デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が図形問題の解答に及ぼす影響の調査

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December 11, 23

スライド概要

デジタルデバイスを使用したデジタル手書きを用いる場面が増えているが,手書きのデジタル化がどのような影響を及ぼすかはいまだに明らかになっていない.そこで本研究では,手書きの特徴の一つであり筆記中に調整可能な筆圧に着目し,筆圧の有無における手書き表現が図形描画の際どう影響するのかについて明らかにする.具体的には,平面図形問題や立体図形問題について,筆圧の調整が可能な場合と不可能な場合における問題の正解率や解答時間,筆圧値の比較検証を行ったところ,筆圧なし条件において正答率が下がり立体図形問題の解答時間が長くなった.また,解法が初見の場合は試行錯誤があるためか,筆圧あり条件が良い成績となる傾向が示唆された.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が 図形問題の解答に及ぼす影響の調査 明治⼤学 総合数理学部3年 宮崎 勇輝 ⼩林 沙利 中村 聡史(明治⼤学) 掛 晃幸(株式会社ワコム) 1

2.

背景 デジタル手書きデバイスの普及 デジタルデバイスでは板書の転写や書き込みなど 紙と鉛筆の⼿書き教育と同様のことが⾏われている ICT機器の導⼊・使⽤状況(共⽤のケース含む) デスクトップ型 ⽣徒⽤のPC端末 ノート型 タブレット型 43.6% 38.8% 重複除く回答計 85.8% 69.8% [旺⽂社,2023] 2

3.

背景 手書きを構成する要素 ⼿書きの要素 筆圧 筆記速度 ペンの傾き 点密度 筆圧は⼒の強弱で⼿軽に 濃淡や太さを表現できる 濃淡の調整 太さの調整 濃淡と太さの調整 3

4.

背景 手書きを構成する要素:筆圧 教育現場ではコストの関係で 筆圧検知がないデバイスがある Apple Pencil(USB-C) 筆圧で濃淡を制御しつつ表現する場⾯は多く存在する 筆圧による表現が無いと学習上の悪影響があるのでは? 4

5.

先行研究 割り算の筆算において濃淡表現 無しの場合、正答率が低かった • 数字の⾒間違い • 繰り上げ下げミス [⼩林ら,2022] 算数の筆算について調べたが 算数問題として図形問題がある →図形問題について調べる ⼩林沙利,植⽊⾥帆,関⼝祐豊,中村聡史,掛晃幸,⽯丸築,“デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が筆算の正答率に及ぼす影響,”情報処理学会研究報告,No.C-5-5,pp.1-8,2022. 5

6.

先行研究 繰り上がりや繰り下がりの数値を 薄く書いたことが特徴的な 実験協⼒者はいなかった 筆圧あり条件のペン⾊が 線形に変化していた 線形 0 0.5 1 ⼩林沙利,植⽊⾥帆,関⼝祐豊,中村聡史,掛晃幸,⽯丸築,“デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が筆算の正答率に及ぼす影響,”情報処理学会研究報告,No.C-5-5,pp.1-8,2022. 6

7.

目的&仮説 デジタル⼿書きにおける筆圧の濃淡表現の有無が 図形問題への解答に及ぼす影響を調査 筆圧による濃淡表現がない場合には 濃淡表現が有る場合に⽐べ 問題の正答率が低くなり解答時間が⻑くなる 7

8.

実験 タブレットとペンを⽤いて図形問題を解く 筆圧あり群と筆圧なし群で検証する 実験協⼒者 ⼤学⽣・⼤学院⽣38名 筆圧あり条件19名 筆圧なし条件19名 8

9.

実験手順 ⼿順説明 平⾯問題4問 ⽴体問題2問 実験終了 合計6問 10

10.

実験 図形問題の選定理由&問題難易度 選定理由 • ⾓度や補助線,線の⻑さなどの情報を図に書き⼊れる • 奥⾏き表現など線の濃さを調整する可能性がある 問題難易度 • 図への書き込み量が多く試⾏錯誤が必要 • ⾼度な図形知識を⽤いない • 三⾓形の内⾓の和や平⾏線の錯⾓の性質を使⽤ 11

11.

実験 平面図形問題 問題:点 A,B,C,D,E,F,G は円 O 上にある ∠DAE=60°∠CGE=40°∠AFD=70°∠BEG=40°∠GCF=35° ∠CFD =30°∠BGC=40°∠ACD=100°∠BEA=10° 円上の点は A から G まで時計回りもしくは反時計回りで配置されており 三⾓形の内⾓の和は180°である ∠GBE を求めよ 筆圧あり 筆圧なし 12

12.

実験 立体図形問題 問題:球⾯上に点 A,B,C,D,E,F があり 点 ABCD は同⼀平⾯上にあり,点 BEDF も同⼀平⾯上にある ∠ABC=30°∠BFC=30°∠DCF=40°∠ACB=60°∠EDB=30° ∠BFD=60°∠BDF=40°∠BED=120°である∠EBF を求めよ 筆圧あり 筆圧なし 13

13.

