外国人児童・生徒の教育課程デザイン論250711 発表資料Carisson, M. (2024)

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September 06, 25

スライド概要

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教育方法学・教科教育学という「一般的な教育」と,外国人児童生徒教育学という「特別な教育」をどちらも行っています。 このどちらもを同時に行う研究室は,日本の中ではほとんどありません。その結果,大学を含む多くの教育の場でこの両者は別々のものになってしまっています。

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【お願い】このスライドは,広島大学 大学院人間社会科学研究科 教育科学専攻 教師教育デザイン学プログラムで開講している「外国人児童・生徒の教育課程デザイン論」(南浦涼介担当)の授業で行った受講大 学院生たちの発表資料です。 Trifonas and Jagger 2024 Handbook of Curriculum Theory, Research, and Practice, Springer のハンドブックのいくつかの章を選んで発表したものです。 教育的価値・資料的価値としてウェブでの掲載を行っていますが,いわゆる「論文」ではありませんので,論文等への引用や掲載は固くお断りします。 質問については広島大学南浦研究室(https://minamiura-lab.com/)までおねがいいたします。 The Twinning of Bildung and Competence in Environmental and Sustainability Education: Nordic Perspectives Monica Carlsson 発表日:7月11日 発表者:和田拓也・池田泰士

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筆者紹介 2 Monica Susanne Carlsson 〇デンマーク オーフス大学教育学部准教授 〇関心分野 ・ヘルス・プロモーション ・ウェルビーイング ・サステナビリティ https://pure.au.dk/portal/en/persons/monica%40edu.au.dk https://pure.au.dk/portal/en/persons/monica%40edu.au.dk

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章の全体構成 序章 環境サステナビリティ教育(ESE)の政策的コンテクスト 重要な理論的文献におけるアクション・コンピタンス(AC)の概念化 北欧の実践的ガイドラインにおけるAC概念の使用 総括 3

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4 ⓪キーワード 概 念 アクション・コンピテンス Action Competence, AC ビルドゥング 英: formation, 日: 形成・陶冶 文 脈 環境サステナビリティ教育 Environmental and sustainability education, ESE 政策 コンピテンス twinning 関係 北欧ガイドライン 実践

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①序章 5 AC(Action competence)におけるビルドゥングとコンピテンスのtwinning関係 ・AC:行動能力?学校教育全体の目的。様々な文化的文脈や教育分野に適応しやすい。 (Carlsson, 2020) ・ビルドゥング:形成・陶冶。政治的・民主主義的形成 「『教育される』とはどういうことか」・「『自律』が中心的視点」(Westbury, 2000) 「理論的観点」・「測定しにくいもの」 ・コンピテンス:児童・生徒が知ったりできるようになったりする必要がある要素 ⇒「知識・技能」 「アカウンタビリティ」の需要に合っている(Prøitz, 2015) ・twinning関係:双子?似て非なるもの?ツイン?

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①序章 ESE(Environmental and sustainability education)について ・「複雑」 「多様」 「不確実」 ・既存の枠組み内の変革(adaptation)・そもそもの規範の変革(disruption) (Carlsson, 2021) ESEにおけるAC ・重要な社会問題に対応して、教育の「目的」「内容」「方法」などといった カリキュラムを考える際、中心的な役割を担ってきた ・ESEの認識論的な伝統にも上手く溶け込んだ :変革の対象は 個人の主観性(subjectivities)?and/or 持続可能でない文化や社会構造自体か? ・文脈的柔軟性を持っており、かつ教育研究・教育政策・教育実践の利害関係を調整 vehicular idea:様々な目的(end)に向かって異なる方法(way)をとれる(McLennan, 2004) 6

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②ESEの政策的コンテクスト 〇ESEについて ・生態学・環境学・気候変動・サステナビリティなどについての複合的教育 (Jucker & Mathar, 2014) ⇒現在のニーズも満たしながら、次世代のニーズも満たす:矛盾? ⇒生態学・経済学・社会学・倫理学などの各観点から考えなければならない ・サステナビリティが提唱されて30年 民営機関からの情報増 ⇒情報の発信・普及に対する信頼性の欠如 政策サイドへの期待(UNESCO, 2015: 80) 7

