手書きとフォントの文字形状の違いが顔と名前の記憶に及ぼす影響

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December 11, 19

スライド概要

学校でのクラス替えや会社での営業,選挙のポスター等,人の顔と名前を覚える機会は多い.しかし,人の顔と名前を覚えることを苦手とする人もまた多い.我々はこれまでの研究において,フォントと手書き文字に関する記憶タスクにおいて記憶しやすさに違いがあり,特にゴシック体に比べ続け字風の手書き文字が記憶しやすいことを明らかにしてきた.つまり,顔画像と名前を記憶する際にも同様の手書き文字を使用した方が覚えやすい可能性があると考えられる.そこで本研究では,手書き文字やフォントで書かれた名前と顔画像の組み合わせを用いた実験を行い,記憶においてそれらに差が生じるのかを検証した.実験の結果,予想とは異なりMSゴシックが覚えやすく丸文字の手書きが覚えにくい傾向があり,顔画像と文字の間に生じる違和感が記憶に影響している可能性があった.また,覚え方に性差があることが示された.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

手書きとフォントの文字形状の違いが 顔と名前の記憶に及ぼす影響 伊藤理紗 (明治大学3年) 斉藤絢基 中村聡史 (明治大学) 掛晃幸 石丸築 (株式会社ワコム)

2.

はじめに 人の顔と名前を覚えなければいけない場面 • 新学期のクラス替え • 会社での営業 • 歴史などのテスト 福沢諭吉 伊藤博文

3.

はじめに 名刺、選挙のポスターには様々なフォントが 使われている モデル:土本寛子

4.

はじめに 人の顔と名前を覚えるのが苦手だ 43% あてはまる 57% あてはまらない 全国20代~60代の男女1,332名 2017年 しらべぇ編集部調べ

5.

はじめに 人の顔と名前を覚えるのが苦手だ 43% 自分の名前を記憶してもらいやすい 57% 文字表現を推薦する あてはまる あてはまらない 全国20代~60代の男女1,332名 2017年 しらべぇ編集部調べ

6.

関連研究(文字の読みにくさ) • 読みづらいフォントの方が記憶に残りやすい [Diemand-Yauman 2011] • 単語を180度回転させて読みにくくしたものを 提示した方が記憶に残りやすい [Sungkhasettee 2011]

7.

関連研究(文字の読みにくさ) • フォントのみを比較している • 文字を回転させる手法は実際の名刺などには 向いてない • 画像とテキストの組み合わせについては 調査していない

8.

先行研究 続け字風の手書き文字は記憶に残りやすく、 ゴシックが記憶に残りにくい [伊藤 2019]

9.

先行研究 続け字風の手書き文字は記憶に残りやすく、 ゴシックが記憶に残りにくい [伊藤 2019]

10.

先行研究 続け字風の手書き文字は記憶に残りやすく、 ゴシックが記憶に残りにくい [伊藤 2019]

11.

先行研究 続け字風の手書き文字は記憶に残りやすく、 ゴシックが記憶に残りにくい [伊藤 2019] 顔と名前を提示した場合も、 同様の結果になる可能性

12.

関連研究(顔と名前の記憶) 名前を覚える際に媒体によって間違え方に 差があり、順序効果がある [城居 2011] ディスプレイ、音声などの提示媒体に着目してお り、 文字形状における違いには着目していない

13.

研究目的 自分の名前を記憶してもらいやすい 文字表現を推薦する 顔画像と名前を記憶する際に フォントと手書き文字によって 記憶効果に差が生じるのかを検証する

14.

仮説 関連研究より… • 読みづらい文字のほうが記憶に残る • 続け字風の手書き文字は覚えやすく、 ゴシックは覚えにくい 顔と名前を記憶する場合においても、 続け字風の手書き文字が記憶に残りやすく ゴシックが記憶に残りにくい

15.

実験 顔画像と名前のペアを記憶 • 8人分の顔画像と名前を記憶する • 実験協力者(大学生):44名 手順 1.ディスプレイで顔画像と名前のペアを 5秒間×8人分提示し、見て覚えてもらう 2.テストを行う これを4回繰り返す

16.

提示した文字 使用したフォント • MS 明朝 あ あ • MS ゴシック

17.

提示した文字 使用した手書き文字 • 手書きA • 丸文字 • 横に長い • 1画ずつ離して書かれている • 手書きB • 角ばっている • 縦に長い • 複数画がつなげて書かれている(続け字風)

18.

提示する画像と名前 • ミスコンテスト出場者の画像を使用 • 苗字は漢字、名前はひらがなで統一

19.

実験(テスト方法) 顔画像に対し名前を回答してもらう

20.

実験後のアンケート • 自身の手書き文字は手書きA、Bのどちらに 似ているか? • 提示された文字は男性的か女性的か • 提示された文字は読みやすいか?

21.

採点方法 • 完全に解答と一致しているもの:1点 • 苗字か名前のどちらかのみ:0.5点 • 8点満点で採点

22.

結果(男女) どの文字でも女性の方が男性よりもスコアが高い 3.00 2.50 得点 2.00 1.50 男性 1.00 女性 0.50 0.00 明朝 ゴシック 手書きA 文字 手書きB N=41

23.

