提示する文字形状の違いが読解問題の正答率に及ぼす影響

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September 20, 23

スライド概要

文字形状と記憶容易性に関する研究は多数行われており,可読性が低い文字形状が記憶容易性を上げることが明らかになっている.我々は,学習には記憶だけでなく理解も重要であると考え,文字形状と文章理解に注目した実験を行ってきたが,一人の実験協力者に複数の文字形状で問題を提示したことなどから,文字形状が及ぼす影響について明らかにできていなかった.また,読解にどの程度時間をかけているかなどの分析ができていなかった.そこで本研究では,一人の実験協力者に対して提示する文字形状を固定することとし,ゴシック体,明朝体,手書き文字2種類のうち1種類のみを用いた読解問題を,実験のために開発したWebシステム上で実施し,正誤問題に解答してもらった.実験の結果,読みにくい文字形状のものが読解問題の正解率を下降させるという,予想とは逆の結果が得られた.また,問題提示順番を前半と後半に分けた分析から,後半になると文字形状によって平均正解率の変動に違いがあること,平均解答時間が増加することなども明らかになった.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

提示する文字形状の違いが 読解問題の正答率に及ぼす影響 明治大学 瀬崎夕陽,萩原亜依,髙野沙也香,中村聡史 株式会社ワコム 掛晃幸

2.

背景 〜教育現場におけるデジタル化〜 学習におけるデジタル化の加速 − 令和3年度の学習者用デジタル教科書整備率 36.1% (前年度 4.2%) − 大学生のパソコンでのノートテイキング経験 56% 2 [1] 文部科学省, “令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果”. https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00026.html, (参照 2022/12/13). [2] 長塚隆,山川茜,“授業におけるノートテイキングの実態,”情報知識学会誌, vol.22, no.2, pp.57-64, 2012.

3.

背景 〜手書きの需要〜 デジタル化の中でも手書きの需要は高い ー 受験生264人を対象としたアンケート ー 手書きで勉強することの方が多い人 88% [受験のミカタ,2018] 3 “【総勢270人にアンケート】手書き?それともスマホ?みんなの勉強法を大調査!” . https://juken-mikata.net/topics/how-to-study.html, (参照 2022/12/13).

4.

背景 〜文字形状の混在する教育現場〜 ・教科書 ・参考書 ・電子資料 ・板書 ・まとめノート ・友達に借りたノート ・PCやタブレット上のノート さまざまなフォント 個性のある手書き文字 どのような文字形状が学習に効果的であるのか 明らかにすることで,学習効率が向上する 4

5.

関連研究 〜記憶と文字形状の関係〜 記憶と文字形状について「非流暢性効果」が知られている ー 文字を上下反転すると記憶容易性が上昇する [Sungkhasetteら ,2011] ー 読みにくい手書き文字が,読みやすいMSゴシック よりも記憶容易性が高まる [Itoら,2020] 5 [1] Sungkhasettee, V.W., Friedman, M.C. & Castel, A.D.. Memory and metamemory for inverted words: Illusions of competency and desirable difficulties. Psychon Bull Rev 18, 2011. [2] Risa Ito, Karin Hamano, Kosuke Nonaka, Ippei Sugano, Satoshi Nakamura, Akiyuki Kake, Kizuku Ishimaru. Comparison of the Remembering Ability by the Difference Between Handwriting and Typeface, International Conference on Human-Computer Interaction (HCII 2020), Vol.CCIS, volume 1224, pp.526-534, 2020.

6.

関連研究 〜学習の発達段階〜 Create Evaluate Analyze Apply 学習は記憶,理解,応用,分析,評価, 創造の順で各段階の目標を達成しながら 進めていく必要がある [Bloom,1956] Understand Remember 6 Bloom, B.S.. Taxonomy of educational objectives. David Mzkay, 1956.

7.

関連研究 〜学習の発達段階〜 Create Evaluate 学習は記憶,理解,応用,分析,評価, Analyze 学習においては記憶だけでなく「理解」も重要 想像の順で各段階の目標を達成しながら Apply 進めていく必要がある →理解と文字形状の関係を調査 Bloom[1956] Understan d Remembe r 7

8.

関連研究 〜理解と文字形状の関係〜 − 5段階のアンケート方式で理解しやすさを計測 − 文字形状の違いが理解しやすさに与える影響は認められな かった [谷上,2019] − 文章を読んだ後にインターバルを挟み,単語の意味を問う 問題や穴埋め問題を出題 − 読みにくいと評価された文字形状の方が得点が高い [根岸ら,2018] 8 [1] 谷上亜紀. 文章の書体が読みやすさと記憶に及ぼす影響. 彦根論叢, 2019, vol. 422, pp. 18-29. [2] 根岸一平, 小玉美咲. 日本語フォントタイプの変更による学習効果の促進. 工学教育, 2018, vol. 66, no. 4, pp. 8-12.

9.

