提示する文字形状が読解問題の正答率に及ぼす影響の調査

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January 16, 23

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明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 中村聡史研究室

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1.

提示する文字形状が 読解問題の正答率に及ぼす影響の調査 明治大学 萩原亜依,髙野沙也香,中村聡史 株式会社ワコム 掛晃幸,石丸築

2.

背景 〜教育現場におけるデジタル化〜 学習におけるデジタル化の加速 ー 令和3年度の学習者用デジタル教科書整備率 36.1% (前年度 4.2%) ー 授業資料の作成にPCを用いる教員の割合 91.6% [文部科学省,2022] 2 文部科学省, “令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果”. https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00026.html, (参照 2022/12/13).

3.

背景 〜手書きの需要〜 デジタル化の中でも手書きの需要は高い ー 受験生264人を対象としたアンケート ー 手書きで勉強することの方が多い人 88% [受験のミカタ,2018] 3 “【総勢270人にアンケート】手書き?それともスマホ?みんなの勉強法を大調査!” . https://juken-mikata.net/topics/how-to-study.html, (参照 2022/12/13).

4.

背景 〜文字形状の混在する教育現場〜 ・教科書 ・参考書 ・電子資料 ・板書 ・まとめノート ・友達に借りたノート ・PCやタブレット上のノート さまざまなフォント 個性のある手書き文字 どのような文字形状が学習に効果的であるのか 明らかにすることで,学習効率が向上する 4

5.

関連研究 〜記憶と文字形状の関係〜 記憶と文字形状について「非流暢性効果」が知られている ー 読みにくいフォントで提示すると記憶成績が向上する [Oppenheimerら ,2011] ー 文字を上下反転すると記憶容易性が上昇する [Sungkhasetteら ,2011] 7 [1] Oppemheimer, D. M., Diemand-Yauman, C., Vaughan, E. B.. Fortune favors the bold (and the italicized): Effect of disfluency on educational outcomes. Cognition. 2011, vol. 118, no. 1, pp. 111-115. [2] Sungkhasettee, V.W., Friedman, M.C. & Castel, A.D.. Memory and metamemory for inverted words: Illusions of competency and desirable difficulties. Psychon Bull Rev 18, 2011.

6.

関連研究 〜非流暢性効果〜 非流暢性効果 学習において,文字を見にくい・読みづらい(非流暢的な)状 態で提示した方が,見やすく・読みやすい(流暢的な)状態で 提示するよりも記憶成績が優れる効果 8

7.

先行研究 〜記憶と文字形状の関係〜 これまで記憶と文字形状についての研究を行ってきた ー 2種類のフォント・2種類の手書き文字 ー 読みにくい手書き文字が,読みやすいMSゴシック よりも記憶容易性が高まる Itoら[2020] 非流暢性効果が見られた! 9 Ito, R., Hamano, K., Nonaka, K., Sugano, I., Nakamura, S., Kake, A., Ishimaru, K.. Comparison of the Remembering Ability by the Difference Between Handwriting and Typeface. International Conference on Human-Computer Interaction (HCII 2020), vol. 1224, pp. 526-534, 2020.

8.

関連研究 〜学習の発達段階〜 Create Evaluate Analyze Apply 学習は記憶,理解,応用,分析,評価, 創造の順で各段階の目標を達成しながら 進めていく必要がある Bloom[1956] Understan d Remembe r 10 Bloom, B.S.. Taxonomy of educational objectives. David Mzkay, 1956.

9.

関連研究 〜学習の発達段階〜 Create Evaluate 学習は記憶,理解,応用,分析,評価, Analyze 学習においては記憶だけでなく「理解」も重要 想像の順で各段階の目標を達成しながら Apply 進めていく必要がある →理解と文字形状の関係を調査 Bloom[1956] Understan d Remembe r 11

10.

関連研究 〜理解と文字形状の関係〜 ー 5段階のアンケート方式で理解しやすさを計測 ー 文字形状の違いが理解しやすさに与える影響は認め られなかった 谷上 [2019] アンケートは理解度の計測方法として不適切 12 谷上亜紀. 文章の書体が読みやすさと記憶に及ぼす影響. 彦根論叢, 2019, vol. 422, pp. 18-29.

