ノイズキャンセリングミュージック:音楽の印象誘導による騒音の不快度軽減効果の検証

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July 25, 19

スライド概要

日常生活で我々が耳にする騒音の対策として,ヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴くことや耳栓などを利用した騒音の遮断が考えられるが,呼びかけやアナウンスに気づかず,重要な情報を聞き逃すなどの問題が発生する.
この問題に対して我々は,騒音を遮断するのではなく,騒音に合った音楽を提示することで,騒音を音楽に溶け込ませて心理的に気にならなくさせるノイズキャンセリングミュージックという手法を提案してきた.我々はこれまでに,騒音のイメージに適した音楽を提示することで,騒音の音量が元々の音量より小さく認識される傾向があることを明らかにしてきた.しかし,これまでの実験では,実験監督者と実験協力者の間で,音楽から連想するイメージに相違がある場合に,提案手法の効果にばらつきがあった.そこで本研究では,音楽に合わせて適切な映像を 直前に提示 し その音楽に特定の イメージを植え付け た うえ で ,本手法の有効性について 再検証を行った 実験の結果, 映像提示により, 全く異なる連想をする人は いなくなり ,手法の効果 が強まる傾向が示された.しかし,映像刺激を画像群にし,音楽を特定の印象を も たないニュートラルなものに変更したところ,騒音の不快度を下げることは できるが,心理的な音量には変化は見られないこと が示された

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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各ページのテキスト
1.

ノイズキャンセリングミュージック 音楽の印象誘導による騒音の不快度軽減効果の検証 横山幸大 徳久弘樹 中村聡史 明治大学 中村研究室

2.

背景

3.

背景 • 我々は日々、様々な騒音の中で生活している • セミの鳴き声 • 工事の削岩機の音 • 子供のはしゃぎ声 • 騒音はトラブルの原因にもなってしまう • 合意得られず開園延期 住民が反対 東京・吉祥寺 (毎日新聞 2017年)

4.

背景 • 従来の対策 • 耳栓で騒音を遮断 • ノイズキャンセリングイヤフォン ➡重要な情報を聞き逃してしまう • 他人からの話しかけ • インターフォン • 車内アナウンス

5.

背景 • ノイズキャンセリングミュージック[徳久ら 2018] ➡ 騒音と音楽、それぞれから連想するものが一致する場合、 騒音に同じ組み合わせの音楽を提示することで、騒音が 気にならなくなる

6.

背景 • これまでの実験では音楽から連想するイメージにずれがあった 例「地上の星 / 中島みゆき」 我々の連想:働く姿 異なる連想:砂漠、宇宙

7.

背景 • これまでの実験では音楽から連想するイメージにずれがあった 例「地上の星 / 中島みゆき」 これでは 本手法の有効性の検証 には 異なる連想:砂漠、宇宙 我々の連想:働く姿 実験設計 が 不十分 であった

8.

目的 事前に映像と音楽を同時提示し、音楽の印象を 統一したうえで、本手法の有効性を再検証する

9.

目的 事前に映像と音楽を同時提示し、音楽の印象を 統一したうえで、本手法の有効性を再検証する • 音楽と映像の相性によって受ける印象を強調できる[岩宮 1994]

10.

目的 事前に映像と音楽を同時提示し、音楽の印象を 統一したうえで、本手法の有効性を再検証する • 音楽と映像の相性によって受ける印象を強調できる[岩宮 1994] ➡ 映像を同時に提示することで音楽のもつ様々な印象から 1つの狙った印象に誘導できる ➡ 映像提示によって聴き馴染みのない音楽に印象を付与できる

11.

目的 事前に映像と音楽を同時提示し、音楽の印象を 統一したうえで、本手法の有効性を再検証する • 音楽と映像の相性によって受ける印象を強調できる[岩宮 1994] ➡ 映像を同時に提示することで音楽のもつ様々な印象から 1つの狙った印象に誘導できる ➡ 映像提示によって聴き馴染みのない音楽に印象を付与できる

12.

