自身のみが聴取可能な音楽によるプレゼンテーション支援手法の提案

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May 21, 19

スライド概要

プレゼンテーションにおいて,緊張を感じた発表者が思い通りに話せなくなるという問題は頻繁に起こりうる.この問題を解決するため,これまで我々はプレゼンテーション中の発表者にのみ音楽を聴かせ,緊張をやわらげる手法を提案し,プレゼンテーション中の音楽聴取が緊張緩和に効果がある一方で,発表の質に関しても影響を及ぼすことを示唆した.そこで本稿では,プレゼンテーション中の音楽聴取による発表の質の向上について,実験による検証を行った.その結果,声の大きさや,プレゼンテーション中に設けられる間の回数が向上する傾向見られ,発表の質の向上が示唆された.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

自身のみが聴取可能な音楽による プレゼンテーション支援手法の提案 徳久弘樹 大野直紀 中村聡史 (明治大学大学院)

2.

背景:プレゼンテーションの役割 • プレゼンテーション(プレゼン)は 様々な場面で行われている • 企業の新商品説明会 • 大学生のゼミ活動 • 何かを伝える手段として重要な役割

3.

背景:プレゼンの問題点 • プレゼンの多くは1対多のコミュニケーション • 多人数の聴講者を前に、緊張しながらプレゼンを 行うことも珍しくない • 緊張をしたまま発表を行うと・・・ • 声が小さくなる • テンポが速くなる

4.

背景:プレゼンの問題点 • プレゼンの多くは1対多のコミュニケーション • 多人数の聴講者を前に、緊張しながらプレゼンを 無意識にプレゼンに 行うことも珍しくない 悪影響となる行動を取ってしまう • 緊張をしたまま発表を行うと・・・ • 声が小さくなる • テンポが速くなる

5.

一般的な緊張対策 • 音楽を聴くことでリラックスして、緊張を緩和 • 心拍数を下げる • 筋肉の緊張度を下げる • 効果は聴いているだけの一時的なもの

6.

音楽による緊張緩和の研究① • 手術前の患者に音楽を聴かせることで、血圧や脈拍を 安定させる[Kipnisら 2016] • 音楽が手術前の患者の不安を低減

7.

音楽による緊張緩和の研究② • 運動後に遅いテンポの音楽を聴いた場合、速い音楽や 音楽無しより疲労の回復が早まった[Rajeshら 2015] • 心拍数や血圧が定常値に戻るまでの時間が 短くなった • 音楽の好みは結果に影響しない

8.

音楽による緊張緩和の研究② • 運動後に遅いテンポの音楽を聴いた場合、速い音楽や 音楽無しより疲労の回復が早まった[Rajeshら 2015] • 心拍数や血圧が定常値に戻るまでの時間が 短くなった • 音楽の好みは結果に影響しない プレゼン中も音楽を聴けば 緊張を緩和できるのではないか?

9.

背景:プレゼン中に音楽を聴くには?

10.

背景:プレゼン中に音楽を聴くには? • スピーカーで会場に音楽を流す

11.

背景:プレゼン中に音楽を聴くには? • スピーカーで会場に音楽を流す • 好みによっては聴講者の集中を阻害する可能性

12.

背景:プレゼン中に音楽を聴くには? • スピーカーで会場に音楽を流す • 好みによっては聴講者の集中を阻害する可能性 • イヤフォンを装着して音楽を聴く

13.

背景:プレゼン中に音楽を聴くには? • スピーカーで会場に音楽を流す • 好みによっては聴講者の集中を阻害する可能性 • イヤフォンを装着して音楽を聴く • 自分の声の大きさがわからない • 聴講者のリアクションに気づけない

14.

背景:プレゼン中に音楽を聴くには? • 遮音性のないイヤフォンの流行 • 分割磁界供給型骨伝導による常時装着 音響デバイス[暦本 2018] • Xperia Ear Duo(SONY, 2018)

15.

背景:プレゼン中に音楽を聴くには? • 遮音性のないイヤフォンの流行 • 分割磁界供給型骨伝導による常時装着 音響デバイス[暦本,2018] • Xperia Ear Duo(SONY, 2018) 自分だけが音楽を聴きながら 話をすることが可能に

16.

