【2018年度版】ものづくりスタートアップと製造業等の連携ケーススタディ

675 Views

May 10, 23

スライド概要

【14社収録】ものづくりスタートアップと製造業等の連携ケーススタディ(https://flag.jissui.jp/n/ncee12a1d1763)にて紹介しています。

profile-image

"旗"を掲げ、挑戦したい人を応援するメディアです。 第一線で挑戦する人のインタビュー・コラム、政策・ビジネスに関するレポート、公募の情報など、「じっくり読みたくなる」情報をお届けしています。note:https://flag.jissui.jp/ |  運営会社JISSUIの情報はこちらから→ https://jissui.or.jp/

シェア

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

ものづくり C o n t r a c t スタートアップと C a s e s t u d y 製造業等の連携 f o r M a k e r S t a r t u p s ケーススタディ 1 ver.2020/3/19

2.

■ 複雑なハードウェアの開発では、要素間の相互作用がとても強く、 全ての要素が繋がっている。強みのある技術分野だけに集中し、 他の分野は他社に丸ごと委託、というモデルは通用しにくい。 ■ 安易に外だしする前に、自社でできること、他社にしかできない ことを考える必要がある。 ■ ものづくりスタートアップの多くが、工場から「こ んなものは作れない」と言われた経験を持つ。 ■ でも多くの場合、日本中・世界中の工場を探せば 「できるよ」、「ここをこう変えたら作れるよ」と 返してくれる工場は見つかる。ネット、人づて、 展示会、あらゆる方法を使って工場を探して、最 適なパートナーを見つけ出す。 ■ ものづくりスタートアップはまだまだ数が少 ない。しかも通常のメーカーとは行動パター ンが違うため、従来の方法では出会えない。 ■ 良いスタートアップと出会うには、積極的な 情報発信や、スタートアップが集まる場所に 自ら出掛けていくことが重要。 ■「量産のことはわからない」と委託先の工場任せにしている と、作りやすい方向に流れてしまい思った通りのものを作れ ない。 ■ 細部までこだわるなら、しつこいほどのコミュニケーション で製造工程を理解し、具体的な要望を伝えきることが重要。 ■ いわゆる頑固で職人気質な工場ではスタートアップと連携できな い。スタートアップから尋ねられる質問に言葉で真摯に答え、伝わ るまであきらめない姿勢が必要。 ■ さらに、「言われたままに作る」だけでなく、設計を改善するアイ デアを提案するなど、受託者としての立場を超えた積極的な関わり とコミュニケーションが求められる。

3.

ものづくり スタートアップと 製造業の連携 ケーススタディ 「ものづくりスタートアップと製造業の 連携ケーススタディ」について このレポートは、実在するものづくりスタートアップ6社による製品開発・量産化の過程を詳細に調査し、ス 製造業との連携の場面で起こった「課題・転機」と そこからスタートアップが得た「学び」を 35 セット掲載 タートアップが製造業との連携の場面において直面した課題や転機、そこから得た学びを整理したものです。 ものづくりスタートアップが経験する様々な課題は、実は他の多くのスタートアップも経験する共通の課題で す。その共通する課題や対処方法を整理し、ノウハウとして広く共有することで、ものづくりスタートアップの成 ケーススタディは、以下の構造となっています。 「③転機・課題および学び」がメインのコンテンツで、 功確率を少しでも高めたい。本調査はこのような考えのもと実施されました。 それぞれがある程度完結した内容になっているため、関心のあるところから読み始めることが可能です。 ものづくりスタートアップは、 「ソフトとハードの融合」という、我が国の産業にとって重要な領域におけるイノ 1 6社のスタートアップ 2 10個の「ケース」 3 35セットの「課題・転機」 及び「学び」 ベーションの担い手です。本レポートが、ものづくりスタートアップの成長と成功に少しでも貢献できれば幸甚です。 こんな人に読んでほしい ものづくりスタートアップの 経営者・エンジニア ものづくりスタートアップと 取引・連携する製造業の関係者 対象 詳細な聞き取り調査を行った 各社の製品開発・量産化プロセスを2個程 ものづくりスタートアップ6社 度の期間に分け、 「ケース」として整理 「ケース」 内で起こった出来事 (課題・転機) と、 そこからスタートアップが得た学びを整理 4つのインデックスから必要な情報にたどり着く 必要な情報にたどり着きやすくするため、4種類のインデックス(目次)を用意しています。 目的 製品開発・量産化の 過程で生じる 課題と対処法を知る ものづくりスタートアップの 行動・思考について 理解を深める Index1. Index3. ケーススタディWEB版はこちらに記載のQRコードよりアクセスできます。 連携の場面で起こった 「課題と転機」 からケースを探す Index2. スタートアップの「悩み」と 「学び」 からケースを探す 「課題と転機」を量産化のプロセス スタートアップ各社が得た「学び」を、 (原理試作→量産化試作→量産・量産後)ごとに整理。 スタートアップ共通の「悩み」ごとに整理。 スタートアップの概要から ケースを探す Index4. プロダクトの種類から ケースを探す 調査の対象となった 各社のプロダクトを、その複雑さ及び 6社の概要を整理。 量産のロット数によって整理。 https://startup-f.jp/casestudy/index.html 03 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 04

4.

ものづくり スタートアップと 製造業の連携 ケーススタディ I n d e x 1. 連携の場面で起こった「課題と転機」 からケースを探す」 原理試作 量産化設計・試作:試行錯誤の末にサプライチェーンを構築 ■ 無数の工場にアプローチしながら最適な協力工場を探し、サプライチェーンを構築する。 ■ 原理試作を何度も繰り返しつつ、要件定義書や仕様書、図面、部品リストを作り込む。 ■ 自社で一貫して実施するケースも少なくないが、技術やノウハウが不足する場合は製造業等との連携のもと 実施。 ピッチイベントを通じた有力な スタートアップ支援者との出会 い チャレナジー 1.1(P34) 将来の事業パートナーとして の可能性を見込むことで、原 理試作段階でのコンサルティ ング協力を得る ピクシーダスト1.1(P53) 大企業の要望を受けて企画・ 提案を行うものの、資金面で 折り合わず、自社資 金によっ てスタートする つつう 1.1(P45) 墨田区の町工場による設計・試 作支援を受けて試作機を製作 チャレナジー 1.2(P35) 初期段階では仕様を作り込ま ず、試作、実験、設計変更のサイ クルを高 速 で 回して仕 様 をブ ラッシュアップ ピクシーダスト1.2(P54) 経験のない技術分野も専門家 への質問攻めと外部協力者の 獲得で対応 つつう 1.2(P46) 資金調達手段が限られる創業 期に試作品製造コストが大き な負担に チャレナジー 1.3(P36) 開発支援も行う国内EMS企 業と出会いスムーズに開 発 が進行 MAMORIO 1.2(P16) ハードウェアの製造を誰が 担うべきかでユーザーと意 見が割れる ロビット 2.2(P31) EMSへの委託を止め協力工 場を自力で探索して初期量産 を成功させた ロビット1.3(P27) 多くの企業と直接会って話を した末にビジョンや事業への 共感を得られる連携先にた どりつく つつう 2.3(P50) 設計・開発段階から経験豊 富な専門人材の知見を活用 できる体制を整備 つつう 2.2(P49) ハードウェア・エンジニアの 採用にむけた活動 チャレナジー 2.4(P41) 社外のエンジニアをボラン ティア・スタッフとして巻き 込む チャレナジー 2.5(P42) 量産・販売開始 量産化設計・試作:初めての量産での手痛い失敗 ■ 原理試作を経て具体化された仕様書、図面等を基に、量産化を見越した試作品、補助成果物(冶具、量産設備等) を作りこんでいく。 サプライチェーン維持・見直し・次世代機開発 ■ 多くのスタートアップにとって自社で実施することは困難であり、製造業との連携が必須となる。たいていの スタートアップは、経験不足から手痛い失敗を被る。 05 試作段階で問題を発見できないまま量産し 製品が無駄に MAMORIO 1.1(P15) 取引先が納期を守ってくれないトラブル チャレナジー 2.3(P40) 委託先工場の切り換えにともない金型返還 でトラブル発生 MAMORIO 1.3(P17) EMSの話を鵜呑みにして量産試作を任せき りにした結果、不具合が発生 ロビット1.1(P25) 試作機の大型化にともない、専用部品を製造 できる工場が見つからなくなる チャレナジー 2.1(P38) EMSへの委託中止交渉と金型の引き上げ作 業が難航 ロビット1.2(P26) 確かに支払ったにもかかわらず注文した部品 が中国から届かない チャレナジー 2.2(P39) 競合企業等によるリバースエンジニアリング のリスク対策 ロビット 2.1(P30) Contract Casestudy for Maker Startups ■ 在庫の管理をしながら適切なタイミングで第二次、第三次の量産を行うとともに、生産量に応じてサプ 産業機器にRaspberry Piを採用しようと したところ使用実績の少なさを理由に協力企 業から猛反対を受ける つつう 2.1(P48) ITリテラシーの低い工場に委託したところ、 無駄な工程が多く時間を浪費してしまう アクセルスペース 1.1(P57) 品質基準を満たせない工場に発注してしま い、発注先を変更することに アクセルスペース 1.2(P58) ライチェーンの見直しを図る。 ■ 仕様や設計から見直して次世代機の開発に着手 初 号機 量 産時 のノウハウと ネットワークを活用して次世 代機を開発 ロビット1.4(P28) 一部の販路では円滑な取引 条件交渉に成功 MAMORIO 2.3(P21) 安定した部品調達に向け発 注先の分散と関係維持に努 める アクセルスペース 1.3(P59) 製造コスト低減を目指してサ プライチェーンを再度見直し MAMORIO 2.4(P22) 量産規模拡大と依存リスク 解消のため製造委託先を新 規開拓 MAMORIO 2.1(P19) 量産規模の拡大によって 資金繰りの問題が発生 MAMORIO 2.2(P20) Contract Casestudy for Maker Startups 06

5.

ものづくり スタートアップと 製造業の連携 ケーススタディ I n d e x 2 . スタートアップの「悩み」と「学び」 からケースを探す うまく連携していくためにはなにが必要なのかわからない どんなファクトリーと連携するべきなのかわからない 原理試作における「設計」を適切に助 自社のノウハウや設備が不十分な場 自社が置かれた環境に合わせて最適 工場との連携の過程で量産に必要な 委託先とのトラブルに備え、契約解除 委託先とのしつこいほどのコミュニ 言や支援してくれる工場は貴重 合、見積が高くても検査体制が整備さ なサプライチェーンを追求し続ける ノウハウを貪欲に吸収することが重要 や金型回収について書面で明確にし ケーションと進捗確認 チャレナジー 1.2 (P35) れている企業に委託・発注する MAMORIO 2.4(P22) MAMORIO 1.1(P15) ておくロビット1.2(P26) チャレナジー 2.3 (P40) 委託先とのトラブルに備えて最低限の 密なコミュニケーションにより 工場側 EMSに量産試作を頼むには、EMS 防波堤を築く(特に金型は注意) の心配事やリスクを減らすことが重要 の既存ビジネスモデルの壁、量産試 MAMORIO 1.3(P17) チャレナジー 1.3(P36) 作に必要な情報格差の壁を超える必 アクセルスペース 1.2 (P58) 職人気質の工場よりも、デジタル化さ 試作〜初期量産時と量産規模拡大時 れた効率的な工場がパートナーには望 では 最適なパートナーが変わる可能 ましい 性も アクセルスペース 1.1(P57) MAMORIO 2.1(P19) ハードウェアは全てが繋がっている 「分からない」部分を放置しない つつう1.2 (P46) 要があるピクシーダスト 1.1(P53) EMSに委託したとしても各工場との 重要事項のやり取りを証跡として残し 日頃からの丁寧な対応で、良好な関係 細かい調整は自社でやるしかない その履行を求める(特に納期は注意) を維持する ロビット1.1(P25) チャレナジー 2.3 (P40) アクセルスペース 1.3 (P59) どうやって最適なファクトリーを探すのかわからない 特殊部品は工場探しに苦労する。それ 実績の少ない製品・技術の使用方法 を比較すること でも国内には製造可能な工場が必ず であっても、参考になる先行事例は少 MAMORIO 1.1 (P15) ある なからずある チャレナジー 2.1(P38) つつう 2.1(P48) 良い工 場 を 探 すに は 他 のスタート 海外工場とゼロから取引する際は「思 連携先を決める際には直接会って話し 量産規模拡大のタイミングで資金 外部の専門人材の知見を活用でき アップが連携している工場を探すの いもよらないトラブル」が頻発する。石 て共感を得られるパートナーかを見極 繰りのあり方が大きく変わることに る体制構築が重要 が近道 橋を叩いて渡る慎重さが必要 めること 要注意 MAMORIO 2.2(P20) つつう 2.2 (P49) るべしピクシーダスト1.2(P54) MAMORIO 1.2 (P16) チャレナジー 2.2(P39) つつう 2.3 (P50) 必ず起こる「想定外の手戻り」に備 積 極 的な情 報発 信によってハード 製造工程での連携先は仕様や製造数量 有力なスタートアップ支援者との繋が 量産経験がなくても EMS を介さず自 えて資金的余力を確保する ウェア・エンジニアを引き付けること が固まった段階で協力を求めた方が良い りが出会いの連鎖を生む 力でサプライチェーンを構築すること チャレナジー 1.3 (P36) が重要 チャレナジー2.4(P41) つつう 2.2(P49) チャレナジー 1.1 (P34) は可能 ロビット1.3(P27) 07 その他の悩み 委託先の工場を選定する際は複数社 Contract Casestudy for Maker Startups 資金 開発の初期段階では受託開発にな らないよう 自己資金で進めること 人材 実際に組み上げて初めて気づく課題が あることを念頭に、設計・開発を進め 社員 という形にこだわらず、エ 長期間の使用が前提となるハードウェ ンジニアを巻き込む仕組みを作るこ アは保守・メンテナンス体制がネックに が望ましい つつう1.1(P45) とが重要 チャレナジー2.5(P42) 消費者向け商品の場合小売企業との直 信頼できる弁理士や弁護士を作り、 接交渉が利益率や価格コントロールの 相談しやすい環境を整えることが重要 カギを握る MAMORIO 2.3(P21) ロビット 2.1 (P30) なりやすい ロビット2.2(P31) 2つ目以降のプロダクトの開発と量産 は、劇的にスムーズに進む ロビット1.4(P28) Contract Casestudy for Maker Startups 08

6.

