コミックにおける読者依存の地雷表現に関する基礎検討と軽減手法の検討

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March 01, 21

スライド概要

コミックは日本を代表するポップカルチャーの1つであり多くの人に楽しまれている.ここで,読者が事前に把握することは難しく,読者にとって苦手な描写を避けたいというニーズがある.そこで本研究では,読者が苦手な描写の影響を軽減しつつコミックを鑑賞できるような手法の実現を目指し,まずコミックにおける読者依存性の高い地雷表現に関する調査を行い,その特性を分析する.また,コミックを読みながら手軽に地雷表現へのフラグ付与が可能なシステムと影響を軽減するプロトタイプシステムを開発し,評価実験を行うことで,地雷フラグの付与には位置や個数にブレがあること,また地雷箇所への不安が減少する可能性を明らかにした.

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

D13-1 コミックにおける 読者依存の地雷表現に関する 基礎検討と軽減手法の検討 伊藤 理紗 中村聡史 (明治大学 総合数理学部)

2.

背景 コミックを読んでいる際に、 苦手な描写が出てきてつらい思いをする

3.

背景 コミックを読んでいる際に、 苦手な描写が出てきてつらい思いをする 苦手な描写の存在を事前に教えることで つらさを軽減する

4.

背景 DOES THE DOG DIE? • 作中で動物が死ぬか、 幽霊が出てくるかなどがわかる • 映画、TV番組、アニメ、 コミックに対応 苦手なものを避けたいという ニーズが存在する https://www.doesthedogdie.com/

5.

背景 コミックの苦手な描写→読者依存性の高い地雷 読者依存性の高い地雷 とは 不快に感じたり苛立ちを覚えたりして受け入れることが 難しく、できる限り読むのを避けたい描写 読者依存性の高い地雷だからといって、 表現を規制することは不適切

6.

本研究で対象とする地雷 • そのコミックのメインの内容として扱われていない • 表紙やタイトルなどからは想像しにくい • 長期に渡って登場せず、一部の場面でのみ登場する 読者が事前に地雷を推測できず、 その地雷箇所を避けることができれば、 地雷箇所以外の部分は楽しんで読むことができるもの

7.

研究目的 読者依存の地雷を含むコミックでも 読者が地雷を気にすることなく 楽しめるようにする • コミックにおける地雷表現についてアンケート調査 • 読者依存の地雷の軽減手法を提案 • プロトタイプシステムを実装 • 付与実験と閲覧実験を実施

8.

読者依存性の高い地雷に関するアンケート調査 • Yahoo!クラウドソーシングにて実施 • 回答者:2000名(男性1217名、女性746名、不明37名) • 不適切な回答(503名)を除外し、1497名を分析した 質問項目 • コミックにおける地雷があるか • コミックにおける地雷の内容 • コミックのネタバレを許せるか など

9.

読者依存性の高い地雷に関するアンケート調査 約33%の人が「地雷がある」と回答 [%] ある 100% ない 意味がわからない 90% 80% 割合 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 男性 女性 性別 回答しない N=1497

10.

読者依存性の高い地雷の内容に関する回答 • 主人公が恥ずかしい思いをする • 子供に対しての暴力 • 動物が死ぬ • バッドエンドが示唆されている作品ではないのに、 ヒロインが酷い目にあう • 急に首が飛んだ描写が出てくる • いじめが突然出てくる など 詳細にご興味がありましたらご連絡ください

11.

読者依存性の高い地雷の内容に関する回答 • 主人公が恥ずかしい思いをする • 子供に対しての暴力 • 動物が死ぬ • バッドエンドが示唆されている作品ではないのに、 ヒロインが酷い目にあう • 急に首が飛んだ描写が出てくる • いじめが突然出てくる など 想定していない展開や描写に対して 嫌悪感や不快感を覚えるのではないか?

12.

関連研究:嫌悪に関する研究 嫌悪刺激を予測可能な場合、 予測不可能な場合よりも不安を誘発する可能性が低い [Schmitz 2012] コミックの地雷を予測できる場合、 予測できない場合よりも不安を 誘発しにくいのではないか?

13.

提案手法 地雷表現にフラグを付与してもらい、 その情報を集約して地雷の位置と存在を予告する

14.

地雷フラグ付与画面

15.

地雷の予告画面

16.

地雷の予告画面 赤い四角で地雷の位置を提示 ©佐々大河「ふしぎの国のバード」

17.

地雷の予告画面 赤い四角で地雷の位置を提示 ©佐々大河「ふしぎの国のバード」

18.

地雷フラグ付与実験 目的 • 地雷フラグ付与の手軽さを評価する • フラグの付与に、人によるブレがあるのかを調査する 実験協力者:大学生11名(男性3名、女性8名) 対象とした地雷:虫 吾峠呼世晴「鬼滅の刃」4巻 佐々大河「ふしぎの国のバード」 1巻

19.

地雷フラグ付与実験:手順 • システムを用いて地雷フラグを付与しつつ コミックを読む  虫が苦手な人にとって、読むのがつらいと思うページ  自分が苦手だと感じたページ • アンケートとインタビューに回答する  フラグの付与に手間がかかったか  虫が苦手かどうか  フラグを付与する際の判断基準 など

20.

結果:手軽さ 地雷フラグの付与は手間がかかったか (1:手間がかかった ~ 5:容易だった) 平均点:4.09点 このシステムを用いた地雷フラグの付与は 手軽であると考えられる

21.