これまでの研究 「プレゼンテーション中の自身のみが聴取可能な 音楽による緊張緩和手法の提案」[徳久 2019] 「自身のみ聴取可能な音楽を用いたコミュニケーション 円滑化手法の提案」[大野 2019]

17.

これまでの研究 「プレゼンテーション中の自身のみが聴取可能な 音楽による緊張緩和手法の提案」[徳久 2019] 「自身のみ聴取可能な音楽を用いたコミュニケーション 円滑化手法の提案」[大野 2019]

18.

これまでの研究 「プレゼンテーション中の自身のみが聴取可能な 音楽による緊張緩和手法の提案」[徳久 2019] 「自身のみ聴取可能な音楽を用いたコミュニケーション 円滑化手法の提案」[大野 2019]

19.

これまでの研究 • イヤフォンでジャズを聴きながらプレゼンする実験 • アンケートで緊張度合いを評価

20.

これまでの研究 • イヤフォンでジャズを聴きながらプレゼンする実験 • アンケートで緊張度合いを評価 →プレゼン中に音楽を聴くと 緊張が緩和される

21.

これまでの研究 • 得られたフィードバックにより • 「騒音の中で話すのと同じ感覚で、声が大きくなったような 気がした」

22.

これまでの研究 • 得られたフィードバックにより • 「騒音の中で話すのと同じ感覚で、声が大きくなったような 気がした」 →声のボリュームを向上させられる(ロンバード効果)?

23.

これまでの研究 • 得られたフィードバックにより • 「騒音の中で話すのと同じ感覚で、声が大きくなったような 気がした」 →声のボリュームを向上させられる(ロンバード効果)? • 「音楽を聴いたことで沈黙が気にならなくなった」

24.

これまでの研究 • 得られたフィードバックにより • 「騒音の中で話すのと同じ感覚で、声が大きくなったような 気がした」 →声のボリュームを向上させられる(ロンバード効果)? • 「音楽を聴いたことで沈黙が気にならなくなった」 →間を作り、プレゼンのテンポを改善できる?

25.

これまでの研究 • 得られたフィードバックにより • 「騒音の中で話すのと同じ感覚で、声が大きくなったような 気がした」 音楽聴取が発表の質にも →声のボリュームを向上させられる(ロンバード効果)? 影響を及ぼす可能性 • 「音楽を聴いたことで沈黙が気にならなくなった」 →間を作り、プレゼンのテンポを改善できる?

26.

本研究の展望 • プレゼンのシチュエーションに合わせた選曲 • 盛り上げたい場面でテンションの上がる音楽 • 早口になってしまいそうな場面で落ち着かせるような音楽

27.

本研究の展望 • プレゼンのシチュエーションに合わせた選曲 • 盛り上げたい場面でテンションの上がる音楽 • 早口になってしまいそうな場面で落ち着かせるような音楽 →緊張緩和だけでなく、プレゼンの質の向上にも繋げる

28.

本研究の展望 緊張緩和のための 15分プレゼン用の 音楽 スライド 4:00 落ち着くのための 音楽 6:00 盛り上げるための 音楽 5:00

29.

本研究の展望 緊張緩和のための 15分プレゼン用の 音楽 スライド 4:00 プレゼンに応じた適切な音楽プレイリストを 落ち着くのための 自動生成するシステムの完成 音楽 6:00 盛り上げるための 音楽 5:00

30.

現在の課題 • これまでは緊張や話しやすさといったプレゼンの体験に 着目した調査のみ • 発表の質に関する議論は行っていない • 聞き取りやすさに関する質の評価は重要

31.

本研究の目的 プレゼン中に聴いた音楽が 発表の質に及ぼす影響について実験で調査 • 発表者の声の音声分析による評価実験 • 聴講者による客観評価実験

32.

本研究の目的 プレゼン中に聴いた音楽が 発表の質に及ぼす影響について実験で調査 • 発表者の声の音声分析による評価実験 • 聴講者による客観評価実験

33.