ものづくり スタートアップと 製造業の連携 ケーススタディ I n d e x 3 . ものづくり スタートアップ名からケースを探す 製造業の連携 MAMORIO(P13〜) ■ ロボット、精密機器、関連する 造・販売。Beaconを活用した ハードウェア、部品及びソフト 一の紛失時にはスマートフォン mornin plus ザーの相互捜索によるクラウド 外観検査装置 TESRAY/AI技 トラッキングで無くしたものを 術を活用したばら積みピッキン 見つけることができる。 グソリューション PIQ / 等 アクチュエータ有り 小型・シンプル 大型・複雑・高精度 小型人工衛星 アクセルスペース P55〜 つつう(P43〜) ■ I oT 対 応 次 世 代 自 動 販 売 機 「TUTUU PLANT」の開発・製造。 ■ IoTや電子マネー決済に対応し、 で発生する力(マグナス効果) 売上や在庫状況、販売価格、音 を利用し、かつ、全方向からの 声・LED演出パターン等を遠隔 風に対応できるよう、垂直軸に 地からリアルタイムに把握・制御 した風力発電機 することが可能。消費者と商品 提供者・クリエイター、店舗を繋 数百個〜数千個 ■ 風を受けて円筒が回転すること 量産のロット数 の開発・製造 アクチュエータ なし ウェアの設計、製造、販売 ■【BtoB事業】機械学習を用いた ■ 垂直軸型マグナス風力発電機 ハードウェアの複雑さ ■【BtoC事業】めざましカーテン と、紛失場所の地図表示、ユー チャレナジー(P32〜) プロダクトの種類からケースを探す 数個〜数十個 を使い、置 忘れ 防止アラート ケーススタディ I n d e x 4 . ロビット(P23〜) ■ 落とし物防止の電子タグを製 タグをつけておくだけで、万が スタートアップと 風力発電機 チャレナジー P32〜 自動外観検査装置 ロビット P23〜 ぎ、常に変化し続ける自販機。 ピクシーダスト・テクノロジーズ(P51〜) ■ 計算機自然 (デジタルネイチャー) 活に溶け込む End to Endのコン ピュータ技術を開発。本事業では ハードウェア「首 振り超音 波ス ピーカー」を開発し、スポットオー アクセルスペース(P55〜) ■ 超小型衛星ソリューションの提 案、設計・製造・打上アレンジ・ 運用、超小型衛星から得られ るデータに関する事業。 IoT対応次世代自動販売機 つつう P43〜 数万個〜 の到来を見据え、魔法のように生 首振り超音波スピーカー ピクシーダストテクノロジーズ P51〜 ディオのリアルタイムな動的音響 生成を行う事業「Sonoliards」 の実現を目指す。 09 Contract Casestudy for Maker Startups 落としもの防止タグ MAMORIO P13〜 カーテン自動開閉機 ロビット P23〜 Contract Casestudy for Maker Startups 10

7.

ものづくりスタートアップと 製造業の連携ケーススタディ ケース ス タディ編 11 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 12

8.

M A M O R I O MAMORIO 企業概要 ケ ース1. 紛失防止タグの開発・製 造プロセス 自社製品開発の決断とクラウドファンディングの成功 Company Overview ■ MAMORIOは、2012年の創業以来、落とし物情報を集めるポータルサイト(落とし物ドットコム) 名 : MAMORIO株式会社 社 を構築・運営していた。当時、海外ではBluetoothで落とし物を見つける電子タグが登場し始めて 代 表 者 : 増木 大己 おり、同社創業者である増木氏はそのアイデアを同社の事業に取り込みたいと考えた。同社は、は 所 在 地 : 東京都千代田区外神田3-3-5 ヨシイビル 5F 立 : 2012年7月 設 原理試作 従 業 員 数 : 14名 事 業 内 容 : 紛 失防止タグ「MAM OR I O」の開発・販 売、 じめに、海外で販売されていた電子タグを参考に、国内で販売するための市場調査を試みた。その 結果、日本でも同製品にニーズがあることが確かめられた。次に、自社独自のハードウェア開発に 着手するため、クラウドファンディングを実施。資金調達に成功する。 ポータルサイト「落し物ドットコム」の運営 【紛失防止タグ「MAMORIO」】 Bluetooth Low Energyを活用した電子タグ がスマートフォンと連携。アラート機能、 「みん なで さが す」機 能(クラウドトラッキング 機 試作段階で問題を発見できないまま量産し製品が無駄に 能)、駅・街に設置されたMAMORIO Spotに よって、 「大切なモノ」の紛失を防止する 製造するハードウェア(例 MAMORIO S) ■ 一方、当時、同社にはハードウェア開発のノウハウが少なく、そこを補うために国内のハードウェア 受託開発企業X社へ設計を委託。その後、X社を経由して、海外の工場に試作・量産を発注した。ほ 部品構成(主要品のみ) どなくして、海外の工場から試作品が送られてきたが、十分な検証・試験ができないまま量産を開 始。その後、品質に深刻な問題があることが発覚する。しかし、その段階では、ほぼ量産が完了し 【サイズ(縦×横×厚さ)】 35.5mm×19mm×2.8mm 樹脂筐体 【重さ】 2.4g 【通信方法】 Bluetooth4.0(Bluetooth Low Energy) 基板 トアップが頼る国内EMS企業Y社と出会う。Y社は、MAMORIOの条件付きの生産委託への対応 が可能であると回答。Y社は、すでに自社開発していたモジュールを活用することで、製品開発・試 作を順調に進めていく。 製造企業 連携図 ケーススタディ一覧 委託先切り替えにともなうトラブルを乗り越えて量産成功 国内EMS 企業 Y社 原理試作 自社工場 (海外) MAMORIO 13 開発支援も行う国内EMS企業と出会いスムーズに開発が進行 ■ 実用困難な製品の修理を模索しながら、製品の再開発を考えていた同社は、他のものづくりスター 電池金具 (金属プレス金型) 【価格】 3,980円(税抜) 1 部品 調達 試作 量産 委託 量産化設計・ 試作 リチウム電池 【有効距離】 約60m 試作 量産 委託 ていたため、実用困難な製品在庫を抱えてしまう。 国内EMS 企業 Z社 製造 委託 Contract Casestudy for Maker Startups 部品商社 外部工場 (国内) 量産化設計・ 試作 量産・ 量産後 量産・ 量産後 紛失防止タグの開発・製造プロセス 2 ■ 一方で、金型に関しては初期に海外の工場で製作したものを修正のうえで再利用する必要があり、 量産規模と 販路の拡大 サプライチェーン の最適化 海外からY社の海外の協力工場に金型を移送するとともに、金型の3Dデータを取得する必要が あった。金型の移送と3Dデータ取得をめぐり、海外の工場との間でトラブルが発生するが、なんと かそれらに対処。Y社の協力を得て、品質に問題のない試作品を完成させる。 ■ 同社は並行して他の協力工場も探索。協力工場を見つけ、EMS、協力工場、自社によるサプライ チェーンを構築し、量産品を完成。顧客に製品を届けることを実現する。 Contract Casestudy for Maker Startups 14

9.

MAMORIO 課題・転機 1.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 試作段階で問題を発見できないまま 量産し製品が無駄に ■ クラウドファンディングでの資金調達に成功して自社のハードウェア開発に取り組み始めた当時、同社はハードウェアの開 発・製造のノウハウが少なかった。そのため、知人の紹介で知り合ったハードウェア受託開発企業X社に製品設計を委託。 ■ このX社を経由して、海外の工場に、金型製作を含む、製品の試作・量産を発注。 (金型は筐体製造用の射出成型金型と、電 池まわりの金属部品用のプレス金型の2種類。) ■ ほどなくして海外の工場から試作品が届く。MAMORIOではこの試作品が本当に動くかどうか動作確認をした後、量産を開 始。当時、クラウドファンディング時に設定した製品の発送期日が迫っていたため、それ以上の検証・試験を行わなかった。 ■ その後、量産品が届き、社内で数日試用していたところ、バッテリーの持ちが想定よりも著しく短い等(1週間ほどでバッテ リーが切れ、電池交換もできない)、実用に耐えないものであることが発覚する。 ■ この現象の原因は設計や部品選定のミスにあると予想されるが、当時、X社や海外の工場からは原因分析や改善に向けたア ドバイスを得られなかった。そのため、MAMORIOは独自に原因を分析し、改善を行おうとしたが、社内に検査や試験のノウ ハウ・設備が不足し、明確な原因特定に至らなかった。 ■ なおかつ、その段階で、製品の量産がほぼ完了してしまっていた。結果、実用に耐えない品質の製品を製造してしまい、最終 的にそれらは販売されることなく、今もMAMORIO社内に死蔵されている。 MAMORIO 課題・転機 1.2 開発支援も行う国内EMS企業と出会い スムーズに開発が進行 ■ 品質問題の対応に悩んでいたとき、MAMORIOの外部パートナーを経由して、別のものづくりスタートアップと取引がある国 内EMS企業Y社のことを知り、連絡をとった。Y社オフィスは遠方にあるが、先方が東京に来る予定もあり、MAMORIOオ フィスで商談することができた。 ■ MAMORIOは、従前の生産委託先がつくった金型と筐体を保有していた。そのため、Y社に対して、 「この筐体に入る基板を 製造してもらえませんか?」と依頼した。この条件付き依頼に対して、Y社側の事業開発担当者は、MAMORIOの企画を理解 したうえで「(MAMORIOが希望する)製品を製造することは可能」と答える。MAMORIO側は、当初、不安を感じていた が、数か月後、試作品が完成。Y社へ現物を確認に行くことになった。 ■ 通常、Y社は、受注〜金型製作〜基 板製 造、という流れを一気 通貫で担えることを強みとする会社。本来であれば、 MAMORIOが行った条件付きの依頼は断られる事案であった。しかし、当時、Y社は、MAMORIOの製品に近いBluetooth Energyモジュールを開発し、取引先を探していた。そして、同モジュールに手を加えれば、MAMORIOが持つ筐体に入る基 板が生産できる状況であった。そのため、MAMORIOの依頼を引き受けてもらうことができた。 ■ 本件はY社内でもイレギュラーな対応となったが、同社の事業開発担当者が社内調整に尽力。MAMORIOのオーダーに対し てスピーディに対応してくれた。そして、Y社は、製品の完成に向けて「忖度」しながら、基板を製造。結果、品質に問題のな い製品を完成させることができた。 スタートアップが得た学び スタートアップが得た学び 委託先の工場を選定する際は 複数社を比較すること 良い工場を探すには 他のスタートアップが連携している工場を探すのが近道 ■ MAMORIOが直面した一連のトラブルは、試作・量産を委託する工場を十分な検討を経ずに決定してしまっ たことが原因の一つと考えられる。工場の中には、スタートアップとの取引に慣れていない工場も多く、また、 製品の分野による得意・不得意もある。仮に、信頼できる関係者から紹介を受けた工場であっても、それが最 適な工場かどうかを判断するのはスタートアップ自身。最低でも複数社とコミュニケーションをとり、見積を とったうえで、取引先を決めることが重要と考えられる。 工場との連携の過程で 量産に必要なノウハウを貪欲に吸収することが重要 ■ 商習慣や製造に関する知識差等により、ものづくりスタートアップと製造企業との間には、取引における認識 ギャップが発生しやすく、トラブルの元になりやすい。 ■ スタートアップとの取引実績、取引の継続状況、取引社数の増減等の情報は、製造企業がものづくりスタート アップに適応可能であるかどうかを示すリトマス試験紙となる。そして、その情報を集めることで、ものづくり スタートアップは自社に適した製造企業を発見する確率を高めることができる。 ■ 上記のトラブルは、ハードウェア開発や品質管理に関するリソースやノウハウが自社内に少なかったことも原因として あげられるが、これは多くのスタートアップにとって避けられない課題。その場合は、適切な企業に委託し、その委託 の過程で必要なノウハウを蓄積していくことが重要だと考えられる。そのためにも、委託する際にはスタートアップ 側に協力的でオープンな企業を選択し、設計、開発、量産、品質管理等に関する指導をその都度仰ぐことが重要。 15 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 16

10.

MAMORIO 課題・転機 1.3 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 委託先工場の切り替えにともない 金型返還でトラブル発生 M A M O R I O ケ ース 2 . 量産規模と販路の拡大 サプライチェーンの最適化 ■ 品質問題を解決するため、生産委託先を切り替えることを決定したMAMORIOは、元々EMSが生産を委託していた海外の 量産規模拡大と依存リスク解消のため製造委託先を新規開拓 工場にあった金型を、Y社の海外の協力工場に移送すべく、金型の移送を依頼した。しかし、生産を委託していた海外の工場 側から金型の移送費用を請求される。 ■ 販売開始後、MAMORIO製品は作るそばから売れていく状態になった。そのため、生産委託先で ある国内EMS企業Y社の生産能力や依存体制が、MAMORIOの成長にとって今後ボトルネックと ■ しかも、同工場は、当初のEMS側としかコミュニケーションを取ろうとしなかったため、移送費用に関する交渉が難航した。 なる可能性が発生した。MAMORIOは、委託先1社へ依存するリスクを解消し、なおかつ、新たな できるだけ早く量産を行いたかったMAMORIOは、一部条件を譲歩し、なんとか金型をY社の海外の協力工場へ移送させる 委託先候補を発掘すべく、探索を開始。すでに製造企業の認知を得て展示会等で声をかけられる ことができた。 ことが増えたMAMORIOは、声をかけてくれた製造企業の中から、国内EMS企業Z社を選定。生 ■ また、この後、金型の修正のために、金型の図面データ(3Dデータ)が必要になったとき、同工場にデータ提供を依頼した 産委託を検討するようになった。 が、工場側がデータ提供を承諾しなかった。 ■ そのため、MAMORIOは、金型のデータを回収することができず、Y社に、3Dスキャナで金型を読み取り、図面データを作 成してもらうことになった。 量産規模の拡大によって資金繰りの問題が発生 ■ Z社への生産委託にあたり、MAMORIOは万単位のMOQの提示を受ける。千単位のMOQで生産 スタートアップが得た学び を委託してきたMAMORIOにとって大きな変化だったが、同社はこれを受け入れる。しかし、その 後量産規模が急拡大した結果、MAMORIOの資金繰りが悪化。 ■ 苦しい状況にあったMAMORIOだが、大手ECサイトの特別プログラムへの出品機会を得る。する 委託先とのトラブルに備えて最低限の防波堤を築く(特に金型は注意) ■ 委託先との契約手続に十分なリソースをさけないことは、スピードが生命線となるスタートアップにとって避 けられない課題。どれだけ信頼関係を構築した委託先であっても、スピードだけを優先した口頭によるコミュ ニケーションに頼りすぎると、事実認識の齟齬が生まれ、トラブルになる可能性もある。そのため、契約書を 締結する時間的余裕がない場合でも、メールなど記録に残る形で委託先と重要事項(例:金型の所有権等) をやり取りする、発注書面に重要事項を明記するなど、最低限の防波堤を築いておくことが必要となる。 と、想定を超えるペースで製品が売れるとともに、大手ECサイトの仕組みを活用して短期間で売 上金を回収。資金繰りの改善に成功する。 量産・量産後 一部販路では円滑な取引条件交渉にも成功 ■ 大手ECサイトの特別プログラムへの出品と同時期、ある家電量販店の店頭で、MAMORIO製品 の販売を開始。売れ行きが好調であったことから、売り場の一等地に製品を置いてもらうことがで きた。すると、他の家電量販店からもMAMORIOに連絡が入り、順調に販路を拡大。小売側から同 社に直接声がかかったケースもあり、小売側とMAMORIOが直接交渉した後、商社経由で製品を 卸すケースもでてきた。結果、商社との取引条件交渉も比較的円滑に実施することに成功した。 製造コスト低減を目指してサプライチェーンを再度見直し ■ MAMORIOは、取引先の協力のもと、生産体制を確立。販路も拡大したことで、安定的に製品が 販売できる状態となったが、製造コスト低減に限界を感じつつあった。そこで、さらなる製造コスト 低減を目指し、サプライチェーンの見直しを開始。同社は、ICメーカーから得た情報を参考にEMS 企業へアプローチ。接点ができた各社とコンタクトを取り、交渉を進めていく。そして、複数の判断 基準に基づき、第一候補となる海外EMS企業A社を選定する。 17 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 18

11.

