三原,黒須,2019) • 共時的設計図:要素間の空間的な関係を表す • 経時的設計図:時間経過や手順を表す • 経時的設計図(どのように使うか)を決めてから, 共時的設計図(どんな要素をどう配置するか)を決める ⇒ 内部秩序と内部制約の関係 33 /42

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(4) 内部秩序の規程 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 内部設計で検討すべき秩序と制約 • 内部秩序:時系列の観点からシステムの要素の関係を記述したモデル(経時的設計図) • 内部制約:内部秩序を維持・実現するための要求事項や設計要件(共時的設計図) 時系列の観点から外部制約を満たす手段を考える = 理想的なシナリオ(To-Beモデル) • 構造化コンセプトの2層目に応じて,複数の代表的・典型的なシナリオを導出し, 理想状態をモデル化 1st tier: システムの目的 (最上位の価値) 2nd tier: ユーザに提供したい 価値 3rd tier: 価値を提供するための 理想的なユーザ体験 (To-beシナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 34 /42

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(4) 内部秩序の規程 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 理想状態のモデル化とシミュレーション • ジャーニーマップ,サービスブループリント,UMLのアクテビティ図などの活用 • 各タッチポイントでどんな体験や価値を提供するのかを明確化(2層目との紐づけ) シミュレーション:システムの振舞の理解・予測 • To-Beモデルに基づいた簡易モックアップ,ストーリーボード,アクティングアウトなどが 考えられる As-isモデル 抽象化・ 一般化した 状態・問題 モデル化 現状の具体的な 状態や問題 現実世界 問題定義 問題解決 To-beモデル 一般化した 解決策 具体化 理想状態を実現 するための具体 的な解決策 選定された 解決策 評価 35 /42

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(5) 内部制約の検討 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 理想状態のモデルをもとに目的ー手段の関係から掘り下げてユーザの要求事項を 抽出する • To-Beモデルをもとにタスク分析 ⇒ 要求事項を検討(5P,3P,1Pタスク分析など) 例:出張中に2-in-1 PCを使うシナリオ タスクやサブタスク ユーザ要求事項 (タスクやサブタスクを実現するために 求められること) 設計要件 (ユーザ要求事項を満たすためのモノ・ コトの特性) 移動中の飛行機の座席でe-mailの確認・ 返答をする 狭い座席でも入力しやすい 入力しやすいキーボード 狭い場所でも自立できる 移動中の飛行機の中で動画を鑑賞する 見易い位置に画面を置ける 使い勝手の良いスタンド タブレットだけでも十分なバッテリー容 量 出張先で地図を見ながら徒歩で移動する 画面部分が軽くて持ちやすい 軽量 屋外での取材で情報を集める 音声・文字情報を入力しやすい 屋外で使える カメラ撮影,音声録音,ペン入力ができ る 屋外でも見やすい画面 出張先のホテルで取材情報をまとめる どこでも仕事ができるパフォーマンス 使いやすいKBD,見易い画面サイズ ハイパフォーマンス 36 /42

37.

(5) 内部制約の精緻化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 内部制約としてユーザ要求事項 • タスク分析から得られたユーザ要求事項 • 内部制約同士の関係から生じる内部制約(前川,2015) • 内部制約を追加・変更・削除や他の制約との関係性から生じる内部制約も考慮する必要がある 1st tier: システムの目的 (最上位の価値) 2nd tier: ユーザに提供したい 価値 3rd tier: 価値を提供するための 理想的なユーザ体験 (To-beシナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 37 /42

38.

(6) デザイン案の可視化 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 得られた内部制約を整理・組み合わせ,システム全体の様子を把握する • システム全体の機能体系を図式化:UMLなど • 構造化コンセプトの下位項目に基づいて可視化案を作成:各種デザイン項目を参照 供するための ユーザ体験 シナリオ) 4th tier: ユーザ体験を実現する ためのタスクやユーザ 要求事項 5th tier: ユーザ要求事項を満たす ための機能要件 38 /42

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(7) システムの評価 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University Verification:設計要件通りにできているかの検証 • 内部制約を満たしているか? • 評価対象の設計要件や仕様に応じて,システム自体が持つ特性を評価する • 例)設計要件:打鍵感の良いキーボード ⇒ キー押下時のフォースカーブなどの評価 Validation:デザイン案がシステムの目的・目標に対して妥当かの確認 • • • • 外部制約を満たしているか? システムの有効性について総合的に評価する 目的について:ユーザがどのような価値を感じているか?(目的に合致しているか?) 目標について:最初に決めた目標の基準を満たしているか?(安全性,ユーザビリティ,な ど) 39 /42

40.

まとめ Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University UXデザインのプロセスにシステム思考の考え方をあてはめて考察・説明 • ISO9241-210の人間中心設計プロセスなどと共通点は多いが,各プロセスをシステム思考の 考え方によって解釈しなおした 外部設計 内部設計 外部秩序の探索 問題の発見・分析,現状のモデル化 外部制約の設定 問題の定義 外部制約の精緻化 アイディエーション 内部秩序の規定 理想状態のモデル化 内部制約の検討 ユーザ要求事項と設計要件の抽出 デザイン案の具体化 システムの評価 40 /42

41.

ご清聴ありがとうございました 土井 俊央(どい • • • • Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University としひさ) 大阪公立大学大学院生活科学研究科居住環境学講座 講師 tdoi@omu.ac.jp http://toshihisadoi.com/index.html 41 /42