実験①:印象誘導実験概要 • 動画提示による印象誘導を用いた騒音の聞こえ方調査 • 実験協力者14名(男性11名 女性3名 18~21歳) • 実験協力者を映像提示ありなしで2グループ(7:7)に分ける • 映像、騒音、音楽+騒音(30秒間×4カテゴリ) 騒音+音楽 14名 4カテゴリ 騒音 4カテゴリ×2条件

13.

実験①:音楽の選定 • 映像による印象誘導のしやすさと実用性から4種類に絞った カテゴリ 騒音 音楽 夏 セミの鳴き声 Summer 車 車の走行音 TRUTH 子供 子供のはしゃぎ声 エレクトリカルパレード 工事 削岩機 地上の星

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実験①:映像の選定 夏 車 子供 工事 Summer TRUTH エレクトリカルパレード 地上の星

15.

実験①:実験手順(全体) 映像提示による印象誘導×4種類 騒音の音量評価 ×(4種類×2条件) 騒音の不快度評価 ×4種類 ×2回

16.

実験①:実験手順(印象誘導) ❶ 映像+音楽を視聴(30秒間) ❷ 映像と音楽の印象についてアンケートに回答

17.

実験①:実験手順(印象誘導) ❶ 映像+音楽を視聴(30秒間) ❷ 映像と音楽の印象についてアンケートに回答

18.

実験①:実験手順(音量評価) ❶ 音楽(無音を含む)+騒音を聴く(30秒間) ❷ 同じ種類の騒音を単体で聴き、騒音の音量を再現

19.

実験①:実験手順(音量評価) ❶ 音楽(無音を含む)+騒音を聴く(30秒間) ❷ 同じ種類の騒音を単体で聴き、騒音の音量を再現

20.

実験①:実験手順(不快度評価) ❶ 騒音単体を聴き、不快度を評価 ❷ 音楽+騒音で聴き、騒音の不快度を評価 1 全く気にならない 2 気にならない 3 あまり気にならない 4 少しうるさい 5 うるさい 6 かなりうるさい 7 非常にうるさい

21.

実験結果①:映像アンケート • 「子供」カテゴリ以外は狙った印象を提示できた 夏 / 回答数 車 / 回答数 子供 / 回答数 工事 / 回答数 夏/8 車 / 10 遊 園 地 / 13 工事/6 森/6 CM/6 クリスマス/6 仕事/6 太陽/5 レース/5 家族/4 テレビ番組/5 リラックス/4 ドライブ/3 子供/4 職人/3 公園/3 スピード感/3 パレード/3 危険/3

22.

実験結果①:音量評価値(全体) • 映像提示を行った場合に音量評価値が小さくなる傾向 カテゴリ 映像提示あり 映像提示なし 夏 0.93 0.93 車 0.83 0.88 子供 0.76 0.88 工事 0.91 0.96

23.

実験結果①:音量評価値(試行回数別) • 映像提示を行った場合に音量評価値が小さくなる傾向 1回目 2回目 カテゴリ 映像提示あり 映像提示なし 映像提示あり 映像提示なし 夏 1.00 0.96 0.85 0.90 車 0.93 0.95 0.89 0.97 子供 0.64 0.87 0.87 0.88 工事 0.86 0.89 0.79 0.87

24.

実験結果①:音量評価値(試行回数別) 1回目 2回目 カテゴリ 映像提示あり 映像提示なし 映像提示あり 映像提示なし 夏 1.00 0.96 0.85 0.90 車 0.93 0.95 0.89 0.97 子供 0.64 0.87 0.87 0.88 工事 0.86 0.89 0.79 0.87

25.

実験結果①:音量評価値(映像提示あり) カテゴリ 1回目 2回目 夏 1.00 0.85 車 0.93 0.89 子供 0.64 0.87 工事 0.86 0.79

26.