MAMORIO 課題・転機 2.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 量産規 模拡大と依存リスク解消のため 製造委託先を新規開拓 ■ 初回量産品ができた後、MAMORIO製品は、作るとすぐに売れる状態になった。その結果、同社の成長が、生産を委託して いた国内EMS企業Y社に左右される構造になっていた。 ■ Y社は、試作〜小ロットでの量産、すなわち、0→1プロセスを得意としており、MAMORIOからのオーダーへの対応も早かっ た。しかし、この段階になると、同社内、そして、株主から、生産委託を1社に依存するリスクが強く意識されるようになった。 MAMORIO 課題・転機 2.2 量産規模の拡大によって 資金繰りの問題が発生 ■ MAMORIOが新規の生産委託先として検討・交渉していた国内EMSのZ社は、MAMORIOの製造に関して万単位のMOQを 提示した。国内1社目のEMSであるY社のMOQが千単位だったことを考えると非常に大きな変化だが、MAMORIOはその 条件での発注を決定した。 ■ しかし、当時のMAMORIOは、大量生産・大量販売を行う際の資金繰りの難しさを十分に認識していなかった。EMSへの そのため、MAMORIOは、このリスクを解消し、なおかつ、量産を得意とする生産委託先を発掘すべく、新たな取引先の探索 支払は一部、納品前に行うケースがでてくること。大量に製造した製品は在庫となり、すぐに売り切れるわけではないこと。 を開始する。 そして、小売店を通した販売では商品が売れてから手元に現金が入るまで時間がかかること。これらがMAMORIOの資金繰 ■ その頃、MAMORIOは、すでにものづくりスタートアップとして知名度が上がっており、製造企業側から声をかけられる機会 が増えていた。そこで、同社は、展示会等で声をかけてくれた製造企業のなかから、資料の精度が高かった国内EMS企業Z 社を選び、生産委託を検討するようになった。 りを悪化させていった。 ■ MAMORIOは、この苦境を大手ECサイトでの販売拡大によりなんとか乗り切ることができた。これは大手ECサイトに出 品した製品がハイペースで売れる日々が続き、なおかつ、売上金を短期間で回収することができたおかげである。 ■ 加えて、MAMORIOは、大手ECサイトが提供するサービスをフル活用することで、製品の物流〜売上金の回収等、様々な自 社オペレーションをアウトソースすることもできた。 スタートアップが得た学び スタートアップが得た学び 試作〜初期量産時と量産規模拡大時では 最適なパートナーが変わる可能性も 量産規模拡大のタイミングで資金繰りのあり方が 大きく変わることに要注意 ■ ハードウェアの試作や小規模での生産を行う段階と、量産を開始して規模を拡大する段階では、製造企業側 ■ 量産規模を拡大する際、製造側への支払額が増え、抱える在庫量が増え、 (販売拡大のスピードによっては) に求められるものが異なる。例えば、前者の場合、コンセプトを試作図面に落とし込み、実際の形にするため 売上回収までのリードタイムがのび、結果、必要となる運転資金が増えることになる。スタートアップは、あら の知識やノウハウが求められる。後者の場合、量産ラインを立ち上げて安定稼働させるための知識やノウハ かじめ、この点に細心の注意を払わなければならない。MAMORIOの場合、量産規模が大幅に拡大したこと、 ウ、品質/納期/コスト最適化に向けたカイゼンの知識やノウハウが求められる。そのため、スタートアップは、 規模の拡大スピードが急激であったことから、販売は好調でありながらも、資金繰りに苦しむ事態に陥った。 自社の開発ステップ(原理試作・量産試作・量産)、その規模を客観的に認識しながら、取引先がそのステッ プにおける最適なパートナーであるかどうか確認し続けることが必要。 19 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 20

12.

段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 一部販路では円滑な 取引条件交渉にも成功 MAMORIO 課題・転機 2.3 ■ 大手ECサイトへの出品と同時期、大手家電量販店の店頭で、MAMORIO製品の販売を開始することができた。そして、店頭 での販売開始後、売れ行きが好調であったことを家電量販店側が評価し、売り場の一等地に製品を置いてもらえることに なった。 MAMORIO 課題・転機 2.4 製造コスト低減を目指して サプライチェーンを再度見直し ■ MAMORIOは、取引先の協力のもと、生産体制を確立するとともに、販路を拡大したことで、安定的に製品を販売できる状 態となった。しかし、現在の体制のもとでは、製造コストを引き下げることに限界があると感じていた。 ■ また、海外のイベントで、MAMORIOと類似する製品を作る企業の代表と接触した際、MAMORIOが今よりも安価に製造で ■ すると、競合の店頭調査を行っていた他の家電量販店で、 「なぜ当社ではMAMORIO製品を取り扱っていないのか?」とい う話になり、家電量販店各社からMAMORIOに問い合わせが入るようになった。 ■ 通常、小売店に製品を卸す場合、必ず商社または代理店を経由して製品が卸される。この場合、代理店が小売店に製品を売 り込み、取引が開始されるため、代理店と小売の間の交渉で価格が決定する。しかし、MAMORIOの場合、MAMORIOと小 売が直接価格交渉したうえで商社または代理店を通す、というケースでもでてきており、商社との取引条件交渉も比較的円 滑に実施することに成功した。 きる可能性があることも指摘された。ただ、同社が今以上に製造コストを下げるには、現在の取引先を介さない新たなサプ ライチェーンを構築することが必要と考えられた。 ■ そこで、まず、MAMORIOは、海外の展示会に行ってはEMS企業に片っ端からアプローチしていくことにした。幸い、同社は JETROとの関係で海外出張の機会が多く、都度、EMS企業の担当者に声をかけ、名刺をもらうようにしていた。 ■ MAMORIOは、このような活動を繰り返し、国内外のEMS企業をリストアップ。各社にコンタクトを取り、複数社と実際に交 渉を進めた。そして、そのなかで、複数の判断基準に基づき、海外EMS企業A社を発注先の第一候補として選定するに至った。 スタートアップが得た学び 消費者向け商品の場合 小売企業との直接交渉が 利益率や価格コントロールのカギを握る スタートアップが得た学び 自社が置かれた環境に合わせて 最適なサプライチェーンを追求し続ける ■ 製品価格は許容可能なコスト構造を決定するという点で生産面にも大きな影響を持つ要素と言える。しか ■ 量産可能なサプライチェーンを構築・維持できている状態は、ものづくりスタートアップの一つのゴールといえ し、製品分野によっては、商社・卸機能が発達していることで、顧客とスタートアップが直接、製品の価格交 る。しかし、その間にも、市場環境、競合状況は変化し、スタートアップを取り巻く状況は変化していく。 渉を行うことができない場合もある。例えば、小売店を通じて一般消費者に販売されるようなデバイス製品 MAMORIOの場合も、量産可能なサプライチェーンを構築できた時点から、同社を取り巻く環境は変化し、将 の場合、メーカー → 卸 → 小売店の商流が確立されており、スタートアップは価格交渉を行うことが難しい 来に向けたサプライチェーンの改善が課題となっていた。スタートアップは、常に環境変化に敏感であるととも 構造にある。 に、その変化に合わせて、最適なサプライチェーンを追求し続けることが必要。 ■ MAMORIOの場合、先に小売側の認知を獲得し、大手ECサイトでの販売実績をアピールできたことで、この 状況を打破。自社で小売側と価格交渉が行える状態を作り出すことに成功している。同社のように販売実績 を作り、小売(顧客)側に直接アピールする機会を増やすことは、ものづくりスタートアップが取引条件の交 渉を行える状態を作り出すために必要になると考えられる。 21 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 22

13.

ロ ビ ット ロビット 企業概要 ケ ース1. 「めざましカーテン mornin」の開発・量産・次世代機開発 会社設立後、自社製品開発に乗り出す Company Overview ■ 2014年設立のロビットは、IoT、機械学習、ロボティクスをドメインとするものづくりスタートアップ 名 : 株式会社ロビット 社 企業。創業時からロボットづくりに取り組んでおり、そのノウハウを活かして一般コンシューマー向 代 表 者 : 高橋 勇貴 け自社製品として「めざましカーテン mornin 」を開発し、2016年7月にリリースした。mornin は、 所 在 地 : 東京都板橋区新河岸1-5-11 製造(量産)は委託先の工場で行っているものの、企画・開発・デザインから量産の一歩手前の工 立 : 2014年6月 設 原理試作 従 業 員 数 : 11名 事 業 内 容 : ロボット、精密機器、関連するハードウェア、 程までは、自社で全て行っている。 ■ 本ケースは、 「めざましカーテン mornin 」の量産一歩手前まで自社で十分に準備を済ませた後から、 初期量産を完了させるまでの間の試行錯誤を取り上げたものである。 部品及びソフトウェアの設計、製造、販売 【BtoC事業】 めざましカーテン mornin plus 【BtoB事業】 EMS の話を鵜呑みにして任せきりにした結果、試作品不良が発生 ・機械学習を用いた外観検査装置 TESRAY ・AI技術を活用したばら積みピッキング ■ 「海外企業、特に中国企業との付き合いは非常に難しい」という話を鵜呑みにして、EMSに基本的に ソリューション PIQ等 は任せきりの状態で量産フェーズに入った。それでも、特に重視していた外観(筐体の射出成型)につ いては細かく指定するなどの対応をとっていたが、完成した試作品は、ロビットの指定とは大きく異 なるものであった。EMSに抗議したところ「中国企業と直接交渉するように」との回答があり、初期 製造するハードウェア(mornin plus、TESRAY) mornin plus 量産は暗礁に乗り上げた。 量産化設計・ 試作 TESRAY 【サイズ(幅×高さ×奥行き)】 6.2cm×11.0cm×4.6cm 【概要】 機械学習を用いた 外観検査装置 【重さ】 108g 外観検査に特化した ロボット 【概要】 ・毎朝起床時刻に自動でカーテンを開き、太陽 光による快適な目覚めを促す家電製品 ・2016年7月に販売開始し、シリーズ累計販売 4万台。グッドデザイン賞受賞や、家電大賞ノミ ネート等の実績あり AI技術を活用した 画像処理アルゴリズム EMS への委託中止交渉と金型の引き上げ作業が難航 ■ 決定済みのリリース日に間に合うかどうか不透明な状況に陥ったため、追加コストがかかろうと も、日本国内で協力工場を自力で探索して、量産・組立することを決めた。しかし、EMSへの委託 中止と金型回収の交渉が難航し、金型引き上げまでに1ヶ月程度を要した。 仮 異常を際立たせる 独自のライティング技術 EMS への委託を止め、協力工場を自力で探索して初期量産に成功 製造企業 連携図 (mornin plus) 委託 ケーススタディ一覧 部品 国内工場 (1社) 外部工場 (国内) ※基板、筐体、 ワイヤー等 ロビット 原理試作 TESRAY 製造 委託 外部企業 (海外) ※シャフト等 約32点)。中国企業からの部品調達については、基本的にはアリババ経由での調達が有効で、最 1 mornin 組み立て ■ 金型回収と並行して、国内の協力工場探索を進め、結果的に10社程度と取引をした(部品総数は 2 量産化設計・ 試作 「めざましカーテン mornin 」の 開発・量産・次世代機開発 外観検査自動化装置 TESRAYの事業化 量産・ 量産後 終的には自力で無事量産工程を組み上げることができた。 量産・ 量産後 初号機の経験を活かし、次世代機のスムーズな開発・量産に成功 ■ 「mornin 」の販売開始とほぼ同じタイミングで、次世代機「mornin plus」の開発に着手。ロ ビットにとって初号機の量産時に得たノウハウやネットワークが非常に強力であり、次世代機の量 産は、そのノウハウやネットワークを活かすことで比較的スムーズに進めることができた。 23 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 24

14.

ロビット 課題・転機 1.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 EMSの話を鵜呑みにして量産試作を 任せきりにした結果、不具合が発生 ■ ロビットは、 「めざましカーテン mornin 」の開発にあたり、詳細設計まで自社としては完璧に仕上げたうえで、量産試作以降 の工程はEMSのA社に委託しようと考えた。そのA社は、国内の中小規模のEMSで、量産は中国の協力工場で行うことと なっていた。 ロビット 課題・転機 1.2 EMSへの委託中止交渉と 金型の引き上げ作業が難航 ■ 中国の工場から送られてきた射出成形部品のサンプルに多くの不具合があったため、金型の修正が必要になった。しかし、 EMSや中国の工場の対応は遅く、その修正がいつになれば終わるのか見通しが立たない状況が続いた。 ■ 当時、ロビットでは既に製品リリースにともなうPRのスケジュールを組み上げており、これ以上量産のスケジュールを遅らせ ■ EMSとはNDAを締結したうえでミーティングを重ねた。その際、EMSから繰り返し受けた「海外企業、特に中国企業との付 き合いは非常に難しい」という話を鵜呑みにして、EMSに基本的には任せきりの状態で量産試作のフェーズに入った。 ■ EMSやそれぞれの部品を製造する中国の工場との契約については、発注書を交わしたのみで、契約書は交わさなかった。納 期については「いつ頃を目処に」という記載は発注書に記したものの、契約履行義務等についての詳細な定めは無かった。 EMSから「中国企業のハンドリングはそれほど難しい」と聞かされていたため、そういうものだと了解していた。 るわけにはいかない状況だった。 ■ そこでロビットは、追加コストがかかろうとも、国内での確実な方法、つまり協力工場を自力で探索して、量産・組立すること を決めた。上海〜日本の製品輸送リードタイムが想定以上に長く、1ヶ月を要することも、決断に至った要因の一つ。日本に おいて量産・組立を実施するほうが納期短縮につながると判断した。 ■ しかし、委託中止についてEMSからスムーズに了承が得られず、金型引き上げも含めて交渉が難航。EMSは量産・組立工程 ■ mornin は外観を非常に重視していたため、射出成型で製造する筐体部品に関しては、部品の3Dデータだけでなく、金型 における利益も勘案して金型製作の値付けをしていたため、中国にある金型を日本に運ぶことについては非協力的な姿勢で に樹脂を流し込む湯口の位置を含め非常に細かく指定した。その後、中国の工場から金型で作った試作品が届いたものの、 あり、 「中国において金型の梱包までは実施するものの、その後は自力で処理」するようにと突き放された。国内で付き合い 指定した以外の箇所に湯口が付いているなど、いくつかの不具合があったためEMSに抗議したところ、 「そうした細かいこ のある組立メーカーに相談したところ、つながりのある東莞の中国企業に、金型の送り出し作業を依頼してくれた。結局、中 とは中国の工場と直接やり取りするように」との回答であった。 国から日本への金型引き上げまでに1ヶ月程度を要した。 ■ 湯口の箇所が当社指定と異なっている理由を中国の工場に問いただすと、 「こちらの方がやり易かったから変えた」といった ものであった。中国の工場にはそのようなことがしばしばあると聞いていたため、それ自体にはさほど驚かなかったが、 「そ のような事態が発生しないように間に入るのがEMSではないか」と違和感を覚えた。また、湯口の箇所を当社指定通りに変 更するためには長い日数を要するという説明を受けたものの、 「本当にそれほど時間がかかるのか」、 「EMSは適切に役割 を果たしているのか」と不信感が強くなった。 スタートアップが得た学び EMSに委託したとしても各工場との細かい調整は自社でやるしかない ■ 自社内に量産のノウハウが少ない場合、多くのスタートアップはEMSに量産試作と量産を委託することにな る。(そしてEMSは国内外の協力工場を使ってスタートアップの製品を作り上げる。) ■ このとき、EMS側に全てを任せきりにしてしまうと、細部のこだわりを伝えることができず、目指す製品が作 れなくなる可能性が高い。EMSへ委託したとしても、細部のこだわりを実現するためには、実際に製造を担 う各工場とのコミュニケーションは自ら積極的に行う必要がある。 スタートアップが得た学び 委託先とのトラブルに備え、 契約解除や金型回収について書面で明確にしておく ■ 量産試作や量産の工程をEMSに委託していても、量産試作の段階でトラブルが生じて委託先の切り替えが 必要になるケースは少なくない。 ■ その場合、EMS側にとっても痛手となるため委託中止の交渉が難航することも多い。特に金型を製作した後に委託 先を切り替える際には、金型の回収が困難になることすらある。 ■ 契約書ではなく受発注書ベースの取引であっても、契約履行義務・解除条件については事前に交渉して取り決めて おくことが重要。 25 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 26

15.

