令和7年 電気学会全国大会 機械学習と波形補正を用いた スマートメーター計測値からPV出力と実需要への分離推定 高木洋羽 佐藤大地 長谷川貴巨(松尾研究所) 大福泰樹 武田峻悟 山内有倫 高橋孝樹 国藤靖彦(東京電力パワーグリッド) 1 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC.
背景: SM計測値の分離推定 ● スマートメーター(SM) ○ ○ 30分ごとに電力を計測 このデータを様々な意思決定に利用 ● 住宅用の屋根置きの太陽光発電(Photovoltaics: PV) ○ ○ 再生可能エネルギー推進 SMの背後に設置 分離推定(disaggregation) SM計測値から,PV出力と実需要の2つへの分離を推定 推定 PV出力 − + 相殺された余剰量を計測 (= PV出力 − 実需要) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. + − 実需要 2
関連研究: PV出力推定 三宅ら, 2016 ● 発電設備のSMデータ ● 衛星画像のメッシュ単位の日射量データ → 各メッシュで設備電力に応じたPV出力を推定 日射量 × メッシュ内の × PV設備量 変換係数 = メッシュ内の PV出力 ビッグデータ分析で推定 近年では,勾配ブースティング回帰木など 機械学習モデルを教師あり学習[大竹ら, 2022] 三宅, 他: 「日射量短時間予測システム『アポロン』による太陽光発電出力推定・予測システムの実用化」, 平成 28 年電学全大, 6-182, pp.297-298 (2016) 大竹, 他: 「太陽光発電出力予測技術に関するレビュー」 , 電学論 B, Vol. 142, pp. 533-541 (2022) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 3
手法(i): 機械学習によるPV出力推定を介した分離推定 1. 勾配ブースティング回帰木を学習 機械学習モデル: LightGBM 入力: 日射量,気温,設備量,時刻... 出力: PV出力の推定値 2. 分離推定 余剰量 = PV出力 − 実需要 入力から機械学習モデルで推定 入力 日射量 > 500 日射量 日射量>>500 500 設備量 < 50 設備量 設備量<<50 50 日射量 < 800 日射量 日射量<<800 800 推定値 近づける 0.25 0.40 正解値 余剰量 0.12 教師あり学習 0.16 PV出力 実需要 + − 0.44 + 0.31 − − 気温 < 15 気温 気温<<15 15 差し引きして求まる (家庭のSMの分離後の正解データは不在) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 4
手法(i)の懸念点 学習時 設備電力量とPV出力値の対応データ 予測対象 SMで余剰量が計測される家庭 をメッシュ単位に集約 PV出力のみがSMで計測される 太陽光発電所をメッシュ単位に集約 同じ性質のデータ? 機械学習モデルで複雑な入出力関係をモデリング 需要の情報を未活用,学習データと予測対象の性質が同じとする仮定が必要 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 5
手法(ii): 共分散によるPV出力推定 安並, 2023 仮定1. PV出力 = w × 日射 日毎,メッシュ毎に この係数wさえ求まればよい 日射 PV出力 実需要 相殺後の余剰量 仮定2. 実需要と日射量は相関が無い 仮定のもとで余剰量と日射量の共分散の比からwを算出 << 1 追加の太陽光発電所データ不要,代わりに実需要側の性質を利用 2つの仮定が必要,日射の定数倍しか推定できない 安並 一浩: 「積算電力量と日射強度を利用した太陽光発電出力推定手法」, 電学論 C, Vol.143, pp. 117-124 (2023) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 6
提案法: 機械学習と波形補正による分離推定 ここまでのまとめ (i) 機械学習による PV出力推定 (ii) 共分散による PV出力推定 実需要側の情報を未使用 日射量の波形の定数倍のみ推定 補正後のPV出力の推定値と 実需要の推定値の共分散をゼロに (i)と(ii)のハイブリッド案 機械学習による PV出力推定 一定期間の予測値 を並べて波形に 共分散による 定数倍の補正 手法(iii) 比較用 手法(iv): 補正前後の平均 (i)と(ii)における仮定が完全には成立しないが それなりに成立する中間的な状況をうまく扱えると期待 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 7
実験設定 利用データ ● メッシュ単位 ● 家庭の余剰量の分離後のデータは無い ● 家庭の設備量分布に近い仮想的な分離前後データを作成し,性能評価に利用 ○ 機械学習モデルの学習データは太陽光発電所 - - - 詳細 推論対象 実際のSMデータから作成した余剰量+分離後データ ○ 50メッシュ,1年分 ○ 1日内の日射のある時間帯の35コマ分 ○ 余剰計測される家庭の需給設備の地理分布を元に,発電設備/需要設備のみの全量計測データから最近傍法 学習データ 低圧区分の太陽光発電所の実際のSMデータ ○ 350メッシュ,3年分 ○ 推論対象のメッシュとは重複しない ○ 推論対象より前の期間 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 8
手法(i): LightGBMによる出力推定の改善 機械学習モデルの学習の工夫を出来る限り行った モデルの出力の 標準化・平滑化 1. PV出力ではなく「設備量あたりのPV出力」の変換係数を予測 モデルへの 入力情報を追加 3. 入力に「30分内の日射量の最大値と最小値の差」を追加 2. メッシュを0.5km四方から10km四方に平滑化 4. 各入力をかけあわせた交差項も入力に追加 いずれの工夫も改善に寄与 30分あたりの積算電力量を 単位設備電力あたり換算した RMSE(平均平方根二乗誤差)は 十分小さな値 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 9
手法間の比較 共分散による係数の推定は過去30日+推論対象の1日分の波形を利用 評価用データからは最初の1ヶ月分は除外 ● 手法(i): 前述の改善後のLightGBMを基準 ● 手法(ii): 追加の学習データを伴わず日射の波形の定数倍しか推定できないため不利 ● 手法(iii): 機械学習の出力からPV出力と実需要の共分散をゼロにする補正は極端で精度悪化 ● 手法(iv): 補正前後の平均が最良 詳細な分析は次ページ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 10
誤差の季節変動についての分析 共分散による係数を用いる手法は冬季に悪化 補正前後の平均による推定は 年間を通して悪化せずに LightGBMを改善可能 元の2手法の利点を両取りして頑健 PV出力と実需要は相関ゼロ 共分散から係数を算出できる仮定 上記の考察 PV出力と実需要の共分散 ≅ PV出力の分散 0 冬季はPV出力がやや少,朝夕の 暖房利用で実需要と負の相関 係数の算出に用いた31日間の波形の分散の比,講演原稿論文内の図2から集計単位や一部処理を更新 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 11
まとめ 問題設定 家庭のSMでの余剰計測値 → PV出力, 実需要 LightGBMによるPV出力推定に改善を取り込み良好な性能 提案手法と その効果 実需要とPV出力の間の波形の性質を活用した推定手法を 機械学習モデルの事後補正に用い,訓練データと推論対象 のデータの乖離に頑健な予測 更なる精度向上 今後の展望 季節に応じて補正度合いを調節するような仕組み 他の分離推定手法を事後補正アルゴリズムに ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 12