実験 立体図形問題の補助図 ⽴体図形問題1の補助図 ⽴体図形問題2の補助図 14

14.

実験 筆圧のパラメータ 薄く書いたらかなり薄く描画され 濃く書いたらかなり濃く描画される 濃淡がはっきり表現される 線形 ⾮線形 0 0.5 1 15

15.

結果 条件ごとの正答数 第⼀四分位数: 筆圧あり条件 4問 筆圧なし条件 3問 筆圧なし条件では正答数が下がった 正答数 平均正答率: 筆圧あり条件76.3% 筆圧なし条件73.7% 筆圧あり 筆圧なし 16

16.

条件ごとの正答率 問題1と問題5では筆圧あり条件の⽅が 正答率が⾼かった 正答率 結果 筆圧あり 問題1〜4:平⾯問題 筆圧なし 問題5〜6:⽴体問題 17

17.

条件ごとの正答率 問題2〜4では筆圧なし条件の⽅が 正答率が⾼かった 正答率 結果 筆圧あり 問題1〜4:平⾯問題 筆圧なし 問題5〜6:⽴体問題 18

18.

結果 平均解答時間(秒) 平均解答時間 筆圧あり 問題1〜4:平⾯問題 筆圧なし 問題5〜6:⽴体問題 問題1〜4では⼤きな差は⾒られなかった 問題5〜6では筆圧なし条件の解答時間が⻑かった 19

19.

結果 正答率 平均解答時間(秒) 筆圧なし条件で • 平均解答時間が⻑い問題では正答率が低く • 平均解答時間が短い問題では正答率が⾼い • 正答率の低い問題1と問題5は平⾯問題と⽴体問題の初⾒問題 600 500 400 300 200 100 0 問題1 問題2 問題3 問題4 問題5 筆圧なし条件の正答率 問題6 1 問題1 2 問題2 3 問題3 4 問題4 5 問題5 6 問題6 筆圧なし条件の平均解答時間 20

20.

結果 筆圧なし条件で • 平均解答時間が⻑い問題では正答率が低く • 平均解答時間が短い問題では正答率が⾼い • 正答率の低い問題1と問題5は平⾯問題と⽴体問題の初⾒問題 解法が不明な初⾒問題では試⾏錯誤するため 正答率 平均解答時間(秒) 筆圧の重要性が⾼くなるのではないか 筆圧あり 正答率 筆圧なし 筆圧あり 筆圧なし 平均解答時間 21

21.

結果 頻度(%) 筆圧有無の筆圧値分布 筆圧あり 筆圧なし 筆圧あり条件で1付近の特に強い筆圧値を使う頻度が 多く弱い筆圧の頻度が少ない傾向がある 22

22.

結果 頻度(%) 筆圧有り条件における正誤の筆圧値分布 正解 不正解 正解だった問題では筆圧の偏りが少なく 筆圧による濃淡表現を活⽤している 23

23.

結果 筆圧値分布 筆圧ありなし 筆圧あり条件正解不正解 筆圧なし条件と筆圧あり条件不正解の筆圧値分布が同じ形 24

24.

結果 筆圧値分布 筆圧ありなし 筆圧あり条件正解不正解 筆圧による濃淡表現を適切に使⽤しないと間違えやすい わからない問題だと筆圧による濃淡表現を使⽤しない 筆圧なし条件と筆圧あり条件不正解の筆圧値分布が同じ形 25

25.

考察 描画ミスの例 A B ⾓度の重なりによる視認性悪化が原因で ∠BEGを 40°ではなく 30°とした 27

26.

考察 筆圧あり条件 線ではなく⾓度情報を濃く描画する⼯夫をした 28

27.

考察 筆圧なし条件 図形の外に⾓度情報を描画する⼯夫をした 29

28.

考察 筆圧あり・なしの比較 筆圧あり 筆圧なし 補助線や奥⾏き表現などの視認性が正答率と解答時間に影響した 30

29.

考察 適切な筆圧設定を⾏い⼿軽に表現の差を出せるようにした 図形の補助線や⾓度情報を意識的に薄く書き 正答率の増加や解答時間の短縮に繋がった 31

30.

今後の課題 より試⾏錯誤を必要とする問題の追加検証 筆圧を使わない⼈へのアプローチ 32

31.

まとめ 背景:デジタル⼿書きにおいて筆圧の濃淡表現が無い場合がある ⽬的:筆圧が図形描画に及ぼす影響を調査する ⼿法:タブレットとペンを⽤いて図形問題を解く 結果:試⾏錯誤が必要な問題で筆圧ありの正答率が⾼くなった 展望:より試⾏錯誤を必要とする問題の追加検証 33