ロビット 課題・転機 1.3 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 EMSへの委託を止め、協力工場を自力で 探索して初期量産を成功させた ■ 金型回収と並行して、国内の協力工場探索を進め、10社程度と取引をした(部品総数は約32点)。一部企業は紹介によるも のだが、その他はインターネット検索等を通じて自力で開拓。おおむね3社アプローチして1社決まるような決定率だった。 ■ ロビットのようなスタートアップともスムーズに取引してもらえる企業の特徴としては、ホームページが充実していることが多 かった。これは、大手企業以外の新しい案件やチャレンジにも関心が高く、外に目が向いているからだと考える。 ■ 結果的に、特に組立メーカーと板金メーカーとは、次世代機開発を経て現在に至るまで、非常に良い関係を築くことができ ている。最初に問い合わせた時から、様々な助言を受けることができ、非常に感謝している。 ■ なお、中国企業からの部品調達については、基本的にはアリババ経由での調達が有効であった。万一不良品等が発生した場 合、アリババ自身が中国サプライヤーに厳しい対応をとってくれるため、安心できる。中国サプライヤーはアリババとの取引に 支障が出ると経営に大きな影響が及ぶため、不良品等のクレームには比較的誠実な対応をとってくれることが多かった。 ■ なお、サンプル品と量産品の品質には大きな差異があることが多いため、サンプルを入手するだけでなく、コストがかかって も1千個または1万個単位で発注して品質を確認することを推奨する。 ロビット 課題・転機 1.4 初号機量産時のノウハウとネットワークを 活用して次世代機を開発 ■ ロビットでは、 「mornin 」の販売開始とほぼ同じタイミングで、次世代機「mornin plus」の開発に着手した。 ■ 「mornin plus」は、設計を一から見直して初号機「mornin 」の課題の多くを改善したものである。特に、初号機では取り 付けるとカーテンレールとタイヤの摩擦でカーテンが手動開閉できなくなるという欠点があったが、mornin plusでは本体 のタイヤに昇降機構を搭載し、この課題を克服した。 ■ これらの改良にともない、モーター数が1つから2つに増え、部品点数も2倍に増加するなど、開発や量産の難易度が非常に 高いものだった。しかし、ロビットにとって初号機の量産時に得たノウハウやネットワークが非常に強力であり、次世代機の 量産は、そのノウハウやネットワークを活かすことで比較的スムーズに進めることができた。 ■ 初号機の試作や製造に携わった国内の工場は、次世代機の試作・製造にも非常に協力的で、コミュニケーションも取りやす く、ほとんどの部品や工程は既存のサプライチェーンの中で対応することができた。 ■ 一点、新たに必要になった切削部品に関しては、国内外の様々な工場に見積を依頼した結果、中国の工場に委託することに した。その中国の工場は、国内の工場の1/5程度の見積金額であり、リスクや品質の問題を考慮したとしても、日本の工場よ りもメリットが大きいと判断した。 スタートアップが得た学び 量産経験がなくても EMSを介さず自力でサプライチェーンを構築することは可能 ■ 初期のロビットは、社内に量産ノウハウを持つ人材がいなかったため、それを補うためにEMSに量産試作以 降の工程を委託した。しかし、最終的にはEMSを介さずに、自社で部品ごと・工程ごとに協力工場を探索して サプライチェーンを構築した。 ■ 協力企業探索・サプライチェーン構築は、 「量産の難しさ」に臆するあまり、多くのスタートアップが他者任せにしてし まいがちな部分ではあるが、 「やろうと思えば自社でできる」し、 「自社でやったほうがコストや品質をコントロール スタートアップが得た学び 2つ目以降のプロダクトの開発と量産は、劇的にスムーズに進む ■ 初号機から次世代機に切り替わっても、量産時に得たノウハウやネットワークはそのまま活用できることが多 い。むしろそのまま活用できた方が、次世代機の開発・量産に要する工数を大幅に短縮することができるた め、スピード重視のスタートアップにとってはメリットが大きい。 ■ したがって初号機の量産時には、次世代機以降の開発も念頭に置きながら、協力企業探索とノウハウ習得にしっか り取り組むべきである。また、協力企業とは、長期的な関係を築くことができるよう、丁寧な対応や真のWin-Win関 係構築に取り組むことが重要である。 できる」可能性もある。 27 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 28

16.

ロ ビ ット ケ ース 2 . 外観検 査自動化 装置 TESR AYの事業化 工場における検査員不足の課題を解決する「TESRAY」 ■ 近年の製造業は、工場の外観検査工程における人手不足に悩まされている。また不良品の見逃し はあってはならないが、人が見る以上はどうしても見逃しも生じてしまい、ヒューマンエラーによる 大きな損失が発生している。 原理試作 ■ その課題を解決するソリューションとして、AI・機械学習を活用した外観検査装置「TESRAY」の 原理試作を開始した。 ロビット 課題・転機 2.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 競合企業等による リバースエンジニアリングのリスク対策 ■ 「TESRAY」は、展示会等の公の場で発表する機会も多く、競合企業等の目にも触れやすいため、リバースエンジニアリン グへのリスクを抱えている。 「TESRAY」は、AIとハードウェアのどちらにも強みを有する製品であり、特にハードウェアに関 してはリスクが大きく、危機感を持っている。 ■ また、一般論としてはクライアントによるリバースエンジニアリングのリスクもゼロでは無いため、契約書の内容について注 意を払うようにしている。しかしそれであっても、納品物の内容等に関して、クライアントとの間にギャップが生じることがし ばしばある。しかし、リスク回避のためにも契約書に定める納品物以外は提供していない旨を丁寧に説明し、理解していた だくようにしている。 ■ 社内には法律や知財に詳しい人材がいないため、契約書や知財等に関する悩みについては弁理士や弁護士に相談する他な いが、それもそう簡単には進まない。具体的には、弁護士が必ずしもAI等の最新テクノロジーに精通している訳ではないた 競合企業等によるリバースエンジニアリングのリスク対策 ■ 「TESRAY」は、展示会等の公の場で発表する機会も多く、競合企業等の目にも触れやすいた め、リバースエンジニアリングへのリスクを抱えている。 め、 「AIとは」といった初歩的な説明から始める必要があり、多くの時間を要することとなる。 スタートアップが得た学び ■ 「TESRAY」は、AIとハードウェアのどちらにも強みを有する製品であり、特にハードウェアに関し てはリスクが大きく、危機感を持っている。 量産化設計・ 試作 ハードウェアの製造を誰が担うべきかでユーザーと意見が割れる ■ 「TESRAY」は、ユーザー企業との実証実験を繰り返した結果、ついに実際の製造ラインに導入で きるレベルに到達した。 ■ しかし、実証実験に参加したユーザー企業と本格的な導入に向けて交渉を進めるなかで、 「ハード ウェアの製造を誰の事業として実施するか」について意見が大きく分かれる展開に。 29 Contract Casestudy for Maker Startups 信頼できる弁理士や弁護士を作り、 相談しやすい環境を整えることが重要 ■ スピード重視かつ最小限の人員で経営するスタートアップにとって、知財や契約書に関する専門知識を社内 に常時持っておくことは困難である。しかし、知財やノウハウは多くのスタートアップにとって、競争力や成長 性の源泉であり、疎かにする訳にはいかない。 ■ 自社の技術を守っていくためには、外部の弁理士や弁護士に必要なタイミングですぐに相談できる体制を構築する ことが重要である。スタートアップが手掛ける新しい技術や事業は、弁理士や弁護士にとって理解するのに時間が かかるものであり、必要が生じてから探しても間に合わない場合が多い。だからこそ、前もって探索して、信頼できる 専門家のアテを作っておくことが重要だと考えられる。 Contract Casestudy for Maker Startups 30

17.

ロビット 課題・転機 2.2 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 ハードウェアの製造を誰が担うべきかで ユーザーと意見が割れる ■ ロビットが開発する外観検査自動化装置「TESRAY」は、ユーザー企業との実証実験を繰り返した結果、ついに実際の製造 ラインに導入できるレベルに到達した。 チャレナジー 企業概要 Company Overview ■ しかし、実証実験に参加したユーザー企業と本格的な導入に向けて交渉を進めるなかで、次の課題が持ち上がってきた。そ 代 表 者 : 清水 敦史 所 在 地 : 東京都墨田区横川1-16-3 ■ ユーザー側から見ると、スタートアップであるロビットが製造したハードウェアを購入して製造ラインに組み込むことは、ある センターオブガレージ Room01 意味でハードルが高い(製造ラインは十年単位で用いるため、その間スタートアップであるロビットが保守やメンテナンスま 立 : 2014年10月 設 で面倒を見てくれるという確信が持てない)。そのため、ロビットのAIとその他の技術のライセンスを受け、ハードウェアは他 の設備メーカーに作らせたい、というのがユーザー側の本音のようだ。 名 : 株式会社チャレナジー 社 れはつまり、ハードウェアの製造を誰の事業として実施するか、ということである。 従 業 員 数 : 15名 マグナス式 垂直型 事 業 内 容 : 垂直軸型マグナス風力発電機の開発・製造 【垂直軸型マグナス風力発電機】 ■ 一方で、ロビットの製品の強みはAIとハードウェアの融合領域にあるため、ハードウェアだけを切り出して製造を任せられる 風を受けて円筒が回転することで発生する力 適切なパートナーを見つけることが難しいという現実もある。AIのことも十分に理解したハードウェアメーカーでなければ、 (マグナス効果)を利用し、かつ、全方向から 実際の協業に際してトラブルが発生しかねず、その責任は元請けであるロビットが負うこととなる。したがって結果として、 の風に対応できるよう、垂直軸にした風力発 ハードウェアの製造を切り出すことには慎重にならざるを得ない。 電機 ■ このような両者の立場の違いが交渉の中で明らかになっており、ロビットとしては「TESRAY」の本格的な普及を目前に、難 しい課題に直面した。 製造するハードウェア(10kW量産試作機) スタートアップが得た学び 部品構成(主要品のみ) 【風車全高】 約 20 m アーム 円筒翼 発電機 【基礎部 サイズ】 10m×10m×0.75m 【風車概算重量】 約16,000kg 長期間の使用が前提となるハードウェアは 保守・メンテナンス体制がネックになりやすい 【風車直径】 約7m ■ BtoCの事業(目覚ましカーテンmornin )で経験を積んだロビットにとって、ハードウェアを開発・製造して顧 客に販売するところまでは、大きな困難を感じることなく対応可能である。一方で、BtoBの、しかも特に長期 間にわたって安定的な稼働が求められる製造設備の分野に関しては、販売後の保守やメンテナンスの体制を 製造企業 連携図 強く求められ、これはロビットにとって初めての体験であった。 ■ スタートアップが、自社で全てのハードウェアの保守・メンテナンスを長年にわたって実施していくことは容易 製造 委託 ではなく、これらを得意とする既存企業との連携が求められる。 加工・組立 メーカー ケーススタディ一覧 調達 調達 チャレナジー 工事 委託 調達 調達 31 Contract Casestudy for Maker Startups 建設業者 部品メーカー 部品メーカー 素材メーカー 原理試作 1 量産化設計・ 試作 量産・ 量産後 2 新型風力 発電機の 原理試作 プロセス 新型風力 発電機の 量産試作 プロセス 素材メーカー Contract Casestudy for Maker Startups 32

18.

