オンラインミーティングでの発言障壁を低減するカードによる匿名での意思表示支援手法

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March 15, 21

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

オンラインミーティングでの 発言障壁を低減するカードによる 匿名での意思表示支援手法 明治大学 杉本知佳 又吉康綱 古市冴佳 中村聡史

2.

2020年といえば • 新型コロナウイルスが日本を含め世界中で流行 • 人と会うことが制限された • 対面で行われていたことが半強制的にオンラインに置き換わった

3.

たくさんのWeb会議システム オンラインでも十分にできる!!! 新型コロナウイルス収束後も Web会議システムの利用は継続されると考えられる

4.

Web会議における意識調査 株式会社Lightblue Technologyによる調査より 17% • 対面式の会議よりWeb会議の方が気を遣う…53% • →相手の反応が分かりにくいから • 音声や映像などが途切れないか、ネットワーク環境の設定に • 気を遣うから 30% • 対面式の会議よりWeb会議の方が疲れる…55% • →Web会議だと発言しにくいから • 事前にすり合わせ、相談がしにくいから • 対面式の会議よりWeb会議の方が聞き返すこと を気まずく感じる…54.5% そう思う 53% どちらでもない 16% 29% そう思わない そう思う 55% そう思わない どちらでもない 17% 28.5% そう思う 54.5% そう思わない どちらでもない

5.

Web会議における意識調査 株式会社Lightblue Technologyによる調査より 17% • 対面式の会議よりWeb会議の方が気を遣う…53% • →相手の反応が分かりにくいから • 音声や映像などが途切れないか、ネットワーク環境の設定に • 気を遣うから 30% そう思う 53% どちらでもない 16% Web会議システムを使用したオンライン化によって • 対面式の会議よりWeb会議の方が疲れる…55% 55% 29% 気を遣う、疲れる、気まずいといった問題が生じている • →Web会議だと発言しにくいから • 事前にすり合わせ、相談がしにくいから • 対面式の会議よりWeb会議の方が聞き返すこと を気まずく感じる…54.5% 17% 28.5% そう思わない そう思う そう思わない どちらでもない そう思う 54.5% そう思わない どちらでもない

6.

より良いミーティングにするには その場を仕切る人のみが発言するのではなく、 ミーティングの参加者それぞれが周囲の意見に耳を傾けながら 意見交換をする必要がある 発言者が一部の人に偏ってしまい、 全員が積極的に参加できているといえる状況は少ない

7.

発言が偏る原因 消極的な性格から発言したくても発言できない 話の内容や自分の考えをまとめるのに時間がかかり、発言の タイミングを逃す + 通信速度の都合や個々人の環境に配慮しカメラをオフにした ミーティングが行われるように →ついつい内職をする・対面と比べて参加意識が下がる

8.

目的 発言のタイミングを逃す人や発言しづらいと感じる人を支援することで 発言の偏りを減らすとともに、 オンラインミーティングにおける参加意識を高める!

9.

関連研究 発言の偏りを減らすための研究 • 均等な発話を促すことのできるコミュニケーションの場のメカニズムとして • 発話権取引 • →話し合いにおいて誰かが司会を行う負担を減らし、意思表示や理由に関する 発言数を増やす [古賀ら 2014] • 貨幣制度を取り入れ、発言権の分配率を最適化するビデオ会議システム • →流通させるコインの枚数が多い時に参加者の発言量の差を是正 [永井ら 2014]

10.

関連研究 発言の偏りを減らすための研究 • 均等な発話を促すことのできるコミュニケーションの場のメカニズムとして • 発話権取引 • →話し合いにおいて誰かが司会を行う負担を減らし、意思表示や理由に関する 明確なルールによる制限を設けることで自由さが失われている 発言数を増やす [古賀ら 2014] →自然に発言権を得られるような仕組みを目指す • 貨幣制度を取り入れ、発言権の分配率を最適化するビデオ会議システム • →流通させるコインの枚数が多い時に参加者の発言量の差を是正 [永井ら 2014]

11.

関連研究 意見を表明するための支援の研究 • 実名と匿名の長所を併せ持つ傘連判状を用いたコミュニケーションプロトコル • →議論における発言に際しての社会的圧力の強くなるような局面で用いられた [西田ら 2010] • 面識がある人同士のテキストチャットでの合意形成では、 • 匿名での議論の方が早く効率的に合意形成を行うことができる [糸川ら 2019]

12.

関連研究 意見を表明するための支援の研究 • 実名と匿名の長所を併せ持つ傘連判状を用いたコミュニケーションプロトコル • →議論における発言に際しての社会的圧力の強くなるような局面で用いられた [西田ら 2010] 心理的抵抗を感じることなく、効率的に参加してもらえる工夫をミー • 面識がある人同士のテキストチャットでの合意形成では、 ティングの場でも行うことが重要 • 匿名での議論の方が早く効率的に合意形成を行うことができる [糸川ら 2019]

13.

