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August 08, 23
スライド概要
明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室
ドライビングシミュレータにおけるカーブ 走行時のカーブ半径と道路幅が運転に 及ぼす影響のモデル化 明治大学 髙久拓海 船﨑友稀奈 瀬戸徳 中村聡史 (明治大学) 山中祥太 (ヤフー株式会社) 1
背景:運転の苦手意識 運転の習熟度はドライバによって大きく異なる 運転の苦手な人 ➢ 全体の25%ほど どちらでもない人 ➢ 全体の40%ほど 2021年 Yahoo!クラウドソーシングに よるアンケート結果 運転が得意な人ばかりではない 2
背景:運転の苦手意識 事故の予防や安全な運転 ドライバの運転レベルに合わせた経路選択をしてほしい 経路選択: • 細い道を避ける • 交通量の少ない経路を選択する 3
現在のナビゲーションシステム 4
5
運転に関する意識調査 料金や距離といった要因のみで ドライバの技量や苦手な道路条件に 合わせたナビゲーションシステムは 実現されていない 6
背景:経路選択 • 運転が難しい道路は様々存在する ➢ ナビゲーションシステムには考慮されていない きついカーブ 狭い道路
背景:経路選択 ドライバの技量や道路条件の苦手意識に合わせた経路推薦 → 個別の運転技量の推定が必要 そのための基礎調査として道路条件ごとの 運転難易度のモデル化を行う モデル化: • 運転の難易度を数学的な式で求められるようにする 8
背景:モデル化の例 種類 :カーブ 幅 :𝑤 (m) 長さ :𝑙 (m) カーブ半径:𝑟 (m) 関 数 難易度 通過時間 このモデル化を様々な道路条件に対して行いたい 9
先行研究:過去のモデル化 我々が過去に行ってきた運転のモデル化: • カーブ走行時のカーブ角度のモデル化 [Funazakiら 2022] • カーブ走行時のカーブ半径と道路幅の通過時間のモデル化 [髙久ら 2021] • 直線走行時の道路幅が変化する経路のモデル化 [福井ら 2023] 船﨑 友稀奈, 瀬戸 徳, 二宮 洸太, 樋川 一幸, 中村 聡史, 山中 祥太. 運転難易度のモデル化に向けた実験システムの構築とカーブ角度の影響調査, 情報処理学会 研究会報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2019-HCI-185, Issue.17, pp.1-8, 2019. 髙久 拓海, 船﨑 友稀奈, 瀬戸 徳, 中村 聡史, 山中 祥太. ドライビングシミュレータにおけるカーブ走行時のカーブ半径と道路幅が運転に及ぼす影響 の調査, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2021-HCI-195, No.17, pp.1-8, 2021. 福井 雅弘, 髙久 拓海, 中村 聡史, 山中 祥太. ドライビングシミュレータにおける道路幅の変化が運転に及ぼす影響, 信学技報, Vol.122, No.440, MVE2022-54, pp.33-37. 10
先行研究:過去のモデル化 我々が過去に行ってきた運転のモデル化: • カーブ走行時のカーブ角度のモデル化 [Funazakiら 2022] • カーブ走行時のカーブ半径と道路幅の通過時間のモデル化 [髙久ら 2021] • 直線走行時の道路幅が変化する経路のモデル化 [福井ら 2023] 船﨑 友稀奈, 瀬戸 徳, 二宮 洸太, 樋川 一幸, 中村 聡史, 山中 祥太. 運転難易度のモデル化に向けた実験システムの構築とカーブ角度の影響調査, 情報処理学会 研究会報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2019-HCI-185, Issue.17, pp.1-8, 2019. 髙久 拓海, 船﨑 友稀奈, 瀬戸 徳, 中村 聡史, 山中 祥太. ドライビングシミュレータにおけるカーブ走行時のカーブ半径と道路幅が運転に及ぼす影響 の調査, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2021-HCI-195, No.17, pp.1-8, 2021. 福井 雅弘, 髙久 拓海, 中村 聡史, 山中 祥太. ドライビングシミュレータにおける道路幅の変化が運転に及ぼす影響, 信学技報, Vol.122, No.440, MVE2022-54, pp.33-37. 11
先行研究:過去のモデル化 • カーブ走行時のカーブ半径と道路幅通過時間のモデル化 [髙久ら 2021] 複数の課題: • 実験協力者の人数が少なかった • 難易度を推定する数式モデルを導出できていなかった 再度調査を行い正確なモデルを導出する 12
本研究の目的 カーブ走行時のカーブ半径と道路幅が 運転の難易度に及ぼす影響の再調査 およびそのモデル化 13