チ ャレ ナ ジ ー ケ ース1. 新型 風力発電機の原理試作プロセス 安全安心の電気を供給する決意と有力スタートアップ支援者との出会い ■ チャレナジー創業者である清水氏は、2011年3月11日に起きた東日本大震災と原子力発電所の事 故をきっかけに、安全・安心なエネルギーをもたらす新方式の風力発電機に係る事業を立ち上げ ることを決意した。 ■ 清水氏は、自らのアイデアをもとに小型の第1号試作機を製作し、2013年、垂直軸型マグナス風 力発電機の特許を取得。 ■ その後、会社設立前の2014年3月、スタートアップ支援企業「リバネス」が主催・運営するビジネ スプランコンテスト「テックプラングランプリ」に参加。最優秀賞を獲得する。 ■ このとき、清水氏は、同イベントの審査委員長であった中小製造業「浜野製作所」の浜野社長と出 会い、同社が新たに開設したインキュベーション施設 Garage Sumida (ガレージスミダ)に入 居。同施設内で、浜野製作所に試作をサポートしてもらうこととなる。 墨田区の町工場による設計・試作支援を受けて第2号試作機を製作 チャレナジー 課題・転機 1.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 ピッチイベントを通じた有力な スタートアップ支援者との出会い ■ チャレナジー創業者の清水氏は、2014年3月、スタートアップ支援企業「リバネス」が主催・運営するビジネスプランコンテ スト「テックプラングランプリ」に参加し、最優秀賞を獲得した。 ■ テックプラングランプリには、大小様々な企業がスポンサーや審査委員として参加しており、中でも、浜野製作所は、スター トアップやクリエイターの設計支援や試作支援を行う企業として当時から有名かつ実績のある企業だった。 ■ テックプラングランプリをきっかけに浜野製作所との繋がりを得た清水氏は、会社設立にあたり、浜野製作所が新たに開設 したばかりのインキュベーション施設 Garage Sumida (ガレージスミダ)に入居し、同施設内で浜野製作所から試作の サポートを受ける体制を構築した。 ■ また、チャレナジーは、テックプラングランプリ参加をきっかけに浜野製作所以外にも多くの企業と出会い、そのうちいくつ かの企業は、今に至るまで重要な連携先となっている。 ■ さらにチャレナジーは、浜野製作所の持つネットワークを通じて多様な中小製造業と繋がり、部品ごとに最適な連携先(発 注先)を確保している。 スタートアップが得た学び ■ 清水氏が手作りした第1号試作機は、発電効率がまだ著しく低く、そのままでは実用化が困難なも のだった。そこで清水氏は、発電効率の向上に向けて風車の形状の改良に取り組み、試行錯誤の 原理試作 すえ、理想的な形状を発見するに至った。 ■ 新たな形状の発電効率を正確に測定するため、一回り大型の試作機を製作して、風洞試験を行う 必要があった。しかし、チャレナジーの風力発電機は既存のものとは全く異なる形状であり、風洞 実験に耐える構造をどうすれば低コストで作れるのか、わからない状況だった。 ■ しかしチャレナジーは、浜野製作所をはじめ様々な製造業企業からの協力を得ながら試作を繰り 返し、ついに、風洞試験用の第2号試作機を完成させる。 有力なスタートアップ支援者との繋がりが 出会いの連鎖を生む ■ このように、チャレナジーは初期にスタートアップ支援企業「リバネス」と出会い、それをハブとして、浜野製作 所等の重要な連携先を獲得している。さらに、浜野製作所自身も中小製造業ネットワークのハブとしての機能 を有しており、それらを合わせることでチャレナジーは非常に幅広い企業ネットワークを築くことに成功した。 ■ 風力発電機のような大型で複雑なプロダクトを開発・製造するためには、得意領域や企業規模の異なる数多 くの製造業企業と連携していく必要があり、それをゼロから自力で探索していくことは容易ではない。 ■ だからこそ、スタートアップ支援者のネットワークや、製造業企業のネットワークのハブとなっている企業と、 資金調達手段が限られる創業期に試作品製造コストが大きな負担に 早い段階で繋がりを持っておくことが重要だと考えられる。 ■ 浜野製作所をはじめとした企業や支援者の協力があり、チャレナジーは第2号試作機を完成させる ことができたが、部品代、組立代等で、約500万円の資金が必要となった。 ■ この金額は、創業初期で資金が限られていた同社にとって、大きな負担となった。しかし、それま でに獲得していた助成金やエンジェル投資家からの出資により、なんとか資金ショートを回避す ることができた。 33 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 34

19.

チャレナジー 課題・転機 1.2 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 墨田区の町工場による設計・試作支援を 受けて第2号試作機を製作 ■ チャレナジーの創業者である清水氏が初めに製作した第1号試作機は、発電効率がまだ著しく低く、そのままでは実用化が 困難なものだった。そこで清水氏は、発電効率の向上に向けて風車の形状の改良に取り組み、試行錯誤の末、理想的な形状 を発見するに至った。 チャレナジー 課題・転機 1.3 資金調達手段が限られる創業期に 試作品製造コストが大きな負担に ■ チャレナジーが第2号試作機を完成させるまでには、部品代や組立代等で、約500万円のコストがかかった。 ■ 浜野製作所等の協力企業の努力もあって、コストはぎりぎりまで抑えられていたが、それでもこの金額は創業初期で資金が 限られていたチャレナジーにとって大きな負担であった。 ■ 新たな形状の発電効率を正確に測定するため、一回り大型の試作機を製作して、風洞試験を行う必要があった。しかし、 チャレナジーの風力発電機は既存のものとは全く異なる形状であり、風洞実験に耐える構造をどうすれば低コストで作れる のか、わからない状況だった。 ■ 当時、チャレナジーは数人程度のごく小規模な企業であり、社内には機械設計を専任で行える人材がいなかった。そこで同 社は、墨田区の町工場「浜野製作所」から支援を得て、二人三脚で第2号試作機の設計と製作を進めていった。 ■ 特に当時は、ものづくりスタートアップに出資するVC等は限られており、当然銀行からの融資を受けることもできず、資金調 達の手段は限られていた。 ■ チャレナジーは、NEDOの「SUI(研究開発型ベンチャー支援事業)」から資金的な支援を受け、そのコストをどうにか賄うこ とができた。 ■ 浜野製作所は、板金部品等の金属加工を主要事業とする企業だが、当時から新規事業開拓の一環として(加工だけでなく) スタートアップが得た学び 「最終製品の設計支援」や「コンセプトの具現化支援」にも乗り出しており、チャレナジーへの支援もその一環として行われた。 ■ 同時に、風力発電機に必要な様々な専用部品の製作に協力してくれる企業を探索。風車の軸受を提供してくれているTHK株 式会社をはじめ、その後も関係が続く企業との取引が始まる。 ■ 最終的に、部品の大部分の調達と製造を浜野製作所が担い、風洞試験用試作機(第2号試作機)が完成する。 必ず起こる「想定外の手戻り」に備えて資金的余力を確保する ■ ものづくりスタートアップの製品開発では、設計と試作を行きつ戻りつしながら試行錯誤することが欠かせ スタートアップが得た学び ない。問題なのは、どの程度の試行錯誤が必要なのか、事前にはなかなか見通せないことだ。 ■ 手戻りが発生して試作の回数が多くなれば当然それがコストとして積み上がり、開発期間も長期化していく。 つまり、ものづくりスタートアップの製品開発は、結局いくら必要でどの程度の時間が必要なのか事前には予 想しきれない、というところに難しさがある。そのため、突発的で想定外の手戻りがあっても耐えられるよう、 原理試作における「設計」を 適切に助言や支援してくれる工場は貴重 ■ ものづくりスタートアップは、量産試作に移るまでに複数回の試作を繰り返して、最終的な製品と同じ機能を 持つ試作品を製作する。その過程では、専用部品の設計や汎用部品の選定、試作品製造の外注など様々なこ とに取り組む必要がある。 資金調達活動を行い、資金的な余裕を確保し続けることが重要。 ■ チャレナジーがそうであったように、政府の補助金等は創業期のものづくりスタートアップにとって重要な資 金調達手段になり得る。自社が該当する支援政策に常にアンテナを張り、積極活用していくことが必要と考 えられる。 密なコミュニケーションにより工場側の心配事やリスクを減らすことが重要 ■ ハードウェアの開発・量産経験が豊富なエンジニアが社内にいない場合は、これらのことを全て自力でこなし ■ 試作等を請け負う工場は、スタートアップに対して割高な見積を提出することがある。これは、スタートアップ ていくことは容易ではなく、外部に頼らざるを得ない。一方で、スタートアップの製品開発を「設計」の段階か との取引では想定外の手戻りやコミュニケーションのすれ違い等により工数が膨れ上がるリスクが高く、赤 ら適切に支援できる企業は多くない上、設計を全て外部に「丸投げ」してしまうと、作るべきものが作りきれ 字にならないよう一定のバッファを設けているためと考えられる。 ない、自社に技術が残らない等、別の問題も発生する。 ■ チャレナジーは、浜野製作所という適切なパートナーと出会って、しかも丸投げではない二人三脚の緊密な 関係を構築して製品の設計や試作を進めていくことができたという点で、非常に貴重かつ重要な事例だと考 えられる。 ■ チャレナジーと浜野製作所の場合、両者の間でのコミュニケーションが円滑になされていたことで、浜野製作 所側は不要なバッファを上乗せせずに、適正な価格を提示することができた。 (むしろ、浜野製作所側がリス クを引き受けて、価格に乗せていなかったという見方もできる) ■ なお、試作等を請け負う工場の中には、新規顧客には特に高い見積を出す工場もある。 (大企業との継続的な 取引が中心の工場には、こうしたスタンスの工場が一部存在する。)工場側の見積に対するスタンスを確認し、 両者の間で折り合いがつかない場合には、取引を見送ることも重要。 35 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 36

20.

チ ャレ ナ ジ ー ケ ース 2 . 新型 風力発電機の量産試作プロセス 試作機の大型化にともない、専用部品を製造できる工場が見つからなくなる ■ 第3号試作機で風車が約3メートル、第4号試作機は約10メートルになり、大きな部品が必要になる が、それらを製造できる工場は限られる。チャレナジーでは、これら特殊な部品の製造を委託する 協力工場を、試行錯誤しながら探索してきた。 チャレナジー 課題・転機 2.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 試作機の大型化にともない 専用部品を製造できる工場が見つからなくなる ■ チャレナジーの開発する新型風力発電機は、多種多様な専用部品で構成されている。第1号試作機や第2号試作機の開発の 段階では、風車自体がそれほど大きくなかったため、浜野製作所や浜野製作所がネットワークを持つ町工場で大部分の部品 を製造することができた。 ■ しかし、第3号試作機は風車が3メートル、第4号試作機は風車が10メートルを超える大型のもので、それを構成する一つ一 つの部品も大きく、それらを製造できる設備やその設備を持つ工場は限られてくる。 ■ チャレナジーでは、これら特殊な部品の製造を委託する協力工場を、試行錯誤しながら探索した。主要部品一つにつき、そ 確かに支払ったにもかかわらず注文した部品が中国から届かない れを作ることができる可能性のある工場を50社以上リストアップし、それら全てに打診し、1社1社コミュニケーションを取っ て、最も適した工場を1社見つけるという作業を行った。 ■ インターネットで見つけ、現地視察まで行った中国工場に部品を発注した際、代金支払い後も製品 ■ 例えば、チャレナジーの風力発電機の主要部品にあたる円筒は、長さが10メートル(第4号試作機)という巨大さで、軽さと が送られてこないトラブルが発生することもあった。現在も、海外で取引先候補を探索している 耐久性が同時に求められる特殊な部品である。チャレナジーのエンジニアは、インターネット等の情報や加工技術に関する が、この経験を踏まえ、慎重を期している。 展示会に足を運ぶことに加えて、街中で円筒形状の製品を見つけてはその製造元を調べるなど、あらゆる方法で情報を収 集。日本中から最適な工場を見つけ出した。 取引先が納期を守ってくれないトラブル スタートアップが得た学び ■ 発注書と請書に納期遅延ペナルティ等の重要事項が書かれないまま、それらを取引先との契約に 代用したことで、取引先に納期を守ってもらえない事案が発生した。 量産化設計・ 試作 ■ 再発防止のため、チャレナジーでは重要事項の記録を残すとともに、取引先と密に連絡を取り、製造 現場に通い、打ち合わせを重ねることで、自らその進捗をフォローした。 ハードウェア・エンジニアの採用に向けた活動 ■ チャレナジーでは、試作機開発と並行して、ハードウェア・エンジニアの採用を着実に進めてきた。結果、第2 号試作機の段階では社長を入れて2人しかいなかったハードウェア・エンジニアが今では6人になっている。 特殊部品は工場探しに苦労する それでも国内には製造可能な工場が必ずある ■ チャレナジーのようなスタートアップが開発に取り組む「全く新しいハードウェア」は、汎用部品の組み合わせ で作ることはできず、専用部品の開発が必要になる。そして、その部品が特殊なものであればあるほど、それを 作ることができる工場自体が限られるため、工場探しに苦労する。 (例えば、大型の部品や、特殊な加工方法 が必要な部品、特殊な素材を用いた部品等) ■ しかし、まだ社内にハードウェア・エンジニアが不足している状況。特に、大型部品の量産や運用 ■ それでも、日本の製造業のすそ野はまだまだ広く、日本中を探せば必要な部品を製造できる工場は必ず見つ に携わった経験・ノウハウを持つ人材が不足。このような経験やノウハウを持つ人材は、ほとんどが かる。インターネットや展示会、人からの紹介、街中で見かけた製品からの逆引きなど、あらゆる手段で情報 大企業で好待遇かつ安定した仕事を得ており、簡単には採用できない。 を集めて、自社が望む部品を作ることができる企業にたどり着くことが重要。 社外のエンジニアをボランティア・スタッフとして巻き込む ■ チャレナジーでは、発電効率向上や低コスト化に向けて、常に、新しい部素材の活用や製品設計・構造の見直しを 続けているが、そのアイデア出しの段階で、外部エンジニアにボランティア・スタッフとして協力してもらっている。 ■ 外部エンジニアは、メディア等で同社を知り、その想いに共感した方々。その中には、大企業で大型設備やプラント の開発に長年携わった経験を持つ人材もおり、社内からは出てこない発想や知恵を出してくれることも少なくない。 37 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 38

21.

チャレナジー 課題・転機 2.2 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 確かに支払ったにもかかわらず 注文した部品が中国から届かない ■ 第3号試作機に使用する部品の調達先を探していた際、チャレナジーはインターネット経由で見つけた中国のとある工場と やり取りをするようになった。 チャレナジー 課題・転機 2.3 取引先が 納期を守ってくれないトラブル ■ チャレナジーでは、部品や材料の取引先が中小企業の場合、個別に契約書を交わすよりも、発注書と発注請書のやり取りで 済ませることが多い。そもそも、法務担当部署を持たない中小企業が多く、 「細かな記載がある契約書を送られても困る」と ■ その工場は、チャレナジーが必要とする部品とよく似た部品を製造しており、その部品を安価に販売できるとのことだった。 チャレナジーのエンジニアは、現地に赴いて工場を視察し、その上でその部品を発注することを決定。メールで指定された 口座に前払いで代金を振り込んだ。 ■ しかし、その後何日経っても発送の連絡が来ず、不審に思ったチャレナジーが問い合わせると、 「我々には入金が行われてい ない。メールがハッキングされた。」と主張するばかりで、埒が明かない状態になってしまった。 ■ この件は、結局チャレナジー側が泣き寝入りすることとなり、これ以降しばらくの間、チャレナジーは海外工場との取引に消 極的になっていたという。 言われるケースも多い。 ■ しかし、発注書と発注請書には、納期を遅延した場合のペナルティが書かれていないことがあり、取引先に納期を守ってもら えない事案が発生したこともあった。 ■ 納期が守られない場合、チャレナジー側で代替部品・材料を調達せざるを得なくなる。そのため、今では、納期等の重要事項 の記録を残すとともに、取引先に納期を守ってもらうため、先手の働き掛けを行っている。 ■ 例えば、①取引先に嫌がられるくらい連絡を取り、②遠方であっても何度も取引先の現場に足を運び、③Face to Faceの打 ち合わせを行い、④打ち合わせで「次に何を行うか」を取引先と共有すること等を心掛けている。 ■ ただ、その後も必要に応じて海外の工場探索は続けており、最近では①すでに取引がある日本企業からの紹介を受ける、② 工場側に過去のトラブルのことを正直に話した上で振込先口座を念入りに確認させてもらう等、相手が信頼できる企業であ るかどうか慎重に見極めた上で、取引するようになった。 スタートアップが得た学び スタートアップが得た学び 海外工場とゼロから取引する際は「思いもよらないトラブル」が頻発する スタートアップと言えど、 石橋を叩いて渡る慎重さが必要 重要事項のやり取りを証跡として残し その履行を求める(特に納期は注意) ■ 海外工場の活用は、ものづくりスタートアップにとって必要不可欠。しかし、その開拓にあたっては慎重を期さ ■ 取引先が中小企業となる場合、スタートアップ側の都合というより、取引先側の都合もあって、契約書を締結できな なければならない。 ■ チャレナジーの場合、取引先候補であった中国企業の工場視察まで行いながら、前払費用の入金後、製品が 送られてこないというトラブルに巻き込まれている。 ■ インターネットを活用することで、簡単に海外の取引先候補を探索して取引が行えるようになった。しかし、 チャレナジーのようなトラブルに遭うケースも想定されることから、同社が行うように、他の日本企業との取 引実績(その日本企業から紹介を受ける)、代金振込口座の確認を入念に行うなど、信頼の担保をとった上で いことがある。その場合、チャレナジーのように、発注書と発注請書をやり取りし、取引を成立させることになる。 ■ その際、口頭で約束していた内容が発注書・発注請書に記載されず、履行されないというトラブルに繋がる可 能性がある。チャレナジーの場合、納期遅延ペナルティが記載されていなかったため、納期が守られない事 態が起こっている。 ■ このような事態を防ぐべく、メールなど記録に残る形で取引先と重要事項(例:納期や遅延ペナルティ)についてやり 取りする、発注書面に重要事項を直接明記するなど、最低限の防波堤を築き、その履行を求めることが必要となる。 取引を検討することが必要となる。 委託先とのしつこいほどのコミュニケーションと進捗確認 ■ ただ、上記の通り、納期が明文化されていても、それが実際に履行されるとは限らない。実際に、納期通りに 部品・材料を納めてもらうためには、取引先に任せきりにしたまま放置してはならない。委託先と積極的に コミュニケーションを取り、進捗を確認することが必要になる。 39 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 40

22.