先行研究 〜理解と文字形状の関係〜 − 読解問題を手書きを含む計4種類の文字形状で提示 − 読みやすいと評価された文字形状の成績が向上する可能性 − 複数の文字形状で問題を提示したことが読みやすさの評価 に影響した可能性 [萩原ら,2023] 9 萩原亜依,高野沙也香,中村聡史,“提示する文 字形状が読解問題の正答率に及ぼす影響の調査” . 研究報告 ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), vol .201, no3, pp.1-8, 2023.

10.

先行研究 〜理解と文字形状の関係〜 1人に対して、複数の文字形状を提示 ⇒順番が読みやすさに影響 読解・解答時間が分析できなかった 10

11.

目的 提示する文字形状が 読解問題の正答率に及ぼす影響を調査 ・単一の文字形状の提示(実験者間比較) ・システム化による解答時間等の分析 11

12.

実験 〜仮説と実験概要〜 仮説:読みにくい文字で問題を提示されると読解問題の 正答率が向上する フォント2種類,手書き文字2種類で問題を提示し,読解問題 (正誤問題)に解答してもらう実験を実施 12

13.

実験 〜文字形状の選定〜 フォント:MSゴシック,MS明朝 手書き文字:手書き1,手書き2 ー 萩原ら[2023]の研究で用いていた文字形状を流用 手書き文字 ー できるだけ形状の異なる2種類を選定 ー 髙野ら[2022]の研究で収集した28人のうち,文字形状に対する評価 のコサイン類似度が最も小さい2人に協力してもらった 13 高野沙也香,山崎郁未,伊藤理紗,濱野花莉,菅野一平,中村聡史,掛晃幸,石丸築,“筆跡の自筆との類似性が記憶容易性に及ぼす易経の検証,”情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタ ラクション(HCI), vol. 2022-HCI-196, no.2 , pp.1-8 , 2022

14.

実験 〜文字形状の選定〜 MSゴシック MS明朝 手書き文字1 読みやすい,丸い,整っている,女性的 ⇒流暢的 手書き文字2 力強い,伸び伸びしている,男性的 ⇒非流暢的 14

15.

実験 〜実験手順〜 1 問 7 問 ー 読 解 問 題 ー 練 習 問 題 文 字 と アの ン関 ケわ り トに 関 す る 各 文 字 比形 較状 すに る対 アす ンる ケ読 み トや す さ を 15

16.

実験 〜問題の例(文章画面)〜 − 手書き文字2種類,フォント 文字2種類のいずれか1種類 − 選択肢の文章と一致する文 章が本文中に含まれていな いものを選定 理解せずとも 解答できてしまうことの回避 16

17.

実験 〜問題の例(解答画面)〜 ー各大問3問の正誤問題 ー〇か✖で解答する ー〇✖はクリックで 変更可能 17

18.

実験 〜文字との関わりに関するアンケート〜 質問内容 ー 電子機器で文字を読む頻度 ー 紙媒体で文字を読む頻度 ー 授業でのノートテイキングの方法 ー 国語の苦手・得意 18

19.

実験 〜読みやすさを比較するアンケート〜 質問内容 ー4種類の文字形状に対して 読みやすい順で順位付けをする 19

20.

実験 〜実験協力者〜 実験協力者:大学生44人 ー 国語に苦手意識がある人が27人,ない人が17人 ー読解問題の成績において外れ値(mean±2SD) は3だけ存在したため,全データのうち41を分析 対象とする 20

21.

結果 〜読みやすさの比較評価〜 フォント > 手書き文字1 > 手書き文字2 21

22.

結果 〜文字形状ごとの成績〜 MSゴシック>手書き文字2 文字形状ごとの成績に 有意差は見られなかった 22

23.

結果 〜読みやすさごとの成績〜 読みやすい文字形状の平均点が高い 23

24.

結果 〜読みやすさごとの成績〜 仮説「読みにくい文字で問題を提示されると 読解問題の正答率が向上する」は棄却された 仮説と逆の結果となった 読みやすい文字形状の平均点が高い 24

25.

結果 〜解答時間と正解数〜 読みやすい 読みやすい文字形状の 解答時間が長く正解数が多い 25

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考察 読みやすい文字形状で提示すると 成績が向上する 読みやすい文字形状で提示すると 解答にかける時間が長くなる 読みにくい文字形状の方が文字を読む負荷が大きいため あまり解答を見直すことをせず,早めに解答を切り上げてしまう 26

27.

今後の課題 〜実験設計〜 実験協力者の視線を計測 ー 客観的に文字の読みやすさ,読速度の変化を測る 解答時間との関係 ー 今回、提示順番前半と後半の解答時間に差がみられた ー 文字の読みやすさ以外の解答時間への影響を調査 27

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まとめ 目的 目的 内容理解を中心とした学習支援のため 文字形状が文章理解に与える影響を調査 実験 実験 フォント2種類,手書き文字2種類で 読解問題を提示し,理解度を調査 結果 読みやすい文字形状において読解問題 の成績が向上する可能性が示唆された 課題 集中力等がもたらす解答時間への影響 視線計測による可読性の客観評価 28