関連研究:ステアリングの法則 • 人間の特性を分析し操作をモデル化したものの1つに ステアリングの法則がある • ペンをスライドさせる動作を幅Wと経路長Aを用いて 次のようにモデル化した [Accotら 1997] (MT:通過時間) Accot, J., and Zhai, S.. Beyond Fitts’ law: models for trajectory-based HCI tasks. In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’97). 1997, pp. 295-302. 14
関連研究:ステアリングの法則 • 同様に曲線の経路をペンでスライドさせる動作にて カーブ半径Rと経路幅Wを用いて速度Vおよび通過時間 MTを次のようにモデル化している [Yamanakaら 2019] 1 1 𝑉 = 𝑘7 + 𝑘8 𝑊 + 𝑘9 + 𝑘10 𝑊 𝑅 𝑅 𝑀𝑇 = 𝑘11 + 𝑘12 𝐴 𝑘13 + 𝑘14 𝑊 + 𝑘15 Yamanaka, S., and Miyashita, H.. Modeling Pen Steering Performance in a Single Constant-width Curved Path. ISS '19: In Proceedings of the 2019 ACM International Conference on Interactive Surfaces and Spaces. 2019, pp. 65-76. 1 1 + 𝑘16 𝑊 𝑅 𝑅 (Knはフリーパラメータ) 15
関連研究:ステアリングの法則 • 同様に曲線の経路をペンでスライドさせる動作にて カーブ半径Rと経路幅Wを用いて速度Vおよび通過時間 MTを次のようにモデル化している [Yamanakaら 2021] このペンをスライドさせる動作における 1 1 𝑉 = 𝑘7 + 𝑘8 𝑊 + 𝑘9 + 𝑘10 𝑊 モデル化がドライビングシミュレータ上の運転 𝑅 𝑅 操作にも適用できるのではないか 𝑀𝑇 = 𝑘11 + 𝑘12 𝐴 𝑘13 + 𝑘14 𝑊 + 𝑘15 1 1 + 𝑘16 𝑊 𝑅 𝑅 (Knはフリーパラメータ) 16
ドライビングシミュレータ • 過去の研究と同様にドライビングシミュレータを使用して 実車の運転を再現できるシステムを利用 • カーブ半径,道路幅の値を任意に設定できる 17
実験設定 ➢ カーブ半径の導出 ➢ 道路幅の導出 ➢ ドライビング実験 18
実験設定:カーブ半径 • 先行研究同様にカーブ区間の長さが100mになるよう 8種類のカーブ半径と道路幅の組み合わせを次式を もとに導出した カーブ半径(m) カーブ角度(度) 32 180 64 90 129 45 258 23 517 11 1033 6 2067 3 4134 1 19
実験設定:道路幅 • 事故を多発せず無茶な運転ができない4mを基準に 4m,6m,9mの3種類の道路幅を適用 4m 6m 9m 20
実験設定:ドライビング実験 • カーブ半径8種類&道路幅3種類 = 合計24種類の条件 • この条件をそれぞれ6回繰り返してもらう • 実験協力者一人あたり144試行の運転を行う実験 • 実験協力者は21名(女性5名,男性16名) 慣れ 事前練習 4本 72試行 72試行 21
実験結果 ➢ エラー率 ➢ 運転速度 ➢ 通過時間 22
実験結果:エラー率 • 21名の実験協力者による総試行回数は3077回であり そのうちコース走行に失敗した回数は53回であった • カーブ半径と道路幅それぞれの条件でのエラー回数を 下のグラフに示す 23
実験結果:エラー率 • 道路幅が4m&カーブ半径が32mでエラー回数が多い 24
実験結果:エラー率 • 道路幅が4m&カーブ半径が32mでエラー回数が多い ⇒道路幅が狭い&カーブ半径が小さい条件は運転の 難易度が高い 25
実験結果:エラー率 • 道路幅が6mと9m,カーブ半径が1033m以降では エラーの回数にほとんど差がない 26
実験結果:エラー率 • 道路幅が6mと9m,カーブ半径が1033m以降では エラーの回数にほとんど差がない ⇒道路幅とカーブ半径のどちらも一定以上の値で 運転の難易度が収束する 27
実験結果:運転速度 80 平均速度(km/h) 70 60 50 40 30 20 10 0 32m 64m 129m 258m 517m 1033m 2067m 4134m カーブ半径 4m 6m 9m 28
実験結果:運転速度 80 平均速度(km/h) 70 60 50 40 運転速度が遅い 30 20 10 0 32m 64m 129m 258m 517m 1033m 2067m 4134m カーブ半径 4m 6m 9m 29