チャレナジー 課題・転機 2.4 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 ハードウェア・エンジニアの 採用に向けた活動 ■ チャレナジーでは、試作機開発と並行して、エンジニアに特化した転職エージェント、研究者人材の求職サイト(JREC-IN等) を活用してハードウェア・エンジニアの採用活動を進めてきた。 ■ ハードウェア・エンジニアは母数が少ないが、ものづくり、設計、環境・エネルギーという観点を掛け合わせていくと、求人を出す 企業も少ない。そのため、チャレナジーと想いを同じくする人材に出会いやすく、着実にエンジニアを採用することができた。 結果、第2号試作機の段階では社長を入れて2人しかいなかったハードウェア・エンジニアが今では6人になっている。 ■ しかし、それでもまだ社内にハードウェア・エンジニアが不足している状況であり、チャレナジーにとって悩ましい問題となっ ている。特に、今のエンジニア陣は開発や設計といったものづくりの上流工程を専門とする人材が多く、今後の量産、その後 の運用段階を担うために必要な経験、ノウハウを持った人材が不足している。 ■ 一方で、風力発電機のような大型設備の量産や運用に携わった経験のある人材は、ほとんどが大企業で好待遇かつ安定した チャレナジー 課題・転機 2.5 社外のエンジニアを ボランティア・スタッフとして巻き込む ■ チャレナジーでは、風力発電機の発電効率向上や低コスト化に向けて、常に新しい部素材の活用や製品設計・構造の見直し を行っている。その検討作業は、チャレナジーのエンジニア陣が中心となって行っているが、アイデア出しの段階では、週末、 同社のボランティア・スタッフとして活動する外部エンジニアの知恵を借りることも多い。 ■ この外部エンジニアは、メディア等を通じてチャレナジーのことを知り、同社の想いに共感した方々。平日は大手企業で働い ているが、 「自分にも手伝えることがないか」と連絡してきてくれた。同社では、こうしたエンジニアをボランティア・スタッフと して巻き込み、上述のようなアイデア出しに協力してもらっている。 ■ ボランティア・スタッフとして参加しているエンジニアの中には、大企業で大型設備やプラントの開発に長年携わった経験を 持つ人材もおり、社内の人材からは出てこない発想や知恵を出してくれることも少なくない。そのため、ボランティア・スタッフ の中から、同社へ転職してくれる人材が現れることも期待されている。 仕事を得ており、スタートアップが求人を出してもそう簡単には採用できない。チャレナジーでは、引き続き、採用活動を積極的 に行いつつ、不足するノウハウを外部の協力企業から学ぶなどして、 今後の本格的な量産に向けた準備を進めている。 スタートアップが得た学び スタートアップが得た学び 積極的な情報発信によって ハードウェア・エンジニアを引き付けることが重要 社員 という形にこだわらず、 エンジニアを巻き込む仕組みを作ることが重要 ■ スタートアップは常に人材不足に悩まされるが、特にものづくりスタートアップの場合、製品設計、開発、製造 ■ すでに課題・転機2.4に記載した通り、スタートアップにおけるハードウェア・エンジニアの不足は、会社に に携わるエンジニアの不足は会社にとって大きな問題となる。 ■ チャレナジーの場合、今もなおハードウェア・エンジニア不足は続いているものの、これまで、エンジニア専門 とって大きな問題となる。しかし、 正社員 としてのエンジニア採用は、いかに工夫を重ねたとしても、すぐに 会社が望むペースで実現することが難しい。 エージェントや研究者人材の求職サイトを活用することで着実に採用を進めてきた。また、同社の場合、メ ■ そのため、チャレナジーのように、ボランティア・スタッフとして外部人材が参画できる仕組みを社内に設ける ディア露出によって同社の想いの発信と認知度向上が同時に実現し、エンジニアが同社を発見するきっかけ ことをはじめ、 正社員 という形式にこだわらず、ハードウェア・エンジニアを巻き込む方法を持っておくこと となっていることも採用活動上プラスに作用している。 が必要になる。人材派遣、業務委託、アルバイト・インターンシップ、ボランティア等、様々な形で会社に関 ■ 採用したいハードウェア・エンジニアがどこにいるか、どのような手段を使えば彼らと接することができるか、 与・貢献することができるよう、仕組みを整えておくことがスタートアップには欠かせない。 同じ想いを持った人材に集まってもらうためにどうすればよいか、接点として有効な人材サービスを活用しつ つ、ハードウェア・エンジニアとの出会いのきっかけとなる活動(例:メディアを通じた想いの発信)を続ける ことが必要になる。 41 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 42

23.

つ つ う つつう 企業概要 ケ ース1. 「TUTUU PLANT α 版(試作・コンセプト)」の 開発・製造プロセス Company Overview 社 顧客の要望を受けて設計・開発に着手 名 : つつう株式会社 代 表 者 : 吉田 崇 ■ 顧客が設置しているガチャガチャを交通系電子マネーに対応できるように改造して欲しいという 所 在 地 : 東京都台東区上野5-13-11 設 要望を受けて、機構設計とデザイン設計に着手。 立 : 2017年5月 ■ 機構部分だけで顧客の想像以上の価格となったが、現在のTUTUU PLANTにも繋がるツリー構 従 業 員 数 : 3名 造のデザイン設計やコンセプトに対しては、顧客から高い評価を得る。 事 業 内 容 : IoT対応次世代自動販売機「TUTUU PLANT」の開発・ ■ 顧客に対して提案や情報開示を行う際は、NDA(秘密保持条約)を締結した上で、知財化しようと 製造。 しているコア部分を除いたノンコア部分だけを開示するように留意した。 【IoT対応次世代自動販売機「TUTUU PLANT」】 IoTや電子マネー決済に対応し、売上や在庫状況、販売価 格、音声・LED演出パターン等を遠隔地からリアルタイム 最終的には自社資金によって開発を進める に把握・制御することが可能。消費者と商品提供者・クリ エイター、店舗を繋ぎ、常に変化し続ける自販機。 ■ 顧客との商談自体は、開発コストがネックとなり、なくなってしまったが、デザイン設計やコンセプトに 対する顧客からの評価は高かったこともあり、自社資金による開発を決断した。 製造するハードウェア(TUTUU PLANT β) ■ 資金的に厳しい状況であったが、外部の意見に左右されず、自らの意思で開発を推進することがで 部品構成(主要品のみ) 原理試作 【サイズ】 W960×D600×H1800 商品収納部(×10ボックス) 【重量】 90kg 各種センサー 【搭載機能等】 ・非 接 触 電 子 決 済 ・モ バイル 通 信 ・各 種センサ ー( 画 像 、音 声 等 ) ・電 子 ディスプレイ(オプション) 非接触電子決済リーダー きた。 「知らないこと」 「分からないこと」を放置せず、自分で理解する努力 を経た上で、必要に応じて外部協力先のサポートを受ける ハンドル ■ TUTUU PLANTの開発においては、これまで経験のない技術分野も少なくなかった。ハードウェ 商品排出口 アは全てが繋がっているため、新たな技術を取り込むには、その仕組みや構造を深く理解する必要 があった。 ■ そこで、専門家を質問攻めにし、 「知らないこと」 「分からないこと」をなくす→設計・開発に反映す る、というプロセスを繰り返した。 製造企業 連携図 助言 技術専門 アドバイザー ■ また、ユーザーの目線で重要でないと思われる部分については、自前設計・開発にこだわらず、外 ケーススタディ一覧 電子決済 量産化設計・ 試作 原理試作 部のサポートを得た。 量産・ 量産後 量産設計 つつう 調達 外注 1 部品、端末メーカー 電子基板、組込ソフト開発 ソフトウェア・アプリ開発 43 Contract Casestudy for Maker Startups 「TUTUU PLANT α版 (試作・コンセプト)」 の開発・製造 プロセス 2 「TUTUU PLANT β版」 の開発・ 製造プロセス Contract Casestudy for Maker Startups 44

24.

つつう 課題・転機 1.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 大企業の要望を受けて企画・提案を行うものの、実際の 開発は資金面で折り合わず、自社資金によってスタートする つつう 課題・転機 1.2 経験のない技術分野も専門家への 質問攻めと外部協力者の獲得で対応 ■ TUTUU PLANTを開発する発端は、鉄道会社が設置しているガチャガチャを交通系電子マネーに対応できるように改造して ■ 社長の吉田氏は、樹脂分野の製造業での長年の経験を有していた。具体的には、アパレルブランドのショーウィンドウのデザ 欲しいとの依頼であった。従来のガチャガチャは、コインを入れるとハンドルを回せ、商品を排出する機構であったため、コイ イン設計から装飾、コンビニエンスストアのタバコ陳列什器の設計・開発から製造、自社ブランドの樹脂製デザイン雑貨等、 ンレス・電子マネーで決済可能にするためには、商品排出機構を抜本的に見直す必要があった。 これまで、ものづくりのバリューチェーン全体で携わってきた。 ■ そこで、新たに、電子マネー決済と連動して駆動するハンドルや電子モーター制御による商品排出機構を考案した。しかし、当 ■ しかし、TUTUU PLANTの開発においては、これまで経験のない技術分野も少なくなかった。例えば、 「電子ボタン」のよう 該機構だけで顧客の想定する金額を上回る見積になってしまい、顧客は「金額が高すぎるし、開発費を出すこともできない」と な比較的シンプルな部品でも、設計・開発に取り込もうとすると、その仕組みや構造をより深く理解している必要がある。 いう反応であった。 ハードウェアは全てが繋がっているため、以前から付き合いのあった電子基板メーカーのA社を、自分が納得するまで質問攻 ■ なお、知的財産に対する意識は強かったため、外部に情報を開示する際は、必ずNDA(秘密保持契約)を締結した上で、特許 めにして、理解に努めた。 化したいコア部分は秘匿し、ノンコア部分だけを開示していた。開発に着手する前のコンセプト段階で、TUTUU PLANTのビ ■ また、TUTUU PLANTはモーターで電子駆動することが一つの特徴であるが、メカトロニクスの知見も乏しく、モーターを ジョンに共感してくれる弁理士に出会えたことで、最終的なビジョンから逆算して必要な知的財産を考え、開発と並行して特許 選定する上での基本的な仕様・スペックの見方すら知らなかった。そこで、インターネット検索してモーター商社に電話し、少 と意匠の出願を進めた。 し話をして対応が良いと、直接訪問し、 「こんなことがやりたいのですが」とニーズを伝え、商品を紹介してもらい、一つ一つ ■ 現在のTUTUU PLANTのベースにもなっている「ツリー構造」に対する顧客の評価は高かった。ツリー構造は、幹にあたる共 通の商品排出経路の両側に、枝葉のように複数の商品ストックボックスを配置する構造である。斬新なデザイン性だけでなく、 複数の商品ストックボックスを垂直方向に重ねることによる省スペース機能等のインパクトがあり、顧客内部では上層部までも 丁寧に疑問点を潰していった。このように、分からないことは、専門家に尋ねて自身が理解し、設計・開発に反映するという プロセスを繰り返す日々であった。 ■ 基本的には全部自分で手掛けたいと考えているが、 「ユーザーの体験や目線で見た際に重要性が高くないと思われる部分」 については、外部の協力を得ることが現実的だと考えている。TUTUU PLANTの場合は、支払い・ハンドルを回す・商品を が関心を持っていたという。 ■ 結局、商談自体は止まってしまったが、TUTUU PLANTのコンセプトに対する顧客の反応は非常に良かったため、大きな可能 性があると確信。自己資金でゼロから開発することにした。自己資金での開発は資金的に厳しかったが、自らの意思で開発を 保管する・商品を排出するという4つが重要性の高いコアな機能であると考えており、それ以外の周辺部分は、そこまで重要 性は高くない。 進めることができる等のメリットも多々あった。 ■ TUTUU PLANT α版の開発では、電子決済機能に対応した新機構とツリー構造の二つを実体化することを最優先事項とした。こ のため、開発費だけで1,000万円を超える規模に膨れ上がってしまったが、タイミング良く開発資金を調達することができた。 スタートアップが得た学び スタートアップが得た学び 開発の初期段階では受託開発にならないよう自己資金で進めることが望ましい ハードウェアは全てが繋がっている 「分からない」部分を放置しない ■ 試作開発を進める前段階で、プロダクト・コンセプトを顧客に提案し、早い段階でフィードバックを得ることは 重要である。ただし、特にハードウェアの場合は、並行して特許や意匠等の知的財産権の出願・取得やNDA の締結による情報流通の制御等、知的財産面での対策は不可欠。 ■ ハードウェアは開発費の初期投資が大きく大変であるが、スタートアップの強みを生かした柔軟かつ機動性 のある開発を進めるためには、特に初期段階においては、外部・第三者の開発資金供与は受けずに自己資金 ■ ものづくりの設計・開発は全て繋がっているため、特に初期段階で自ら理解しないまま外部に丸投げすると、 設計・開発の柔軟性を損なうリスクがある。 ■ 製品の全体を把握した上で、ユーザー目線で重要性の高い部分・機能は徹底的な自前主義で設計・開発をす るが、それ以外の部分・機能は必ずしも自前での設計・開発にこだわらなくても良い。 によって開発することが望ましい。 45 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 46

25.