目的 • 発言のタイミングを逃す人や発言しづらいと感じる人を支援する • 発言の偏りを減らす • オンラインミーティングにおける参加意識を高める! ・発言することに対する心理的抵抗を軽減できるような仕組み ・匿名で気軽に行えるような仕組み ・参加意識を高めるために、参加者が感じない程度の義務感を 持たせられるような仕組み

14.

コミュニケーションデザイン • 音声コミュニケーションを前提とする • 発言することに対する心理的抵抗を軽減し、気軽に行えるようにする • →意思表示の書かれたカードを手持ちのカードとして持ち、それらを • ミーティング中に匿名で場に出す • 自分しかこのカードを持っていないから、出すタイミングを見計らわないと進行 • に影響するかもしれないといった意識を持たせ、参加意識を高める • →カードはできるだけ全員違うものを配布

15.

実装 Web会議システムのZoomと併用(マイクをミュートする機能の連動用) Processingを用いての実装 ・サーバ用のプログラム ・ミーティング参加者のクライアント用のプログラム

16.

システムの利用方法 • 全員マイクオフ、カードを複数枚持っている状態で ミーティングを始める

17.

システムの利用方法 • 発言するときに発話スイッチを押して発言 (発話者のカードは他の参加者のところへ配布される)

18.

システムの利用方法 • 賛同してもらえたらいいね増える

19.

システムの利用方法 • 2人まで発言できる (発話者のカードは他の参加者のところへ配布される)

20.

システムの利用方法 • 手持ちのカードを場に出して意思表示 (カードは他の参加者と1枚交換)

21.

システムの利用方法 • 発言終わったら発話スイッチを切る (他の参加者からカードもらう)

22.

システムの利用方法 • これの繰り返し

23.

実験設計 6名1組で2つのテーマについてZoomとシステムを使って 30分のミーティングを行う テーマの選定方法 テーマ1: •「新型コロナウイルスが収束した時に,リモート形式に変更した授業はリモート 正解が1つではない 形式で実施するべきか,もしくは対面形式に戻すべきか」 • 実験に参加する人たち全員が身近で意見を持つことができる テーマ2: • 30分間の議論が盛り上がりそうなもの 「大学生は『大人』か『大人ではない』かを決めよ 」 • 系統の違うテーマを2つ

24.

プレ実験の目的 • オンラインミーティングにおいて、カードを出し合うことで • 発言者の偏りを減らし、全員が活発に議論に参加できるようになる • かを検証する • 本実験に向けて適切なカードを選定する

25.

使用したカード カード名 枚数 「話したい」 3 「そろそろ他の人も話そう!」 1 「皆はどう思う?」 1 「ちょっと待った」 1 「整理する時間がほしい」 1 「もう一度今の話してもらってもいい?」 1 「誰か今の教えて?」 1 「音声の調子悪いかも」 1

26.

プレ実験手順 • 実験参加者:大学1〜4年生の男女18名(面識あり) 6名1組の3グループで実施 • システムの接続や利用方法を文面で事前説明 • 音声チェックを行って実験を実施 • 30分のミーティング終了後、アンケートに回答

27.

プレ実験の結果:カードについて • 全カード使用回数は21回 • 用意したものの使用されていないカードもあった • カードを1回以上使用した参加者は10名/18名 使用回数 0 話したい 皆はどう思う? そろそろ他の人も話そう! 整理する時間が欲しい ちょっと待った もう一度今の話してもらってもいい? 誰か今の教えて? 音声の調子が悪いかも 2 4 6 8 10 12 14

28.

プレ実験の結果:アンケート 肯定的意見 • 先輩の意見に対してもいいねボタンが押しやすかった • 匿名で操作できるのが良かった • カードを使って発言のタイミングを知らせることができた 否定的意見 • カードを使うタイミングが難しかった • 話し終わりのタイミングを見て人が話し終わったらすぐに発話スイッチを押す ようにした • 欲しいカードが手元にないことがあった

29.

プレ実験の考察 • 発話のタイミングを普段つかめない人…カードが有用 • 発話のタイミングを普段つかめる人…発話スイッチが有用 • 賛同の意思表示を行う「いいねボタン」は様々な状況において有用

30.

プレ実験のまとめ 結果 • 全カードの使用回数 21回 • 用意したものの使用されていないカードがあった 本実験に向けて ①「カードを出すタイミングが難しい」という課題の解決 ②カードの中身の一部変更

31.

