ドライビングシミュレータにおける道路幅の変化が運転に及ぼす影響

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March 15, 23

スライド概要

適切な車のナビゲーションのためには,道路形状に応じた運転の難易度のモデル化が必要となる.
我々はこれまでの研究において,カーブの角度や半径に着目した運転の難易度をモデル化するための調査を行って きた.ここで,車線減少や幅員減少といったように道路幅が変化する経路の運転は容易ではない.そこで本研究で は,ドライビングシミュレータ上で道路幅が変化する経路を設計して実験を行い,運転の難易度に及ぼす影響につ いて調査を行った.実験の結果,道路幅の変化が運転の難易度に影響を及ぼすこと,その影響の度合いはステアリ ングの法則に関するモデルを用いて推測できる可能性を明らかにした.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

ドライビングシミュレータにおける 道路幅の変化が運転に及ぼす影響 明治大学B3 福井雅弘 髙久拓海 中村聡史(明治大学) 山中祥太(ヤフー株式会社) 1

2.

こんな経験,ありませんか? ドライブしよう! ルートを調べて 出発だ〜 2

3.

こんな経験,ありませんか? カーナビに従ったのに・・・ 3

4.

現在のカーナビゲーションシステム 4

5.

現在のカーナビゲーションシステム 料金や距離などの要因を もとに推薦 →運転者の技量や意識は 反映されていない 5

6.

最適なルート 最短経路 < 運転しやすいルート 自分の運転技量や苦手意識に 合わせた推薦や選択 6

7.

最適なルート 苦手意識や技量不足で難しい道 ・緊張して快適にドライブできない ・咄嗟の判断が遅れ事故に繋がる 可能性 7

8.

運転の技量・意識 運転の技量や 苦手意識は人それぞれ 8

9.

運転の技量・意識 様々な運転しづらい道路 きついカーブ (出典:狭幅員な生活道路における歩行者・自転車・車の交通 改善と事前事後調査) 狭い直線 (出典:ドライバーと歩行者の意識・生体反応に着目した 生活道路の交通安全対策に関する研究) 9

10.

技量・意識の反映に向けて 運転者の技量や苦手意識に合わせた経路推薦 → 個別の運転技量の推定が必要 そのための基礎調査として, 道路条件ごとの運転難易度のモデル化を 行いたい 10

11.

例えば・・・ 種類 :カーブ 幅 :𝑤 (m) 長さ :𝑙 (m) カーブ半径:𝑟 (m) 種類 :幅員減少 はじめの幅:𝑤1 (m) おわりの幅:𝑤2 (m) 長さ : 𝑙 (m) 関 数 11

12.

モデルの知見 GUIに関するモデル化 13

13.

ステアリングの法則 [Accotら 1997] Start line End line (𝐼𝐷:通過する難易度) 通過時間を経路の形状から推定できる 14

14.

ステアリングの法則 カーブにおいても成立 [Accotら 1997] Start line [Yamanakaら 2019] End line 15

15.

ステアリングの法則 直線経路 カーブ経路 通 過 時 間 (ms) (ms) 通 過 時 間 𝐼𝐷 𝐼𝐷 通過時間は𝐼𝐷と線形の関係がある 16

16.

問い このモデルは運転にも 適用可能か? 18

17.

運転のモデル化 直線,円形コースにおいて仮想環境で運転実験 [Zhaiら,2004] 19

18.

運転のモデル化 結果:ステアリングの法則の適合性を確認 20

19.

カーブ運転のモデル化 カーブの半径と幅が運転難易度に与える影響の調査 [髙久ら] コース条件の表 � � � � 21

20.

運転しづらい経路 道路幅が変わる経路は運転が難しい (出典:凸部、狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準」 に関する 技術資料(国土技術政策総合研究所)) 22

21.

関連研究[伊藤ら,2010] 狭さくの速度抑制効果の検証 23

22.

関連研究 狭さく部からの距離と速度の関係 狭さく幅員と予測速度 ・狭さくは20m ~ 30m の範囲で速度を抑制 ・狭さくの幅が2mのとき 5mのときと比べ 通過速度が約10km/h 遅くなること ・道路幅の変化量の影響に ついては未調査 24

23.

ステアリングの法則 幅が変わる経路に関しても成立 25

24.