本研究の目的 プレゼン中に聴いた音楽が 発表の質に及ぼす影響について実験で調査 • 発表者の声の音声分析による評価実験 • 聴講者による客観評価実験

34.

声の音声分析による評価実験 • 発表者の声がどれだけ改善されるかに着目 • 「良いプレゼン」の評価指標として • 声が大きい • 声に抑揚がある • 発話と発話に適切な間がある • プレゼン中の「適切な間」は13秒に1度、1秒~2秒 [栗原ら 2006]

35.

実験概要 • 実験協力者 • プレゼン経験のある大学生及び大学院生12名 • プレゼン内容 • 学会などで発表したことがある日本語の研究発表 • 発表時間15分を想定して作られた発表スライドを使用し、 15分間のプレゼンを行ってもらう

36.

実験フロー 実験協力者 実験協力者 実験協力者 ①練習 ②本番1セット目 ③本番2セット目 • 実験協力者1人につき合計3回のプレゼンを行う • 練習のみ、タイマーを見ながら行う

37.

実験概要 本番セットの内容(音楽を聴く順番は交互) • 音楽ありのセット • Xperia Ear Duoを装着 • 音楽なしのセット • 装着するが無音 • 音楽を聴きながらプレゼン 装着 ※音量はこちらで小さめにセット 装着

38.

実験に用いた音楽 • ラヴェル作曲「ボレロ」 • 15分ちょうどで終わるクラシック音楽 • 序盤から終盤に向けて徐々に盛り上がる

39.

実験に用いた音楽 • ラヴェル作曲「ボレロ」 • 15分ちょうどで終わるクラシック音楽 • 序盤から終盤に向けて徐々に盛り上がる • 声が大きくなる • 抑揚がつけられる

40.

実験概要 • 実験場所 • プレゼンの様子はカメラで撮影 • カメラは実験協力者の前360cmに 固定 • プレゼン中は実験監督者は退室

41.

アンケート • 実験終了後に回答 • ①、②は7段階リッカート尺度 質問内容 ① 元々のプレゼンの 得意度 ② 話しやすさ (音楽あり/なし) ③ 感想 • ③は自由記述

42.

音声分析 抽出 映像ファイル 出力 分析 音声ファイル WaveSurfer 音圧レベル (声の大きさ) • 映像ファイルから音声情報を数値に出力 • 出力データ数は1/100秒毎(15分で9万個) 基本周波数(f0) (声の高さ)

43.

実験結果:声の大きさ • 30秒を1セクションとし、計30セクションに分割 • 32db以下を無音とした

44.

実験結果:声の大きさ • 30秒を1セクションとし、計30セクションに分割 • 32db以下を無音とした • 中盤~終盤に音楽ありで 声が大きくなる傾向

45.

実験考察:声の大きさ • プレゼン中でも音楽によるロンバード効果が示唆 • 最も低いセクションと高いセクションの差は1.87db • 曲が盛り上がる後半にかけてロンバード効果

46.

実験結果:声の抑揚 • 声の抑揚:声の高さの変動→基本周波数(f0)の標準偏差 • f0を対数変換 • 1分毎の抑揚

47.

実験結果:声の抑揚 • 声の抑揚:声の高さの変動→基本周波数(f0)の標準偏差 • f0を対数変換 • 1分毎の抑揚 • 大きな差は見られず

48.

実験考察:声の抑揚 • フィードバックによると • 「研究のプレゼンでは場を盛り上げる必要性を感じない」 • 「抑揚は意図的につけるので音楽に気を取られると逆に なくなってしまう」

49.

実験考察:声の抑揚 • フィードバックによると • 「研究のプレゼンでは場を盛り上げる必要性を感じない」 • 「抑揚は意図的につけるので音楽に気を取られると逆に なくなってしまう」 実験設計や音楽の選曲が不十分であった可能性

50.

実験考察:声の抑揚 • 抑揚は聴講者を退屈させないための大きな要素 • 自然と抑揚をつけられるようになることが理想的 • 今後はシチュエーションを問わず抑揚をもたらす音楽を調査

51.

実験結果:発話と発話の間 • 「適切な間」は1分に4~5回が理想的

52.