つ つ う ケ ース 2 . 「TUTUU PLANTβ 版」の開発・製造プロセス 産業機器におけるRaspberry Piの採用を検討 ■ 売上データをリアルタイムに把握するために、通信機能が搭載できる電子基板として、Raspberry Piの導入を検討。しかし、これまでの協業先から「Raspberry Piは壊れる」という根拠のない反 対に遭う。 ■ 産業機器でRaspberry Piを採用した実績ある企業を探し、相談したところ、 「より厳しい環境下で も問題なく稼働しており、TUTUU PLANTへの採用も問題ない」という実績に基づいた明確な説 明を得ることができた。 ■ また、万一壊れても、Raspberry Piは安価なため、すぐに取り替えが利くと考え、改めてRaspberry Piの導入を決断した。 つつう 課題・転機 2.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 産業機器にRaspberry Piを採用しようと したところ使用実績の少なさを理由に 協力企業から猛反対を受ける ■ TUTUU PLANTの売上データをリアルタイムに把握するために、通信機能が搭載できる電子基板として、Raspberry Pi を導入したいと考えた。什器本体を動かすメイン基板と通信機能を持つ通信基板の両方をRaspberry Piに置き換えるこ とにした。 ■ TUTUU PLANT α版で支援を受けた A 社に相談を持ち掛けたところ、猛反対を受けた。明確な根拠はないようであったが、 通説的に「Raspberry Piは壊れる」と言われているようで、特に産業機器で使用することは避けるべきとの意見であった。 ■ しかし、Raspberry Piの出荷台数は累計1千万台を超えている事実があり、仮に「Raspberry Piは壊れる」というのが本当 であれば、出荷台数はそこまで伸びていないだろうと考えた。MS-DOSが出てきた際も、 「MS-DOSは壊れる」と根拠のない 噂が出回っていたのと同じで、 「Raspberry Piは壊れる」というのも、既存市場を守る言い訳ではないかと疑っていた。 ■ そこで、Raspberry Piを使用した産業機器を設計・製造できる企業をインターネット検索したところ、株式会社ルナネクサ スが、Raspberry Piを使った太陽光発電の制御システムを構築していることを知った。早速問い合わせたところ、屋外環 境で冬は零下、夏は猛暑の環境であるが、全く問題なく動いているという話であった。TUTUU PLANTは有人店舗管理下 量産を見据えた設計・開発を加速させるために、経験豊富な専門人材や 企業との協業・開発体制を構築 量産化設計・ 試作 ■ 業界変化が早い電子決済や関連技術に詳しい専門人材との協業体制を構築し、電子基板メーカー との開発における橋渡し役も担うβ版開発のキーパーソンになってもらった。 に設置するもので、太陽光発電システムの環境ほど厳しくないので、 「Raspberry Piは壊れる」という懸念は心配ないだろ うとの見解であった。 ■ 万一壊れても、Raspberry Piは安価なため、すぐに取り替えが利くと考え、改めてRaspberry Piの導入を決断。ルナネク サスもTUTUU PLANTに関心を持ってくれたため、一緒にβ版の開発を進めることに決めた。 ■ また、量産されているアミューズメント機器の設計・開発実績のあるフリー・エンジニアの助言を得 て、量産化を見据えた設計・開発を自社主導でスタートした。 仕様や製造数量が固まらない段階では、製造協業先の協力を得ることは 困難だと思い知る ■ 将来の量産を見据えて、製造での協業先も模索したが、仕様や製造数量が固まらない状態で協力 を得ることは難しい現実に直面。 ■ 特に将来が不確実なスタートアップの開発においては、ビジョンや事業に強く共感する個人でない と、うまく協業することは難しいことを実感。 スタートアップが得た学び 実績の少ない製品・技術の使用方法であっても、 参考になる先行事例は少なからずある ■ 新たなハードウェアを開発する場合、先行事例が少ないような部品等の使用方法を採用することが必要にな るケースがあるが、特に実績のない関係企業は、その使用方法の採用に反対するケースも少なくない。しか し、根拠が明確でない反対は真に受けない方が良い。 ■ 全く同じ先行事例はなくても、転用可能な類似事例を探すと、先行的な取り組みを通じて知見を有するキー プレイヤーに出会えることもある。 47 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 48

26.

つつう 課題・転機 2.2 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 設計・開発段階から経験豊富な専門人材 の知見を活用できる体制を整備 つつう 課題・転機 2.3 多くの企業と直接会って話をした末にビジョンや 事業への共感を得られる連携先にたどりつく ■ β版開発にあたって、量産化を見据えた協業先の開拓が必要だと考え、α版を見せながら関心を持ってくれる協業先を探した。 ■ 日本は試作にかかる費用が高すぎる。日本は技術的には優れているが、製造コストは中国に比べると数倍高い。質の観点か 電子決済は、α版では交通系ICカードのみに対応していたが、他のブランドやQRコード決済等に適宜対応していく必要があっ ら見ると、中国は信じられないミスをすることが多く、日本の方がものづくり力は高いといえるが、コストが数倍違うため総 た。しかし、当該業界の構造は複雑、かつ、変化が早いため、自前でフォローすることが難しく、業界に身を置く協業先が必要 合すると中国が魅力的に見えてくる。 だと考えた。 ■ 日本の製造業の試作費用が高いのは、大企業向けの価格設定をスタートアップにも適用しているからではないか。大手であ ■ 電子マネーリーダー・ライターの選定の際に、イスラエル製品の国内販売代理店を訪問したところ、電子決済の技術とビジネスの 両面に詳しいC氏に出会った。C氏もTUTUU PLANTのビジョンに共感を示してくれたため、メンバーとして参画してもらうこと になった。C氏は前職のSONY時代にFeliCaの開発に携わった経験があり、電子回路設計や半導体、プログラミング技術に詳し れば、試作段階ではデポジットとして高めの価格設定をしても、その後の量産まで付き合うとバランスが取れてくる。これと 同じ考えで、スタートアップにも見積を出しているのではないか。 ■ 実際、過去に付き合いのなかったモーターメーカーに直接依頼した見積よりも、付き合いのある商社に依頼した方が、商流 く、吉田氏のアイデアを技術的な仕様に変換してルナネクサスに伝える等、β版開発を進める上で欠かせない存在となった。 が一つ長いにもかかわらず安かったことがある。日本の製造業は、一見さんに対して厳しい環境なのではないだろうか。 ■ また、量産を見据えて、設計段階から品質・安全性に関する助言を受けられて、量産の製造・組立てでも協業できる協業先を探 ■ そんな中、良い協業先にたどり着くためには、直接会って話をしてみるしかない。全く共感を得られないケースはとても多い していた。大手電機メーカーD社の役員の一人がTUTUU PLANTに関心を持ってくれたため、実際に協業の相談を進めてい が、心から共感してサポートしてくれるパートナーが必ずいる。実際、B社は、仕様が日々変更されるような難しい状況下で たが、最終的には破談となった。その理由は、D社の役員は積極的であった一方で、作業が決まった仕事しかしたことがなかっ あっても、TUTUU PLANTのビジョンに強く共感して、根気強く付き合ってくれている。共感を得られないと、特に初期段階 た製造現場においては、仕様や製造数量が固まっていない状態では仕事ができないということであった。 のスタートアップと一緒に設計・開発を進めるのは難しいのではないか。 ■ 当社としては、量産化に向けた品質・安全性を加味した設計ノウハウ等を教えて欲しかったため、共同開発の可能性も検討した ■ 多くの人は、目に見えるモノや結果・実績でしか判断しない。そんな中、目に見えない可能性等も含めて信じて判断できる人 が、通常業務範囲を大きく超えた仕事に社員を送り出すほどの意欲はなかったようである。特に量産に最適化されたライン型 とは、良いパートナーになれることが多い。当社の他メンバーもそうだが、会社や組織の中で少し異端な存在の方が、共感 の製造現場は、スタートアップと未来のものづくりを考えるような発想にはなりにくいのかもしれない。 し、パートナーとして一緒にチャレンジしやすいのかもしれない。 ■ アミューズメント機器の設計・開発を多数手掛けた実績のある、フリーランス・エンジニアに相談しながら、β版の設計・開発も 基本的には自社主導で進めた。まだ事業の見通しが立たない状態で、大手メーカーが求める仕様や製造数量を確約するのは 不可能である。仮に、自社製造では追いつかない程度まで市場が成長し、仕様や製造数量の見通しが立つようになったら、再 度協業を打診するかもしれない。 スタートアップが得た学び 外部の専門人材の知見を活用できる体制構築が重要 ■ 量産を見据えた場合、設計・開発段階からメーカー等での経験が豊富な専門人材の知見を活用できる体制を 構築することで、自社の経験値の少なさを補うことができ、設計・開発のスピードを加速させることができる。 製造工程での連携先は仕様や製造数量が固まった段階で協力を求めた方が良い スタートアップが得た学び 連携先を決める際には直接会って話して 共感を得られるパートナーかを見極めること ■ 大手メーカーとの付き合いの長い日本の製造企業は、一見さんであるスタートアップに対して厳しい面がある。 ■ しかし、そんな中でも、直接話をすることで、事業やビジョンに共感してくれるパートナーに出会えることがあ る。スタートアップの可能性を信じて心から共感してくれないと、一緒にチャレンジすることは難しい。 ■ 製造工程の協業先は、仕様や製造数量が固まらない段階では先方の仕事にならないため、設計・開発段階での相談 には乗ってもらうことは難しい。 49 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 50

27.

ピクシーダストテクノロジーズ 企業概要 ピ ク シ ー ダ ス ト テ クノ ロ ジ ー ズ ケ ース1. 首振り超音波スピーカーの量産試作に向けた 仕様検討プロセス Company Overview 社 将来的な量産外注化を見据えて大手企業EMS部門による コンサルティングの協力を得る 名 : ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代 表 者 : 落合 陽一 所 在 地 : 東京都千代田区神田須田町2-17-3 設 ■ 将来の量産外注化を見据えて大手企業EMS部門に相談するも、EMSとして仕事を請ける条件を 立 : 2017年 満たす状態には至らず。 従 業 員 数 : 24名 ■ 他方で、ビジネス面での将来的なシナジーが見込めることから、EMS部門による量産試作を目指 事 業 内 容 : 計算機自然 (デジタルネイチャー) の到来を見据え、魔法 すコンサルティングの協力を得る。 のように生活に溶け込む End to End のコンピュータ技 術を開発。 ハードウェア単体ではなく、ソフトウェアと連携して機能 本事業ではハードウェア「首振り超音波スピーカー」を開 してアプリケーションを実現するところまでをパッケージ 発し、スポットオーディオのリアルタイムな動的音響生成 した大学発の技術。 を行う新たな事業「Sonoliards」の実現を目指す。 利用シーンを具体化することでコンサルティングプロセスが一気に加速 原理試作 製造するハードウェア(首振り超音波スピーカー) ■ 事業計画や利用シーンをEMS部門に提示する意義を理解していなかったが、先方の求めに応じて EMS部門に具体的な利用シーン等を提示。 ■ EMS部門は「実用に耐え得る設計」を重視し、具体的な利用シーンから仕様を絞り込むため、共通認 識が形成され、コミュニケーションが飛躍的に円滑になった。 筐体デザイン案 【サイズ(W×D×H)】 250mm×250mm×500mm (想定) 【重量】 1.5 kg (想定) 試作、実験、設計変更を何度も繰り返すことで、仕様をブラッシュアップ 【製品の特徴や概要】 ・三次元特定点を狙って音を届ける ・対象者追従機能 front side アは組み上げてみて初めて気づく課題も少なくないことを実感。 top 製造企業 連携図 助言 ■ 課題を洗い出すための試作と実験を初期段階で実施。特に制御ソフトウェアを搭載するハードウェ ケーススタディ一覧 量産設計(VAIO) 原理試作 量産化設計・ 試作 量産・ 量産後 1 ピクシー 外注 外注 51 首振り機構(シナノケンシ) 首振り超音波 スピーカーの 量産試作に 向けた仕様 検討プロセス 基板製造・部品実装 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 52

28.

ピクシーダスト テクノロジーズ 課題・転機 1.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 将来の事業パートナーとしての可能性を 見込むことで、EMS部門より量産試作の 前段階でのコンサルティング協力を得る ピクシーダスト テクノロジーズ 課題・転機 1.2 初期段階では仕様を作り込まず、 試作、実験、設計変更のサイクルを 高速で回して仕様をブラッシュアップ ■ 同社は、首振り機構を備えた超音波スピーカーの量産・販売がゴールではなく、首振り超音波スピーカーを使用してエンターテ ■ スタートアップファクトリーのイベントを通じて、モーターや精密機器メーカーのシナノケンシ株式会社と接点を持ち、首振 イメント、ユーザー体験を創出・演出する新たな事業「Sonoliards」の立ち上げを目指している。コンセプト試作段階のハード り機構について相談を持ち掛けた。スピーカー全体の量産外注等での協力は難しい様子であったが、シナノケンシ株式会社 ウェアを持って、ディベロッパー等に新規事業の提案したところ、事業構想に対しては魅力的だという高評価を得た一方で、実 のコア技術であるアクチュエータ部については該当機構の開発・量産を見据えた協業可能性があり、協業内容について検討 際にハードウェアを使用して実証試験をしてみないと判断できないというフィードバックを受けた。そこで、実証実験後の量産 を開始することになった。 は外注することを念頭に置き、量産試作に着手した。 ■ 社内には量産・量産試作のノウハウや経験のある人材がいないため、VAIO株式会社のEMS部門に相談を持ち掛けた。しかし、 ハードウェアの設計や仕様、製造数量が見通せない状況であったため、EMS部門として仕事を請けるのは難しい状況であった。 ■ EMS部門の仕事には繋がりにくい一方で、事業構想は、スタートアップ等と連携してVR等の新事業の立ち上げに取り組んでい るVAIO株式会社ソリューション事業推進室としては魅力的であった。将来の事業シナジーも見込めると判断され、EMS部門 による量産試作のコンサルティングのサポートをしてもらえることになった。 ■ コンサルティング開始後、円滑なコミュニケーションが取れる状況に移行するまでに苦労した。同社としては首振り超音波ス ■ シナノケンシ株式会社はスタートアップとの協業にも積極的で理解もあり、ゼロから仕様や図面を作成するのではなく、既に ある類似品を叩き台とし、実験・検証、課題の洗い出し、仕様を修正するサイクルを数周回してはどうかと提案された。同社 としても、短期かつスピーディーに進めたいと考えていたため、まずはシナノケンシ株式会社の社内にあった類似試作品を出 来るだけそのままの仕様で使用し、時間の節約を実現した。 ■ 最大の懸念は、首振り機構に使用されるモーターの回転音とスピーカー音が干渉することによって、首振り超音波スピー カーが意図する性能を発揮しないのではないかという点であった。初期段階で実際に試し、モーターの仕様を絞り込むこと ができたため、二次試作段階では既にこの懸念をクリアすることができた。 ピーカーの利用シーンは無限の可能性があり、量産試作を活用した実証実験を通じて利用シーンが開拓されることを想定して ■ また、モーター音を最小限に抑えつつ、首振りに必要なモーターのトルクを担保するための機構をシナノケンシ株式会社から提 いた。しかし、実用に耐え得るハードウェアの量産試作をサポートしているVAIO株式会社としては、屋外か屋内か、周囲の騒音 案してもらった。当該機構は、モーター制御製品のノウハウを長年蓄積しているシナノケンシ株式会社ならではの提案であった。 レベルはどの程度か、設置は垂直上向き以外の横向きや下向きの可能性はあるかといった、ハードウェアの主な利用シーンが ■ 当初は、シナノケンシ株式会社から納入された首振り機構を組み合わせれば良いと考えていたが、人を追従する首振り機構 絞り込まれない状況では、量産試作の仕様も定められなかった。 ■ 同社より首振り超音波スピーカーを活用した事業構想のプレゼンテーションを再度実施し、具体的な利用シーンについてイメージ を共有した。これによって、VAIO株式会社としても量産試作の出口イメージを描くことができ、量産試作の仕様を決めるにあたっ を追加するために、モーターをコントロールするソフトウェアを改良する必要が明らかになった。人追従をする首振り機構と いうのは一般的に外販されているようなものではなく、ハード、制御、ソフト全体を見ながら作っていかなくては今回求める 性能を満たせない可能性があることに、組み上げて初めて気づいた。 て必要なこと、検討すべきことを明確にすることができ、その後のコミュニケーションは格段に円滑に進められるようになった。 スタートアップが得た学び スタートアップが得た学び EMSに量産試作を頼むには、EMSの既存ビジネスモデルの壁、 量産試作に必要な情報格差の壁を超える必要がある 実際に組み上げて初めて気づく課題があることを念頭に、設計・開発を進めるべし ■ EMSは製品仕様や数量、納期等の製造計画が具体化していないと仕事を請けられない一方で、スタートアッ プが自前でこれらの条件を満たすことは困難。EMS機能以外でのシナジーを探りつつ、量産試作に持ち込む 前段階のコンサルティング等のサポートを受けることも一案である。 ■ 一般的には技術の積み上げで製品仕様が決まると考えがちだが、特に大手のEMSは実用に耐え得る仕様を 利用シーンを想定しながら絞り込む。初期段階から利用シーンや出口を共有することが、円滑にコミュニケー ションを進める上での近道となる。 53 Contract Casestudy for Maker Startups ■ 最初から課題を洗い出すマインドセットで、試作、実験、設計変更を繰り返した方が、短期かつスピーディーに 開発を進めることができる。 ■ 特に初期段階で仕様が定まっていないスタートアップの場合には、走りながら仕様を定める進め方はフィット する可能性が高い。 ■ 特に制御ソフトウェアを搭載するハードウェアの場合には、両面から擦り合わせて全体を構成することが必 要となるが、経験がないと効率的に進めることが難しい。製品全体の最終仕上がり状態を想定しやすくなる ように、早い段階で組み上げることがやはり重要である。 Contract Casestudy for Maker Startups 54

29.