結果(男女) 女性のスコアが高かった理由 • 女性の方が女性と接する時間が長い • ファッション雑誌などで多くの女性を目にする 女性の方が女性の顔と名前を覚えるのが 得意である可能性

24.

結果(提示順序) 1人目と3, 4, 6, 7人目の間に有意差あり 0.4 ** * ** ** 得点 0.3 0.2 0.1 0 1人目 2人目 3人目 4人目 5人目 6人目 7人目 8人目 提示順 N=41,*: p<0.05 ,**: p<0.01

25.

結果(提示順序) 8人目と3, 4, 6, 7人目の間に有意差あり ** * 0.4 ** ** 得点 0.3 0.2 0.1 0 1人目 2人目 3人目 4人目 5人目 6人目 7人目 8人目 提示順 N=41,*: p<0.05 ,**: p<0.01

26.

結果(提示順序) 提示順序の効果がみられた理由 最初に提示されたものが印象に残り、 最後に提示されたものが正確に覚えられる [城居 2011] →1、8人目を除いた6人分で分析

27.

結果(文字ごと) MSゴシックのスコアが高く、手書きAのスコアが 低い 1.60 1.40 得点 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 明朝 ゴシック 文字 手書きA 手書きB N=41

28.

結果(文字ごと) MSゴシックのスコアが高く、手書きAのスコアが 低い 1.60 1.40 得点 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 明朝 ゴシック 文字 手書きA 手書きB N=41

29.

仮説と結果 仮説 • 手書きBが記憶に残りやすい • MSゴシックが記憶に残りにくい 結果 • MSゴシックが記憶に残りやすい • 手書きAが記憶に残りにくい

30.

考察(文字の印象) 提示した文字が男性的か、女性的か • 男性的(-3)~女性的(+3) 明朝 男性的ー女性的 0.38 ゴシック 手書きA -0.78 1.63 手書きB -0.20 →ゴシックが男性的、手書きAが女性的という 印象を持たれやすい

31.

考察(文字の印象とスコア) 明朝 ゴシック 手書きA 手書きB 男性的ー女性的 0.38 -0.78 1.63 -0.20 スコア平均 2.07 2.21 2.00 2.21 • 男性的な文字のスコアが高い • 女性的な文字のスコアが低い

32.

考察(文字の印象とスコア) 明朝 ゴシック 手書きA 手書きB 男性的ー女性的 0.38 -0.78 1.63 -0.20 スコア平均 2.07 2.21 2.00 2.21 • 男性的な文字のスコアが高い • 女性的な文字のスコアが低い →違和感がある方が覚えやすいのでは?

33.

考察(文字の印象とスコア) どの文字が顔画像にマッチしているか アンケートを実施 文字ごとの選択率 明朝 ゴシック 手書きA 手書きB マッチしている 0.33 0.13 0.33 0.21 マッチしていない 0.17 0.46 0.33 0.04 →MSゴシックがマッチしていない

34.

考察(文字の印象とスコア) マッチしていないと評価された MSゴシックのスコア平均が高い →顔画像とマッチしていない文字は 違和感が生じ、記憶に残りやすい

35.

考察(先行研究との比較) 先行研究では… 手書きBが記憶に残りやすく、 MSゴシックが記憶に残りにくかった

36.

考察 MSゴシックの結果 環境 先行研究 本研究 ディスプレイ 紙 ? 〇 × ? 先行研究と結果が異なった理由 • ディスプレイで実験した • 顔画像の影響が大きかった • 実験タスクが難しすぎた

37.

考察 MSゴシックの結果 環境 先行研究 本研究 ディスプレイ 紙 ? 〇 × ? 先行研究と結果が異なった理由 • ディスプレイで実験した • 顔画像の影響が大きかった • 実験タスクが難しすぎた

38.

特徴記憶実験(ディスプレイ) 先行研究で行った実験を ディスプレイで行う 架空の物事の特徴を記憶 [Diemand-Yauman 2011] • 固有名詞3つ×7つの特徴 • 90秒で記憶する • 15分後にテストを行う 一部抜粋

39.

特徴記憶実験(ディスプレイ) 10 8 得点 6 4 2 0 明朝 ゴシック 文字 手書きA 手書きB →ディスプレイにおいて、MSゴシックが 記憶に残りやすい可能性 N=6

40.

特徴記憶実験のまとめ • MSゴシックのスコアが高い • 実験協力者が少ない

41.

まとめ 目的 • 顔画像と名前を覚える場合の 手書き文字とフォントにおける影響を 検証する 実験 • 顔画像と名前のペアを記憶する実験

42.

まとめ 結果 • 性差がみられた • 提示順序の効果がみられた • MSゴシックが記憶に残りやすい • 丸文字風の手書き文字は記憶に残りにくい • 画像と違和感のある文字の方が記憶に 残りやすい • 提示媒体によって記憶しやすい文字が 異なる可能性

43.

展望 • 男性の顔画像を用いて同様の実験を行う • フォントや手書き文字の種類を増やし 同様の実験を行う • 顔記憶実験を紙媒体で行い、提示媒体の 影響を調査する • 印象を考慮しつつ、違和感を生じさせる 文字表現を模索していく

44.

本研究のまとめ • 性差がある • 最初と最後に提示したものは覚えやすい • MSゴシックが覚えやすく手書きAが覚えにくい • 違和感のある文字が記憶に残りやすい可能性