実験結果:発話と発話の間 • 「適切な間」は1分に4~5回が理想的 • 終盤で逆効果

53.

実験結果:発話と発話の間 単位分あたりの無音の回数[回] • プレゼンが得意/不得意で分割 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 経過時間[分] 音楽無し 音楽あり 得意な人(7人) 不得意な人(5人)

54.

実験結果:発話と発話の間 単位分あたりの無音の回数[回] • プレゼンが得意/不得意で分割 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 経過時間[分] 音楽無し 音楽あり 得意な人(7人) 不得意な人(5人)

55.

実験結果:発話と発話の間 単位分あたりの無音の回数[回] • プレゼンが得意/不得意で分割 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 経過時間[分] 音楽無し 音楽あり 得意な人(7人) 不得意な人(5人)

56.

実験考察:発話と発話の間 • フィードバックによると • 「15分で終わる音楽と知らされていたので曲が終盤っぽい 曲調になってきたときに焦りを感じた」 • 焦りの影響から設ける間の回数が少なくなってしまった

57.

実験考察:発話と発話の間 • フィードバックによると • 「15分で終わる音楽と知らされていたので曲が終盤っぽい 曲調になってきたときに焦りを感じた」 • 焦りの影響から設ける間の回数が少なくなってしまった

58.

実験考察:プレゼン時間の変化 • 制限時間(15分)と実際のプレゼン時間の差を比較 • 音楽ありで有意に短くなった(p<0.05)

59.

実験考察:プレゼン時間の変化 • 制限時間と同じ長さの音楽を聴いたことで、残り時間を 把握しやすくなった • 焦りから間が少なくなった • プレゼンの印象に悪影響の可能性 • 客観評価実験で検証

60.

まとめ:声の音声分析による評価実験 • 提案手法の有効性が示唆 • 音楽が盛り上がるにつれて声も大きくなる傾向 • 得意な人はプレゼン中盤に間の回数が増える • 一方 • 声の抑揚には影響なし

61.

聴講者による客観評価実験 • 音楽聴取時の発表が聴講に悪影響が出る恐れ • 声が急に大きくなり不自然 • 残り時間を気にして焦る • 不真面目に思われる

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聴講者による客観評価実験 • 音楽聴取時の発表が聴講する側からどのような印象を 受けるかを実験で調査 • プレゼンを見た人が回答したアンケートによる客観評価 で検証

63.

実験概要 アンケートで 音楽ありプレゼン 映像視聴 印象を回答 聴講経験が豊富な 大学院生及び社会人12名 音楽なしプレゼン • 提案手法の有効性が見られた3名のプレゼン映像を採用 • 1つのプレゼンに4名ずつ割り当てた

64.

質問内容 実験アンケート ① 声の聞き取りやすさ ② 話すスピード ③ 話の滑らかさ ④ 熱意 ⑤ 総合評価 • 映像視聴後にアンケートに 回答 • 回答形式はすべて7段階 リッカート尺度

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実験結果 • 全回答の平均値を比較 • すべての項目において 有意差はなし

66.

実験考察 • 客観的な評価で音楽あり/なしによる違いは小さい • 発表者の音楽聴取は聴衆からの 印象に悪影響はない

67.

実験まとめ • プレゼン中の音楽聴取の特徴 • 音楽の盛り上がりにつれて声の大きさが向上 • 得意な人のプレゼン中盤の間の回数が増える • 声の抑揚には影響はない • 制限時間が守られやすくなる • 聴講者からの印象に悪影響はない

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今後の展望 • 今後は視覚的な要素を評価指標とした調査 • 発表者の身振り手振り • アイコンタクトの頻度

69.

今後の展望 • 実際のプレゼンのシチュエーションは多種多様 • 内容 • 制限時間 • 聴講の対象者 • あらゆる音楽ジャンルでプレゼンへの影響を調査

70.

まとめ • 提案 • 音楽でプレゼンの質を向上させる • 実験 • 実際に音楽を聴くプレゼンと聴かないプレゼンで比較 • 結果 • 声の大きさや間の取り方が向上