11.

関連研究 〜理解と文字形状の関係〜 ー 文章を読んだ後にインターバルを挟み,単語の意味を問う 問題や穴埋め問題を出題 ー 読みにくいと評価された文字形状の方が得点が高い 根岸ら [2018] 読み返しができないことで,解答するためには 理解力だけでなく記憶力も必要 13 根岸一平, 小玉美咲. 日本語フォントタイプの変更による学習効果の促進. 工学教育, 2018, vol. 66, no. 4, pp. 8-12.

12.

目的 内容理解を中心とした学習支援 文字形状が文章理解に与える影響の調査 提示する文字形状が 読解問題の正答率に及ぼす影響を調査 14

13.

仮説 読みにくい文字で問題を提示されると 読解問題の正答率が向上する ー 読みにくい文字で提示された場合,より注意深く文字を 読むことで読解問題の正答率が上がる ー 非流暢性効果が読解問題にも適応される 15

14.

実験 〜関連研究を受けた実験設計の検討〜 ー 5段階のアンケート方式で理解しやすさを計測 谷上 [2019] →今回は読解問題で理解度を点数で計測 ー 文章を読んだ後にインターバルを挟み,単語の意味を問う 問題や穴埋め問題を出題 根岸ら [2018] →今回は読み返しが可能な実験設計 16

15.

実験 〜仮説と実験概要〜 仮説:読みにくい文字で問題を提示されると読解問題の正答 率が向上する フォント2種類,手書き文字2種類で問題を提示し,読解問題 (正誤問題)に解答してもらう実験を実施 17

16.

実験 〜文字形状の選定〜 フォント:MSゴシック,MS明朝 ー 過去の研究で用いていたため選定 手書き文字 ー できるだけ形状の異なる2種類を選定 ー これまでの研究で収集した28人のうちから,文字形状に対する評価 のコサイン類似度が最も小さい2人に協力してもらった 18

17.

実験 〜文字形状の選定〜 MSゴシック MS明朝 手書き文字1 読みやすい,丸い,整っている,女性的 手書き文字2 力強い,伸び伸びしている,男性的 19

18.

実験 〜タスク設計〜 ー 各大問に対して各文字形状が均等に割り振られるように各実 験協力者に振り分け ー 選択肢の文章と一致する文章が本文中に含まれていないもの を選定 理解せずに一致する箇所を探すだけで解答できてしまうことを 回避するため 22

19.

実験 〜タスク設計〜 ー 文章の飛ばし読みや,問題文を先に読むことを禁止 ただし,読み返しは可能 解答となる部分を探しながら読むと,文章の理解度を正確に測 ることができない可能性があるため ー 本文+問題の文字数に応じて制限時間を設定 23

20.

実験 〜実験手順〜 読 解 問 題 ( ) 小 問 3 問 ア ン ケ ー ト 24

21.

実験 〜アンケート〜 質問内容(以下抜粋) ー 大問ごとの回答に対する自信度 ー 文字形状の読みやすさ ー 電子機器で文字を読む頻度 ー 活字を読む頻度 26

22.

実験 〜実験協力者〜 実験協力者:大学生36人(男性18人,女性18人) ー 文系学部生24人,理系学部生12人 ー 国語に苦手意識がある人が18人,ない人が18人 読解問題の成績において外れ値 (mean±2SD)は存在しなかったため,全 データを分析対象とする 27

23.

結果と考察 〜文字形状ごとの成績〜 MSゴシック 手書き文字1 > MS明朝 手書き文字2 ゴシック 明朝 手書き1 手書き2 文字形状ごとの成績に有意差は見られなかった 28

24.

結果と考察 〜読みやすさごとの成績〜 読みやすい群 ー 文字形状が読みやすいと回答した人 読みにくい群 ー 文字形状が読みにくいと回答した人 読みやすい群>読みにくい群 読みやすい群 読みにくい群 ただし,有意差はなし 30

25.