実験結果①:不快度評価 • 全体的に音楽と同時に聴いたほうが騒音の不快度が低減 映像提示あり 映像提示なし カテゴリ 騒音のみ 騒音+音楽 騒音のみ 騒音+音楽 夏 5.8 4.9 5.4 4.4 車 4.1 3.6 3.0 2.2 子供 3.6 2.9 3.0 2.2 工事 4.8 4.3 5.6 4.8

27.

実験①:考察 ❶「子供」以外のカテゴリでは、提示回数を増やすことで狙った 印象へ誘導でき、音量が小さくなった 映像提示あり 夏/回答数 車/回答数 子供/回答数 工事/回答数 カテゴリ 1回目 2回目 夏/8 車 / 10 遊 園 地 / 13 工事/6 夏 1.00 0.85 森/6 CM/6 クリスマス/6 仕事/6 車 0.93 0.89 太陽/5 レース/5 家族/4 テレビ番組/5 子供 0.64 0.87 子供/4 職人/3 工事 0.86 0.79 パレード/3 危険/3 リラックス/4 ド ラ イ ブ / 3 公園/3 スピード感/3

28.

実験①:考察 ❷「子供」カテゴリは違う印象にミスリードしてしまった可能性 子供/回答数 遊 園 地 / 13 クリスマス/6 家族/4 子供/4 パレード/3

29.

実験①:考察 ❸ 映像刺激の場合、連続的で情報量が多くなってしまい、 印象が分散してしまった 夏/回答数 車/回答数 子供/回答数 工事/回答数 夏/8 車 / 10 遊 園 地 / 13 工事/6 森/6 CM/6 クリスマス/6 仕事/6 太陽/5 レース/5 家族/4 テレビ番組/5 リラックス/4 ドライブ/3 子供/4 職人/3 公園/3 スピード感/3 パレード/3 危険/3

30.

目的 事前に映像と音楽を同時提示し、音楽の印象を 統一したうえで、本手法の有効性を再検証する • 音楽と映像の相性によって受ける印象を強調できる[岩宮 1994] ➡ 映像を同時に提示することで音楽のもつ様々な印象から 1つの狙った印象に誘導できる ➡ 映像提示によって聴き馴染みのない音楽に印象を付与できる

31.

実験②:印象付与実験 • 聴き馴染みのない音楽に印象を付与し騒音の聞こえ方を調査

32.

実験②:印象付与実験 • 聴き馴染みのない音楽に印象を付与し騒音の聞こえ方を調査 • 映像提示では情報量の多さからか、連想物が分散してしまった

33.

実験②:印象付与実験 • 聴き馴染みのない音楽に印象を付与し騒音の聞こえ方を調査 • 映像提示では情報量の多さからか、連想物が分散してしまった ➡画像群提示により、実験協力者に一つの関連性を考えさせる 夏

34.

実験②:音楽の選定 • 知名度のほとんどないフリー音楽素材から選定 カテゴリ 音楽 特徴 夏 Mr. Sunny Face 弦楽器を使用 車 Puppets Pulling Strings アップテンポ 子供 Rainbow Forest スタッカート 工事 Plenty Step ドラマチックジャンル

35.

実験②:画像群の選定

36.

実験②:実験手順 画像群提示による印象誘導×4種類 騒音の音量評価 ×(4種類×2条件) 騒音の不快度評価 ×4種類 ×2回

37.

実験②:映像アンケート結果 • 全カテゴリにおいて、ほとんど狙った印象を提示できた 夏/回答数 車/回答数 子供/回答数 工事/回答数 夏/12 車/13 子供/9 工事/8 明るい/5 近代/5 遊び/8 仕事/7 楽しい/5 都会/4 楽しい/5 悲しい/4 スイカ/3 CM/3 明るい/4 苦労/3 花火/3 疾走感/2 幼い/3 辛い/3

38.