研究の目的 道路幅の変化が運転に及ぼす影響を調査し ステアリングの法則が適用できるか検証 ? 26

25.

実験システム これまでに実車を再現したドライビング シミュレータを開発[Funazakiら, 2022] 27

26.

実験システムの改善 今回,幅の変化等のコース形状や初速度 といったパラメータを設定する機能を実装 2.5m 5.0m 100m 50m 100m 28

27.

実験設計 計測対象となる,幅が変化する区間 29

28.

GUI実験との違い GUI操作と運転操作の特性の違いを 考慮し,設計を変更 30

29.

GUI実験との違い 最高速度に達するまで時間がかかる → 100mの助走区間 31

30.

GUI実験との違い 通過後を考慮した現実的な運転を意図 → 100mの直線区間 32

31.

実験設計 Start line Goal line 33

32.

問題点 ・ハンドルを切らずにクリア できてしまう ・速さの統制が困難 34

33.

ハンドルを切らずにクリア スタート時に正面を向いていると・・・ GOAL 35

34.

ハンドルを切らずにクリア スタート時に右に1度ずらした → ハンドル操作を必須に ERROR 36

35.

速さの統制 口頭で指示する手法では,実験協力者間で 速さに大きなばらつき プログラムでスタートの速さを60km/hに設定 37

36.

道路幅の変化 関連研究[伊藤ら,2010]を参考に,2.5m, 5.0m, 7.0m のうち異なる2つの組 合計6種類を採用 38

37.

幅変化区間の長さ 20m, 50m, 100mの3種類を採用 40

38.

実験の様子(成功) 43

39.

実験の様子(エラー) 44

40.

実験内容 ・全18種類のコースを各5回,合計90回走行 ・全て成功させるまで繰り返す 幅変化区間20m, 始端幅2.5m, 終端幅5.0m 幅変化区間50m, 始端幅5.0m, 終端幅7.0m 幅変化区間100m, 始端幅7.0m, 終端幅2.5m 45

41.

実験結果 実験協力者は大学生及び大学院生 20名 (女性8名,男性12名) 外れ値となる実験協力者は無し 46

42.

結果・分析(エラー率) 各コース条件における幅変化区間内のエラー率 ・エラーバーは95%信頼区間を示す ・総試行:2,373回,幅変化区間内のエラー:82回 (全エラー数:573回) 47

43.

結果・分析(エラー率) 広がる条件 → エラー率 0 エ ラ ー 率 狭まりが大きい → エラー率 大 (2.5,5.0) (2.5,7.0) (5.0,7.0) (5.0,2.5) (7.0,2.5) (7.0,5.0) (始端幅,終端幅)(m) 48

44.

結果・分析(エラー率) エ ラ ー 率 幅変化区間長が 50m以下 → エラー率 小 20 50 100 幅変化区間の長さ(m) 49

45.

結果・分析(平均通過時間) 各コース条件における幅変化区間の平均通過時間 51

46.

結果・分析(平均通過時間) 各コース条件における幅変化区間の平均通過時間 幅変化 +2.0m→ −2.0m→ 幅が全て5.0m以上だと広狭による差が小さい 52

47.

結果・分析(平均通過時間) 各コース条件における幅変化区間の平均通過時間 幅変化 +2.5m→ +4.5m→ 広がりが大きいほど短縮される 53

48.

結果・分析(平均通過時間) 各コース条件における幅変化区間の平均通過時間 幅変化 −2.5m → −4.5m → 20mでは,急に狭まるほど長い 50m以上では逆に短い → 道が広いため加速? 54

49.

考察 運転難易度は・・・ ・幅が全て5m以上のとき,幅変化に影響 されにくい ・急に狭まるほど増加し,急に広がるほど 減少する ・幅変化区間がある程度短いとき減少する 55

50.

ステアリングの法則(再掲) 直線経路 カーブ経路 通 過 時 間 (ms) (ms) 通 過 時 間 𝐼𝐷 𝐼𝐷 経路の形状から通過時間を推測! 56

51.

Accotらのモデル[Accotら,1997] 𝐼𝐷狭 = 𝐼𝐷広 (𝐼𝐷:通過する難易度) 幅が狭いほど難しい 57

52.