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②ESEの政策的コンテクスト 〇教育における民主主義的意識 ・学校とは、コミュニティ形成やデモクラシー強化のための一手段であるといえる ※若者が社会を再構築する機会を奪う可能性も。 non-affirmative approach 「非肯定的アプローチ」 :既存で与えられた社会に沿って若者を 教育するのは間違っているとする考え方 transformative approach 「変革的アプローチ」 :個人の主観性の変革を期待する 教育アプローチ ※操作や教化になりかねない(Uljens and Ylimaki, 2017) 8

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②ESEの政策的コンテクスト 〇北欧のESEに関する政策文書(Nordic Council of Ministers, 2019, 2020) :ビルドゥングとコンピテンスの両立 ビルドゥング的(理論的・測定しにくい)要素 ・平等 ・民主主義的市民性 コンピテンス的(知識や技能・測定しやすい)要素 ・経済成長(グリーン・エコノミー) ⇔ ユネスコの方針 ・ゴールの設定において重視(国際ビジネスで求められるもの) (※社会福祉や労働市場の弱体化が見込まれるため。) 9

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③重要な理論的文献におけるACの概念化 ・ACの定義(Jensen & Schnack, 1997) :行動し、何かを取り入れ、ポジティブな変化をもたらす能力 ⇔個人の学問的修養や文化標準的な価値観の育成が目的の伝統的教育観 〇既存の社会に適応させるのだけではなく、「未来を形成するために何を学ば なくてはいけないか」(Kristensen 1991) 10

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③重要な理論的文献におけるACの概念化 ・ディダクティック的伝統では…:教育の内容や目的を重視 独:教授学 ・カリキュラム的伝統では…:学習・教授アプローチを重視(Mogensen & Schnack 2010) ⇒AC:ディダクティック的伝統とカリキュラム的伝統の両方の系統がある ・Didaktik of challenges (Schnack, 2000) 「どのようにすれば、私たちの常識が社会問題の対処に活かされるか?」 健康問題・環境問題など、明確な解決策のない問題 11

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③重要な理論的文献におけるACの概念化 12 ・ビルドゥングの2つの側面:政治的+民主主義的 〇政治的形成 他者からのコントロールや誘導の客体とあるのではなく、 政治的主体となれるよう解放してあげること(一種の社会化)(Hellesnes, 1976) 民主主義的プロセスを通じて起こる 個人が「社会からの標準化」を認識し、それらを変革しよう決意する際、政治的行動が生まれる 〇民主主義的形成 三要素:自己決定・共同決定・団結(Klafki, 1998). 〇批判的思考力の重要性 ・固定化した知識・解決策・適切な振る舞いなどは、専門家等によって前もって規定されるべき でない

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③重要な理論的文献におけるACの概念化 13 ・ACにおける「行動(action)」の2つの基準:「意図的」+「ゴールに向かっている」 ⇒政治的にも道徳的にも、ゴール(規範の変革)に向かって (=change-oriented)、意図的に行動を起こすことが大切 ・カリキュラムにおいては… 子どもたちに、個人的・社会的行動のどちらも体験させてあげるべき 「コミュニケーション」・「議論」・「受け入れ」などといった行動 ESEのような、個人が即座に解決できない問題への対処に有効

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③重要な理論的文献におけるACの概念化 ・初期の概念化におけるACの構成要素(Carlsson & Simovska, 2012) ①知識と洞察力:多次元的知識 ②コミットメント:変化をもたらすためのモチベーション ③ビジョン:問題を多角的に捉え、実現可能な解決策に向け クリエイティブなアプローチをとること ④行動経験:変化を取り入れ、実行した、実生活における経験 ・問題点 :基準が不明瞭で、依然として測定が困難である :アカウンタビリティの期待に応えようとすることで、ACの可能性を弱めてしまう? 14

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③重要な理論的文献におけるACの概念化 ・ACにおけるコンピテンスについて 自然科学などでは…:科学的規範に基づく知識やスキル (普遍的?) ⇔AC概念では… ・民主主義社会に適格に参加することに関連 ・与えられた課題を解決するのに必要な 知識・行動を習得(Jensen & Schnack 1997) ⇒コンピテンスは行動や状況から独立して存在しているわけではない ⇒特定の環境下において個人がとる行動によって現実化される 15