実験②:音量評価値結果 • 全体的に画像提示を行った場合のほうが、大きく聞こえる傾向 カテゴリ 画像提示あり 画像提示なし 夏 1.00 1.00 車 0.96 0.89 子供 0.99 0.88 工事 0.98 0.88

39.

実験②:音量評価値結果 • 回数別も同様に画像群提示ありのほうが、大きく聞こえる傾向 1回目 2回目 カテゴリ 画像提示あり 画像提示なし 画像提示あり 画像提示なし 夏 1.10 1.10 0.93 0.92 車 1.00 0.87 0.97 0.89 子供 1.00 0.82 0.98 0.94 工事 0.93 0.92 0.98 0.86

40.

実験②:不快度評価結果 • 夏 :どちらも不快度低減 • 車 :画像提示を行った場合に不快度低減 • 子 供 :画像提示を行った場合に不快度低減 • 工 事 :どちらも不快度増大 カテゴリ 画像提示あり 画像提示なし 騒音のみ 騒音+音楽 騒音のみ 騒音+音楽 夏 5.6 5.1 5.4 4.8 車 4.3 4.0 4.2 4.8 子供 4.4 4.0 3.0 3.4 工事 4.9 5.1 4.8 5.6

41.

実験②:考察 ❶ 音楽を聴く回数が変わってしまったため、画像提示なし組には 聴きなれない音楽に意識が向いてしまったのではないか カテゴリ 画像提示あり 画像提示なし 夏 1.00 1.00 車 0.96 0.89 子供 0.99 0.88 工事 0.98 0.88

42.

実験②:考察 ❷ 夏の曲がウクレレの曲であったため、夏を想起しやすかった 画像提示あり 画像提示なし カテゴリ 騒音のみ 騒音+音楽 騒音のみ 騒音+音楽 夏 5.6 5.1 5.4 4.8 車 4.3 4.0 4.2 4.8 子供 4.4 4.0 3.0 3.4 工事 4.9 5.1 4.8 5.6

43.

実験②:考察 ❸ 工事の曲が短調の曲であったため、ネガティブなイメージを 与えてしまった 画像提示あり 画像提示なし カテゴリ 騒音のみ 騒音+音楽 騒音のみ 騒音+音楽 夏 5.6 5.1 5.4 4.8 車 4.3 4.0 4.2 4.8 子供 4.4 4.0 3.0 3.4 工事 4.9 5.1 4.8 5.6

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各種実験結果のまとめ 実験①:印象誘導できたものに関しては有効性が示された 実験②:音量評価値は効果がなく、不快度は低減された 映像 画像群 音量評価 / 不快度 音量評価 / 不快度 印象のある音楽 〇/〇 ?/? 聴き慣れない音楽 ?/? △/〇 誘導手法 対象音楽

45.

課題 ❶ 今回の2種類の実験では印象付与手法実験の結果が、どちらの 変更が原因になったのか明確に判断はできない ➡残りの2条件で検証 映像 画像群 音量評価 / 不快度 音量評価 / 不快度 印象のある音楽 〇/〇 ?/? 聴き慣れない音楽 ?/? △/〇 誘導手法 対象音楽

46.

展望 ❶ 適用できる音楽種類の幅を広げる方法の調査 ❷ 音楽と騒音の適切な組み合わせをパターン化 ❸ 実際の利用を想定したシステムの実装

47.

まとめ 背景 :騒音に連想物の同じ音楽を同時に流すと不快度が低減する 実験で、我々と被験者の間で印象のずれが多くあった 目的 :音楽から受ける印象を統一したうえで再検証 印象誘導による実験 :印象誘導することで手法の効果が強く出た➡有効性が示された 印象付与による実験 :画像群提示によって印象が強まったためか、不快度は低減したが 音量は大きく聞こえてしまった 展望&課題 :誘導手法と対象音楽の関係性を検証 適用できる音楽種類の幅を広げる方法を検討