Yamanakaらのモデル[Yamanakaら,2017] 𝐼𝐷 : 通過する難易度 𝑘 : 経路パラメータの重み 狭まるか広がるかの違いを考慮 58

53.

モデルの意味 難易度の差が大きい条件 ・幅変化区間が長い ( 𝐼𝐷:タスクの難易度 ) 60

54.

モデルの意味 難易度が高い条件 難易度の差が大きい条件 ・幅変化区間が長い ( 𝐼𝐷:タスクの難易度 ) ・幅変化区間が長い ・始端幅と終端幅の差が 大きい ・始端幅と終端幅の差が 大きい 61

55.

モデルの意味 難易度の差が大きい条件 ・幅変化区間が長い ( 𝐼𝐷:タスクの難易度 ) ・始端幅と終端幅の差が 大きい ・幅が全体的に狭い 62

56.

仮説 狭まるか広がるかの違いを 考慮している,Yamanakaらの モデルの方が精度が高い 63

57.

モデルの適合性 Accotらのモデル Yamanakaらのモデル 7000 7000 y = 202.1x + 221.66 R² = 0.9695 adjR² = 0.9676 AIC = 258.6757 6000 5000 4000 MT(ms) MT(ms) 5000 3000 4000 3000 2000 2000 1000 1000 0 0 5 10 y = 193.16x + 233.04 R² = 0.9767 adjR² = 0.9736 AIC = 255.8177 6000 15 20 ID 25 30 35 0 0 5 10 15 20 25 30 35 ID 青:広がる条件,赤:狭まる条件,直線:線形近似 64

58.

モデルの適合性 Accotらのモデル Yamanakaらのモデル 7000 7000 y = 202.1x + 221.66 R² = 0.9695 adjR² = 0.9676 AIC = 258.6757 6000 5000 4000 MT(ms) MT(ms) 5000 3000 4000 3000 2000 2000 1000 1000 0 0 5 10 y = 193.16x + 233.04 R² = 0.9767 adjR² = 0.9736 AIC = 255.8177 6000 15 20 25 ID 𝑎𝑑𝑗𝑅2 = 0.9676 𝐴𝐼𝐶 = 258.7 30 35 0 0 5 10 15 20 25 30 35 ID 𝑎𝑑𝑗𝑅2 = 0.9736 𝐴𝐼𝐶 = 255.8 65

59.

モデルの適合性 Accotらのモデル Yamanakaらのモデル 7000 7000 y = 202.1x + 221.66 R² = 0.9695 adjR² = 0.9676 AIC = 258.6757 6000 5000 4000 MT(ms) MT(ms) 5000 3000 4000 3000 2000 2000 1000 1000 0 0 5 10 y = 193.16x + 233.04 R² = 0.9767 adjR² = 0.9736 AIC = 255.8177 6000 15 20 25 ID 𝑅2 = 0.9695 30 35 0 0 5 10 15 20 25 30 35 ID 𝑅2 = 0.9767 66

60.

モデルの精度差 7000 y = 202.1x + 221.66 R² = 0.9695 adjR² = 0.9676 AIC = 258.6757 6000 MT(ms) 5000 4000 3000 2000 1000 0 0 5 10 15 20 25 30 35 ID 両モデルの精度の差が小さかった要因 → 赤と青で通過時間が近い 𝐼𝐷 ≤ 20 の条件? 67

61.

モデルの精度差 7000 y = 202.1x + 221.66 R² = 0.9695 adjR² = 0.9676 AIC = 258.6757 6000 MT(ms) 5000 4000 3000 2000 1000 0 0 5 10 15 20 25 30 35 ID 赤と青で通過時間が異なる 𝐼𝐷 > 20の条件では 両モデルの精度に差がつきやすい? 68

62.

展望 𝐼𝐷 > 20のタスクを中心に設計し,再実験 ・幅変化区間が長いタスク ・始端幅と終端幅の差が大きいタスク ・幅が全体的に狭いタスク 69

63.

まとめ 背景:運転しにくいルートを避けたい 目的:幅が変化する経路の運転難易度の調査, GUIモデルの適合度の検証 結果:5m以下の狭い道路では幅変化が影響, Yamanakaらのモデルの方が高い精度 展望:難しいタスクを中心に再実験し, モデル間の精度を比較 70