本実験に向けたカードデザイン プレ実験 カード名 本実験 枚数 カード名 枚数 「話したい」 3 「話したい」 3 「そろそろ他の人も話そう!」 1 「そろそろ他の人も話そう!」 1 「皆はどう思う?」 1 「みんなはどう思う?」 1 「ちょっと待った」 1 「ちょっと待った」 1 「整理する時間がほしい」 1 「整理する時間がほしい」 1 「もう一度今の話してもらってもいい?」 1 「話題を少し変えよう」 1 「誰か今の教えて?」 1 「誰か補足してほしい」 1 「音声の調子悪いかも」 1 「音声の調子が悪いかも」 1

32.

本実験手順 • 実験参加者:プレ実験とは異なる大学1〜4年生の男女18名(面識あり) 6名1組の3グループで実施 • システムの接続や利用方法を文面で事前説明 • カードの使い方をシステムの画面を見てもらいながら口頭で改めて説明 • 音声チェックを行って実験を実施 • 30分のミーティング終了後、アンケートに回答

33.

結果:カードについて • 全カード使用回数は80回(プレ実験では21回) • カードを1回以上使用した参加者は16名/18名(プレ実験では10名/18名) • 「話したい」カードが36回と一番使用され、 その他のカードも計44回と多く使用された 使用回数 0 話したい みんなはどう思う? 整理する時間がほしい そろそろ他の人も話そう! 話題を少し変えよう 誰か補足してほしい ちょっと待った 音声の調子が悪いかも 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36

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結果:参加度合いについて 単位時間(1分)あたりに発話していた人の割合と、 発話・カード・「いいねボタン」を使用した人の割合の平均を算出 • 発話に参加している人は平均で28~44% • 何らかのインタラクションを行った人の平均は39~64% • →発話以外での貢献がある人が一定数いる

35.

結果:ミーティング中のやりとりの遷移グラフ ミーティングの 経過時間(秒) 参加者

36.

結果:各個人の動きについて • 発話以外の、カードを出すことやいいねをする動作が発話を埋めるように 行われていることがわかった

37.

結果:各個人の動きについて • ミーティングの最後の1〜2分では発言よりもいいねボタンによる 賛同の意思表示が活発に行われたことがわかった

38.

結果:いいねボタンについて いいねボタンが押された直前に何が話されていたか

39.

結果:アンケート 肯定的意見 • カードを使うことで発言しなくても皆が何を考えているかわかるのが良かった • 全員が自分から意見を言えるような環境になっていた • 発言者が被って気まずい雰囲気になることが少なかったのが良かった 否定的意見 • いいねボタンが押されていることに気付けなかった • 下のカードよりも話せる枠が空いているかを見てしまうことが多く、 カードを使えなかった • 欲しいカードが手元にないことがあった

40.

考察 • 「話したい」カードは話すきっかけとして使用された • 「みんなはどう思う?」カードは次の発言者への切り替わりが早かった • →発言者にとっても他の参加者にとっても賛同と反対の反応を聞くために • 使いやすかったと考えられる • 「みんなはどう思う?」「整理する時間がほしい」「話題を少し変えよう」は • 自身の前回の発言から時間があいても出しやすいカードである可能性 • 「そろそろ他の人も話そう!」カードは • 前回の発言から間が大きく開いた人の発言を促せ、有用である可能性

41.

考察 • プレ実験に比べ、本実験ではカードの使い方がわからなかったという評価もな く、 • 実際の使用回数も多かった • →カードの文言の一部内容変更や使い方を実験前に説明したのが多く使用して • もらえた理由か • カードやいいねが発話を埋めるように行われた • →普段のミーティングでも匿名で意思表示を気軽に表すことのできるものがあれ • ば、参加者全員の参加度を上げられる可能性

42.

全体の考察 • ミーティングにおける様々な意思が書かれたカードを匿名で出すことは、 ・次の発言者が発言しやすくなるもの ・自身が話すきっかけ として使用できたことが示唆された • カードの文言の内容や言葉遣いに関しては今後検討 • 「いいねボタン」と手持ちのカードと発話スイッチを • システム画面の3つの隅に設置したため • 目線の移動を考慮できていなかった→ユーザビリティを考慮した改良を行う必要

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まとめ • 背景 オンラインミーティングで発言者に偏りが生じる • 目的 発言者の偏りを減らし、皆がミーティングに活発に参加できるようにすること • 手法 発言したい内容が書かれたカードを匿名で出す • 実験 システムを使用し、30分のオンラインミーティング×2 • 結果 カードの使用は多かった。発話以外でミーティングに貢献する人は一定数いる • 考察 匿名でカードを出し合うことで全員が発言しやすくなった