アク セ ルスペ ース アクセルスペース 企業概要 ケ ース1. 超小型衛星の製造委託先の探索と部品調達の安定化 超小型衛星を短期間で製造することを目指し、製造委託先を探索 Company Overview 社 ■ 2008年8月8日設立。現在の事業内容は、超小型衛星等を活用したソリューションの提案や、超小 名 : 株式会社アクセルスペース 型衛星及び関連コンポーネントの設計及び製造など。超小型衛星を短期間で製造することを目指し 代 表 者 : 中村 友哉 ている。 所 在 地 : 東京都中央区日本橋本町3-3-3 ■ 当社の場合、超小型衛星という製品特性上、 「量産」フェーズであってもせいぜい数十から百個と : Clipニホンバシビル2階・3階 設 いった数量規模であり、一般的なメーカーの「量産」とはやや異なる。毎回が試作のようなビジネス 立 : 2008年8月8日 で、金型もすぐには使用しないという特徴がある。 従 業 員 数 : 65名(常勤役員を含む) ■ 本ケースは、当社で言うところの「量産」フェーズにおいて製造委託先を探索する際に、過去しばし 事 業 内 容 : 超 小型衛星ソリューションの 提 案、設 ば発生した課題を取り上げたものである。 計・製造・打上アレンジ・運用、超小型衛 星から得られるデータに関する事業 製造するハードウェア(例 WNISAT-1R) 量産化設計・ 試作 部品構成(主要品のみ) IT リテラシーの低い工場に委託したところ、無駄な工程が多く時間を 浪費してしまう ■ 具体的には、3D(CAD)データが受け取れないため、3Dデータをわざわざ2D図面に作り直して製 造業者に提供する必要が生じる等、特にデータの受け渡しに関して無駄な工程が多く発生する。 【状態】 定常運用中 (軌道高度 600km) 【概要】 北極海域の海氷の観測を主な目的とし た質量43kgの超小型衛星。2013年 打ち上げのWNISAT-1で獲得した技 術を継承・発展させ、アクセルスペース とウェザーニューズの共同で開発され た。25万㎢を一度に撮影可能 品質基準を満たせない工場に発注してしまい、発注先を変更 ■ 精度の低い計測器を使用していたり、そもそも製作はできるが計測器はもっていないなどの実態が 明らかとなり、品質水準を満たした製品が完成しなかった。 製造企業 連携図 コンポーネント アクセル スペース ■ 既存の委託先に日頃から丁寧に対応して良好な関係を維持・強化したり、新たな委託先の発掘に継 部品 製造 委託 安定した部品調達に向け発注先の分散と関係維持に努める ケーススタディ一覧 様々な 外部工場 (国内) 基本的に 内製 原理試作 量産化設計・ 試作 1 量産・ 量産後 量産・量産後 続的に取り組むためには、一部社員ではなく、全社をあげて取り組む必要がある。 超小型衛星の製造 委託先の探索と 部品調達の安定化 市販品 (カメラ、 センサー等) 55 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 56

30.

アクセルスペース 課題・転機 1.1 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 ITリテラシーの低い工場に委託したところ、 無駄な工程が多く時間を浪費してしまう ■ 当社が目指しているのは、超小型衛星を短期間で製造できるようになること。そのためには徹底したデジタル化と、それによる アクセルスペース 課題・転機 1.2 品質基準を満たせない工場に発注してしまい、 発注先を変更することに ■ 過去のプロジェクトで、主要部品・コンポーネントを外部委託したことがあった。大手企業からの見積が高額かつ納期が長 かったため、いわゆる町工場に委託することとなった。当該町工場は「挑戦的な取り組みだがやってみたい」「できると思う 効率化が必要である。 ■ しかし、製造にあたってITリテラシーの低い工場に委託すると、データの受け渡し等について無駄な工程が発生し、短納期が 」といった前向きな姿勢を示してくれていた。 実現できなくなってしまう。例えば、ある工場では切削加工部品の製造を委託しようとしたところ、3D(CAD)データは受け取 ■ しかしいつまで経っても製品ができず、納期が迫ってきた。そのため、できない理由をヒアリングして打開策を当社から提案 れないと言われてしまった。そのため、3Dデータをわざわざ2D図面に作り直して工場に提供した。図面の作り直しに加え、 する等、両社総出で取り組むこととなった。その一環で当該工場を訪問すると、精度の低い計測器を使用していたり、そもそ メール連絡、営業時間内のみの対応、図面の読み間違いやサイズ違い等のヒューマンエラー等もしばしば発生し、結果として も製作はできるが計測器は持っていないなどの実態が明らかになった。結局、当該工場からは一定の品質を満たした製品を 納品まで3週間程度を要したこともあった。 得ることができなかった。 ■ 一方で、デジタル化に対応した工場の場合、当然のように3Dデータを扱ってくれる。特に最近では、3Dデータをクラウドに上 ■ それ以降、委託先・発注先の選定においては、検収や品質保証の確実性を重視することとなり、その結果大手企業に委託・ げると、10分程度で見積が得られたり、発注や精算までシステム上で完結するような仕組みを持つ工場が登場しており、公差 発注することも出てきた。大手企業ではない場合は、検査体制が整備されているか、検査報告書などを出せる企業であるか などの制限はあるが最短で1日で現物を手にすることができる。 を発注時に見極めるようにしている。このような企業においては、検収や品質保証についての最低限のクオリティが担保さ ■ まさに「ものづくり革命」の世界観であり、当社ではできる限り、こうしたデジタル化の進んだ工場と取引するようにしている。 スタートアップが得た学び 職人気質の工場よりも、 デジタル化された効率的な工場がパートナーには望ましい れており、安心して委託することができる。 スタートアップが得た学び 自社のノウハウや設備が不十分な場合、見積が高くても 検査体制が整備されている企業に委託・発注する ■ 最近では、工場のデジタル化が進んでいるため、 「2D図面しか受け付けない」という工場はずいぶん少なく ■ 当時、アクセルスペースでは検収ノウハウが必ずしも十分ではなく、また、主要コンポーネントについて検査装 なった。しかし、オンラインでの入稿や自動見積、システム上での発注手続きまで対応している工場はまだま 置を用意するためには高額な投資が必要になる。年産10台程度の製品(宇宙衛星)のために多額の投資をす だ多くない。(そもそもそれが技術的に不可能な分野もある) ることは現実的ではないため、基本的には発注先の検査装置を頼ることになる。 ■ スタートアップはスピードが何より求められるが、それはパートナーとなる工場にも同じことが言える。スター ■ そのような状況下においては、コストが高くとも品質保証が確実な企業に発注することが重要。 トアップのスピード感に対応できる工場を探して、取引を行うことが重要である。 57 Contract Casestudy for Maker Startups Contract Casestudy for Maker Startups 58

31.

アクセルスペース 課題・転機 1.3 段階 原理試作 量産化設計・試作 量産・量産後 その他 悩み 考え方 探し方 付き合い方 その他 安定した部品調達に向け 発注先の分散と関係維持に努める ■ 当社は製品(人工衛星)の特性上、サプライチェーンのBCP構築が必須である。1つ目の理由は、当社製品(人工衛星)は、打上 スケジュールが厳格に決められており、納期遅れが絶対に許されないためである。2つ目の理由は、当社からの発注は、発注先 にとって収益性の低い仕事であることが多いため、引き受けてもらえなくなるリスクを常に認識しているからである。 ■ したがって、サプライヤーが1ラインではリスクが大きすぎるため、BCP構築のために全コンポーネントについて常に2ライン体 制を構築することが必要と考えている。そのためには、一部社員が委託先・発注先の発掘に取り組むのではなく、全社で危機 感を共有して、全社的にサプライチェーンマネジメントを行う必要がある。 ■ また、一度構築したBCP(2ラインのサプライチェーン)を長期間保持し続けるためにも、大きな努力が求められる。製品特性 上、当社からの発注は、半年で1〜2サイクルに限られてしまう。したがって、人工衛星特有の事項に慣れない発注先・委託先が 当社の仕事に習熟するには1〜2年を要することがある。 ■ したがって、習熟してくれた発注先が、当社の仕事の引き受けを停止すると、ビジネス的に大きなダメージが生じる。そのため、 良いサプライヤーを保持し続けるために、普段から丁寧な対応を心掛けたり、要所において感謝状を送ったりすること等を検 討しているが、これらも全社的に取り組むことが重要である。 スタートアップが得た学び 感謝状を送るなど、日頃からの丁寧な対応で、良好な関係を維持する ■ 取引関係ができた発注先に対しては、とにかく丁寧に対応するようにしている。先方から声を掛けてきてくれ た会社には、特に丁寧に対応している。具体的には、感謝状を送る等の対応をして、良好な関係を維持・強化 しようとしている。 59 Contract Casestudy for Maker Startups memo

32.

ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業 ケーススタディ2(令和元 年度 版) 掲載企業 ina ho P14 先 の見 え な い 共 同 研 究 を 継 続し、モ チ ●大学との共同研究においては、前提条件の共有 ベーションと効率が低下 が必要●自分たちで解決策を考え、開発方針の取 トリプル・ダブリュー・ジャパン P32 初 めての 量 産 は 最 低 ロット 3 , 0 0 0 台、 大企業との連携は、大ロット・高品質の製造でこそ 調整も難航 活きる 綿 密 なリサー チ に よる 連 携 先 企 業 の 工場に足を運び、総合的な視点から連携先を決定 選定 する ハードウェア開発に注 力しすぎるあまり ●ハードウェア開発自体を目的化してはならない 事業開発が進まない ●開発・量産面での大企業との連携をハードウェア 捨選択を行う P15 P16 P17 アグリテック特有の収穫サイクルの長さや アグリテック分野でも工夫次第でPDCAサイクル 圃場の変化への対応 の高速化が可能 立て続けのデモが開発リソースを圧迫 営業サイドと開発サイドが目線を合わせることで、 資金調達と開発のバランスをとる 会社の拡 大に伴い、スタッフの情 報共有 P33 tsumug P35 組織のあるべき姿は、その時々で変わる 開発の土台とする や連携にほころびが… P36 TELEXISTENCE P19 P20 P21 P22 大 学 発 スタートアップ で も 製 品 設 計 は 「ものづくり」は「研究成果」の延長線上にあると ゼロからスタート は限らない エンジニア採用は地道なスカウト 地道なスカウトの成否を握るのは、共に実現する ビジョンへの共感 時間軸が異なるハードとソフトの融合に ハードウェアとソフトウェアの考え 方のギャップ 苦労 を 前 提とした 対 話・コミュニケーション が 重 要 規格・標準に沿ったリスクアセスメントの 自社 単 独 で 対 応 可 能 なリスクを 絞り込むことで 実施 規格・標準に準拠 P37 ジャパンヘルスケア P40 Seismic Genics Consumer P24 Electronics Show ●情報発信を効果的に行うことで協業候補先の方 (C E S)出 展 P Rを 通じた 協 業 候 補 先 の から接触してきてくれる●既存の信用力を借用する 獲得 製 造事 業 者への 量 産 設 計 の 発 注 が上手 P25 くコントロールできない事態 かたちでPRを仕掛け、拡散を狙う ●製造事業者に頼り過ぎず、スタートアップ側がもの P39 P42 P43 福岡市 実証実験フルサポート事業への 実験の環境を確保する 雇用形態にこだわらないチームづくり 相 手 に伝 わ るわかりや すい言 葉 で、委 託 業 務 の 認識を合わせる "個別"のカスタムメイド製品の"量 産"化 実現したいモノをものづくりのプロの助けを借り の検討 て製品として実現 ユーザーフィードバックを専門的知見から 専門 的な 知見がないとできない課 題 分析 や 分析し市場性を見極め プロダクト改 善 がある 米 軍研究開発プログラムの成 果を基に、 新たなプロダクト開発で遭遇した学術的にも未解明 民生市場向け製品の開発を推進 な課題もアジャイル開発で乗り越える 米国スタートアップと日本老舗企業が開発 ●経営と現場の潤滑油となるマネジメント層の重要性 を円滑に推進 ●設計変更などを見越してSOWを契約に盛り込む づくりプロセスをコントロールすべき●ものづくりビ ジネスの意思決定経験者から支援を受けられる状態 をつくりだす P26 評価検証を通じた改良・エビデンス蓄積に エビデンス収集と適切な発信によって製品の評価を よる信頼性向上 高めることが可能 なお、Indexは上巻・下巻共通です。上巻を読んでいて下巻 のケースが気になった場合や、その逆の場合は、下記QR コードURLからダウンロードまたは閲覧してください。 ファーストアセント P28 P29 P30 国立研究機関との初めての共同研究 業界内のハブとなる組織・人物の力を借りて認知と 信頼を獲得 大手企業との初のPoC案件獲得に頓挫 協業企業の状 況、目指すゴール、メンバー 個人の 立場を知り、リスク許容度を見極める スタートアップファクトリーとの協業深化 スタートアップファクトリーの製 造技 術を用いて 効率的にハードウェア試作を繰り返す スタートアップに協力的な自治 体と連 携し、実証 応募と採択