実験結果:運転速度 80 平均速度(km/h) 70 60 50 40 30 運転速度が速い 20 10 0 32m 64m 129m 258m 517m 1033m 2067m 4134m カーブ半径 4m 6m 9m 30
実験結果:運転速度 80 平均運転速度(km/h) 70 60 50 40 30 20 10 0 4m 6m 9m 道路幅 31
実験結果:運転速度 80 道路幅が大きくなると運転速度が速くなる 平均運転速度(km/h) 70 60 50 40 30 20 10 0 4m 6m 9m 道路幅 32
実験結果:通過時間 12 通過時間(s) 10 8 6 4 2 0 32m 64m 129m 258m 517m 1033m 2067m 4134m カーブ半径 4m 6m 9m 33
実験結果:通過時間 12 通過時間(s) 10 8 通過時間が長い 6 4 2 0 32m 64m 129m 258m 517m 1033m 2067m 4134m カーブ半径 4m 6m 9m 34
実験結果:通過時間 12 通過時間(s) 10 8 6 4 2 通過時間が短い 0 32m 64m 129m 258m 517m 1033m 2067m 4134m カーブ半径 4m 6m 9m 35
実験結果:通過時間 8 平均通過時間(s) 7 6 5 4 3 2 1 0 4m 6m 9m 道路幅 36
実験結果:通過時間 8 道路幅が大きくなると通過時間が短くなる 平均通過時間(s) 7 6 5 4 3 2 1 0 4m 6m 9m 道路幅 37
実験結果:まとめ • カーブ半径が大きくなる →運転速度が速くなり,通過時間が短くなる • 道路幅が大きくなる →運転速度が速くなり,通過時間が短くなる カーブ半径と道路幅のどちらも運転の難易度に 影響を及ぼす 38
モデル化 • 先ほどの実験結果をもとにカーブ半径と道路幅の 影響を考慮したモデルを生成する • 運転難易度で扱う内容として運転速度(V)と 通過時間(MT)を扱う • 使用するモデルはペンをスライドさせるタスクでの ステアリングの法則のものを利用 [Yamanakaら 2019] 使用する既存モデル: 𝟏 • 𝑽 = 𝒌𝟏𝟕 + 𝒌𝟏𝟖 𝑾 + 𝒌𝟏𝟗 𝑹 • 𝑴𝑻 = 𝒌𝟏𝟏 + 𝒌𝟏𝟐 𝑨 𝟏 𝑹 𝒌𝟏𝟑 +𝒌𝟏𝟒 𝑾+𝒌𝟏𝟓 +𝒌𝟏𝟔 𝑾 𝟏 𝑹 39
モデル化:モデルの応用 • 運転速度Vと通過時間MTのモデル化を行う • 144試行の運転速度をもとに実験協力者を7人ずつ 3つのグループに分配 21名 実験協力者 速い 普通 遅い 7名 7名 7名 40
モデル化:モデルの応用 速い: • 𝑉 = 73.10 + 2.311𝑊 − 1266 • 𝑀𝑇 = 22.5 + 1 𝑅 4.14𝐴 −23.1+0.115𝑊−262 1 𝑅 1 𝑅 +18.0𝑊( ) 普通: • 𝑉 = 57.11 + 2.059𝑊 − 982.4 • 𝑀𝑇 = 24.3 + 1 𝑅 4.23𝐴 −23.4+0.216𝑊−282 1 𝑅 1 𝑅 +15.6𝑊( ) 遅い: • 𝑉 = 43.76 + 2.025𝑊 − 672.9 • 𝑀𝑇 = 22.5 + 1 𝑅 1.46𝐴 −13.9+0.296𝑊−360 1 𝑅 1 +27.5𝑊(𝑅 ) 41
モデル化:モデルの応用 • 先ほどのモデルを使うことで実験に行われていない 条件の運転速度および通過時間を推測できる • 例えば,W = 5.5,R = 1000を代入すると 速い 普通 遅い 運転速度(km/h) 通過時間(秒) 79.92 63.33 50.18 4.497 5.776 7.337 42
考察:今回のモデル化の課題 • 今回のモデル化の課題として調査したパラメータ数の 偏りが挙げられる • カーブ半径は8種類で調査を行ったのに対して 道路幅は3種類,カーブ区間の経路長は1種類でしか 実験を行っていない →導出したモデルに不確実性が生じる • 例えばA = 300m,W = 4m,R = 129mを代入すると 43
考察:今回のモデル化の課題 • 今回のモデル化の課題の1つとして調査した パラメータ数の偏りが挙げられる • カーブ半径は8種類で調査を行ったのに対して 道路幅は3種類,カーブ区間の経路長は1種類でしか 実験を行っていない →導出したモデルに不確実性が生じる より詳細な推測を可能にするためには複数の パラメータで実験を行う必要がある 44
今後の展望 • 今回の実験で使用したコースは常に道路の幅が一定 →途中で道路の幅が変化する条件でのモデル化 • 今回は視界の良好な日中での運転を想定している →視界が悪くなる夜間を想定した実験 45
まとめ 背景:ドライバ毎の経路選択のためにモデル化が必要 前回の実験では課題が複数あった 目的:カーブ半径と道路幅が運転難易度に及ぼす影響の 再調査およびそのモデル化 手法:ドライビングシミュレータを用いた運転実験 結果:カーブ半径と道路幅は運転に影響を及ぼす その影響をモデル化することができた 展望:途中で道路幅が狭くなる条件や夜間走行の条件で 再度モデル化に向けた実験を行う 46