結果:作品ごと 2作品で、フラグが付与されたページ数に差がみられた 12 [個] [個] 12 8 8 個数 10 個数 10 6 6 4 4 2 2 0 0 56 66 74 76 84 114 136 139 143 145 148 150 155 158 160 163 169 175 179 185 ページ数 鬼滅の刃 N=11 86 107 115 120 122 123 126 127 139 185 ページ数 ふしぎの国のバード 200 N=11

22.

地雷フラグが付与された例 これから蜘蛛の画像が出てきますので ご注意ください 特にこのあたりに 出てきます

23.

地雷フラグが付与された例 • 全員がフラグを付与した例 • 数人のみがフラグを付与した例 ©吾峠呼世晴「鬼滅の刃」

24.

地雷フラグが付与された例 • 全員がフラグを付与した例 • 数人のみがフラグを付与した例 蜘蛛そのもの 蜘蛛を連想するもの ©吾峠呼世晴「鬼滅の刃」

25.

結果:実験協力者ごと(鬼滅の刃) A B C D E F G H I J K

26.

結果:実験協力者ごと(鬼滅の刃) フラグの付与には、実験協力者によって 個数や箇所にブレがある フラグを付与する際の判断基準 • 「足の節に着目した」 • 「カサカサという擬音語から虫を想像し フラグを付与した」 →実験協力者によって、判断基準や着目する箇所が 異なることが原因

27.

地雷なしの人は貢献できるか 地雷がある人と、ない人のフラグ付与に類似性がある →地雷がない人が付与したデータも 地雷の予告に使用できる →地雷がある人の負担が軽減される 実験協力者を地雷の有無で分類し 類似性があるか分析

28.

地雷の有無による実験協力者の分類 「鬼滅の刃」に登場する蜘蛛の印象 • 「気持ち悪いと感じた」 • 「薄目で読んだ」 などと回答 →地雷あり群(4名) • 「あまり気にならなかった」などと回答 →地雷なし群(7名) 地雷なし群の中でさらに分類した

29.

地雷なし群の分類 「鬼滅の刃」における地雷フラグの付け方 • なるべく全てのページにフラグを付与 →地雷なし網羅群(5名) • 厳選してフラグを付与 →地雷なし厳選群(2名)

30.

コサイン類似度 各ページに対してフラグを… • 付与している場合は1 • 付与していない場合は0 として 実験協力者ごとに地雷フラグのベクトルを作成し、 コサイン類似度を算出した

31.

コサイン類似度 地雷なし網羅群 地雷なし厳選群 E F G H I J K 地雷あり群 A 0.73 0.78 0.83 0.81 0.84 0.78 0.80 B 0.60 0.36 0.50 0.52 0.49 0.36 0.51 C 0.78 0.67 0.86 0.95 0.90 0.74 0.89 D 0.80 0.67 0.84 0.85 0.85 0.79 0.88 地雷あり群と地雷なし網羅群は地雷フラグの付与に類似性がある →地雷を持たない人が付与したデータも予告に使用できる可能性

32.

地雷フラグ付与実験のまとめ • 地雷フラグの付与は手軽である • 人によってフラグの判断基準が異なり、 フラグの付与にはブレがある • 一部の実験協力者間で、コサイン類似度が高く フラグ付与の位置に類似性がみられた フラグの付与にはパターンがある可能性

33.

閲覧実験 目的 • 地雷箇所の予告によって読書体験における 興味・不安がどのように変化するのかを調査する • 今後システムを実現するにあたっての改善点を 明らかにする

34.

閲覧実験の概要 • 実験協力者:大学生と大学教員9名(男性5名、女性4名) • 使用したコミック:「ふしぎの国のバード」1巻 地雷フラグ付与実験で、半数以上から フラグを付与されたページに対して予告を行う 内容 プロトタイプシステムを用いてコミックを読み、 アンケートに回答する 虫は苦手どうか 予告の次のページに対する不安はどう変化したか など

35.

結果:次のページに対する不快度合い 予告の次のページを見た際にどう感じましたか? 苦手 不快に感じた 少し不快に感じた 不快ではなかった 0 2 1 虫が苦手な人は予告の対象となったページを不快だと 感じた →虫が苦手なユーザのために予告を行うページとして 適切であった

36.

結果:次のページに対する不安 予告によって次のページに対する不安はどう変化しましたか? 苦手 不安度合いが上がった 不安度合いが少し上がった どちらでもない 不安度合いが少し下がった 不安度合いが下がった 0 0 1 1 1 虫が苦手な人の中で不安度合いが上がったと 回答している人はいない →予告により次のページへの不安が軽減された可能性

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結果:次のページに対する興味度合い 予告によって次のページに対する興味はどう変化しましたか? 人数 興味度合いが上がった 興味度合いが少し上がった どちらでもない 興味度合いが少し下がった 興味度合いが下がった 1 3 3 1 1 予告により次のページへの興味度合いが上がる可能性

38.

課題と展望 • 虫が苦手である人が少なかった →虫が苦手である人に対象を絞り、 再度フィードバック収集を行う • 地雷箇所の予告によって次のページへの 緊張を生む恐れがある →ユーザにとって威圧感のない予告画面に改善する

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まとめ 目的:コミックにおける苦手な描写(読者依存性の高い地雷)を 気にすることなく、そのコミックを楽しめるようにする 手法:地雷表現にフラグを付与し、地雷を予告する ①地雷フラグ付与実験 地雷フラグの付与は手軽である 人によってフラグの判断基準が異なり、ブレが生じる ②閲覧実験 地雷の予告により、不安が軽減される可能性 展望:人数を増やして再度実験を行う、予告画面の改善