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④北欧の実践的ガイドラインに おけるAC概念の使用 16 北欧での教育実践(文脈:ESE 国:デンマーク、ノルウェー、スウェーデン) (Scheie & Korsagaer 2017) ガイドラインの背景 ユネスコやSDGsなど国連が持続可能な開発のための教育を推奨してきた →この分野について教師の能力が不足している (UNESCO 2014) ・サステナビリティに向けた全体目標→「教育」:社会の発 デンマーク 展に参加する能力、意志、意欲 ・ACの育成が必要(批判的思考力や意志決定) ノルウェー ・認知スキル、実践的スキル、コミュニケーションスキル critical thinkingスキル →民主的形成の中心要素 →意思決定と責任 スウェーデン ・critical thinkingと内省が不確実な物事を考慮する上で重要 ・意思決定の機会は、サステナビリティに向かう行動を力を引き出す (ユネスコを参照)

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17 北欧のガイドライン →ACの構成要素に基づいて学習成果を可視化、共通の計画・評価モデルを概説している ノルウェー:学習成果は知識・技能 デンマーク、スウェーデン:学習成果は知識・技能 + 行動と変化 カリキュラム ・サステナビリティ教育の内容に反映して、カリキュラムは幅広く ・non-affirmativeアプローチが強調される→あらかじめ定義された(一般化され た)解決策を教えるのではない ・分野横断的な教育 人材育成とサステナビリティのための教育を運用可能で測定可能なものにしていく

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18 北欧のガイドラインでは、ACの概念と各国の学習、行動、変革の形式が異なる デンマーク ・ACの発展=生徒が関連した知識を使って学習すること ・何らかの行動を起こすことが重要(行動ベース) スウェーデン ・行動を起こす過程で、生徒の行動力が 理論から実践に発展(行動ベース) ノルウェー ・ACは「どのような行動の可能性があるかについての 知識、行動する意志、信念」 ・行動や行動経験を技能に置き換え、課題を解決して いく(課題解決ベース)

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19 ①ACはnon-affirmativeアプローチとtransformativeアプローチ の両側面を持ち合わせている ②・北欧のガイドラインのACは、課題解決と並行して行動経験を重要視 ・ビルドゥングの側面(政治的形成<民主的形成)※社会的行動を促すこと はリスクがある 課題 ①ACの概念では、行動と変化に焦点 →学問的知識や探求形態よりも活動主義が優先されるのでは? ②ACの概念によって、教育は開放的なものであり、主観を解放する →一方で、主体を通常化(一般化?)してしまうのでは?

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言語的文化的に多様な子どもの包摂への示唆 〇測定が難しい学び(ビルドゥング的な学び)の価値を認めることによる包摂 • コンピテンス教育においては「測定可能性」が重視される傾向がある。 AC概念を取り入れ、コミットメントやビジョンなど、 「測定」は難しい側面も、「評価」はしていくべき。 ⇒言語的文化的に多様な子どもでも評価される機会 「能力的欠損言説」から「陶冶的資源言説」への転換 〇具体的な対応 ・ポートフォリオ評価 ・ナラティブ評価 ⇒学習者の「変容の軌跡」を可視化できる評価文化 20

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主要参考文献 Kristensen, H. J. ( 1991 ). Pedagogy- Theory in practice. The school in the 90 s (Predagogik- teori i praksis. Skoien i 90 'erne). Gyldendal. UNESCO. (2014). The Global Action Programme (GAP) on Education for sustainable develop ment. UNESCO. (2015). Rethinking education: Towards a global common good? UNESCO. Bacchi, C. (2009). Analyzing policy, what's the problem represented to be? Pearson Education. Nordic Council ofMinisters. (2019). 4 good life in a sustainable Nordic region: Nordic Strategyfor Sustainable Development 2013—2025. Nordic Council of Ministers. Nordic Council ofMinisters. (2020). The Nordic region — Towards being the most sustainable and integrated region in the world: Action plan for 2021 to 2024. Nordic Council of Ministers. 21