結果と考察 〜読みやすさごとの成績〜 読みやすい群 ー 「とても読みやすい」「読みやすい」と 回答した人 読みにくい群 仮説「読みにくい文字で問題を提示されると ー 「とても読みにくい」「読みにくい」と 読解問題の正答率が向上する」は支持されなかった 回答した人 読みやすい群>読みにくい群 ただし,有意差はなし 31

26.

結果と考察 〜読みやすさごとの成績〜 読みやすい群>読みにくい群 ー 読みにくい文字形状で問題を提示 されたことで,文章を読むことに 負荷がかかり,解答の妨げとなった ー 問題を読むことに時間がかかり, 解答を考える時間を十分に確保で 読みやすい群 読みにくい群 きなかった 32

27.

結果と考察 〜読みやすさの評価〜 読みやすさの評価(件) とても読みやすい 読みやすい 読みにくい とても読みにくい MSゴシック 22 48 1 1 MS明朝 30 35 5 2 手書き文字1 6 31 28 7 手書き文字2 1 6 35 30 フォントは読みやすい,手書き文字2は読みにくいに偏っている 33

28.

結果と考察 〜読みやすさの評価〜 とても読みやすい 読みやすい 読みにくい とても読みにくい MSゴシック 22 48 1 1 MS明朝 30 35 5 2 手書き文字1 6 31 28 7 手書き文字2 1 6 35 30 手書き文字1のみ読みやすさの評価が割れている →読みやすさによる影響を見ることができる 34

29.

結果と考察 〜手書き文字1についての読みやすさごとの成績〜 (点) 読みやすい群 読みにくい群 読みやすい群の方が成績の平均点が高い 35

30.

結果と考察 〜手書き文字1についての読みやすさごとの成績〜 (点) 読みやすい群 読みにくい群 今後は,フォントについても読みやすさの評価に差が 出るような実験設計や文字形状の選定を行う必要がある 36

31.

結果と考察 〜提示順ごとの成績〜 注目した文字形状 MSゴシック 直 前 の 文 字 形 状 MS明朝 2.33 MSゴシック MS明朝 2.58 手書き文字1 2.74 2.63 手書き文字2 2.71 2.74 手書き文字1 手書き文字2 2.42 2.74 2.79 2.36 2.50 2.67 38

32.

結果と考察 〜提示順ごとの成績〜 注目した文字形状 MSゴシック 直 前 の 文 字 形 状 MS明朝 2.33 MSゴシック MS明朝 2.58 手書き文字1 2.74 2.63 手書き文字2 2.71 2.74 手書き文字1 手書き文字2 2.42 2.74 2.79 2.36 2.50 2.67 手書き文字の後にフォントで提示すると 成績が向上する傾向が見られた 39

33.

結果と考察 〜提示順ごとの成績〜 注目した文字形状 MSゴシック 直 前 の 文 字 形 状 MS明朝 2.33 MSゴシック MS明朝 2.58 手書き文字1 2.74 2.63 手書き文字2 2.71 2.74 手書き文字1 手書き文字2 2.42 2.74 2.79 2.36 2.50 2.67 読みにくい手書き文字から読みやすいフォントに文字形状が 変化したことで,読みやすさが増幅されて成績が向上した 可能性がある 40

34.

今後の課題 大問1 正答率(%) 80.6 〜実験設計〜 大問2 88.9 大問3 95.4 大問4 93.5 大問5 77.8 大問6 99.1 大問7 大問8 100.0 65.7 問題の難易度設定 ー 第6問や第7問はほぼ全員が正解 ー 問題の難易度を上げる,記述問題にするなどして 難易度調整 41

35.

今後の課題 〜実験設計〜 実験協力者の視線を計測 ー 問題を読むのにかかった時間や,読み返しの回数を計測 提示する文字形状を固定 ー 今回は全員の実験協力者に対してすべての文字形状で 実験を行った ー 前後の文字と比較して読みやすさを評価した可能性 42

36.

まとめ 目的 目的 内容理解を中心とした学習支援のため 文字形状が文章理解に与える影響を調査 実験 実験 フォント2種類,手書き文字2種類で 読解問題を提示し,理解度を調査 結果 読みやすい文字形状において読解問題 の成績が向上する可能性が示唆された 課題 問題の難易度設定・提示する文字形状 の改善と視線計測 43